○中村順造君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、去る十九日に行なわれました
池田総理大臣の
施政方針演説を中心にいたしまして、
総理大臣並びに
関係各大臣に対し
質問いたすものであります。
本論に入ります前に、先ほどの高校急増
対策に対する文部大臣の答弁の中で、「いわば終戦処理」という
言葉が使われておりますが、これは、私は非常に穏当を欠いた発言だと
考えます。いずれ私の
質問の中で高校急増
対策の
質問もございますから、私としては、この不穏当な字句を、
言葉を取り消してもらいたい、こういう
考え方に立っておりますから、文部大臣のお答えをいただきたいと思います。
それでは本論に入りますが、まず、「諸君とともに新しい年を迎え」に始まり、「
国民諸君に対しても一そうの御奮発を期待する」に終わりました
池田総理の
演説の中で、小成に安んじ、安逸をむさほり、放縦に流れ、闘争を事として、さらには、集団を頼み、誤れる海外の思潮におぼれ、民主的秩序を無視した脅迫的
政治活動を云々され、法秩序の
維持に籍口して、厳正な処断を加えることを表明されたのにとどまらず、さらにまた、
労働関係に例をとられて、同胞間の不信と憎悪をかり立てながら、いたずらに平和を呼号することは、自他を欺く矛盾と指摘されたのであります。私は、今日、
日本の
労働運動に対する官憲の介入、国家権力による不当弾圧の実情からいたしまして、同胞間の不信と憎悪をかり立てる者は一体だれかと、そのままこの
言葉を
総理にお返ししたいのであります。(
拍手)なるほど
池田内閣は、
国会内の多数党である自民党を背景に成立し、
総理大臣みずからもまた、きわめて強大な国家権力の座にあることは、私も十分知っております。しかし、だからといって、戦後押し寄せる
生活苦と戦いながら、ひたすらに国家の繁栄と再建に努力をした
日本国民の大多数を占める
労働者に対し、安逸をむさぼり、放縦に流れ、闘争を事としたかのごとき表現を用い、「断固として処断する」に至っては、まさに言語道断、私は
池田総理の時代感覚を疑わざるを得ないのであります。(
拍手)古来、
政治の定説の中で、自信のない
政治ほど強権を用いやすいといわれております。さらに、多数と少数の
関係におきましても、多数は決して全体ではないのであります。
総理は昨日の答弁にも多数決を強調されておりますが、多数といえども、決して万能の力を有するものではないのであります。そこには従わねばならない自然のおきてのあることを知らねばなりません。多数党を背景に国家権力の最高の座にある
池田総理に、まず
労働運動に対する弾圧、官憲の介入についてお尋ねをいたします。
最近
わが国産業機構の中で、官民を問わず、激しく推し進められておる一連の合理化、
近代化の中で、
総理も指摘された
ように、その利害の対立が、ときに先鋭化し、事案の解決が困難な状況にあるとき、
政府並びに
関係当局は、しばしば違法行為と称して首切りその他の行政処分を行ない、同時に、検察官、警察官の介入による刑事罰を加え、その実情につきましては、まことに目に余るものがあるのであります。本来こうした
労働問題に関しましては、
労働組合法第一条二項により、刑法三十五条の適用による刑事免責があるにもかかわらず、でっち上げによる暴力行為の名のもとに、多数の善良な
労働者が国家権力の不当な弾圧に苦しむ実態について、
総理は一体いかにお
考えになっておるのか。私が先ほど申し上げた、自信のない
政治から来る強権の乱用と解釈してよろしいのか。それとも、いみじくも
総理の
演説の中にある「厳正な処断」と解釈してよろしいのか。もし後者だといたしますなら、三井三池の弾圧のごとく、
経営者と検察当局とのなれ合いによる検察当局の綱紀の紊乱については、いかなる処断をとられるおつもりか。あわせて
総理大臣並びに植木法務大臣にお尋ねをいたします。
次に、
労働基本権の問題といたしまして、特に
ILO八十七号条約批准についてお尋ねをいたします。
ILO八十七号条約の問題は、遠く
昭和三十二年から三年にかけて起こった国鉄労使の紛争に端を発し、
政府及び国鉄当局は、公労法四条三項をたてにとりまして、国鉄の
