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有沢参考人 石炭調査団の
答申は、去る十三日、総理大臣に申し上げました。その概要をここで御説明申し上げたいと存じます。
石炭調査団は四月六日の閣議決定に従いまして設置されまして、
炭鉱業の
近代化、合理化及び
雇用の
実情調査を要請されたのであります。そして、今後の
石炭政策について
答申をするように求められたのであります。その際に、
池田総理大臣が炭労に、
石炭政策については
雇用の安定、国際収支、エネルギー供給の安全保障の三点を考慮することを約されたということもまた、本
調査団に伝えられましたところであります。
今日
エネルギー源として石油の優位は、もう
技術的にも経済的にも決定的であります。
石炭は石油との競争の面で、すべてのエネルギー消費の分野におきまして敗退しつつあり、
石炭に対する
需要は急速に減退しつつあります。いわゆる
エネルギー革命の
進行でありまして、これは世界的な現象であります。そういうさ中におきまして、
調査団は今後の
石炭政策を検討しなければならない立場にあったのであります。
ここで、
調査団の
調査の出発といたしましては、二つの道が
考えられます。
一つは、いわば超越的に望ましい
出炭高をまずきめて出発するという
考え方であります。他の
一つは、
需要動向を究明いたしまして、できる限り
需要をふやしていこう、こういう
考え方であります。前者すなわちいわば超越的に
出炭量をきめるという
考え方におきましては、いろいろ困難な問題があります。第一には、生産量をきめる根拠に決定的なものがなかなかないということ、またかりに一定の
出炭量をきめたといたしましても、その
出炭量を現実にしていくためには、それに対する
需要がなければなりません。
需要が足りない場合にはどうしても無理やりにも
需要をつくり出さなければなりません。そのために、経済性を無視したり、あるいは
技術的進歩に逆行するということも起こり得るわけであります。後者の場合は、すなわち
需要の分析から出発して、できるだけ多くの
需要を
拡大するという
考え方の場合は、これは現実的な
考え方で、経済性や
技術的進歩を考慮しながら、できるだけ多くの
需要をつけていこうという、いわば現実的な、そして国民経済に大きな
支障をもたらすことなくして進んでいける道であろうと
考えます。
調査団は、この二つの道の後者をとりました。すなわちまず
需要の動向からわれわれの
調査を進めていこう、こういう
考え方に立ったのであります。
さて、
需要の動向の分析に入るにあたりまして、私
ども現地調査をいたしましたとき、山の
人々から、安住して山とともに生きたい、こういう切実な
訴えを聞きました。この
訴えはまだわれわれの心の底に残っておる切実な声であります。従って
雇用の安定という場合におきまして、できるだけ多くの
炭鉱労務者を山で安定した
雇用を得させたいとわれわれも
考えたのであります。そのためには、
需要の動向を分析しながら、一そう多くの
需要をつけるように
考えようという
考え方に立ったのであります。
最初、私自身から申しますならば、電力に
相当の量を引き取ってもらえるとすれば、おそらく六千万トン程度の
出炭規模を実現することはできるのではなかろうかと実は
考えていたのであります。
石炭の
需要動向を
考えていきます場合には、むろん原料炭と一般炭とに分けて
考えなければなりません。原料炭の方はまずその
需要先が鉄鋼業とかガス、コークス業であるのでありますから、なかんずく鉄鋼業が最も大きな
需要先でありますので、これはわが国の経済の発展とともに鉄鋼業の生産もまた
拡大するのでありますから、従って、この鉄鋼業の
拡大とともに原料炭に対する
需要は
拡大するのであります。もっとも鉄鋼用の原料炭には強粘結と弱粘結の二つがありまして、強粘結の方はわが国におきましてはあまり生産されません。従って、鉄鋼業の必要とする弱粘結の方は、
国内炭はほとんど全部鉄鋼業に引き取ってもらえるとわれわれは
考えました。これにつきましても、鉄鋼業の方では、かなりコスト・アップになるのでありますから多少の難色があるようでありますけれ
ども、しかし、われわれの見地から申しますならば、やはり国内において生産される弱粘結炭はこれを全部鉄鋼業、ガス、コークス業において引き取っていただく、こういう
考え方をとったのであります。それでありますから、原料炭の方につきましては、
需要の伸び一ぱいに
国内炭をこれに振り向けるという
考え方に立ちました。ところで、原料炭はそうでありますけれ
ども、一般炭の方について
需要を分析してみますと、これが私
