○宮下
参考人 私は
法律の方は門外漢でございまして、三人の先生方からこの方面は詳しく
お話がございましたし、この
法案に対して根本的には御賛成の御
意見もございますので、
憲法解釈あるいは
法律論的な解釈は省きまして、ただ
一言つけ加えてみたいのは、
憲法解釈といたしましては、ただいま
田上先生から
お話ございましたように、
憲法二十九条が基本になると存じますが、しかし、国民経済あるいは国民
生活というような重要な問題、さらにより高度のそういう問題から考えます場合、ただいまであれば、国民
生活の基本としての
住宅問題ということになりますと、第二十九条のその前に、
憲法二十五条の生存権、それから国の保障という問題がさらに先行するのではないかというように考えておる次第でございます。それらの問題は省きまして、たいへん時代に即応した
法案ができようとしておりますので、それでは、こういう
住宅問題の非常に困難しておるときに、それがはたしてうまくいくかどうかということがより重要と存じますので、その方面のことを少し話してみたいと存じます。
第一に、
住宅政策をやります場合の、
住宅地開発を実施するについての基本的の問題は何かと申しますと、第一に、都市
生活者の
住宅建設でございますから、職場への交通時間、距離に
制約されて、
一定の空間、距離半径内で
土地が確保されなければならないということ、第二は、国民所得の階級性というものは現実の問題でございますから、
住宅地価格は、
住宅難で困っている国民の所得に見合った価格で取得されなくてはならないということは、これはもう根本的な問題と存じます。ところが、現実の
土地価格というものは、第一に都心の商業地のような最も高い価格を頂点といたしまして、ピラミット型に、遠くなるに従って安くなるという形で形成されておるのでございます。したがって、その中に工場だとか
住宅だとかいう方面に
利用されている
土地があるといっても、その場所は安くないのでございます。
次に、
住宅地価格はどういうふうにして形成されるかと申しますと、供給者競争というものはないのでありまして、所得階級無差別の需要者競争によって形成されるのでございまして、金のある者だけが買い得る価格になり、金のない者は、しかたがないから、環境が悪いとか、はなはだしく狭いとか、職場への時間、距離が遠いというようなことで地価の安い
土地、あるいは家賃の非常に安い場所を求めて住むよりしかたがないというのが現状でございます。このようにいたしまして、職場への距離がはなはだしく遠くなく、そして地価が所得に見合った
住宅地を確保するのにはどうすればいいかということが、
法律上の
収用権の問題の次にくる重要な問題でないかと存じます。
そこで、この
法案の内容をずっと検討して
お話し申し上げてみたいのでございますが、すでにそれぞれ
お話がございましたので、その中で、実は私も
宅地制度審議会の専門
委員で、
意見を述べたことがございましたが、先ほど
金沢先生から御指摘がございましたように、いわゆる低所得者に対する
住宅問題がこの
住宅地開発に織り込まれておるかどうかということを、非常に疑問に思っておったのでございますが、この
法案の第二十
三条に「
処分計画においては、
造成宅地等は、政令で特別の定めをするものを除き、」とございますので、それは何を除くのかというので、逐条審議のこれを拝見いたしますと、
公営住宅、それから公団
住宅は、これは別にやるというふうになっておりますので、そういたしますと、いま申しました
公営住宅法によるいわゆる低
所得者階層の
住宅建設地も、この
法律で確保しようとする意図があることがうかがわれたわけで、その点非常に賛成をいたす次第でございます。
それに関連いたしまして、第二十四条を拝見いたしますと、いわゆる
処分は、原価主義一木でもなく、時価主義一本でもなく、両方を織りまぜていくようになって、「常利を目的とする業務の用に供されるものについては、類地等の時価を
基準とし、」とありますし、一般の自己資金で
住宅を
建てられるものに対しては原価で、さらに、いまの
公営住宅などに
利用される
土地は特別にというのでありますから、これはまあ特に安くという
意味が含まれておるのじゃないかと思うのでありますが、そういたしますと、全体として見まして、
利益を見ない独立採算制による政策的な分譲とでも申しますか、原価主義あるいは時価主義でない、しかも
利益は見ないのでありますから、そういう配慮がなされておるように見えますので、このいわゆる低所得者の、ほんとうに
住宅に困っておる者に対しては、この
法案で
土地を提供して、賃貸
住宅を
建てる。すなわち、
公営住宅法に基づく
住宅建設という配慮をお願いしたいのでございます。
そこで、私一番の問題と考えますのは、この
法案の目的が、効果のある
宅地供給ができるためには、
地価対策が何としても重要じゃないかと考えるのでございます。何と申しますか、なかなかこの問題がうまくいきませんのは、
土地という経済財の本質に対する一般の
認識が非常に不足しておるのじゃないか。そのために、適切な
地価対策もできず、あるいはこういう
法律をつくる場合も、いろいろの議論が沸騰するということになるのじゃないかと思うのでございます。この席で何か
土地経済論の講義でもするようなことを口ばしってはたいへん恐縮でございますが、第一に、
土地は生産されるものでないということ。ということは、
