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平川参考人 私は、私の
移住団法に関する
意見を印刷いたしましてお配りをいたしておりますので、ごらんをいただきたいと思います。
まず、私は主として農業
移住の問題について申し上げたいのでございますが、近ごろ何か農業
移住というもはだんだん影が薄れてきて、将来は企業
移住あるいは
技術移住に重点があるというようなことがいわれますので、それはそうではない、企業
移住あるいは
技術移住もちろんけっこうでありますけれ
ども移住の大宗は、今後といえ
ども、少なくとも相当の期間農業者というものが占めるであろうということを説明をいたしてみます。
第一に御注意を願いたいことは、現地の南米諸国におきましてそれらの国国が一番期待をしておるのは、農業
移民であるということであります。それは、
世界的傾向として農村の労力がどんどん都会のほうへ流れるという傾向がある。しかも、南米諸国が従来受け入れておりましたヨーロッパからの農業
移民というものはほとんど入らない。そこで、農業
開発をやってくれる
日本の
移民というものを歓迎をしておるという事情があるのであります。また、
日本の
国内におきましても、農業労力はだんだん不足をするという状態にございますけれ
ども、しかし、これはいわゆる農業構造の改善の施策というような
日本の農家のレベルを大いに上げるという立場から申しまするならば、現在といえ
どもなお過小農で、ある程度の間引きをしなければ、中堅の農家として、専業の農家として相当の生活を維持することは困難であるということは、
政府も認めておるわけであります。施策さえよろしきを得まするならば、農家の中からさらに外地に進出をしようという、農業をもって身を立てようという青年も、あるいは農家も決して少なくないのでありまして、要はそれに対する施策のいかんにあると私は思うのであります。そういう意味におきまして、農業
移住について申し上げたいと思うのであります。
現在
移住の成績がはなはだ上がらぬ、従来六千人くらい出ておったものが二千人そこそこになっておる。そこで曲がりかどというようなことが出るわけでありますけれ
ども、これが原因につきまして、たとえば
移住審議会等におきましてもいろいろ
議論がかわされましたけれ
ども、私
どもの見るところでは問題のポイントをついておらないと思うのであります。たとえば
政府の宣伝
募集に関する予算が足りないとか、あるいは
移住者に対する援護が不十分である、いろいろなことが言われます。それらももちろん一面の二部の真理でございます。また大局的には、内地の
産業の成長のために労働力が不足をして、就職の機会がたくさんあるということも確かに根底の
一つの問題でございます。しかしながら、わずか年に三千人や五千人の
移住者が出るか出ないかという問題については、もっと手近に直接的な原因があるわけであります。
それは何であるかと申せば、要するに農民について申しまするならば、事と次第によっては
移住をしてもよろしいという潜在的希望者と申しますか、そういうものが相当たくさんある。ところが、これらの人々が
移住をしてはたして将来の
自分の生活が大きく向上するのであるかどうか、この点について確信を持ち得ない、安心感を持ち得ない。
政府や
政府の代行
機関が
募集をいたしますけれ
ども、その端から、たとえばドミニカの
移民が何百人引き揚げてきた、あるいはガマの
移民が半分脱退をしたというような、非常に
移住者が現地において苦しんでおるという事情が新聞や放送にあらわれる、あるいはまた
自分の手近な近親の
人たちから、現地からの通信がくるというようなことが一方にあるわけでありますから、はたして行っていいのかどうかということについて非常に心配をいたすわけであります。現在の
日本は、非常に文化も発達をいたし、
政府の保護
政策も発達をいたしておりまするから、安逸を
考えるならば、現在のところにそのまますわっておれば、食うに困るようなことはないのであります。いわんや農民というものは非常に保守的なものでございますから、墳墓の地を離れて、財産を整理して近親知己と離れて、ことばもわからない未知の国に出かけていくことに踏み切るということについては、異常なる決意が必要であるということをわれわれは
考えなければならぬ。その異常なる決意を促すためには、
移住することに大きな魅力と確実なる確信というものがなければできないのは当然なのであまりす。その確信を与えておらない。したがって、二の足を踏むということは、これは当然のことなのでございます。
そこで、
移住を振興しようとするならば、まず現地における、現在入植しておる人々に対して一〇〇%の成功を与えなければならぬ。これの経営なり生活なりを向上することをすみやかにはからなければならない。それから、また、今後
移住する人については、一〇〇%成功をするような万全の措置を講じなければならないのであります。そのことを行なわずして、いたずらに宣伝費をよけいとりましても、何にもならないのであります。農業経営というものは、非常に簡単のように
考えやすいのでありますけれ
