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1962-02-13 第40回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年二月十三日(火曜日)     午前十時二十八分開議  出席委員    委員長 山村治郎君    理事 青木  正君 理事 野田 卯一君    理事 保科善四郎君 理事 淡谷 悠藏君    理事 川俣 清音君 理事 小松  幹君       赤澤 正道君    今松 治郎君       臼井 莊一君    上村千一郎君       上林山榮吉君    仮谷 忠男君       北澤 直吉君    倉成  正君       田澤 吉郎君    田中伊三次君       中曽根康弘君    中村 幸八君       西村 直己君    羽田武嗣郎君       八田 貞義君    藤本 捨助君       船田  中君    前田 義雄君       松浦周太郎君    三浦 一雄君       山本 猛夫君    井手 以誠君       石田 宥全君    加藤 清二君       木原津與志君    楯 兼次郎君       辻原 弘市君    堂森 芳夫君       長谷川 保君    山口丈太郎君       山花 秀雄君    山中 吾郎君  出席政府委員         経済企画政務次         官       菅  太郎君         大蔵政務次官  天野 公義君         厚生政務次官  森田重次郎君         運輸政務次官  有馬 英治君  出席公述人         東京銀行頭取  堀江 薫雄君         富士銀行頭取 岩佐 凱実君         法政大学教授  大島  清君         横浜国立大学助         教授      長洲 一二君         日本碍子株式会         社社長     野淵 三治君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 二月十三日  委員井出一太郎君、周東英雄君、床次徳二君、  永井勝次郎君及び野原覺辞任につき、その補  欠として田澤吉郎君、上村千一郎君、前田義雄  君、石田宥全君及び山中吾郎君が議長の  指名委員に選任された。 同日  委員上村千一郎君、田澤吉郎君及び前田義雄君  辞任につき、その補欠として、周東英雄君、井  出一太郎君及び床次徳二君が議長指名委員  に選任された。     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  昭和三十七年度一般会計予算  昭和三十七年度特別会計予算  昭和三十七年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 山村新治郎

    山村委員長 これより会議を開きます。  昭和三十七年度一般会計予算昭和三十七年度特別会計予算及び昭和三十七年度政府関係機関予算につきまして公聴会に入ります。  本日午前中に御出席を願いました公述人は、東京銀行頭取堀江薫雄君、富士銀行頭取岩佐凱実君のお二人であります。  開会にあたりまして、御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。本日は御多用中のところ御出席いただきまして、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会におきまして審査中の昭和三十七年度予算につきまして、各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位のそれぞれの専門的立場より忌憚のない御意見を承ることができますならば、本委員会の今後の審査に多大の参考になるものと存ずる次第でございます。  御意見を承る順序といたしましては、まず堀江公述人より御意見を承り、引き続き、その御意見に対し委員から質疑を行ない、次いで、岩佐公述人より御意見の開陳をお願いいたし、質疑を行なう順序で進めることにいたしたいと思います。公述人各位の御意見を述べられる時間は約三十分程度にお願いいたしたいと存じます。  なお、念のために申し上げておきまするが、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ること、また、公述人委員に対しまして質疑をすることができないことになっておりますので、この点あらかじめ御了承をお願い申し上げます。  それでは、堀江公述人よりお願い申し上げます。堀江君。
  3. 堀江薫雄

