○
国務大臣(
大平正芳君) まだ
勉強が十分できておりませんので、書きものにいたしまして御
報告をいたそうかと思ったのですけれ
ども、それではかえって非礼かと思いまして、今私の頭にありますことを、非常に不十分でございますけれ
ども、率直に申し上げて、御
批判を
お願いいたしたいと思います。
まず、私
どもが担当いたしております
外交、これはもとより自民党とその
政府の大きな
方針がございまして、そこに主点を置いてやらなければならぬことは当然でございますが、
心がまえといたしまして第一に私は心がけて参らなければならぬと思いますのは、あの
総理の
所信表明にもございましたとおり、
財政と
外交は本来一体だという御認識が宣明されましたが、もとより従来とも
外務省におきましても、
国内の
政治あるいは
経済というものの動向、
実態、そういうものを十分わきまえてかからなければならぬと思いますが、この点につきましては、一そうひとつ努力していきたいと思います。特に
国会対策の面におきましても十分細心の留意をして参らなければならぬ、心がけたいと思います。
それから私は、今のようなむずかしい
国際情勢に対処いたしまして
外務大臣というような
仕事を担当いたしまして、実は
自分の非力を感ずるばかりでございますが、
日本の
国自体もやはり
自分の力をはかって地についたことをじみちにやって参ることが
外交の基調ではなかろうかと思うのでごいます。
世界の平和とか、あるいは繁栄とかということにつきまして
応分の
寄与、その
応分ということがどういうものであるかということを見きわめてやっていかなければならぬのじゃないか、それが結局
各国の
信頼と申しますか、
畏敬といいますか、そういうものをかちとる道じゃないかと、そういう
感じがいたしております。そういう
前提で、当面の今問題になっておりまする
問題点につきまして若干
考え方を御披露さしていただきたいと思います。
近く私は
国連の第十七回
総会に出席さしていただきますが、今どういうことを
国連総会を通じて訴えるかということにつきまして、せっかく草案を練っておるところでございまして、まだここで御発表申し上げるほどの熟したものではございません。ただ根本の
考え方は、従来もそうでございましたが、
日本は
世界が見まして公正な
態度であるという
操持を持っていなければならぬと思っております。したがいまして、
国連は
平和機構でございますから、すべての国際的な紛争は、武力に訴えずに、平和的な手段において
解決するということが生命でございますので、その
平和維持機構としての機能というものを強化して参る方向に私
どもの思考も進めて参らなければならぬと思います。最近ラオスの問題があのような
解決点を見出しましたこととか、あるいは
西イリアンの問題が平和的に
話し合いがついたということは、非常に私
どもをエンカレッジするものであると思います。
核実験禁止の問題につきましては、
国会におきましても、いろいろせんだって来
論議がございますが、当時
総理も申し上げたと思うのでございますが、この問題はやはり
核保有国自体が最大の
責任者である。そしてまた
核保有国の行動を有効に国際的に規制するような
協定というものができなければならぬということが第一義的なことではないかと思うのでございます。
政府におきましても、従来この問題につきましては内外に訴えて参りましたし、
核実験がございましたときにはそれぞれ抗議を続けて参りました。また
政府以外に、
日本におきましても、各政党、各
団体等におきまして、非常な国際的な
アッピールが精力的に行なわれたのでございますけれ
ども、どうもこういう一連の
アッピールが、はたしてその
核保有国にどれだけの
影響力を現実に持っておったかということを考えますと、それはおのずから限界がありますことは、たび重なる
実験がなお跡を断たないということによって証明されておると思うのでございます。こういう努力は重ねて参りますけれ
ども、やはり有効な
核実験の
禁止協定というようなもの、そういうものを作っていく上におきまして
各国が
協力いたしまして、精力的にそういうことを具現する
国際世論というものの
形成に努力して参らなければならぬと思っております。同時に、これは
核兵器ばかりでなく、
核兵器以外の
一般の軍縮の問題につきましても同様でございまして、ジュネーヴにおきまして今
交渉が続けられておるし、アメリカからも新しい
提案があったかのようでございますが、要するに、こういう
国際協定、有効な
国際協定の樹立ということに
応分の働きをやらなければならぬのじゃないかと思っております。
中国代表権の問題につきましては、とにかくいろいろな御
批判がございましたけれ
ども、この問題の持つ広さということを考えてみますと、
世界の平和から申しましても、極東の平和から申しましても、非常に
影響の大きい問題でございますので、
重要事項指定ということに、
日本側も
提案国となりまして、あのような結果に相なっておりますが、ただいまのところそういう
方針を変えるという
気持はございません。
それから
AAの
外交でございますが、
AA圏と一口に申しましても、御
案内のようにいろんな要素があるわけでございますが、
