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仲原善一君 ただいま問題となっておりまする
年次報告と
農業施策に対し、自由民主党を代表して、
政府に質問し、
内閣総理大臣及び
農林大臣の
所見を承りたいと存じます。
もっとも、
現行の
農基法は、その裏づけとなる
関連法律がわずかに二、三成立した程度にとどまって、その多くは今後に残されたままの現状でございます。この
段階で、この
報告をもとに
農基法の功罪を論ずるのは、いささか早計であるとは思われるのでありまするけれども、
農基法もいよいよ
本格的実施の
段階に入り、また、
本法制定当時はいまだ関心の薄かった
欧州共同市場の著しい
発展や、
アジア経済協力機構の新しい問題など、
国際情勢も急変しつつありますので、国内の
農業体制もすみやかに
整備強化する必要に迫られる状況でございます。かような重要な時局に当面いたしまして、私は、
政府に対しては、
農基法の執行を通じ
農政の成果を十分にあげられることを期待し、また
関係方面に対してはその
協力をお願いするため、あえて質問を行なわんとするものでございます。
第一は、この
報告書の内容についてでございます。
農基法によりますと、まず、
年次報告において
農業の
動向が究明され、その論理的な帰着として、
農業に関して講じた
施策を評価し、その
反省の上に立って今後講じようとする
施策が述べられなければならないと存じます。しかるに、今回の
報告においては、第一部の
農業の
動向と第二部の講じた
農業施策との関連について、論理的なつながりが稀薄で、平面的な説明に終始したうらみがございます。今後
報告を価値あるものとするためには、過去の
政策を謙虚に
反省評価し、
動向と
施策の因果
関係を明らかにして、今後の
対策を確立する態度が望ましいと思います。
たとえば、
報告書は、
わが国の
経済の高度な
成長のもとで
農業も一段と
発展を遂げたが、しかし、他
産業との
生産性の開差はかえって拡大し、
農業従事者と他
産業従事者との
生活水準の
開きも縮小するに至っていないことを指摘し、その原因は、他
産業の
成長があまりにも急速であったため、
農業がそれに歩調を合わせられなかったことによるものであるとし、その
背景には、
農業資本装備の
相対的低下、
農業と他
産業間の
労働力移動の不円滑、
農産物需要の
高度化に対する
農業生産の
適応体制のおくれなどの阻害
条件をあげておるのであります。しかし、この阻害
条件をどうすれば排除できるのか、
施策としては、この所得と
生活水準の開差をどのようにして是正するのか、理論的に解明されていないように受け取られるのでございます。
しかも、
農基法はその第二条において、国は、
農業構造の
改善を初め、広く農村における交通、衛生、文化等の環境の
整備、
農業従事者の福祉増進等の
施策を総合的に講じなければならないことを
規定しております。このためには、農林当局ばかりでなく、財政、通産、労働、厚生、建設、運輸、文部、郵政、その他各当局が連絡協調して、これを総合的に実施しなければならない義務があると思うのでございます、
農政審議会が総理府に設置されたゆえんもここにあるはずでございます。しかるに、
施策を見ますると、農林省の
施策の解説にすぎないのでありまして、他省において実施しなければならない幾多の
政策についてはほとんど述べられることなく、
内閣の責任がまことにあいまいになっておるのでございます。
私は、ここで、労作であるこの
報告書に対しまして敬意を表するものではございますが、この際、
農基法を誠実に執行するについて、
内閣の首班たる
内閣総理大臣に対し、
国際経済の
動向と
日本経済のあり方をいかに認識され、そのうちにおいて
日本の
農業をいかに位置づけされるのか、そうして
農基法の成果を完璧ならしめるためにいかなる決意と態度をもってこれが執行に当たられようとするのかについて、特にまた重要な
農業教育問題についても、文部大臣御不在でございますので、この問題も含めて御答弁をわずらわしたいと存じます。
次に、今回の
報告書を起草するにあたって
関係各省と十分協議されたかどうかについて、
農林大臣の御答弁を願います。また、協議を受けられたとすれば、
関係各省はそれぞれの立場においていかに対処されたか、そしてまた、今後いかに積極的に
協力される所存なのか、その辺の事情についても、所管大臣がお見えになっていないので、
農林大臣から御答弁をいただきたいと思います。
第二に、最近の
国際経済情勢と
日本農業との
関係、特に
貿易の
自由化に関する点についてお伺いいたします。
私は、昨年、本院から、、ジュネーブで開催されました列国議会同盟春季
会議に派遣されまして、
経済社会
委員会に属し出席したのでありますが、その際、
経済共同体のとる
政策が世界
貿易にいかなる
影響を及ぼすか、ということが重大な
議題の
一つでありました。この問題につき、
委員会といたしましては、その申し合わせには、一般的には、関税の障壁の撤廃であるとか、国内消費税の軽減がありましたけれども、事、農産物に関しては例外であることを認め、各国の
農業保護
政策をしばらく温存することに意見の一致を見たのでございます。各国の
農業生産方式の伝統なり秩序なり特殊性を一度に混乱に陥らしめない意図からでございました。
農基法第十三条も、この国際世論の
趣旨に沿うものであると私は考えております。しかるに、本年に入って、
欧州共同市場は第二
段階に移行し、
農業政策についてもフランスと西ドイツとの間の対立が解消し、欧州自由
貿易連合の指導的立場にあった英国の加入もその実現が伝えられております。かくして、欧州
