○武藤
委員 私は、日本社会党を代表して、ただいま議題になりました
国民金融公庫法の一部を改正する
法律案に対しまして、反対の討論をいたしたいと思います。民社党も同様反対の趣旨のようでございますので、民社党も含めて反対の討論をいたしたいと思います。(拍手)
本案を審議いたします過程で、非常に不明朗なる、
数字も根拠も明らかにならないまま本案が採決されることは、まことに不愉快でございまするが、私は以下数点を上げて、私
どもが本案に賛成できない理由、積極的な反対の理由を述べて、皆さんの一考をわずらわしたいと思うのであります。
この改正案は、
国民金融公庫法第五条中資本金を増額するものであるから、その点のみでは異論はないのでありまするが、しかしその増額される二十億円を特定の旧地主のためにのみ融資するという不公平な、一般
国民大衆と比較して特別な恩恵を与えるという点に、私
どもはまず大きな不満を持つのであります。
反対の第一の理由は、本案が
提出されるに至った背景が非常に不純であるからであります。講和条約ができて以来、旧地主は、農地法の改廃、地主救済の国家補償を要求し、地主の結集をはかり、各地で運動を展開して参ったことは御承知の
通りであります。しかし昭和二十四年十二月二十三日、最高裁判所は、農地改革による農地買収価格は違憲ではないと判決を下し、さらに東京地方裁判所におきましても、同様な判決が下っておるのであります。その判決後は、昭和二十九年十二月に下条康麿氏を会長に、その後田中万逸氏が会長になって、全国農地解放者同盟として国会に猛烈な波状陳情を続けてきたことも、われわれはこの目で見ておるのであります。この旧地主の圧力に屈し、政治的配慮と称して、
調査会の結論が出る前にすでに予算措置を講じて、前国会に提案をするがごときは、まことに政治の正しい姿勢を誤るものであって、その制定の理由、根拠がまことに不純であるという点が、私はまず第一に指摘しなければならぬ点であります。
第二には、その内容でありまするが、旧地主の生業
資金を特別に二十億円ワクをきめるということは、現在の
国民金融公庫法の
業務方法書やあるいは法律そのものの精神と比較をして、現在業者が金を借りる場合には一年以上の経験を有するもの、さらに一般
貸付は年九分の利息という規定、こういうような点から考えてみたときに、今回は旧地主だけ特別に二十億円のワクを設定し、さらに利息も災害と同じに六分五厘という低利の金融をするというに至りましては、まさに旧地主に対して特別な恩恵を与えると断じてもはばからないのであります。かかる法改正は、法の前に平等であるべき
国民大衆を取り扱う際に非常な悪弊をつくる法律であると私は思うのであります。もしこういうことが許されるとするならば、敗戦直後郵便貯金をした
国民大衆は、インフレによってその貨幣価値が下がり、多額の損害を受けておる、あるいは外地から引き揚げた人たち、あるいは財産を失い、生命を失った人たちに対する特別なる厚い保護というものも、今日の
国民金融公庫法では担保を入れてすら、あるいは自分の恩給証書を入れてすら、年六分の利息であります。そういう点と比較してみますときに、旧地主だけ六分五厘という低利長期の金融をするということは、まことに法の前に平等であるべき精神をじゅうりんしている不公平な取り扱いであると私たちは思うのであります。かかる政治のやり方に対しては、日本社会党、民社党は賛成ができないというのが第二の点であります。
第三の点は、一歩譲って生活に苦しい旧地主に対する生業
資金としての思いやりだとか、あるいは感情的な、解放された人たちの不満というものを、政治的配慮によって解決をしてやりたいという答弁でございましたが、去る五月二十二日の農地被買収者問題
調査会における答申の内容を見ますと、旧地主の現在における生活上、生業上の問題として、第一、被買収世帯の収入は、買受世帯及びその他の一般世帯に比べて必ずしも低くない、第二、田畑山林の所有及び経営についても、被買収世帯は買受世帯及びその他の一般世帯に比べるとその面積が比較的に大きいものが多い、第三、被買収世帯の世帯員で市町村長、地方公共団体の議員、教育
委員等の公職に戦前についていたことのある世帯の
比率は、買受世帯及びその他の一般世帯のそれに比べてかなり高いが、戦後においてもその差は必ずしも縮まっていない、かように指摘をいたしておるのであります。こういう答申の内容から見ましても、解放された地主たちが決して生活に苦しんでいないという
一つの大きな信用すべき証左であろうと私は思うのであります。これらの理由をわれわれが検討いたしました際に、どう考えてみても、政府の答弁は、その生活に苦しんでいる旧地主が何名いるか、どのくらい
資金を必要とするか、どういう生業につこうとしているかというわれわれの質問に対して、適切に
資料をもって答えることができないありさまであります。かようにつかみ銭的に国の予算の二十億円をほんと旧地主に貸し付けようとするがごときことは、まことに
国民の税金の使い方としては私は慎重さが欠けると思うのであります。かかる点からも、今回の農地被買収者に対する融資の法案に対しましては、どうしても納得がいかぬのであります。
第四に、先ほ
ども指摘がございましたように、
国民金融公庫法の法体系というものを紊乱をする危険があります。御承知のように今日
業務方法書によって九種類の
貸付が行なわれておりまするが、特に一般
貸付とは別に六分五厘の金利で貸すということになりますると、新たに
一つの項目を設けて旧地主だけ特別扱いをするという結果に相なります。これらが一般
国民大衆に与える政治の不公平、あるいは
国民金融公庫の従来の経理の
方法に対する大きな障害になると思うのであります。法を作る力は政治でありまするから、いかなる法体系を変質しようとも自由であるといえば別でありますが、一国の政治を担当する政府としてはかかる軽率な思い
つき、しかもつかみ銭的な予算の計上というものに対しては、今後十分慎重になさるべきであるということを十分御忠告を申し上げ、本案に反対の意を表明して終わりたいと存じます。(拍手)