○秋山長造君 私は、日本
社会党を
代表いたしまして、ただいま議題になっております両
法案に反対をいたすものであります。
第一に問題にしなければならないのは、本
選挙法の
改正経過についてであります。そもそも民主政治の根本が
選挙にあり、しかもきれいな
選挙にあることは申すまでもありません。年来公明
選挙が叫ばれて久しいのでありますが、
選挙の実態は回を重ねるごとにますます悪質になり、いわゆる物量
選挙の色が濃くなってきているのであります。特に一昨秋の総
選挙は、わが国
選挙制度が始まりまして以来の空前の腐敗
選挙だと言われておるのであります。だからこそ、その
選挙後、ごうごうたる
選挙粛正要求の
世論が盛り上がりまして、この
世論にこたえて、
政府は
選挙制度審議会設置法案を
国会に
提案をいたしたはずであります。そうして特にその第三条には、「
政府は、
審議会から
答申又は
意見の申し出があったときは、これを尊重しなければならない。」こう
法律の条文に明定までいたしたのであります。そして、その
提案説明において安井自治大臣は、「
党派を越え、
国民全体の
協力を得て、
理想選挙の実現を期する。
世論も、また強くこれを待望しているものと思う」。さらにまた、「新たに強力にして権威ある
審議会を設置し、各界各層の
学識経験者をわずらわして調査
審議を願い、その
答申を待って、これを尊重して、
改正案を
国会に提出するつもりであります」。そしてさらに、その上に、「
答申または
意見具申のあったときは、
政府としてこれを尊重して、所要の措置を講ずべきことは当然でありまして、特にこの
趣旨を明記することにいたしました。」このように説明をされておるのであります。しかるに、昨年の十二月二十六日に、
選挙制度審議会から相当大部な第一次
答申が
政府の手に提出をされまして、特に二月の十二日に
自治省案が発表をされましてから、この本
法案がまとまりました三月一日に至るまでの
経過を顧みますときに、私どもははなはだ遺憾の情を禁じ得ないのであります。この
自治省案そのものが、すでに
答申案の線からは相当後退をしたものであったことは後ほど申し上げますが、さらにその
自治省案が、
自民党の部内において、当時の
新聞の
言葉をもってすれば、まるでハチの巣をつついたような大騒ぎを引き起こしまして、そうしててんでんばらばらに、勝手ほうだいな注文をつけあるいはこれをいじくり回しまして、そして三月一日の
政府原案にようやくこぎつけたのであります。しかもさらでだに
答申案を重要な点で骨抜きにしたという悪評さくさくたるこの
政府原案が、
衆議院審議の最後の
段階におきましてさらにいわゆる便乗的な改悪
修正を受けまして、私どもがここに受け取ったところの
選挙法改正案というものは、どの点から見ましても私どもは断じて納得のできない、認めることのできない改悪の行なわれたあわれむざんな
法案になってしまっておるのであります。このような
経過を
考えますときに、私どもはこの
法案に対処した
政府当局の御苦労は御苦労といたしまして、結果的にはこの御苦労が実を結んでおりません。したがって、
国民の求めた、ほんとうに
選挙の明朗化、公明
選挙の確立のための
選挙法とは認めがたいと断ぜざるを得表せん。
第二には、
政府原案の内応についてでございます。まずこの
政府原案は、つぶさに検討いたしてみますと、
選挙制度審議会の
答申の多くの点を取り入れておることは私どもといえども認めるにやぶさかではございません。たとえば郵便立候補を禁止するとかあるいは電極立候補制限とかあるいはさらに無料はがきをふやしたとかあるいはポスターの数をふやしたとかあるいは
選挙犯罪についての短期時効の
制度を廃止して、
一般犯罪並みに刑事訴訟法によってこれを処置するとか、その他いろいろな
改正点がそのまま取り入れられておることは事実であります。その限りにおいては一歩前進であることもまた私どもは十分認めるところであります。しかしながら、しょせんこれらの点は、いわば今回の
選挙改正問題のいわば枝葉にすぎない、枝葉末節と言っては語弊がありますけれども、露骨にはっきり言えば、枝葉末節にすぎないのでありまして、この
選挙制度審議会の
答申の骨組みとも言われるべきものは、何と言いましても、これは連座制の強化であり、また、高級公務員の立候補制限であり、政治資金の規正であり、後援団体の寄附の禁止であったはずであります。しかるにこれらの
選挙制度審議会の
答申のいわば大骨とも言われるべき、骨組みとも言われるべき第一の連座制の点については、問題の親族連座でございます。これがだんだんと後退をし、骨抜きにされまして、結局ただいま皆さんがごらんのように、親族の頭に同居の親族と、まず制限をつけ、さらに