    堀江公述人 堀江薫雄でございます。  お呼び出しによりまして、国際収支動向中心とするわが国当面の貿易・為替の問題について見解を申し述べます。予算案審議参考になれば幸いに存じます。  まず初めに申し上げたいことは、国際収支予測はきわめてむずかしいことであります。   〔委員長退席青木正委員長代理着席〕 従来の例を見ましても、政府民間予測が大きくはずれた例ははなはだ多いのであります。それは、経済予測の方法が理論的にも統計的にもいまだ不完全でありまする上に、人間の意思活動を法則によってはとらえにくい事情や、またときには経済外要因によって経済が大きく影響されるためであります。それで、国際収支見込みにつきましても、これを確定した数字で示すことは、目安としては必要でありましょうけれども、これにあまりとらわれることはかえって危険であります。国際収支を見るにあたりまして重要なことは、むしろ、国際収支動きを左右しておる諸要因の分析とその動向の判断であり、その認識に基づいて諸要因を望ましい方向へ導くことだと思うのであります。  同じことを別の角度から表現いたしますと、国際収支対策には常に長期的視野短期的見方とをあわせ持つ必要があるかと思うのであります。昨年来のわが国のように国際収支の不均衡あまりはなはだしくなった場合には、内需抑制等応急措置を早期にとるのは当然であり、現にそのための引き締めがなされておるわけであります。しかし、その際にも長期対策との関連づけは忘れるべきではございません。もともと、今回の国際収支問題は、自由化に対処するための産業構造貿易構造革新に必要な合理化投資に起因する点も多いのであり、このことを想起するとき、単に機械的一律の引き締めではなくて、長期的視野に立った選別が、当然に必要となってくるのであります。この点に現在直面しておる重要にして困難な課題があるわけであります。個々の企業は、自己のレーゾン・デートルを主張するためにも、常に強気に傾きがちであり、過当競争や二重投資等の問題は、このことを忘れては理解できないものと考えます。これをときどきの経済情勢を勘案しつつ国民経済全般にとって好ましい方向に集約するためには、やはり、政府の強力かつ弾力的な指導なり、あるいは業界の自主調整が不可欠と言わざるを得ないのであります。  しかし、同時に、日本経済にとり、輸入増加傾向は少なくともここ一、二年ないし二、三年は避けがたいという事実を認識する必要もございます。それは、国民所得水準消費水準上昇傾向からも推測できまするが、他面、それ以上に、自由化産業貿易構造革新といった当面の要請がここしばらく国際収支に対する重圧となろうと考える次第であります。もちろん、このような長期的視野から申せば、一方で原材料安あるいは製品高といったような、日本にとって世界的に有利ないわゆる交易条件が今後とも続くと思われること、また、良質、勤勉な労働力が相対的になお依然豊富であるといった好条件もないわけではございませんが、他方では、先ほど申し上げました通り輸入増加傾向は当面の数年は避けがたいと思われるのであります。従いまして、政府は、さしあたり国際収支均衡目標を秋ごろとされておりまするが、予定通り均衡達成された暁にも、そのあとに再び輸入を増加させかねない数多くの要因が存することに留意すべきでありましょう。内需抑制外国借款によって達成し得た一時の均衡に甘んずることはできないのであり、輸出振興根本対策推進する必要が今日ほど痛感されるときはないと思うのであります。しかも、政府が予定されておるように、均衡達成を秋までに実現し、そしてこの均衡衣維持するとすると、なかなか容易ではない。そういったことはすでに各方面でも言われておるところであります。ことに、わが国輸出市場の三割を占めておるアメリカ景気上昇が本年下期以降やや頭打ちになる懸念があること、日を追ってドル防衛策強化されると予想されること、また、わが国景気調整過程が長引くとともに、輸出価格先行き軟化を見越して海外側買付を手控え始めるおそれもあるといったような事情は、自由化実行や、この年末における借款返済期到来などとともに、均衡推持に対する困難を加重するものと思うのであります。  その意味で警戒を要するのは、ここ一、二カ月以来、信用状収支その他の先行き指標好転したに伴いまして、一般に漂い始めましたいわゆる楽観ムードであります。もちろん、これに対しましては、在庫調整の幅が意外に小さく、従って当面の好転は一時的なものではないかという疑問もすでに投げかけられております。在庫の実情につきましては、つい昨日、政府調査結果を二億ドルと見ることになったということで、大体妥当と思いますが、これにつきましても、なお批判や別の見方があるようであります。しかし、在庫輸入が比較的早い時期に再燃するかどうかは、要するに生産動向企業市況観測いかんにかかるものであります。従いまして、ここ当分は生産の足取りに十分注意を払うことが必要であります。そうして、いやしくも楽観ムード一般化することによって企業が再び強気に転じ内需目当て行き過ぎ生産設備投資に走ることのないよう、基本的に引き締め方針を堅持する必要があると考えるのであります。もしも、国際収支の受け取りと支払いのつじつまを合わせ、一時的にせよ均衡を達すればいいという考えでありまするならば、特に秋まで待たずとも、上半期にこれを実現する見込みは十分でございます。