どもの予想しておりました以上に激しい
需要の減少を見ることが明らかになりました。三十六年度の、電力を除いたその他の産業においての一般炭の
需要というものは、大体二千八百万トン程度あったのでありますが、これがだんだん減って参りまして、
昭和四十二年度についてみますと、その半分千四百万トン、さらに四十五年度になりますと九百万トン、すなわち三分の一に減少するのであります。電力につきましては、むろん電力がその能力をますます
拡大して参りますから、もっと電力に一般炭を引き取ってもらうことが
考えられます。それがために、三十四年度の
石炭鉱業合理化計画におきましてもすでに、
昭和四十二年度に二千三百万トン引き取ってもらうという、いわゆる長期契約ができ上がっております。しかし、四十二年度二千三百万トンのラインで参りますと、今申しましたように、その他の産業における一般炭の
需要が著しい減少を見ますので、かりに今の電力の二千三百万トン・ベースを合わせて
考えてみましても、一般炭の
需要は、四十二年度で大体三千六、七百万トンという程度であります。それに原料炭の、先ほど申しましたような、
国内炭を優先にした供給をするといたしましても、なお五千万トンそこそこであります。それで、もっと電力の方に一般炭を引き取ってもらわなければならないとわれわれも
考えました。
そこで、われわれの方の
需要の分析の結果、電力には
昭和四十五年度に三千万トン引き取ってもらう、その
昭和四十五年度三千万トンのベースで申しますと、
昭和四十二年度には、従来の二千三百万トンのかわりに、二千五百五十万トンというラインが出て参ります。三十八年度について申しますならば、二千三百万トンのラインのときには、千八百万トンの
石炭を電力が
——これは九電力でありますが、九電力が引き取るということになりますが、それでは少な過ぎるのでありますから、ここでわれわれはさらに二百五十万トン上乗せをいたしまして、二千五十万トン炭を引き取ってもらう、それから漸次引き上げていただきまして、四十二年度は二千五百五十万トンの炭を引き取ってもらう、こういうふうに
考えたのであります。
この
考え方でございますが、電力は毎年々々
相当発電能力を増加しておるのでありますから、それにもっと多くの炭を食わせることもなるほど一般的には
考えられます。けれ
ども、九電力におきましては、すでに石油専焼の火力として着工しておるものもあります。あるいは敷地の選定が終わって、その計画がもう決定しておるものもあります。でありますから、四十二年度ごろまでに、
石炭を今申しました二千五百五十万トン以上、もっと食わせるということになりますと、そこに
技術的ないろいろの問題が起こって参ります。私
どもの
調査によりますと、この四十二年度ごろまでには、計画ができておりましても、その計画が多少決定的でないものにつきましては二、三
——三、四と言った方がいいかもしれませんが、三、四の
発電所を、従来の石油専焼から
石炭専焼の
発電所に変更をしていただきます。そのほかは石油の混焼率を減らす。現在は大体重油が四割程度混焼されておりますが、その混焼率をもっと引き下げてもらう、別の言葉で申しますならば、
石炭の方をもっと多くたいてもらう。この石油の混焼率を引き下げることによりまして、できるだけの炭を引き取ってもらうという
考え方になっております。三十八年度だけについて見ますと、先ほど申しましたように、三十八年度は、従来の千八百万トンにさらに二百五十万トン上乗せしていただきまして、二千五十万トンの
石炭を引き取ってもらうことに
考えておりますけれ
ども、三十八年度におきましては石油の混焼率をもっと引き下げることによりまして、もう二百万トン程度はふやすことが可能であります。しかしそれは三十八年度限りのことでございまして、三十九年度になりますと石油専焼の新鋭火力の
発電所が続々完成して参りまして、それがために従来の
石炭火力の石油の混焼率を一〇%
——これはもうぎりぎりのところでございますが、一〇%のところにまで引き下げましても、今申しましたように、三十八年度に二千五十万トンに上乗せする二百万トン程度を消費することができるというそういう
状態は、三十九年度においては現われてこないのであります。しいてそれを実行しようといたしますならば、石油専焼火力つまり新鋭の、熱効率が三八%以上もある、その熱効率の高い石油専焼火力のロードを落とす、こういうことなくしては、混焼率をぎりぎりのところまで低下させましても、もはや
石炭をそれ以上に引き取るという余地はないのであります。別の言葉で申しますならば、最も能率のいい、熱効率のいい
発電所を少し発電能力を人為的に落として、そして熱効率の悪い
発電所に
石炭を食わせる、こういういわば