意思を通じてというところでさらにしぼり、さらに禁錮以上の刑に処せられというところでさらにしぼり、その上に執行猶予のつかない場合に限るということにし、さらに検察官の公訴を待って初めて当選無効、こういうように幾つかのワクをつけましたために、実質的には、これにかかるものが
一体何%あるか、一%もないと私どもは過去の経験から断ぜざるを得ない。結局これはこの連座性の
答申は、完全に骨抜きにされ、有名無実にされたと言わざるを得ません。
第二の高級公務員立候補制限の問題にしても、これは現実の問題として、わが国の
選挙に非常な悪弊を及ぼしていることは、これは多くを申し上げる必要はないことであります。にもかかわらず、これに理屈にならない憲法違反、その他の理屈をこじつけて、そしてこれを完全にくずしている。
一般公務員の
選挙運動の規制というふうにぼやかしてしまっているのであります。これではすでに国家公務員法なり、地方公務員法なりに規定されていることを、ただ
選挙法に移しかえたにすぎないのでありまして、およそ
審議会の
答申のねらいとは、これは別な問題になってしまっているのであります。
第三の政治資金の規正についても、国から補助金、補給金、その他、特別な援助を受けているような会社法人が、そもそも政治献金をすること自体がはなはだ矛盾があり、弊害が多いことは、これまた申し上げるまでもありません。
選挙制度審議会が従来の経験と、そして
国民の
世論とを
代表いたしまして、そしてこれを禁止しようというきわめて妥当な
答申を出しているにもかかわらず、これに「当該
選挙に関し」というワクをつけることによって、事実上これも有名無実にしてしまったことは、先ほど来の各
委員の御
質問できわめて明白であります。
さらに第四の後援団体の寄附の禁止の点にいたしましても、これを「当該
選挙に関し」と、これまたワクをつけたことによって、この後援団体の寄附の禁止のねらいとした最も露骨な事前運動というものが、完全に骨を抜かれて、そして手放しということになってしまっているのであります。その他、数々の問題がございますけれども、これらいずれをとってみましても、これは
政府が何と強弁しましょうとも、これは
答申の重点を完全に骨抜きにしたものであるということは、これは明らかであります。このような
意味で私どもは、
衆議院段階においてこれらの点を
答申どおり忠実に実行すべき
内容を盛ったところの
修正案を提出をいたしたのでありますけれども、遺憾ながら多数を占める
自民党の反省を求めることができなかったことは、はなはだ遺憾であります。
第三の点は、
衆議院修正の問題であります。
衆議院の
修正責任者の説明によりますと、
衆議院の
修正は金のかからない明るい
選挙をやるために、単に表現上、技術上の
修正を
政府原案に加えたにすぎないのだ、こういうことをおっしゃったのでありますが、しかし、
衆議院の行なわれました
修正点のどれ一つとして、金のかからない明るい
選挙ということではなくして、逆に今より一そう金がかかり、一そう不明朗な
選挙になるような
修正を行なわれているのであります。
特に
衆議院修正の第二点であります。
選挙運動に使用するところの専務員に対して報酬を支給する道を開いたことは、単なるこれは事務的な問題とか、法文の技術上の
取り扱いの変更とかというような簡単な問題ではございません。申すまでもなく、わが国の
選挙法は、これは城前から一貫をして、
選挙運動員という者には、報酬は出すべきではない、こういう精神をもって一貫してきているわけであります。判例等もその精神で一貫してきておったはずであります。しかるに、従来
選挙に使用される労務者のワクの中に含めておったところの事務員を、今度、労務打から引き離して新しく
選挙運動に使用する事務員、いわゆる運動員の中に含めて、そうしてこれに一日七百円の報酬を与えるということでありますから、狭義の
意味の
選挙運動員と、そうしてこの
選挙運動に従事する、使用される事務員との区別というものを、だれが
一体明確につけるのかという点が、はなはだ問題でございます。これが実際問題になりますというと、一日三十人で、一人に七百円ということになれば、二十日毎日交替するようなことはなかろうといっても、これはただ想像にすぎない。
選挙の実態に直面いたしますと、必ずこれを入れかえ入れかえして、かりに二十日間といたしますれば、総計四十二万円の報酬を払わなければならぬということになる。しかも、四十二万円でとまればいいわけですけれども、
選挙の常として、だれに報酬を払って、だれに払わないというような分け隔てのっけられないことは、いやしくも
選挙をやった経験者ではきわめて明白であります。したがいまして、これをトンネルにして、突破口にして際限もなく
選挙運動員に対する報酬という名目において、いわゆる買収的な行動が行なわれるであろうことはきわめて明らかであります。まつり、
修正者がねらったところの金のかからない
選挙のためということが、
言葉とは逆にますます金のかかる
