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参考人(
市原昌三郎君)
市原でございます。私ふだん
行政法を勉強しております者としまして、この
法案に対します若干の感じましたことを申し上げてみたいと思います。
はなはだ私事にわたって申しわけないのでありますが、実は、このことを正式にお聞きしましたのは、先週の末でございましたものですから、十分な時間的な余裕もなくて、
判例とか、あるいは実際的な問題の検討という面につきましては、かなり不十分なものがあろうかと思います。その点はあらかじめ御了承いただきたいと思います。したがいまして、私がこれから申し上げますことは、このような問題の基本的な
考え方、
行政法学という
立場からして基本的な問題、
考え方というふうなことについて申し上げることになろうかと思います。
さて、この
法案の中で特にここで申し上げる必要もないようなものもございますので、それは
あとで御
質問の際にでもまた問題があればお答えするといたしまして、ごく重要と思われるものだけを取り上げて一、二お話してみたいと思います。
第一は、この第二条の第二項の
関係でございますが、飛び出し
ナイフの
規制という問題でございます。これは最近の
暴力犯罪の激増というふうな
観点からいたしまして、何らかのより強い
規制が必要ではないか。特に実際の
統計等を見ますと、従来
取り締まりの
対象となっておらなかった刃渡り五・五センチメートル以上のもの、これによる
犯罪というものが非常にパーセンテージの上でも多くなっている。したがいまして、これもやはり
規制する必要が特にあるのではないかということでございますので、その点、まあ特に
犯罪とは結びつかないそういうふうなものについては、これを除外いたしまして、全面的に禁止するというのでございますから、
現実の
必要性という点と、また、実際にこれを取り締まった場合の
国民の受ける不利益というふうなものを比較対照してみますと、何と申しましても、その
犯罪を防止しなければならぬというところにウエートが置かれていくのではないか。したがいまして、この点についての
規制は問題がないのではないかというふうに考えております。
次に、オリンピックの問題に
関連しまして問題が出ておりますが、この点につきましては、私は省略させていただきたいと思います。
次に、
許可基準の問題が出て参りまして、第五条の三項になって参るかと思いますが、
家族の
許可の
基準といたしまして、
家族の中に、特にこれは
同居の
親族でございますが、
同居の
親族の中に、「
他人の
生命若しくは
財産又は
公共の安全を害するおそれがあると認めるに足りる相当な
理由がある者」があり、かつ、その者が「申請に係る
銃砲又は
刀剣類を使用して
他人の
生命若しくは
財産又は
公共の安全を害するおそれがあると認められる者」である場合には、
所持許可をしないことができるというふうな
規定を設けるということでございますが、この点、まあ
質屋営業法とか、あるいは
古物営業法を見ましても、そういうふうな
条文はすでに現われておりますが、
質屋営業法でございますと、三条一項の七号、
古物営業法の四条一項の六号というふうなところに出ておりますので、この
程度取り締まりの
規制の
基準としまして広げますことは、現在の状況からいたしまして差しつかえないのではないか、こういうふうに考えております。
なお、しかしながら、これでは十分ではない、それだけでは実際には十分ではない、もっと進んだ
規制をしなければならないのではないかというふうな御議論も出るかと思いますが、何と申しましても、基本的な
人権の藤里という面とからみ合ってくる問題でございますので、その点はまあこの
程度にしぼることが、私は現在の
事情のもとでは適当ではなかろうかというふうに考えて賛成するわけでございます。
次に、第四番目の問題は、九条の二として、
射撃場の
指定等に関する
規定の整備の問題でございますので、これは省略させていただきたいと思います。
第五番目といたしまして、
譲渡制限の問題が入って参ります。この点につきまして、個人間の
譲渡制限につきましては、別段の
規定が設けられておらず、特に大量に取り扱う
製造業者とか
販売業者の
規制を
対象としているわけでございまして、この点におきましても、
公共の福祉からする
最小限度の
必要性を認めることができると思います。したがいまして、この点についても問題はなかろうかとこういうふうに考えております。
次に、第六番目でございますが、第六番目としましては、二十二条を改めることでございますが、
刃物の携帯の
制限でございますが、これは従来、この概念がかなり不明確なものがあったというふうにも思えますので、その点を明確にするという
意味で、あいくち等とございましたのを、これを明確にされたというわけでございますし、さらに、その範囲が若干広がっているわけでございます。すなわち「
刃体の長さが六センチメートルをこえる
刃物を携帯してはならない。」というふうにする。ただし、この場合にも問題がございますので、「
刃体の長さが八センチメートル以下のはさみ若しくは
折りたたみ式の
ナイフ」、こういったようなもの、そのほか「政令で定める種類又は形状のもの」は
規制の
対象とはしないということになっております。この点も最近の新聞その他で見ましても、また、この
あとのほうにございますところの
統計というものを見ましても、相当今まで漏れておったといいますか、はっきりした
規制のなかったものによって
犯罪が
現実には行なわれているという
事例が相当あるようでございまして、その
意味で、このような
規制も必要ではなかろうかと考えております。