技術の進歩に逆行したような手を打たなければ、
石炭をわれわれの
考えておる線以上に三十九年度以降にはふやすことができない、こういう結果になったのであります。四十二年度以降につきましては、
石炭専焼の火力を新しく打ち立てることによりまして、先ほど申しましたように、四十五年度には三千万トンという線をわれわれは
考えたのであります。御
承知の通り、
石炭と重油では発電コストに約二割から二割以上の較差があります。また
建設費につきましても、石油専焼火力の
建設費は
石炭火力の場合よりも、約二割あるいは二割五分程度も安く
建設かできるのであります。そういうわけでありますから、私
ども火力にもっと
石炭を食わしたいというふうにいろいろ検討をして参りましたけれ
ども、先ほど申しましたように、しいてやろうとすれば、経済性の面はむろんのことでありますが、
技術的進歩をはばむような
措置をあえてとらなければならないということがわかって参りましたので、われわれの
考えでは、ぎりぎりのところまで
石炭を食わせる、こういう限度一ぱいの
措置を
考えたわけでございます。
それから、大
へん長くなりまして恐縮でございますが、ここは重要なところだと思いましたのでやや詳しく
お話を申し上げたわけでございますが、電力のほかには、一般炭の
需要先といたしましてはセメントがあります。このセメントなんかも三十六年度には大体四百万トンばかり使っておるのでありますけれ
ども、これが四十五年度になりますと、ほとんど四十万トンばかりに減少する、十分の一以下になるというふうなひどい減り方であります。それから、もう
一つ大きな
暖厨房用炭でございますが、これはそう大きな減り方ではないですけれ
ども、何しろ大口の消費先でございますから、これが二割、三割減るだけでも
相当の
需要減になるわけでございます。そこで私
どもは、今申しましたように、火力それから鉄鋼、ガス、コークスのほかに、なお
需要の減少を食いとめると申しましょうか、緩和するために何かその他の産業における
需要の減少を阻止、といってもそう大きく阻止することはできませんけれ
ども、なるべくその減少を減らそう、何かそういう
措置はなかろうかといろいろ検討を加えましたが、結局セメントにつきましてはどうも適当な
措置がありません。しかしこれは
一つ政府において、行政指導その他によりまして、セメントの
石炭消費が十分の一以下に減るというふうなことでは困るから、もう少し減り方を食いとめるような
措置を
考えてもらおう。それからその他の
需要につきましても、重油ボイラー規制法、これは現に施行されておりまして、来年の十月には期限が来て失効することになっておりますが、このボイラー規制法の延長、もしくは重油の価格があまりに安過ぎますので、重油価格を引き上げるという
意味もあって重油に消費税をかける、こういう
措置も十分検討する必要があろう、そのことも
答申の中で、一般炭に対する
需要の減少を阻止する手段としてこういうことも
一つ十分政府において検討してもらいたいということを申し添えてあります。いずれにいたしましても、われわれは
需要の分析を
考えまして、いろいろできるだけの
需要の
拡大をはかってみましたけれ
ども、それぞれ
需要対策を講じた
あとの各産業の
需要の積み上げを合計してみますと、実トン数で五千七百万トンという数字になります。これは三十四年度の
合理化計画で五千万トンないし五千五百万トンといっておりましたときのカロリー・ベースに換算いたしてみますと、五千五百七十万トン、七十万トンというのは小さい数字でございますけれ
ども、きっちりと計算をしますと五千五百七十万トンというふうな数字になるのでございます。私が
最初大づかみに六千万トンくらいは出るだろうというふうに
考えておりましたのが、実は五千七百万トン程度にしかならない。三十四年度の
合理化計画のカロリ・ベースで申しますと五千五百七十万トンということになりまして、われわれは
需要の
拡大ということにずいぶんいろいろ知恵をしぼってみたつもりでありますけれ
ども、ついに
最初にばく然と
考えた六千万トン・ベースには達することができなかったのであります。
そういうわけでございますので、
需要の分析の結果、われわれは大体実トン数で五千七百万トン程度の
需要ならば
確保できるという確信を持っておりますが、それ以上の
需要になりますと、なかなか
確保する道がない、こういうことであります。
需要の規模が大体きまりますれば、
最初に申し上げましたように、われわれはその
需要の
確保のもとに
石炭産業を安定せしめる、こういうことになって参りますが、むろん
石炭産業が安定しなければ
雇用の安定も
