○松尾
参考人 全海連
委員長の松尾でございます。フル・ネームで申しますと
全日本海運労働組合連合会と申しまして、
日本で
海運業を営んでおります
邦船、外船の陸上従業員約六千五百名の三十六単組で形成しております主として事務職員の組合でございます。加盟いたしております総評の中でも非常に特色のある単産となっております。組合結成以来すでに十年になりますが、傘下には、郵、商、三井、川崎等大手の外航
オペレーターを初めといたしまして、飯野、日東、三菱等のタンカー・
グループ、さらには大同、山下、日産、新和などの不定期
グループ、その他オーナーの一部を網羅しまして、また外船
関係でもマッキンノン、ドッドウェル、エバレットなど、主要
企業を包含いたしておりますので、組織率並びにその内容、両面に照らしまして、陸上従業員の意向を十分代表するものであると考えております。本
委員会の先生方で初めて全海連の名前を耳にされる方もあろうかと思いまして、自己紹介かたがた私どもの現勢を御説明申し上げまして、本論に入りたいと思います。
日本の
国民経済に占めます
海運産業の重要性につきましては、今さらここで申し上げるまでもなく、また
不況の
原因、
金利負担の重圧、財務内容の低下など、多岐多様にわたります
問題点につきましても、過般来、本
委員会の
質疑過程で御審議いただいておりますが、
再建整備、
利子補給、この二
法案をめぐりまして、
日本の
海運政策と、政策の一部であります
助成策につきまして一言申し上げたいと思います。
今日の
日本の
海運の惨状をもたらしました歴代
政府の無策、これに追随いたしました粗雑な経営の責任、これは当然批判を受けるべきものでありまして、また現在のごとき事態を招くにまかせました野党第一党たる社会党にも責任なしとしません。しかしながら過去を問わず、現在の時点に立ちまして、
日本海運の
再建発展のための具体的方策を考えますときに、
法案自体に問題があるばかりか、
利子猶予と
利子補給だけではなお不十分であり、さらに採択、推進、実、実現されるべき施策の数々が存在することを指摘しておきたいと思います。
まず
海運政策の
基本理念、大命題といたしまして、国際競争場裏におきます
日本海運の市場占拠率、すなわちマーケット・シェアの維持拡大が、目的意識的に追求されるべきものであると確信いたします。米国を初めといたしまして、西欧先進諸国の
海運保護政策に加えて、イスラエル、インド、ビルマ、ペルーさらにはウルグアイなど新興
海運国は、自国経済に対しまする
海運の重要性の認識のもとに、手厚い保護
助成によります
船腹の増強をはかっておりまして、さらにはまたソビエト、中共を初めとします共産圏諸国による
海運進出の動きも不気味な圧力でございまして、国際競争はますます激化する勢いを見せております。一方ギリシャ船主は豊富な
資金をバックとして大型油送船の建造に意欲的でありまして、便宜置籍船の増加、盟外船の跳梁は世界的な
船腹過剰にさらに拍車をかけております。
かかる困難な競争
条件の中で
船腹構成の
変革、技術革新の導入に対処しまして、世界
海運の中に伍して市場競争を勝ち抜いていくためには、国際分業における
日本海運の強化が精力的に推し進めらるべきでありまして、量質ともに今後の
船腹増強は
国民経済的な課題であると考えます。
すでに
土屋先生からも御発言がございましたが、
昭和三十七年の
海運白書によりますと、
邦船積み
取り比率は、
輸出におきましては三十三年度の五八%から三十六年度には五四%へ、
輸入におきましては五九%から四一%へと低下いたしております。これを
輸入原材料であります鉄鉱石、
石炭、油類に分けてみますと、鉄鉱石は七〇%から四八%へ、
石炭は六四%から三四%へと、半分であります。油類は五二%から四三%へと、
邦船の相対的な市場の喪失、これはまことに憂うべきものがあると考えます。この
邦船の積み
取り比率の低下は、拡大
成長いたします
日本経済の海上輸送需要の増大に比しまして、
船腹拡充がはなはだしくおくれているということを
意味します。積み
取り比率の低下は、すなわち貴重な外貨が流出しておるということでございます。外貨節約の
意味からも、また安定輸送の確保によります
