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広瀬秀吉君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
産業投資特別会計法の一部を
改正する
法律案に対し、
国民の
立場に立って、
反対の
討論を行なわんとするものであります。(
拍手)
本
法案は、ただいま
大蔵委員長の
報告のごとく、
産投特別会計法の一部を
改正することによって、前
国会において数多くの疑点を残したまま、
与党の多数暴力の中で
質疑を打ち切り、
国会法のあらゆるルールを踏みにじって承認したと称する、いわゆる
ガリオア・エロア返済協定に基づく
債務を、
産投会計資金のうち見返
資金特別会計からの
承継資産の
運用益をもって返済せんとするものであります。私は、この
法案の
審議にあたりまして、
国民とともに、
池田総理並びに
与党の
諸君の今日までの
外交の姿勢について、重大な疑義を感じて参ったのであります。(
拍手)かって
南ベトナム賠償にあたりまして鶏三羽に二百億、
借款として供与すべき
タイ特別円問題解決に関する
協定を突如として九十六億円の
贈与にかえた事実、そして今また韓国に対する三億ドル、一千八十億円を支払おうとするような態度等々を思い浮かべますときに、一体
総理並びに
与党の
諸君は、貧乏にして忠実なるわが
納税国民の
利益を何と心得ておるのであるか。(
拍手)
アメリカとその
同盟国に対する
利益をはかるためには、
国民にはなはだしい犠牲を押しつけながら、いわれなき
支払い外交を続けるやり方に対して、
国民の圧倒的多数は、憤激を
通り越してあぜんたる状況であります。(
拍手)それにもかかわらず、今回またもや、いわゆるガリ・
エロ返済協定を締結して、
債務性なき
援助物資代金四億九千万ドル、一千七百六十四億円、利子を加えて五億七千万ドル、二千八十五億円を
産投会計法の
改正によって
米国に支払おうとしておるのであります。
以下、数点にわたりまして
反対理由を申し述べたいと思います。
まず第一に、本
法案改正の前提をなす
ガリオア・エロア援助の
債務性についてでありますが、積極的にこれを肯定する証明は何一つないという点であります。
まず、
ガリオア・エロア援助を受けた当初、
国民だれ一人として
無償贈与であることに疑いを持った者がおったでありましょうか。さればこそ、家畜や鶏のえさにしかならないような、腐りかけた食糧に対しても、ありがたく感謝したのであります。
国会における無条件の
感謝決議、そしてあの
原子爆弾に対する
損害賠償権あるいは
阿波丸請求権を放棄したのも、このような
国民感情を背景にして行なわれ得たのであります。(
拍手)また、取引の不可欠の要素であり、
債務の
基礎になる価格の表示すらなかったという事実、
援助の
総額すらこのように明白なものがなかった事実等々は、
債務性を否定する有力な
根拠でありましょう。(
拍手)
総理自身、
昭和二十四年
大蔵大臣当時、
ガリオア・エロアが
援助か
債務かは
平和条約によってきまると答弁され、
平和条約においてはこれを
債務とする何らの取りきめがないことは、
条約の条文を厳密に解釈いたしまするならば明白であります。従って、
占領終結とともに、返済問題も
解決済みであると見るのが至当であります。
本来、
ガリオア・エロア援助が
債務たらざることは、当時
日本が
アメリカの
占領下にあって、絶対
権力者と被
支配者の
立場にあって、本来
自由対等の
関係にのみ成立することの可能な
債権債務の発生の余地ない
国際的地位にあったことは、重要な事実であります。しかも、
ガリオア・エロア援助は、
外国地域における
占領に関し、
アメリカの責任と
義務に応ずるため必要な経費の支出であります。くだいて言えば、
占領地域住民の飢餓や病気による社会不安と混乱から、
占領軍を守るための
民生品の
必要最小限度の供給にほかならなかったのであります。このことは、
ヘーグ陸戦法規四十三条を援用するまでもなく、
占領軍の必要と
義務に基づく
援助であったことを示すものであります。
