運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1962-02-20 第40回国会 参議院 地方行政委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年二月二十日(火曜日)    午前十時三十八分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     小林 武治君    理事            秋山 長造君            基  政七君    委員            西郷吉之助君            館  哲二君            津島 壽一君            鍋島 直紹君            湯澤三千男君            鈴木  壽君            松澤 兼人君            中尾 辰義君   衆議院議員    発  議  者 綱島 正興君    発  議  者 加藤 勘十君    発  議  者 受田 新吉君   政府委員    経済企画庁総合    開発局長    曾田  忠君   事務局側    常任委員会専門    員       福永与一郎君   参考人    一橋大学助教授 市原昌三郎君    早稲田大学教授 有倉 遼吉君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改  正する法律案内閣提出) ○離島振興法の一部を改正する法律案  (衆議院提出)   —————————————
  2. 小林武治

    委員長小林武治君) ただいまから委員会を開会いたします。  銃砲刀剣類等所持取締法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、お手元にお配りいたしてございますとおり、お二人の方に参考人として御出席いただいておりますので、これより本案について御意見を承りたいと存じます。  参考人の方に一言ごあいさつ申し上げます。  両参考人の方には公私御多用のところ、わざわざ当委員会のため御出席下さいましてまことにありがとうございます。これより御意見をお述べ願うわけでありまするが、順序としまして、まずお一人約十五分程度で御意見をお述べ願いまして、後刻さらに委員の質疑にお答え願うことにして進めたいと存じますので、あらかじめ御了承願います。  それでは市原参考人からお願いいたします。
  3. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 市原でございます。私ふだん行政法を勉強しております者としまして、この法案に対します若干の感じましたことを申し上げてみたいと思います。  はなはだ私事にわたって申しわけないのでありますが、実は、このことを正式にお聞きしましたのは、先週の末でございましたものですから、十分な時間的な余裕もなくて、判例とか、あるいは実際的な問題の検討という面につきましては、かなり不十分なものがあろうかと思います。その点はあらかじめ御了承いただきたいと思います。したがいまして、私がこれから申し上げますことは、このような問題の基本的な考え方行政法学という立場からして基本的な問題、考え方というふうなことについて申し上げることになろうかと思います。  さて、この法案の中で特にここで申し上げる必要もないようなものもございますので、それはあとで御質問の際にでもまた問題があればお答えするといたしまして、ごく重要と思われるものだけを取り上げて一、二お話してみたいと思います。  第一は、この第二条の第二項の関係でございますが、飛び出しナイフ規制という問題でございます。これは最近の暴力犯罪の激増というふうな観点からいたしまして、何らかのより強い規制が必要ではないか。特に実際の統計等を見ますと、従来取り締まり対象となっておらなかった刃渡り五・五センチメートル以上のもの、これによる犯罪というものが非常にパーセンテージの上でも多くなっている。したがいまして、これもやはり規制する必要が特にあるのではないかということでございますので、その点、まあ特に犯罪とは結びつかないそういうふうなものについては、これを除外いたしまして、全面的に禁止するというのでございますから、現実必要性という点と、また、実際にこれを取り締まった場合の国民の受ける不利益というふうなものを比較対照してみますと、何と申しましても、その犯罪を防止しなければならぬというところにウエートが置かれていくのではないか。したがいまして、この点についての規制は問題がないのではないかというふうに考えております。  次に、オリンピックの問題に関連しまして問題が出ておりますが、この点につきましては、私は省略させていただきたいと思います。  次に、許可基準の問題が出て参りまして、第五条の三項になって参るかと思いますが、家族許可基準といたしまして、家族の中に、特にこれは同居親族でございますが、同居親族の中に、「他人生命若しくは財産又は公共の安全を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」があり、かつ、その者が「申請に係る銃砲又は刀剣類を使用して他人生命若しくは財産又は公共の安全を害するおそれがあると認められる者」である場合には、所持許可をしないことができるというふうな規定を設けるということでございますが、この点、まあ質屋営業法とか、あるいは古物営業法を見ましても、そういうふうな条文はすでに現われておりますが、質屋営業法でございますと、三条一項の七号、古物営業法の四条一項の六号というふうなところに出ておりますので、この程度取り締まり規制基準としまして広げますことは、現在の状況からいたしまして差しつかえないのではないか、こういうふうに考えております。  なお、しかしながら、これでは十分ではない、それだけでは実際には十分ではない、もっと進んだ規制をしなければならないのではないかというふうな御議論も出るかと思いますが、何と申しましても、基本的な人権の藤里という面とからみ合ってくる問題でございますので、その点はまあこの程度にしぼることが、私は現在の事情のもとでは適当ではなかろうかというふうに考えて賛成するわけでございます。  次に、第四番目の問題は、九条の二として、射撃場指定等に関する規定の整備の問題でございますので、これは省略させていただきたいと思います。  第五番目といたしまして、譲渡制限の問題が入って参ります。この点につきまして、個人間の譲渡制限につきましては、別段の規定が設けられておらず、特に大量に取り扱う製造業者とか販売業者規制対象としているわけでございまして、この点におきましても、公共の福祉からする最小限度必要性を認めることができると思います。したがいまして、この点についても問題はなかろうかとこういうふうに考えております。  次に、第六番目でございますが、第六番目としましては、二十二条を改めることでございますが、刃物の携帯の制限でございますが、これは従来、この概念がかなり不明確なものがあったというふうにも思えますので、その点を明確にするという意味で、あいくち等とございましたのを、これを明確にされたというわけでございますし、さらに、その範囲が若干広がっているわけでございます。すなわち「刃体の長さが六センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない。」というふうにする。ただし、この場合にも問題がございますので、「刃体の長さが八センチメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式ナイフ」、こういったようなもの、そのほか「政令で定める種類又は形状のもの」は規制対象とはしないということになっております。この点も最近の新聞その他で見ましても、また、このあとのほうにございますところの統計というものを見ましても、相当今まで漏れておったといいますか、はっきりした規制のなかったものによって犯罪現実には行なわれているという事例が相当あるようでございまして、その意味で、このような規制も必要ではなかろうかと考えております。  次に、最も問題となりますのがこの第七番目の問題でございますが、この二十四条の二として、新しくつけ加えらるべき規定の問題でございますが、「銃砲刀剣類等」を「携帯し、又は運搬していると疑うに足りる相当な理由のある者」、これが、「他人生命又は身体危害を及ぼすおそれがあると認められる」ときは、警察官は、「銃砲刀剣類等であると疑われる物を提示させ、又はそれが隠されていると疑われる物を開示させて調べることができる。」ものというふうにしたいというのが改正案でございますが、さらに、この「提示」「開示」のほかに、この二項になるかと思いましたが、プリントで参りますと三十五ページから六ページでございますが、それが今申しましたようなことで、第一項で、第二項になりますと、「警察官は、銃砲刀剣類等を携帯し、又は運搬している者が、異常な挙動その他周囲事情から合理的に判断して他人生命又は身体危害を及ぼすおそれがあると認められる場合において、その危害を防止するため必要があるときは、これを提出させて一時保管することができる。」という一時保管の規定でございます。この規定が最も疑問の対象になろうかというふうに考えるわけでございます。この点に関しましては、憲法の第三十五条の規定との問題が出てくるわけでございます。憲法の三十五条の解釈につきましては、通説と申しますか、大多数の学者のとっております立場は、私も同様でございますが、本来は刑事手続について適用される規定である。したがって、当然には、行政的な手続については適用がないというふうに考えられるわけでございますが、しかしながら、行政目的作用でございましても、場合によりますと、国民の基本的な人権に対する侵害が相当強度になるという可能性を持っているものもある。したがいまして、そういう場合については、憲法三十五条の明文が、直接というわけではございませんが、その趣旨を類推適用すべきではないかというのが、これが一般の通説のように私受け取っておりますし、私もそう考えておるのでございますが、そういう観点から考えてみますと、本条の場合、これは明らかに刑事手続ではなくて行政目的作用である。ということは、この条文の上で申し上げますと、二十四条の二でございますが、この第二項、三十五ページのところでございます、「合理的に判断して他人生命又は身体危害を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、」というふうにございまして、これは行政目的であるということが明らかにされております。さらに、第二項の場合におきましても、「その危害を防止するため必要があるときは、」とありまして、いずれも刑事手続規定ではないわけでございます。したがいまして、第一に、この二十四条の二というものは、憲法三十五条の直接の対象にはならないというふうに考えられます。しからば次に、通説立場に立った場合、それが特に国民権利に対する重大な侵害を伴うというような場合には、三十五条の趣旨を類推適用すべきだという建前が出てくるわけでございますが、この点に関連して考えてみますと、これは強制的な権力の発動というものを含んでいない、いわば任意的なものであるということで、したがいまして、国民権利に対する侵害性というものが、憲法三十五条の令状を必要とするというふうな、そういう制約をかぶってこないのではないか。なぜそう言うのかと申しますと、この「提示させ」「開示させ」というような規定、あるいは「これを提出させて一時、保管することができる」というふうなことは、従来の立法例から申しましても、このような場合には、一般的に任意的なものというふうに取り扱われてきているわけでございます。したがいまして、これがこういう場合に、それでは任意的ではなくて、強制的な場合にはどうなるか、こういうことになりますと、用語の上でも、「本人の同意なくても」とか、「意に反しても」というふうな規定を置くのが通例でございます。その意味でこの二十四条の二は、条文の文字の上から申しましても任意なものである、強制的な要素は含んでいない、こう考えられるわけでございます。したがいまして、その点で私は、三十五条をしいて類推適用する必要もなかろう。もちろん立法の問題といたしましては、その場合に憲法三十五条を類推適用して、もう少し制約を加えておくということがあっても、これは間違いとかいうわけではございませんが、なくても差しつかえなかろうというふうに考えております。この点につきましては、さらにいろいろ問題点が出て参るかと思いますが、時間も十分ではございませんので、質問の際にさらに詳しく申し上げてみたいと思います。  このように、全体としてみた場合、私は今回の改正法案というものが、この激増する暴力犯罪というものとのにらみ合わせの上において、必要最小限度取り締まりに大体当たるものだと、こう考えております。したがいまして、この法案憲法違反であるというふうな問題は出てこない、この程度規制はやむを得ないというふうに考えております。ただし、何と申しましても、警察権発動というものは、もろ刃のやいばと申しますか、他方において国民基本的人権というものに対して大きな制約を加え得る要素を持っておるわけでございますから、この行使にあたりましては、あくまでも慎重でなければならぬと思います。したがいまして、従来もそうでございましょうが、警察官の個人的な素質というようなものの教育その他の面を通じてますます充実していくことが必要であろうかと思います。  非常に簡単ではございますが、一応これで私の意見を終わらしていただきます。
  4. 小林武治

