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1962-04-21 第40回国会 参議院 外務委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年四月二十一日(土曜日)    午前十時三十二分開会   —————————————   委員異動 本日委員田畑金光君辞任につき、その 補欠として田上松衞君を議長において 指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     井上 清一君    理事            鹿島守之助君            木内 四郎君            大和 与一君    委員            杉原 荒太君            永野  護君            堀木 鎌三君            山本  杉君            佐多 忠隆君            羽生 三七君            田上 松衞君            佐藤 尚武君   政府委員    外務政務次官  川村善八郎君    外務省アジア局    賠償部長    小田部謙一君    外務省条約局長 中川  融君   事務局側    常任委員会専門    員       結城司郎次君   参考人    慶応義塾大学教    授       前原 光雄君    愛知大学教授  坂本 徳松君    江商株式会社東    京支社食糧部長 堀   深君    拓殖大学教授  堅山 利忠君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○特別円問題の解決に関する日本国と  タイとの間の協定のある規定に代わ  る協定締結について承認を求める  の件(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 井上清一

    委員長井上清一君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  まず委員異動について御報告を申し上げます。本日田畑金光君が辞任され、その補欠として田上松衛君が選任されました。   —————————————
  3. 井上清一

    委員長井上清一君) 特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定締結について承認を求めるの件を議題といたします。  本日は、タイ特別円協定につきまして、四人の参考人の方に御出席を願っております。これから順次御意見を伺いたいと存じますが、その前に、参考人の皆様に一言ごあいさつを申し上げたいと存じます。  タイ特別円協定につきましては、ただいま本委員会におきまして審査中でございます。この条約重要性にかんがみまして、参考人の皆さんから御意見を承り、審査参考にいたしたいと存じまして、御出席をお願い申し上げましたところ、御多忙中にもかかわらず、本委員会の要請に応じて御出席を賜わりましたことは、まことに欣幸に存ずる次第でございます。委員一同にかわりまして、厚くお礼を申し上げる次第でございます。  なお、議事の進め方につきまして申し上げますが、まず最初にお一人二十分程度で順次御意見をお述べ願いまして、そのあとで委員から質疑がありました場合にはお答えを願いたい、かように存じます。  それでは、まず前原光雄さんから、御意見を承りたいと存じます。
  4. 前原光雄

    参考人前原光雄君) このたび、「特別円問題の解決に関する日本国タイ国との間の協定のある規定に代わる協定」という、このタイ国間との協定が結ばれようとしておるわけでありますが、これは申すまでもなく、その内容に現われておりますように、その前の三十年の条約内容の一部を修正するという協定でございます。で、この三十年の協定を見ますとそのよって来たるところは、相当その前にさかのぼらなければならないわけでありまして、結局、それは日本タイ国との間の同盟条約というものに起因するわけであります。その同盟条約を結ばれます当時の日本地位、あるいは状態と申しますか、これは御承知のように、交戦国として日本は内外きわめて多事の状態に置かれておったわけでありまして、タイ国に駐留しております二万以上の日本軍隊、なお終戦前のときにおきましては十万をこした日本軍隊、そういうものを維持し、まかなうために、タイ国において日本がいろいろと物資その他の供与を受けたわけでありまして、したがって、これに関する日本のいわゆる負債に対しましての支払い方法として特別円というものが設けられまして、なおその一部は金をもって支払うというようなことになっておったのは御承知のとおりであります。その残高終戦時におきまして十五億円、それから金を引き渡す約束になっておりましたものをまだ渡さない、それを換算しましたものなんかを加えて五十四億という額になりましたのが、三十年の協定に盛られている金額であります。この金額につきまして、私は自分の専門関係上、政策的な面、あるいは政治的な面につきましては意見を申し上げる資格はないわけでありますが、ただ、これを法的な面から見ますとこの終戦後におきまして、昭和二十年にタイ国同盟条約関連するいろいろの条約廃棄通告日本に対して行なっております。したがって、この廃棄通告後におきましては、戦争中日本タイとの間に結ばれましたいろいろの条約協定というものは、効力を停止してしまうわけであります。しかしながら、そのタイ国との間の条約効力の存続中に発生した条約上の効果というものは、このタイ国廃棄通告によって消滅するものではないというふうに考えられます。これはほとんど国際法的に疑問のないことではないかと私は考えます。したがって、二十年の廃棄通告がありましたけれども、その前に、タイとの約束によりまして、日本負担しておりますいろいろの国際法上の義務というものは、やはり日本がこれを履行しなければならないわけでありまして、したがって、この勘定の残高の十五億とそれと金の引き渡しの約束の末履行分の、これの換算の金と合わせて五十四億というものの日本債務は、これは当然日本負担すべきものであると考えます。なお、御承知のように、タイ国との間のいろいろな協定によりまして、初めは日本との外務省大蔵省との間の了解事項とかいうように、直接国家機関を通してタイ国との間の関係が結ばれておったわけでありますが、それがだんだんと変わりまして、大蔵省間の了解事項とか、あるいは後には銀行間の協定というような形をとって参りましたけれども、これはやはり国家が、ことにその戦争遂行上必要な経費を支弁するわけでありまして、それをいかにして支払うか、どういう方法で決済するかということは、結局、銀行がこれに介在しても、一種の決済の手段として銀行を利用したのにすぎないわけでありますから、やはり国家債務であるという点においては変わりはないと思うのであります。そういうわけでありますから、五十四億という日本負債につきましてはこれは当然日本がこれを負担すべきものでありまして、この責任を免れるということは日本としてはできないのではないか。ことに十五億の残でありますが、この十五億の残というものも、本来ならば、その当時の十五億とそれから三十年のころにおける十五億円というその円の価値は、相当大きな変化があるわけでありまして、理論的に申しますと、その円価の変動に応じて、やはりこれは三十年における円価と前の戦争中の円価との間の比率を比べまして、日本としましては、私はもっとたくさんの支払いをすべき義務があるのではないかと思いますけれども、この点につきましては、もうすでに三十年の協定において取りきめられたことでありますから、今さらこれをもっとたくさん払ってやろうということを申し出る必要は毛頭日本としてはないわけでございまして、したがって、それで三十年の条約には五十四億という金額がしるされたわけでございます。ところがこれが、そのほかに第二条におきましては、御承知のように、九十六億円というものを限度とする投資及びクレジットタイ供与するということになっておりますが、これが三十七年の条約では、タイに対する貸方ではなくて、日本がこれを無償供与するということに切りかえられました。この点は、したがって、日本が、以前においてはこれはタイ無償供与すべきものでなかったものを、三十七年の条約では供与する、これはどういうわけだということが問題になってくると思うのであります。この、以前に無償供与しないものを現在無償供与するということは、これはむしろ日本政策的あるいは政治的な問題でありまして、この法的な面から考えまして、これは私は日本政策として間違っておるとか、あるいはやはりこれは前のほうがいいのだというような、あるいは金額が多すぎるとかいう、そういうことにつきましては、私は意見を述べる資格はございません。と申しますのは、政策的なものになりますと、非常にいろいろな要素をすべてこれを考慮した上で、そうして無償供与するということが、はたして日本に将来利益をもたらすかどうかという点から、これは決定せらるべき問題でありまして、単に外国に対して無償供与するというそのこと自体が間違っておるという結論は出せないと思います。いろいろの国家間の関係におきまして、ある国が外国に対して、いろいろの意味におきまして、実質上無償でもってある物品を供与するとか、あるいは労務を提供するとかいうようなことは、しばしばあることであると思うのであります。これは要するに、その国の判断によって、将来そういうことがその国にとって利益をもたらすかどうか、そういう観点から決定せらるべき問題であります。それで三十年の条約と三十七年の条約で違います点は、今述べましたのが第一点。  それから第二点としましては、条約にもはっきり書かれておりますように、第四条を修正をしたわけであります。新しい条約の四条によりますと、結局これは無償供与というものもこれは条件付のものであって、生産物とそれから役務の調達を行なうために、「日本国民又は日本国民の支配する日本の法人と日本円で契約締結する」というような条件付でありまして、無償供与とは申しましても、そういう方法でこれを提供する、こういうことになっておるわけであります。  ただいま申し上げましたような点を総括して結びといたしますと、結局、このタイ国に対するその戦時中の債務に関する条約効力を持っておったときに発生した、その条約効果から発生するところのいろいろの日本債務というものについては、これを履行すべき義務がある。したがって、五十四億というものの支払いということは、これは日本としては当然のことである。それから九十六億につきましては、ただいま申し上げましたように、要するに国家政策として、この無償供与というものがいろいろの観点から日本にとって利益をもたらすものであるということであるならば、無償供与というものも差しつかえない。そうではなくて、ただ外国無償供与するということは、これは日本国にとって不利益であると思うのであります。要するに、そこは政策的な立場の違いと申しますか、見方の違いによるものでありまして、無償供与イコール国家にとって損失だという結論は出てこないように考えるのであります。  そういうわけでありまして、はなはだ簡単でございますが、私はこの三十七年の協定につきましては、九十六億という無償供与の分につきましては、要するに、私がこれをかれこれ批判する資格は持っていない。しかし、五十四億の三十年の協定にあるこれは、当然支払うべきものだ。そこに政策の違いと申しますか、それの違いによりまして、九十六億については、いろいろの政党あるいはその個人的な立場から意見の相違が出てくるのではないか。はなはだ形式的な議論でございまして申しわけないと思いますけれども、しかし、国際法的な観点から考えますと、以上申し上げましたような見方をするのはやむを得ないのではないかというふうに考えております。どうも簡単でございますが……。
  5. 井上清一

