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参考人(天野重知君) 私は天野でございます。私
ども忍草区民はその入会地が米軍の演習場として使用されたことに基づいて入会収益に乗じた損失の補償を受けております。けれ
ども、この補償は、第一に入会という前近代的
関係を政府が近代的な行政
基準で画一的に処理しようとしていること。第二には、この行政
基準を運用する政府
当局がこの
基準を忠実に実行に移すのでなく、むしろ恣意的に解釈適用し、補償金の低減を行政の主目的としていること。第三には、入会補償の受給資格の有無を明確にせず、飛地住民の諸不満を新たな民生安定またはその他の行政措置によって解決をしようとせず、入会補償、林雑補償の名においてこれを充足しようとしておる。
以上、政府の基地行政方針の結果、入会慣習を持つ者に対しては実損と、補償との格差がますます大きくなるという不満を発生せしめております。他方入会慣習を持たない者に対しては何らの行政措置をしないので、結局入会慣習の名のもとにごねれば取れるという風潮を醸成しておるのでございます。これが偽らない北富士の現状であり、北富士に対処するところの調達行政の姿ではないかと存じておるのでございます。
さてこの結果もたらされるところの不完全な補償につきましては、調達
当局も実は早くから認識され、去る
昭和三十二年三月八日にあらためて検討し、適正補償をなすという念書を私共に手交されておるのでございます。
さらに御
承知の昨年九月十二日には藤枝
防衛庁長官から、政府はすみやかに現行の
林野雑産物に関する問題点を再検討し、その適正化をはかる旨の覚書をいただいておるのでございます。そうして私
どもは、この覚書に基づき昨年の十月から今日ただいままで十カ月あまりにわたってほとんど東京に在住し、調達庁と交渉をしておるのでございます。この長
期間の交渉を続けているのは、補償問題はあくまでも事務的に、あくまでも平和的に解決したい一念からでございます。しかし、この交渉の実態について申し上げますと、事案に対し私
どもは、その理論的根拠を示し
説明し参ったのでありますが、調達
当局は、ただ結論を言われるだけで、自分の論拠を論理的に示さず、また、私
どもの主張の根拠を理論的に反論されるわけでもありませんから、交渉は全くデッド・ロックに乗り上げた形と相なったのであります。政府から見れば、私たちは全く取るに足らない一寒村の農民と思われるかもしれません。しかし、このようなことは私
ども微弱な一寸の虫にとってはまさに致命的な打撃となり五分の魂を傾けても争わなければならぬということがただいま忍草区民の偽らない心情であります。また、私
どもの置かれた立場もそのようであるのでございます。しかし、私
どもはあくまで争いたくないのであります。何とかこの事態を平和的に解決したい一心でございます。今日の日本の政治機構の中でこのような事務的問題が十カ月もかかり、大臣が二回も覚書を出したにもかかわらず、われわれがあえて自力救済の行為に訴え、この事案が解決しないということは、まことに情ないことであると思っておるのでございます。しかし、幸いに、本日機会を与えていただいたことは私
ども心から喜び、かつ期待しております。どうぞ先生方におかせられては、昨年二月現地
調査の結論を出す意味合いからも、本件問題を十分御検討していただき、本件が平和的かつ正しく解決できるよう御尽力のほどをお願いしたいと思うのでございます。
さて、折衝の具体的事項でありますが、時間がありませんから要点だけを申し上げたいと思っております。私
どもの損失補償額は、算定
基準第四条第一項によって算定すべきものでありますが、そのためには、平年の
林野雑産物所得額及び当該年度の
林野雑産物所得額がまず確定されることを要することは言うまでもないところでございます。
まず、平年の
林野雑産物所得額についてでありますが、これを確定するためには、平年の採取量、
林野雑産物の価格及び採取必要経費の三項目を明らかにする必要がございます。
平年の採取量に関する私
どもの見解は次のとおりでございます。私
どもは、当区の入会慣習にかかる平年の採取量とは、
北富士演習場のうち、当区が入会慣習を有する部分の平年のなま草生成量の八五%、当区の当該年度におけるなま草の需要量及び当区の当該年度における採取能力の三つの数量を
比較し、そのうちいずれか最も少ないものと観念すべきであると
考えているのでございます。以上の私
どもの見解に対する調達庁の見解は、調達庁が本年六月三十日に当区に手交した林野特廃物損失補償額算定