    委員長小林武治君) ありがとうございました。  引き続き有倉参考人にお願いいたします。
  5. 有倉遼吉

    参考人有倉遼吉君) 私、有倉でございます。ただいま市原先生はいろいろな点にお触れになりましたが、私の申し上げる点はただ一点、すなわち第二十四条の二の第一項と第二項について申し上げたいと思います。と申しますのは、他の条文の場合におきましては、私もほとんど問題はない、ただし、この第二十四条の二、一項、二項につきましては、大いに問題がある、こういうふうに思うからでございます。  そしてまず第二十四条の二の第一項には「提示させ」という言葉、及び「開示させ」という言葉がございますし、第二項には提出させる、こういう言葉がございます。この解釈がまず非常に問題になるのではないか、すなわち、それが相手方任意に基づくものであるか、あるいは強制要素が含まれるものであるか、ここが最も重要な問題点であると思うのであります。この点につきまして、ちょうだいいたしました資料の十五ページの終わりから二行目に「相手方の行なう提示開示提出行為を前提とし、警察官捜索したり、差し押さえたりする権限を認めたものではない」、こういういわば逐条説明がございます。しかしながら、このような政府説明というものは、必ずしも法律が制定された後において法定の解釈によるものではないのでありまして、法律はそれ自体走り出すものでございます、したがって、もしこの逐条説明決定解釈であると、そうしてそれをずっと通用させようというお考えでありますならば、なぜこの点をはっきり明文化されないのか。これが私の第一の大きな疑問でございます。この点、現存のこの改正案と非常によく似ておりました、かつて昭和三十三年の警職法改正案の第二条四項には、明らかにその趣旨規定があったのであります。すなわち、その改正案条文を読みますと、「前三項に規定するものは、刑事訴訟に関する法律規定によらない限り、身柄を拘束され、その意に反して警察署に連行され、答弁を強要され、」その次でございますが、「または差押え、もしくは捜索をされることはない。」、こういうふうに明文規定をもって、今の点のいわゆる任意的なものであるということを明確にしていたのでありますが、今度の改正案にはその点が全く欠けているように思われるのであります。  それでは、そのような明確な規定が欠けている法案におきまして、その解釈は、どのようになる可能性があるかといいますと、私は、大いに強制的な要素解釈の中に持ち込まれる可能性があると、こういうふうに思うのであります。決してそれは私の主観的な意見ではございませんで、従来の類似立法例を見ればそのことがはっきりいたすのであります。すなわち、従来の類似立法例といたしましては、警職法の第二条第一項に「停止させて質問することができる。」、こういう条文があるのであります。そしてこの条文におきましては、「答弁を強要されることはない。」、こういうふうな規定がございますけれども、「停止させて」ということにつきましては、何らの制限文言がないのであります。  そこで、この解釈をめぐりまして、次に警察方面解釈検察方面解釈裁判所方面解釈を、代表的なものを申し上げたいと思うのであります。  まず、警察方面解釈といたしましては、こういうことを言っておられる著書がございます。すなわち、ある程度停止要求、すなわち相手方停止しようという意思を持たせるようにする程度要求、たとえば前方に立ち、手を広げて通行をはばむとか、相手方の肩に手をかけるとか、自転車の荷台に手をかけてとめるという程度のことは、不当でないと解される。これが著書の名前もここにあるのでありますが、時間の関係で省略いたしますが、これは警察方面の方の著書だろうと思うのでありますが、これがございます。  それから、その次に検事の書かれたものの中に、こういう文書がございます。停止要求に応じなかった場合には、妥当な方法によって、腕力停止させることも差しつかえないというのであります。その検事の方は、これを中間的任意手段、いわゆる強制手段でもなく純然たる任意手段でもないところの中間的任意手段という言葉をもって表現されているのであります。しかしながら、その中間的任意手段ということは、これは同時に、中間的強制手段でございまして、これはどちらにつくかといいますと、少なくとも強制要素が相当入ってくることは否むことができないと思うのであります。腕力停止させることも差しつかえないということが、なぜそれが任意であるかといいますと、私はこれは強制と解すほかはないと、こういうふうに思うのであります。  それから次に裁判所方面判例を二つほどあげますと、第一の判例といたしましては、こういうのがございます。巡査挙動不審者に対して職務質問をする場合、査問に応じないで逃げようとする者に対し、肩に手をかけることは、正当な職務行為である、というのが札幌高裁のかつての判例にございます。  それから次に、巡査が、どうしても逃げるのかと言いながら、その腕に手をかけたことも、任意停止しない同人を停止させるためには、この程度実行行為に出ることは、まことにやむを得ないことである、こういう判例がございます。  このように、行政及び司法解釈がすでに相当出ておりますコンテストのもとで、改正法の以上のような規定解釈には、必ず、その逐条説明にむしろ反しまして、強制が加わるということは、これはむしろ明らかではないかと思うのであります。そうしてそのことは、また、ちょうだいいたしました資料の五十四ページにあげてあるところの具体的実例からも推察できるのではなかろうか。おそらくこの資料にあげました例は、このような具体的実例があるから、このような今度の第二十四の二というような条文をもって対処しなければならない、すなわち、この必要な根拠を説明するところの例であろうかと思われるのでありますが、この例を見てみますと、二十四条の二を全く任意的なものであるとするならば、決してこのような事例に対処し得るところの値打のあるものではない、こういうふうに考えられるのであります。すなわち、相手方が「提示」「開示」あるいはまた「提出」を拒んだ場合におきましては、ちっともこの事例に対処し得ることにはなら、ないのであります。したがって、このような事例に対処し得んがためには、おそらくは強制の契機がそこに加わらなければならない、こういうふうな解釈にならざるを得ないと思うのであります。  以上のようにいたしまして、この条項に強制要素が見られるといたしますならば、市原先生も申されましたような憲法第三十五条との関連が直ちに問題になるのであります。すなわち、何人もその所持品について、「捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条」——これは逮捕の場合でございますが——「第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。」、この規定との関連が問題になるのであります。すなわち、この条文には、第二十四条の二は、どこにも令状というものを受けるというような規定は書いてないのであります。もちろんこの条文解釈につきましては、通説は、直接には刑事手続に関する規定である——この点は私もまた否定しないのであります。しかしながら、本条司法官憲の判断によって人権侵害を防止しようとしている趣旨にかんがみますと、行政手続においても、性質の許す限り、本条が類推適用さるべきである。これも先ほど御紹介になりましたように、通説でございます。そうしてまた、私もこの通説に賛成するのでございますが、ただ性質の許す限り、本条が類推適用されるかどうかという点について、私は意見を異にするのであります。すなわち、第三十五条が——憲法でございますが——類推適用されるかどうかについての基準には、二つあると思うのであります。第一は、強制手段であるか、任意手段であるかという点でございます。第二は、それが行政目的であるか、刑事目的であるかという点でございます。  この点につきましては、かつて——すなわち、昨年の銃刀法改正法案の立案に関係せられたと思われる警察庁の公務員の方が、ある雑誌の座談会で、こういう発言をしておられます。すなわち、われわれのほうは、事柄が任意手段であるということと、それから行政目的であるということから、憲法に触れるおそれはないという考え方を持っております、このように言われておりますが、しかしながら、強制要素が認められるということは、すでに申し上げたとおりでございます。  次に、行政目的であるかどうかという点につきましては、これは、なるほど純然たる行政目的事例も相当外くあるのであります。たたえば消防法第四条に、消防職員火災予防のために必要があるときは、仕事場、工場等に立ち入り、検査ができる。あるいは食品衛生法第十七条に、営業場所等に臨検、検査することができる。こういうふうな法律は、これは全く行政目的でありまして、特定の犯罪捜査というような刑事目的とは全く異なっているのでありまして、問題はございません。しかるに、この銃刀法におきましては、犯罪捜査と密接な関連を持っているのであります。すなわち銃砲刀剣類等所得自体が禁止され、しかも、これが、犯罪とせられている、すなわち銃砲刀剣類等は、殺人あるいは傷害等の他の犯罪手段であるとともに、また、その手段であるがゆえに、それ自体所持が禁止され、しかも、犯罪とせられておりますのは、銃刀法の第三条及び第三十一条第一号によって明らかであります。したがって、具体的な場合におきまして、一体不法所持を処罰するための刑事手続であるのか、そのような犯罪捜査とは関係のない行政手続であるかということは、必ずしも明白ではないのでありまして、そのような場合においては、むしろ令状がなければ、このような強制手段に出ることができないということが、むしろ当然ではなかろうかと思うのであります。もっとも本条には、先ほど市原先生も述べられましたように、「異常な挙動その他周囲事情から合理的に判断して他人生命又は身体危害を及ぼすおそれがあると認められる場合」、こういう要件が加わっておりますから、したがって、これは行政目的であると解する見解もございます。しかしながら私は、必ずしもこのような文言があるからといって、行政目的であるというふうに考えるわけにはいかないのでございます。なぜならば、銃砲刀剣類等所持しているということ、及び他人生命等等危害を及ぼすおそれがあると設められる等の場合、このような場合におきましては、たとえば刑法第二百一条の殺人の予備、及び第二百三十七条の強盗の予備、このような犯罪の嫌疑をかけ、そうしてその捜査手段として、その職権を行使するというようなことにも見られるからでございまして、他の純然たる行政目的の場合と違いまして、やはり犯罪捜査と密接な関係がある、こういうふうに解せざるを得ないのであります。  以上、要するに本条項は、「開示」「提示」「提出」という点に強制要素が見られるということ、及び犯罪捜査と密接な関連が見られる。この二点において憲法第三十五条に違反する疑いがあるというふうに解せられるのであります。もしかりに任意手段であるということを明記いたしますならば、一応違憲の疑いを免れることはできましょう。そのかわりまた、ほとんど所期の目的を達成し得ないだろうと思われるのであります。なぜならば、犯罪者が凶悪であればあるほど、「開示」「提示」「提出」の命令というものを拒否するであろうことは容易に予想できるのでありまして、その場合には、警察官は何事もなし得ないはずであるからであります。すなわち効果を上げようとするならば、違憲違法のおそれが生ずる、また逆に適憲適法ならんすれば実効がなくなる、こういう宿命を持つものが本条項ではなかろうか。したがって、本条項の制定の理由というものは、私にとってはあまり解することができないと思うのでございます。  それでは簡単でございますが、この辺にいたします。
  6. 小林武治