    委員長井上清一君) ありがとうございました。  次に、坂本徳松さんの御意見を承りたいと思います。
  6. 坂本徳松

    参考人坂本徳松君) タイ特別円に関する問題につきましては、すでに多くの議論が行なわれておりますが、昭和三十年八月の旧協定のある部分につきましても、またこれにかわる今後の新しい協定内容そのものにも相当疑義があります。そうして国民の十分納得できるものとは私には考えられないのであります。  たとえば、当初償還を前提とする投資あるいはクレジットの形で提供することに明確に定められておりました九十六億円の経済協力を、どうして無償供与にしなければならなくなったかということの法律的な、政治的な経緯が十分にはっきりしませんし、したがって、旧協定の第二条、第四条と、これにかわる新協定関連が十分に明確になっておるとは言えないように思います。しかし、私はそういうような法律、条約上の解釈ということは一応別にしまして、私自身の専攻が現在、「アジア政治」ということでもありますから、新協定そのものがはらんでおります政治的な問題を、タイ国中心とする東南アジア現実に照らしまして、それを検討しながら、この新協定反対する理由を四点にわたって述べてみたいと思います。  第一に、このような形でのタイ特別円支払いというのは、日本外交にとってプラスにならないというふうに私は考えます。新らしい協定の前文には、「この協定特別円問題に関連するすべての問題を解決し、日タイ両国間の伝統的な友好関係及び経済協力関係を強化する」とうたっております。また国会での新協定提案理由説明にも、これによって「今後ますますアジア外交を積極的に推進するよう努力する」というふうに強調しております。しかし、はたしてそのような効果を持ち得るかどうか。むしろ、日本アジア外交の前途に大きな危惧の念というものを抱かざるを得ないのであります。池田首相が昨年東南アジア四ヵ国を訪問されましたとき、直接会談されまして、今度の協定成立の契機を作ったサリット首相政権を握りましたのは、御承知のように一九五七年九月と、一九五八年十月のクーデターを通じてであります。それ以後一貫してサリット首相は、いわゆる親米反共政策をとり続けております。と言うよりは、アメリカアジア極東軍事政策のかなめの地位を占めているのがサリット内閣ではないかと思います。これはバンコックが東南アジア条約機構——SEATO司令部所存地であるというだけでなく、きわめて最近の例をあげましても、三月六日にラスク・アメリカ国務長官コーマン・タイ外相がワシントンで共同声明を発表しまして、これによってアメリカタイとの軍事協力がさらに一段と強化されてきております。このときの声明によりますと、アメリカタイに対する軍事援助は、SEATO加盟国全部の事前の合意に依存しない、つまりSEATOに優先するということになっております。  日本タイ国間の伝統的友好関係、あるいは経済協力関係の強化というだけならけっこうでありますが、特別円についてのタイ国との交渉が、日本外交のまあ全面的敗北であるかどうかということは別にしましても、さき池田首相が訪問されました東南アジア四ヵ国のうち、インド、ビルマはもちろん、パキスタンに比べましても、タイ国には特別の譲歩が、あるいは政治的譲歩が行なわれたという事実は否定できないように思います。率直に言いまして、これは一国の首相がたまたま旅先でチップをよけいはずんだというふうな問題ではなくて、日本外交アメリカアジア極東政策のサイズに合わせて仕立てられつつあるという事実を端的に示すものではないかと私は考えるのであります。これは日本自主的外交とは正反対の傾向を示すものではないかというのが、私の第一点の疑義であり、危惧であります。  第二に、特別円問題の解決タイ国との経済協力関係を強化し、日本東南アジアに対する経済的進出の突破口になるかのような楽観論が相当行なわれておりますが、これについても私は疑問と危惧を抱く者であります。さき岸内閣が、国民の猛反対にもかかわらず、南ベトナム戦争賠償を支払ったことがありますが、そのときにも同じようなことが言われました。ところが、南ベトナムラオスなど、その後のインドシナ現実というものは、全くそれと反対方向に現在進んできております。東南アジアにつきましては、政治経済というのが不可分であるだけでなくて、さらに社会的な構造の変革といいますか、そういう社会的な潮流、あるいは民族政治的な自覚とか、いろいろな要素をつけ加えて考えなくてはならぬと思うのでありますが、東南アジア、特にインドシナ政治的な動きの中において、タイ国が占めている政治的な地位や役割を無視して、あるいは十分にこれを考慮することなしに、経済の面だけを強調することはできないように思います。一昨年八月、ラオス中立化のための無血クーデターが、これはコン・レ大尉によって成功しましたときに、この中立化反対するノサバン・ブンウム一派を軍事的に支援したのはアメリカタイ国であります。また、ラオスの平和、中立統一民族融和のための政権樹立反対するこれらの勢力は、タイ国領土を通過して、最初タイ国領土から中立政権武力攻撃を加えたのも御承知のとおりであります。一昨年十二月、南ベトナム民族解放中立のための統一戦線が結成されまして、ゴージンジエム独裁政権アメリカ軍事干渉反対する非常に広範な運動が起こってきておりますが、このゴージンジエム独裁政権アメリカ軍事干渉を積極的に支持し、さらにSEATOの積極的な軍事介入をさえ主張し続けているのがサリット内閣であることは、これも御承知のとおりであります。したがって、いわゆる反共親米ということにつきましても、その具体的な政治的あるいは軍事的内容ということを抜きにして、ただ、伝統的に友好経済的協力という点だけを強調することは、インドシナ東南アジア現実に即して言いますと、むしろ一種の危険を伴うものではないかと考えざるを得ないのであります。具体的に言いますと、中立的な政権をも敵視してしまう、そういう政策に協力するということが、一つの問題になってくると思います。ことに、去る二月八日、サイゴンにアメリカ南ベトナム軍事援助司令部が設置されましてからは、タイを含めて、インドシナの情勢はこれまでと違った新たな段階に入って、南ベトナムには今、いわゆる「宣戦布告なき戦争」というものが始まりまして、これと同時に、沖繩アメリカ軍事基地一種臨戦態勢に入っているということも言われております。このような、いわば危機一発というようなときでありますだけに、日本アジア外交というものは、戦争ではなくて平和の方向に、あるいは緊張激化ではなくて緊張緩和方向に、そうしてアジアの分裂ではなくて統一方向を促進助長し、これと経済的な協力する方向へ向かって慎重に着実に進んでいかなければならない時期に来ていると思います。ところが、新協定によるタイ特別円支払いへのいきさつは、これと逆の方向を示しているのではないかと私には考えられるのであります。  第三に、このように今申しましたような疑義とか危惧が単に杞憂でないことは、タイ特別円についての「合意された議事録——アクリード・ミニッツの中に具体的に現われているように思います。