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梶本政府委員 お手元にお届けいたしております参考資料の四ページ、「ヨーロッパ諸国の
観光収支」をまずごらんいただきたいと思います。最後の欄に収支が一九六〇年と六一年、両年度にわたって書いてありますが、一番大きな黒字を出しておりますのがイタリア六億四千七百万ドル、それからオーストリア、フランス、スペイン、スイス、こういった国々が大きく黒字を出しておるところでございます。
それからその次の五ページをごらんいただきますと、「
アメリカにおける
観光事業の推移」というのが下の方の欄にございます。これの「
観光赤字総額」が、
アメリカが一九六一年には十一億七千五百万ドルというふうな
数字が出ております。つまり
アメリカヘの
観光収入と
アメリカ人が海外
観光に出かけて支払いをいたしましたドル、それを差し引きをし、なおかつ
アメリカの運輸業者に
アメリカヘやってくる人が支払った金額、つまり収入と、今度は逆に
アメリカ人が
外国の運輸交通業者に支払った額、こういったものを足したり引いたりいたしましたものが一年間に十一億七千五百万ドル、こういう赤字になるわけでございます。結局
アメリカの赤字がこの年には約三十数億ドルというふうに報告されておりますから、
アメリカのいわゆる
国際収支の赤字の約三分の一が実は
観光事業の赤字である、こういうふうな事態が一九六一年に
統計となってあらわれたわけでございます。したがいまして、そのような結果、一九六一年の二月に
国際収支と金問題に関する特別教書といういわゆるドル防衛策がケネディの
政策として打ち出された。それが直ちに
国際観光の面におきましては、ただいまお手元にお配りいたしておりますような
法案となってあらわれてまいったわけでございます。俗称「
国際旅行法」、かように申しておりますが、正式の名称は「商務省内に米国
観光局を設置することにより米国の内外通商を強化する
法律」、これが正式の名称でございます。一九六一年の六月二十九日に大統領が署名をいたしております。おもな内容でございますが、
目的は米国の内外通商を強化し、
外客の米国訪問を促進し、かつ
一般的に
国際旅行を容易にすることによって、米国に対する友好と
理解を増進させようとするものでございます。こういった
目的のためこの
法律がつくられておるわけでございまして、現在
アメリカは、ロンドン、フランクフルト、パリ、シドニー、サンパウロ、メキシコシティ、それから東京、この七つの在外事務所を
観光局直属として設置をいたしまして、そして
外客の
誘致宣伝を一也懸命にやっておる、このような状況でございます。そのように、
アメリカが、いままではむしろどっちかと申しますと、
アメリカへの
誘致ということよりも
アメリカ人の海外
旅行を奨励しておった
政策から、いま申し上げましたように、ドル不足を緩和するために、百八十度の転換をしたというふうなことが、これまた直ちにヨーロッパ諸国にいろいろの影響を与えたわけでございまして、
アメリカがそのような
政策を打ち出したのならば、こちらはそれを上回る強烈なる
誘致策を講じなければとても太刀打ちできないというので、それぞれヨーロッパ諸国が打ち出した方策がございます。たとえば入国査証を廃止するというふうなことで、特にOECD諸国の相互間においては、ほんの一部を除きまして査証が廃止されております。それのみならず、ヨーロッパの各国相互間では、
観光旅行に関する限りは旅券の廃止まで行なわれております。それから外貨の割り当てでございますけれ
ども、これは
国民一人々々に外貨の割り当てをいたしております。方法は、調べたところによりますと、
国民の持っておりますところの旅券に毎年外貨の年間割り当て額を記入するそうでございます。しかもその年間割り当て額というものは、毎年々々、
国民の
旅行が不自由にならないように、自由に
旅行ができるように割り当て額をふやしつつある、このような状況でございます。それからまたヨーロッパ諸国、鉄道は斜陽産業だといわれておりますけれ
ども、まあそれかどうかは存じませんけれ
ども、ヨーロッパの十三カ国、西ドイツ、オーストリア、ベルギー、デンマーク、スペイン、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、ノルウェー、オランダ、ポルトガル、スウェーデン、スイス、この十三カ国の鉄道が相ともに提携いたしまして、
アメリカ、カナダ等からのお客さんを引きますために、この十三カ国の鉄道を二カ月間一等で自由自在に乗って回れるパスというものを百二十五ドルで
アメリカで売り出しております。
アメリカで百二十五ドルでそのパスを買いまして、ヨーロッパへ来られました外人
観光客というものは、二カ月間、もう一日のすきもなく鉄道に乗り回すことも自由でございますし、あるいはまたその間の特定の区間だけ気に入ったからといって往復されるのも自由でございますが、とにかくそのような方法を相協力して
アメリカに対して打ち出しておるというようなことが、盛んに
世界各国がこの
観光宣伝に力を入れておるというふうな証拠ではないかというふうに私
ども考えるわけでございます。
それから最近
国際観光市場において二つの相
ことばと申しますか、スローガンがいわれております。
一つはツー・ウエー・トラベル、つまり貿易自由化ではございませんが、自分の国もお客さんを出すからお前の国からも
観光客を自分の国へよこしてくれというふうに、お互いに
観光客を送ったり送られたりしようじゃないかというふうな
政策を出しております。相手方からだけお客を一ぱい取り入れ、自分の国からお客は出さないというふうなことは、どうも
国際観光市場におきましてはだんだん時代おくれになりつつあるのではないかというふうな気もするわけでございます。もう
一つのスローガンは、ソフト・セールスからハード・セールスへという
ことばが言われております。つまりソフトなセールスのあり方、つまりムードだけを売って、
日本はよいところでございます、いらっしゃいませというふうなムードを売るような
旅行の売り方から、ハード・セールスで、どのぐらいの金額でおいでになるならば、
日本はどことどこが回れます、もしあなたが
日本の文化に興味を持っておられますならば、こことこことをこのような
日数で、このようなコースで、このような金額で回れます、いわばかゆいところに手の届くような
旅行の売り方、こういったことがハード・セールスじゃないかと思うのでございますけれ
ども、このようなことが
世界各国を通じて非常に何と申しますか熾烈になってきつつある状況でございまして、
日本もいつまでもフジヤマ、ゲイシャガールといった程度の
観光宣伝ではとうてい
世界の
国際観光市場に対して太刀打ちはできないのではないかというふうに私
ども反省をし、将来とも十分にそのようなことのないように
努力を続けていきたい、かように考えておるわけでございます。