    委員長小林武治君) ありがとうございました。  ただいまの御意見に対しまして、御質疑のある方は御発言を願います。
  7. 秋山長造

    ○秋山長造君 市原先生にお伺いしますが、二十四条の二の御説明の中で、もしこういう場合に強制ならば、「本人の意に反しても」という文言を入れるのが通例だというお話があったのでございますが、そういう例がありましたらお教え願います。
  8. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) ただいまの御質問でございますが、それにつきましては、精神衛生法の二十九条の一項、三十三条、三十四条、四十条というようなものが例としてあげられるのじゃないかと思います。
  9. 秋山長造

    ○秋山長造君 私、精神衛生法の内容をちょっと今わかりませんのですが、こういう今の銃砲刀剣類の取締法のような警察法規ですね、こういう警察法規について、何かそういう例がありますか。
  10. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 私は、ただいまの問題につきまして調べて参りましたのは、精神衛生法の規定でありますが……。
  11. 秋山長造

    ○秋山長造君 私も精神衛生法まだよく承知しないのですけれども、われわれがこの委員会あたりで警察法規を取り扱って参った経験からいいますと、通例の場合、こういう法規で、特に本人の意に反しても提示させるんだとか、開示させるんだとか、あるいは提出させるんだとかいうような言葉を使った例をいまだかつて見たことがないのですがね。精神衛生法の場合は、おそらく私の即席での想像ですけれども、こういう警察関係の法規とは建前、目的その他が違う場合ではないかと思うのですがね。やはり今の銃砲刀剣類の場合は、特にこの二十四条の二のような条文については、これは読んだだけでは、一体強制なのか任意なのか、そこらがはっきり条文に出ていないというような書き方をしているのが通例ではないかと思うのです。そこに強制なりや任意なりやということで解釈上の問題が出てきて、実際の取り締り面でいろんな行き過ぎがあったり乱用があったりすることになっておるから、今も問題になっているのじゃないかと思うのですがね。確かに、「提示させ」あるいは「開示させ」あるいは「提出させ」という言葉は、われわれの日本語の常識からすると、やはり何らかの「させ」というのですから、こちらの力が相手方にある程度加わるということも考えざるを得ないのですけれども、この条文について、そういう強制要素が全然加わる余地がないということが断言できるのでしょうか。
  12. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 法令の一般的な用語の用い方でございますが、たとえば、出入国管理令の十三条の三項その他にもございますが、出入国管理令の中の一つ、それから関税法のほうでも四十八条の一項とか、たばこ専売法の四十九条の一項、二項というふうなところに「させ」という言葉がやはり用いられておりますが、こういった場合には、強制的な要素は入っておらない、任意的なものだというふうに私ども考えております。で、先ほど精神衛生法というものと警察というようなものは建前が違うのではないかという言葉がございましたが、その点、全く私も同じものというふうには理解しないのでありますが、しかしながら、国民の自由というようなものを制約する、国家権力によって制約するという点においては、問題が同じだ。そうしますと、ここに問題になっておるのは国民の自由、これが問題になっているわけですから、その点が同じだというならば、大体精神衛生法の規定の仕方というようなものと、この銃刀法規定の仕方というものと類似して考えることも可能ではないかというふうに考えます。
  13. 秋山長造