考えられない。山に多くの人をかかえる、これは非常に望ましいことでありますから、
最初に
需要の点におきましてもその見地を十分取り入れて検討して参りましたけれ
ども、ただいまのような結果に終わったのであります。そうすれば、この
需要のもとにおいて
石炭産業を安定する。そのことがまた、山で働く
人々の職場を安定させることになる。こういうふうにわれわれは
考えざるを得なかったのであります。
ところでこの
需要の総量は五千七百万トンでございますけれ
ども、この間には
需要の構造は
相当大きな変化をしております。一口に申せば原料炭の方がふえ、一般炭の方が減る。一般炭の中におきましても、電力用炭がふえるのですから、あまり高カロリーの炭はふえなくて、比較的低いカロリー、平均でいえば五千四百カロリーでございますが、その程度の炭の生産
需要がふえる、こういうわけでございますので、従って
需要構造が非常に大きく変わる。
それともう
一つは、現在の
石炭産業におきましては、
企業はどの
企業もいずれもといっていいほど赤字を出しておるということであります。この赤字が単に景気変動に基づくところの赤字、つまり短期的な赤字であるということでありますれば、問題はあまりないのでありますが、そうではなくして、この赤字が産業構造の変化に基づくところの赤字であるということになりますと、この構造的な
企業の赤字というものは、そのままほうっておくわけには参りません。現在実質の赤字は大手で五百億、おそらく大手の借金は一千億をこえておると思います。これが構造的な赤字として現在
企業がしょっておるところの債務である、私
どもはこういうふうに
考えておるのでありますが、この構造的な赤字はなくなるようにしなければ、
石炭産業というものは安定しない。むろん、これを国の補助金でまかなっていくということも
考えられないわけではありません。しかし、構造的な赤字を国の補助金でまかなっていくということになりますれば、この
措置はいわば永久といっていいほど、いつまでも続けざるを得ないことになります。場合によりましては、構造の変化によりましては、さらに一そう大きな赤字の累積を国がめんどうを見ていくということにならざるを得ないのでありまして、これは産業本来の姿ではなかろうと私
どもは
考えました。
従って、一方では
需要構造の変化に基づいて
炭鉱の編成がえをしなければなりませんし、他方におきましては、こういう構造上の赤字が解消するような姿をわれわれは描かなければならないということになるのであります。つまり、産業として
石炭産業を安定させるためには、今の
需要構造の変化と対応するということと、この
石炭産業の持っておる構造上の赤字を解消する、この二つの問題を解決しなければ産業としての
石炭業の安定は
考えられない、こういうふうに私
どもは
考えたのであります。その結果、優秀
炭鉱につきましてはこれをビルドする、増強する、そして老朽で劣悪な
炭鉱につきましてはこれをスクラップする、こういうふうに
考えたのであります。これは一口に申しますならば、
石炭業を若返らせるということであります。この
石炭業の若返りあるいは
体質改善といいますか、そういうことなくしては、この
需要構造の変化に対処して、産業としての
石炭業を安定させることはできないし、また従って、その
石炭業で
雇用されている
人々の職場を
確保する、あるいは安定することはできないと私
どもは
考えたのであります。
そこでスクラップ・アンド・ビルドにつきまして、炭層であるとか炭量であるとか炭質であるとか、あるいは立地とかいうふうなものを基準といたしまして、いろいろ
調査を行ないました。これにつきましては
技術班の方に大
へん大きな努力をしていただいたわけでございますが、この
調査の結果といたしましてスクラップ、これは生産減少量ですが、生産減少量としまして千二百万トン程度、少し減るかもしれませんが、大体千二百万トン程度のスクラップが必要であり、同時に
需要が、先ほど申しましたように五千七百万トンでございますから、大体千二百万トンのスクラップに対しましては千二百万トンのビルド、増強ということが必要である、こういう結論であります。
そこで私
どもがこのスクラップ・アンド・ビルドを通じて描きました
石炭業の姿というものは、これは一応四十二年度でわれわれは
考えておりますが、あるいはそれが少しずれるということもありましょうが、一応四十二年度で私
どもが描きましたところの安定した
石炭産業の姿というものは、生産規模が先ほど来申しましたように、
需要とマッチした五千七百万トン、そのときの能率を計算してみますと、全国平均で、現在は二十六トンでございますが、それが三十八・六トン、それから在籍人員が十二万人台。在籍人員は、四月ごろといいますか、閣議決定されましたころには、たしか十九万六千人程度でありました。ところがこの九月末の