債務性をしいて求めれば、一九四六年七月二十九日、
スキャピン一八八四Aにおける「
支払い及び経理の条件を後に決定する」という文言でありますが、正しくこれを解釈いたしますならば、これが積極的に
ガリオア・エロア援助の
債務性を証拠立てるものでないことは、はっきりいたしております。しかも、
平和条約の発効とともに、
スキャピンの効力も失われたと解釈することが至当であります。
さらに、
阿波丸請求権放棄の際の
了解事項において、「
占領費並びに
日本国の降伏のときから
米国政府によって
日本国に供与された
借款及び
信用は、
日本国が
米国政府に対して負っている有効な
債務であり、」云々ということを
理由に、
援助の
債務性を立証しようとするものもありますけれども、
借款は
協定を締結いたしまして、
総額並びに
返済方法を明記したものであるはずでありまして、これは別個のものを予定しております。
信用とは延べ払いであります。いずれも
ガリオア・エロアを対象にした
了解事項でないことは、あまりにも明白ではありませんか。
かくのごとく見て参ります場合、
ガリオア・エロア援助を
債務だとする何らの
根拠はありません。吉田元
総理大臣や
池田総理が対
米従属のかまえを強めるに従って、秘密独善
外交の習癖の中で、
債務と心得るといったことだけが、
債務性の
根拠であります。(
拍手)まして
国民と
国会は、それらに拘束され、義理立てする必要はごうまつもないのであります。
第二に、かりに百歩を譲って、
債務性があったと仮定いたしましても、今回このような形で返済することは、
米国に対して二重払いとなるという不当を免れることはできないのであります。
昭和二十四年四月二十五日、一本の為替レートが設定されるまで、また、同年三月末までの
日本と
アメリカとの輸出入の数字は、ESSの統計によって見るも、輸出は六億五千万ドル、輸入十七億四千万ドル、との内訳は省略いたしますが、当時は一本レートではございません。輸出円安、輸入円高の不等価交換が行なわれ、輸出にあたっては一ドルを得るために三百四十円の品物を売らなければならず、輸入にあたっては一ドルをもって百六十円相当の品物しか手に入らなかったのであります。すなわち、
米国による
日本物資の買いたたきが行なわれ、こめ結果、
米国及び
米国商社はたっぷりもうけたのであります。ひどいものになると、一ドルで六百円の品物が買われておったのであります。従って、この操作を通じて、わが国とわが
国民は、輸出補給金を通じて余って返るほどに返済をやったのであります。すなわち、等価交換が行なわれたといたしまするならば、輸出六億五千万ドルは当然二倍以上の十三億ドル以上には売られたはずであります。輸入十七億四千万ドルは半分の価値と見れば八億七千万ドル以下となり、差引四億ドル以上の受取分があるはずであります。さらに、われわれは、長い米軍
占領期間中を通じて、終戦
処理費として
占領軍の維持のために必要なる
施設及び物資を調達するために、特に朝鮮戦争の必要を満たすために、ポツダム宣言の被
占領国の
負担する終戦
処理費の範囲を越えて、四十七億ドルを
負担しているではありませんか。これは
米国の対日
援助額の二倍以上に達する額であります。
政府発行の「国の
予算」
昭和二十六年版の数字を見ましても、この額が十四億四千万ドル、邦貨五千二百三億円を支払っている事実こそ、まさに二重払いでなくて何でありましょう。(
拍手)さらに、
米国は、その
占領中において
ガリオア・エロア援助政策を通じて、
日本を経済的にも、政治的にも、戦略的にも
米国の従属的地位に組み込むことができた以上、
ガリオア・エロア援助の
支払いを
アメリカが求めたということは、私は、
アメリカにとっても惜しむべき誤りを犯したことではないかと思うのであります。(
拍手)
このように経緯をしさいに分析して参りまするならば、今回産投法を
改正いたしまして支払おうとする
債務返済こそ、冒頭申し上げましたごとく、グラント
外交の好きな
池田総理の、
国民所得が八倍以上もあるという豊かな国
アメリカに対する貧しい
日本国民の分不相応な