国民経済への寄与という面からも、さらにはまた
造船業など関連
産業発展のためにも、当面積み
取り比率五〇%の回復を
目標に
船腹の増強が行なわれねばならない、このように考えます。
ただいま申し述べました
船腹増強と関連いたしまして、第二番目に必要なのは技術革新の導入によります経済
船腹の充実でございます。
造船業の技術革新は、船舶の大型化、高速化を招くとともに、オートメーションによります定員削減が可能になりまして、におきましては定員十四名のきわめて経済的な新鋭船が設計されておる、このように聞いております。この際
一つ国家的な機関を設けまして
造船関係の調査を行ない、さらには船型及び補機の統一、さらにオートメーションの徹底等、これらの調査研究が必要であろうと考えます。
第三番目に取り上げねばなりませんのは、
海運専業者の保護とその育成でございます。
久保先生も御指摘されましたように、現在の
海運業には胃袋がない。既得権の擁護と収益性の確保向上のためにも、まず第一に外航、内航の免許制、次に長期外航
用船の規正、インダストリアル・キャリアに対する規制
措置が検討されるべきであると考えます。
第四番目に、ぜひとも早急に実施されねばならないのは、盟外船
対策としての海上運送法の改正でございます。すでに社会党から海上運送法の改正案が本
委員会に提出されておると承っておりますし、今後慎重御審議をいただくことと思いますので詳しくは申し上げませんが、安定した定期サービスと
運賃水準の維持は、まさに
輸出入貿易の順調な
発展伸長に欠くべからざるものでございます。盟外船の進出による北米定航の収入減は、一口に五十億円といわれておりますように重大な脅威であるばかりか、
輸出業者にとりましても撹乱的要素といたしまして、はなはだしく厄介な存在であることをとくと御認識の上で、御検討願いたいと考えます。
第五番目に特に声を大きくして申し上げたいのは、自主外交の推進と経済外交の強化であります。国際
産業であります
日本海運の保護育成のためには、単に国内
対策にとどまらず、外交上の諸施策が講ぜられねばならないと考えます。米国に対しては、シップ・アメリカン政策に対抗しまして、
邦船の積み
取り比率改善のためにも強力な交渉が要望される次第であります。また片や対欧州、英国、濠州、東南アジア貿易におきます
邦船分野の拡大のためにも、自主性のある経済外交の推進が必要であります。
第六番目には、貿易構造の転換、これに十分配慮する必要があります。ソ連、中国など対共産圏貿易及びアジア・アフリカ圏貿易の開拓、
発展には新しい視野に立ちまして努力を傾注すべきである、このように思います。
最後に具体的な
助成措置でございますが、昨日井手先生からも御指摘がありました通りに、
法案に盛られております
利子猶予だけでは、五年以内に
海運業の自立体制確立が可能であるとは考えられません。もちろん
国民の貴重な血税を充当するわけでございますから、
助成の
条件は、世論の納得のいくきびしいものでなければなりません。しかしながらまず第一に、優秀定期船隊整備のための建造補助、第二に特定重要航路に対しまする航路補助、第三に
高船価船の
対策を
中心といたしましたオーナー
助成、第四に海事信用金庫あるいは金融公庫等の検討。以上四項目が
効果的に用意されてしかるべきであると考えます。
進藤会長と玉井連合
会長がおいでになるところで恐縮なんですが、経営と
政府の悪口を申し上げるようでございますが、ただいまのところ業界は八方ふさがりでありまして、うっかりものも言えない。また局長もお見えになっておりますけれども、監督官庁でございます運輸省におきましては、各省間でも非常に苦しい
立場におられるようございます。必要で、しかもなおかつ正当な
助成はどしどし主張してこれをちょうだいしてくるべきである。こういう建前から
海運産業を代表いたしまして一言申し上げたわけであります。
以上のように、だいぶ盛りだくさんな政策の実施を要望いたしましたけれども、私ども全海連といたしましては、わが国の社会、経済、政治体制の週化に伴いまして、労働組合はみずからの権利を固守するにとどまらず、進んで経営さらには社会に対して責任を負うべきである、このような考え方を持っております。また、この
立場から拡大安定
