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平岡委員 ガリオア・エロアの
債務の
会計処理に関する適正、不適正の法理論は、あとから同僚の
井手以誠君がやりますから、私はこの点につきましてこれ以上触れようとは思いません。たまたま
総理が先ほどの
お答えの中で、ドイツとの比較論をされております。ドイツのことだからあまりよくわからないだろうということで簡単に採用されるのは工合が悪いと思うのです。そこで、実は私
どもは一九五七年に、ちょうど同僚の春日君と有馬君と、それに自民党の山本勝市さん、この四名でヨーロッパを回りました際に、例のブンテス・バンクの――当時はバンク・ドイッチェル・レンダーですか、その総裁であるウィルヘルム・ホッケに会見を申し込んだ。なかなか人ぎらいですから会わぬのですけれ
ども、幸いにしまして会うことができました。そのおりたまたま
日本の
国会でも
ガリオア・エロアの返済問題が、
債務なりやいなやということで
議論されておったときですから、ドイツはどういう立場をとっているかということもこのウィルヘルム・ホッケに聞いてみました。その
いきさつをここで御披露申し、そして
池田さんのおっしゃるのと必ずしもドイツの立場は一緒だとは思われませんので、その点につきまして御判断を得たいと思うのであります。
一九五七年と申しますと
昭和三十二年ですが、
昭和三十二年の七月に今申した
通り四人がフランクフルトへ参りました。そしてそれより
さきへ、ウィルヘルム・ホッケにぜひ会いたいということは内地におるときから申し込んでおりましたところ、やっとその七月の上旬だったと思いますが会うことができたわけであります。私
どもの予備知識としては、ウィルヘルムというのはどういう人かというと、興隆ドイツの
経済の裏にウィルヘルム・ホッケありといわれているほどヨーロッパにおいては有名で、シャハトやエアハルトよりはむしろ高く評価された人であります。それで新聞記者に会うことが大きらいだ、なかなか人に会わぬという、そういうような予備知識を持っておったわけです。この会見が非常に貴重なものでありまするから、私
どもは宿に着きまして、非常におそかったのです。が、
鳩首協議をいたしまして、四十分間許されたこの会見を最も有効に生かそうということを相談したのです。たまたま私が、不肖でありますが、この議員団の団長を仰せつかっておった関係で、結局春日君の意見等を加えることにして私がその
質問の要項を作りました。その要項は何かというと四つございました。
その第一は、ウィルヘルム・ホッケ連銀総裁は、「財政と金融は全然別個の使命性格を持つものとして、かつその方針を堅持されている様子だが、
日本では財政金融一体論」――申すまでもなく
池田さん御
自身の御持論です。が、「
日本では財政金融一体論の財政を行なっているが、これを講評せられたし」ということが一点。
それから第二番目は「ドイツの近来のすばらしい輸出増高はヨーロッパを席捲し、ためにEPU」――これはもうなくなっておりましたけれ
ども、「(ヨーロッパ決済同盟)の存在に危機を招来しているといわれているが、御所見いかん」ということが第二点。
第三番目は「シャハト博士の構想すなわち、ドイツの手持ち外貨約五十億ドルを国外
投資すべしとする財政構想をいかに
考えられるや。これを否とするなら」
理由を付して
お答えをいただきたいということ。
それから第四番目に、問題の
ガリオア・エロアに関してであります。「ドイツの
米国から受けているエロア・ガリオア十四億一千六百万ドルは、これを返済の
義務ありと
考えるか、なしと
考えるか。
理由を付し」て見解をお示しいただきたい。この四つの問題を申し上げました。
そこで、特に第一問はあとから
大蔵大臣等にも大いに所見をただす上に参考になることなんで、ここに一応ついでながら触れさしていただきます。
それから四番目の
ガリオア・エロアについてのホッケの
答弁をここに御紹介しておきたいのであります。
結局、この会見におきまして彼の
答弁は次のようでありました。
最初の第一問に対しましては、「一九四八年通貨改革」これはマルクを十分の一に切り下げまして、不動産評価のみを据え置いた、この改革でありますが、「一九四八年通貨改革が行なわれ、バンク・ドイッチェル・レンダーができ、十二州の州中央銀行を統括する現ドイツ連邦銀行制度ができ上がった。自分が総裁になったが、就任以来自分の
考えは一貫している。それは第一次世界大戦後のインフレの災禍の経験に徴して、マルクの価値維持はドイツにとって至上命令であるとの立場である。財政は選挙民に迎合する
予算作成を反映し、時の政治によって浮動し拡大する。ところが、政治、財政等は時の
政府の方針ゆえ一時的なものだが、マルク価値維持は永久的な大切な国家の事柄である。私は価値維持のためには金融は独自の立場を貫くべしとして、ドイツ金融
政策の衝に当たってきた。断片現象的なものの恣意にドイツ・マルクの永遠的価値をまかせてしまうわけには参らない。少なくともドイツにおいては今後もこの方針を自分は堅持する。」というものであります。マルクの価値維持を至上命令として、少しくらいインフレになってもかまわぬなんて、そういう
