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衆議院議員(石田宥全君) ただいま議題となりました
土地改良区の
財政の再建に関する特別
措置法案につきまして、その
提案理由を御
説明申し上げます。
戦後の
土地改良事業は、農地
制度の大改革と相並ぶ国の最も重要な施策の一環として、自作農を中心とする農業経営の合理化と農業生産力の発展をはかり、食糧その他の農作物の増産によって、農業の国民扶養力を引き上げ、ひいては、国民経済の成長と発展に寄与することを
目的として強力に
推進されましたが、一方では、これが法的体系の整備のために、
昭和二十四年、
土地改良法が制定せられたのであります。自来今日まで数次の
改正を見、本法を根拠に
土地改良事業の
実施、
土地改良区等の
設立運営が行なわれ、農民諸君の努力と相待って、わが国食糧農業問題の前進のため多くの成果を上げて参ったことは、御承知のとおりであります。
最近の実績を徴しまするに、
昭和三十二年度までに
事業費で約二千七十余億円、完成受益面積約百八十八万ヘクタールに達し、栽培技術の進歩向上に助けられつつ、農地、なかんずく、水田の生産力は飛躍的な増大と安定を見ることとなったのであります。
昭和三十年以降、五年続き、六年続きの豊作がうたわれておりまするが、水稲におきましては、すでに千二百万トン台の生産水準をもって平年作とすることが、今日の常識となるに至りているの、であります。このように、
土地改良事業は土地生産力の発展に役立っておりますると同時に、一面においては、農業労働の軽減による労働の生産性の向上に裨益し、総じて農業の近代化、合理化を促進して参った事実を否定することはできないと思うのであります。
戦後の
土地改良事業はかような効果を上げて参りましたが、同時にまた、今なお、全国には数百万ヘクタールに達する要
土地改良面積が残されており、さらに、新時代に即応し、
畜産農業、果樹農業等の
振興のため、強力なる畑地対策の
推進が要請せられておるのであります。それにかかわらず、食糧
事情の若干の好転を背景として、いわゆる農業生産基盤整備
事業に対する政府の熱意が近来とみに冷却の傾向を示し、
昭和三十七年度予算におきましては、若干の増額を見ておるのでありますが、わが国農業の特徴である零細性と生産性の劣勢が、生産コスト低下の障害となっており、加えて、世界経済のブロック化
推進に伴う貿易自由化政策は、劣弱なわが国農業にとって一大脅威であることは、何人も否定し得ないところであります。したがいまして、農業構造改善の前提
条件としての
土地改良事業を急速に
推進しなければならない現段階におきまして、十分な予算
措置が講ぜられていないことははなはだ遺憾であると申さざるを得ないのであります。
同時に、現在の
土地改良事業がその内部に持っておりますもろもろの欠陥、すなわち、
事業進展の遅延による経済効果の減殺、
事業の一貫
施行態勢の不徹底、営農技術指導の不十分、
事業完了後の施設の
維持管理方式の不備、農民負担の過重等、各種の問題点に真正面から取り組み、一つ一つこれを解決すると同時に、他産業との所得格差が漸次拡大しつつある今日の情勢下におきましては、さらに高い次元の上に立って、農業の共同化、近代化を
推進する必要があり、これがためには、あらゆる施策に先だって農業生産基盤の整備拡充とその
制度の確立に努めて参らねばならないと信ずるものであります。
われわれが前述の見地に立って二月七日再度提出しました
農業基本法案におきまして、農業基盤の整備拡充については特に意を用い、その前文で、「国の責任において、積極的かつ計画的、に、農用地の大規模な拡張、土地
条件の整備及び共同化による経営の拡大と近代化を促進する」ことを明らかにし、さらに本文では、「農業基本計画に基づく農業年度計画の
実施に必要な予算の確保」をうたい、また、「農業経営の共同化を促進するため、全額
国庫負担による農用地の造成、
土地改良及び集団化による農業生産基盤の整備をはからなければならない」ことを述べ、もって国の義務として、農業生産基盤の整備拡充を積極的に促進すべき旨を明示しているのであります。これに比較して、成立を見た政府提出の農業基本法は、この点において、いささか見劣りがあるのでありますが、いずれにいたしましても、農業基本法が成立した今日、
土地改良事業の手続
規定を中心とする
現行土地改良法には、新しい理念に基づいて大幅な
改正を加うべきものと考えるのであります。
