○
田中参考人 私は
三重県知事の
田中覺でございます。
意見を申し上げる前に、
意見を申し上げる私の
立場について一言だけ申し上げたいと存じます。
御承知のとおり、今回御審議中の新しい
河川法案につきましては、私どもの組織団体である全国
知事会におきましては、強い反対
意見を表明をいたしておることは皆さま方御承知のとおりでございます。しかしながら、
河川の問題は、それぞれの県の置かれておる地理的な
条件、従来の災害の
実態、また、それぞれの県の産業や経済の
開発の段階あるいは財政力の相違等によりまして、問題は相当異なった様相をそれぞれの県が持っておるのでございます。したがいまして、率直に申し上げまして、今回の新しい
河川法案の受け取り方につきましても、県によって若干のニュアンスがあるわけでございます。私は、ただいま申し上げまする私の
意見が、三重県の
河川の
実態に基づく
意見であるということをあらかじめ御承知おきいただきたいと思うのでございます。
まず最初に、しからば三重県の
河川の
実態はどうなっておるかということをきわめて簡単に申し述べさせていただきたいと思うのでございます。
御承知のとおり、三重県は長大な地形を持っておりまして、東北から西南に向けて長く伸びております。東のほうは志摩半島を境にいたしまして、北は伊勢湾、南は熊野灘、これに直面をいたしておりまして、西のほうはおおむね山岳地帯を境にして他県に隣接をしておる、こういう地形でございます。この長大な地形の中に、
河川といたしまして七十八
水系、約三千三百キロの延長を持つ
河川が流れておるわけでございますが、大部分の
河川は伊勢湾ないしは熊野灘に注いでおりますけれども、例外的に、伊賀
地方におきましては、逆に西流いたしまして、大阪湾に注いでおる、こういうふうなかっこうになっておりまして、まことに
河川の
実態から申しますと、複雑であり、ある
意味では、日本の
河川のいわば集中的な表現であると言ってもいいような
実態ではなかろうかと考えるのでございます。すなわち、具体的に申し上げますと、いま申し上げましたように、伊賀
地方は大阪湾に注ぐところの淀川
水系、さらに詳細に申し上げれば、木津川の上流に当たっておるわけでありまして、この
関係におきましては、わが三重県は、大阪平野に対して上流来たるの地位を持っておるのでございます。ところが、これに反しまして木曽三川、木曽川、長良川、揖斐川、この木曽三川は県の北端を流れておりまして、ちょうど愛知、岐阜、三重の三県の県境を流れて、最後に本県地内で伊勢湾に注いでおる、こういう
関係でございますので、その
関係においてはわが三重県は下流県であるという地位を持っておるものでございます。さらに特徴的に申し上げますと、三重県と奈良県、和歌山県、この三県の県境をずっと縫って南下しております新宮川、これは俗に熊野川とも言っておりますが、この
河川はちょうど県境の上をずっと流れておりまして最後に熊野灘に注いでおるわけでありますが、いわば県境
河川と言ってもいいかと思うのでありまして、上流、下流の
関係のない、こういうふうなかっこうに相なっておるのでございます。そのほか、なお純粋の県内
河川もたくさんありまして、大小取りまぜて七十四
水系、これは現在施行
河川及び
準用河川になっておるものだけでございますが、七十四
水系、延長にいたしまして約三千キロあるというわけでございます。こういうような三重県の
河川の
実態ということを前提にいたしまして、長い今日までの歴史において各
河川の果たしてきた役割、また連年災害の実情、それに三重県の現在及び将来の産業経済
開発上に持つところの水資源の問題というようなことを総合的に勘案いたしまして、ただいま御審議中の新
河川法案に対する私の
意見を申し上げたいと思うのでございます。
まず
治水面からの考察をいたしました
意見を申し上げたいと存じますが、第一に、
先ほど申し上げましたいわゆる上流県という
立場から考えますと、伊賀
地方の淀川
水系につきましては、現在下流は国の直轄
河川となっておりまして、上流部に当たるところの、わが三重県地内におきましてはたくさんの、伊賀川、柘植川、服部川、名張川といったようなたくさんの
河川にわかれておりますが、いずれも全く県施行の
治水工事にゆだねられておる現状でございます。ところが、私どもの三重県は現在——先進県と後進県ということばが適当かどうか知りませんが、かりにそういうことばを使いますと、いわゆる中進県というようなかっこうでございまして、最近工業
開発等が急速に進みつつある県でございますが、そういう県におきましては、公共投資の需要というものがはなはだ大きい
関係で、財政はまことに多事多端でございまするし、また、県内の大部分の市町村も財政不如意の実情にあるわけでございます。そういうような
地方財政を基盤にして行なうところの