経済統合の強化に伴って、対日
貿易の
制限緩和も
関係者の関心を引くに至り、ここに
わが国農業への
影響も問題となっております、また一方、
アジア経済協力機構の設立が
日程に上っており、アジア
諸国間の
貿易の拡大が議論され、これまた
わが国農業の重大関心事たらざるを得ないのであります。これらの諸情勢は、基
本法制定当時から見ますれば、そのきびしさをいよいよ鋭くして、現実の問題としてのいろいろな問題が展開されつつあるのでございます。
思うに、
農基法は、対内的には、
日本農業をして他の
産業と均衡のとれた
成長を所期するものでありますが、対外的には、
貿易の
自由化に対処して国際競争力を高め、
貿易自由化に耐え、
国際経済に参加することができる体力を養うためのものであると考えます。しかるに、一方、
農基法は、アメリカ帝国主義の手先となって、
日本の独占
資本家たちが
貿易自由化を通じて農民を搾取するための
法律であると、驚くべき悪意に満ちた宣伝をする政党員もございます。中には、これに迷わされる善良な農民もある現状でございます。
農林大臣は、この際、正確な
国際経済の判断のもとに、
貿易自由化と
農業保護との調和ある
対策を用意され、確固たる信念のもとに誤解の一掃に
努力さるべきであると思いますが、
所見はいかがでございますか。
第三に、
構造改善事業についてでございます。
農基法は、
農業構造改善事業を重要な課題として取り上げていますが、これが実現のためには、
経営規模の拡大と近代化をねらいとし、一方、自立経世の育成と、他方、協業の助長をはからねばなりません。さて、
報告の中には、
農業構造改善事業推進に関連する幾多の
事項が含まれておりますが、その
一つに、
農業経営規模構成の変化がございます。すなわち、一町歩以上の
農家の
増加と、一町歩以下の
農家の減少という事実でありまして、特に五反と一町との間の中間階層が減少し、一町以上の層の自立
農家と、一方、三反程度のもっぱら賃金収入を
中心とする第二種兼業
農家への階層に分化しつつあることであります。
農家の所得も
生活水準も、この
経営規模に照応していることが明らかにされています。そこで、
農林大臣は、この中間階層分化の事実を、どのように把握されて、
構造改善事業に寄与せしめようとされておるのか、お伺いいたしたいのであります。
これらの問題の中には、農地
制度上重要な課題も含まれていることになります。たとえば、農地を細分化する要因である均分相続制についても、
農業基本法第十六条のような微温的条項では不十分でございまして、もっと抜本的なメスを入れねばならぬと考えまするし、
農地法を
改正して、農地の信託
制度も積極的に活用することが必要であるとも考えまするし、また、
農業法人の法的基盤を
整備することも必要でありましょう。
次に、協業に関する
動向報告によれば、全国でわずか三千四百ケースがあげられておりまして、そのうち全面協業は一割にも満たぬ二百六十九ケースにすぎません状態であります。合理的でしかも利益のあがる協業については、さらに一段の助成に
努力されるべきでありましょうが、しかし、協業化はどこまでも
農家の積極的意欲を基礎とすべきものでありまして、単なるイデオロギーの幻影にまどわされることなく、行き過ぎがあってはなりません。この協業化の問題は、取り扱いいかんによっては、直ちに
農政の根幹である農地
制度にも関連し、ひいては、広く社会
制度、
経済体制、政治体制に波及する問題であります。たとえばソ連の集団農場、中共の人民公社農地が、共産主義の基礎であるごとく、また、かつてナチス・ドイツ政権が、民族と土地の結びつきをスローガンとして採用した農地の一子相続制、いわゆる世襲農地制が、全体主義の背骨であったように、直ちに社会体制の存立興亡につながる重大問題であります。協業化にあたり、あまりに急であって、事態を無視した公式主義であってはなりませんが、社会党案の
農基法第九条、その後段に、「農地に関する権利は、自主的に共同保有に移行させるよう指導するものとする」、と
規定していますが、これは社会主義計画
経済の片りんを現わしたものでありまして、所有権を基盤として、自由
経済をよりどころにして、人類の福祉を希求する、そうしてこれこそが人類の幸福につながるただ
一つの道であるとの確信を持っておるわが党といたしましては、絶対に容認できないところであります。農地
制度改正を通じて協業化に寄与できる限界も、おのずからきまるところがあると思います。これらの協業化に関連する諸点について、
農林大臣の
所見をお伺いいたします。
第四に、農村
労働力の問題でございます。
報告書によれば、農村
労働力は、他
産業の
高度成長に伴って急速に
移動しつつあることが指摘されています。また、最近総理府の発表した
調査によりましても、農林就業者の割合は、全体の三割を割って二九%となったと伝えております。この傾向は、
産業経済の進歩発達する自然の帰結でありまして、ここに、従来過剰人口をかかえて失業に悩んだ暗い過去の農村に新しい光明を与え、
農政飛躍の契機がひそんでおるものと考えます。ただ問題は、この人口
移動が、現状では、若い
労働力を
中心として行なわれる結果、
農業労働が老人と婦人によって行なわれ、将来の
農業生産を停滞させるおそれがあることでございます。これでは
農業生産性の
向上も容易でないと思われまするので、基本的には人口流出を是認しながら、しかも、有能な農村青年が夢を持って農村にとどまり、
資本の増投、技術の進歩、機械化等の省力
経営のにない手として
生産性向上に
努力せしめるべきであると思います。これらについて効果的な抜本的な総合
対策を用意されておりますか、
農林大臣のお答えをお願いいたします。