○中野
委員 そこでそれぞれ
関係当局にこの際お伺いをいたしたいのですが、先ほどから各
参考人の
意見を総合いたしますと、実際上に
中毒患者を持ち、あるいは
中毒患者を扱ってその体験から得た結論は、政府をあげてこれら
中毒患者に対して隔離をする
施設を持たなければだめだということと、それからもう
一つは、これを販売するところの俗にいうバイ人に対しては厳罰主義をもって臨む以外に、これらのものを根絶せしめる道は考えられないという
意見には全く同感であります。率直に申し上げて、一体
日本の
麻薬に対する政府の今日までの取り扱い方というものは、全く無知にひとしいような行為をとった、と申してはせっかくの
警察官や
麻薬取締官の御
努力に対して失礼ではあると思います。けれども、この実地を私は外国において見て参ってまず生産地であるビルマ、タイというような国の生産額と、それらのアヘンをもととするヘロインというような高価なしかも猛毒のある薬——この売る先は
日本とアメリカしかないのです。アメリカでは御承知のように注射器一本持っても罰則を受けるというようなさなかであって、
日本ではそういうようなことが全然等閑視されておりますか、従ってこの注射器をもっていわゆる麻酔
状態に入る。特にヘロインというようなものは世界のどこの国でも、
日本とアメリカしか利用していないのです。現地の方では、アヘンの吸引とかあるいはこれをもう少し俗化した
方法でいわゆる麻酔
状態に入っておるという国はあるが、しかしいずれの国といえども
麻薬の
災いというものは民族の興廃にかかわる問題であるというので、国法をもって厳罰にしております。アメリカにおいては大統領を首班とするところの
麻薬対策の
委員会ができております。後進国といわれるところのタイにおきしまても、サリット総理大臣が首班となって
麻薬中央対策
委員会というものができて、もし
麻薬に
関係してこれを販売し、あるいはこれを注射し、あるいは
自分みずからが薬を打っても、あるいは金を
麻薬のために使ったと目されただけでも、厳罰に処せられます。特に前年の九月には、タイ国におきましてはサリット総理大臣みずからが陣頭に立って、四人の
麻薬製造業者を逮捕して、憲法十七条のいわゆを戒厳令下でありますから、政府の命令に反する行動をとった者というので、三人の青年を懲役十年、その首犯の中
国人を即刻死刑ということで、その場で銃殺をしております。このくらいの強い意思表示をするということによって、初めて
麻薬の国といわれるようなタイにおいては、これはうっかり
麻薬をなぶると大へんだ、命にかかわるというので、それらのボスどもを中心とする
麻薬製造業者や
中毒患者は、
たちまち国境近くに逃げてしまったという例があるのです。現地の実情を見ますと、ビルマ、タイの北方の山岳地帯においては、麦や米をつくることができませんから、勢いあの辺では山間の谷間を利用してケシをたくさん密植いたします。これらのものの数量というものは、はかり知れないほど莫大なものであります。これが中心になって、タイ、ビルマ、あるいは香港、シンガポールという方面に運ばれて、ひそかにこれがヘロインに化けるわけです。先年逮捕されたものの
現状を見に参りましたが、十四キロというのですから貫目に直して四貫五百、約五貫目近いところのヘロインを
日本に向けて発送しようとした直前につかまったわけです。
日本で
麻薬取締官や
警察官の
方々が丹精して一生懸命
努力した結果逮捕した者の持っているものは、何グラム、何匁という九牛の一毛にも値しない
現状であります。シーンガポールあるいは香港に参りましてその経由の船あるいは飛行機等で運びますその仕かけの非常に大きな組織には驚くべきものがあるのであります。
しかし第一番に、これらのものを扱うことによってもうかるという考え方を、
日本の
国民あるいはそういうような販売業者に与えた場合には、これは先ほど
参考人の諸君からいろいろと御
心配になり苦慮していただいているような悲しい実情が、国の中に蔓延してくるのです。これを根絶せしめる道としては、第一番に国際的情報をはっきりつかむ必要がある。それから
取り締まりを厳重にする。しかしただ取り締まっただけではだめです。先ほど木下さんのおっしゃったようにつかまえても一年や二年の刑にしてはだめなんです。
保釈金を山ほど積んですぐ出てきて、すぐその場で商売になって、元を引いてまだもうかるという、こういう矛盾を放任しておくことは間違いであります。従って法体系を改める必要がある。しかし
麻薬取締法というものは単独立法なんですから、罰金五十万、懲役七年というようないわゆる
取り締まり罰則を持っておったのでは、このことは百年河清を待っても私はとうてい直らぬと思います。だから率直に言えば、世界的な情報をまず緊密につかむ
方法をとり、第二段階は厳重な
取り締まりを行ない、これによって逮捕された者は厳罰に処するということにする。単独法の中に死刑という前例がなければ、最高の無期刑くらいに持っていくのは当然だと思う。最低をもっと考えなければいかぬです。一年や二年や三年くらいの懲役だから元はとれるのだ、うまくやれば