ども、非常にむずかしいものであります。経営を現地において成功させるためには、まず土地の選定から非常に問題であります。またその土地土地に即応した経営計画というものは、非常に専門的な知識を要するむずかしい問題であります。しかも、それらの計画を実施するについては、一定の資金の準備なり、その他の手段の準備が必要である。またそれらを完全に実行するためには、入った人がそれだけの能力がなければならぬ。ことにそれに対する指導者というものは、よほど大きな能力を持つ人でなければ、何十人あるいは何百人の
移住者を率いて成功に導くということはできないのであります。この人的要素というものは非常に重要なる要素でありまして、これらの要素について非常に軽視しておられる向きが多い。そういうことを軽視いたしますると、この計画を実施するための準備、そのための
人間と、これだけの要素というもののどれ
一つを欠きましても経営というものはうまくいかない。先ほど
永田さんが
移住はもうかるものであるとおっしゃった。うまくいけばそのとおりなのであります。まずくいったらたいへんなことになるのであります。
そこで、その経営をりっぱにするためにはどういうことが必要であるか。私は、それに関連をいたしまして、
移住の実務
機関と行政機構の問題を申し上げたいと思うのであります。
一体
移住について最終の責任を負う者はだれであるかといえば、これは
政府ではないのであります。
移住者自身であります。どんなに貧乏になっても、あるいはどんなに金持ちになっても、その結果は
移住者自身にくるわけであります。したがって、
移住者自身にほんとうに真剣に取り組ませるという体制が一番好ましいわけであります。国なりあるいはその他の代行
機関というものは、これに対して個人の力の足らざるところに手を差し伸べるということにとどめるべきものであります。
そういう意味におきまして個々の農民がそれをやるわけにまいりませんから、私
どもは農民自身の
団体であるところの農業協同組合がこれをやることが最も適切であるというふうに
考えた次第であります。農民自身の
団体でありまするから、すべてものの
考え方は農民自体の立場になってものを
考えるわけであります。いやしくも入った農民が脱退するとか、あるいは職に困るとかいうことがありましたならば、計画をいたしました組合としてはたいへんな責任を身近に背負うことになるのでございます。でありますから、私
どもは農業協同組合によってこの事業の具体的計画をやっていこう。しかしながら、組合も力が足りませんから、
政府あるいは
政府の代行
機関からいろいろ御援助をいただく、この形が一番自然なのでありまして、
政府の代行
機関というものは、これは御承知のとおり、ただいまも
お話がありましたように、とかくしゃくし定木であります。活動にも敏活を欠きますし、とかく実際の実務には適しない性質をかなり持っておる。ただ
政府の大きな資金をバックといたしまして、これを必要なところにつぎ込むという作用をするこのが最も適切であると思います。
そういう意味において具体的の事業は組合にやらせる、これに対して
事業団あるいはまた
政府なりが必要なる資金その他のバックアップをする、こういうことが最も適切であると思うのでありますけれ
ども、従来の
政府の
考え方というものは、それが逆である。
移住の
仕事は
政府あるいは代行
機関がやる。民間の
団体や個人、
移住者自身はそれに協力してついてくればいい。だから、こういうこともやっちゃいかぬ、ああいうこともやっちゃいかぬ、こういうのが従来の
政府の態度である。
移住審議会におきましては、民間
団体を大いに育て活用するんだということを答申の中に書きましたけれ
ども、しかし、まだ、たとえば全拓連、拓植農協連は現地で土地を買うことをやっちゃならぬという
意見があるようであります。しかし、農民自身の
団体である、
移住者自身の
団体であるところの農業協同組合が現地で土地を買って何が悪いか、そういうことが私は理解ができない。それは
政府の金でやれ、
政府の
団体でやらせろ、そんなばかなことは私はないと思う。民間でできることならできるだけ民間にやらせるというのが大筋のたてまえである。今日の
日本のあらゆる
産業なり多くの事業というものは、民間を中心として行なわれておる。そうして、
政府はこれに対して力の足らざるところをバックアップしておるのが多くの体制であります。それを、
政府と
政府の代行
機関が独占的にやるのだ、あるいはその力が足らないところを民間が応援しろ、これは全く
考え方がさか立ちしておると私は思う。
そういう意味におきまして、
政府及び代行
機関たるたとえば
事業団は、できるだけ民間のそういう有志を動員をして、民間の力でやれることはできるだけ民間にやらせる。その力が足らなくて頼みに来たものについて応援をしてやるというような体制にありたいと思うのであります。民間の
機関といたしましては、
永田さんの
日本力行会のごときもずいぶん長い間努力をされて相当の成果をおさめておられます。しかし、現在
政府からほとんど援助を受けておらないでありましょう。
政府がこれに多少の援助を加えるということになれば、その成果は、まるまる
政府のまるがかえで新しい
団体をつくるよりは何層倍かの効果を発揮することは疑いないところであります。ことに、ただいまも
お話がありましたけれ
ども、現地の在留邦人あるいは日系市民が集まってつくっております農業協同組合、あるいはその他の