労働者で組織をされておる二つの組合に対し、理不尽にも団交拒否の通告を行ない、その団結権と結社の自由を侵害したのであります。当時、私はその当事者として、
憲法第二十八条によって
保障されたこの団結権の侵害を東京地裁で争ったのでありますが、東京地裁は、明らかに
憲法違反の疑いのある公労法ではありますが、法の実在することを
理由に、
憲法上の組合とは認めるが、公労法上の組合とは認めがたいという、まことに奇々怪々なる判決を出しまして、裁判は敗訴いたしました。そこで私は、
政府の組合に対する結社の自由、団結権の侵害の非を鳴らし、その事実を国際
労働憲章の定めるところに基づきまして
ILOに提訴したのであります。さらに、このことは、約一年後、全逓の
労働組合にも同じ
ような事実の発生を見たのでありますが、その後、本問題をめぐりまして
ILO事務局長及び結社の自由
委員会、国際自由労連、国際運輸労連等が、ことごとく
日本政府の
労働基本権侵害の事実に対しまして、あるときは調査団を派遣し、あるいは
日本政府にその事実の
報告を求め、ついに
ILO理事会及び条約
勧告適用
委員会から、
日本政府は国際慣行上異例の
勧告を受け、特に、現行
日本の公労法は、
日本がすでに批准をいたしております
ILO九十八号条約に違反しておる点を強く指摘をされるなど、全く国際的な醜態をさらしながら今日に及んでおる問題であります。
さらにまた、小坂外務大臣は、その
演説の中で、国際連合憲章の目的と原則を尊重するとともに、
政府は率先、国際連合に協力すると言われておりますが、
ILOすなわち国際
労働機構は、一九四六年以降、国連との協定により、国連傘下の
経済的社会的事項について専門機関であることを、よもやお忘れではないと思います。また、十九日の
演説の中で、ガット三十五条援用を初めとする
わが国通商上の差別撤廃から、さらには、欧州諸国の業界において
わが国の実情にうとく、そのために対日不信と根強い猜疑心のあることを述べられましたが、私は、はたして実情にうといのか、それとも、この
労働基本権侵害の例に見るごとく、事実を知り過ぎているのか、外務大臣の認識の点については、多分に疑義を持つものであります。
日本は、かつて戦前、ダンピングによる国際競争の前科を持ち、戦後、今なお、
政府は
資本家擁護の
方針から、
経営者と強く結託をして、
日本の
労働者の
労働基本権を剥奪をし、
労働者に低
賃金と
労働強化をしいておりますが、もしこの実態を欧州諸国の業界が知ったとき、彼らは、
労働者の権利を剥奪し、低
賃金、
労働強化によって
生産をされる
日本製品に対し、単なる不信感や猜疑心にとどまることなく、むしろ高い関税の障壁を設けて自国の製品を保護することは、当然のことであります。また、このことは外務大臣として十分御承知と思います。もし御承知ないとするなら、
ILO理事会、総会等に幾たびか出席をいたしました
日本政府代表が、その真相を
報告してないという点において、怠慢もはなはだしいと言わざるを得ないのであります。
以上の観点から、
ILO八十七号条約の批准や、九十八号条約の順守の問題は、単に
日本の
労働者の
労働基本権の問題ばかりでなく、国際信用の回復、ひいては輸出
貿易の振興等、問題はきわめて重要かつ深刻であります。この際、
池田総理は、
日本の
労働者の
労働基本権をすみやかに欧米諸国の
水準に
改善をし、もって国際的な信用を高めるため、懸案の
ILO条約を、従来の行きがかりを捨てて、この際批准をされる御
意思があるかどうか、お尋ねをいたします。また、小坂外務大臣に対しましては、
ILO条約批准の問題等をめぐりまして、
ILO理事会も近く開会されることでありますので、今までの経過を含めて、その見通しについてお答えを願います。
さらに、
ILO条約批准に関連をいたしまして
労働大臣にお尋ねいたしますが、
政府は、従来この条約批准に関しまして、
関係国内法の整備と称しまして、公労法四条三項、地公労法五条三項以外に、鉄道営業法を初め、国公法、地公法などの改悪を意図し、さきに第三十八
国会に提案をいたしました。このことは、八十七号条約にいう結社の自由、団結権の擁護といった団体の規制をゆるめる代償として、組合役員及び組合員個々の規制を