調査によりますと、十七万九千人ということになっております。いずれにしましても、私
どもが四十二年度ごろに描きました構想の中においては在籍人員が十二万台、十二万をこえておりますけれ
ども、そう大きくはこえませんで、大体十二万二、三千人というようなところでございます。そうして、
あとで申し述べますけれ
ども、
企業のスクラップ・アンド・ビルドに必要な
資金対策を全部間違いなく実施するということになりますれば、会社の経理も四十二年度ごろには全体としましては黒字になります。まだ赤字の
企業も若干は残りますけれ
ども、全体としては会社の経理も少しばかり黒字になる。しかしそれまでは会社は、現在も先ほど申しましたように実質赤字をかかえております。借金もたくさん持っておりますが、そういう赤字はなお累増して参りまして、ようやく四十二年度になりまして黒字になるわけです。そうでありますから、その黒字をもって四十二年度以降は今までの赤字を漸次返済していく、こういうことのできる
状態になるのであります。ですから、そこでいけば一応
石炭産業といたしましては、その後は今までのような構造的な赤字が累積するというふうなことはなくして、だんだん今まで累増した赤字を解消しながら、
雇用者の
雇用安定をはかり、さらにいえば
雇用者の
雇用条件を改善しながらやっていける段階になる、ようやくなったということであろうと思います。これが私
どもが
昭和四十二年度ごろに
石炭産業が若返って、自立をすると申しておる姿であります。そういう姿にようやく四十二年度に至ってなる。あるいはそれがその間における経済変動のいかんによりましてはまた延びるということもありますけれ
ども、四十二年度までの経過は一応除いて、毎年々々同じような形で
進行するというふうに
考えますならば、今申しましたように四十二年度ごろには私
どもの描いたような姿が実現できるであろう、こういうふうに
考えておるのであります。
そのように
考えますと、このスクラップ・アンド・ビルドというものがかなり大規模のものになります。そこで、この大規模なスクラップ・アンド・ビルドをうまくといいますか、計画的に円滑に推進していくのでなければ、これは大
へん大きな問題でありますので、ときには混乱を起こすことも
考えられます。そこでスクラップ・アンド・ビルドの実施の方式といいますか、実施をどういう制度に乗せてやっていくか、その方式が大
へん重要なことになるのであります。私
どもの
報告ではこの点かなり力を入れて
答申をしておるつもりでありますが、この実施の方式といたしまして私
どもが
考えましたのは、現在あります
石炭鉱業審議会を改組いたしまして、その機能というものをもっと
拡大する、そしてこの改組されました
石炭鉱業審議会に毎年毎年その年のスクラップ・アンド・ビルドの方針、どういう方針でことしはスクラップをし、ビルドをするかというその方針をかけます。それからスクラップ・アンド・ビルドの方針ばかりでなく、その毎年々々の地方別、炭田別のスクラップ・アンド・ビルドの計画、この炭田におきましてはこれだけの量のビルドをし、これだけの量のスクラップをするというスクラップ・アンド・ビルドの計画を、やはり
石炭鉱業審議会の方にかけます。それとあわせて、スクラップ・アンド・ビルドといえば、一方では終
閉山になる山もあります。また合理化による人員の整理ということもあるのでありますから、どうしても人員の整理が伴う。従ってそういう人員の整理に見合う
雇用計画があるかないか、これが大
へん重要なことでありますので、政府の策定する
雇用計画をもあわせてこの
石炭鉱業審議会に付議する。従って
石炭鉱業審議会では、いずれも政府原案でございますが、スクラップ・アンド・ビルドの方針、その年の方針と、それからその年の地方別、炭田別のスクラップ・アンド・ビルドの計画と、そしてその年の
雇用の計画、この三つが付議されることになるのであります。むろんこれは審議機関でありますから、付議されて、
意見を政府が徴するということになるのでありますが、その上で初めて政府のその年のスクラップ・アンド・ビルドの方針と計画が決定される、そしてこれが実施に移される、こういうふうに私
どもは
考えております。
ここでスクラップ・アンド・ビルドの計画とあわせて
雇用計画が提示され、あわせて検討されるということが、大
へん重要な
意味を持っておるのであります。スクラップ・アンド・ビルドを気ままといいましょうか、勝手にやられますと、それから出てくるところの整理人員はどこがこれを受けとめるか、受けとめる先がない、必ずしもきまってないのでありますが、今回の場合におきましては、その整理人員を受けとめるための