治水工事というものは、国庫
補助はございましても
補助率は低い。しかも、予算のワクがはなはだしく従来小さかったところのこの
中小河川の改修だとか、あるいは小規模
河川の改修、そういうような事業をもっていたしましては、飛躍的な事業量の増大が望めないのでございます。そればかりではございません。この伊賀
地方は、御存じの方もあるかと存じますが、岩倉峡という
一つの狭窄部によりましてのど首を締められておるというような
関係で、伊賀盆地はちょっと雨が降れば必ず
河川ははんらんを起こす、そしていわゆる災害常襲地帯になっておるのでございます。そういう
関係から、この伊賀
地域の住民といたしましては、率直に申し上げまして、下流の大阪平野のためにわれわれは犠牲を受けておるのだというような素朴な感情すら抱いておる実情にあるのでございます。
それが今回の新しい
河川法が施行せられました場合におきまして、
一級河川として
水系一貫主義のもとに、上流も下流も国が直接に
治水事業を行なっていただけるということになりまするならば、伊賀
地方の
治水対策は根本的に改善されるのではないかという期待を持っておるのが、伊賀
地方の住民の率直な感情でございます。私自身といたしましても、国が
水系一貫主義のもとに積極的にこの種の
治水工事に乗り出していただいて、国費の高率
負担と毎年の事業量の拡大というような形におきまして、この問題の解決をやっていただくことを強く期待をいたしておる次第でございます。そういう
意味におきまして、今回の
河川法の改正というものは、三重県の実情からいたしまして
治水の
前進になるものと考えておる次第でございます。
なお、同じことを木曽三川の
治水の問題に当てはめて考えてみますると、ちょうど淀川
水系とは逆の
立場になるわけでございまして、本県地内はいわゆる下流
地域でございますから、ただいまも国の直轄
工事が行なわれておるわけでございますが、上流の岐阜県、長野県等の地内におきましては、県の
工事にまかされておるというわけでございますので、やはりこの点につきましても、上流下流を通じて
水系一貫主義のもとに
治水の増強が行なわれるということになりますことは、本県の下流部の
立場といたしましても、特にこの木曽三川というものが、流域面積も大きく、ここに集中をしておる人口もきわめて膨大である、また、そこに大きな産業経済が発展をしておるというような実情から申しまして、出水等の場合を考えますと、ぜひとも上流部の
治水の
促進をはかっていただきたいという切なる願望を抱いておるものでございます。なお、木曽三川の場合は、このように
治水の増血が行なわれることが、すぐにこれを裏返して申し上げますと、木曽三川の
利水の充実整備に寄与することもはなはだ大きいのであります。この点は
利水面の考察から申し上げます
意見の際に申し上げたいと思うのでございます。
最後に、
先ほど申し上げました三つのタイプの第三の、いわゆる県境を延々として流れる熊野川について申し上げてみますると、これは大きな
河川ではございますが、施行
河川でありまして、国の直轄
工事はなされておりません。したがって、三重、和歌山両県でそれぞれ自県内の
治水工事を行なってきておるのでございます。ところが、これは率直に実情を申し上げるわけでございますけれども、両県のそれぞれの県内事情による重点の置きどころの相違といいますか、あるいは財政力の強弱というようなこともあるかと思いますが、いずれにいたしましても、そういうことが
治水事業面にもあらわれてまいりまして、たとえば同じ地点における左岸と右岸の堤防の高さに高低が経過的にできたというようなこともあったりいたしまして、出水の場合に、堤防の低いほうの側の県のほうにオーバーフローするといったようなこともあったりいたしまして、この
地域の住民感情に非常に不安を与えたような事例もございます。したがいまして、二府県以上に
関係のある
河川につきましては、府県の財政力の強弱に
関係なく、国家的見地に立って
治水施設の拡充強化をはかることの必要性を痛感をいたしておる次第でございます。もちろんこれは二県以上に
関係する
河川に限ったわけではございませんので、
先ほど申し上げましたように、この三重県内におきましても、現在国の直轄
河川として
工事が行なわれておる
河川がございますが、これらにつきましては、現在の
法案の中では昭和四十四年度までというような時限立法になっておりますが、完ぺきな
治水施設が整備できるまで、私どもは国の強力な財政力のバック・アップを
お願いをいたしたい、かように考えておる次第でございます。
以上の三つのタイプ、上流の
立場、下流の
立場、そして延々として県境を流れる
河川というようないろいろの事例を総合的に
判断をいたしまして、
治水面から考えますると、民生及び産業経済に大きな
影響を持つところの長大