強化し、処罰規定を設けることを目的としたものでありまして、このこともまた団体の規制以上に
ILO条約の精神に反し、国際
労働憲章に全く逆行する結果を生むこととなり、再び国際的に重大な関心と結果が予想されますので、
政府のいう
関係五法案とは
関係なく
ILO八十七号条約は批准すべきであると
考えますが、この点、副永
労働大臣のお答えを願います。
次に、当面する
労働問題について重ねて
労働大臣にお尋ねをいたしますが、今日あらゆる
産業部門におきまして、
近代化、合理化が進み、高度な
生産性を上げていることは認められます。しかし、この
生産性向上の配分については、ひとり
資本家のみが独占すべきものではございません。
消費者である
国民にも、さらに
生産に従事した
労働者にも還元されなければならないことは当然であります。すなわち、
消費者、
国民に対しては、コスト低下によるサービス、
労働者に対しては
賃金の
向上、または
労働時間
短縮等、
労働条件の
改善がなされなければなりませんが、今日の
日本の
資本家は、その
基本理念にいささかの配慮もいたしておりません。むしろ、この際は、春闘を中心といたしまして
賃金をストップというふうな誤った
考え方にも立っておりますが、そういう結果、依然として
わが国労働者は、低
賃金、長時間
労働をしいられ、特に
労働時間の問題については世界的に低
水準の位置にありますが、この
改善についてお答え願います。
また、
最低賃金制の問題についてお尋ねいたしますが、現行
日本の業者間協定による
最低賃金制は全くその本質からはずれていることは、申し上げるまでもないことで、議論の余地はございませんが、この際あらためて、国際的
水準に達する
考え方に立つ真の
最低賃金制を制度化することについてのお
考えについてお答えを願います。特にこの問題に関連をいたしまして、さきに中央審議会に諮問されました炭鉱
最低賃金については、
最低賃金法第十六条により、審議形態を明確にする必要があると
考えますが、この点のお答えも重ねてお願いいたします。
さらに、炭鉱
労働者の
雇用の安定の点については、あなたの前任者である石田
労働大臣の公約の
実施等の点も十分配慮されて善処すべき当面急を要する問題であると存じますが、この際あらためて福永
労働大臣に、その具体的な方策についてお尋ねをいたします。
次に、文教
政策についてお尋ねをいたします。
池田総理は、その
演説の中で、文教の刷新と充実を強調され、
池田総理の得意中の得意である
経済問題が重大なそごを来たしましたので、それにかわる新しい自民党の表看板にされ
ようといたしております。しかし、この
言葉は、戦前、戦中、戦後を通じまして、私たちは歴代首相から聞きあきるほど聞いた
言葉であります。特に、
日本が軍国主義、ファッショ化への方向をたどればたどるほど、その強調の度合いも強まったものであります。従来自民党
政府は、みずからの
政治的イデオロギーを若き青年に植えつけ、従順にして退嬰的な青年を社会に送り出すため、国家百年の大計の名のもとに、教育を
政治に従属せしめるために、過去十五年の長きにわたりまして、国家権力による大学自治への侵犯、学生と警官の激突を繰り返し、若き青年の自発的創造の活力をつみ取るための方策をとって参られました。さらにまた、最近に至りましては、勤務評定に関する紛争以来、事ごとに日教組に挑発しかけ、ことに先般の学力テスト問題に関連をして、その対立はさらに激化の様相を帯びて参っております。今日すでに、岩手、熊本、東京、鳥取、高知、京都など、全国至るところで大量の行政処分と刑事弾圧が繰り返されておる実情にあります。こうした実情の中では、
総理の主張される文教と科学技術の振興はきわめて困難であることは、
総理自身も御理解になっておることと存じます。私は、むしろこの際、教育を一党一派によって専有する
考え方を捨て去り、現在激化しつつある対立緩和の方策のため、直ちに教師の団体たる日教組に対する挑発と弾圧をやめ、文字どおり
総理の言われる
ように、祖国の生命力たる青年を作るために、
憲法第二十三条によって
保障された学問の自由の大前提に立って、かつてだれかの言った
ように、「人間を完全に教育する問題を解決した