雇用計画というものがちゃんときまっておるということであります。そしてこの
雇用計画も、今申し上げましたように、政府が策定したものである。従って、政府も、策定した者としてその責務に当たっているということが言えるのであります。そしてこの
雇用計画には、
石炭企業自身が
石炭企業内あるいは
石炭企業の
関係会社につくり出すところの職場はむろんのことでありますが、さらにこの場合には、政府自身が造出するところの職場、これがかなり重要な
意味を持ってくると思います。政府がその責務につきまして熱心に、どうしてもこの場合はこれだけの職場をつくらなければならないけれ
ども、
石炭会社の方でも、また広域職業紹介でも、経済事情がどうもあまり思わしくない、にもかかわらずこれだけのスクラップ・アンド・ビルドをしなければならない、そして整理人員もこれだけ出るというような場合には、政府自身がその大きな部分を
自分が造出する職場で引き取る、これだけの覚悟を必要とすると思うのであります。
いずれにいたしましても、政府の策定するところの
雇用計画とスクラップ・アンド・ビルドの計画と、これが突き合わされて検討され付議されるということが、非常に重要な
意味を私は持っておると思います。この方式を見まして、ある人は、この方式は解雇制限を間接ながら行なう方式であるように思われるというふうに言っております。なるほどこの方式を制度として
考えてみますならば、そういうふうな面もあると言わざるを得ないと思います。むろんこの方式はスクラップ・アンド・ビルドを計画的に円滑に推進するための方式でありますけれ
ども、しかしその反面、それを裏返して申しますと、今申しましたような解雇制限をするといいますか、少なくとも自ままなスクラップ・アンド・ビルドができないということから申しますならば、それを制限をするという面もあるように思われます。そう申しても差しつかえがないかと思います。
それからもう
一つは、これは毎年毎年そういう計画を立てるということでもります。われわれは四十二年度にこういう姿を描いておるというふうに先ほど申しましたけれ
ども、四十二年度までの毎年々々の経済の変動というものは、必ずしもわれわれにとっては予測ができない。従って景気が非常にいい年であるとか、あるいは景気が悪い年であるとかいうふうな景気の変動その他の経済的な諸変動に応じまして、その年その年にスクラップ・アンド・ビルドの計画、それに見合う
雇用計画というものが立てられなければならないと思います。そうでなくて、何が何でも四十二年度には私
どもが描いておるところの姿にまっしぐらに到達するんだ、こういうふうな
考え方をとるのは、これは粗暴だと思います。一歩々々、毎年々々積み重ねをして、そうして私
どもが描いておるような
石炭鉱業の若返り、自立という形にまで進んでいく、こういうふうに
考えなければならないと思います。私
どもが描きましたのはそういう途中を飛ばした、というと少し言い過ぎでございますけれ
ども、途中の変動をネグレクトして描いたものであります。この間にはいろいろな起伏があるということは、むろん当然のことであります。その起伏に応じて適切なその年その年の計画を打ち立て、そして私
どもの描いたような
石炭鉱業の自立の姿にまで進んでいく、こういうふうに
考えていただきたいと思うのであります。
だいぶ時間をとりまして恐縮でございますが、一応スクラップ・アンド・ビルドの方式はそういうふうに
考えました。そうなりましても、やはり、山におきましては
相当数の安定した職場が得られますけれ
ども、他方におきましては、どうしても山で安定した
雇用を保持できない、
確保されない
人々が出てくるのであります。こういう
人々に対しましては、他の産業で安定した職場を
確保しなければなりません。これはその
離職者を出した
企業、そうして
石炭産業の若返りの大きな仕事を持っておる政府、この政府と
企業の責務であろうと思うのであります。
企業の方も、何もかも政府に
離職者対策はお預けだというふうな
考え方でなく、十分
自分自身でもできるだけ職場を開拓する、造出するということが必要でありますが、政府もまたそれを
企業にまかせたというふうに
考えるわけには参りません。政府自身も職場を造出する必要があります。そこで
離職者対策というものが重要な問題になってくるわけでありますが、この
離職者対策といたしましては、今申し上げましたように、政府の策定する
雇用計画に整理人員に見合う職場が計上されておるはずであります。そうでなければ、両者が見合わないわけであります。政府の造出する職場、
企業の造出する職場、そのほかに職業紹介、これは広域職業紹介を含める職業紹介によって他の産業における安定した職場を