この議事録では、新協定の第三条に関する了解の第九としまして、「第三条Iの適用上「設備」(エクィップメント)は、武器及び弾薬を含まないと解釈される。」となっております。これはけっこうでありますが、すぐその前の第八のところに、新協定第三条Iに言う「日本国生産物——プロダクツ・オブ・ジャパンについての非常に奇妙な了解事項が書かれております。それには「「日本国生産物」とは、外国為替上の特定追加負担日本国に課することなく日本国において生産されたものをいう、となっておりまして、さらに「外国為替上の特定追加負担日本国に課される」とはどういうことかというその説明に入りまして、このように書いてあります。「たとえば、タイ政府日本国契約者外国製エンジンを取りつけさせる注文を付して機械を調達するに際し、同政府がその契約者にこのエンジンを現物で供与しないため、その契約者がこれを海外から購入する必要が生ずるような場合をいう」、こう書いてあります。日本語としても少し文脈のたどたどしい文章でありますが、つまり、タイ政府がこの協定によりまして、日本国契約者外国エンジンを取りつけさせる注文をつけて機械を調達するような場合には、このエンジンの分はタイ政府で払うから、日本契約者外国為替を使ってこれを買ったり、その分の負担追加されることはないというような意味だろうと思います。新協定第三条に関する了解事項の第九に、今も言いましたように、「「設備」は、武器及び弾薬を含まない」となっているすぐその前に、このような外国製エンジン取りつけについての例がわざわざ示されているのはどういうわけでありますか、一種の疑問を持たざるを得ないのです。一つのこれは例示だと言ってしまえばそれまででございますが、外国製エンジンを取りつけさえすればすぐ一種武器になるような「日本国生産物」が調達されるような場合がないとは言えないのではないか。そのような場合の合法性がここで確保されているのではなかろうか。こういうことは学者や評論家一種の読み過ぎだと言われれるかもしれませんが、先に述べましたようなタイ及び東南アジア政治的な現実は、このような場合をも想定させるに十分であります。最近はまた特にアジアの戦場で、アジア人が使う武器は、体位、体格などの似ている関係上、日本製のものが非常に有利だ、これに肩がわりするほうがいいというふうな意見も出ております。また私たち国民は、安保条約あるいはその他の附属協定などで、こういった種類の条約文の抜け穴に当たる問題でいろいろな体験をさせられておりますから、事実こういう点についても過敏な神経をつかわざるを得ない立場に置かれているわけなんです。  最後に第四としまして、これはまだいわゆる未確認の情報であります。一種流説かもわかりませんが、この特別円支払いの件が合意に達しましてから後、日本タイ国奥地の調査を許されるようになったというふうな説も流れております。これが単なる流説でありますか、事実でありますか、そういうことをここに持ち出すのではなくて、タイ国奥地への関心が何を意味しているかということを問題として出したいわけであります。私たち承知しています範囲では、タイ国奥地に特別の鉱産資源その他貴重な資源があるとは思われませんが、最近、タイ奥地、特にタイ東北ラオスと境を接している地域、この地域にはラオス人もたくさん住んでおりますが、この地域に対してアメリカの軍事的な関心が非常に高まっているようでありますが、最近の外電から拾ってみましても、三月二十七日付のロイター電報は、タイ国政府ラオスに近いタイ東北部のノンカイというところに飛行場を建設する指令を出したということを伝えております。また同じ日のロイター電報は、レムニッツァー・アメリカ統合参謀本部議長サリット首相と会談した後、アメリカ技術者戦略道路を建設しているタイ東北地区を視察したということを伝えております。また、これと若干関連を持つものとしましては、三月二十九日のハノイ放送は、「アメリカノサバン軍戦争準備力を増強し、低部ラオス分割の陰謀を実現するため、日本の軍人をラオスに送り込み、移民開墾をやらさせようとしている」というふうに伝えております。これはきわめて断片的なニュースあるいは情報でありますが、これらを通して見ましても、タイあるいはその隣接地域におけるアメリカ中心としたあわただしい動きが察知されるように思われます。  先にも申しましたように、タイ特別円についての新協定による「日タイ両国友好関係飛躍的増進」、あるいは」アジア外交の積極的な推進」ということの中には、このアメリカアジアにおける一種干渉政策への追随あるいは同調というような感じをぬぐい去ることができないように思われます。そうして、アジア諸国との平和共存あるいは連帯を強化していくという、アジアの一員としての日本外交方針というものの片鱗をも、その「経済協力その他」という表現にもかかわらず、実際にはそういう片鱗をも見出だせないように私は思われます。逆に言いますと、こういうふうな外交上の根本方針の欠除していることが、かっての南ベトナムへの賠償支払いあるいは今度のタイ特別円についてのいろいろな政治的論議を生んでいる原因ではないかというふうにも考えられます。言うまでもないことですが、戦争賠償には、二度と戦争を繰り返さないという、いわば陳謝の誠意と反省が伴わなければならないわけですが、それと同様に、この戦争中の特別円の処理などについても、侵略とか戦争というものについての厳粛な反省が必要でないかと私は思います。タイ特別円の新協定には、そのような厳粛な反省が十分にうかがえない。また協定合意への経緯につきましても、「タイ日本東南アジア貿易及び企業進出の上から枢要な役割を果たしている」ということだけが取り上げられておりまして、東南アジアあるいは広く全アジアの平和とか、中立とか、民族独立とか、民族統一という強い要望、あるいはそれの具体的な現われに対する考慮が十分に払われていないように考えられます。このような形で、タイ特別円の問題を解決しますことは、今タイ国内部にさえ起こりつつあります中立化、平和への要望の世論を無視することになります。あるいはインド、ビルマ、インドネシア、カンボジアというような、積極的な中立を進めている東南アジア諸国の要望というものを無視することにもなります。またそれ以外の共産地域との国交正常化という問題への距離をますます大きくしていくということに役立つだけではないかというふうにも考えられます。  最後に、結論的に申しますと、戦争賠償が次の戦争準備に投入されるというような悪例を、それだけではありませんが、そのような悪例を、さき南ベトナム賠償支払いに対してそういう悪例を作ったのですが、戦時中の特別円処理という問題につきましても、東南アジアの危機を増大することに直接、間接に作用するのではないかという危惧疑義を持つものですから、私は特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定」というものに反対を表明するのであります。
  7. 井上清一