基準にいう平年採取量についてと題する文書が示しておりますが、それによると、調達庁は、「この場合、補償時において、使用前の平均年間採取量の具体的な数量を直接把握することが困難である
実情にあるときは、当該年度の
林野雑産物の減収額補償のため、平年採取量を実際に推定するにあたって、現に北富士においては、反当施用量に耕地面積を乗じて得られるいわゆる施肥量と、牛馬一頭当たり飼料所要量に頭数を乗じて得られるいわゆる飼料量とを合算した需要量を基礎として推定している、」と言っているのであります。そうして調達庁は、一応の
数字を示しているのでございます。私
どもは、算定
基準第四条第一項第二号の規定から、どうして調達庁のような見解が出るのか、全く不思議に思うのであります。右の文書によって示された調達庁の見解は、当該年度における現実の堆肥施用最及び現実の家畜飼育頭数から当区のなま草の必要量を計算し、そうして早年の採取量を推定しようとすることにあると思われますが、同号による必要軍とは、そういうものではありません。当該年度における現実の堆肥施用量及び現実の家畜飼育頭数は、当区が接収のためになま草を採取することができない事情によって左右されるものでありますから、調達庁の見解は、いわば現実と必要とを混同しているものであって、これらを基礎として、平年の採取量と推定するのは、全く不合理というべきでございます。
次に、
林野雑産物の価格についてでありますが、なま草については、それ自体の市場価格が存在しませんから、堆肥として同様の効果を有する稲わらの価格によってこれを換算する以外にはございません。このことは調達庁の見解でもあり、私
どももやむを得ないところと
考えているのでございます。
なま草と稲わらとの換算にあたり検討を要する問題は、第一に、稲わらの価格をいかに把握するかの問題でございます。第二に、なま草と稲わらとの数量上の換算をいかにするかの問題でございます。稲わらの価格はさらに細分して、稲わらの購入先別数量、購入先別庭先渡し価格、購入先別運賃をそれぞれいかに
考えるかの問題に分かれます。このうち稲わらの購入先別庭先渡し価格については申し述べ、他は時間の
関係で省略いたします。
私
どもは、
昭和三十五年度において、
谷村地区の稲わらの庭先渡し価格は、取引時、すなわち風乾前のもの一貫目当たり二十五円で、田方地区のそれは一貫目当たり二十一円五十銭であったと
考えているのでありますが、これは先ほど
お話し申し上げました、龍野先生の
調査によってはっきりしているところであります。
これに対し調達庁は、風乾一貫目当たり
谷村地区については士五円七十五銭、田方地区については二十一円と
考えているのでございます。調達庁は、その根拠を
昭和三十五年度の農林統計いわゆる物賃の山梨県及び静岡県の稲わらの年間平均価格に置いていると言っているのでございますが、農林統計の
数字は、山梨、静岡両県ともわずかに二カ所の
調査地点のみを基礎として平均価格を算出しているにすぎないのでございます。しかも、
谷村地区は
調査の
対象となっていないのでありますから、農林統計の価格をもって直ちに購入地区の稲わらの価格とするわけには参らないのでございます。
次に、なま草と稲わらとの数量上の換算の問題でございますが、なま草と稲わらとは、言うまでもなく、いずれも樹形物と水からできているのでございます。俗語で申しますと、繊維と水からできているのであります。私
どもは、両者の換算の媒介物である堆肥を構成する
素材、すなわち、固形物に着目してなされるのが妥当であって、他からの補給が自由であり、かつ、
条件によってはどうにでもなる水分は、換算にあたっては、当然考慮の外に置かるべきものであると
考えているのでございます。しかし、私
どもは、なま草と稲わらとの数量上の換算を、水分を含有する堆肥を媒介としてすること自体が、絶対に悪いと言っているのではないのでございます。この場合には、なま草、稲わら及び当該堆肥のそれぞれの含有水分がどれほどのものであるかを明らかにする必要があるのは、言うまでもないところと思っているのでございます。ところが、調達庁は、水分を含有する堆肥を媒介とすべきであると言いながら、この点を明らかにしない、のみならずそのデータをも示さないでありますから、私
どもはとうてい納得し得ないのでございます。
次に、採取必要経費でございます。採取必要経費については、調達庁は青草貫当たり二十八銭八厘と
考えているようでございますが、これに対しましては、われわれとしては、十分なる言い分もありますが、私
どもは、現在これもやむを得ないと思っているのでございます。
次に、算定
基準第四条第一項第一号は、「減収額は平年の