確保する、こういうことを
考えておりますが、政府並びに
企業の造出する職場、ここはもう一方的に一義的にきまるわけですが、職業紹介による職場の
確保ということになりますと、これはなかなか一義的にはきまりません。求人者の方から申しますと、どうしても一定の所要の技能を備えている人がほしい、そういう技能を備えている人ならば、われわれは
炭鉱離職者を喜んで迎えたいというふうな求人者がたくさんおるのでありますが、
炭鉱離職者は離職の直後にはそれだけの技能を持っておらないことが多いのでありますから、従ってどうしても
離職者に対しましては、
職業訓練を十分実施しなければならなくなります。産業構造の変化によるところの
離職者が
発生した場合におきましては、これはどの国におきましても、ソ連といえ
ども、この
職業訓練を十分行なっておるのであります。職業の訓練、同時に新しい
技術の修得ということを伴うものであります。ですから
職業訓練につきましては、私
どもも十分いろいろ新しい構想、新しい体制を加えることによりまして、この制度を活用したいと
考えております。
石炭鉱業の
離職者に対しては手帳を交付いたしまして、そして
職業訓練制度を通じて十分な訓練を受け、広域職業紹介その他の紹介を通して新しい安定した職場の
確保ということに努めるつもりでおるわけであります。その際は、政府
関係の金融機関も、融資にあたりましては、この
炭鉱離職者を優先的に雇い入れるというふうな、条件とまでは言えないかもしれませんけれ
ども、勧奨するということも
考えております。しかしそれでもなお、場合によりましては、いろいろの事情で、
職業訓練は受けたけれ
ども、就職ができないという人もたまにはあろうかと思います。そういう
人々に対しましては、もっといい職場を見当てるまでの間、いわゆる就職促進
手当というものを提供しよう。失業保険は期間が一年でございますけれ
ども、この就職促進
手当というものは、その後二年間引き続いて、大体失業保険給付に見合う程度のものを支給する、こういうふうに
考えております。なおその他
離職者が就職しました後のいろいろのアフターケアということにつきましても、私
どもは考慮しなければならないというふうに
答申しておきました。要するにこの
離職者につきましては、一口に申しますならば、とことんまでその
離職者のめんどうをみよう、そして失対事業や特別失対事業に追いやるようなことは絶対にしない、こういう
考え方に立った
離職者対策であるのであります。
大体
離職者対策はその程度に話をとどめたいと思いますが、そのほか
企業の問題につきましては、
企業はどうしても合理化といいましょうか、
近代化、合理化の
建設資金、設備
資金というものを投入しなければなりませんし、他方におきましてはスクラップをするのでありますから、
相当巨額の整備
資金を供給しなければなりません。大体設備投資に千七百億円、整備
資金に八百億円程度のものが必要かと
考えられます。むろんこの全部が政府が支給するという
資金ではなくて、
企業は自己
資金をまず振り当てる、それから市中銀行から借り入れられるものは借り入れるというふうにこの
資金の調達をするのでありますけれ
ども、何と申しましても、今日の
石炭企業でありますから、そう大きく市中から借り入れるということもできますまい。そのためには
相当政府の
資金を投入しなければならないと
考えられます。そうでありますので、そういう会社に対しましては、大体
石炭産業が自立するまでの間、経理の規制と監督を政府から受ける
状態に会社を置いておくべきである。つまり臨時立法による会社の規制というふうな法律をつくって、それに基づくところの経理の規制と監督というものをやらなければならないだろうと
考えられます。
そのほかには、鉱区の
調整につきましても、われわれ
答申の中に指摘しておきました。これもなかなかむずかしい問題でございますけれ
ども、この鉱区の
調整を積極的に推し進めなければスクラップ・アンド・ビルドがうまくできないという問題点もあるように見受けられますので、この鉱区の
調整を積極的に行ない得るような態勢を整えるように
答申をしておきたい。
それから、
石炭の
流通機構は非常に古い機構でありますが、この
流通機構の改革につきましても、私
どもはかなり思い切った
措置を提案しておきました。一般炭、原料炭の
需要というものは、だんだん大口の
需要に集中するようになります。大体鉄鋼と電力というふうな二つのものに集中する。原料炭におきましては、もう弱粘結のほとんど全部といっていいものを鉄鋼が引き取る、一般炭におきましては、その八〇%を電力が引き取る、こういうふうな形になるのでありますから、この
