○大久保
参考人 御
指名を受けました大久保でございます。
農業構造改善事業がいよいよ
実施段階に入りまして、いろいろな批判や
意見が出ておりますが、この
事業に
関係しております
市町村の各位の結論といたしましては、今日の
農業の非常な転換期にあたりまして、この
農業構造改善事業を重要な足がかりとして、それぞれ
市町村の
農業の
問題点を解決したい、こういう熱意に燃えておるわけでございます。ただ現在いろいろな批判や
問題点が出ておりますことを考えてみますと、これが
事業開始の第一年度であるということと、この
実施までの事務的な手続が非常におくれたために不必要な混乱などが起こった、そういうようなことから出ておる問題も多いわけでございますが、われわれとしてはこの
農業構造改善事業の本質的な問題を取り上げまして、
市町村のこの
事業の推進に当たっていきたい、こういうふうに考えております。
そこで、先般三十六年度に指定を受けました五百の
市町村とパイロット
地区の
関係市町村につきまして
意見を求めましてこの取りまとめを行なっておりますが、これにつきましてはすでにごらんをいただいておると思うのでございますけれ
ども、さらにその後におきましてもいろいろな
意見や要望が参っております。またわれわれが現地について
調査いたしました
問題点もございますので、これらを取りまとめて現地の
意見としてここで御報告をさせていただきたいと思います。なお今までの方がお触れになりましたようなことはできるだけ時間の
関係で省略して参りたいと思います。
当面の
問題点といたしましては、第一として
事業ワクが非常に少ない、地元の要望が十分行なえないということでございます。第二点として
補助率の問題でございまして、これは先ほ
どもお話がありましたように、
事業の
実施地区においては金額が非常に多うございますので、地元
負担が大きい。特に近代化
施設と土地整備とのセットになる場合においては、非常に多くなって参ります。なお大型
機械等に対する危険
負担の問題であるとか、
事業が
実施される以前の古い借金の始末が終わっていない、こういう問題もございますし、さらに最近の兼業化とか階層分化によって起こって参ります。新しい投資に必ずしも賛成でない人々をも説得をしなければならないという点から、
補助率をさらに高くしていただきたいという要望が出ております。それから資金の問題でございますが、従来の
農業近代化資金制度につきましては、
農協の能力の限界であるとか、あるいは金利の点でまだ非常に不十分でございますが、幸い最近
農業構造改善金融制度というような
構想が発表されておりまして、まだつまびらかにはされておりませんけれ
ども、一応新聞等で発表されましたことについては現地としては非常に歓迎をいたしております。ただ
問題点として出てきますことは、
一つは
農協が窓口になる場合に、従来の古い借金の肩がわりに振りかえられるのではないだろうか、あるいは今まで
農協がやっておりますような形式的な担保力等によって貸付のワクをきめるのではないだろうか、こういう
農家の不安がございます。特にこの金融制度につきましては、形式的な物的な担保力というものにあまり重点を置かないで、新しい
農業にこれから伸びていこうとするその人間の意欲なり
計画の適否、経営者の技術的能力、こういったものを中心に資金のワクをきめていただきたい。これは特に青年層の強い要望でございまして、若い人たちが
ほんとうにこれから意欲的に
農業をやろうとしても、絶えず物的な担保力で制限をされる、こういうことに対する非常に強い不満がございます。
それから貸付のワクの場合でございますが、これはできるだけ企業単位として成り立つたけの資金を十分に出していただきたい。この資金ワクの問題につきまして北海道中札内の
農業法人の十三社の資金構造を分析したものがございますが、これを見ますと、一般
農家よりは比較的高度な経営をやっております
農業法人におきましても、
自己資本率は最高がわずかに六・一%、最低は一・五%で、一社平均で見ますと、
自己資本が三十五万四千円、他人資本が八百三十六万七千円、こういう状態でございます。従って
農業の場合におきましては、非常に
自己資本、
自分の財政的な担保力というものを持っておりません。こういった制度的な金融に依存する度合いが非常に多いのでございまして、その企業が成り立つだけの十分な企業単位として出していただかないと、せっかくの近代経営というものが瓦解をしてくるおそれがございます。
それから次に第四は、
生産並びに経営技術の問題でございます。その
一つは大型
機械に関連することでございます。これは先ほど
宮原さんも言われましたが、現場では大型
機械を