しかし、問題は、一時の均衡回復ではなくて、その均衡を継続維持できるかいなかにあることは申すまでもございません。秋に安定的均衡を回復するためには、できれば上半期均衡を果たそうというくらいの心がまえで、引き続き断固たる姿勢を保たなければ、今後に予想される輸入圧力に対処するのは困難であろうと思うのであります。  こういった観点からいたしますると、三十七年度予算案は、一般の予期したところに比べかなり大型となり、ことに国際収支改善という大前提が必ずしも徹底して貫かれていないきらいもあるように見受けるのであります。しろうとの論議かもしれませんが、少なくとも、三十七年度においては、財政規模拡大は、直接にしろ間接にしろ、輸出促進輸入の削減に役立つ項目に大きく重点を置いた方が、国民輸出マインドをかきたてる意味からも効果的でなかったかと考えるのであります。また、年を追って財政景気調整機能が失われていく感があるのに伴いまして、新年度におきましても、もっぱら金融がその役割を果たすことになろうかと考えます。しかし、金融のみによる景気調整には限界があるだけではございません。かねて懸案の金融正常化も、さらに後日に繰り延べられる結果となりかねないのであります。もっとも、政府は、新年度予算の執行に際し、弾力的運用をはかる意向であると伺っており、この点に特に強い期待を抱く次第であります。  以上で、結論を先に申し上げましたが、これを敷衍する意味で、まず輸出見通し対策を、海外景気動向との関連において取り上げ、次に、輸入見通し、さらには貿易外収支及び資本収支動向についても、いささか立ち入って触れてみたいと思うのであります。  まず輸出について見ますると、本年の国際環境は、昨年同様、わが国にとってかなりきびしいものと予想されます。三十六年度輸出不振の原因は、生産大幅増加にもかかわらず、旺盛な内需がこれを上回ったことがあげられるのが通説であり、また、事実もその通りであります。しかし、同時に、海外市況も好ましいものではございませんでした。昨年の世界貿易増加率は四%前後と推定されておりまするが、これは、昭和三十四年の六%、三十五年の一一%と比べ、かなり低調であります。特にわが国重要輸出市場であるアメリカ輸入は、一昨年に引き続き昨年も若干の減少を記録しておると推定されております。これに呼応して、わが国の対米輸出も三十六年度は異例の減少を示しておるわけであります。このように、海外諸国貿易増加率は、その経済成長率とともに数年来鈍化しており、この傾向が本年も相当程度続くと予想されるのであります。  もっとも、アメリカ向け輸出につきましてはかなり期待材料がございます。と申しますのは、昨年春に始まりました米国の景気上昇は、本年も順調に進むものと予想されておるからであります。ことに、赤字財政による公共支出上昇のきっかけを得た景気が、昨年秋以来は消費支出増加の様相も示して参りました。これに伴い、わが国の対米輸出も急速な立ち直りが期待されます。しかし、これとても、あまり激しくなだれ込みますると、御承知通り綿製品輸入賦課金を初め、保護貿易の主張が繰り返し表面化してくるおそれがあります。その上、現在の景気の支えが今後民間投資活動によって十分引き継がれませんと、来たる下半期にはアメリカ経済活動の伸びが多少鈍化する懸念もあるのであります。その意味では、わが国の対米輸出上半期にうまくタイミングを合わせる方が効果的だという見方も成り立ちます。  次に、ヨーロッパは、国により事情が異なりますが、一般的には、アメリカ反対に、昨年春ごろから景気頭打ち傾向にありました。しかし、今年は、アメリカ景気上昇影響もあり、下半期には再び着実な拡大過程に移るのではないかと思われます。その上、わが国としても、御承知通りヨーロッパ地域への輸出ドライブには近年異常な努力を傾けておるということもあり、市場としてかなり期待を抱かせる先であります。もっとも、反面では、ヨーロッパ一般的に完全雇用の状態にあり、いわゆるコスト・インフレの圧力が根強い関係から、大幅な経済拡大も望めない情勢でもあります。  次に、低開発国経済大勢は、依然として一次生産物過剰生産価格下落のために振るいません。しかし、今年は先進工業国経済好調と後進国援助増加傾向とによりまして多少の好転は見られるのではないかと私は考えております。特に、わが国輸出市場として関係の深い東南アジアは、ヨーロッパ向け工業原材料輸出の度合いが高いので、ヨーロッパ景気好転に伴い、これら諸国国際収支改善も望めるのであります。しかし、わが国輸出にとってこれがそのまま好材料と言い切るには、かなりの疑問がございます、と申しますのは、これらの国の外貨不足は深刻であり、今後収支の若干の改善はあるとしましても、輸入の多くは外資や援助にたよらざるを得ず、当然債権国ひもつきとなりがちだからであります。ことに、アメリカドル防衛決意による、バイアメリカン政策強化わが国にとって致命的であることは、肥料その他いわゆるICA輸出に顕著に現われております。  