○竹内(壽)政府
委員 会計検査院から御
指摘を受けました、
職員の不正行為、それがひいて国に損害を与えました点につきまして、私
どもとしましては、まことに申しわけないことでございます。深くおわびを申し上げるのでございますが、おわびを申し上げますことにつきましては、この事件を機会に一そう
職員が締まっていくということの実績を上げる以外に、お答えを申し上げる
方法はないわけでございまして、鋭意改善に努めておる
状況でございます。
ただいま御
指摘のありました点、たくさんの点にわたっておりますが、いずれも私
どもの
考え及ぼさなければならぬ諸点でございまして、逐次右の問題点につきまして、私
どもの
考えておりますことを一応御
説明申し上げたいと思います。
まず、証拠品の仮出し、それから裁判所に提出をいたします場合の
事務でございますが、この事件の犯行の手口は、証拠品の仮出し手続と裁判所へ証拠品を提出する手続を悪用いたしまして犯したものでございますので、手続が一体どうなっておるのかということをまず御
説明申し上げたいと思います。
仮出しの手続でございますが、検察官が公判立ち会い準備のために、ぜひ証拠品を見ておかなければならぬという必要を生じました場合には、領置物倉庫に——これは検察庁にあるわけであります。この領置物倉庫というのは、地方に行きますと土蔵がそれでございまして、鉄筋コンクリートの建物でございますと、その中にさらに囲いをいたしまして、完全な施錠がしてあることになっております。そしてそのかぎは、領置物主任及びその補助者だけが持っておりまして、その者の承認がなければとびらはあかぬという建前になっておる。この領置物倉庫に保管してある証拠物を取り寄せようという場合でございますが、本件の発生当時におきましては、検察官みずからやる場合、または立ち会いの検察
事務官に命じまして、証拠品仮出票というのがございまして、これは三枚続きのものでございますが、それに仮出物品の品名を書きましたほかに、検察官が印を押した上で立ち会い
事務官がそれを領置課の方へ持って参りまして、仮出票を出して、それと引きかえに証拠品の仮出しを受けるわけであります。その際、領置係員は、仮出票の甲乙丙の三つのつながったものがありますが、その三片のうちの丙片、最後の一片をもらいまして、証拠物とともにもらうわけであります。
あとの甲乙は領置課の係員が保管しておる。そして丙片のみを立ち会い
事務官に交付することになっております。
そうしますと、検察
事務官の
手元において保管中の仮出証拠品について、今度は返す場合にはどうするかといいますと、現物を
事務官が領置課に持って参りまして、これに間違いないということを向こうの領置課の係員から確認を受けた上で返還するわけでありますが、その際に、領置課の方では甲乙の二片があります。で乙片を今度はそれと引きかえにもらい受けるわけであります。そして甲片は、領置課が依然として保存をしておるわけであります。そうすると、乙片をもらい、前にもらいました丙片と突き合わせてみまして、間違いないということになりますと、その両片を適宜廃棄する、こういう手続になっております。
そこで、検察官の
手元に仮出しておる期間でございます。が、これもまた非常に長くなりますと、その間に事故を起こすおそれがございますので、原則といたしましては、仮出しの期間は二カ月ということになっておりまして、さらに引き続いて仮出しをしておきたいという必要があります場合には、新規に証拠品仮出票を作って、すでに提出した仮出票と差しかえて更新する。単に口頭で更新するのじゃなくて、仮出票を新たに起こして、そうして前と同じような手続で仮出して継続する、こういうことになっております。
それから裁判所への証拠品の提出の手続でございますが、検察官が公判におきまして裁判所へ証拠品を出して、裁判所が証拠物として領置いたすのでございますが、その場合には、裁判所の書記官が、検察官に対して証拠物受領証というものを送ってくれることになっております。検察官はその受領証を受け取りますと、立ち会い
事務官をして検察庁の領置課に持っていって渡して、領置課員はこれを保管するばかりでなく、倉庫の台帳に裁判所提出済みということを表示して、その証拠物がどこにあるかということを明らかにするようになっております。これが証拠品の仮出し、裁判所への提出手続の全体でございます。
ところが、本件は、この手続を悪用いたしたわけであります。御
指摘のように、宮田は、証拠品仮出しの手続段階で、検事の印を盗用して文書偽造を犯しております。それから更新手続の段階で、同じく検事の印を偽造して行使しております。それから、これまた検事に無断で裁判所への提出手続の段階におきまして、裁判官の印章のある文書を悪用して文書偽造を犯しておる、こういうことになっておるのでございます。
そこで、出てくる問題は、検察官はそんな盗用されるような印鑑の保管の仕方をしておるのであるかどうかということ。それから、裁判官がどうしてたやすくそのようなにせの文書に判が押されるようなことになるのであろうかという疑問でございます。この点は、はなはだ奇怪ともいうべきでございますが、立ち会い