産業としての
海運政策を昨年来提唱して参ったのでございます。従いまして、
政府の施策あるいは経営方針に対する無批判な反対は厳に慎んでおるものでありますが、このたびの整備
法案は、これは
助成の前提としての
合併、統合
条件といい、さらにはその
助成内容といい、反対せざるを得ないものでございます。
法案の持つ政策面は
二つあると考えます。その政策面の第一は、
合併、統合、すなわち
合併と系列化、専属化を絶対
条件としました寡占体制の確立であります。
過当競争の排除と
産業資本に対する
海運企業の自主性の確立、これをねらいました改正整備の必要性、これを私どもは否定するものではございません。しかしながら
海運の体制整備は、あくまでも組合員、すなわち海陸従業員の雇用安定、さらには労働
条件の持続に関する十分な施策を伴いました業界の自主調整並びに
関係方面の協力に基づいて行なわれるべきものでありまして、一方的な官僚統制は断固排除されねばならない、このように考えます。また、この
法案は、金融資本を
中心といたしました債権保全のための
集約をもたらしまして、
国民経済におきまする基幹
産業として欠くべからざる
企業の中立性、この
企業の中立性を著しく阻害するおそれのあることを指摘しておきたいと思います。さらに寡占体制によりまして、中小荷主、特に北米航路あるいはアフリカ航路におきますごとき中小の
輸出業者の利益保護に十分な配慮が払われなければならぬ。これは受益者にとって非常に大事なことでございますので、一言申し添えておきたいと思います。
政策面の第二は、第十四条第二項に規定いたしまする「不当な競争の排除についての必要な勧告」をなすことができる旨の運輸大臣の勧告権でございますが、これは支払い猶予の取り消しという大きな罰則をバックにいたしました強力なものと言えましょう。この勧告権は
航路調整その他の行政指導には有力なきめ手になると思われますが、しかしその乱用は厳に慎まれなければならないと考えます。
最後に、陸上従業員の雇用安定と労働
条件の維持向上、この
二つの見地から見ましてじっくり
お話し申し上げたいと思います。ただいまのところ、現在
海運産業に従事しておりまする陸上従業員は約一万名と推定されております。私どもはその中で六千五百名を組織しているわけでございます。一九六二年九月期
利子補給対象五十八社の陸上従業員数を申し上げますと、運航主力
会社十三社、これは大手
オペレーターのことでございます。五千六百八十九名。タンカー主力
会社九社で千九百十九名、オーナー主力
会社が三十六社、千二百七十九名、合計五十八社八千八百八十七名でありますから、私どもの組織率は割合高いと言うことができると思います。本
委員会の議事録によりますと、三月十三日に關谷先生から離職者
対策として何か
政府に具体策がないかという御質問が出ましたところ、
政府当局の方から、一万人の二、三割
程度、二千名ないし三千名が、
集約の結果として過剰になってくる。要らないとはおっしゃらなかったわけですけれども、過剰になってくる。これらはできるだけ関連
産業への配置転換を行ない、あるいは設立を予定されておりまする国家的な
海運問題の研究機関に吸収いたしまして、失業者を出さないようにしたい、こういうふうな答弁がなされております。ところが三月十五日の本
委員会におきまして、
加藤勘十先生の御質問に対し、綾部運輸大臣から、これは抜粋でございますが、その後折衝の過程で調査したところでは大した失業者は出ない、
再建整備によってできる新事業
会社はだんだんよくなって人員もよけいに吸収するものであるから、
加藤さんや關谷さんが心配されるような非常な就職の問題というものは考えられない。かりに失業が出るようであれば、航路の拡張、労働、厚生問題等全体の総合した調査機関を設けてこれに吸収する。そうしてその費用が出ぬならば、
石炭産業に補給したと同じように国家でその機関に対する補助をしてまかなっていく。このように答弁が行なわれました。さらに昨日二十六日の
久保三郎先生の雇用
対策につきましての御質問に対しまして、池田総理は、
海運は拡大安定
産業であるから、