要するに、今年の海外景気は、幾分は好転すると見られ、それに伴いまして、世界貿易増加率も、大幅ではないにせよ、昨年よりは醜くなるものと見込まれております。従いまして、わが国の場合も、今後とも国内景気動きに対し十分な調整措置がとられれば、輸出産業国際競争力強化されつつあることから見て、三十七年度輸出政府予想水準である四十七億ドルまで伸ばすことは必ずしも不可能ではないかと考えるのであります。  ただ、問題は、海外景気一般的好調にもかかわらず、それがそのままわが国輸出にとって好材料となり得ない事実であります。従いまして、輸出目標達成も手放しに期待できるものではなくて、そのためには大きな努力が必要であります。すでに繰り返し申し上げました国内引き締め方針堅持は絶対に必要であり、これに加えて、大きい問題は、対日輸入制限差別待遇撤廃中心とする経済外交の強力な推進であります。  アメリカバイアメリカン政策や最近の綿製品等の対日差別動きは、その底にアメリカ国際収支問題があるだけに、今後とも根強いものがあると思われます。と申しますのは、今年のアメリカ国際収支は、輸入増加等のため昨年より悪くなるというのが、アメリカのエコノミストらの共通した見方であり、ドル防衛強化は不可避と思われるからであります。従いまして、わが国差別撤廃要求効果をあげるためには、不断の折衝を続ける必要があると思われます。  ヨーロッパ諸国の対日差別待遇は、各国別外交折衝によって次第に緩和の方向に向かっておりますが、最近では共同市場の興隆が国際経済に新しい問題を提出しておることは御承知通りであります。共同市場は、本質的、長期的には封鎖的ブロック経済でないと申しましても、短期的には排他的傾向も見られ、それが日本に対する厚い壁になりつつあるのが現状であります。従いまして、この地域への進出には容易ならざる努力が必要でありましょう。そういったことに対する方向としましては、最近アメリカが試みようとしておるような相互の関税引き下げによる貿易促進、さらに進んでは、資本や技術の交流も将来の重要な課題ではありまするが、さしあたって、日本にとっては対日差別の排除を果たさなければなりません。そして、そのためにも、来たる十月をめどに約束した九〇%自由化予定通り実行に移さざるを得ないでありましょう。また、一方では、専門的な市場調査、見本市の開催、PRセンターの設置といったような市場開拓努力を思い切って積極的に推進する必要があります。  なお、対日差別の点に関連して、われわれ自身も深く反省しなければならないのは、日本側内部過当競争の問題であります。わが国の商品は、品質、価格等実質面では十分国際競争力を備えたものがふえておるにかかわらず、過当競争によって乱売を行なって、相手国市場を撹乱し、その結果、みずから対日差別の種子をまいている例も決して少なくないのであります。また、無軌道な過当競争の継続が、わが国企業全体の国際競争力を高めるよりも、むしろこれを弱める作用を営みつつある現実を直視するならば、当事者のすべてが十分自戒し、それぞれの業務分野において積極的に協調体制を築き上げていくことの必要を痛感する次第であります。  他方で、東南アジア中心とする後進国につきましては、これら地域工業化の進展につれて資本財需要が高まっているおりでもあり、かたがた、わが国産業貿易構造革新にも役立つことでありまするから、資本財輸出を積極化する総合政策推進が必要であります。そのためには、原材料輸入と関連づけた市場開拓はもちろんのこと、借款、賠償、延べ払いその他の金融及び保険措置等も、そうした観点から長期的かつ総合的に推進すべきでありましょう。  中でも、輸出保険について一言申し上げますると、昨年九月、輸出保険審議会が、資金の増額を初め、制度の飛躍的な改善の必要を答申しましたにもかかわらず、新年度予算案におきましてほとんど顧みられなかったことは遺憾にたえないところであります。海外を見ましても、輸出保険制度強化努力しておる例は枚挙にいとまありません。西ドイツ、イギリスはもちろんですが、最近ではアメリカでもその対策が大きく講ぜられようとしておることは、新聞報道等で御承知通りであります。世界大勢として輸入制限関税政策世界的に後退しておる情勢でもあり、わが国としましても、今後、特に後進国市場開拓のために、輸出保険投資保険拡大措置が早急にとられるよう期待してやまないものであります。  このほか、輸出振興のためいかなる対策が必要かの問題は、議論としてはすでに出尽くした感がございます。大切なことは、議論倒れに終わらせず、効果の見込まれる対策は、事の大小を問わずこれを継続的に実行することであります。  振り返ってみますると、昭和二十八年のときも三十二年のときも輸出振興が叫ばれ、そのときそのときの効果はあげましたが、今回も、国際収支が悪化するや直ちにこの輸出振興が旗じるしに掲げられたわけであります。しかし、輸出振興速効薬というものはなかなかないものであり、多くの対策効果をあげるのに時間を要するため、結局は国内引き締め輸出圧力をひねり出さざるを得ない結果となります。