事務官といいますのは、検察官と一緒に終始行動をともにしておるわけでございまして、補佐官であります。いわば女房役と申しますか、そういう
関係でおるわけでございまして、検察官は大体机の引き出しの中にちゃんと自分の判は納めてあるわけでありますが、そこに入っていって机の引き出しをあけたり何かするようなことも、ほかの人がやれば別だが、
事務官がやるというような場合には、だれも怪しみませんし、検事も信頼しておったというようなところに原因があるようでございますが、そういうことで盗用されたようでございます。
それから、裁判官の判がどうして押されるようなことになったかという点につきましては、これは、詳しいことは私
どもの方でも明らかになし得ないのでございますが、検察官から証拠品として裁判所に出しますと、裁判所の書記官が裁判官の判のある受け取りをもらって、それを立ち会い
事務官の方に渡す。そうして、本来ならばそれを課に持っていってそれを見せて、先ほど申し上げたように、原票に裁判所に提出済みというように記入されるわけでございますが、裁判官がいないために、品物は受け取ったけれ
ども、受け取りがすぐ出ないというようなこともたびたびあるようでございまして、そういうような便宜のために、書記官が裁判官の判のすわった白紙委任状のようなものを——これまた裁判官が書記官を信頼してのことだと思うのでありますが、そういうようなものを出しておる場合もあるということでございます。そういうようなものをつまり悪用いたしまして——裁判官の判のすわっておる用紙を書記官から検察
事務官の方に渡してもらっておる、それが
手元にあるのを奇貨として、それに書き込んで出した。しかも検事を経由しないで直接領置課に持っていって、その検事の判は、先ほど申し上げたように盗用して押しておるのですから、領置課の方でも、これは検事が了承しておるものだということで取り扱いをしてしまったというような実情でございます。
それで、なぜ一年半にも長期間にわたってこのことが発見できなかったのであろうかという点でありますが、私
どもこの事件を見てみまして、一体このよう事件は——もちろん被告人宮田の悪い心情に発する行為でございますので、被告人自身の人事管理と申しますか、監督上の責任、また監督者の監督上の責任、これはもう否定しがたいのでございます。こういう手続のもとで、現にたくさんの事件が処理されておるわけでございますが、ほとんどそういう事故は起こっておらないわけでございますので、制度そのものを責めるよりも、まず宮田がなぜそういうような金を必要としたのであろうか、そしてまた、そういう悪い手段を、十年も検察庁に勤めておる者がなぜとったか、なぜこういう犯行を犯したであろうかということが、まわりのその監督者にいち早くわからなかったであろうかというような疑問もここに起こってくるのでありますが、同時に、一年半もそうやられておって気がつかないでいるという制度上の問題もありはしないかというような点も、種々検討をしてみたわけでございます。
そこで、私
どもの
考えを今申し上げますと、この被告人の宮田は、非常な乱脈な私生活をしておったようでございまして、監督者が私生活の乱脈さに気づいておれば、犯行があったないは別としまして、その面から十分気を配ることもできたんであろうと思うのでございますが、これが事件になってから、実はこうだったというようなことが
あとからわかってくるというような始末で、まことに申しわけないことになっておるのでございます。
仮出しの手続につきましては、これは
昭和二十八年に証拠品
事務規程というものを法務大臣の訓令で出しておりまして、そして今の三片を使ってやるというようなことも、その後の改正でその点を明らかにしておりますが、それでは、その判を押してやる渡し方、その他のこまかい点につきましては、各庁それぞれ事情がありますので、検事正の訓令にまかしておるのでございます。先ほど私が御
説明しましたのは、この事件の発生当時に行なわれておりました東京地検の検事正の訓令に基づく証拠品仮出
事務取扱要領というのによって御
説明したわけなんでございますが、その後やはり仮出し手続について、今の甲片、乙片、丙片を使ってやるあの手続が、現金その他貴重品と花札、マージャンパイのようなものと同じような票で扱っておるというところに、取り扱い上やや
注意を向けるのに足りない点が起こってくるのだろうということが
考えられまして、証拠品を特別証拠品と普通証拠品に分けまして、貴重品のようなものは特別証拠品として、伝票の三枚つづりが赤いインクで印刷したものであり、その他のものは緑のインクで印刷した三片の票を使うということに、そういう用紙に変えましたほかに、仮出し期間の二カ月というのが長過ぎるということで、これを五日ということにいたしました。
それから、更新も、今までは更新という形で認めたのでございますが、更新を認めないことにしまして、すべて期間が経過いたしましたならば、現品を添えて領置課へ返してくる、そうして、さらに必要がある場合には、新規の仮出し手続を踏ませて——更新ということでなくて新規の仮出し手続を踏ませてやる、そして五日間たてばまた返すという形を、特別証拠品についてはとるということにいたしました。
