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事務総長(
河野義克君)
議員辻政信君の
消息その他の問題につきましては、数回にわたり本
委員会の
理事会に御
報告はいたしておりましたが、正規に
議題に供されたこの
機会に、あらためて御
報告を申し上げます。
辻政信君は、第三十八回
国会開会中の昨年四月四日、
東南アジア旅行の目的をもって
東京を
出発し、その後
ラオスの
ヴィエンチャンより
ラオス北部に向かったまま
消息を絶ち、本
院事務局並びに
外務省等におきまして極力調査しておりますが、現在に至るまでその
行方が判明いたしません。まことに憂慮にたえぬ次第でございます。
以下簡単にその間の
経緯について御
説明申し上げます。お
手元に
資料がお配りしてあるはずでありまするから、私といたしましては要点だけを申し上げます。
辻議員は、昨年三月二十八日、
議長あてに
公用旅券の
発給申請書を提出されたのでありますが、この
申請書によりますと、四月四日
東京発、ヴェトナム、カンボディア、タイ、
ラオス、ビルマを経て五月十五日
帰国の
予定となっております。翌二十九日、
渡航審査連絡会において
辻議員の
一般外貨の
申請が
許可になったということでございましたので、
事務局より
外務省に
旅券の
発給を
申請いたしまして、三月三十日には
旅券が
本人に交付されております。一方、
辻議員は、
旅券が下付されましたので、翌三十一日には
議事部に、
海外旅行を
理由として、四月四日から四十日間の
請暇願を提出、四月一日の本
会議においてこの
請暇が
許可されました。そして四月四日、羽田空港を元気に
出発されたのであります。
やがて
帰国予定も過ぎました五月二十日ごろ、秘書が
庶務課に見え、同
議員の
行方が不明となっている旨のお話がありましたので、
事務局は
辻議員からの音信が
羽田出発後間もなく御
家族にもとだえている事実を初めて
承知したのであります。
事務局は、自来、御
家族並びに
外務省等と
連絡をとり、情報の収集に努めていたのでありますが、八月三十一日になりまして、
外務省より、
辻議員の
消息に関し次の
報告を受けたのであります。
すなわち、
辻議員は、
東京出発後、サイゴン、プノンペン、バンコックを経て、四月十四日、
ラオスの
ヴィエンチャンに
到着、ここで
同地在住の知人で
赤坂氏という人物と
連絡、
パテト・ラオ政権発行の
通行手形「安
導券」の入手に努めておりましたが、これがうまく参りませんので、
ヴィエンチャンよりルアンプラパンへの道を、公道を避け、間道を行くことを決意、
赤坂氏の世話で僧形となり、
日本の
高僧青木と称して、
同地の
クンタ寺院に手づるを求め、同寺の僧侶二名の案内で四月十九日
ヴィエンチャンを
出発、
寺院より
寺院へと次々に手引きされ、奥地へ向け
出発したままその
消息を絶ったのであります。
その後、
ヴィエンチャン駐在の
日本大使館員が、
ヴァンヴィエンより戦禍を避けてポンホンに避難してきた
中国人が、六月七日ごろまでに
ヴァンヴィエンにおいて一人の
日本人に数回会ったと語っているとのうわさを聞き込み、この
中国人に会い、
辻議員の写真を見せて確認いたしましたところ、
ヴァンヴィエンにいた
日本人が
辻議員であったことはほぼ間違いないとの印象を得たということであります。この
報告によりまして、当時
辻議員は
ラオス北部の
シェンクヮン付近において行動しておられるものと推測されていたのでありますが、
辻議員が、
日本出発の当初から、すでに
ラオスにおいて
パテト・ラオ地区に入ることを計画されていたにもかかわらず、この意図を、本
院関係者はもちろんのこと、御
家族にも秘しておられた
本人の意思、あるいはわが国と国交のない地域に潜入されました
本人の身辺に危険が及ぶ危惧等を考え合わせ、われわれとしても、その
消息を調査するにあたりましては慎重を期していたのであります。
しかるところ、十月六日
外務省から
事務局に
連絡があったところによりますと、シェンクヮン地区の最高権威筋からの情報として、同