    委員長井上清一君) ありがとうございました。  次に、堀深さんの御意見を承ります。
  8. 堀深

    参考人(堀深君) 私は江商株式会社の責任者といたしまして、昭和二十八年六月より昨年五月までちょうどまる八年タイ国におりました。その間に現地において実地に見たりあるいは聞いたりしましたことを基準としまして、特別円解決に関する私の個人的な意見を申し上げたいと思います。  私は根っからの商売人でありまして、むずかしい法律問題とか政治問題については、全くの門外漢であります。したがいまして、その種のことに関しましては十分なる知識も持っておりませんので、そのように御了承お願いいたしたいと思います。  最初タイ国の概観をながめてみまして、日本との関係から逐次申し上げたいと存じます。タイ国は皆様御承知のように、面積が約五十一万平方キロメートル、ちょうど日本の一・四倍くらいのものでありまして、人口が約二千五百万、これは一昨年の統計によるものでありますが、そのうち八五%が農業に従事している者であります。従来、タイ国経済は米あるいはなまゴム、チーク、すずなどに依存しておりましたが、世界の需要の変遷などによりまして、最近は特に米にかわってなまゴム、トウモロコシなどの増産が非常に目立っております。特に自給自足の観点あるいは輸出奨励の観点から見ましても、砂糖の増産あるいはジュートの増産などが非常に目立っております。大ざっぱに申しまして、これにすずなどを加えまして、こういった第一次製輸を輸出することによりまして得ましたる外貨をもって、タイ国の必要とする生産財、あるいは消費財の調達をするというのが貿易機構の概要であります。  統計を申し上げますと、一九六〇年における輸出は約四億三千万ドル、輸入はそれに対しまして四億八千万ドル、約五千万ドルの入超となっておりますが、大体ここ数年間四千万ドルないし五千万ドルの入超というものになっております。そのために、この入超を是正し、また一般民生をより向上せしめるために、自国で作り得るものはできるだけ自分で作っていこうというのが、タイ国の産業投資奨励の根幹をなしておる考え方であります。こういった背景によりまして、日本タイとの貿易の関係を申しますと、これは私が行きました二十八年、ちょっと資料が新いものばかりで恐縮ですが、その当時から大体において日本の出超になっております。一九五五年から六一年までの、昨年までの平均の出超額は四千五百万ドルになっております。昨年の日本銀行の統計によりますと、日本の輸出が一億三千二百万ドル、輸入が六千九百万ドル、こうなっておりまして、出超が実に六千三百万ドルとなっております。この輸出の金額一億三千二百万ドルというのは、戦後の最高記録でありまして、いかにタイ国が重要な日本の輸出市場であるかということがおわかりだと思いますが、この輸入と輸出の大体の内容を申し上げますと、輸入は、従来は米が非常に多かったのでありますが、昨年はなまゴムが二千二百九十万ドル、トウモロコシが二千百九十万ドル、ヒマシだとかカポクシートという油脂原料が六百五十万ドル、麻袋を作るジュートでありますが、ジュートが六百四十万ドル、米が三百十万ドルとなっております。重立ったものであります。  輸出は、繊維関係、これは綿布、合成繊維、人絹とか、あるいは作り上げたくつ下とかシャツとか、そういったいわゆる二次製品も含まれまして、四千六百七十万ドル、鉄鋼製品が——これは鉄鋼製品でありまして非鉄金属製品は含まれておりませんが、三千四十万ドル、機械類、これは自動車とかミシンとかいわゆる機械、雑貨なども含まれておりますが、いわゆるいろいろなこまかい機械も含まれておりますけれども、そういうものが二千九百八十万ドルということになっております。タイ国における貿易上における日本地位を御説明申し上げますと、一九六〇年の実績におきましては、日本タイの総輸入貿易に占める日本の輸出でありますが、タイの輸入貿易において二五・六%を占めております。日本の輸入、これはタイから日本が買っておる金額でありますが一七・七%、タイにおける輸出貿易に占める比率が一七・七%、いずれもその金額は、タイにおける対外貿易の第一位を占めております。こういった、タイにとっても日本は非常に重要なマーケットであると同時に、ひ翻って、一九六一年におきます日本の対外貿易に占めるタイ地位日本側から見てみますと、タイ向けの輸出は日本の対外貿易の三・一%になっております。それでこれは国別に見まして第四位に当たっております。参考までに申しますと、第一位がアメリカでありまして、第二位がインドネシア、第三位香港、第四位がタイとなっております。インドネシアのは賠償が含まれておりますので、実質的に純貿易上の観点から申しますと、日本の対外輸出の第三位がタイということになっております。いかに日本の輸出貿易上でも重要な市場であるかということがおわかりかと思います。輸入は一、三%で、十五位に位しております。  しからば、こういった状態におきまして、タイの市場の将来性について考えてみたいと思いますが、輸入の面から見ますと、日本の一番ほしがっておりますいわゆる工業資材、原料関係、まず第一番に申しまして、トウモロコシであります。日本は、昨年二百万トンに近いトウモロコシを世界の各国から買っておりますが、タイからは、昨年約五十万トン輸入しております。したがって、品質の非常にいい、しかも距離的に近いために安く買うことのできるタイのトウモロコシがもし増産されるならば、日本のほしいトウモロコシはタイ国から十二分に、むしろタイに増産してもらわなければならぬというような状態であります。それから鉱産資源、これはすでにすずなんかについては、日本の商社も進出しまして開発しておりますが、鉄鉱石について、最もほしいと言われている鉄鉱石につきましても、まだ調査不十分な、調査のできていない場所がありまして、もちろん、これは今後の開発に待つものであります。そのほか、なまゴム、塩、ジュートなど、いずれも日本の工業原料として重要なものであります。日本の技術指導のあるいは増産奨励、あるいはタイ側との協力によりまして、こういった必要な資源の増産が可能であると思います。そういった面で、輸入市場においても非常に日本の将来に大事なマーケットでございます。また輸出の面から申しますと、タイ国は、先ほど申しましたような考え方によりまして、経済開発六ヵ年計画というものを、一九六一年をスタートとしまして、立てておりますが、それによりまして、生産の増強あるいは所得の増加をもくろんでおりまして、そのために、生産財あるいは日本の技術の需要というものは非常に増大することが見込まれております。資料によりますと、通算六ヵ年の所要資金は、大体においてドルに換算しまして約十億六百万ドルと予想されております。この計画に基づきまして、タイ国においては、現在産業投資奨励法というのが設定されております。ここでこの産業投資奨励法の内容を簡単に申し上げますと、考え方としましては、要するに、タイのアンバランスあるいは赤字をなるべく是正するために、自国の原料をもってまかない得るものはなるべく作っていこうという考え方でありますが、最近二月にきめられました大ざっぱな内容を申しますと、百十九種の産業に対しまして指定されているわけですが、投資委員会というのがありまして、これが閣議の認可を経ずに次のことを決定することができる。そのことは、すなわち、機械設備の輸入税の免除、その該当産業に対しまして機械設備の輸入税を免除する。それから、五ヵ年間所得税を免除する。それから、その産業に必要とする原材料の輸入税を次のパーセンテージで免除する。それは、A、B、Cと三つのグループがありまして、一〇〇%原材料の輸入税が免税されるもの、五〇%免除されるもの、三三%免除されるもの、いろいろあります。  それからタイにはビジネス・タックスと申しまして、ちょうど昔日本のだいぶ前にありました取引高税と似たようなものでありますが、その取引高税を、設備機械の輸入の際に持っていく場合にはもちろん免税になる。それから、原材料にも、今の輸入税と同じようなパーセンテージで免除するというような項目がありまして、この産業投資奨励法の最も大事な点は、百パーセント外国人の資本であっても、タイ国の産業に、あるいは経済上非常に有利なものであるならば、タイ国人と全然全くの同じ条件を認められるというわけであります。外国資本の導入を非常に歓迎しているゆえんであります。こういったことは、他に見ない例だろうと思います。  このような有望なタイ国市場におきまして、タイ国国民の間に若干でもわだかまりを残しておくということは、私たち商売人の観点からいくと、非常に工合の悪いことですし、また、日本のいろんな点に関しても種々と支障を来たすことは当然考えられることであります。特にタイ国のこういった市場に対しまして、欧米諸国の製品の売り込みはますます積極的様相を帯びております。ドイツのごときは、技術訓練学校などまで設けまして、タイ国人の技術を訓練しまして、ドイツの機械になれさせるというふうなことまでして、盛んに輸出振興をはかっておる状態である。ましてや、いささかでもわだかまりを残しておくということになりましたら、有形無形の損失はきわめて明らかであります。五十四億円の決済が終わりました一昨年の春ごろでしたか、当時タイ国の新聞紙上に、日本とのアンバラの問題、貿易上のアンバランス問題にも関連しまして、特別円解決のために、何回となく新聞紙上に日本に対する貿易制限を加えねばいかぬじゃないかという論調が載っておりまして、私たちも当時おりまして、非常に心配しております。日本の民間人の誠意を、何らかの形でタイ国人に知ってもらわなければいかぬというので、当時タイにありました日本人商工会議所の会頭並びに副会頭が、タイ国人の記者を集めまして、日タイ貿易改善のためにわれわれは非常に努力しているんだ、たとえば、タイ国のなまゴムとかトーモロコシなどはどんどんわれわれは一生懸命努力して買い、またそれがタイ国あるいは日本の貿易上非常に伸展するような努力をしておるのであるからというふうなことで、われわれの真意を理解してほしい、特別円に関してはわれわれの問題外なので、貿易に関連しまして、そういった談話を発表し、非常に緊迫したような状態になったことがあります。  そういった面がありまして、もしこの問題が、しこりが残っておる程度で済めばいいですが、そのうちにタイ国としてもしびれを切らして、日本品の輸入制限あるいは日本人の滞在に対する制限、あるいは商社活動の制限などという手段に訴えないとは保証できないように私は思うのであります。それはもちろん通商航海条約があるから、そんな強硬な手段はできないだろうというふうな御意見もあるかと思いますが、それは実質的に、たとえば、日本から一番たくさん入っております五千万ドルに近い繊維製品を輸入ライセンスのシステムにするというふうなかりに手段を講じますと、直接的にはやはり日本品に対する制限のような形に結果的になるわけですが、そういった点でも、あるいは産業投資につきましてもいろいろな手心を加えられて、日本が他国との差別を受ける。これは、わだかまりを持っているか、持っていないかということにおきまして、取引上におきまして、数量あるいは条件、いろいろな面で差別が出てくることは、もう当然のことであります。現在、私がおりました当時から、もうすでにタイ国には百人以上の日本人がおりまして、日本人経営の食堂もある状態であります。それで、日タイ共存共栄のために日本人は一生懸命働いておるわけですが、こういった貿易のアンバランスとか、あるいは特別円の未解決のために、非常に肩身を狭く、あるいはときには何らかのこういった制限を受けるのではないかというような不安な生活を送った経験を私は持っております。そういった実情に対しまして、最近の私の店の報告によりますと、非常に一般民衆、特に地方に行きましても非常に感情がよくなっているということを聞いております。近くは工業大臣が日本に来まして、工業資源開発のための申し入れをしたなどという記事も載っておりますが、いろいろとそういった面で新しいプラスの面が出てくると思うのであります。加えまして、昨年の七月でしたか、タイ国はマレーとかフィリピンとの間に文化、経済、あるいはいろいろな自然などに関するお互いの情報を交換して、お互いの利益のために努力しようじゃないかというような申し合せをいたしておりますが、タイ国日本が、日本経済進出によりまして、非常にタイ国の民生の向上に役立っているというようなことが今後現われますと、隣接の国に対しても物心両面における非常な利益がもたらされることは当然考えられることだと思います。最後に、私は在タイ八年間の間に、商用のために地方回りを、ジープでもって運転手一人連れて何回か地方を歩きました。その間において受けた、タイ国人の私に対する非常な個人的な親切さといいますか、親しみ、そういったものを考えまして、この人たちから借りたお金なら早く返していただいて、それで何らのしこりなく今後も商売、あるいは日本経済発展のため、あるいはタイ国経済の発展のために解決していただきたいと念ずる次第であります。  以上であります。
  9. 井上清一