選挙、ますます買収の行なわれる
選挙に道を開くことは明らかであります。
さらに
修正の第三点の後援団体についての寄付でありますが、これまた「当該
選挙に関し、」というワクを
原案がつけたのをさらにしぼりまして、当該
選挙前一定期間、
衆議院のごときは、解放の翌日から投票日まで、こういうことになりますれば、もう後援団体に対する寄付というものは野放しにやってよろしいということを慰めたと同じ結果になることは明らかでございます。
さらに第四項の連座の対象となる地域主宰者が、
政府原案におきましては、数個に分けられた地域の
責任者となっておるのを、さらに三個に分けられた地域の一または二以上の
責任者、こうなりますというと、たとえば四個に形式的に分けさえすれば、もうこの制限にはかからないというような結果になってくるのでありまして、これまた、数個に分けられた地域
責任者を規制しようというこの
原案のねらいは、完全にはずされてくることは明らかであります。
さらに
改正の第二項の事前演説会百回以内を認めようということは完全に削られ、さらに
選挙中に行なわれる個人演説会の回数制限を、
原案は撤廃しようとしておったのを、この
修正案では、再びもとに戻して、今までどおり六十回の制限を存続しようとしたのでございまして、これまた前の
修正点と同様、
政府原案に対する、さらに後退、数歩後退の改悪
修正であることは明らかでございまして、私どもは、こういう点からも本案には賛成できないものであります。
さらに第四点といたしまして、本
委員会において本
法案を
審議したその日程と
状況についてであります。元来
衆議院、
参議院と二院
制度をとっておる建前からいたしましても、特に
参議院はいわゆる良識の府とされておるだけに、
党派は別にし、また、この
法案に対する賛成反対の議論は別にいたしましても、少なくとも冷静に十分時間をかけて慎重
審議をすることが
参議院の生命だと思います。この点が抜けましては、およそ
参議院なんかの存在は無
意味だと断じても私は言い過ぎでないと思うのであります。しかるに、先ほども
お話がありましたが、本案が、
政府原案が三月一日に
衆議院に
提案されまして、実に二月間もみにもみ抜いて、ようやく本
委員会の
審議が始まったのは去る三十日からであります。三十日に三時間ばかり本案についての
審議をやり、二日には参考人を呼びまして三時間半やりまして、四日には三時間、五日には一時間足らず、そうして本日六日には四時間余り、こういうようなことで、全部参考人の時間まで入れましても十四時間半にすぎないのであります。参考人の時間を除けばわずかに十一時間であります。この程度の
審議をもって、これだけ問題の多い
重要法案をいきなり
衆議院修正どおり強行しようという
態度に対しては、私どもは断じて承服することができないのであります。特に一昨四日には、私どもは、
衆議院修正に対して腹に据えかねるものがありますので、
社会党、民社党、同志会、無所属クラブの四派の
委員全員が連名をもちまして、
自民党側に対して、われわれは
政府原案が
審議会答申を重要な点で骨抜きにしたことにはなはだ
不満である。せめて、この際
衆議院の便乗
修正の点だけでも元に戻すようにぜひとも配慮してほしい、こういうまことに妥当な当然な申し入れをいたし、必ずや
政府並びに
自民党側において、われわれの真意を了解され、われわれの期待どおりこれらの点についての再
修正を考慮され善処されることを期待しておったのであります。昨五日の日には、さらに重ねてこの点についての申し入れを行ない、さらに
政府当局に対しても、同じような申し入れをいたしまして、私ども、ひたすらにこれらの点が貫徹されることを期待し望みをかけておったのでありますが、本日の朝に至りまして、遺憾ながら
自民党側から、いずれも党内事情によりまして、受け入れがたい、承諾しがたいという拒絶の返答があったことははなはだ遺憾でございます。
こういう状態で私どもは、この
審議を早々に済ましてしまって結論を出してしまうということには、はなはだ心残りである、はなはだ
不満であります。
言葉をかえていえば、私どもは、こういう生まれるときにすでにいろいろな悪因縁がつき、さらにまた
審議の
過程におきましても、十分といえないまでも、曲がりなりにもという程度の時間すらかけることができないで、こまかい点はすべて触れることなくして早々の間にこれの
審議を終了してしまうというようなことに対しては、われわれ自身、この
委員会に席を置くものとして、
責任を持つことができない。まあ、このようなもろもろの理由において、わが
社会党は、ただいま議題になっております両
法案に対して反対をいたし、さらにただいま増原君から御
提案になりました附帯決議につきましても、その
内容に対しては、はなはだ不徹底の感じを免れないのでありまして、遺憾ながら反対せざるを得ないのでございます。(拍手)