しかし、国内不況内需抑制によって輸出促進するやり方を、長期にわたって続けることには危険な要因もひそんでいることは御承知通りであります。その上、輸出は、国内販売に比べて危険も多く、手数もかかりますから、景気好転によって国内販売の方がもうけが多くなれば、すぐにまた輸出から振りかわる可能性が強く、長期的な市場開拓となりがたいのであります。やはり、日本経済の今後の成長は、根本的に輸出による外貨硬得力伸長いかんにかけられておるという認識をこの際新たにして、じみちでしかも継続的な振興努力が必要かと考えます。これを具体的に申せば、毎年の予算も常にそういう観点を貫くことが必要でありましょう。また、金融保険税制等の優遇を総合的に推進させ、企業にとって輸出が危険少なく利益のより多いものとする配慮が必要でありましょう。  以上に述べましたようなあらゆる輸出努力を不断にじみちに積み上げていけば、企業合理化投資効果と相待ちまして、わが国輸出の将来も必ずしも悲観するにあたらないと確信いたしております。  次の問題は輸入動向であります。政府見通しでは、成長率五・四%、鉱工業生産増加率五・五%、また、輸入が四十八億ドルとなっております。過去の例から類推するならば、もし鉱工業生産増加率がこの程度にとどまる場合は、年間の輸入額が四十六、七億ドルにおさまる可能性も考えられるところであります。もちろん、三十二年当時と比較しましても、現在の経済規模は著しく大きくなっておりますし、また、三十七年度には自由化という特殊事情もございます。こういった点を考慮しますとき、政府が予想されている四十八億ドルという輸入水準は、目標として大体妥当なものであろうと思われます。そして、実際の輸入水準目標内におさまるか、またこれを超過するかは、先ほど来申し上げておりますように、楽観ムードに迷わされることなく、引き締め政策を堅持するかいなかによってきまると申さざるを得ないのであります。と申しますのは、特に自由化の時期が近づくにつれて企業投資意欲が再び頭をもたげるでありましょうし、そのころには在庫調整も一巡しておると見なければなりませんから、一般の空気は先行き強気観が一段と増すものと思われます。これに伴なって、思惑的な原材料手当が起こるおそれもあり、輸入増が再び始まるおそれなしとしないからであります。  ところで、三十七年度における重要な経済問題の一つは、申すまでもなく自由化実行であります。一部にはなお根強い反対論延期論があり、それぞれの見地からはごもっともと思われますが、国民経済全般立場から申せば、自由化世界市場に参加するための第一の資格なのであります。もちろん、そのために少なからざる犠牲と摩擦が生ずることは十分予想されまするが、自由化なしには真の国際競争力は涵養できない点の方が、問題点としてより本質的であります。その上、かりに自由化によって国際収支改善の時期がややおくれることがあったとしましても、国際的な公約不実行による信用失墜に比べれば、弊害ははるかに軽少であります。もともと、国際収支というものは、基調が健全である限り、その年その年の均衡あまりこだわるべきものではないと考えております。しかも、自由化によってかりに何がしかの赤字が出たとしましても、やがて輸出競争力強化となって取り返せる期待もあるわけであります。これに反しまして、一度国際信用を失えば、容易に回復しがたいばかりでなく、短資の流出等、当面の国際収支改善努力にマイナスの影響を及ぼす可能性も存すると思うからであります。従いまして、国内産業対策としましては、自由化の打撃が大きい産業のうち国民経済にとって重要な部門に対しましては・別途関税政策その他の措置で保護を加えるのも一策であります。もっとも、関税政策につきましては、一括引き下げ案がガットで検討されようとしておるおりからでもあり、その上対日制限撤廃交渉の妨げとなるおそれもありまするから、保護する産業部門とその期間を最少限度に限定するといったきめのこまかい配慮が必要だと考えます。  翻って、われわれが事新たに注目しなければならないものとして、貿易外収支動向があります。かつて特需ブームに沸いた時代はさておき、昭和三十年以降現在までの間に、貿易外収支は年間二億ドル近い受取超過から同額の二億ドル近い支払い超過に転じておるのが実情であります。この間貿易外受取額の方もむしろふえており、収支の悪化は一にかかって支払側の急増によるものであります。すなわち、この期間に貿易外支払いは年間五億ドルから十億ドルに倍増しており、中でも、海外渡航費、海運その他の運輸、特許権使用料等の急増が目立っております。その対策としては、海運収入、観光収入の増加とともに、先ほども触れました工業技術の向上などがあげられます。しかし、これらはいずれも短期的効果はあがらないものであり、長期的視野に立った抜本策が必要でありましょう。  最後に、資本収支動向でありますが、すでにだいぶん時間もたちましたので、詳しいことは省略いたしまして、ごく簡単に触れさしていただきます。  