自分の土地の状態、作物の状態にどうして適合させたらいいかという選択あるいは
機械の組み合わせ、こういうものが全くわかっておりません。それからさらに大型
機械の運転技術者の養成等の手段もまだ考えられておりません。特に今後この大型
機械の普及に対応して、どうしても品種の改良、育成をやっていただかなければならないと思いますが、まだそういうものがわれわれの前には出て参りません。それから特にメーカーとか輸入業者の押しつけが非常に多いということでございまして、できれば試験場あたりで十分技術的な検討を加えた上で、これが普及されるようなことを希望いたしたいと思います。
それから家畜の多頭羽飼育でございますとか、温室あるいはビニール・ハウスというような新しい経営ができつつございますが、またこれらが
実施基準の中に取り入れられてございますけれ
ども、こういうものの模範的な設計というものがそれぞれの
地域に適合したものがまだ現われておりません。現場を回ってみますと、建設業者あたりが外国の設計書等を手に入れまして、実に無責任な指導をしておるような事例もございます。従いましてこういう近代的な経営に対する
生産と経営との技術の普及、それから適地適産ということに対応する技術指導、こういうものを含めての普及制度の確立をぜひお願いいたしたい。この技術が確立をいたしませんと、一方で多額の資金を貸せましても、技術的に
生産の失敗であるとか、家畜の事故等によって、せっかくの
事業が挫折することが非常に多いわけでございます。
それから第二点としては、今後のこの
構造改善事業の進め方でございますが、これについて実は
一つ心配しておることがございます。それは
パイロット地域方式と一般
地域方式との混乱が起こっておるのではないかということでございます。すなわち
構造改善事業は、当初パイロット的に全国で数カ所を指定いたしまして、ここで現在のいろいろな制度のワクをはずしてみて、今後の
農業というものを新しく組み立てていきたい、こういうような
構想がかつてあったというふうに聞いております。現在パイロット
地区として指定されております九十
地区につきましても、そういう
一つの
考え方が流れておりまして、先ほどの
新潟なりあるいは
福岡の御発言にもありましたように、パイロットをやっておられる方は全国のこの
構造改善事業のモデル
地域としてやるという非常に強い自負心を持っておられるわけであります。こういうパイロット
地区としてやります場合には、当然
実施基準というものは、思い切って高度なものであっていいと私は考えます。また同時にそういったパイロット的なものでありますから、全国画一的であってもいいと思います。さらに
実施地区につきましても、パイロットでありますから、当然局限された場所でもいいと思います。しかしそういうふうに行政的な勧奨によって、あるいは指導によって高い水準を特定の
地域にやるということになりますれば、当然補助とか融資あるいはでき上がった
生産物等に対する最後の世話までは行政的にやっていく責任があると思います。こういうパイロット方式というものがさらに最近では一般
地域として適用されつつあるように考えられます。これが一般
地域として考えられます場合には、パイロット方式のような高い水準の
実施基準であるとか、特定
地域の
実施地区、こういうようなものは非常に迷惑であります。一般的な
事業として考える場合には、あくまでも現場の
農家の要求に適合するような形で、でき得ればその
市町村の全域を含めるような形に持っていかなければならないのじゃないか。そういう面が現在の
実施基準に対する町村側からの不満となって現われてくるのじゃないか。そこで私が心配をいたしますのは、そういう一般
地域と
パイロット地域が並行して同じような形で行なわれるために、
実施基準を非常に弾力的に扱っていこうというような姿が最近出ております。そういたしますと、この
パイロット地域としての
一つのモデル的な設定というものと一般
地域の適合というものが一体どう調整されるのだろうか。その辺が
構造改善の今後の問題として非常に心配されるわけでございます。
さらに最近
市町村の側から非常に注目すべき
意見が出て参っております。これはどういうことかと言いますと、
構造改善事業を手がけてみますと、特に土地基盤整備が非常に問題になる。というのは、この
土地基盤整備事業が先ほ
どもお話しになりましたように、個人の能力を越えるような非常に高い
程度の土地基盤整備をやらなければならない、またそういうことにしなければ大型
機械は入らないということでございます。そうすると、個人の能力を越えるような土地基盤整備を受益者
負担でやることはおかしいじゃないか。たとえば五メートルの農道ということが言われておりますけれ
ども、