合併後も従業員はプールすべきであって、整理は避けるべきである旨の答弁をされております。そもそも当初伝えられました過剰人員二、三千人というきわめて大ざっぱな見込みにつきましては、私どもといたしましては大いに異論がございまして、運輸大臣に対する公開質問状と抗議文を用意をいたしました。今明日中にも大臣にお目にかかって、算定根拠を伺いたい、このように思っていたのであります。幸い
委員会審議を重ねるに従いまして、雇用安定への意欲がはっきりとして参りました。昨日
政府の最高責任者でございます池田総理の御確言と明確な
政府の意思表明を見ましたことは非常にけっこうと考えます。
蛇足ではございますが、御
参考までに私どもの資料から申し上げますと、主要
オペレーター十八社の従業員数、一人当たり運航トン数、この
二つについて見ますと、この点はとくと申し上げておきたいのですが、
昭和三十二年三月末現在と三十七年九月現在の五年間で対比いたしますと、三十二年の運航トン数は五百六十万重量トンに対しまして、三十七年九月は九百四十万重量トン。従業員の数は、三十二年が五千七百十名に対しまして、三十七年は六千六百八十一名となっております。それから一人当たりの運航トン数を見ますと、三十二年の九百八十一トンに対しまして千四百四トンとなっております。これはすなわち五年間に重量トンでは三百八十万トン、五八%、半分以上ふえているのに、従来員は九百七十名、わずか一〇%、一割しかふえていない、こういうことでございます。いかに
政府の指導と金融筋の圧力によりまして、事務の
合理化が行なわれていたかということがはっきりしております。従いましてかような数字のバックでもよくわかりますように、ただいまの陸上従業員におきましては、総体として非常な労働強化が行なわれている証拠でございます。また各社の従業員の恒常的な時間外就労、これは五時半からあるいは六時からということでございますが、月大体二十時間平均と推定されております。この現象も見のがしにはできない。
従いまして、経営におきましてあるいはまた
政府におきまして、慎重な綿密な調査も行なわれぬままに、目の子算式に一口に二千名とか三千名とか余剰人員が出るようなことを言われるのは全く無定見でございまして、それこそ指導責任と経営責任を問われるものである、このように抗議したいと思います。
次に、
法案につきましての具体的な問題でございますが、私どもといたしましては、本
法案に雇用安定と労働
条件維持の一項目を第五条第四項に追加されますよう切望いたします。
また、運輸大臣の任命によって発足すると予想されます整備計画
審議会には金融代表がたくさん入るようでございますが、これには必ず労働代表といたしまして一人加えていただきたい。その代表にはもちろん
全日本海員組合の中地
組合長をぜひお願いいたしたいと考えます。
最後に、私はこれまでいろいろ申し上げて参りましたが、
海運町再
発展に対します私たちの真意を正確にお伝えする
意味におきまして、一月二十一日に私どもが機関決定をいたしております
基本方針を朗読させていただきます。
基本方針
海運産業の
再建強化の為に
利子猶予、
利子補給の前提として
企業合併を軸とした
集約化が強行される趨勢にあるが、これに対する全海連の
基本方針は左の通り。
第一、
海運集約による人員整理、労働
条件低下には絶対に反対する。
第二、
海運の体制整備はあくまで組合員の雇用安定と労働
条件維持に関する十分なる施策を伴った業界の自主調整及び
関係各方面の協力に基づいて行なわれるべきであり、一方的官僚統制を排除する。
第三、体制整備に伴い組合員の生活と労働
条件に影響を及ぼす事項については、組合との事前協議を行なうよう要求する。この点は先ほどの
進藤船主協会長の御
意見と若干の食い違いがあると思いますが、私どもは少なくともこの点をはっきりさせまして、さらに労使協議機関、こういうものを
産業内に統一して設けていくべきである、このように進めていきたい、こういうように考えております。最後に、
第四、
海運再建強化のためには体制整備に止らず、全般的な
海運諸施策が必要であり、その早急な実施を要求する。
全日本海運労働組合連合会こういうことであります。
どうも御清聴ありがとうございました。
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