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稲葉誠一君 私は、
裁判官の
報酬等に関す
法律の一部を改正する
法律案及び
検察官の
俸給等に関する
法律の一部を改正する
法律案、この二
法案に対しまして、日本社会党を代表して反対の意思を表示し、その討論をいたすものであります。
第一の理由といたしますることは、日本の
憲法七十九条、八十条にも明らかに示されておりまするように、
憲法の原則といたしまして三権分立、司法権の独立をうたって、その中にいわゆる
裁判官優位の原則がかたく保障されておるわけであります。その理由といたしまするところは、もちろんいろいろな見解があるかもしれませんけれども、要するに、
裁判官等司法官の地位を保障し、そのためには相当の額の
報酬を与えるということを日本の
憲法はこれを認めて、われわれ国民の義務として課しておるのであります。でありまするから、
憲法を最も忠実に守るためには、
憲法に
規定されましたところの優位の原則を完徹しなきゃならないというのが私どもの第一の考えであります。もちろん、私どもは
憲法的な一つの秩序というものを守らなきゃならない。ところが、近来の
裁判官、
検察官等においては、この
憲法的な秩序というものを、近代の
憲法というものではなくて、逆に旧
憲法的な感覚のもとに
憲法的な秩序を考える人が往々にしてあるのは、はなはだ遺憾だと思うのであります。いわゆる基本的人権と公共の福祉との
関係におきましても、近代
憲法がマグナカルタ以来認められました基本的人権の尊重ではなくて、むしろ公共の福祉というようなきわめてばく然とした
一般概念、その実態が何を示すかということに対する具体的な論議もなくて、公共の福祉を優先せしめるような形で
憲法の運用が行なわれていることは、はなはだ遺憾であります。そういうようなことをなくするためにも、
裁判官優位の原則を確立をいたしまして、
裁判官の地位の保障をし、同時に、十分なる相当額の
報酬を与えなければならないのであります。今回の改正案を見まするというと、いわゆる
一般職に準ずる
規定だけであります。単に
一般職に準ずるという形のものだけではなく、この際、法曹一元化が叫ばれている現在において、法曹一元化の研究を待つという形ではなく、この際そこに抜本的な改革の必要があるということを考えざるを得ないのでありますが、そういうような点の考慮が今回提案されました二つの
法律案の中には全く欠けておるのは、はなはだ遺憾であります。私は、新
憲法的な感覚をしっかり身につけたところの裁判の運用、検察の運用が行なわれるためにも、本件のこの
程度の改正をもっては足れりとはしない。
裁判官優位の原則をしっかり確立するということが欠けておる。この点から第一に反対をするものであります。
第二の理由といたしまするところは、ことしの八月十日付をもちまして、
人事院総裁
職務代行人事官神田五雄から
勧告が出ておるのであります。これは、言うまでもなく、
公務員給与の決定に
関係のある民間
給与、生計費等が相当な持続的上昇を示しておるから、これに伴って
公務員の
給与を引き上げなければならないというのであります。七・一%を平均とするこの
公務員給与の引き上げをもっていたしましては、まだまだ十分なものではありませんし、私どもはこれが妥当だと考えないのであります。ところが、その
人事院勧告をすらさらに下回りますというか、時期をずらしまして、五月一日から実施すべきであるということが言われながら、単に財政上の理由をもって十月一日に延期をするということ、
人事院の
勧告を政府の財政的理由をもって延期をするということは、私は許されないことである、こういうふうに考えるのでありまして、最小限度
人事院勧告どおり五月一日にさかのぼって実施をすべきである。その点の考慮がかけておるということ。
一般職にただ準ずるだけで十月一日から実施という形に本件の改正案が提出されておることは、私のはなはだ遺憾とするところでありまして、さような点からもこの二
法案に反対をせざるを得ないのであります。
最後につけ加えておきますることは、最初に申し上げましたように、近来の裁判の運用、検察の運用というものが、
憲法ができました当時においては基本的人権を尊重して、民主的な法の尊重という形をとっておりましたけれども、近ごろになりましてだんだん情勢が変わって参りました。いわゆる旧
憲法的な感覚あるいは官僚的な感覚をもって裁判なり検察がやられているということは、非常に大きな弊害を日本の民主主義の発展にもたらしておるというふうに考えざるを得ないのでありまして、こういう点については、十分
国会の中においても留意すべきであるというふうに考えます。同時にまた、本件の
裁判官、
検察官、それ以外の
裁判所なり
法務省に
勤務をしておるたくさんの
一般職の
職員がおりまするが、その
職員の
給与の体系につきましても、その待遇の改善につきましても、単に
一般の
公務員に準ずるだけではなくて、従来日の目を見ることの少なかった
裁判所関係あるいは
法務省関係の
一般の
職員に対する待遇改善のためにも全力を上げて今後努力をしなければならない。そういう点についてこれを政府に要請をいたしまして、私のこの二
法案に対する反対の意思を表明して、日本社会党を代表する討論を終わらせていただきます。