市町村道でさえも二・五メートルから四メートル
程度のものでございます。そういう中に五メートルの農道ができるということは、これはいわば圃場の中に有料道路ができるようなものでございまして、
関係農家がくいを立てて、金をくれなければ通さぬ、こういうことを言われてもしようがないのじゃないか、こういう点から考えまして、土地基盤整備は国でやっていただきたい。土地というものは、これは国づくりではないだろうかということでございます。特にここで現場で言われておりますのは、この
農家というものは、都市の生活者と比べました場合に、国を憂え、あるいは
自分の郷土を愛する心というものは非常に強いものがございます。たとえば大雨が降りますと、直ちに村の人たちが堤防にかけ上がって、
自分の身を挺してその堤防を守ります。あるいは山くずれが起こるのを心配して、山にかけつけていろいろな手当をいたします。道路にしましても、みずから砂利を運び、みずからもっこをかついで道路を直しておる、こういうような、国を愛し郷土を愛するような姿は、都市の人たちには見えないのじゃないだろうか、こういう
農民の素朴な善意というものをもっと高く評価していただきたい。従ってこの
構造改善事業における土地基盤整備というものは、個人の能力を越えるものでもあり、国づくりの根本的な
事業であるので、全額国庫
負担でやっていただきたい。そのかわり近代化
施設については、補助でなくして三分五厘
程度の長期の近代化資金でやっていただけばいいのじゃないか。これは
補助事業でありますために、非常に迷惑をする場合があります。たとえば三十頭以上の畜舎を建てる場合に一切古材等は認められませんので、鉄骨のすばらしい畜舎を建てております。ところが一体、そういう鉄骨の畜舎でなければ乳牛は乳を出さないのかどうか、バラックでも乳は出ると思います。そういうことはたとい五割の補助であるといいながらも、過重な
負担を
農家に負わせる場合がある。それから
農家がせっかくいろいろ創意工夫をしようといたしましても、
補助事業であるがゆえにいろいろな制約を加えられて参ります。こういうことが現実に、経営の場ではかえってマイナスを招来するおそれがあるのでございます。
以上の点から考えまして、今後の
構造改善事業を進めるにあたりましては、もう一回、パイロット方式と一般方式との根本的な
考え方をはっきりとしていただきたい。特にその場合においては、一体今後の
農業の姿というものは日本の全
産業の中においてどういう地位を占めればいいのか、あるいは
農業経営の姿というものはどういうものであるべきなのか、
農民というものはどういうものか、こういうような映像を明確に示していただいて、
農民の向かうべき方向をしっかりと腹に入れるように御指導をお願いいたしたいと思います。
それから、一番問題の多い現在の
実施基準についてでございますが、三つばかり
問題点を申し上げたいと思います。
先ほど申しましたように、近代化
施設がこういう
実施基準で縛られるということには非常に問題があるという理由でございますが、第一は、国が補助する以上は一定の基準を設けることが当然でございます。またそれは当然全国画一的とならざるを得ないと思います。ところが現在示されておる
実施基準というものは、
平坦部の一部で適用し得るような
条件があまりに多いじゃないか。三千一百
市町村実施すると言われておりますが、はたしてこの基準で三千一百
市町村がやれるものかどうか。特に山間部等ではこの点を非常に心配しております。それではそれぞれの
地域に適した
実施基準を数多くつくればいいじゃないかということになりますが、はたしてこういうそれぞれの
地域に合ったような
実施基準を無数につくれるものかどうか、ここらにやはり近代化
施設についての
実施基準の矛盾点があると思います。
第二は、技術革新が現在非常に激しく進んでおりますが、はたして現在の
実施基準が十年間押し通し得るものかどうか、こういう点についてもやはり問題があると思います。
それから第三は、景気の変動であるとか、需要供給の変化に応じて経営的にいろいろ対応していかなければならない。そういう場合に、現在示されておるような画一的な膠着的な
実施基準というもので
農家の経営が成り立つものかどうか。こういうような点を考えますときに、やはり土地基盤整備は一切国営でやっていただいて、近代化
施設は低金利で
農家の自由な選択によってやっていくことが一番好ましいのではないか、こういう
意見が現場で最近強く出て参っておりますので、御検討をいただきたいと思います。
なお、この
構造改善事業に関連をいたしましていろいろな現地の要望が出ております。まず
農業内部におきましては、ただいまも申しましたが、山間地帯の対策を一体どうしてくれるのか、こういうことでございます。
