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中村順造君 私は、去る五月の三日、
国鉄常磐線三
河島駅ににおける
国鉄事故に対しまして、
日本社会党を代表して
政府に
質問をいたすものでありますが、
質問に先だちまして、この
事故により遭難された
犠牲者の霊に心から
哀悼の意を表すとともに、御
遺族に対し深くお悔やみを申し上げ、また、
負傷された
方々の一日も早く御回復されることをお祈りいたす次第であります。
およそ、物事を結果から見て
批判をし、その
責任を追及することは、情においてはまことに忍びないものがあるのであります。しかし、この際は、一私情の問題でなく、
事態は
国鉄輸送の
使命に関する問題であり、しかも、一刻を争う急を要する問題でありますので、私はこの際、この
質問を通じまして、
国民の総意にかわり、
政府及び
国鉄当局の
無策無能、怠慢について、その
責任を追及するとともに、厳重に抗議をし、
警告を発するものであります。
そこで、
総理に
お尋ねをいたしますが、本来、
国鉄の
使命は、国の
産業経済発展の
動脈的役割を果たすとともに、その運送に関しましては、安全、正確、迅速でなければならぬことは、今さら申すまでもないことであります。最近の
国鉄経営方針は、一方で
公共性による
経営上の負担をしいられ、一方では
企業からくる
採算性の強調という、本来両立し得ない二つの
条件の調和に苦しみ、ついに、その第一
要件であり、かつ、必要欠くべからざる安全正確の
要件を無視して、いたずらに外観を整えることにきゅうきゅうとして、その能力の限界を越えた
スピード・
アップ、すなわち、迅速にのみとらわれた結果が、
本件重大事故の遠因と思われますが、この点、
国鉄が
公共企業体として
独立採算を強調される
政府の方策に、
本件事故によって立証されたように、重大な欠陥と
責任があると考えられますが、これについて
総理のお答えを願います。
さらに続けて
総理に
お尋ねをいたしますが、
日本国有鉄道は、
法律の定めるところによりまして、
理事会、
監査委員会等の
機関を持ち、
総裁の任命を
内閣が行ない、
運輸大臣の
監督下に
運営されておるのでありますが、
国鉄の
現状は、
うちに汚職容疑の続発を見、
経営の
近代化、合理化をめぐり、いたずらに
労使の対立を激化し、さらに重大運転
事故の続発といった状態にありますが、もし機構上問題がないという前提に立ちますならば、
運輸大臣の
監督下にあるとは言いながら、
国鉄総裁であると同時に
理事会の会長である
総裁の
理事会運営の点、さらに
運輸大臣が任命をいたします監査委員で構成をする監査委員会の人選、留任期間等、あまりにも慢性化し、
責任体制の確立の面から、
国鉄の
経営、
運営の面に十分検討を加えるべきであると思いますが、
総理のお答えを願います。
次に、
運輸大臣に
お尋ねをいたします。あなたも御
承知のごとく、私は、本院
運輸委員会におきまして、今日この
事態のあることを憂慮して、しばしば
国鉄経営上のことについて、
政府並びに
国鉄当局に
意見を申し上げ、その改善を要求してきたところであります。
国鉄首脳部は、
国会におけるこうした建設的な
意見を無視し、常に一方的合理化による人減らし、低賃金、長時間労働を押しつけ、もっぱら
国鉄経営の合理化は画一的労働生産性向上の一つ覚えに終始し、いたずらに
労使の相剋を増すといった、きわめて無為無策の中で、不幸今日の
事態を招いたのでありますが、一体この
責任はだれが負うのでありますか。
国鉄総裁は、その就任にあたって、レールをまくらに討ち死にの覚悟と言われたそうでありますが、ほんとうにレールをまくらに死についたのは、かつての参宮線
事故における四十数名のいたいけな修学旅行中の高校生であり、さらには本件百六十名に及ぶ善良な
国民でありました。また、その間にもございました大小幾つかの尊い
犠牲者であったのであります。私は、かつての参宮線
事故といい、また、
本件事故といい、いずれもが
国鉄の
現場職員の過失であることは否定いたしません。決して天災ではございません。しかし、
国鉄の
現場に働く
個々の
職員は、その過失を再び繰り返しておらないのであります。また、繰り返してはならないのであります。さらに、それがたとい業務上の過失であっても、現行刑法に基づきまして厳重な処断をされますし、また、されておるのであります。しかるに、
国鉄首脳部は、運転
事故にいたしましても、汚職にしても、同じ誤りを二度も三度も繰り返しておるのでありますが、かりに、刑法上の
責任はないといたしましても、道義上の
責任は当然考えられるのでありますが、この点についてのお答えを願います。
さらに
お尋ねをいたしますが、
重大事故発生の
原因の究明と
対策の問題であります。私は昨日、三
河島の現地
調査に参りましたが、私の知り得た範囲では、
本件事故は、かつて
昭和三十一年、参宮線六軒駅に
発生したあの悲惨な
事故と、あまりにも全く同じ
条件下に起こったことを知って、驚いたのであります。第一、
列車の遅延によりダイヤが正常でなかった点、第二は、
機関士に
信号誤認の容疑が持たれた点、第三に、安全側線に突入をし、
本線を支障した点、第四に、
本線を支障した車両に対向
列車すなわち反対側から来た
列車が
衝突し、
重大事故に発展をした点、第五に、反対側から進行して来る
列車に対する
停止手配のしてなかった点、以上あげました五つの点について、汽車と
電車の相違はありますが、その他は完全に
条件が一致いたしておるのであります。あのときも
国鉄総裁は現地を訪問をされ、声涙下る慰問をされましたし、今回もまた現地で遭難遺家族に声涙下るあいさつをされました。