    委員長井上清一君) ありがとうございました。  最後に堅山利忠さんの御意見を承りたいと思います。
  10. 堅山利忠

    参考人(堅山利忠君) 衆議院をこの案件は通過したわけでありますし、今参議院にかかっておりますが、私たちいろいろ事情を考えてみましても、最後に国民のみんながどう考えるかという点を頭に置いて考えますと、どうもこれは割り切れないものが残っている、このままで議決されるということについては非常に問題がある、そういう点で、私率直に申し上げますけれども、このままの議決に対しては反対立場をとるという結論でございます。  その理由でございます。第一、特別円残高の処置が三十年の協定においてなされたわけでありますが、その特別円債務としての性格、あるいはその金額の算定そのものがきわめてあいまいなものがある、大きな疑点が残っているという感じがするのであります。これが第一の理由です。これは衆議院の議事録におきましても、いろいろの形において詳しく論議されております。あのような状態では、非常にこれは疑点があるのじゃないかと思いますが、私の考えますところによりますと、タイは戦時中においても同盟国でありまして、第二次大戦後におきますこういう問題の処理に対しまして、イタリアとか、ブルガリア、ルーマニアとか、ドイツに対しまして、そういう請求権を放棄したとか、あるいは日本がドイツに対しまして同じようなことを相互にやろうということをして放棄したわけであります。そういうことを見ましても、戦争中におきますこの特別円というものの処理にいたしましても、これは平時の債務の場合とは相当違ったものではないか、こういうように思います。ことにまた一般の例としまして、革命が起きるとか、敗戦によってそれを履行できないような大きな状態が起きるということになりますれば、非常な事情の変化というようなものにつきましては、どうしても考慮しなければならぬ面があるのじゃないかというふうに考えます。もちろん、私はタイ自体の立場というものを考えますならば、同盟国と申しましても、これは対等のものではありませんでした。おそらく当時の軍部の態度から見ましても、押しつけられた、そういう点まことにお気の毒なタイ国立場だと、このように考えております。しかしながら、日本のほうとしましても、戦前におきます軍部のやりましたそういう不始末をば、戦後の、立場を異にしました今日の政府あるいはわれわれ自体が、そのまま無批判に継承しなければならぬかどうかという点についても、問題があるように思うのであります。そういうことと同時に、また同盟条約、三十年のときにおきましていろいろなものが破棄された。そこに金約款の問題が出てくるわけでありますが、そういう点から考えてみますれば、三十年の交渉でも、協定でもわかりますように、若干事情の変化あるいは考慮しなければならないものがあったんだということのために外交交渉に移り、また、そこへいろいろな努力がなされたのじゃないかと思います。そのことと、金額の点から考えてみまして、一体百五十億円最後にタイが主張したそうでありますが、百五十億円。さきにも日本は五十四億円認めた。これはすでに支払い済みであるという形でございますが、一体どういうふうに算定されたのかということになりますと、これはすこぶるあいまいなものじゃないかと思います。といいますのは、不勉強にして、先ほどお伺いしたわけでございますが、五十四億円の算定の内容というものを見ますれば、金を引き渡す取りきめをしたけれども、それを実行しなかった。その実行しなかった部分について、時価で、金の公定価格で換算しましてこれが三十七億円をこえている。言いかえれば、特別円の、五十四億として承認しました債務自体の中心を金で引き渡すのだということを取りきめをしたけれども、それは実行しなかった部分と、こういう意味が主体であるようであります。そうして、残高として残っております十五億円というような問題につきましては、むしろこれを当時の一円と今日の一円とは同じだという前提に立っているというふうなことを考えてみましても、非常に計算基礎というものがあいまいなものだということがよくわかろうと思います。また、当時の円あるいはバーツの価値というものが、一体実質的にどのような価値を持っているかということについては、討論や、十分の研究なしに金額が決定されている。別な言葉で言えば、このようにきめられたこと自体が、実はやはり特別円残高というものがきわめて政治的、外交的に処理しなければならぬものであって、これは普通の債権債務のような工合に絶対にいかないものなんだということを、相互の政府がやはり承認しているのじゃないか、こういう感じがいたします。そういう意味合いにおきまして、私はどうも、特別円残高の措置という点について、三十年の協定にも問題があるというふうに思うわけであります。  第二の点でありますがですね、三十年の協定は、一応合意されまして、日本の国会でも通過したわけであります。その国会を通過しましたものにつきまして、よほどの根拠、理由というものがなければ、これをば改訂したりあるいは破棄するような形になるような、あるいは別の言葉で言えば、別な新規な協定じゃないかというふうな性格の変わったものを、前のもののリプレースという形で押し出されるということについては、非常に問題があるのじゃないか。これは日本の国会の権威という点から言いましても、日本政府の権威から言いましても、どうも問題ではないかと思うんです。もちろん、これにつきましては、現在のサット首相との交渉の中におきましては、タイの、さっきあげられました九十六億円、投資クレジットというような面の九十六億円の供与というふうな問題は、これはタイ側の手落ちであったんだ、これでは特別円というふうに実際タイが戦時中に負担させられていて、それに対する措置としては、タイ国民としてこれを認めるわけにはいかない。国民感情が許されない、何とかこれをしてくれ、こういうふうに池田首相に申し出られたのだ、そういう点をタイ国交渉から、というようなお話でございますが、今度は日本側に帰ってきてどうでございましょうか。国民もこういう形の処理をし、それが手落ちでないと思うかどうか。そうして、日本の議会の側におきましても、今議会で論議されている過程を見てもわかりますけれども、やはりこれは日本国民の感情としても、サリット首相が言ったと同じように、今度は新たに日本の手落ちになるのではないか、いわんや、国会が一応十分審議をした上であの協定を作ったその協定が、まるで私生活におきまする普通の感情やら、取引のような工合に、大まかにやってしまうというようなことになりますれば、これはやはりタイ国のミスと同様なミスを今新たに日本が繰り返そうとしているのじゃないか、こういう感じがします。そういう点で、もう少し合理的で、近代的な考え方をしていただかなければならぬのじゃないか、こういうふうに思うわけであります。この問題につきましては、これは九十六億円の問題だ。ガリオア、エロアの問題に比べますれば、そういう点が小さいというようなことで軽く処理される危険があると思いますけれども、私は実はこれは金額ではない。やはり一貫した政府外交方針なり、そうした問題の扱い方について一つの盲点があるのではないか、そういう点を感ずるわけであります。そういうふうな意味から見まして、第二の理由といたしまして、ほんとうにサリット首相に対しましてタイ国民がそう思うならば、日本のまた国民も同様な措置を受けるならば、これは同じような気持になるのだ。