それから、土地基盤整備に関連をして国県営の
事業との関連がどうなるのか。この点を考えましても、やはり国県営、団体営というような区分の仕方でなくして、基盤整備は一切国営でやっていただくことが最も好ましいと思います。
それから農産物の流通、貯蔵、加工の対策、それから価格の対策、それから経営の拡大のための農地制度の検討、
農業団体の整備拡充、こういうようなことが考えられます。
それから、さらにこの
事業が進むに伴いまして
農業構造の改善が当然農村構造の問題にまで触れて参ると思います。従いまして、道路であるとか、河川、港湾の整備、特に
市町村道が現在放置されておりますので、こういった大型
機械に対応できるような
市町村道の整備が非常に急がれております。
それから、
農業の
生産性の向上に適応するための鉄道輸送の拡充でございます。この鉄道の問題については、客車優先によって農産物の輸送がいろいろ
あと回しになるとか、あるいは現在行なわれております貨物取扱駅の集約化に対して、現場では非常に不満の声が強く出ております。
それから次は電柱の問題でございまして、大型
機械を入れるといたしますと、特に関東から西の方のように部落が密集して農村電化等も進んでおりますところでは、従来の電柱が非常な障害になる。この点について、まだ政府の方では手が打たれていないようでございますが、これはぜひとも
農家の
負担にならないように、国と
関係方面とで処理をお願いいたしたいと思います。
それから、社会的
施設といたしまして多目的な集会所でございます。現在
農林省の方では集荷場とは選果場、文部省では公民館、厚生省でか保育所であるとか児童館、こういうようなものがばらばらにつくられておりますけれ
ども、農村の現場では、こういう単一的なものではなくして、それらの補助を総合して、農繁期には一部を託児所にも使い、あるいは集荷場にも使い、農閑期には冠婚葬祭にも使え、あるいは巡回映画も見られる、こういうような
一つのレジャー・
センター的なものにまとめていただきたい。特にこれは農村の人間
関係をこれからつくり出していきますためにはぜひとも必要でございまして、従来のようにおこもり堂の屋根の腐ったようなのに看板だけは公民館と上げてある。中に入っていくとノミがぴょんぴょん飛んでくる。こういうようなところで新しい農村の人間というものは育たない、こういうふうに考えられるのであります。
それから社会保障の均等化でございます。少なくとも
農民に対しては、現在の官庁であるとか公共企業体、あるいは大企業の労働者並みの社会保障を適用できるような制度に拡充をしていただきたいということでございます。こういうことがなければ、若い人に農村に定着しろと言っても、なかなか定着しない。むしろ賃金とか
所得の問題以前に、こういう農村の社会的な問題が横たわっておるということを現場では強く言っております。
それから次は、人畜を含めた上下水道あるいは屎尿処理の問題でございます。これは、厚生省では人間のことをやっておりまして、
農林省では特認事項として豚や乳牛のことは考えよう、こういうことでございますが、同じ排泄物を人間と動物と分けてやりますと、とても現場で経営の
負担に耐えません。幸い厚生省の方では清掃法を近く改正するというような動きもございますので、この清掃法の中に動物を含めて、
農林省と厚生省と一体になったこういう上下水道、屎尿処理を考えていただきたい。
それから、
構造改善に伴う
農家の住宅の対策であるとか、あるいは墓地とか火葬場の移転等の問題を考えていただきたい。
それから、
農業教育の充実でございますが、少なくとも
農業高校につきましては、こういう企業的な経営の
一つの先駆的な役割を果たすような学校にしていただきたい。私が現地
調査をいたしました結果では、
愛知県の安城
農業高校のようなものが非常に印象に残っておるようなわけでございます。
それからさらに、農村の婦人、青年、壮年層の
農業に対する再教育、訓練の処置を講じていただきたい。
それから、労働対策の問題でございますが、農村から多数の若い人が都市に出て参っておるわけでありますけれ
ども、現在のような不安定な労働
条件では農村が逆にまた被害を受けるおそれがある。たとえば、ごく半年前ぐらいの鉄鋼
産業の不況によりまして、下請工場が首切りをやりましたために、千葉県の一帯では一時せっかく勤めに出た農村の青年がまた還流をして、いろいろ問題を起こしております。従って、臨時工であるとか社外工というような不安定な雇用
条件を改善していただきたい。
それからさらに、農村から出ていかなければならない、あるいはそういう形で分解しつつある現状から見まして、中年層とか老年層の労働力を活用し得るような施策を講じていただきたいと思います。