    ○秋山長造君 さらに教えていただきたいのですが、たとえば、この銃砲刀剣類の法律の中でも、ずっと条文を読んでいきますと、同じような意味のようにも受け取れるのですが、また違うのかもしれませんが、ある場合には、何々をさせるという「させ」という言葉を使い、またある場合には、「求める、」何々することを求めるという言葉を使っているのですね。たとえば、現行法二十四条の二項に、許可証あるいは登録証の「提示を求める」というような言葉を使っております。それからまた二十五条には「当該銃砲又は刀剣類提出を命じ」云々という言葉を使っている。第二十七条にも「総理府令で定める手続により、その提出を命ずることができる。」というような言葉を使っておるのですが、「させる」あるいは「求める」「命ずる」というような言葉が違ってあるのですけれども、これは専門的にごらんになって、何かそこらの言葉づかいの微妙なニュアンスの違いで、強制的な要素が強いとか弱いとか、任意的な要素が強いとか弱いとかいうようなことが言えるのですか、どうですか。
  14. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 私はこう考えております。「提示させ」という場合と「提示を求める」という場合には、はっきりどの程度の違いがあるのかということにつきましては、どうもあまりはっきりした回答は申し上げられませんが、若干はやはりニュアンスが違うのではないか。「求める」という場合のほうがやや強制的な要素というのか、あるいは逆に言えば任意的な要素、どちらからでもいいのですが、強制的な要素が弱い、あるいは任意性の要素が強い、こういうふうに考えております。「命ずる」ということと「させ」ということについてでありますが、「命ずる」というのは、一応義務を課する。「させ」というのは、事実として、そういうものをさせる一種の事実行為、「命ず」というのは下命行為だ、こういうふうに考えるわけでございます。
  15. 秋山長造

    ○秋山長造君 有倉先生、今の点は、先生はどういうふうにお考えになりますか。
  16. 有倉遼吉

    参考人有倉遼吉君) 私は、「求める」場合には、純然たる任意ではないかと思うのです。「命ずる」ということになりますと、相手方に義務を課しますので、むしろ反抗してはならない、拒否してはならないということになります。「させる」ということは、その中間段階でございますが、日本語の用例といたしましては、それ自体強制という要素を含めて考え得る文言ではなかろうか。しかしながら、文言だけでは、もちろんどちらともなかなかはっきりはいたしませんので、私は、その従来の解釈を持ち出したのでございますが、少なくとも強制の、要素をその文言自体に認め得るのではなかろうか、文理解釈だけからでも認め得るのでなかろうか、こういうふうに考えております。
  17. 秋山長造

    ○秋山長造君 そういたしますと、これはいささか立法論のような問題になりますが、両先生のこの二十四条の二項についての御見解は、一方では相反しているようにも受け取れますけれども、またしかし、これがあくまで任意ならばよろしい、強制がいささかでも伴うならば、これは憲法違反だ、こういう点では一致していると思うのです。そうしますと、さっきのように、「求める」と「させる」という言葉の違いで、若干の強制的な要素の大きい、小さいというニュアンスの違いがあるということも両先生とも御見解は一致しているように思うのですが、たとえばこの二十四条の二の第一項「銃砲刀剣類等であると疑わたる物を提示させ、」、あるいは「開示させて」というのを、たとえば「疑われる物の提示を求める」とか、あるいは「疑われる物の開示を求める」、あるいはさらに第二項で「これを提出させて」というのを、「これの提出を求めて」というような言葉づかいをかりにするとすれば、先ほどお話のありましたような、強制が伴えば憲法違反だ、しかも、事実上強制が伴うおそれが多分にあるという点は多少でも緩和されるものでしょうか、どうでしょうか。
  18. 有倉遼吉

    参考人有倉遼吉君) 私は、おっしゃいましたとおりに、要するに前の警職法改正案のように、差し押え若しくは捜索をされることはないという趣旨規定を入れました場合においては、違憲の問題は解消し、また、事実上も強制要素が少なくなる、あるいはなくなるのだろうと思うのでございます。ただし、そのかわりに、そういたしますと、この法律はここに資料にあげましたようなこういう事例に対処することができないのではないか。そうしますと、有害ではないかもしれませんけれども、無益な法律になる。したがって、はっきり言いますと、この条項は、憲法違反の現行法のままであれば有害のものであるか、あるいはそうような条項を入れた場合におきましては無益なものであるか、いずれにしてもどこに存在理由があるかということは、私はよくわからないということでございます。
  19. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 先ほど秋山委員から申されたことですが、強制がいささかでも入れば憲法違反だというふうに、私の申し上げたことを御理解になったようでございます。もしそう御理解いただいたとすれば、私の説明が足りなかったからであります。私は、強制がいささかでも入ったら憲法違反だ、三十五条がかかってくるのだというふうには考えておらないのでございます。強制という問題がどの程度かということもございますが、まず憲法三十五条というものは、行政手続については、できるだけ類推適用しろ、強制の度合いによっては、類推しなければならない場合も出てくるだろう。しかしながら、それが必要最小限度強制であれば、必ずしも行政手続だから憲法三十五条はかかってこないというふうに申し上げたつもりでございます。その点、私の舌が足りなかったことをおわび申し上げます。  それからなお、強制かどうかということでございますが、これははっきりと強制任意という両極端に結論を分けてしまって、そのどっちかに入れてしまわなければならないのだということになりますと、私はやはり「させ」ということは「求める」ということよりは、おっしゃるとおり、若干任意的なものが少なくなってくる、強制的なものがふえるとは思いますが、しかし、それでは強制という完全なカテゴリーに入ってしまうかと申しますと、それは入らないというふうに理解しております。
  20. 秋山長造

    ○秋山長造君 そういたしますと、先ほどの現行の警職法につきまして、「停止させて」という解釈について、警察なり検察庁なりあるいは判例なりで、中間的任意手段といいますか、中間的強制手段として、そういう解釈である程度の実力を用いることは、これは強制に入らぬということになりますか。
  21. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 「停止させ」ということと「提示させる」ということとは若干実体が違うのじゃないかという気がいたします。と申しますのは、「停止」という場合には、いわば本人の行動に積極的なものが予想されない。これに対して「提示」という場合には、本人のほうに積極的な行動がある程度予想される。それを前提として初めて「停止させ」ということが成り立つわけでございますから、したがって、同じ「させる」ということがついておりましても、その前に出て参ります「停止」「提示」ということの言葉の違いが、結果としては、強制の度合いとして、強い弱いということに当然影響を持っていると思います。したがって、「停止させ」という警職法の第二条の第一項の規定が、そういう判例を導き出しているということから、直ちに「提示させ」「開示させ」というものが、それと同様な判決になってくるということについては、これは論理的には申せないように思うのであります。
  22. 秋山長造

    ○秋山長造君 これは言葉を返すようになりますが、私らの常識から申しますと、歩いているのをちょっと立ちどまらせるという場合と、それからふところに持っているものをわざと提示提出させ、差し出させるというのでは、これはニュアンスの違いはあることはありますが、しかし、停止させるということよりも、持っているものを提出させる、差し出させるということのほうが強いように思うのですが。
  23. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) させた結果は強いというふうにお考えになるかもしれませんが、警察官のほうで発動する——発動という言葉はいいかどうか知りませんが、警察官のほうから見た場合には、相手方が出そうとしなければどうにもならない、提示のほうはそういうことになる。これが停止ということになりますと、相手方が積極的な行動に出なくても停止させることが一応可能なわけでございます。
  24. 秋山長造