タイ国民は長い歴史の伝統から見て、アジアにおきまして、やはり残された唯一の独立国家でありました。そういう点で、自分の独立に対する一つのブライドというような点については強い意識を持っております。また、日本国民も同様だと思うのであります。そうだとするならば、日本立場というものは、タイ政府にしても、サリット元帥にしても、よくわかるのじゃないか。しかし、その点に手を尽さずして、大まかにいわゆる浪花節調と申しますか、浪曲調でおれにまかしておけということで処置されておるということは、第二の、国民が大きな疑惑を持つ問題ではないか、こういうふうに考えるわけであります。ところが、九十六億円の処置を無償でやる。そういう点では、非常に本質的にこれは切りかえるということでありますから、そういう点では、そういう根拠というものは非常に弱いのじゃないか。もしこれが、百五十億円というタイ側が要求したその一部として、五十四億円を支払ったその残りというものがあるのだからというふうな意味でありましたならば、タイ側の主張というものが相当正当なものじゃないか。言いかえれば、日本のほうも、債務として特別円の処置として実は百五十億円を当時も認めていたのだけれども、しかし、支払う場合においては、五十四億だけ支払って、そのあとの残っておる、実際認めなければならぬ債務というものを第二の有償供与の形にしたのだということになっているとすれば、確かにタイ国としますれば、そういう、当然もらうべき債権というものを受けるのに、今度はこれを投資やらクレジットの形をとって、有償でもって供与されるということになりますと、経済内容からばかりでなく、面目の点から言ってこれはおかしいじゃないかという議論が出てくるのは、私は当然じゃないかと思うのであります。この点日本政府は、一本五十四億円がきちんとした百五十億円の処置としての金額であるのかどうか、そして九十六億円は、これは経済協力という意味において、特別円意味じゃなくして、経済協力という意味でやっておるのだとすれば、今日これを無償で与えるというのは何か新たな事実がなければならぬ、こういうふうに思うのです。そういう点で、私はやはりこの措置の仕方という点で重大なミステークを犯してしまうのじゃなかろうか、こういう感じがするわけであります。ところで、こういう問題を出しますと、それは日本タイ友好関係、あるいは経済上の協力関係、また今日日本が貿易についていろいろな苦難に当面しておりますが、そういう点で、アジアにおける有数な輸出国で、これからまた有望である。いろいろ先にお述べになったと思いますけれども、確かにこの事実は認めなければならぬと思いますけれども、そういう経済協力を推進する方法友好関係を促進する方法というものが、実はタイ特別円について、このような筋の通らない形において処理されることであるかどうかということであります。経済協力の問題にいたしましても、戦前のそれ、戦後のそれというものを見ておりますと、一体経済協力について日本政府はほんとうに東南アジア一帯について協力していく気魄と誠意があるのかどうか。ただ古い形におきまして大きな企業が進出する。あるいは中小企業がいろいろな苦難に当面しておりますが、はたして戦前とは違った形においていろいろな諸国間との貿易交流をやっていく、そして日本国民全体がその均霑にあずかるような施策と構想を持ってやっているかどうか。また低開発国と称されますアジアの諸国に対しまして、ただ利益、利潤というのではなくして、もっと高い文化的、社会的な意味から、日本経済協力をしなければならぬ。その意味では経済負担になろうかと思いますけれども、その大きな構想の一環として、もし九十六億円とか、あるいはその他のものが無償で提供されるというならば、私はそれはほんとうに経済協力を促進する条件だと思います。しかし、そういう構想なしに、そういう結果になるであろう、また他の国の国民の感情をばよくする手段になるだろうというふうな、ただばく然とした考えでもって、国民の支出を必要とするようなものがきめられていくというふうなことは、やはり私は反対せざるを得ない原因ではないか、こういうふうに考えております。政治の問題が先にお話しがございましたが、私は政治的な意味において冷戦の一方に左祖するというつもりはございません。そういう角度からこのタイ特別円についてひとつてこ入れしようというふうな意識は一つもございません。けれども、そういう政治の面への影響というもの、また経済協力の構想においても確たるものなしに、その場その場でやられている。おそらく政治や平和の構想についてもこれはないのだと思うのです。そういうふうなことは、やはりこれは政治的に悪いことが起こってくるのじゃないか。こういうことでは、ほんとうに平和を確立し、アジアの諸民族と協力することができない。経済の問題についてはEECの問題もございますが、世界の経済における日本立場というものを考えますれば、もっとしっかりした構想の上にやられ、その上に立ちましてこの問題を解決するということならば、私たちはこれを支持するにやぶさかでございません。どうも今までの行きがかり上これが出されてきて、筋が通らないということのように考えられますので、このまま議決していただくということはどうかというふうに考えるわけです。  最後に、とにかく当時これは議定書も作られてやられたというふうなことでありますが、これをどうしたらよかろうか、あるいは、国民自体としてどういうことを期待するかということを考えますと、多数でこれが決定されるということでなくて、先にも申しましたように、その性格の問題、交渉の仕方、また過去のわが国会の大きな議決をくのがえす問題でありますから、政府はいろいろむずかしいと申しますけれども、もう一ぺん再交渉いたしまして、そしてほんとうに日タイの間の親善関係経済的協力をばやるという大きな構想の中の一環として再交渉をされるということになりますれば、いかにタイ国政府の性格、いろいろ問題がありましょうが、やはりここではまだ話し合いの余地があるのじゃないか。もしそれに応じないという態勢では、ここでこういう措置をいたしましても、日タイ関係は打開できないのじゃないか。もっと高い見地に立って相互に理解し合うということでなければ、ここでこういう九十六億円の無償提供をしても、あまり効果がないというふうな感じがするわけです。そういう点で政府に期待いたしたいと思う点は、ここで数年の間も置き去りになってきた問題でありますから、これを半年や三ヵ月延ばすということで、緊急を争う問題でもないと思いますから、ここで再交渉して、相互の国民立場というものをば納得する形において解決する。さらに進んで、もっと積極的な経済協力が必要なら経済協力をやる、あるいは政治、平和の問題についても、もっと日本側から見てそれがいけないと考えるならば、それを是正するという話し合いを含めまして再交渉すべきではないかという感じがいたすわけであります。政策の問題に入りまして恐縮でございますが、あるいはおそらく多数決によってこれが議決されるかもしれません。しかし参議院の皆さん方に希望いたしたい点は、最高の良識の府として何とか打開の方法を考えることはできないだろうか。もし不幸にして、政府側において押し切っていくのだと言いますならば、せめて参議院の側におきましては、このような疑点があり、このような問題があり、こんなミスがあるのだということをば附帯決議としてつけるくらいの誠意を示していただきたいというのが、私の意思でございます。  簡単でございますが、私の所見を申し上げました。
  11. 井上清一