河川につきましては、国みずからが責任を持って
治水を執行をするということが適当ではなかろうか、そういう
意味で私は、今回の新しい
河川法案の該当部分に対しまして賛意を表しておるものでございます。
次に、
利水上の
立場から若干考察をいたしたいと思うのでございますが、たとえば木曽三川のあの豊富な水資源の
利用について申し上げて見ますると、これにつきましては、中部地建であるとか、あるいは東海農政局とか名古屋通産局、そういうような国の出先機関を初めといたしまして、私ども愛知、岐阜、三重、東海三県を構成員といたしました、全国の
河川にも比較的例の少ない木曽三川協議会というものを実は早くから
設置をいたしまして、
利水の推進をはかってまいりましたし、また、個々の問題の解決にあたりましても、県同士の
相互協調によりまして相当の成果をあげてまいっておることは事実でございますが、しかしながら、その反面におきましては、各県の持つところの現在及び将来にわたる
利水計画のいわば
調整といいますか、そういうものには相当困難を伴っておることも事実でございます。現に過去におきまして、それぞれの県で立案をいたしました
利水計画というものが、
関係県の間で十分
意見が
調整されないために協議がととのわず、そのためにあたら豊富な水資源が、あるいは洪水の原因になり、あるいは海にそのまま流されて捨てられておるというような事例も多々あるわけでございます。私はそういうふうな未解決あるいは懸案の問題を、一々ここで申し上げようとは存じませんけれども、広い日本全国の中には、おそらく同じような種類の問題が相当存在しておるのではないかというふうに推察をするわけでございます。こういうふうないろいろの未解決の問題を解決いたしまして、水資源の
高度利用をはかるためには、何といいましても、
関係する府県の十分な協力と協調が必要であることはもとよりでありまして、その協議のととのわない場合に、
現行河川法令でも
建設大臣が介入して
調整をするという道もないわけではございませんけれども、今日それぞれの県の
知事が
河川管理をしておるという実情のもとにおきましては、やはりそれぞれの県の
立場もございまして、なかなか思うようにこの
調整が行なわれがたいというふうになっておることは事実でございます。したがって、その解決が遷延をされ、あるいは放置をされておるというような問題が多々あるわけでございます。なお、これはまことに卑近な例でございますが、実は私のほうはただいま揖斐川で
取水をいたしまして、四日市を中心にいたしました北勢の工業地帯に
工業用水を供給するところの第三期北伊勢
工業用水道というものを建設中でございます。ところが、その水を取るところの
取水口が、皆さま方も御存じの薩摩義士の
治水神社で名高い千本松原の付近、これはちょうど岐阜県と三重県の県境になっておるのでございますが、そこで
取水をいたしておるのでございます。ところが、最近地盤沈下だとかいろいろなことが原因になりまして、海水がだんだん上流に逆流をいたしてまいりまして、その両県の県境で
取水をいたしております現在の
工業用水道におきましては、塩水が混入してまいる、そのために送水をストップしなければならないというような状態も起こったりしておるのでございまして、これは北勢の工業
開発上重大な問題になっておりますが、
取水口を若干移動できれば解決できるかと思うのでございますが、しかし、県境を越えて
取水口を現状より移動するということは、なかなか困難な問題となっておるような
状況でございます。
こういうふうに、いろいろな事例をあげますと、各県の間の
相互の協調、協議によりまして、うまく解決をして、水の
高度利用が行なわれている場合もございますが、また、現状におきましては、未解決に放置されておるという問題も相当残されておるというのが実は現状でございます。したがって、そういうふうな現状のもとにおきまして、今回の
河川法の改正が行なわれ、二以上の都府県の利害に
関係する
河川の水利
許可等が
建設大臣の手にゆだねられまして、国家的見地に立って、それぞれの
地域社会の
開発上、また、国家経済の面から十分な
調整が行なわれ、県境を越えてそれぞれの
地域の住民に対し公平なバランスのとれた
措置が行なわれることが実現できますならば、これは最も望ましい形ではなかろうか、こういうふうに私は考えておる次第でございます。
こういうような実情は三重県だけではないのでありまして、いまの日本全体の経済の
開発、発展をはかるという時代の要請にこたえる行き方といたしましてお考えを願わなければならない点ではなかろうか、こういうふうに考えるわけでございます。
しかしながら、今回の新しい
河川法によりまして、たとい水利の
許可権が
建設大臣の手に移ったからといって、これに
関係する各県が、大乗的な見地に立って
