○
久保議員
海上運送法の一部を改正する
法律案について
提案の
趣旨の御
説明を申し上げます。
わが国
海運が戦後急速に船腹を増強し、国民
経済の中に重要な位置を占めつつあるにもかかわらず、
海運企業の不振は極度に達し、今や過去における
海運政策に
検討を加え、その抜本的対策の樹立を要求されておるところであります。
海運企業不振の原因は、
国内的には、
資本構成の劣悪、高金利による企業財源の悪化、船腹構成の中に占める非
経済船の圧迫、インダストリアル・キャリヤーによるシェアの喪失、
計画造船方式が生み出したオペレーター・オーナー間の系列強化から来る硬直、そして企業乱立による過当
競争、貿易構造の変化に伴う極東市場の喪失等があり、
国際的には船腹過剰の慢性化であり、それは新興
海運国の台頭と自国貨自国船主義につながり、あるいは便宜置籍船の増加を来たし、さらにはシップ・
アメリカンに代表される
アメリカ海運政策の圧迫等であります。
海運企業
基盤強化をさきにあげた企業財源の改善に置くことは、事態の改善にはなるが、根本的対策として企業の収益性を増加させる積極的対策とはならず、また企業の集約化は構造的な政策ではあるが、コスト・ダウンを大幅に期待することは不可能であり、企業の収益力を培養し、維持強化する中心的政策とはいいがたく、むしろその他の不振原因排除の方策を先行すべきものであって、
政府は既定
海運政策の失敗に対する責任からも、早急に樹立する必要があることは言うまでもないところであります。
本
法案提出の
理由は、かかる
状況下にあるわが国
海運企業の活動を不当に圧迫しているオープン同盟における盟外船の跳梁からこれを防衛し、
航路同盟の秩序を維持しようとするものであって、言うまでもなく、対米
航路の安定を期そうとするものであります。
わが国貿易の最大市場は米国であり、貿易総額の三分の一をこれに依存しており、よってわが国
海運の重要
航路である対米
航路の浮沈は、わが国
海運企業の浮沈に重大な
関係を与えていることを見のがすことができないものでありますが、今日まで対米
航路における盟外船は、配船数も積み取り量も日増しに増大する傾向にあり、運賃同盟はこれに対し、運賃プール制の実施、運賃レートの引下げ等の対抗措置を講じ、多大の犠牲をしいられているが、その損害は年間四十億にも及び、
海運企業圧迫の最大なものであり、しかも一そう有効な運賃
競争をとるとすれば、さらに多額の出血を甘受せねばならぬものがあり、当面これによって盟外船を抑圧し得たとしても、再び同様の危機にさらされることは過去の歴史に徴しても明らかなところであり、このことは運賃同盟が同盟としての自己防衛機能を発揮し得ない米国海事法による一方的規制にあるのであって、この繰り返しから同盟が脱却し安定を得るためには、まずもって
外交交渉により、米国側の理解を深め、問題の
解決に当たることが至当であり、正常の方法であることは言うまでもありませんが、たび重なる
外交交渉も何ら
解決へのきざしを見い出せぬ
状況にあるとすれば、重要な
航路同盟の秩序維持と自国
海運保護の
立場から
海上運送法の改正により最小限度の防御措置を講ずることは正当にして、必要な手段であります。
米国海事法たるボナー法が二重運賃制を認めながらも、諸種の制約を課し、実質的効果を発揮し得ず、さらにはその一貫せる反トラスト的思想は運賃同盟に対しその存在の意義をも喪失させるものがあり、
国際海運に対する干渉であって、その間隙を利用する盟外船の出現はもはや古典的な海洋の自由を唱えるだけでは防ぎ得るものではないのであります。もちろんわが国
海運政策の基調は海洋の自由の原則によって貫かれており、本改正案も
海上運送法のこの基本方針に何ら修正を加えるものでなく、その原則を守るため、他国の反トラスト法による
国際海運カルテルの弱体を救わんとする防御的なものであることを強調するものであります。
政府は当初
海上運送法改正により事態の
解決をはかる
考えであったが、OECD加盟問題を控え、加盟国がそれら海洋の自由の原則に立ち、米国の措置に抗議している現在、
海上運送法の改正はわが国
海運政策の転換ととられ、OECD加盟に支障を来たすとの観測からこれを取りやめたと伝えられ、事実
提出予定
法案のなかに入れられながら
海運政策を論じられている。今日に至るも、その
提案の空気がないことは、かかる
理由にあるものと推測されるが、卑屈な態度というべきであり、大国意識は
国内向けであり、われわれのとらざるところであって、問題の所在を正確につかみ得ない
外交の弱さを露呈したものであります。OECD加盟国である英国の海洋の自由は自国
海運権益の擁護に比重があり、フランスの石油輸送の自国船使用義務、西ドイツの差別国に対する対抗措置等はいずれも海洋の自由の原則に矛盾せず、ボナー法に抗議し反対している事実を見のがしていることはOECD加盟に目がくらみ、本質的な問題についての正確な判断を誤っているものであります。
次に
法案の
内容について申し上げます。
本
法案は以上申し述べた
趣旨に即応し所要の措置を講ずるものでありますから、まず第一に本改正案はオープン同盟についてのみ規定したものであります。
第二に運輸
大臣は特定のオープン同盟についてのみ盟外船の同盟参加を勧告できることとしたのであります。
第三には盟外船が同盟参加の勧告に従わぬ場合、そのために著しく当該
航路の運送秩序が混乱し、あるいは混乱のおそれがあると認めるときは、当該同盟の協定による特定の品目について運賃等の規制をすることができることとしたものであります。
第四は、この規制を発効するにあたっては、運輸審議会の意見を聞かねばならぬこととし、その万全を期した次第であります。
第五はかかる措置をとるためには、当然現在の
外国船に対する定期
航路運送業の届出義務を協定参加者以外にも適用する必要があり、所要の改正をいたしたものであります。
以上で
説明を終わりますが、何とぞ慎重御審議の上、御可決あらんことを切望します。(拍手)