流通機構の方ももっぱらそういう大口
需要に集中して供給ができるような
考え方をとることと、他方におきましては、暖厨房用の値段が、山元の値段と消費者の買取値段との間に非常に大きな開きがある、この点も十分考慮いたしまして、そんなに大きな開きのないような
状態に、
流通機構に改善を加えるということを
答申の中で申してあります。銘柄の整理であるとか、あるいは専用船を中心とした共同貯炭、共同荷役といったようなものもこの
答申で指摘してあります。
それから
最後に、
産炭地の
振興の問題でございます。この
産炭地の
振興という問題は、
石炭山の若返りと申しましょうか、山の安定、
石炭産業の安定、従ってまた
雇用の安定と同時に、重要な問題であります。
地元住民、
商工業者の生活の安定という問題並びに窮迫しておる
市町村財政に対する
対策の根本といたしましては、この
産炭地振興が最も重要な問題であると私
どもは
考えます。従って
産炭地振興につきましては、かなり力を入れた
答申をいたしたつもりであります。ただ
産炭地は、
地域々々によって事情が非常にいろいろと異っております。従ってここに具体的にこうだということを書き上げることは大
へんむずかしかったのでありますけれ
ども、何と申しましても筑豊、西
九州あたりの
産炭地は特に疲弊しておるようにわれわれは見受けましたので、この筑豊、西
九州地方における
産炭地の
振興についての
考え方というものを打ち出してあります。
一言で申しますならば、道路であるとか
工業用水であるとか、工業用地の造成であるとかいうふうな産業基盤を早く打ち立てるということはむろん必要なことでありますけれ
ども、そればかりでなく、私
どもはここにまず政府が率先して、政府または政府
関係機関の直轄工場を持っていったらどうか、これが
一つの大きな誘い水であろう、こういうふうに
考えております。また、ここに大きな機械工場を作るというふうな場合には、政府は極力
資金その他の面において援助する、助成するということも必要であろう、また、この
地域に民間工場としてたとえば縫製品をつくる工場があった場合には、なるべく国の
需要の一部をこの民間工場に
確保してやるようにするというふうなことも
考えてみるべきであろう。いろいろそういう面において
考え方を打ち出しておるのでありますが、これはしかし何と申しましても、
産炭地の
振興の場合におきましては、それを具体的に実現するということが最も重要なことであります。
同時に、
鉱害復旧の問題、これは
鉱害の
被害者の問題もむろん入りますが、しかし
産炭地の
振興ともつながっておる問題であります。従来
鉱害の復旧の問題はとかくおくれがちであって、いろいろむずかしい問題を引き起こしておるようでありますが、これにつきましても、迅速に
鉱害の復旧ができるように、そして、無資力の認定が行なわれた場合には全額国が補償するということになっておりますけれ
ども、無資力の判定に際しても、あまりこまかい規定でとやかくのことをいわないで、迅速にこれを認定するように持っていってもらいたいというふうに書いてありますのも、これは
被害者はむろんのことでありますが、
産炭地の
振興と結びついてわれわれは重要な問題と
考えたからであります。
大
へん長くなって恐縮でございましたが、要するに
石炭産業というものは、第一に、古い産業であって、そして非常に大きい産業である、それだけにこの
石炭問題として関連するところの問題が実に多
方面であって、ほとんど乱麻のように入り乱れておるということであります。私
どもの
答申が全部すみからすみまで行き届いていないという点も、むろんあると思います。こういうふうに非常に入り組んだ問題で、多
方面の問題を持っておるのでございますから、全部が全部の問題に行き渡らない面もあろうかと思いますけれ
ども、しかし趣旨は私
どもとらえてあるつもりであります。今日の段階におきましては、私は政府が英断と果敢な
措置をもって、てきぱきと処置していただきたいと存じます。そうでなければ、ついに
石炭問題あるいは
石炭産業自体が泥沼のような
状態に陥るおそれもあります。すでに倒産寸前の
企業もあります。
企業が倒産するということになりますと、ビルドすべき山もその巻き添えを食うというような、われわれから見ると、まことに悲惨な結果も引き起こしかねない
状態であるのであります。それで私自身といたしましては、早く
答申の線に沿いまして政府が英断をもって処置していただきたいと存ずる次第でございます。
大
へん長くなりまして申しわけありません。(拍手)
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