われわれは、以上の趣旨により
土地改良法の抜本
改正を主張するものでありますが、ここに至るまでの間におきましても、いたずらに手をこまぬいて待っているわけには参らぬ緊急の課題が生じているのであります。すなわち、それは
土地改良区の
財政を再建して、その体質改善をはからねばならぬということであります。御承知のごとく、
土地改良区は
団体営
土地改良の主たる
事業主体として、はたまた、国営または県営により
施行せられた農業施設の管理主体として、
土地改良法に基づいて
設立される公共
団体でありますが、あたかも全国の多数の
市町村や農業協同
組合が、
財政上の危機や経営上の困難に見舞われ、再建整備に苦慮いたしておりますると同様の運命に陥りつつあるのであります。
土地改良区の
設立状況は、
昭和三十五年三月三十一日現在において、一万二千七百三十二地区その関係面積は三百三十九万二千ヘクタールでありますが、農林省の調査によりましても、大なり小なり経営の不振に悩む
土地改良区の数は一万、専任
職員の設置すらできないものはその八割にも達するものと目され、これらのうち著しい
事業の不振
団体は、三百二十九地区、関係面積十四万二千ヘクタールに及び、その負債額五十四億三千三百万のうち延滞額は八億八千四百余万円であると報告せられておりまするが、さらに詳細な調査をいたしましたならば、不振
団体はおびただしい数に上るであろうと想像されるのであります。しかして、そのよってきたる原因はさまざまでありますが、そのおもなるものは、国営、県営及び
団体営の各級
事業が一貫
施行せられず、多くのものが経済効果の発生しないうちに借入金の償還に入ることあるいは
事業進度の遅延により金利が増大すること等、結局は農民の負担力の限界を越えて過重な金銭が賦課され、多額の延滞を生じて業績不振に陥っているものと認められるのでありまして、国または
都道府県の側における指導や施策に適切を欠き、そのしわ寄せを受けているところに根本原因があると断ぜざるを得ないのであります。
土地改良区がはつらつとして健全な
運営を行なわない限り、農業生産基盤整備の画期的な前進を望むべくもないのでありまして、かくては農業基本施策の確立そのものも画餅に帰することは明らかであります。
ここにおいて、われわれは、かかる不振
土地改良区に対し、国、
都道府県及び農林漁業金融公庫等が一体となって、その借入金について、利子補給、貸付
条件の緩和等の
措置を行ない、もってその
業務の円滑な遂行を期することが必要であると認め、
本案を提出した次第であります。
以下その内容について申し上げます。
第一に、債務の弁済が著しく困難な
土地改良区につき、その
財政の再建のため必要な援助
措置を行なうことによりその
業務の円滑な遂行をはかることをこの
法律の
目的といたしております。
第二に、債務の弁済が著しく困難な
土地改良区は
財政運営の
現況及び債務の償還計画、農林漁業金融公庫または農林中央金庫から受けることを必要とする援助の内容、
事業の
実施に必要な資金の調達方法、
業務執行の体制を改善するための
措置、
事業の
実施に関する
事項等を内容とする再建整備計画を作成し、これを
都道府県知事に提出して、その計画が適当であるかどうかの認定を求めることができることとし、その申請は
昭和三十九年三月三十一日までにすることにいたしております。また、
土地改良区が再建整備計画を作成する場合には、その
組合員の三分の二以上が出席する総会において、その議決権の三分の二以上の多数による議決を必要といたしております。
なお、
都道府県知事が、この計画を認定する場合には、農林
省令で定める基準に従って行ない、かつ、認定するときには農林漁業金融公庫またば農林中央金庫の意見を聞かなければならないこととしております。
第三に、農林漁業金融公庫は、再建整備計画が適当である旨の認定を受けた
土地改良区に対し、その計画達成のため必要な資金の貸付、または貸付金にかかる償還
期限の延長、利子の減免その他の貸付
条件の変更をするものとし、その場合の償還
期限の延長は、農林漁業金融公庫法の定める償還
期限をこえて十年を限り、行なうことができることといたしております。
第四に、
都道府県知事は、
土地改良区に対し、再建整備計画の作成及び
実施につき必要な指導を行なうものといたしております。
第五に、国は、毎年度予算の範囲内において、
都道府県に対し、再建整備計画が適当である旨の認定を受けた
