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関野参考人 与えられました題は
核兵器に関する問題ということでございますが、非常に範囲が広いのでございますけれども、私が今日ここで御参考に述べますことは、ただいま問題になっております
原子力潜水艦の寄港問題、それからF105の配備問題、これに関連いたしまして、これらの寄港なり配備なりが
核兵器とどういう関係があるのか、あるいはそれらの配備ないし寄港が
アメリカの核戦略あるいは世界の核戦略にとってどういう関係があるのかというような点について申し上げたいと存じます。
その前に、このようなことを申し上げますときに、言葉の混乱があるとはっきりいたしませんので、先ほど
斎藤さんからも申し述べられましたけれども、
核兵器の点についても簡単に申し上げたいと存じます。
アメリカ側の定義につきましては、先ほど
斎藤さんが申し上げたとおりだと私も存じます。ソ連ではどうかということでございますが、ソ連の公式な出正義は私も見たことはないのでございますけれども、国連の内外において軍縮が討議されております。その場合に、ソ連の提案を見ますと、
核兵器というものと運搬・発射手段とをはっきり分けてきているわけでございます。提案の中で、各
段階に分けた場合に、
核兵器と運搬・発射手段とをはっきり分けております。それから、
イギリス、フランスあたりも提案をいたしましたが、特にフランスのモック案あたりを見ましても、まず
核兵器の発射・
運搬手段を制限すべきだ、廃棄すべきだという提案をいたしております。
核兵器というものと運搬・発射手段とをはっきり区別しております。
したがいまして、分離できない
爆弾であるとか砲弾であるとかいうようなものは、これはもう
核兵器でございますが、分離できます
ミサイル、あるいは運搬・発射手段であります飛行機、そういうものは、核頭部というもの、あるいは
核爆弾というものと、その運搬・発射手段ははっきり分けて考えるべきだ、こう思うわけであります。それは、現在の
核兵器の進歩の状況から申しましても、先ほど前に申し述べられました二人の
参考人の言われましたとおり、
核兵器が非常に進歩発達いたしまして、
爆発力の範囲から言いましても、非常に大きいものから非常に小さいものまで、そうして、その重量も容積も非常に軽く小さくなりました現在におきましては、
現状におきましても、小銃あるいは機銃、小口径の大砲、こういうもの以外は全部
核兵器も運搬・発射手段になる
可能性を持っているわけでございます。極端に申しますと、現在
日本が持っておりますDC8にいたしましても、あるいは現在
日本が
開発実験をいたしておりますYS11にいたしましても、これは
核兵器の
運搬手段たり得るわけでございます。したがいまして、そういう運搬・発射手段と核頭部自身とははっきり分けて考えませんと、
議論に混乱が起きるわけでございまして、いままで申しましたような定義がやはり妥当だと私も考えるわけでございます。
それから、次は、
原子力潜水艦の守港あるいはF105の配備と核装備の問題でございます。いま申しましたように、もちろん、
可能性から申し上げ幸すならば、
原子力潜水艦はもちろん核装備可能でございますし、F105は
核爆弾を搭載することができることはもう論ずるまでもないことでございます。しかし、それが直ちに核装備であるかどうかということは、その他の条件によってきまってくるわけでございまして、あとで申します全般の戦略問題、米ソの戦略体制の問題からそれは言えるわけでございます。ただ、現在申し上げられますことは、私どもが知っておる範囲では、
日本に寄港しようといたしておりますいわゆるアタック・サブマリン、
攻撃潜水艦といいますと何か戦略的な
攻撃をやるように聞こえるわけでありますけれども、
攻撃潜水艦と申しますのは主として
潜水艦に対する
攻撃潜水艦でございまして、決して戦略
攻撃を
目的とするものではございませんが、その
攻撃潜水艦なりあるいはF105なりは核装備してないことは事実だと私も考えるのであります。
次は、最も問題になっておりますいわゆる核戦略の問題と寄港問題ないしF105の配備問題でございます。