贈与ともいうべきものでありまして、さらにまたドル防衛に対する忠実なる協力以外の何ものでもないと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
第三に、
国民の
立場から見ても今回の返済は二重払いであります。
今回の産
投資金中、見返
資金特別会計承継分
資産二千二百九十四億円の
運用益をもって支払うのでありますけれども、その財源の中には、
国民の税金が入っております
一般会計から価格差補給金五百八十六億円が入っておることだけでも二重払いであることは明白であります。そればかりではありません。今回の返済
支払いによって、
産投会計を圧迫し、財源を窮屈にし、そのために
一般会計から繰り入れをしなければなりません。さらに、財投の計画にもひびを入らせるというようなことになっております。繰り入れをしなければ、資金需要の旺盛な開銀、輸銀、農林漁業金融公庫、中小金融三公庫等の融資源の圧迫を通じて、二重、三重に
国民に犠牲と
負担をしいる結果になるのであります。
第四の
反対理由は、今回の返済
支払い財源を
産投会計に求めたことが、特別
会計について定めた財政法第十三条の原則を無視して、財政
会計の秩序を紊乱する誤りを犯したという点であります。
産業投資特別会計法の第一条は「経済の再建、産業の開発及び貿易の振興のために国の財政資金をもって
投資(出資及び貸付をいう。)を行なうため」設置した旨、明らかに定められておるのであります。一体、対日
援助物資に対する返済
支払いと、第一条の経済再建、産業開発、貿易振興に対する
投資といかなるかかわり合いがあるのでありましょうか。全く異質の歳出を
産投会計に持ち込むことによって、
産投会計設置の
目的をスポイルするばかりでなく、財政法第十三条第二項の「国が特定の事業を行う場合、特定の資金を保有してその
運用を行う場合その他特定の歳入を以て特定の歳出に充て一般の歳入歳出と区分して経理する必要がある場合に限り、法律を以て、特別
会計を設置するものとする。」こういう
規定に明らかに違反をいたすのでありまして、財政法秩序破壊の暴挙といわなければならない。
政府がこのような
措置をあえてなしたことは、本来
債務でないものを
債務とし、二重払いを二重払いでないと強弁する
立場からであろうけれども、われわれは、財政憲法ともいうべき財政法に対するかくも明白な違反行為を許すわけには参らないのであります。
政府がどうしても
アメリカに対して、
ガリオア・エロア援助に対する返済をしたいならば、賠償等特殊
債務処理特別
会計によって支払うべきでありましょう。かつてこの法律が提案された際の
政府代表の答弁の中にも、他日
ガリオア・エロアを返済するごとき場合があれば、本
会計をもって
処理される旨が明確に答えられておる。さらに、英連邦軍からの払い下げ物資も、
ガリオア・エロアと同質のものであるにもかかわらず、
一般会計から、あるいは平和回復善後
処理費ないし賠償等特殊
債務処理会計からと、ネコの目の変わるように、御都合主義、便宜主義で払っておるではありませんか。対米
債務の二重払いを行ないながら、二重払いの印象だけは避けようとした
政府の苦肉の策は、ダブル・エラーないしトリプル・エラーへと発展し、とどまるところを知らない、こういうありさまであります。
タイ特別円解決において、
借款を
贈与と書きかえて平然たる
池田流解釈をもってすれば、かかる誤謬はあえて問うところではないのかもしれません。しかしながら、血税を納める
国民の目をごまかすことは、
国民大衆が許さないのであります。政治の姿勢を正すということは、
総理愛用の言葉でありますが、真に
総理がそのことを行なわんとするならば、まずこの点を正すことから始めなければなりません。
以上申し上げました
通り、あらゆる角度から検討をいたしました結果、
産業投資特別会計法の一部を
改正する本法、案には断じて
賛成するわけには参りません。(
拍手)
政府は、今こそ勇断をもって本
法案を撤回され、
国民の
利益を守る政治の正しい姿に戻られるように、
国民の名において強く要求いたしまして、私の
反対討論を終わる次第であります。(
拍手)