    ○秋山長造君 その点がわれわれどうもなかなかはっきりつかめないのですが、「開示させ」「提示させ」「提出させ」ということは、これはあくまでも相手の行動であるというふうに今おっしゃったように思うのですが、しかしそれならば、さっきの有倉先生のお話じゃないけれども、純然たる任意で、だからこの説明の中に書いてあるような実例に対処する効果は期待できないのじゃないか、結局こんなものは意味ないじゃないかということに結論としてなってくるのじゃないかと思うのです。具体的な例をあげてお尋ねして見解をお伺いしたいと思いますが、警職法の「停止させる」という場合には、警察官解釈も検察庁の解釈も、一審においては、全部違憲だということになったのだが、第二審において、くつがえされたというような判例になっておりますが、この銃砲刀剣類の場合に「提示させ」「開示させ」あるいは「提出させる」ということを警察がやる場合に、相手に手をかけて、たとえばふろしき包みを持っている、それをあけろ、あけない、その場合に、警察官のほうが手を出して、そのふろしき包みを自分のほうへ引き寄せた、あるいはそのふろしき包みの結び目をちょっと引っぱってとかせるとか、そういうことをやる場合が具体的には、あり得ると思う。それは一体合法なんですか、あるいは違法なんですか、そういうことは。
  25. 小林武治

    委員長小林武治君) 議論を、あるいは討論をするわけではありませんから、お互いに質問に答えるとか、あるいは疑問を伺う、こういうことにひとつ願いたいと思います。
  26. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 私は、やはり今申しましたような意味合いにおきまして、提示させるというような場合には、たとえばポケットがふくらんでいる、それがどうも拳銃だとかあるいはここで規制されているような銃砲刀剣類等であるというふうな場合に、それにちょっと上からさわるというふうなことは、たとえば私どもが電車の中で、これは失礼なやつだといわれるかもしれませんが、一応「あなたはナイフを持っているのですか、そんなものを持っておったのではあぶなくてしょうがない」と言って上からさわる、それを失礼なやつだということで怒られることもございましょうが、この程度のことでは強制ということにはならない。しかし、こっちからポケットの中へ手を突っ込む、ふろしき包みの結び目に手をかけるということになりますと、これは提示させる、開示させるということではおおえないのだ、こう思います。一般的に相手のほうに、「あなたの持っているものを見せて下さい」、こういうことはわれわれでも、通常出しゃばりな方ですとやることでございますが、これはまあ、その点では強制的なものは一つも入っていないわけですから、差しつかえないとは思いますが、さらに進んで、その警察官の場合に、それを何とかして出させよう、あけさせようとするために、説得していくということが、この条文によってある程度可能になってくるのじゃないか、そうすると、先ほどの、お言葉を返すようですが、有倉先生がおっしゃたような、全然効果がないじゃないかということも、説得ができるということによって、従来よりはより一そう効果が上げられる、ように思いますので、この点、私は有倉先生と意見を異にするわけであります。
  27. 秋山長造

    ○秋山長造君 その場合に、議論のようなことになって恐縮ですが、専門家にこれは教えていただきたいという気持で申し上げるのですから……。たとえば銃砲刀剣類は、銃砲刀剣類等という具体的な規制をしているから警職法の場合とは違うわけなんですが、しかし、何分にも対象が小さいので、六センチといったら、われわれが普通持っている肥後守あたりが六センチですから、だからそういうものを、特に冬あたりはお互いによけい着込んでいるわけですよ。ポケットなんかに、たとえば六センチくらいのナイフを持っているというような場合、法文の上では銃砲刀剣類等と明定してあっても、実際にはピストルを持っていれば、ふくらみ工合が勘でわかるわけですが、対象が小さいだけに、条文の上ではこういうふうに具体的にきめてあっても、実際やる場合には、結局警職法の改正あたりで凶器その他云々というようなばく然とした規定がしてあったのと同じようなことになるのではないか。したがって、まかり間違うとこれが根拠になって、所持品検査のようなことに使おうと思えば使われる余地は大いにあるのじゃないか。先ほど先生がおっしゃったように、そこになると警察官の一人々々の資質、教養というようなもの、心がまえというようなものに関係してくる面があると思うのですが、しかし、そういうことだけにわれわれがたよっていくわけにもいかぬので、そういう心配はないのですか。
  28. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 第二十四条の二という規定の要件を見ましても、「警察官は、銃砲刀剣類又は第二十二条に規定する刃物」、 カッコの中を省略いたしますが、「を携帯し、 又は運搬していると疑うに足りる相当な理由のある者が、」云々という第一の要件でまずしばりまして、さらに「異常な挙動その他周囲事情から合理的に判断して」云々というような、そういう非常に強い制限が要件としてかかって参りますものですから、私、その点の危険性が絶無だというふうには断言はできませんが、相当程度というか、ほとんど緩和できるのではないか、こういうふうに理解しております。
  29. 秋山長造

    ○秋山長造君 有倉先生にお尋ねしますが、今度の法案は、去年出た法案につけ加えて、その四項で乱用してはならないという訓示規定を入れているわけですね。この訓示規定というものがこの一項、二項に対してどれだけの効果があるものだろうかということを考えるのですがね。それを専門的にごらんになってどういうようにお考えになりますか。
  30. 有倉遼吉

    参考人有倉遼吉君) これは、いわゆる憲法第十三条にも現われておりますし、また、いわゆる警察比例の原則といわれる原則にも現われているような原理を明文化したにすぎないのでありまして、むしろこれは当然の規定ではなかろうかというふうに私は思うのであります。したがって、これが入ったことが、全然何も意味がないとは申し上げませんけれども、非常に抽象的に過ぎて、このような文言を入れるくらいならば、やはり差し押え、もしくは捜索をされることはないとあった警職法のような規定を入れたほうがむしろいいのではなかろうか、こういうふうに考えておる次第です。
  31. 小林武治

    委員長小林武治君) ちょっと、有倉参考人はもうわずかの時間でお帰りになりたいそうですから、御了承願います。
  32. 鈴木壽

    ○鈴木壽君 市原先生にお尋ねをいたしますが、今、いろいろ秋山さんからもお尋ねがありましたのですが、やっぱり私も、二十四条が、これはいろいろ心配される点だろうと思います。そこで、提示させるとか、あるいは開示させる、あるいは提出させるというようなことが強制にわたるのかわたらないのかというようなことが問題になってくると思うのですが、この文章だけからすると、任意にまかせておくのだというようなことにもなると思います。ただ、しかし、この提示をさせることができる、あるいは開示させることができる、あるいは提出させることができると、こういうようなこと、これは一体はたして任意の段階で済むかどうかということについては、ちょっと私、やっぱり心配のところが実はあるのでございます。しかし、これは日本語の使い方なり、あるいは私どもの解釈からしてあるいは考え過ぎかもしれませんが、ただ、この資料の中にあります五十四ページから五十六ページにわたるこの事例から、ここにあります二十四条の二の一項関係、二項関係、ここにあります幾つかの事例は、これはいわゆるほんとうの意味での任意の段階であって、その任意の段階で済ましたからその後犯罪なり問題を起こした、こういう事例なんでございますね。これではいけないからこのような、今回のような法改正をしなきゃならぬのだと、こう思うのです、裏を返せば。だとしますと、単なる任意とかなんとかということでは済まされないのじゃないか。相当強い、——ふところへ手を入れるとか、あるいはふろしきをひったくって中を調べるということまでいかなくとも、相当強い何かがなければ、やはりここにあげた事例のようなことに終わってしまう、こういう私は心配はあると思うのですね。で、私どもも何か今のいろいろな小犯罪のそういう例から、特に刃物を持った、銃砲刀剣類によってのそういう問題について非常に心配をします。何か効果的なそういうものが必要ではないかということは私どもも考えます。しかし、調べたり、あるいはあけて見せてもらったり、あるいは提出させるということ、そのことがやはり強制にわたるということについては、これは先ほどから両先生のいろいろなお話もございましたが、やはり特に私ども問題として考えなくてはならぬというふうに思っておりますから、そういう前提に立って、このあげられました事例、それから今の二十四条の二の一項、二項、こういうものですね、これからしますと、私はやはり相当な、ある程度の物理的な力、とまではいかなくても、相当な力がない限り、目的は達せられないんじゃないだろうか、こう思うのですがね。そこら辺、どういうふうにお考えでございましょうか。
  33. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) ただいまの御質問でございますが、確かにこの二十四条の二というふうなものができ上がりましたことによりまして、おっしゃったように、物理的な強制というものはこれはもちろんあり得ないわけでございますが、ある程度警察官としては強い態度がとり得るように思える。そのことは、私も先ほど申しましたように、「させ」というふうなことが求めるということと比較してみますと、非常に微妙なニュアンスの相違だろうが、やや強制的なものが入ってきているというふうには考えられる。ただ私が申し上げたいのは、その程度強制ということでありますと、今申しましたような意味強制でありますと、憲法三十五条の類推適用すべき場合としての強制には当たらない、こういう理解でもって強制という言葉を避けているわけでございます。  それからまた、それでは実際、この具体的な事例の場合にどうにもならないんじゃないか、対処されないんじゃないかという御質問でございますが、私はこのやり方いかんと申しますか、説得の仕方、これは先ほど来言うように、警察官に対する相当高度の教育をしなければならぬと思いますが、そういったものがうまく運営されるならば、全然そういう危険がないというふうに——乱用にわたる危険がなくて、しかも今まで取り締まりのできなかったようなそういう凶悪犯罪を抑えることができるんじゃないか。従来でございますと、ただ、相手のほうでいやだと言えば、それ以上は法律的には公務の執行としては保障されない。したがって、警察官としてはそこで立ちどまらなければならないということでございますが、この二十四の二がございますと、警察官がかなり時間をかけて説得するということが公務の執行として法的に保護されるという問題が出て参りますので、その点、やはり違うのではないかというふうに考えております。
  34. 鈴木壽