その前に、簡単に、バックグラウンドといたしまして、先ほどからも二、三申し述べられたことでございますけれども、全般的な戦略情勢というものを簡単に申したいと思います。
一言にして申し上げますと、いわゆる米ソともに先制第一撃からは十分残存し縛るようないわゆるインバルネラブルな
ミサイル体系を両者とも整備いたしまして、核の手詰まりといいますか、恐怖の均衡と申しますか、いろいろな表現はございますけれども、とにかく戦略的な
核兵器はほとんど使い得ないような情勢にあるということははっきり申し上げられると思います。その根拠を簡単に申し上げますと、現在の
ミサイルの
命中精度と申しますか、ばらつきと申しますか、そういうものは、現在、
ICBMにいたしますと、八千キロ以上飛ぶわけでございますけれども、こういう大
射程を飛びまして、一マイルとか二キロとか言われております。これは実は私どもが考えておりますよりも非常にいい制度でありまして、必ずしも戦闘状態ではそういう精度は期待できないかもしれませんけれども、こういうようにいい精度であったと仮定いたしまして、しかも、その弾頭に十メガトンという現在考えられる相当大型の弾頭をつけておったといたします。そして、
目標である相手の戦略
ミサイルは
地下基地にしかも分散して配備されておるとしましたならば、たとえば現在の
アメリカの
ミニットマンという
ICBMはそういう状態で配備されておるのでございますが、そういたしますと、
一つの
基地をこわしますのに一体何発撃ったならばこわれるかという
計算が出てくるわけでございますが、そういたしますと、大体八発から十発撃ちませんと
一つの
基地がこわれないわけでございます。簡単に申しますと、そう簡単にはいかないわけでございますが、単純化いたしまして考えますと、相手の報復
反撃力であります戦略
ミサイルを撃滅いたしますためには十倍とか八倍とか、そういう現実的には不可能な優勢を持っていなければ不可能だということが簡単に言えるわけでございます。これは
原子力潜水艦というものを度外視した場合でございまして、さらに、それに、
ミサイルを装備した、先ほどから
お話が出ております
ポラリス型
潜水艦、これは
アメリカも持っておりますしソ連も現在鋭意整備中であることはまず疑問の余地がないわけでございますが、こういうようなものになりますと、長期間、たとえば第二次
大戦中とか第一次
大戦中とかいうような
通商破壊戦をやっております長期の間ならば撃滅するチャンスもございますけれども、戦略
ミサイルのように、これを発見しそして
攻撃撃沈していい時期から、その
潜水艦の
ミサイルを発射するまでの期間というものは、ほとんどその間にこれを撃沈することを期待できないくらいの短い間しかないわけでございますから、現在の、
原子力潜水艦のように有効な発見手段がほとんどないというようなものにありましては、
ミサイル発射前にこれを発見し、
攻撃し、そしてこれを撃沈する、あるいは作戦不能にすることは、まず期待できないわけでございます。これは私の私見ではございませんで、ソ連の現在
開発あるいは整備しつつある状況から、
アメリカの国防長官のマクナマラ自身がソ連の
ミサイル体系の将来の推移についてそういうことをはっきり言っているわけでございまして、まず万人が認めるところだと思うわけでございます。したがいまして、万一、たとえば最も有利な状況でございますいわゆる先制奇襲を行なったといたしましても、相手の報復兵力の大部分を撃滅することばもちろんのこと、たとえば三倍、四倍の優勢を持っておりましても、わずかにそのうちの一部しか破壊できないということになって、全面的に報復反撃を受けることはほとんど一〇〇%予期できるというわけでございまして、それは結局はお互いの国の戦力の根源であります都会あるいは工業力の中心、政治経済の中心というものの壊滅的な破壊を予期しなければならないわけでございますから、そういう
戦争手段は、どんな
戦争目的があるにしろ、あるいはどんな立場に追い込まれるにいたしましても、使えないのだということがはっきり言えるわけでございます。
また、偶発的な
戦争というような問題も、偶発的な事故がたとえ起きたといたしましても、以前のように戦略
爆撃機であるとかあるいは地上に露出しております液体
ロケットの
ミサイルでありますとかいうような場合には、反撃が一分一秒おくれますと、取り返しのつかないことになりますけれども、現在のようにいわゆるインバルネラブルな