それからまた、裁判所との問題点も、先ほど申したようにございますので、裁判所とも協議をいたしまして、証拠品を裁判所に提出した場合におきましても、これは一カ月ごとに裁判所と検察庁の領置課との間で、証拠品があるかないかということを、書類は上げてあることになっておるが、もらっておるかどうかということを相互に突合確認しよう、こういうことに申し合わせができて、そのように
実施をいたしておるのでございます。
それからまた、検察官の印が盗印されておるという点につきまして、この保管
方法でございますが、検察官の印はずっと登録印といたしまして検事正に印形を届けて、官印はもちろんでございますが、各検事の認め印も登録印をさせておるわけでございますけれ
ども、幾ら登録をいたしましても、机の引き出しがら使われるものを防ぐことはできませんので、さらにこの点の取り扱い方について、厳重な保管
方法を講ずることにいたしたのでございます。
それから、今の判を押すという手続があります。検察官の認印が要るという手続があるのですが、これを検察官が
事務官まかせにしておった点もあるのではないか。どうしてもこれは、検察官が判を押す際に、ただ形式的に判を押すというのじゃなくて、品物が出た、渡したということを確認した上で判を押すということを励行するようにいたしまして、その趣旨の要領の改正をさせたわけでございます。
一方、本省としましては、大体証拠品を長期にわたって検察庁に保管をしておるということは、将来また控訴審において、あるいはまた最高裁の裁判において、必要があろうというようなところから保管をするのでございますけれ
ども、これもある
程度見通しを立てまして、保管の証拠品の判別を検察官みずからして、そうして不要なものはできるだけ早く返せという趣旨で、この趣旨の通牒を私の名前で出しておるような次第でございます。
それぞれその手続を新たにいたしたわけでございますが、先ほどおっしゃいました
通り、これには本人の責任はもちろんのこと、
関係者の監督責任も重大でございますので、まず本人につきましては、三十六年七月二十七日付で国家公務員法の
規定によって懲戒処分として免職処分になりましたことは当然でございますが、さらに同年七月二十八日、公文書偽造行使、詐欺によりまして身柄は拘束のまま東京地方裁判所に起訴され、同年八月十二日、さらに追起訴をいたしまして審理を続けておったのでございますが、過般判決がございまして、懲役五年ということになりました。
執行猶予はついておりません。実刑でございます。本人は不服で、ただいま控訴中でございますので、事件は東京高裁に目下係属中、こういうことになっております。
それから、被害につきましては、先ほどおっしゃいました
通り、国の弁償金から弁償しなければならぬ筋合いでございますけれ
ども、さらに本人から追及することもこれまた法の命ずるところでございまして、本人からさらに弁償させるということになっておりまして、大体の見通しでございますけれ
ども、
昭和四十一年から四十七年までの間に完了させるということで、近く和解手続によってその問題を解決する予定にいたしております。
さらに、監督責任といたしましては、本年二月二十三日に、当時の検事正、現在広島高等検察庁検事長野村佐太男、現在最高検の検事であります当時の次席検事岡嵜格、公判部長横井大三、同副部長岡崎悟郎、公判部検事で印鑑を盗用された者であり、かつ監督責任者であった金丸歓雄、平井清作検事、高田秀穂検事、鹿道正和検事、それから公判部の
事務課長市瀬恒尾
事務官に対しましては、それぞれ一カ月百分の三ないし一の減俸処分に付しました。処分の
理由は、申すまでもなく国家公務員法上、職務上の義務に違反し、または職務を怠った場合というのに該当するものでありまして、特に
事務課長の市瀬恒尾
事務官につきましては、仮出し証拠品の保管及び処理につきまして、特に検事正訓令に付加して次席検事から詳細な
注意が書面によってなされておったにかかわらず、その趣旨徹底を欠いたというような点も責任を問われておる次第でございます。
さらにまた、検察官と検察
事務官との間におきまして——非常に大ぜいおります。現に公判部だけで部長検事以下四十数名、検察
事務官だけで五十数名という多数の者がおりまして、これを検事が
事務官の私生活にまでわたって知悉するということは、なかなか困難でございますけれ
ども、
事務課長という立場の者は、同じ同僚、部下でありすし、かなり金銭上の——月給の前借りとかなんとかいうようなことも、ある
程度はわかる
状況でございますので、そういうような点があったならば、上司にも話して、こういう事故の起こる前に十分意を尽くして手当をしていくというようなことも、今後さらに人事管理というような面から
考えて意を尽くして参りたいというようなことで、申しわけない事故を起こしましたことの跡始末といたしまして、そういうことを
考えて
事務改善に鋭意努力をいたしておる
状況でございます。
ごくあらましでございますが……。