団体というものは現地については非常な力を持っております。終戦後ブラジルの
移民が再開されたのにつきましても、松原
移民あるいは辻
移民あるいはコチア
産業組合の青年
移民等、それぞれ民間人の努力によって窓口が開けた
移民事業であります。
政府がやったのではないのであります。そういう力を持っておるところの現地の民間人の力を活用するのが筋であります。それが一番効率的であり、一番成功率が高いと私は思う。ところがこれに対して、とかく現地の
政府機関がこれを排除するような空気がある。
自分がやるのだ、そういうものが手を出すなといったような空気があります。たとえば、先般コチアの
産業組合を中心といたしまして、サンパウロの農業拓植協同組合というものがありますが、これがブラジル
政府に申請をいたしまして、千七百戸ばかりの
日本人の呼び寄せのワクをもらうということをいたしました。ところがこれに対して、現地における
日本の在外
機関が反対の意向を示した。そのために非常に許可が延びたというようなことがあるのであります。これは風聞でありまするけれ
ども、現地においてはもっぱらの評判であります。お調べを願いたいと思う。もしそういうことがありますならば、これは、
移住事業を推し進めようという純粋の
考え方からはどうしても理解ができない。
移住事業を妨害しておるのではないかと私
どもは思う。そういうことではいけないのでありまして、今後の
事業団は、できるだけそういう現地の民間人が大いに努力をしようというようなことについては、これをバックアップしてやる。できるだけそういうものにワクでも何でもとらしてやればよろしい。それに対して力の足らざるところは金を貸してやる、いろいろな応援をしてやるという
考え方であるべきじゃないかと思います。
それから、行政機構の問題につきましては、従来
移住審議会等においても
議論されましたことは、どうも
移住が不振な
一つの原因として、行政機構が複雑であって、責任の所在が明らかでない、それだからここに一本化しなければいかぬ。一本化するとすれば、どこに一本化するのがよろしいか。そうすると、
農林省でもおかしい、建設省でもおかしい、
内閣もどうもそういう
仕事をしょうのは困るから、それじゃ結局
外務省じゃないか。外国で行なわれる
仕事でもあるから、
外務省に一本化するのがいいじゃないか。こういう理論の立て方で、
外務省に一本化ということが多数の
意見であったのであります。しかし私は、これは非常に間違っておると思います。問題は、一本化しておらなかったから悪かったということではなくして、適当ならざる人が担当しておったから悪いのであります。農業経営のことが
一つもわからない人が農業経営の指導の責任者にあるから悪いのであります。それだから結果がうまくいかないのであります。この
移住事業は、文教の問題から、あるいはまた衛生の問題から、あるいはまた輸送の問題から、
産業経済はもちろん、そういういろいろな多岐にわたる
仕事を包含しておる行政なんであります。したがって、これらの各専門専門のあらゆる人々の、あらゆる専門の官庁の総力を結集して国策に大いに進むべきものだと私は思う。それはどういう形がいいだろうか。現在
考えられる最善の案としては、私
どもはこれは
内閣ででも総括を担当して、そうして部門部門に応じて各省に担当せしめることがいいんじゃないか。そうして、その各省の間の連絡を緊密にし、調整することを
内閣がやる。それから大きな企画であるとか、あるいはまた
団体の大きな監督であるとかいうようなことは
内閣でやる。個々の日常の業務については、各省にそれぞれの分担があるわけでありますから、これにまかせて、それらの力を結集するようにするのが一番好ましい形ではないか。それらの省を排斥してしまって、
外務大臣の独占であるというような形をとるということは、これは各省の心からなる協力を得るゆえんでない。私はそういう意味において、この
事業団法におきましても、この監督権の問題は、でき得るならば修正をしていただきたいと希望いたします。大体
外務省が
移住の問題を専管しておるという国はどこにもありません。よく例に引かれるイタリアにいたしましても、
日本の
海協連に当たる
移住センターは、労働厚生省が所管をしております。それから
日本の
移住会社に当たる
移住金融機関であるイクレは、国庫
大臣の配下にありまして、各省から出た
委員が集まっている
委員会が監督しておる。
外務省が専管しておるというような国はないのであります。これは、
外務省は本来外交の役所でございますから、当然のことである。
移住の問題において外交の占める地位は非常に重要であります。
移住の協定その他現地に入ります
移住者の保護ということは、どうしても
外務省にお願いしなければならぬ。しかし、それだからといって、農業経営の面から何から全部が全部そこでやらなければならぬという理屈は私はない、もっと大所高所に立って、ひとつ
外務大臣が大きな政治力を持って大きな方向にこの問題を解決を願いたいということが私の願いであります。そういう意味におきまして、この所管の問題、それから民間
団体を大いに育成するということを
事業団法に修正としてお入れ願えれば非常に幸いであるというのが私の
意見であります。(
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