国民にして、初めて国家の問題を正しく解決できるという、謙虚な気持に立って、文教問題を処理されるお
考えは
総理にあるかどうか、御所見を承りたいと存じます。
次に荒木文部大臣にお尋ねをいたしますが、あなたの所管事項の中にはきわめて多くの問題が山積をしております。すし詰め教室の問題、学校給食の問題、教科書無償問題、教師の定員
不足の問題、教育費の父兄負担
増大の問題、さらには来春以降におけるいわゆるベビー・ブームによる高校急増
対策の問題等、そのいずれを取り上げましても、
総理の言われる「青少年諸君の育成が現下の要務」、これがもし
池田内閣の文教
政策のまくら
言葉でなかったといたしますならば、文部大臣の
責任はきわめて重大であると存じます。特にあなたは、昨年暮、三十七年度
予算案の
政府決定にあたりまして、高校急増
対策には「みずからの
政治生命をかける」とまで言われたそうでありますが、一体その後、高校急増
対策はどうなのか。この点、先ほど来答弁がなされましたけれども、内容においては、がまんをしてくれ、忍んでくれ、こう言う一点張りで、私はとうてい納得できません。もし高校の収容力を現在のままだといたしまするならば、毎年四十万人の子供たちが入学不能になる。そこで文部省当局は、普通高校三分の一、工業高校二分の一の国庫
補助を含む増設費百二十六億の
予算要求をして、あなたの
政治生命をかけられたのであります。しかし現実には、認められた金額はわずかに十五億七千万円、それも工業高校だけ。全高校生の半分に及ぶ普通高校の国庫
補助は完全にゼロ。わずかに認められたものは五十億の
地方起債。しかも、この
地方起債を
地方で完全に消化したといたしましても、せいぜい十万坪、必要坪数三十七万坪の三分の一にも満たないため、どんなにすし詰め教室に詰め込んでも、まだ年間二十万人の入学不能、中学浪人と、あなたの
政治生命が残るのであります。
学校給食の問題はどうです。文部省当局は、ことしから栄養的立場に立って、主食の量を減らし、その分だけ副食の内容を充実させることにして、ミルク代の半額国庫
補助十六億四千万円を
要求しました。けれども、これは結局だめ。残る結果は、主食の量を減らす案だけが通りまして、パンが十五グラム小さくなった。これでは、次の世代をになう育ち盛りの子供たちや母親の立場は、泣くにも泣けない実情ではないかと思います。(
拍手)
総理の言われる青少年の育成は、ただ一片の
言葉に終わってしまうわけであります。
荒木文部大臣は、従来低姿勢と言われました
池田内閣の高一点、ただ一人きわめて高い姿勢をとって、口を開けば、やれ
政治だ、やれ歴史だ、道徳教育だと言われておりますが、この際、みずからの
政治責任を含めて、
池田内閣のきわめて多難な文教
政策にいかに対処されるか。また、いかなる具体的方策をもって、新しく
池田内閣の表看板になりました文教重視の
政策を具体化されるか、この際お答えをいただきたいと存じます。
最後に、石炭
産業並びにエネルギー
政策について佐藤通産大臣にお尋ねをいたします。
総理は、その
演説の中で、受難期にある石炭
産業と言われましたけれども、今日、石炭
産業の実態は、まさに人災による受難と断ぜざるを得ないのであります。そのよって来たる
原因は、
一つには、炭鉱
経営者の他力本願的無自覚による放漫な
経営、その第二は、歴代
政府の一貫性を欠いたエネルギー
産業政策とその総合
政策のなかったところに大きな
原因があるのであります。あるときは石炭
産業を保護し、あるときは重油転換を奨励し、次には石炭
産業の合理化を強制するなど、全く場当たり的な方策に終始して、その犠牲になっておるのが、今日の石炭
産業の実態であります。しかも、この
原因の探究と
対策を怠り、あたかも石炭
産業が斜陽
産業であるかのごとく宣伝これ努め、炭鉱
労働者の首切りを正当化し
ようとする炭鉱
経営者の卑劣な態度は、断じて許せないところであります。
わが国エネルギー資源として、石炭
産業は今なお重要な地位にありますが、炭鉱
労働者の実数は、かつての二十七万人から二十万人に減少し、このまま推移いたしますなら、将来、年間五千五百万トンの石炭需要の確保にも支障を来たすことも十分
考えられるのであります。