    ○鈴木壽君 先ほどもお尋ねがありましたし、それからお答えもございましたんですが、停止させるというような場合とこれは一応事情が違うということもわかりますが、停止させる場合に、これは前の判例か何かにあったと思いますが、歩き出した、あるいは足早にいわば逃げ出したような格好の場合に、追っかけていって肩に手をかけて引き戻してもこれは違法にならぬ、こういうこともあったと私は記憶しているのでございますが、こういう場合、今言ったように、多少そこら辺は停止させると違うという先ほどの先生のお話もございましたが、開けといっても開かない、見せろといっても見せない、あるいは提出しろといっても提出しない。これは説得といってもいろいろあると思うのですが、その場合に——端的にお聞きしますが、ものに手をかけたりするようなことは、今度の改正条文からしますと、何か包みを持った場合に、それを見せろと、出せと、開け、こういうような、ものに手をかけるような段階は、これは先生どういうふうにお考えになりますか。
  35. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) ものに直接手をかける、その程度の差が非常に微妙でございますけれども、先ほど申し上げましたように、ポケットの上からどうもおかしいというので触れるという程度でございますと、私はまあこの規定でいけるのではないか。しかしながら、さらにそういうことが進んで、そのものを押えてしまうというふうなことになりますと、これはもうやはり二十四条の二ではいけないのではないか。したがって、それは公務の執行として警察官行為法律的には保護されなければならない。したがって、それに反抗しましても、公務執行妨害罪が場合によっては成立しない、こういうことになってくるのではないかと思います。判例が先ほどから多分に出ておりますが、私も先ほどちょっとお断わり申し上げましたように、判例をまだ十分検討してないので、あまり断言的なことは申し上げられませんが、やはり事情によりまして、その合法と認められる程度が違って参りますので、一がいにいかなる場合でも肩に手をかけるのは適法だ、こういうことにもならないのではないか、こういうふうに思いますが、判決の中の事例をもう少し私検討してみないと、その点は何も申し上げられませんが、一般的な考え方としては今申し上げましたような、肩に手をかけることはいつでも当然に合法なものとして、警察官行為として法的には保護される、こういうふうに考えております。
  36. 鈴木壽

    ○鈴木壽君 簡単に。過去の判例を私今全部記憶しているわけじゃございませんが、それを見ますと、さっき申しましたように、いわば逃げ出したような状況のときに追っかけていって、肩に手をかけて引き戻した、それも正当なんだというようなこと、それからあるいはそのときに怪しまれた男が、「何をするのだ」、こう言って、多少乱暴というとこまではあるいはいかないかも、しれませんけれども、いわば抵抗を示したのだ、これはもう正当なその警察官の任務の遂行にどうもじゃましたのだ、妨害したのだ、こういうふうなこともあったやに私今ちょっと思っておりますが、それは私も今申し上げましたように、ここにはっきりした書いたものを持っておりませんから、これはまああとで私もう一度調べてみたいと思いますが、そういうようなことからしますと、ここの二十四条の二の第一項なり二項なりの提示させることができるのだ、開示させることができるのだ、提示させることができるのだというような、「できる」ということのまあ法律的な解釈は、これは必ずしも私が今言うようなことばかりじゃありませんけれども、いわば任意制なんだ、こういうようなことにもなると思いますが、しかし、これからくる一つの警察官のまあ権限としましては、できることをやったのだと、こういうふうなことにも私はなるのではないかと思うのですから、そこに非常に私ども心配するところが実際あるわけなんです。ひったくって、ものを、ふろしき包みをあけて見るとかいうようなとこまでいかなくても、そこに相当何といいますか、強制にわたることが出てきやしないかということを私はおそれます。そういう意味においてそういうことの心配のないような、何かの規制なりしぼり方なり、これが必要じゃないだろうか、こう思うわけなんです。もちろん前段においていろいろしぼり方もありますけれども、たとえば周囲事情から合理的に判断する、こういっても、一体合理的な判断というものはどういう状況の場合において、どういう点からだれがやるのだというようなことになりますと、必ずしも客観的に見て、それこそ合理的だというふうなことはいつでも言えないのではないだろうかというようなことも私どもも思いますので、そういう点から、何か私はやはりこういうことを、これが任意的なものであるならそれなりに、別の表現があってしかるべきだと思うし、あるいは別のしぼり方というものが必要じゃないだろうかというふうに思うのでございますけれども、その点いかがでございましょうか。
  37. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) その点のことでございますが、一般的に確かに「開示させて」というふうな、「させて」というふうな言葉が出て参りますと、何か強制的なものが入るというふうな、常識的には考えられますが法令の、私は先ほど申し上げましたことを繰り返すようですが、用語の問題といたしましては、やはり強制的なものが入らない場合をこういうふうなことで表現するのだ。それからまた、先ほどの停止という問題が出ておりますが、停止を求めるというのと、停止させるというのと、それから開示、あるいはこれはまあ提示ということと同じことになりますが、提示開示を「求める」というのと「させる」というふうなことは、非常に微妙でございますが、そこに相当何といいますか、一応の区別ができるのじゃないか、というのは、「させ」と「求める」ということでは、「求める」というほうが任意性が強い。しかしながら、今度前にくっついておるものが提示であるか停止であるかということによって、まあ同じ求めるという言葉が使われておりましても、任意性の度合いが違ってくる。だから、そういうふうな図式的なことがはたして正確に申せるかどうか疑問でありますが、非常にこれは大ざっぱな例としてお考えいただきたいのでございますが、停止を求めるというのは、少なくも提示を求めるよりは、若干任意性が少なくなる。提示を求めるほうが停止を求めるほうよりやや強くなる。それから今度提示させるというのと停止させるでは、やはり停止させるというほうが任意性が弱くなりまして強制度はやや強くなる。  次の、「停止を求める」ということと「提示させる」ということはどうかということ、これが大体私は同じぐらいの、強制とか任意とかいう問題では大体同じくらいに当たっているのじゃないか、こういうことは一応法律の用語の上で区別ができるように思うのであります。したがいまして、まあなるほど、「させて」というふうな言葉でございますと、常識的に見ますと疑問があるというふうなお言葉、ごもっともでございますが、法令の用語の一般的な使い方というふうなものを考えてみた場合に、これは明らかに任意的なものである。ただし、「提示させる」は、「提示を求める」、「開示を求める」というのよりは若干説得が強くなるというか、説得に時間をかけることができる、こういうふうなことになるのじゃないか、時間的に少し長くなる、こういうことも言えるのじゃないかと思っております。
  38. 鈴木壽