こういう関連
事業を見ますときに、単なる
農林省の場における
農業の
構造改善というだけにとどまらないで、
関係省庁含めた農村の
構造改善、そういう視野でこの問題を発展させていただきたいと考えております。
それから第四点は、
市町村の立場でございます。最近
農業基本法が
通りましてから、林業基本法であるとか、海外移住基本法であるとか、中小企業基本法というような法制化がだんだん整ってくるようでございます。現実におきましても、
農業構造改善事業と直接
関係をいたしまして、海外移住促進
事業というものが出て参っております。それからさらに最近では林業
振興対策、沿岸漁業
振興対策、こういうようなことが非常に
市町村の方にどんどんおりて参っております。この内容を見て参りますと、対策はりっぱなものでございますが、相当
市町村に対する責任を負わしております。ところがこれらの対策は、みな本省の縦割りの施策でございまして、
市町村の現場におきましては、相次いで出てくるいろいろな対策を受けとめて、
市町村自体が
事業の推進をはからなければならない。さらにそれらの総合調整も行なわなければならぬ。また林業と
農業、
農業と漁業、こういう接触点の非常に問題のあるところの処理も
市町村長がやらなければならぬ。こういうふうに、最近
産業政策の上で
市町村が非常に大きな責任を負わされつつありますが、これがどんどん進んで参りますと、地方自治体の財政上に重大な影響を及ぼすのではないかと考えます。たとえてみますと、最近のように、こういう
事業が相次いで、
産業政策が強化されつつありますけれ
ども、
昭和三十六年度の
市町村の財政需要額というものを示されておりますが、基準財政需要額に対しまして、
市町村の
産業経済費はわずか四・八%しか見てありません。その中で
農業行政費というものはわずか二・九%でございます。こういうような基準財政需要額の中で、相次いでいろいろな責任が負わせられておるというところに問題があるのではなかろうか。特に今度の
農業構造改善事業について見ますと、三つばかりの点を今自治省の方でも考慮していただいておるようでございます。
第一点は、
市町村の財源として、交付税上の基準財政需要額として、本年度約十億ばかり見ていただいております。この十億ばかりを約三千の
市町村におろしてみますと、
事業をやる
市町村もやらないところも、一般交付税の形で出て参りますので、一
市町村当たり平均三十万円ということになります。ところが、
市町村がこの
構造改善事業を進めるためにどれだけの経費を
負担しておるかといいますと、第一は、この
事業を
計画し推するための人件費でございます。相当技術者や職員を補充しております。それからさらにこの
計画費につきましても、パイロット
地区あたりでは、大体二百万円から三百万円
程度すでに使っております。こういうことでは、せっかくの三十万円の交付税では焼け石に水ではないか。もっともこれは十年間続いてやるということでございますが、これは
一つのから手形みたいになりやすいものでございまして、実際に財政上適切な措置とはちょっと言いがたい。いわゆるくつの上からかゆいところをかくというような形でございます。
それから第二点は、当面の便法として府県の助成による補助の上積みが考えられておるようでございます。この二割の補助の上積みが検討されておるということにつきましては、
関係者としては非常に喜んではおりますけれ
ども、こういう
農業構造改善というような、非常に重要な画期的な
事業に対して、交付税というような、既定財源の中から配分変更を行なうというような、こそく的な手段ではなくして、もっと国の財政上の責任を明確にしていただいて、従来の
補助率にこだわるというようなことではなくして、積極的な財政援助をやっていただくことが本筋ではないだろうか、こういうことでございます。
それから第三としては、
市町村が
事業主体となる場合に、起債のワクを十億
程度認めていこう、こういうような御
計画のようでございますが、この十億を来年
実施します三百の
市町村におろしてみますと、一
市町村当たり三百万円でございます。この金額は、かりに道路
一つ見ますと、
市町村道の基準単価二千九百六十円で割ってみますと、農道五百メートルにしか
当たりません。せっかく十億円
程度考えていただいても、
市町村では五メートルの農道が五百メートルくらいしかできない、こういうようなことでは、この
事業が
市町村の場で中心的になって推進できるということにはいささか不足するのではないか、こういう点が考えられます。従って、こういう
市町村の
産業政策の非常な重圧というものを十分受けとめるだけの財政的な処置を積極的に考えていただきたい。
その