保釈になって出てこられるのだ、執行猶予になるのだという考え方をこれらバイ人に与えることが、根本的な誤りだろうと思うのであります。
同時に先ほど
参考人の諸君から御
心配になっておりますように、
国民の中で不幸
中毒に陥った人々があるならば、国はこれらに対してどう処置するかといえば、
日本の国には全然ないじゃありませんか。大蔵省の岩尾君がおいでになりますが、先日
横浜に御同道願ってよく御存じの通りであります。町のまん中に蔓延して、法治国と称する
日本の国の中で、善良なる市民が町を歩くことができないというような無法地帯を現存せしめて、これらのものを処置することができない。処置をすることができない最大の
原因は何ぞやといえば、これらを隔離する国の
施設がないということに尽きるのです。わずか
精神病院の一部をば借りて、国がけちな補助金を与えて、これによって事なれりというような考え方は、根本的に誤りなんです。今日
日本じゅうのこの
麻薬禍を根絶せしめる唯一の道は、上は総理大臣からすべての行政にタッチする諸君と、われわれ
国民すべてのものが打って一丸となって——先ほどのどなたかの発言にあったじゃありませんか。七、八百億円ずつ毎年とられるなら、その七、八百億円を今年度にかけて完璧を期すというような決意がなければ、私はこの問題は解決せぬと思うのです。
後刻総理のかわりに官房長官も来られますでしょうから、政府みずからの決意も伺うつもりでありますが、これら
患者をば完全に隔離する
方法は、各国によって違います。しかしタイ国なんかの
方法と香港の
方法は、あるいはシンガポールの隔離の
方法は、
日本は学ぶべきところが多々あると思います。タイ国では、実際上の
麻薬患者をば収容する刑務所と、先ほど
中村八大君の言われましたように、みずからなおしたいという考えの方、あるいは
木下参考人の言われたような、お子さんを持って、
自分の
子供を罪にはしたくないけれども、何とかしてこの
中毒から解放してやりたいという親心を満たすために、別途にもう
一つ病院を持っております。みずからがなおしたいという人に対しては、親切なあたたかい思いやりを持って、
病院でもってなおしてやっておるのです。香港はもっと違うのです。香港は厳罰主義ですから、いやしくも
麻薬患者に対しては、二年から下のものは、今のタイラムの刑務所、また二年以上の徴役に処されたものは別の刑務所、女は女というふうに区別をいたしまして、完全な、医療刑務所という言葉は悪いかもしれませんが、医療刑務所であります。
同時に
中毒患者に対して憎しみを持つよりも、あたたかい思いやりを持って処置すべきものだと思いますことは、これらの国々の例を見て、私は痛切に感じたのです。それは刑務所の中で、
禁断症状が離れますと、一定の期間を置いて、これらの
患者に対しては、職業の補導を行なっております。小さい鉄工所をやる者もあります。あるいはミシンを使って裁縫する者もあります。あるいはこういういすをつくっておるところもありますし、機を織っておるところもあるというふうに、千差万別にわたって職業の補導をすると同時に、もう
一つその
中毒患者は、みずから犯した行為ですからやむを得ません。刑務所に入れますけれども、その家族というものは、それがために——いい家庭の者はよろしいのですが、大体低い家庭の者が多いのです。
中村君の言われたように一日一万円も六千円も払うということがとうてい困難な人々に対しては、その刑務所でできた品物を販売した金をもって、これら
中毒患者の困窮しておる家庭の家族の生活費に与えるというくらいまで親切な、いわゆる徹底した処置をとっておるところに、私は敬意を表したのであります。
恥ずかしながら、これらの例一々申し上げる時間もございませんけれども、一、二の者の例を申し上げただけでも、現在の
日本のやっておるいわゆる
麻薬対策などというものは、ちゃんちゃらおかしくて話にならぬじゃありませんか。政府側はどうしようというのでしょう。
私は
厚生省の方に伺いたいのですが、
厚生省は、この次の通常
国会には、少なくとも
麻薬条約の調印の結果によって、批准を求めなければならぬでありましょう。同時にまたこの
麻薬取締法の
改正を当然なさなければならぬと思いますが、先旧来かすかに伺っておりますあなた方の対策なんというものは、私が現地を見、また皆さん方の、実情をつぶさに身につけた
方々から見れば、こっけいにひとしい予算であります。私は、この際百尺竿頭一歩を進めて、厚生大臣は閣議にこのことを出して、そして
日本の政府としていかにすべきやという根本問題を
相談すると同時に、
厚生省は予算を遠慮することはない。先ほど申し上げたような七、八百億円を一ぺんに出すことはできぬかもしれないが、少なくともこれらの
施設をまず完璧を期し、
国民の中から
麻薬禍をばすっかり撲滅するという決意に燃えたれば——燃えなければ別ですよ。その意思があるなれば、この次の
国会に、一体どういうような仕組みで、どういうような予算を要求せんとするものか、この機会に明らかにしていただきたいと思うのでございます。