    ○鈴木壽君 それで、まあ今の最後の言葉の説得でございますが、先ほども申し上げましたように、これは物理的な力は加わらぬ段階と思いますが、そうでなければならぬと思いますが、説得の場合ですね、これは長い時間かけて、これは警察官の態度にもよるのでございましょうが、警察官から長い時間かけられて説得されて、そしてそこの辺にも私はひとつ問題があるのじゃないかと思いますが、やはり説得というやり方にもいろいろあると思いますが、しかし、普通の人間だったら、警察官にとめられてあるいはまあ交番のところに来てもらって、そうして長い時間かけていわゆる説得される。これがまあ心理的にいっても、物理的な力は加わらないといっても、私は、ある程度強制力なりというものが、やはり相当受ける側からしますとあるんじゃないかと思いますが、そういうまあ長い時間をかけて、いわゆる説得という段階であれば、どういうふうになってもそれは強制にわたらないのだと、こうふうにお考えになっておられるのですか。
  39. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 抽象的に申しますと非常にむずかしいのでございますが、やはり確かに提示させるというふうなことで長い時間を説得にかけることができる。それが公務の執行として法的に保護されるということは言えますが、それがどうも心理的な圧迫を加える、いわば、物理的な圧迫ではないにしろ、それに近いものになるのじゃないかという御質問だと思いますが、その点につきまして、どうも私も一刀両断的なお答えができないのでございますが、確かにそういう心理的な強制というふうなものが全然ないということを、いかなる場合にもあり得ないというふうなことを申し上げることはできないと思いますが、ただ、少なくとも、説得に長い時間がかかるということになりますと、それだけ相手方に何かやはり疑わしいものがあるのじゃないかというふうなことも警察官としては感知できるのじゃないか、そういうところも考えて参りますと、この規定というものが乱用になってはいけませんが、相当現在危惧されているような危害の防止という点では、重要な意味を持ってくるように思う、こういうことでございまして、先ほどの「させる」と「求める」というようなことは、私はそういうふうな若干違うように考えておりますが、なお、もう一つの見方としましては、「させる」という場合には、相手方に、これは非常に卑俗な言い方をいたしますと、若干黒いところがあるというふうなときは、「させる」という言葉を使うこともあるようでございます。それに対して「求める」ということは、相手方が白である、そういう場合には「求める」というふうな言葉の使い分けをする場合もないではないのじゃないか、こう思っておりますが、具体的にどういう例があったか私もちょっと失念しておりますが、それはちょっと先ほど「させる」と「求める」とは違うという私の説明のところで申し上げなかったものですから、補足させていただきます。
  40. 鈴木壽

    ○鈴木壽君 結局長い時間かけていわゆる説得をしたが、しかし、説得に応じてものを開いてみた、あるいはからだを調べてみた。しかし、白であったといった場合に、何か救済規定のようなものが必要じゃないでしょうか。そこへ今用事があって行かなければならぬけれども、三十分も一時間も「お前ちょっと」……、「お前」という言葉は今使わぬでしょうが、「君ちょっと」というようなことで、しかし、結局、向こうの約束の時間におくれたとか、何か用事をたすのに時間を食ってしまって、どうもだめになったようなことも私はあり得るのじゃないかと思うのですが、その場合に、結局、この条文に限ったと、こういうことじゃありませんけれども、一般的に言って、何かその場合に損害賠償でもないでしょうが、何か救済規定のようなものが必要じゃないかと思うのですが、その点どうですか、これはくだらないようなことなんで……。
  41. 市原昌三郎

    参考人市原昌三郎君) 私、結局この二十四条の二を発動する場合には、そういう要件がそこに規定されているものですから、こういった今のような実際何も問題がない人がたまたま提示あるいは開示を求められたというふうな場合でございますと、警察官の一種の、極端な場合は職権乱用になる。場合によれば不法行為も出てくる場合もございましょうが、時間がおくれたという程度でございますと、その辺どうなりますか、そこまでははっきりしたことは申し上げられませんが、少なくとも法的にはその限度で公務執行が保護されるようになる、こういうふうに考えております。
  42. 秋山長造

    ○秋山長造君 有倉先生だちょっと一言だけ最後にお尋ねしたいのですが、第五条の許可要件の場合に、「同居親族」というのが入ってきますね。この「同居親族」の点についての先生の御見解をちょっとお伺いしたい。
  43. 有倉遼吉

    参考人有倉遼吉君) 御質問同居親族までそれを、範囲を広げるということは何か疑いがあるというような御趣旨でございましょうか。
  44. 秋山長造

    ○秋山長造君 はい。
  45. 有倉遼吉

    参考人有倉遼吉君) この点は、私は実はあまり気にしなかったのでございますが、やはり親族にそういう者がございましたならば、やはり許可がしぼられるということは、これはやむを得ないのではなかろうかというふうに存じておるのでございます。
  46. 基政七

    ○基政七君 今のことについて、先生、同じような質問になるのですけれども、同居親族にそういう危険な人物がいるということの認定がかなり問題になりはしないかという私は気がするのでございますが、この点は、条文上、この程度のことはやむを得ないというお考えですか。というのは、一応許可をもらう場合に、その人の同居親族にそういう者がいないかどうかということは当然一つの許可要件になりはしないか、その際に、同居親族家族調査等もやるということになれば、昔よくやりましたことに戻ってくるわけですね。その点がいつも認定にあたって多少問題があるような御発言があって、先生は任意以外はおおむねいいんじゃないかという御意見のように伺ったのですが、ちょっとお伺いします。
  47. 有倉遼吉

    参考人有倉遼吉君) 私も、その点御指摘のような懸念はもちろんないわけではございませんが、結局その点につきましては、私はその点の危険と、それから従来の同居親族にそういう人がいて、しかも許可を受けた場合の非常に危険な結果というものを比較いたしてみますと、私の判断ではどうも今のところは、やはりこの点はやむを得ないんじゃないかというふうな判断に傾いておる次第でございますが……。
  48. 小林武治

    委員長小林武治君) それでは、参考人の方には、長時間にわたり貴重な御意見及び御答弁をいただきましてまことにありがとうございました。本日の御意見は、今後の審査にきわめて有意義な参考となりましたことを重ねて厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。
  49. 小林武治

    委員長小林武治君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止〕
  50. 小林武治

    委員長小林武治君) 速記を始めて。  離島振興法の一部を改正する法律案を議題といたします。  まず、提案理由説明を聴取いたします。衆議院議員綱島正興君。
  51. 綱島正興

    衆議院議員(綱島正興君) 離島振興法の一部を改正する法律案の提案理由を申し述べます。  離島振興法の目的は、法第一条に明記されているごとく、離島の特殊事情よりくる後進性を除去するための基礎条件の改善並びに産業振興に関する対策を樹立し、これに基づく事業を迅速かつ強力に実施することにあります。  この法律は、当初、外海にある比較的大面積の島嶼を対象として、昭和二十八年より十カ年間の時限法として制定せられ、前記の目的達成のため、少なからず寄与してきたのでありますが、その後、外海に散在する多数の小面積の島嶼、さらに昭和三十二年以後は瀬戸内海の一部の島嶼が、逐次、離島振興対策実施地域として追加指定せられるに至りました。その結果、昨昭和三十六年に行なわれた第九次指定分までを加えますと、指定地域の数は実に八十九、関係都道府県の数は二十六、離島の総人口は約百三十万人、同じく面積は六千五百平方キロ余に及び、昭和二十八年の法制定当時の指定地域数十一、関係都道府県数六に比較いたしますと、離島振興法の持つ重要性が、飛躍的に拡大いたしていることがわかるのであります。  すなわち、この法律は、昭和二十八年に制定せられたとはいえ、多くの離島の中には、その恩恵に浴していまだ一両年にすぎぬものもきわめて多く、ようやく事業の緒につかんとする島々も少なくないのであります。  さらに昨年の一部改正によって可能となりました島嶼の一部地域の指定のごときは、これから審議会において検討が始められる段階であります。  次に、離島振興法が、かなりの実績を上げていることは前述のとおりでありますが、その事業費を全国の公共事業費と比較してみますと、昭和三十六年、三十七年度とも、一・四〇%にすぎず、いまた離島の人口・面積比の一・五一%に及びません。  さらに最近の情勢を展望いたしますと、都市を中心とした本土のいちじるしい経済成長は、逆に本土と離島との地域格差をますます増大せしめ、離島の自立性強化を一そう困難にしていると言わざるを得ないのであります。  かくて、離島に対しては、国が抜本的な恒久対策を打ち出さない限り、一時的な姑息の手段をもってしては、その後進性を除去することはとうてい不可能であると思われるのでありますが、とりあえず現在の離島振興法あと十カ年間延長し、長期的な振興計画を策定し、もってその振興開発をさらに強力に推進せしむべきであると考えるものであります。  なお、総理府に設置された離島振興対策審議会においても、さきに離島振興法の延長について、満場一致をもって決議され、すでに内閣総理大臣等に意見書が提出あれております。  以上が本改正法案の提案理由であります。
  52. 小林武治

