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政府委員(
五十嵐義明君) ただいま
議題となりました、
ばい煙の
排出の
規制等に関する
法律案につきまして御説明を申し上げます。
近年におけるわが国の主要都市の大気の汚染の
状況はまことに著しいものがあり、各都市で個別的に行なった汚染
状況の測定結果を見ましても、最近では、一平方キロメートル当たり月間降下煤塵量は、八幡市で二十七トン、東京及び川崎市で二十三トン、大阪市で二十一トン、宇部市で十八トン、尼崎市で十七トン、横浜市及び神戸市で十四トンという非常に高い数値を示しております。
これは、諸
外国の都市の事例に比べましても、かなり高いものであり、しかも近年、
産業の急速な発展とその都市への集中は、ますます都市の大気の汚染を増大させ、市民の健康に大きな影響を与えているのであります。市民は、単に快適な日常生活を脅かされるというだけでなく、トラホーム、気管支炎等の疾病にかかりやすくなり、ある都市では、死亡率さえ高くなっているという研究が発表されております。
このような大気汚染の原因は工場、
事業場から
排出される煤煙によるところが多く、急速に発展しつつあるわが国の
産業活動と国民生活環境との間において調整をはかる必要が今日ほど増大しているときはないと存じます。
従来から、一部の都道府県では、条例その他により、大気汚染防止行政を行なってきたのでありますが、とかく実効性が弱く、規制
内容もばらばらで、規制の効果がなかなか上がらず、最近は、国が積極的にこの対策に乗り出すことを望む声が非常に強くなって参りました。
以下、本法案の主要な
内容のそれぞれについて、簡単に御説明して参りたいと存じます。
本法案の主要な
内容の第一としてあげられております煤煙の
排出を規制する地域としては、将来政令で指定する際にあらためて検討はいたしたいと存じますが、現在のところ、既存のデータから判断して東京、川崎、横浜、名古屋、大阪、尼崎、神戸、宇部、八幡、戸畑等が対象となろうかと存じます。
その他の地域につきましても、今後
調査を積み重ね、必要があれば順次指定地域としていく所存であります。
第二の煤煙の
排出を規制する施設といたしましては、代表的なものとしては大型微粉炭たきボイラー、平炉、セメントキルン等があげられますが、これより小型のものとしても、大気汚染源として重要な
意味を持ちますビル暖房用のボイラー、塵芥焼却炉等につきましては、政令で指定いたしたいと存じます。
第三の煤煙の
排出を規制する
基準につきましては、公衆衛生上の要請と
産業側の実情とを勘案いたしまして、技術的、経済的に実施可能な範囲内におきまして、単位体積当たりの煤煙壁ということで、厚生
大臣及び
通商産業大臣が定めて参りたいと存じます。
第四の規制の具体的な方法につきましては、さきに
大臣が御説明いたしましたことにつけ加えて特段に申し上げることはございませんので、次の第五に参りたいと存じます。
第五として、煤煙や
特定有害物質についての事故時の
措置及びスモッグの発生による緊急時の
措置に関する所要の規定が設けてございますが、これはロンドン、ミューズ、ドノラ等諸
外国での大気汚染による大きな事故の経験にかんがみ、わが国において前車の轍を踏むことのないようにとの趣旨から設けられたものであります。
特に、スモッグにつきましては、年年発生日数がふえており、この危険性は決して少なくないものと思います。
第六の大気汚染による被害に関する紛争につきましては、和解の仲介
制度を設けますことによりまして、現在の裁判
制度に内在する種々の不便さを救済し、国民の保健福祉の向上をはかろうとするものであります。
内容は、おおむね、公共用水域における水質の保全に関する
法律の例によっております。
第七といたしましては、第五まであげております規制のほかに、種々の助成
措置、研究の推進をはかることによりまして、この
法律の実効を期している次第であります。
すなわち、煤煙処理施設に対する固定資産税を免除すること、中小企業振興資金等助成法による中小企業の煤煙処理施設の設置に対しては、償還期限を汚水処理施設並みに五年から七年に延長することを規定しており、また、本法案とは別に、煤煙処理施設の法定耐用年数の短縮、
開発銀行等の融資のあっせんを考えております。
また、研究の促進につきましては、国立公衆衛生院工業技術院傘下の諸研究所の研究体制をいま一そう整備して参る所存であります。
最後に、
政府原案に対しまして
衆議院社会労働
委員会で修正のありました点について、若干触れてみたいと存じます。
政府原案におきましては、本法案の実施の直接の責任を負うものを都道府県知事といたしておりましたが、各有力市が大気汚染防止行政について熱意と能力とを有している実情にかんがみまして、本法案が円滑に実施されるよう政令で定める各有力市の長に対して、都道府県知事が、この
法律に基づく権限の一部を委任することができる旨の規定が挿入されることと相なっております。
何とぞ慎重御
審議の上、すみやかに御可決あらんことを御願い申し上げます。