AA圏の
一員であるという
立場と、それから私
どもが従来主張しております
自由圏の
一員である
立場とは、決して私は矛盾いたさないと思うんです。むしろ
自由圏の中に深く入れば入るほど、
AA圏の
一員として、
AA圏のためになるんじゃないかと思いまするし、
AA圏の
外交におきまして
信頼を獲得することが、同時に
自由圏における
日本の
役割というものの値打が評価されるようになるんじゃなかろうかというような
感じがするのでございまして、この点につきまして決して二律背反するものではない。その
外交圏におきましても
信頼と
畏敬を獲得するようにして参りますることが、その属する
政治圏に対して
日本の
役割が確立されるのではないかと、そういう
感じを持っておるわけでございます。
経済外交の問題でございますが、実は、たいへん戦後
経済の国際的な
協力という面が大幅に出て参りまして、具体的にも
国際経済機構というようなものが、
ガットでございますとか、IMFでございますとか、その他各種の
国際機構ができまして、その
影響力というものを無視して
国内の
経済の
運営ができないということに、そういう新しい傾向が出て参っております。言いかえれば、
国内の
経済の
運営は、それ自体非常に深刻の度合いが薄くなって、
むしろ外からの
影響というものを勘定に入れないと
経済の
運営ができないということになってきておるということでございます。したがって、
経済外交というのは、もう昔に比べまして今はとても大きなウエートを持ってきておると思うのでございます。ところが、実際
経済外交というものにつきまして若干
勉強してみますと気がつきますことは、
日本の
経済外交というのは、おそらく私は、
世界の中におきましてこれほどむずかしい
立場にある国はほかになかろうと思うのでございます。と申しますのは、
先進国の
仲間入りをいたしまして、いろいろの
経済協力、国際的な投資なんかの面におきまして
日本が
先進国と
協力いたしまして、インドにいたしましても、それからパキスタンにいたしましても、
応分の
協力をいたしておる
立場にありますことは御
案内のとおりでございますが、そういう
意味では
日本は確かに
先進国の
仲間入りをいたしておるわけでございますが、しかし、今問題になっておりまする
ガットの三十五条の援用問題などというのは、
日本にユニークな問題でございまして、
先進国はこういう問題を持っていないわけでございます。これは、
わが国の
経済がまだ二重
構造のひずみから脱却していないという
実態もございまするし、また、
日本の
実態に対して
世界があまりに無知であると申しますか、インフォームされていないということから出てくる
恐怖心というか、誤解というか、そういうものがあると思うのでございまして、そういう状況において考えてみますと、
日本の
経済外交というのは、これはなみなみならぬ困難なものである、他の国に比べて比較にならぬほどむずかしい問題であると思うのでございます。したがって、いろいろな御
批判もあろうし、
論議も出て参ると思うのでございますが、しかし、困難な局面におるということを御認識いただきまして、
政府に対しましてもまあ御同情を持って見ていただきたいと
お願いをするわけでございます。
この
経済外交を進めるにあたりまして何よりも頼みにいたしますのは、
日本の
経済そのものが順調な
成長を遂げまして
日本経済自体が近代化していくということが
前提にならぬと、いかにふんばってみましても、スムースな
経済外交はできないと思うのでございまして、私
どもは、今進行中の
経済の
近代化政策、
成長政策と申しますか、そういったものが順調な足取りで進んで参りますことを非常に
期待をいたしておるわけでございます。それと並行いたしまして、
日本をよく知らす運動と申しますか、俗に言うと
PRというものによほど心がけなければならんのじゃないかと思います。
外務省におきましても、いろいろ
工夫をいたしまして
PRに努めておりますけれ
ども、まだ予算も要員も十分ではございませんし、
PRの
技術面におきましてもっと
工夫をこらさなければならん多くのものがあろうと思うのでございますが、これは
経済外交を進める場合の
前提として、よほど努力していかなき
ゃならん面だと考えております。
それから、今はやりの
EECの問題でございますが、
日本でも官民を問わず、
EEC問題、
EEC対策という名において
相当勉強が進んでおりますことはけっこうでございますけれ
ども、
EECというのは、まだこれは
形成の
過程にあるわけでございまして、
EEC対策を、
EECという
一つのまとまった
共同体を問題にする前に、まずそれに加盟いたしておりまする国、また加盟せんといたしておる国、そういう国と
わが国との従来の
経済関係というものを吟味いたしまして、どこに問題の点があるかということを探索いたしまして、その
単位国との個別な
折衝を精力的にやりまして、
EEC全体の共通な
政策がだんだんと
形成され、化体されて参る
過程と並行して、個々の
国々に対する具体的な
問題点の
折衝というものを続けていくことが、当面、より大事なことでないかと思うのでございます。で、先般