ミサイルの
体系になれば、極端に言えば、五日おくれても十日おくれても問題でない。ゆっくりと情報の真偽を確かめて報復反撃をすることができるわけでございます。したがって、その情報の誤りによって偶発
戦争が起きるというようなこともほとんど考えられない。そういう状況にあるわけでございます。
そういう戦略情勢のもとにおいて、一体この
原子力潜水艦の寄港なりF105の配備というものはどういう
意味を持つかというわけでございますが、いま申しましたように、最も現実的に考えて、現在の世界において起こりにくい
戦争は何かと申しますと、結局、いま申しました米ソ間の全面
核兵器戦争でございます。したがいまして、それの要因になりますような米ソ間の面接武力衝突もまた最も起こりにくいということがはっきり言えるわけでございます。したがいまして、西独あたりの考え方は、米軍に駐留してもらっていることが
一つの大きな
戦争抑制になるのだ、米軍に対する
攻撃は米ソの直接武力衝突に発展する、それは共倒れを
意味するような米ソの全面
戦争に拡大するおそれがあるのだというようなことから、この世の中で最も起こりにくい
戦争、それは米ソ間の武力衝突、さらに米ソ同の全面
戦争だということがはっきり言えるわけであります。それは単に理論的に言えるばかりでなく、筋二次
大戦以後の実際の状況をごらんになればはっきりそれが証明できると思うのでございますが、これはもう、すべての戦略家なり、あるいは軍事専門家はもとよりのこと、多くの政治家もそういうように考えて、世界じゅうの政治家が同じように考えて、共清洲でも同じようにフルシチョフ首相がしばしば申しておりますことを見ても、それははっきり言えると思うのでございます。したがいまして、F105の配備なりあるいは
原子力潜水艦の寄港というものが極東の緊張を高め、あるいは場合によっては
攻撃を誘発するというようなことは、逆でございまして、そういうものがおれば、たとえ
日本自身においていずれかの国からの
攻撃を受けるような理由があったといたしましても、そういうものの
存在によって強く
攻撃が抑制されるということが結果的には、甘えるはずでございます。
もう
一つ、この寄港問題について問題になっておりますのは核装備の問題でございますが、ただいま
斎藤さんが申されましたように、
現状においては私は核装備の必要性もまた
可能性も少ないと思うのでございます。しかし、将来それでは寄港することを申し込んできておりますアタック・サブマリン型に属します
原子力潜水艦が核装備の
可能性がないかどうかということになりますと、私は率直に申しまして、
可能性は大いにあるということは言えると思うのでございます。それは、将来たとえばソ連ならソ連の
原子力潜水艦が次第に大洋なり極東にも増勢されてくるというような情勢になってまいりました場合に、——
原子力潜水艦は御存じのように非常に深い深度にもぐれます。たとえばスレッシャー型のようなものは三百メートル以上四百五十メートルの最大潜水深度を持っていると希われております。こういうような深い深度にもぐれますし、
水中速力も三十ノット、四十ノットという高速になってくるわけでございます。こういうような高速で深々度に行動いたします
原子力潜水艦を
攻撃する場合に、現在の音響ホーミングを
装置といたしますホーミング
魚雷では効果が期待できなくなってくるわけでございます。したがいまして、有効な
攻撃を加えて撃沈しあるいは戦闘不能にしようといたしますと、やはり大きな加害力をもってその弱点をカバーしたければならぬといり必要が当然起こってまいります。これは軍事的に見れば当然でございます。したがって、将来の
攻撃潜水艦が、
サブロックを装備し、その
サブロックが核頭部を装備するということも
可能性の問題としてははっきり言えることであると思います。しかし、いっそういう状況になるか、あるいはまた、そういう場合に核頭部を
日本に持ち込んで寄港するかどうかということはさらに問題でございますし、さらに、もう
一つ問題は、そういう核頭部を持つ
サブロックを装備した
原子力潜水艦が
日本に寄港いたしました場合にどういう影響を与えるかということは、もう
一つ深刻に真剣に考えてみなければならぬ問題だと思います。