近来、ユーロダラーや外銀ユーザンスといった短期外資が急増したことにからみまして、その不健全性ないし不安定性を指摘する声が一部に強くなっております。確かに不安定な短期債務の累積は好ましい現象ではありません。しかし、すべての短期外資が常に不安定であるときめてかかるのは、現実的な見方であるとは申せないのであります。今後とも国際収支改善国際信用の維持に努める限り、現在わが国が受け入れておる短期外資をすべて不安視しなければならない根拠はございません。もともと経済成長の大きい国は資本収支の黒字でまかなうのが歴史の通例であり、わが国もまた、今後大きく経済成長達成していくためには、広く資金源を海外に求めることが肝要だと思うのであります。ことに、わが国のように、一方では先進国から資金を借り入れるとともに他方では後進国に対しては延べ払い、借款等、信用供与を行なっていくことが輸出振興貿易拡大上どうしても必要な国にとりましては、今後とも広く海外から長期、短期の外資を受け入れる必要があると考えるのであります。そうして、そのためには、為替管理や金融政策の上からも、できるだけこれら海外資金が安心して入ってこられるような配慮が必要であり、いたずらに海外短資を敬遠することは、むしろきわめて危険と申さねばなりません。  長時間にわたってるる申し述べて参りましたが、これを要するに、国際収支均衡を回復し、これをキープすることによって、日本経済に対する国際的信用に動揺の余地を与えないことが今日の急務であります。この信用の基礎があって初めて日本経済均衡のとれた成長を果たし得ると思うのであります。どうもありがとうございました。(拍手)
  4. 青木正

    青木委員長代理 堀江公述人に対する質疑を許します。松浦周太郎君。
  5. 松浦周太郎

    ○松浦(周)委員 一言お伺いいたしますが、今まで予算委員会を通じて大蔵大臣、総理大臣その他から伺っておりますけれども、堀江さんは為替全体の代表的な銀行でありますから、ごく最近の、今お話しになりましたような為替収支関係を、数字をお伺いいたしたい。まず手持外貨は幾らあるか。ごく最近のものです。それから今お話しになりました短期債あるいは輸入ユーザンスの総額は幾らであるか。同時にこれに伴って、後進国その他に貸しているわれわれの債権は幾らになっておるか、あるいは輸出ユーザンスの総額は幾らあるかという点において大体の収支がわかると思いますが、その上にアメリカの各銀行から借款したもの並びにIMFから約束されて、日本が借りる可能性のある数字のうち——政府は六億三千万ドルと言っておりますが、そのうち現在幾ら入っておるか。そのものを入れた手持外貨は幾らになるかという三点をお伺いいたしたいと思います。
  6. 堀江薫雄

    堀江公述人 お答え申し上げます。数字を詳しくは私持参しておらないのでありますが、大体のところでお答えを申し上げますると、最近の日本の外貨の手持高というものは、十五億数千万ドルとなっておるわけであります。これに対しまして、輸入ユーザンス、輸出ユーザンス、そういったものをかげんいたさなければならないといった松浦さんの御説でございまするが、輸入ユーザンスにつきましては、最近と申しましても十一月あたりでありまするが、大体十一億ドル見当、それから債務側の国際短資の残高、これは公表はされておりません。その意味で私の計算し、推測しておるところでは、大体が七億ドル強ではないか。その中には御承知通りユーロダラーが四割ぐらい、それから本邦自由円といったものが二五%、四分の一ぐらい、その他に無担保借り入れといったものが三五・六%といったところで、七億ドル余りだと思うのであります。その他に御承知の、最近成立いたしましたアメリカの在日三行、またその後にできるはずになっておりまする日本の為替に関係のあるアメリカの銀行からの借り入れ、これは大体三億ドルといったことになるかと思うのであります。そのほかは御承知通りIMFへ、これはスタンドバイ・クレジットの形で三億五百万ドルの申し入れをして、大体委託されたということになっております。しかしながら、これはスタンドバイ・クレジットでありまするから、いわゆる借り入れの予約でございまして、まだ一文も借りていないと思います。またアメリカ市銀の借り入れにつきましても、一部使用しておりまして、——まだ使用されておりません。日本輸入手形が期限が来たときにそれを振りかえるために、月々実際の借り入れに振りかえるといったことでありまして、それらが債務であります。これに対しまして、手持ち外貨のほかに日本側の債権も、輸出ユーザンス、それから日本の為替銀行あるいは貿易商社の手持ち外貨、そういったものがあり、御指摘の東南アジアその他に対する円借款あるいはその他のクレジット分がありまして、私の目の子の試算では、大体日本の外貨ポジションは十億ドル余りというふうな見当に頭に置いております。ただこれも、万々御承知通り、一つの国の国際収支なり外貨残高というものは、やはり一つの銀行の資金ポジションと同じでありまして、現ナマをこれだけ持っており、これが幾らある、またそのほかに債務として定期預金が幾らあり、それから当座預金ないし普通預金が幾らある。