次に、最も問題となりますのがこの第七番目の問題でございますが、この二十四条の二として、新しくつけ加えらるべき
規定の問題でございますが、「
銃砲、
刀剣類等」を「携帯し、又は運搬していると疑うに足りる相当な
理由のある者」、これが、「
他人の
生命又は
身体に
危害を及ぼすおそれがあると認められる」ときは、
警察官は、「
銃砲刀剣類等であると疑われる物を
提示させ、又はそれが隠されていると疑われる物を
開示させて調べることができる。」ものというふうにしたいというのが
改正案でございますが、さらに、この「
提示」「
開示」のほかに、この二項になるかと思いましたが、プリントで参りますと三十五ページから六ページでございますが、それが今申しましたようなことで、第一項で、第二項になりますと、「
警察官は、
銃砲刀剣類等を携帯し、又は運搬している者が、異常な
挙動その他
周囲の
事情から合理的に判断して
他人の
生命又は
身体に
危害を及ぼすおそれがあると認められる場合において、その
危害を防止するため必要があるときは、これを
提出させて一時保管することができる。」という一時保管の
規定でございます。この
規定が最も疑問の
対象になろうかというふうに考えるわけでございます。この点に関しましては、
憲法の第三十五条の
規定との問題が出てくるわけでございます。
憲法の三十五条の
解釈につきましては、
通説と申しますか、大多数の学者のとっております
立場は、私も同様でございますが、本来は
刑事手続について適用される
規定である。したがって、当然には、
行政的な
手続については適用がないというふうに考えられるわけでございますが、しかしながら、
行政目的の
作用でございましても、場合によりますと、
国民の基本的な
人権に対する
侵害が相当強度になるという
可能性を持っているものもある。したがいまして、そういう場合については、
憲法三十五条の
明文が、直接というわけではございませんが、その
趣旨を類推適用すべきではないかというのが、これが一般の
通説のように私受け取っておりますし、私もそう考えておるのでございますが、そういう
観点から考えてみますと、
本条の場合、これは明らかに
刑事手続ではなくて
行政目的の
作用である。ということは、この
条文の上で申し上げますと、二十四条の二でございますが、この第二項、三十五ページのところでございます、「合理的に判断して
他人の
生命又は
身体に
危害を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、」というふうにございまして、これは
行政目的であるということが明らかにされております。さらに、第二項の場合におきましても、「その
危害を防止するため必要があるときは、」とありまして、いずれも
刑事手続の
規定ではないわけでございます。したがいまして、第一に、この二十四条の二というものは、
憲法三十五条の直接の
対象にはならないというふうに考えられます。しからば次に、
通説の
立場に立った場合、それが特に
国民の
権利に対する重大な
侵害を伴うというような場合には、三十五条の
趣旨を類推適用すべきだという建前が出てくるわけでございますが、この点に
関連して考えてみますと、これは
強制的な権力の
発動というものを含んでいない、いわば
任意的なものであるということで、したがいまして、
国民の
権利に対する
侵害性というものが、
憲法三十五条の
令状を必要とするというふうな、そういう
制約をかぶってこないのではないか。なぜそう言うのかと申しますと、この「
提示させ」「
開示させ」というような
規定、あるいは「これを
提出させて一時、保管することができる」というふうなことは、従来の
立法例から申しましても、このような場合には、一般的に
任意的なものというふうに取り扱われてきているわけでございます。したがいまして、これがこういう場合に、それでは
任意的ではなくて、
強制的な場合にはどうなるか、こういうことになりますと、用語の上でも、「本人の同意なくても」とか、「意に反しても」というふうな
規定を置くのが通例でございます。その
意味でこの二十四条の二は、
条文の文字の上から申しましても
任意なものである、
強制的な
要素は含んでいない、こう考えられるわけでございます。したがいまして、その点で私は、三十五条をしいて類推適用する必要もなかろう。もちろん
立法の問題といたしましては、その場合に
憲法三十五条を類推適用して、もう少し
制約を加えておくということがあっても、これは間違いとかいうわけではございませんが、なくても差しつかえなかろうというふうに考えております。この点につきましては、さらにいろいろ
問題点が出て参るかと思いますが、時間も十分ではございませんので、
質問の際にさらに詳しく申し上げてみたいと思います。
このように、全体としてみた場合、私は今回の
改正法案というものが、この激増する
暴力犯罪というものとのにらみ合わせの上において、
必要最小限度の
取り締まりに大体当たるものだと、こう考えております。したがいまして、この
法案が
憲法違反であるというふうな問題は出てこない、この
程度の
規制はやむを得ないというふうに考えております。ただし、何と申しましても、
警察権の
発動というものは、もろ刃のやいばと申しますか、他方において
国民の
基本的人権というものに対して大きな
制約を加え得る
要素を持っておるわけでございますから、この行使にあたりましては、あくまでも慎重でなければならぬと思います。したがいまして、従来もそうでございましょうが、
警察官の個人的な素質というようなものの教育その他の面を通じてますます充実していくことが必要であろうかと思います。
非常に簡単ではございますが、一応これで私の
意見を終わらしていただきます。