    委員長小林武治君) 引き続き質疑を行ないます。
  53. 秋山長造

    ○秋山長造君 これは超党派の議員立法ですし、それから事柄の重大性、それから同時に緊急性ということはもう十分承知しておりますので、結論的にはこれはもうまことにけっこうだと思うのですが、ただ、やはりこの離島振興の問題につきましても、ただ超党派だからもういきなり即決ということも少しどうも無責任過ぎるように思うのです。また、われわれも、問題はほんとうに離島の問題をよく理解して、そうしてほんとうに熱意を持って取り組まなきゃならぬ問題だと思うのです。そのためには私資料をいただきたいと思うのです。なるほどここに刷ったものを二枚統計数字を並べたものをいただいておるのですが、これを一覧してすぐ離島振興法がこの十年間でどれだけ効果が上がったんだということがわからぬのですね。そこで、できれば企画庁でも専門の課も作られておるわけです。そこらでいろんな離島についての資料の収集調査というようなものを行なわれておるに違いないと思う。そこでその離島振興法の審議をより実のあるものにしたいということで、熱意でお願いするのですが、一体二十八年にこの法律ができて以来今日までいろいろやってきた結果が、それ以前とどれだけ一体変わってきたんですか。ただ、公共事業がどれだけ公共事業に金を注ぎ込んだという資料だけでなしに、この法律以前に比べて離島というものの姿がどういうように変わってきたか、それから文化の面、教育の面あるいは医療の面、産業の面、あるいは所得の面、特に本土は経済成長政策でどんどん変貌を遂げておるというときに、一体離島と本土とがどういうような違いができておるのか、というような、離島振興法施行以来の離島というものの全貌ですね、全貌をこの際一応つかんで、そうしてその上で今後に対処したい、こういう気持を私は持っているのです。  そこで企画庁あたりで何かいわば離島白書もいうようなもの、あまり緻密なものでなくてけっこうですが、簡単にまとめられる程度のものでこの際はがまんしますが、明後日委員会があるわけですが、明後日までになるべくそういう説明資料というものを作っていただけぬもんですか。
  54. 曾田忠

    政府委員(曾田忠君) お答えいたします。今お尋ねの問題は、まことにごもっともなお尋ねだと思っております。われわれといたしましても、離島振興法制定以来の離島のその後のあり方等につきまして実はいろいろ資料の収集をやっておるわけでございます。たとえば、簡易水道、あるいは電気の未点灯状況、そういう方面につきましてはいろいろ資料も集めておりますが、特に一番むずかしい問題は、御承知のように、相当隔離された場所でございますし、また、非常に小さなものがばらついておる状況でございまして、たとえば所得格差が一体どういうふうな変化を起こしておるかというような点につきましては、実はまだ完全にといいますか、あまり実情を把握していない状況でございます。われわれといたしましては、三十七年度に大体現在の離島振興法の適用期間が終わりますものですから、三十七年度中にそういう方面全般につきまして調査を完了したいということで、今準備を進めておるわけでございます。この次の委員会までに、御満足のいきます資料提出は非常に困難かと思いますけれども、現在までわれわれが調べておりまする状況を資料として御報告したいというふうに考えております。
  55. 綱島正興

    衆議院議員(綱島正興君) 実は、この離島振興法を作りますときは、文教に関するもの、厚生に関するもの、こういうものを本土並みにしなくちゃならぬというので、原案はそういうものを非常に立案いたしたのであります。ところが、たいへん抵抗が多くて、どうしてもその案だと予算も食いしてつぶれるようなふうになりまして、そうしてやっと道路、港湾、漁港、電気導入という線に限られまして、その後、簡易水道を少し率を上げていただいたりいたしたのが実際の離島振興法の内容でございます。  一番離島振興法で、いたわしく思っておりますものは、離島でございますために、作る物は安くて、買う物は高いわけなんです。その特別な輸送費が両方ともにかかります。そこで何とかして航路補助を相当十分にしたい、こういう考えもいたしておりますし、それから離島の中には、皆さんがお考え下すってもわかりますように、一つの大きな離島のほかに、またくっついておる離島の離島というやつがあって、二十戸おるとか、あるいは三十戸しかいないという離島の離島がある。ここらにはほとんどお医者さんも何も一人もおらぬ。急病人があれば死ぬばかりなんです。それから学校に行くにしても非常に不利益でございます。そこで、渡海船をひとつ国の補助で作る、そうして僻地教育というものに少し力を入れてもらう。それからいま一つは、これは長崎県なんどは県費の補助でやっておりますが、病院船を作りまして、少なくともエキス光線くらいは備え付けて、手術室も作り、お医者さんを乗せ、そうして小さい島はみんな始終巡回をしておる。そういうふうにいたしますと、どうしてもその経常費の補助が今のところ一文もございませんので、気の毒なものがあるわけなんです。長崎県の例で申し上げますと、毎日船で七十人以上の初診の者がある。それくらいな事情でございますが、これらにもまだ国費はほとんど出ておらぬ。病院船のうち、特に結核療養船と名のつくものについては建造に半額補助がございますが、まだ経費については一文も補助がないというようなことで、非常な篤志な造船主などが半分に近い値段で作ってやるとか、いろいろなことをして、長崎県はそういうことをやっております。全国、特に厚生と教育だけはぜひやりたいと思っておりますが、まだそこまでいっておらぬのが実情でございまして、非常に残念に思っておりますが、それは、山間地がございまして、ここが同様な事態にあって、山間地の救済ということが非常に困難でございますために、やはり一応そこの影響も受けて離島もなかなか進められないという事情にございます。一応離島は、最初これができましてから非常な誤解が——私がこれは代表して提案したのですが、そのときの知事さん方のおもな、長崎県とか鹿児島県、東京都、島根県、新潟県、熊本県というような割合に大きな離島を持っておる知事さん方がおいでになりましての御説明では、離島の現在の公共事業費に五億円毎年加えてもらって、十年間で五十億加えればそれで離島は本土並みになるという御説明で、私どもそう思いまして、そのとおり提案理由説明をしておるんです。ところが、最初審議会長になって調べてみますと、五億円程度の金しか離島にやっておらぬのですよ。それを十三億にし、十九億に、だんだんふやしていったんですが、それじゃまだ本土の頭割にいかないんです。頭割では離島はどうしたって不十分だけれども、たとえば道路を一つ作るにしても、山あり谷ありですから、工事費というものが本土の倍もかかる。そういうものに頭割だけもらったってとてもやってゆけないんだし、人口は少ないし、道路は長いということになりますから、困難でございますけれども、今のところは非常に内端々々にやっておりますが、それ前が非常にひどかったものですから、離島の人からいえば非常なえらいことができたと思っておられ、最初は、提案理由にも申し上げましたように、外海だけで、瀬戸内海などはりっぱになっておると私どもは思っておったんですが、瀬戸内海に電気もつかなけりゃ漁港の修理もできていないところがざらにあります。それで今度瀬戸内海までやるようにいたしたのでありますが、まだ皆さんの御協力を得て離島は何とかもう少し推進していただきたい、こういう考えを持っております。
  56. 秋山長造

    ○秋山長造君 それからさっきの資料につけ加えて、離島の場合いろいろな公共事業の補助率が高くなっておるですね。そういう項目別に補助率が一段と比較してどれだけ高くなっておるというようなことが一目でわかるような表を作って出していただきたい。
  57. 綱島正興

    衆議院議員(綱島正興君) 作って差し上げます。
  58. 小林武治

    委員長小林武治君) それでは、本件は本日はこの程度にとどめます。  次回は、二十二日午前十時とします。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時十九分散会    ————————