土地は本質的に商品でないということであります。このことが
土地問題一切の基本になるのでございまして、その反面が、
土地は生産するもの、いわゆる生産要素だということでございまして、
土地の価格理論、評価理論はこの根本的な
土地の本質から出発するのでございます。
次に、
土地はすべて個別的だということ。これも非常に重要な問題でございまして、それを分析いたしますと、物理的には、これは地球表面上の一区切りだということでございます。さらに、経済的には、生産要素あるいは消費
生活要素でございますから、
利用主体によって価値、値打ちというものが一々違うのだということ、これも個別性であります。
法律的には、
土地は自然的あるいは経済的にそのように個別性を本質とするから、それが
利用主体に結びつく、つまり私的支配の客体になるときは個別性を明瞭にしなければ争いが起こるので、物権
規定というものが発達したのだと存ずるのでございます。さらに、それを外部に対して明示するための
方法が、御
承知の不動産登記法でございます。したがって、
土地の価格は一物一価の法則あるいは需要供給均衡の法則、これは価格物価論全体に対してのそういうような作用がなしに形成されるものであるということになるのでございます。
地価対策は、国の価格政策の
一つでございますが、価格政策は対象財、それの対象になる経済財の種類によって異なるのでありまして、米は米、
土地は
土地、家は家というように種類によって異なるのでありまして、
地価対策はこのような
土地の本質を理解して立てなくてはならないのでございます。したがって、そうでありまするから、世界共通の問題といたしまして、不動産鑑定評価
制度が発達しておることは御
承知のとおりでございます。ドイツのごときは百年も前から、イギリスやアメリカでは大学に講座が設けられておる、こういう実情でございますが、
日本だけは全く幼稚です。それらしいものはいままではなかったのが、本日の新聞を拝見しますと、ようやく今後不動産鑑定評価
制度だけは閣議決定を見て上程されるようになるというように拝見しておるのであります。そして、価格問題としてさらにつけ加えたいのは、いわゆる不動産の流通機構としての不動産業界の問題でございます。これが実に放任の状態にございまして、そのためにいろいろの悪弊が起きておることは御
承知のとおりと思います。これに対しても、
宅地建物取引業法の改正案が出るということでございますが、その案を拝見いたしましても、まだまだそれでは十分でないのではないかと考えるのでございます。それはなぜかと申しますと、いわゆる
土地の本質というものを十分に織り込んでおらぬということでございます。
さて、ところが、経済成長には
宅地需要の増大というものが、これはもうわかり切った問題であったはずでございますしところが、それに対して手を打たなかったために、
土地問題は現に見るように非常に困難な状態に追い込まれて、しかたがないから何とかやれというのが現状でございますが、このように世界でも類例を見ない地価高をどうして安定させるかということは非常に大きな難問題と存じます。それをやらないでいまの
住宅政策をやりましても、はたしてうまくいくかどうかという疑問を持つのでございます。生産されるものでない
土地の価格というものは、一度高くなると下げることはなかなか困難であります。私どもは、すでに経験いたしておりますように、初めての農村などへ参りまして、工場も
住宅もないときに
土地を買うときは非常に買いやすいのでございますが、少し家が建ちかける、工場ができかけるというふうになりますと、もっと高くなるだろうといって売り控えするのが現状でございます。さらに、
政府が何らか
計画を発表いたしますと、それ、いまによくなるから、いまのうちに買っておけというのが現状でございまして、いまの富士のすそ野のブームをごらんになってもわかる次第でございます。
そこで、不動産鑑定評価
制度を確立するにあたりましては、単なる鑑定人
制度をつくるだけでなく、地価の公示
制度もやらなければいかぬということで、答申はされておったのでありますが、それが固定資産税
関係や大蔵省の金の問題などで削除されたというふうに、新聞報道で拝見しておるのでございまして、一体
政府は地価安定に対して真剣に考えておるのかどうかといわれておる状態でございます。それだけで決して地価安定ができるものではなかったのでありますが、
一つの手がかりとして地価の公示
制度というものを考えられたのでございますが、それももぎ取られたということは、返す返すも残念なことと存ずるのでございます。
さらに、地価安定
対策は
住宅地開発
計画を実施する上での最大の問題でございますから、あるいは税金
対策そのほかいろいろな
土地利用区分というようなことによって、それに突っかい棒をしていくということをしなければならぬのでございますが、いまの公示
制度一つでき上がらぬようでは、とてもそれらはめんどいんじゃないかというふうに、実は考えておる次第でございます。
さらに、租税問題に対して、固定資産税あるいは
土地増価税、空閑地税というようなことがいわれております。私も、それについて述べる時間がございませんが、何としても根本的な問題といたしまして、国税であった地租を固定資産税として地方税に移譲したということは、
土地政策に対してばかりでなく、一切に対して大きな失敗じゃないかというふうに考えますので、そのことを指摘いたしまして、私の話を終わりたいと思います。