総裁の心情まことにお察しするものがありますが、近代科学は、残念ながら、
人間の感情や誠意で左右されるほど甘いものではないのであります。
機関士の
信号誤認といえば、あるいはダイヤが乱れたからといえば、当面の
責任回避にはなったかもしれません。しかし、さらに、なぜ一歩進めて、明治三十四年に制定をされ、大正末期の実情に合わせて考えられた安全側線が、現代の
列車速度、
列車密度にいかなる結果を及ぼすかを考えられなかったのでありますか。すでに大所高所よりいたしますれば、参宮線
事故の尊い経験を有しておるのでありますから、その際、抜本的に
事故の
原因が究明をされ、その
対策や
措置が講ぜられておったなら、少なくとも全く同じケースの
本件事故は起こらなかったのであります。それを、
機関士の
信号誤認、
信号取り扱いの不的確などと、部下
職員に一切の
責任を転嫁し、裁判所に
重大事故真相の究明を今なお依存しておりますが、裁判所は、科学者でも技術者でもありません。こうした多くの犠牲を伴った
重大事故について、真相究明と抜本的
対策を、
日本国有鉄道がそのすぐれた科学陣をあげて行なったことを、
国民は全然聞いたこともないのであります。なおかつ、私の
調査によりますと、こうした
本線と並行した安全側線、すなわち、その立地
条件からする
重大事故発生の
原因ともなる状態が全国至るところにあります。東鉄管内のきわめて
列車密度の高い
線区におきましても、現在五十数カ所あると聞き、これに対する何らの
処置も手配もなく、ただ一片の
人間の注意力にたよる以外にないことを、私は怠慢と指摘したいのであります。(
拍手)
経営者として、
管理者として再び誤りを繰り返したと指摘したことは、こうした
重大事故発生の経験を生かし、その真相を究明することなく、漫然と一片の
事故警報を発し、みずからの
責任を回避し、部下の
職員にその
責任を転嫁するその卑劣さを指摘したのであります。
そこで、
斎藤運輸大臣に
質問点を明確にいたしますが、新聞の報ずるところによりますと、大臣は、四日、「
事故の
原因は
従業員の重大な過失であることは明白だ。現象面だけでなく、不十分な
管理体制の
あり方も追及する。」との談話を発表されたとのことでありますが、
従業員とは、この際、
現場職員のみをさすのか、あるいは
国鉄首脳部の役員を含むのか、さらに、不十分な
管理体制とは何を指摘されているのか、
お尋ねをいたします。
さらに続けて
お尋ねいたしますが、吾孫子
国鉄副
総裁は、大臣の命令された
日本国有鉄道監査委員会に対する特別監査により、査問委員会が設置されることを言明いたしておりますが、このような
措置は、私が先ほど来述べました三十一年の参宮線
事故にもとられたそうであります。前例があります。結果的に見て、何らの効果も成果もあがっておらないのであります。再び同種の
事故が起こった事実からも、このことは立証されるわけでありますが、何ら期待の持てないものを、あえてそのことを命令された根拠はどこにあるか、お伺いをいたしたいと思うのであります。さらに、このことについて、当時の特別監査、または査問委員会の答申内容の適否、あるいは
国鉄当局の答申に対する
態度等はどのようなものであったか、あわせてお答えを願います。
次に、植木法務大臣に
お尋ねをいたしますが、検察
当局は、本件のような
重大事故に限らず、少なくとも業務上過失刑事
事件の容疑者に対しましては、間髪を入れず、逮捕、拘留、起訴、こういう
措置をとられておるのでありますが、公判になりましてからは裁判は遅々として進まず、たとえば参宮線
事故のごとく、五年の年月を経過して、今なお一審の判決も出されない状態にありますが、このことは、本人の精神的苦痛もさることながら、
重大事故の真相究明と
責任回避といった面から、重大な支障を来たしておることは、申し上げるまでもないことであります。現実の問題として、こうした特殊な科学的、技術的解明を要する裁判につきましては、裁判の公正とその
スピード化のために、特別の配慮が必要と思われるのでありますが、この点についてのお答えを願います。
最後に、
総理並びに
運輸大臣に
お尋ねをいたしますが、今回の不祥
事故によって遭難された
方々の御
遺族並びに
負傷された
方々への補償の問題であります。あるいは一家の柱石を失なわれ、あるいは最愛の夫を、妻を、子を、その実情については千差万別、内容は異なることと思いますが、そのいずれも、瞬時にして悲しみのどん底に落とされたことを考えるとき、
国鉄を利用する
国民の側から見ますと、深い悲しみと激しい憤りをさえ感ずるのであります。とうていこのことは物質によって償い得るものでないことは明らかでありますが、この際、
政府及び
国鉄当局は、そのすべてをあげて、誠心誠意、これらの
方々に万全の
措置をとるべきであると考えますが、これに対する考え方をお答えを願いたいと思います。
以上で私の
質問を終わりますが、要するに、急速に進歩発展を遂げる近代文明の中で、いたずらに限りある
人間の能力の限界を過信することなく、近代科学に即応した科学的
列車保安の
設備を
増強し、
国鉄本来の
使命達成に励むとともに、忠実に、その安全、正確、迅速の大前提に立ち、謙虚にそれぞれの職責を自覚し、
国鉄四十数万の
職員がおのれの職責に熱意と誇りを持てる体制をすみやかに確立し、
本件事故を契機に、
国民の
国鉄として、
国民の負託にこたえ得る
国鉄たらしめることこそ、今は亡き尊い
犠牲者の霊に報いるただ一つの道であることを銘記し、
政府及び
国鉄当局、さらに各
関係者の一段の奮起を強く望んで、私の代表
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