土地改良区に対して、その計画の達成のため債権の利息を減免した農林中央金庫に対しその減免した利息の額の全部または一部に相当する
金額を
都道府県が
補助した場合の
経費については三分の二を、
土地改良区に対し、その計画の達成に必要な
事務費の全部または一部に相当する
金額を
都道府県が
補助した場合の
経費についてはその全部を、それぞれ
補助することといたしております。
以上が
本案の
提案理由とその内容であります。何とぞ御審議の上、すみやかに御可決賜わらんことをお願いいたします。
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次に、
農業生産組合法案についてその
提案理由及び内容の概要を御
説明いたしたいと存じます。
わが国農業における経営規模の零細性ば、今日、農業生産力の発展と農民所得の向上をはかる上に、致命的な欠陥となっております。すなわち、最近の農業機械の急速な普及も、農家経済にとっては、むしろ過剰投資となって投資効率を低くし、
経費を増大させ所得率を低下させております。
一方、経済の高度成長政策によって、大資本の成長ば急テンポで進み、農業は、生産、流通、価格の各方面にわたる経済的圧迫を受け、農業と他産業との所得格差は拡大し、このままでは、現状の家族経営の
形態では、たとえ上層農家であっても、その自立は困難であります。また、個々の農家が、一反歩二〇万円もの高い農地を取得して経営を拡大しても、土地資本利子負担の増大によって、経営の改善にならないばかりか、他方で多数の農民を農地から分離させなければならないのであります。
われわれは、農民を土地から分離せず、しかも零細経営の現状から解放して、経営規模の拡大をはかるために、基本的には生産またば経営の共同化を
推進することが必要であると考えるのであります。
言うまでもなく、われわれは急激に、また強制的に共同化を進めようとするものではありません。すでに今日では、農民の間で進んだ農業技術を最高度に発揮するため、共同化、共同経営の自主的な実践が全国各地で進められております。われわれは、かかる農民の自主性を尊重しつつ、経営の全部または一部の共同化を認め、共同施設や共同作業など共同組織の奨励と並行しつつ、共同化の方向に進めようとするものであります。
しかし現在の
条件のもとで、共同化の
推進は強い国の助成なしには進めることはできません。われわれはこのため、別に
農業近代化促進法案を提案して、生産
条件の整備はもとより、共同化に対する各種の助成
措置をとろうとするものでありますが、これと並行して、農民が相互扶助の精神に基づいて共同して農業を行なうための組織を整備確立するため、
本案により、農業協同
組合の下に農業生産
組合を育成するととともに新たに農業生産
組合が、その共同経営のため必要となる農地、採草放牧地に関する権利の取得を認めることとしたのであります。これが社会党が特に
農業生産組合法案という独立単行
法案を提案した趣旨であります。
次に、
法律案の主要な内容について御
説明申し上げます。まず、農業生産
組合の行なう
事業、その組織等についてでありますが、
第一に、その行なう
事業につきましては、農業生産
組合は、農業及びその付帯
事業のみを行なうものとして、
原則としてそれ以外の
事業を行なうことは認めておりません。
第二に、農業生産
組合の組織
原則につきましては、農業経営の共同化及び近代化を貫徹することと、一方においてば、生産手段の導入の
必要性をも考慮して、農業生産
組合の
組合員はすべて
組合の
事業に常時従事しなければならないこととするとともに、その
事業に常時従事する者のうち、
組合員または、その世帯員以外の者の数は、常時従事者の総数の三分の一をこえてはならないものとしているのであります。
第三に、その
組合員につきましては、
組合員の資格を、
組合の住所のある
市町村の区域内に住所を有する農民で定款で定めるものとし、特に準
組合員
制度を設けず、また定款の定めるところによって加入を
制限することができるものとしておりますが、これは、地域性を考慮した土地と労働の地縁的な共同化に眼目を置いて
組合の
事業を
推進することが、農業の実態に即応するものであるとの考え方に出たものであります。なお、この農業生産
組合は、独立の経営体として農業経営を行なう関係上、出資
制度をとることとし、
組合員は、出資一口以上を有しなければならず、しかして
組合員の責任は、出資額を限度とする有限責任とすることにしております。
第四に、