一つの方法として国有林の払い下げ問題を取り上げてみたいと思います。
市町村の財政力を強化するという
意味において、そういう自治省からの財政的な処置も重要な方法ではございますが、
一つの方法としては国有林の積極的な払い下げが考えられていいのではないか。従って国有林の払い下げは、ねらいとしてはそういう
市町村の財源を与えるという
意味が一点と、もう一点は、国有林を開放することによって直接
農民の経営の拡大に使っていただきたい。この場合、国有林の問題で特に私たちが問題にしておりますのは、現在の国有林のあり方というものが非常に納得のいかない姿である。といいますのは、現在の国有林というのは藩政時代の姿がそのまま国有林という形で出ておる。従って非常に苛斂誅求をやった藩政そのままの姿が
昭和の今日においても実現しておるということでございます。
たとえば木曾谷の例をとりますと、島崎藤村の「夜明け前」にこういうことが書いてございます。「その間には木曾路らしいむらさきいろの山つゝじが咲き乱れていた。全山の面積およそ三十八万町歩あまりのうち、その十分の九に亙るほどの大
部分が官有地に編入され、民有地としての耕地、宅地、山林、それに原野を併せて僅かにその十分の一に過ぎなくなった。新しい木曾谷の統治者が旧尾州領の山地を没取するのに不思議はないというような理屈からこれは来ているのか、郡県政治の当局者が人民を信じないことにかけては封建時代からまだ一歩も踏み出していない証拠であるのか、いずれとも言えないことであった。」こういうことが言われております。また鹿児島県では、御承知のように西南戦争の懲罰的な
意味から、山林がほとんど国有林にとられております。従って現在鹿児島県の
関係者の間では、もう一回西南戦争を起こして国有林を取り返さなければいけない、こういうことさえも言われておるわけでございます。こういう封建的な遺制を国有林の姿で置いていいのかどうか。少なくとも
農業構造改善事業をやろうという国が本格的にこういった仕事をやるためには、積極的に国有林のあり方を考えていただきたい、こういうことでございます。従って
市町村の場から申し上げますと、もっと
市町村長が自信を持ってついていける、また
農家も安心して、喜んでこの
構造改善に参加できるような形で推進していただきたい、こういうことでございます。
それから現場から出ております重要な
意見がございますが、それは
農業構造改善事業の法制化をお願いいたしたいということでございます。これは国、府県、
市町村の行政的、財政的な責任区分を明確にすること。先ほど申しましたような
関係省庁の総合的な調整をはかっていただきたい。さらに大臣がかわられても、局長がかわられても、安心してついていけるような安定した政権にしていただきたい。こういう要求が現場から出ております。
最後に申し上げたいのは、現在高度な経済成長が発展しておりますが、この高度な経済成長というものは、成長の能力のあるものは思い切って伸びるけれ
ども、反面ではあらゆる面で格差がどんどん拡大しておるということでございます。先ほど申しましたように、商工都市と農林漁業を中心とする
市町村とでは、行政的、財政的な能力の格差が非常に開いております。商工業者と
農業との
所得の差も開いております。
農業内部においても、階層の分化がきびしく起こって参ります。こういう問題について十分な手当を考えていただきたいということ。特に
構造改善事業は、
農業の経済的な合理主義を非常に高度に追求しようとしておるのでございますけれ
ども、こういう経済的な合理主義を追求できる階層とついていけない階層とに分かれるということでございます。
そこで最後に申し上げたいのは、農村の現場で言っておる
農民の声でございます。特に年代的に見ますときに、若い人たちは相当意欲を持って取っ組みますけれ
ども、中年以上の人は非常に問題に悩んでおります。それは新しい技術についていけない、あるいは経営能力の点から、先ほど申しました経営の合理化についていけないじゃないか、そういう何かはみ出された階層というものが中年以上に集中的に現われている。この人たちは何を言うかというと、われわれは満州事変、支那事変、大東亜戦争を通じて、あの戦場で苦しい戦いをしてようやく帰ってきたんだ、ようやく命拾いをしたと思うのに、さて今度は
農業の大転換でまた
農業からはみ出されるのか、こういう心配をしております。こうした
農民は、現在の政府は決してわれわれ
農民を見殺しにはしないのだ、必ずわれわれの成り立つような政策はしてくれるんだ、こういうことをはっきりと言っております。こういう
農民の素朴な政治に対する信頼感を失わせないようなあたたかみのある政策をやっていただきたい、この点を付言いたしまして、私の
意見を終わります。(拍手)