東京交渉を終えました
日英の
通商交渉にいたしましても、一部の問題を除きまして、ほぼ大きな筋において意見の一致を見ておりますが、これとても、ねらいは、
EECに
英国が加盟した
あとで、根本的な問題を
日本と
英国との間に残しておくようなことがあっちゃ
いかんと思いまして、少なくとも
ガット関係には入っておくという踏み台だけはちゃんとさせておかなけりゃ
いかんという
趣旨で、非常にこれは精力的にやっていただいたわけでございます。近くドイツと現にやっておりまするし、フランスやイタリアとこの秋はやらなければなりませんが、それは、そういう
趣旨で
EEC加盟国との個別な
折衝で問題をできるだけ消化しておくという
心がまえでいかなければならんと、今の
段階ではそういうことが非常に大事だと思っております。それから、
EEC全体につきましては、この間
参議院の本
会議でも御
質疑をいただいたわけでございますが、これをひとつまとまったものとして、私
どもが特別な
機関を作ってこれに対処するというような
方法をとるかどうかという問題でございますが、今申し上げましたように、重点がまずまだその
前提にあるわけでございまして、そこに力点を置いた
折衝が続けられておるわけでございまして、それと遊離して
EEC対策というものは考えられませんので、今当面
EECを相手にした特別な
経済外交機関を作って、そこにいわば特定の大使を置いてやるとか、そういうことは少しまだ時期が尚早じゃないかという
感じをいたしております。
それから、低
開発圏に対する問題でございますが、これは
わが国の
貿易構造から申しまして、
先進国との間は原則として
輸入超過でございまして、
後進国との間では
日本は
輸出超過であるという非常に不幸な
経済構造を持っておるわけでございまして、第一次
産品をたよりにしていく低
開発圏から第一次
産品を買ってあげなければいかぬ。しかし
世界的に市況は非常に弱いというようなことで、外貨の不足を来たしているところに対して非常な
輸出超過であるという宿命を持っているわけでございます。したがって、これは何としても本格的に
貿易の
高度化をはかりまして、
先進国との間の
貿易のバランスというものをかちとらないと、
日本の
貿易構造は安定しないと思うのでございまして、そういう
意味で今の
成長経済に非常な
期待を持つわけでございますが、そうでないと、なかなかその第一次
産品を買い付けるにいたしましても、
国内の農業との問題が起こりますし、そんなに
輸入余力がないわけでございまして、とんとこれは行き詰まると思うのでございます。したがって、本格的な
貿易政策を進めて参りますことが、低
開発圏に対する私
どもの
態度に
弾力性を与えると思うのでございます。なお、この面につきましては、そういう
貿易関係だけでなくて、最近
経済協力という問題が
世界的な
課題として出て参っております。もっとも
経済協力というのは最近始まったばかりのことでございまして、私はどこの国も
世界じゅうが全部
しろうとだと思います。
日本も例外なく
しろうとだと思うのでございまして、一体どういう
経済協力が適切であるかなんという
課題を与えられたとしても、ちょっと答案の書きようがない。いろいろまあトライアル・アンド・エラーでいろいろなことをやってみて、そうしてその間に人間の
知恵というものはだんだんと出てくるのではないかと思うのでございまして、
世界的に
応分の
寄与をするということを先ほど申しましたが、いろいろ
応分の
経済、
技術協力というような
仕組みもできておりますので、こういったものを骨子といたしまして、できるだけいろいろやってみる。その中から、
日本人は非常に賢明でございますから、その間からいい
知恵を出していただいて、だんだんこれは地についてくるのじゃなかろうかと思うのでございます。
応分の
協力は、
国内の
財政官庁その他によく
お願いをいたしまして、できるだけこれはやって参らなければいかぬ問題であると思います。
それから、最近
河合ミッションの
登場等から、それより前に、
池田総理並びに
佐藤前
通産大臣なんかで、
共産圏貿易というような問題が提起されておって、今
世論を喚起いたしておりますが、私らの
考え方は、これはまあ
共産圏といえ
ども貿易の
機会を
あとう限り獲得して参るということは当然だと思うのでございます。ただ、この
やり方をどうするかの問題でございますが、やはりこれは
日本が
世界の信用というものを失ってはいけませんので、対
共産圏貿易につきまして、
世界の
自由圏の
国々が一体現にどういう条件、どういう
仕組みでどのように
貿易をやっているかという
実態をよく知る必要があると思うのであります。
わが国だけがかたくなる必要はないと思うのでございます。そういった点をいろいろ調べておりますが、的確なことはなかなかわからないのでございますけれ
ども、
日本がそういうことをいろいろやるというのはわかるじゃないかというような、
世界が了解するようなものであってほしいと思うのでございます。
それから、具体的に延べ払いでございますが、
輸出代金保険なんかの面につきまして、
日本が
貿易の
機会を
世界じゅうにフェアな
方法でかちとるという