組合の管理及び
財務の
運営につきましては、おおむね一般の農業協同
組合と同様の
規定をいたしておりますが、剰余金の配当方法につきましては、年五分以内で定款で定める割合の出資配当をなし、なお剰余がある場合には、
組合員が
事業に従事した
程度に応じて配当することといたしております。
第五に、
設立等の手続につきましは、農業生産
組合が
組合員の共同により農業経営を行なうという従来に例のない生産
事業を
実施する
組合であることにかんがみ、かつ、出資
制度、有限責任をとっている建前から、一般の農業協同
組合と同様、認可主義を採用するとともに、一面においては生産
組合の
設立を容易ならしめるため、極力その手続を簡素化することといたしました。すなわち、七人以上、当分の間は
設立を容易にするため二人以上の農民が発起人となり、
設立手続を終了し、行政庁の認可を受けたとき初めて農業生産
組合が成立するものとしておるのであります。
最後に、農業生産
組合を農業生産法人として発展させるため、
都道府県は、
組合の
設立及びその
業務の
運営に関し心要な指導を行なうとともに、国ば、生産基盤の拡充、機械化、有畜化の促進、技術経営面の指導、資金の確保等について積極的な助成をすることといたしております。
次に、
本案の大きな柱ともいうべき農地
制度の
改正の主要点について申し上げます。
農地の
所有形態につきましては、
農業基本法案におきまして、農地は、これを耕作する者が所有するという
原則を貫くとともに、農民自身の自主的な意思によって、農地に関する権利を共同で保有するよう漸進的にこれを指導することといたしておりますが。この基本
法案の理念に沿って、地主的土地所有者を排除する従来の農地法の精神を堅持しつつ、一面、共同化を
推進するため、新たに農業生産
組合に農地、採草放牧地についての権利の取得を認めることといたしたのであります。
すなわち第一には、新たに農業生産法人が農地または採草放牧地についての所有権または使用
収益権を取得し得るようにするとともに、その場合においては、従来の農地等の最高面積の
制限を緩和して、農地法第三条第二項第三号または第四号の別表で定める面積に、その農業生産
組合の
組合員の属する世帯数を乗じた面積まで取得し得ることとしたのであります。
第二に、農業生産
組合の
組合員が、その農地または採草放牧地に関する所有権以外の権利を
組合に対して設定しようとする場合には、従来の小作地等の保有の
制限を適用しないこととし、また、
組合員が、その賃借りしている農地を
組合に対して転貸ししようとする場合には、所有者の承諾を要しないこととして、
組合の農地等に関する権利の取得を容易ならしめるとともに、一方において農業生産
組合が一たん取得した農地等については、これを他に貸し付けることを禁止して、共同化の実を上げることといたしております。
第三に、創設農地について所有権以外の権利を
組合に対して設定した場合、その
組合が解散した際におけるその創設農地の取り扱いについて
規定しております。すなわち、創設農地については、従来、
原則として、賃借権等の用益権の設定は、禁止されております関係上、
組合が解散した場合等には、
一定の手続を経て旧所有者に返還するか、それができない場合には、国が買収する旨を
規定しております。
以上が
農業生産組合法案のおもなる内容でありますが、政府案におきましては、農業生産法人については、
組合法人以外に、有限、合名、合資会社のような会社法人をも考慮し、これらに対して農地等に関する権利の取得を認めることといたしておりますが、本来営利を
目的とし、構成員の資格要件に何らの
制限を加えず、二人以上の者がかなり任意に
設立し得る会社法人を認めることは、農民の一部を、土地、資本を所有する資本主義的企業者へ、他の多数の農民を土地、資本から分離された農業労働者へ、それぞれ分離させることとなり、農村の階層分化を一そう激化せしめるおそれ少なしとせず、害多く益少ないかような
措置は、われわれとしてはこの際とらざることとし、日本社会党案におきましては、農業生産法人は、生産
組合法人に限ってこれを認め、強力に育成しようとするもめであります。このような農業生産
組合の
制度によってのみ、農業の近代化、合理化が達成されることをわれわれは深く期待している次第であります。
以上が、この
法律案の提案の
理由及び主要な内容の
説明であります。何とぞ慎重に御審議の上、すみやかに御可決下さいますようお願いいたします。