    委員長井上清一君) ありがとうございました。  以上をもちまして参考人の方々の御意見の御開陳は終わったのでありますが、参考人の皆さんに対して御質疑のおありの方は、順次御発言を願います。
  12. 永野護

    ○永野護君 坂本先生に一つ伺います。  反対理由を四つお述べになりましたが、私はここで聞いておりまして、最後の一項、すなわち、日本外交の基本方針、根本方針がまだきまっていないのじゃないか、つまり、その場その場の思いつきじゃないかというような点が一番ポイントじゃなかったかと思うのであります。その点私どもの立場と社会党さんの立場の違うことは認めるのですが、社会党さんのお気にいるような外交方針はきまっていないということは言えると思いますが、私どもは実はきまっている。それに対して社会党さんの非常な反対があったわけであります。しかし、結論はきまちゃっている。つまり、われわれは日米安保条約というものは、日本の九千万の国民がこの四つの島の乏しい生産力でどうして生きていくかということを日米安保条約というものをよりどころにして生きていこうという方針をきめたと私どもは思っておるんです。したがいまして、その基本方針はきまっておるのであります。少なくとも、私どもはさまっておる。社会党さんがそれに合流されたとは言いませんが、少なくも、私どもはきまっておる。その方針に基づいたすべての外交をやっておるわけであります。したがいまして、今の、たとえばあなたのお言葉の中にあります、ベトナムに対するいろんな対策がだめじゃなかったかというようなお話がありましたけれども、実は、ベトナムのようにタイをしたくないのがわれわれの目的であります。(「ベトナムは失敗したね」と呼ぶ者あり)だから、ベトナムのようなことにしたくないというのが、日米安保条約というものを認めておる私どもの立場なんであります。(「あっちを向いて言いなさいよ」と呼ぶ者あり、笑声)したがいまして、今ここでそれを今度は日米安保条約の賛否論を蒸し返しても仕方がございませんから、結論だけ申しますと、私どもは日米安保条約というものを認めて、これを日本人が生きていく現実の問——こ題れは理想論はいろいろあると思います。日米安保条約が、私ども日本人の気持から言って、ほんとうの意味の独立国としては意に満たないところがあることは事実でありますが、いろいろ理想論はあります。ありますけれども、現実論としてはあれしか生きていく道はない。私はこれは安保条約論になるから、どうしてもこっち向いてやることになるのでありますが、(笑声)それにかわる、どうしてこの九千万人の人間を日本の乏しい資源で養うかという具体的な対案を見せていただきたい。私どもは、どうも話が高いところの議論から、すぐ地上に落ちてくるような感じがいたします。いたしますけれども、それが聞きたい。とりあえず、アメリカを向こうへ回して、九千万の人間が腹一ぱい飯が食えますか。食えると言うのなら、どうして食えますか。実はこれはこういう公の席じゃあ言えないことでありますけれども、僕は和田君にそういうことを聞いたことがあるんです。そのときに、ああおれにまかしたら楽に食わしてやる、一体どうするんだと言って、その具体論を和田君から聞いたのであります。聞いたんでありますが、これはこの席で申し上げるのは、これはこういう公の席でのやりとりじゃないのであります。ごく二人きりで話したのでありますから、私はそれに対して非常に反対意見があるのでありますが、申しませんけれども、少なくとも、和田君がそう言いましたように、そしてそれの実現の可能性の有無ということは抜きにして、もうまじめに、和田内閣を作ったら日本人には飯を食わしてやると言いましたけれども、それは私には納得ができない。私の納得できるのは、とにかく現実の問題としては安保条約というものが通り、そうして、それに基づいてわれわれはすべての国策の遂行をきめておるというのが今の実情でございます。したがいまして、今の四つの反対論の全部に通じまして、そのベースが違うのでありますから、基本的の問題を論じませんと、先生の反対意見に納得ができない、ということだけ申し上げておきます。  それから最後の堅山さんのなにで、三十年に一ぺんきまっているものをここで変えるのはおかしいじゃないかという議論でありますが、これに対しましては、実は、私はこれについても非常な意見があるのであります。と申しますのは、三十年のきめ方は非常に無理だったと私は思うのであります。これがどうして無理だ、三十年の取りきめが無理であったかということを説明しますためには、非常ないろいろな文献も要ります、資料も要りますから、抽象的に三十年の規定が、取りきめが無理であったという抽象的な言い方では、御得心は得られぬかもしれませんけれども、(「なぜ反対しなかった」と呼ぶ者あり)そのときには私、議席を持ちませんでした。(笑声)でありますから、したがって、その無理なところを手直したものだと、私はそう思っております、私に関する限り。したがって本当言えば、三十年のときでも、あの姿よりはもっと変った姿で協定をすべきだったのが、非常におくれておった。その無理がタイの二千数百万人の人の気持にずっと浸透しておった。それが日本の国策遂行のためによくないことだから、それをこの際取り除こう、そういう意味と私はそういうふうに了解しております。だから、今の坂本さんの四つの反対論には、少なくも私は承服ができないということ、だから、これをやるべきだということを、私の意見を申し上げておる。
  13. 井上清一