考えは毛頭ないことをきっぱりと表明いたしておったわけであります。このことは今ここに直接の関係はございません。しかし、傾聴に値する
議論だと思うのでついでに御紹介しました。
二問、三問の
お答えは省略いたします。
第四番目でありますが、「ドイツの対米ガリオア借款十四億一千六百万ドルはこれを返済の
義務ありと
考えるか、なしと
考えるかは、私の所管事項でないから公式的回答はしない。しかしながら私見をあえて言うなら、」喜んじゃいけませんよ。「大戦の残滓は一切残さずきれいにすべきものと
考えている。」その次が問題なんだ。「あたかも対英借款十億ドルも、直ちに返した方がよいのと同様だ。」これらの回答はいずれも非常に明快であります。西独の戦後の
産業を指導し、あやまたざる金融操作によって空前の繁栄をドイツにもたらした金融
政策の大元締めとしての風格と達識がうかがわれたわけであります。
特に四項に関しまして、
日本の対米
ガリオア・エロアが贈与か
債務かいまだ決着を見ていなかった事例にかんがみましてこの
質問をしたわけですが、次元の違うドイツの気魄にわれわれは内省を求められたのであります。というのは、対英十億ドルも早く払うのがよいのと一緒だということは何を言うかというと、これは、ドイツは何といっても戦後の回復を専一にしまして、NATOの軍事同盟へ入れといえば形だけ入りました。しかし、敗戦国ですから、言うなれば欧州隣組の平メンバーだ。イギリス、フランスがマーシャル・プランを受けて、あるいはNATOの中核的な
一つの指導的な国としてふるまっておるわけですが、ドイツはその陰に隠れて、しかし、やはりドイツ
自身の復興のためには、そういう必要があるならばということで、形式的にはNATOにも入っておりました。そういうことで、いつの間にか割り込んで、伸びるだけ伸びた。今言ったように五十七億ドル、そのときにもう黒字の外貨を持っておりました。かせぐだけかせいで、払うものはそのとき払ってやろうというのですから、これは堂々としております。なけなしのバランス・シートから何とか工面していくというのと非常に違っているのです。だから、非常にこれははっきりしています。しかも、このウィルヘルム・ホッケが対英
債務の十億ドルも早く払った方がよいというのは、当時ドイツが疲弊しておりましたので、イギリスから十億ドル貸した。多分十カ年かの期限で無
利子で貸したわけです。これは無
利子というのは、マーシャル・プランの方からイギリスの手に回されてそれが流れてきているのかもしれません。とにかく無
利子でした。ところがその当時ドイツは今申したように五十七億ドルの黒字を持っているのに、イギリスは三十億ドルを割るというので非常に外貨不足でピンチに立ったわけです。そこでドイツに貸した十億ドルを返してくれ、そしてすでに五億ドルを返し、あと五億ドルを返すかどうかということが論議されておるのです。ウィルヘルム・ホッケがその衝にある人です。無
利子、十年ということで五億ドル、まだ返すには五年ある。これは返しますが、そのかわりあと五年使えば生ずるであろう
利子は
利子分だけ引くということをがんばった。とにかくこれはむちゃといえばむちゃです。無
利子で借りておきながら、期限がこないうちに返すのだから、その
利子分に相当する部分は五億ドルから引いて返すのだということで、それでもめていた事情にあったのです。ことほどさように、一国の
経済を指導するとか、そういう衝にある人とすれば、やはり対外的にはそれほどのがめつさが必要なのだなと思ったのです。そういうことから
考えて、ドイツの、先ほど申し上げましたところの十四億一千六百万ドルというものは、
日本のあいまいもことした何が何だかわからぬような
勘定書ではなしに、この一事をもってしても完全に明確な
債務であったことは事実だと思うのです。そういうことで、なおかつ三分の一に負けさせたということですから、
日本の場合のずるずるべったりとは全然性格が違うということ。この構えが私は
日本にも必要だと思うのです。
国民の感覚としては、
ガリオア・エロアの
支払い額が高かったか安かったかより、
ガリオア・エロア債務が合理的な合意のものかどうかが問題なのでありまして、その点につきましては、すでに社会党は別の
委員会におきまして
政府を追及したわけです。ですから、単に表面だけドイツと同じように三分の一に削らせたんだから成功だというようなことも、その
債務を
産業投資特別会計から、
沿革的に
資金が
積み立てられておる
産業投資特別会計から払わなければならぬというような
考えを固執することも必要はないと思うのです。この事例に徴し、自主性を持って、はっきりとやっていく姿勢を
政府はとっていただきたい。少し駄弁を弄しましたが、今後の国政運営の上におきまして
政府の、特に
首相のかまえをこの際明確にしてほしいと思います。
これをもちまして、御所見をちょうだいして、私は
質問を終わりたいと存じます。