相互理解と協調をいたしません場合には、すぐに右から左へ効果があらわれるというわけのものでないことは、私どもよく承知いたしておりまして、今回の改正が行なわれましても、それぞれの県の
知事が従来以上に協力するという気にならなければ、改正の
目的は達成せられないということは、よく理解いたしておるつもりでございます。
しかし、そうは申しますものの、現在行き詰まっておるところのいろいろの問題、ことに建設省が
一級河川に
指定されようとしておる
河川における問題につきましては、
建設大臣の
管理になるということは、今日までの問題を解決するための大きな一歩
前進になるということは疑いをいれないのではなかろうか、こういうふうに考えておる次第でございます。
以上私は、
治水及び
利水の両面にわたりまして、三重県の実情から新
河川法案に対する私の
意見を申し上げたのでございますが、ただ、ここでちょっと付言いたしたいと思いますことは、東海三県の問題につきましては、さきに東大の
田中二郎教授が東海三県合併論というものを提案されておりまして、その中で、現在の
都道府県の
行政区域というものが原因になって、
河川の
治水、
利水両面にわたる総合的かつ広域的な
行政の推進が阻害され、これが今回の
河川法の改正となり、あるいは
管理権の国家移管が提起されたのではないかというような
意見を述べられておりますが、そういうことがもし事実であるといたしますれば、こうなったことにつきましては、私ども
地方公共団体の側にも大いに責任があるわけでございまして、いわば自縄自縛というようなかっこうになった面もあるように痛感いたしておるのでございます。しかし、この合併の問題にいたしましても、なかなか早急な実現が必ずしも期待できない現状におきまして、今日の要請に直ちにこれがこたえ得る道になるかどうかということを考えますと、今回の
河川法の改正は、やはりこの問題解決の
一つの
前進だ、こういうふうに考えておるわけでございます。
なお、申し落としましたが、長大
河川、ことに二県以上に
関係のある
河川の
治水事業の
促進のためには、今回の新しい
河川法で意図いたしておりますように、必ずしも
一級河川というような制度をつくらなくても、したがってまた、
河川法を改正せずとも、府県の財政力を強化するための国庫
負担率の引き上げ等の財政
措置さえ十分にやれば、ある程度
治水上の問題などは解決されるのではないかということも一面言われるのでございますが、私は、
治水行政の現状におきまして、やはり
水系一貫主義に立った強力な推進ということがどうしても必要だと考えておる次第でございます。
最後に、この新しい
河川法案が持つところのいろいろの
問題点について申し上げたいのでございますが、時間もあまりございませんので、一、二のことだけを簡単につけ加えさせていただきたいと存じます。
それは、この新しい
河川法案は、政令の委任事項とかあるいは建設省の省令に委任されておる事項がはなはだ多い
関係上、それらの
内容が明確になっておりませんので、具体的な
意見は必ずしも申し上げられないわけでございますが、一、二希望的な
意見として申し上げれば、第一は、
一級河川の範囲、
知事に
管理の一部を委任する
指定区間、
管理権の委任の範囲等につきましては、大規模または重要な水利
許可権及び
工事施行権以外の
管理権につきましては、やはり大幅に、
地元の万般の問題について責任を持つところの
知事に委任する方向をとっていただきたいと思います。また、
水系一貫主義を堅持せられまして、大臣が
管理する
区間と、
知事が委任を受ける
区間との間にアンバランスの生じないような財政上その他の配慮をしていただきたいと思います。
第二は、
管理費用の国庫
負担の問題でございますが、
地方財政の実情にかんがみまして、
一級河川の
改良工事費用四分の三を、四十四年度までというふうに限らないで、四十五年度以降もぜひとも一延長していただきたい。また、二級
河川につきましても、現在直轄
工事をしていただいているところにつきましては、現在の
計画が完成するまでは、四十四年度以降におきましても、現行
負担率を維持していただきたい。なお、
一級河川の維持修繕費が、大臣
管理区間と
知事の委任
区間とで相違しないようにしていただきたいと思うのでございます。
第三は、
利水の近代化の問題は、水の需給調査、それに基づく
取水計画の合理化にある点にかんがみまして、これらの
基本調査及び
基本的な
計画をひとつ早急にお立てをいただきたいと思うわけでございます。
最後に、あらゆる問題につきまして、
都道府県の
知事の
意見というものを、やはり十分尊重していただくということは、私といたしましても、くれぐれも
お願いをいたしたいと思う次第でございます。
以上、いろいろ申し上げましたが、新
河川法案に対する三重県の
実態から見た私の所見を申し上げた次第でございます。(拍手)