同時に片方で債権として貸し金がある。貸し金のうちには長期固定貸し金もあれば、短期に取り立てる貸し金もあるといった事情が普通の銀行の状態であるわけであります。一つの銀行ないしは小さくは一戸の家計と同様でありまして、一つの在外外貨手持ちそのものはいろいろな意味での準備と、それから貿易運転資金的な外貨とこれが合わさったものであり、それ以外の債権債務、これは現実に日本国際経済生活をし、世界貿易をしておるときの運転的な受け取りであり、支払いであり、また預けであり、貸し金であるというふうに考えてよいのだと思うのであります。三つの御質問に対しまして一括してお答えしましたが、お答えになりましたかどうか、これで一応……。
  7. 青木正

    青木委員長代理 次に加藤清二君。
  8. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 お許しを得まして、私はただいま御説明いただきました東京銀行頭取堀江さんに二、三点だけ質問をしてみたいと存じます。  去年度におきまして、実はアメリカから機械輸入のクレジットが二千五百万ドルばかり行なわれております。お話に聞きますと、それはことしはどうもまだ実っていないようでございますが、スイスその他の国において、この機械輸入のクレジット分が銀行間において借り入れのことが運んでいると聞いておりまするが、これは機械を外国から輸入しようとしている業界にとっては旱天に慈雨と申しましょうか、大へん期待しているところだと存じまするが、これについての模様を一つ承りたいと存じます。
  9. 堀江薫雄

    堀江公述人 お答え申し上げます。  お説の通りアメリカからは機械その他の借り入れクレジットを受けることにつきまして交渉もあり、一部できたものもないわけではございません。それからスイスからの機械輸入クレジットについての御質問でございまするが、これは実は先月スイスの三大銀行と私どもの東京銀行との間で三千万スイス・フランについて、二年ないし三年のスイスからの対日機械輸入についてクレジット供与が話ができまして、先月私と先方銀行の頭取との間に調印を取りかわしたわけであります。これは、単に私どもは東京銀行としまして窓口でございまして、スイスから機械の輸入をいたしまする場合に、そのメーカーに対して、またメーカーを金融しておりまする日本の銀行に対して、私どもの東京銀行の窓口を通じて三千万スイス・フラン以内、二年ないし三年の期間で輸入代金を借記するクレジットを適用することができるわけになったわけでございます。目下ぼつぼつその話が具体的に進行しております。
  10. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 まことに御苦労様なことでございます。  もう一つ承りたいことは、今日の世界貿易の状況からながめてみますると、原材料を取引する場合は大体キャッシュ・オン・デリバリーということに相なっておりまするが、加工品を貿易する、する場合は、大体クレジットというのが常識化されつつある。クレジット貿易がだんだん進行しつつある。こういうやさきに、日本のように手持ち外貨が不足しているという場合、これは非常に困難なことだと思いまするが、あえてそれをしなければ、先進国同士の間から、後進国に向けて輸出する場合に競争に勝てない。すでに、そういう事柄が繊維機械の輸出にあたりましても去年エジプトにおいてもあるいは南米におきましても、このクレジットをしないがゆえに、せっかく日本のよい品物、外国が買いたいという品物、これを売ることができなかった。イタリアやイギリスに取られてしまったという実績と申しましょうか、悲しい実績があるわけでございます。そこで金融関係といたしましては、これに対してどのようにお考えに相なっておりましょうか承りたい。
  11. 堀江薫雄

    堀江公述人 お答え申し上げます。ただいま御質問ないし御指摘の通りの実情が現実なのであります。ただし、もう一つ詳しく申し上げますと、原材料ないし第一次生産品の輸出が多く現金ベースであるといったことでありまするが、これは、一つはそういった商品の輸出が多くいわゆる後進国ないし低開発国からの輸出でありまして、それらの国がおおむね国際収支の悪化あるいは国際収支赤字に見舞われておる結果、いわば現金がまずほしい、値段よりはお金がほしいのだといった状況にあるからだと思うのであります。ただし同じ第一次生産物でも、御承知通りアメリカから輸出するようなもの、たとえば綿花その他につきましては、やはり輸銀その他のいわばクレジットづきがかなりあることも御承知通りであります。これらに反しまして、機械プラントその他のようなものは、輸出する国が多く先進工業国であって、多少国際収支に余裕がある国であり、また一方、先進国相互間の競争も激しいということから、いわば需要と供給の原則に従って、やはり延べ払いかあるいは長期クレジットづきでないと、なかなか売り込みにくい。