    委員長井上清一君) 他に御質問はございませんか。
  14. 木内四郎

    ○木内四郎君 坂本さんにちょっと伺いたいのですが、このタイとの関係で、戦争中の未解決であった問題を、両国の友好促進のために何とか処理しなければならぬということで、三十年におきましては、共産党だけ承認しておりませんが、社会党の諸先生もみんな賛成されてああいうふうにしたわけです。それは、その当時におきましても、その解決は、少なくも戦争中の債務を処理することが、日タイ両国の伝統的な友好関係をさらに促進するだろう、また経済的にも効果があるだろうということで、ほとんど全会一致であの協定承認したわけであります。ところが、御案内のように、五十四億円は払ったけれども、あとの九十六億円については、タイのほうから、戦争中の自分たちの債権を処理したら、あとで自分たち債務が残ったというのじゃ、債務の整理にならぬじゃないか、自分たちは条文の作成のときにはなはだ手落ちで、それでもいいだろうと思ったが、また自分たちもそれは貸してもらったのだというような気持でやったのだ、そこに非常に誤解もあったのだが、タイ国民感情の納得のいくように何とかしてもらいたいという希望を申し出たものだと思う。私どもも今の永野委員から言われたように、戦争中は同盟条約もあり、それに関連して特別円協定もあった。その条約その他が廃止されたわけです。だから、国際慣行上から言っても、個人間の契約から言っても、契約がある間に発生した債務というものは、やはり契約の各項によって処理するということが常識なんですね。ところが、それによって処理するとなれば、当時の条項、文字どおり言えば千三百五十億円も払われなければならぬ条項であった。そこでタイのほうは当初それを要求してきたが、だんだんしびれを切らして、五百四十億ですか、だんだん下げてきて、落ち着くところは百五十億というところで手を打ったわけです。  そういうところには永野委員が言われたように、われわれはそれがなるべく少ないほうがいいと思ったから賛成したけれども、ちょっとがめつ過ぎたような気がする。ちょっときつ過ぎたんじゃないかということを私どもみずからも反省している。私は当時も議員でありまして、この前の諸君とともに賛成したんですが、ちょっとどうもがめつ過ぎた。当時は日本経済もこれほど回復しておりませんでしたから、外務省も今お述べになったような理由を主張して、何とかして金額を少なくしようとして努力したことは私どもも認めるのですが、ちょっと結果においてはがめつ過ぎたという気持を持っておって、このタイ国の今回の要求を聞くと、そこにやはりわれわれとして一度きめたものの反省をして、まずいところがあったら直すという気持でなければいかぬじゃないか。それが今度の改訂になったあれだと思うんです。ところで、さらにこれを経済的に考えてみますと、そんなことを言うと主計局流だとか言われるかもしれませんが、九十六億円を八年間に払う。これを現在の価値にすると、たとえば政府資金の平均運用率で還元すると、六十数億円になるわけです、現在価値で言えば。ところが、この前の協定によって、九十六億円を払って、二十年後にこれを返してもらうというローン・アンド・クレジットということであれば、これをやはり同じ方法によって還元すると二十数億円になるんですね。そうすると、その差額という七十数億円というものは、経済的には失われた形になるのです、現在の価値で言えば。七十数億円が失われたほうがいいか、さっき申しました六十数億円現在の価値で出すほうがいいか、こういう純数学的の考えもあるわけです。そこで、形は、タイ国民感情が納得するなら無償という形でもいい。それを一歩退いて裏で計算してみると、そういう計算にもなるのであります。必ずしも国民負担から言っても、今の計算の示すとおり、今度のほうがむしろ有利なくらいなわけです。不利ということは言えない。そういうところの解明まですれば、これは国民も、また皆様方にも御納得願えるのじゃないか。ところで、そこで、九十六億円というものを、そういうことで、今まで有償であったのを無償にする。百五十億円というものは大体解決しているのです。ところで、それだけのことで、さっきお述べになったような、外交上その他で非常におもしろくない影響があると四点をおあげになったけれども、それだけのことでそれだけの影響があるというふうにはちょっと私ども考えられないんですが、その点はいかがでございましょう。
  15. 坂本徳松

    参考人坂本徳松君) 私の考えとしましては、タイ友好関係を持ってはいけないとか、経済協力を強化してはいけないという考えは毛頭ないわけでございます。ないどころか、このような形での特別円の処理が、かえって友好関係の、ほんとうの意味友好の持続発展にならないし、経済協力ということにもならないと言うのは、タイの問題を考えた場合に、現在の東南アジア政治情勢から言うと、ここに占めているタイ地位とか役割その他を十分に考慮しないと、かえって逆の効果になってしまう、その点を強調したつもりでございます。そのことは、なるほど計数的に言いますと、金額の評価ということについては、いろいろなことが考えら承ると思いますが、これがかりに多額なものにせよ、あるいはそれほど多額でないというものにせよ、そういうことだけで説明がつかない問題を最初に出したと私は考えておるんですが、その点で金額の多少とか、それの払い方の有無、どうこうということよりも、もうちょっと賠償に関してと同様、戦争中のこの債務あるいは特別円の処理なわけですから、具体的に言いますと、これも非常に問題はありますけれども、日本側が持っていると思われる一種の債権、そういうものも検討した上で、そういう戦争中の債権はどう処理すべきかというふうなことを数字的にも明確にした上で、そういうすべての処理をつけるということでなければ、今までの経過では、タイ国国民感情がこうであるから、これを満たしてやることが経済上の有利なことにもなるということだけのように、私には思われてならないわけです。あわせて、先ほど永野先生からお話しがありましたが、具体的に外交方針がこういうふうにきまっておるんだし、では、具体的にうまく処理できる考えがあるかという点になると、私たち現実的な政策については経験もありませんし、弱いわけなんですけれども、タイのことを考えるのに、東南アジアとの関連を離れて考えては、正当な回答が得られないと同様、東南アジアのことを考える場合には、中国その他のアジアのほかの国との関連を無視してはとうてい考えられない。それが何か、中国かアメリカかソ連式な考え方が出て来まして、どの国ともいわゆる平和共存というような形でやっていく、あるいは中立ということに対する積極的な評価というふうなものが十分に検討されてないように思われる。そこが、外交の根本方針についての疑義を持たざるを得ないというのが、私の立場でございます。
  16. 井上清一

    委員長井上清一君) ほかに質疑もおありにならないようでございますから、これにて、参考人の皆様に対する質疑は終了いたしたいと思います。  終わりに、参考人の方々に一言お礼を申し上げたいと思います。  きょうは、たいへん御多用のところをわざわざおいで下さいまして、長時間にわたりまして貴重なる御意見を拝聴いたしましたことは、まことにありがとうございました。この機会に、一同にかわりまして厚くお礼を申し上げる次第でございます。  本日は、これにて散会いたします。    午後零時八分散会