議員はシェンクヮンよりハノイを経て中共に入国した模様でありましたので、この詳報を待っておりました
事務局は、十一月二十五日に至り、
日本赤十字社に対し、中国紅十字会あて
辻議員の中共入国の事実及びその
消息に関し、照会方を依頼したのであります。
日本赤十字社におきましては、十二月二日、中国紅十字会あてに調査依頼を打電いたしましたが、同月二十五日付をもって中国紅十字会より
日本赤十字社に対し、辻氏の中共入国の情報は何ら根拠がなく、したがって、調査不能である旨の回答が寄せられたのであります。
昨年来から、
辻議員の
消息に関しましては、新聞等に各種の情報が掲載されておりましたが、本年に入りましてからも、吉林省の琿春滞在説、あるいは
東南アジア共産地域またはその付近における死亡説等が伝えられ、
日本赤十字社は
外務省の依頼により再び中国紅十字会に、また
事務局からの依頼により赤十字国際
委員会に、中共、
ラオス、ベトナムの共産地域における
辻議員の
消息に関しそれぞれ調査を依頼しておりますが、まだその回答には接しておりません。
以上がこれまでの経過の概要でございますが、詳細に関しましては、
先ほど申し上げましたとおり、お
手元の
資料により御
承知願いたいと存じます。
さて、今後
辻議員の問題に関しましては、次の二点が考えられるのであります。
その第一点は、申すまでもなく、その
消息を調査するにあたり、今後本院としてとるべき手段であります。まず、
外務省に対しまして一そう強力に調査を進めるよう本院から正式に要請いたしますとともに、
外務省側とその調査の具体的方法に関し折衝することが考えられます。また、これと同時に、本院といたしまして、各種民間団体、商社等、かの地に
関係のあるあらゆる方面と
連絡し、新たな情報の収集に努めることも考えられることであります。さらには、本院から捜査団を現地に派遣するというような考え方もあろうかと存じます。
いま一つの問題点は、
辻議員の
国会に
出席できぬ状態が現状のまま推移いたします場合、本院としては、その身分についてどのような措置をとり得るかということであります。
国会法第百二十四条は、
議員が正当な
理由がなく、
国会の召集に応ぜぬため、または
請暇の期限が過ぎたため
議長が特に招状を発し、なおゆえなく
出席しない場合には、
議長はこれを懲罰
委員会に付する旨の
規定でございます。しかしながら、この
規定は、当該
議員が
議長の招状を受理し得ぬことが明白である
本件のような場合には、あまりにも形式的な措置のように思われます。また、
国会議員という責任ある地位にある人が、ほしいままに、また在外公館の切なる忠告を無視して危険地域に入られた行為自体に対し、責任を問うということも考えられることでありましょうが、かりに、
辻議員が、
帰国の希望を有しながらも、意思の自由、身体の自由を拘束されていたというような
事情、あるいはその身辺に不祥事が生じていたというようなことが後日明らかになった場合には、本院としても非常にあと味の悪いものを残すことになるのではないかと考えられます。また、今回のようなケースに対して特別な立法的措置によって解決しようといたしましても、憲法に定めのある任期中の
議員の身分を憲法に
規定のない方法で剥奪することは、何としても憲法上の疑義を免れないものと思われます。
以上は公法上の問題でありますが、私法上の問題といたしましても、民法第三十条に、不在者の生死が七年間分明でないとき、あるいは死亡の原因たるべき危難に遭遇した者の生死が危難の去った後一年間分明でないときは、失踪の宣告をすることができる旨の
規定がございます。しかしながら、この失踪宣告ということにつきましては、
辻議員の
消息に関し、今後の調査と相待って、いましばらく時日が経過した後において問題となるべきことと考えられます。
以上、
辻議員の
消息に関し、従来の経過に関する御
報告並びに今後の問題についての所見を申し述べた次第でございます。
私は、
議員の皆様とともに
辻議員の
消息について憂慮の気持を禁じ得ませんとともに、同
議員が一日も早く元気に
帰国せられることを衷心から祈っておる次第でございます。