で、まず第一の問題でございます。
陸上に配備いたします
ミサイルとかあるいは戦略
爆撃機の
基地に使うという場合と違いまして、
潜水艦が寄港いたします場合には、その
基地から
サブロックを使って
攻撃するということは全然考えられないわけでございまして、そういうようなことをやっても
日本の
陸上にたまが落ちるのがせいぜいでございますから、そういう使い方はまず考えられない。そういたしますと、もし核頭部の持ち込みということが非常に問題になるならば、そういう
兵器を装備しておりましたとしても、それを
沖繩に置いてくるなり、あるいは、緊急の場合には、
兵器運搬船がいつも七艦隊には付属しておりますから、そういうところに置いてくるということも可能でございます。したがいまして、現在政府がとっておいでになりますような方針、すなわち、核頭部の持ち込みの場合には事前協議があるはずだ、しかもその場合には拒否するんだという御方針であるならば、そういう方法がとり得るわけでございます。それは私もそうであると存じます。
しかし、さらにもう
一つ突っ込んで考えまして、情勢によってはあるいは核頭部を持ち込まなければならぬ場合があるかもしれません。海がしけておっておろすひまがないけれども、緊急にどこか故障が起きて修理したいというような状況が起きた場合には、あるいは核頭部を持ってこなければならぬというようなことが当然想像できるわけでございます。しかし、その場合でも、私は一体どういう悪い影響があるのかということをもう一ぺん考えてみる必要があると思うのでございます。ただ
核兵器だから悪い、
核兵器という名前だけにとらわれて、そのほんとうの影響、その実際にもたらす効果というものを無視して、ただ
核兵器という名前にとらわれて
議論するのは見当違いではないか、こう思うわけでございます。
先ほどから申しましたように、戦略的な
核兵器は全面
戦争を抑制する大きな力を持っておりまして、現実にもしこういうものがなければ、第二次
大戦後のとうの昔に
戦争が起きて、そうして
核兵器が使われたろうということがはっきり言えるだろうと思います。もう
一つの戦術的な
核兵器、いま問題になっております
原子力潜水艦なりあるいはF105が持ちますようなものは、いわゆる戦術的な
核兵器でございまして、これは決して大量殺戮
兵器とは言えないわけでございます。と申しますのは、その
攻撃目標は都会ではございませんで、相手が
潜水艦でありあるいは軍事施設であり、相手の第一線の部隊だということは、性質から言いますと単に普通の爆薬の大きくなったものにすぎない、計量的に申しますとその
威力が大きいのだ、要するに、普通の爆薬では沈められないような場合でも核頭部を使えば相手の
潜水艦を沈めることができるんだ、そういう
意味を持っているにすぎないわけでございます。もし、そういう有効な
兵器が悪くて無効な
兵器がいいということでございますと、これはもう
兵器の本質をはずれてしまいますので、そういう
議論は成り立たないということがはっきり言えるわけでございまして、そういう
意味から申しまして、相手側から見ましても、そういうものがたとえ
日本に入ってまいりましても、それがために相手側が脅威を受けるということはない。要するに、一例を申しまして、ソ連なり中共なりの本土に対して
日本から
攻撃をかけるということは、
兵器の性能から言いましてとうてい不可能な問題でありますから、脅威を与えるという
意味は全然ない。たとえば
日本の
海上交通線に対してどこかの
潜水艦の
攻撃が加えられるというような場合に初めてそういう
兵器は有効性を発揮するわけでございますから、もしそれがいけないと言うならば、それは、
日本のたとえば
海上交通線に対する破壊は正当な行為であって、それを正しいと認めた前提のもとにおいてのみそういう
議論が成り立つということも言えるわけでございます。
したがいまして、そういう
兵器を持った
潜水艦が、仮定の問題でございますけれども、万一核頭部を持ってきたといしたましても、それが
日本の安全にとって危険であるとか、極東の緊張を増すとか、そういうことにはならない、そういう御心配は無用なのではないかということがはっきり言えると私は思うのでございます。
私の申し上げたいと思います点は以上でございます。(拍手)