林野雑産物所得額から当該年度の
林野雑産物所得額を差し引いた額とする」と定めていますから、当該年度の
林野雑産物所得額を確定しなければなりませんが、これは立ち入り許可日の日数に一日当たりの当区のなま草採取量を乗ずれば、算出することができるわけであります。
昭和三十五年度における立ち入り許可日は、過去の明らかな事実でありますし、一日当たりのなま草採取量については、調達庁は、有畜農家一戸当たり百三十貫、無畜農家一戸当たり四十八質として計算すべきものとしているのでありますが、私
どもも、この点はそれでよいと
考えているのでございます。ただ、問題であるのは、
昭和三十五年度に当区が行なったいわゆるすわり込みの日数をどう
考えるかという点でございます。調達庁は、私
どもがすわり込みを行なった日のうち、立ち入り許可口に該当するものについては、通常の立ち入り許可日と同様に扱うべきものと言い、これらの口に当区が採取し得たはずのなま草の価格は、
林野雑産物所得額に含まれるべきものと言っているのでございますが、私
どもは、すわり込みを行なわざるを得なかったいきさつに照らし、これを所得額に算入すべきではないと
考えているのでございます。特にこの問題におきましては、三十五年度の紛争処理にあたりまして、時の
防衛庁長官江崎氏と私は、はっきり終戦協定において、これは算入しないという約定をしているのでございます。そしてこの点につきましては、横浜調達局に理論的な
説明をなし、そうしてこの問題の折衝をやったのでございますが、そのとき横浜調達局の係官は上司に相談したところ、結局それは算入しない。だけれ
ども、これは他に影響があるから黙ておってくれというのを、現に私に申したのでございます。しかるに、その後この問題は再び取り上げられた。これは当時の江崎さんと私との約束、しかも理論的にはデモをやらざるを得ない
状況を政府自身が与えておって、そうしてそれにデモをしたら差し引くというこの公平の原理に反するような点につきましても、るる文書で申し述べておったのでございますが、現在はこれもほごにされたのでございます。
以上のように、平年の
林野雑産物所得額と当該年度の
林野雑産物所得額が明らかとなれば、算定
基準第四条第一項により、前者から後者を差し引いた額の八〇%が損失補償額となるわけでございます。この点につきましても、われわれは非常に大きな疑義を含んでいるのでございますが、現在の段階では、算定
基準を正しく解釈し、正しく運用するということに重点を置いておりますから、この点は次の問題として論及したいと思っているのでございます。
以上、私
どもは、改定問題の全般にわたり、時間の許す範囲で
意見を申し述べ、かつは私
どもが理解する限りにおいて、調達庁の見解をも申し述べさしていただいたのでございます。ところで、先生方に先ほ
ども申し上げたとおり、交渉はすでに十カ月余に及んでおります。当方は自弁で東京の宿飯を食べる寒村の農民なのであります。相手は国からちゃんと
給与をもらっている調達庁の
職員であってみれば、交渉がこれ以上続いてはかなわないのであります。正直なところ、私
どもは、調達庁がしかるべき理屈もないのに、藤枝
防衛庁長官のすみやかにという公約にそむいて、問題の解決をおくらせ、学者
調査を完全にたな上げして、私
ども寒村の農民を困らせるのが、全くその意味がわからないのでございます。そこで私
どもは何とか打開の道はないものかと思っているのでございますが、もちろん両者が歩み寄るのが第一であります。しかし、私
どもといたしましては、調達庁自身が定めた算定
基準にのっとって主張をしているつもりでございますから、
理由もないのにただ妥協のための譲歩はしたくないと思っているのでございます。もちろん私
どもは常に反省するつもりでおります。先生方から本日正しい御批判をいただくならば、その主張を修正するにやぶさかではございません。他方調達庁に対してもその見解に誤りがあるならば、当
委員会におきましてぜひその誤りを指摘していただきたいと思います。そうすれば問題の解決はあるいはすみやかに達成できるかもしれないと思います。しかし、それでも問題の解決に見込みが立たないときは、一体われわれはどうすればよいのか。これがやはりわれわれの脈にひそんでいるところの一番の悩みであるのでございます。国会あり、この政治機構の世の中でこの重要問題が、国会が干渉しても解決ができないならば、われわれ基地農民はどうすればよいのか。これが忍草農民三百の総意でございます。どうぞ、まことにつたない
お話をいたしましたが、どうぞ意のあるところを了承せられ、また、御納得いかない点はどうぞ御
質問していただきたいと思います。