方針に従って、ある品目についてこの国に対してどの程度まで踏み切れるかということを具体的に詰めて、そうしていくべきじゃないかと思うのでございまして、観念論でなくて、具体的に打開の方途をフェアに切り開いていくということであってほしいということで、せっかく今検討を進めておるわけでございます。
河合ミッションがいろいろな
契約をいたして参りました。で、きのう私も
河合さんにお目にかかりまして、きょうから具体的に
報告を聞いております。成約いたしました
契約書なんかについても検討させていただいておりまして、具体的にこれは申請が出てくるわけでございますので、そういったときにまごつかないように、あらかじめ十分
勉強させていただこうと思って、きょう打ち合わせを始めております。やがて
政府の
態度をはっきりさせていきたいと思います。
それから、
日韓の問題について私
どもが考えておることを申し上げます。これは十年
交渉で長い
間断続をして参りましたことでございます。きわめて困難な問題であるということは、今の
交渉の
経緯から申しましてもよく承知いたしておるわけでございます。今度なぜ
予備交渉をこの時期に始めたかと申しますと、三月の
外相会談で
日本と韓国の
代表とが相談いたしまして、
日本のほうも
参議院の改選がございまするし、その後
内閣の人事の更新というようなことも考えられるので、当面休もうということで、そういったことが済んだらまたやりましょうと
約束がございます。したがって、そういう
約束に対しましては忠実でなければならぬと思いまして、始めたわけでございまして、特にこの時点で取り急いでやるのだというような特段の意図はないわけでございます。まあ、水が流れるようにやっておるわけでございまして、特に急いでおるというようなものではございませんで、こういう
日韓の問題が今までのような不安定な
状態にあるということ、それを直してなかったというようなことは、むしろおそきに失しておるのじゃないかとさえ考えております。この
日韓の間にはいろいろな
懸案がございますが、従来の
経緯から申しまして、世上言われておる
請求権問題という問題が、
懸案の中で一番焦点になっておる問題でございまして、その問題が片づかないと、
目安がつかぬと、ほかの
案件の処理に移れぬということであったようでございまして、今回の
予備折衝も、したがいまして、
請求権問題というものから入っております。で、
請求権につきましては、世上伝えられておりますように、三月の
外相会談では、
彼我の間に
相当の
距離があるということが確認できたわけでございます。で、去年の十一月の
池田、
朴会談におきましても、この問題は法律的な根拠があるものに限ろうじゃないかということにおきまして、両者の合意を見ておるわけでございまして、その線に沿っていろいろ計数を
——項目あるいは積算というようなものをやってみたようでございます。しかし、どうも
彼我の間に
相当の
距離があるということで、それ以上進みにくい
状態であったようでございます。しかし問題は、こういった不自然な
状態をできるだけ早く
正常化していくということを考える場合におきまして、いつまでもそう停滞したままでおいておくということもできませんので、何か
請求権問題を片づける新しい
工夫はないものかという点を考えまして、ひとつ
提案を
先方にいたしまして、
先方の考慮を求めておるというのが今の
段階でございます。そしてその内容はどうだということにつきまして、両院を通じましていろいろ激しい御追及をいただいたわけでございますけれ
ども、
予備折衝がまだ始まったばかりでございますし、
一つの試案を
先方に提示してあるということを
国会に御
報告申し上げるなんていうのは、その中身を申し上げるというのは、
国会に対して非常に非礼でございまするし、
外交の慣行から申しましても妥当でないと思いまして、まだ御遠慮申し上げておるわけでございます。私
どもは
日韓の問題は、このような接した国の間で
国交がないという
状態は非常に不自然な
状態であると思うので、それに何とか道があれば
正常化すべきじゃないかということで、ごく平明に問題を考えておるつもりなんでございます。したがって、問題になっておる諸
懸案につきまして国民の御納得がいくような
解決の
目安をつけて、でき得ればできるだけ早く
国交の
正常化をはかるべきじゃないかということで進めておるわけでございますが、今はまだ
予備折衝に入ったばかりでございまして、それ以上申し上げるような
段階ではないことをきわめて遺憾とするわけでございますが、お許しをいただきたいと思います。
それから
懸案になっておりました
ビルマの賠償再検討問題、これは引き続き
ビルマ側と
外務省との間で
話し合いを続けておるわけでございますが、御安内のように、
ビルマの政情が若干不案な
段階にございまして、
仕事が持続的にずっと能率よく進んでおるとは申し上げられませんけれ
ども、私
どもは糸を切らずに引き続き
折衝中である、まとまりますればまた御
審議を
お願いいたしたいと、そう考えておる次第でございます。
たいへんまとまらぬことでありますが、私の頭にあるあらましを申し上げて、一そうの御指導と御
批判をいただきたいと思います。