買うのは先進国相互間もありまするが、多くは後進国またはソ連といったような国々でありまして、買う方も外貨がないから、そういった利用を、極力最大限にクレジットを使いたいといったようなことと、今申します需給原則といったことが働いて、御指摘のような事情になっておる。ソ連のようにある程度金その他も持っておると思われる国でも、いわば西ヨーロッパ側あたり、日本も入れて。そういったものを売り込む結果、たとえば日本がソ連から輸入する石油とか、粘結炭というものは、やはり現金決済を要求されて、日本から輸出するフラント機械類は、西欧との競争関係あるいは需給原則によって、やはりクレジットを要求されるといった実情であるわけであります。これについての金融対策といった御質問でございまして、これはなかなかむずかしい問題でございますが、御承知通り、一つは政府資金に依存しております日本輸出入銀行の長期のクレジットを運用いたしまして、輸銀の窓口が八割、市中銀行の窓口が二割といったようなことで五年、七年ないしは時に十年といったようなことを実行いたしております。しかし、これもまた問題があるのでありまして、輸銀自体に資金の制約があるほかに、輸銀は多く大きな輸出メーカー、機械メーカー、また金額もかなりまとまったものでないと、手数その他で取り上げにくいということで、最近の傾向といたしましては、おっしゃるような紡績機械の類のごときは、むしろ中規模ないし小規模であり、かつ期間も必ずしも長期でなくて、一年とか、二年とか、三年とかいったものの要請があるわけでございます。これらに対しましては、西ヨーロッパ諸国は多く、後進国に対しましても、市中銀行が輸出保険の背景によって、市中銀行自身の資金で一年、二年は金融しておるようであります。ところが、はなはだ遺憾なことながら、私も銀行屋でございますから遺憾なのでありますが、日本の銀行は、いわば金融正常化とか、資本の蓄積といったものがまだ十分でございません次第でございますので、二年といえば日本にとっては決して短期でなくて、むしろ長期に近い方の状態であり、これがなかなかできがたいというようなことでございますが、しかし、この点が日本のそういった種類の後進国向け輸出の一つの盲点でありますので、年来私も、輸出最高会議その他において、こういうもの、期間が比較的短かくて、しかも小口であるものを輸銀も取り扱えといった要請もいたしておりますし、またわれわれ市中銀行や為替専門銀行におきましても、極力資金をそういったことで効率的に集め、そのうちの安定可能な部分をできるだけそういう中期であり、かつ小規模輸出だが国のために必要だといったものを市銀の窓口、為銀の窓口で金融していきたいと思っておる次第であります。  ちょっと余談でありますが、私の銀行が準拠しております外国為替銀行法の改正が近く大蔵委員会に上程される、これは大体二、三年の金融債を出すということでありまして、一つのねらいは、そういったものを金融するといったようなねらいもあるのでありまして、御質問の要旨とその意味において一致すると申し上げていいかと思います。お答えになりましたかどうか。
  12. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 東銀さんは力が弱いとおっしゃいまするけれども、かつての横浜正金以上の大きな規模に発展しつついらっしゃる最中でございまして、かねがね敬意を表しておるわけでございますが、一つお答えにくいかもしれませんけれども、今せっかく日本輸銀のお話が出ましたので、それについて承りたいと思います。  このたびは日本輸銀の資金ワクも増大されまして、借りる側としてはまことにけっこうなことでございますが、ただいま頭取さんのおっしゃいましたように、日本輸銀は八0%、市中の為替取扱銀行がこれに対して二0%を負担しなければならない。こういう関係上、そこに選別的な融資と申しましょうか、が行なわれる。その意向は主として市中銀行にキャスチング・ボートを握られている。従って、借りる側の町の声としては、せっかくの親心ではあるけれども、画龍点睛を欠くのうらみがある、かような声を聞いております。今承れば、長期、短期、あるいは規模の大小その他によって選別をしなければやむを得ないようなお立場もあるやに承りましたのでございまするが、願わくは、日本輸出は将来は重工業と指向しているかもしれませんが、今田のところでは、まだまだ雑貨その他にウェートが大きいのでありまして、これらを扱う商社は、いずれかというと総合大商社のみならず、小さい専門輸出業者が多うございます。これらについてのめんどうの見方、画龍点睛を欠くという声をなからしめるよう御努力いただきたいのでございますが、これについてのお考えを承りたいのでございます。
  13. 堀江薫雄

    堀江公述人 簡単にお答え申し上げます。  お話のような事実がないとは思いませんが、しかし、同時にまた反対の——輸銀ないし市銀は、なかなか市銀間の競争もあって、日本輸出入銀行に対してはなかなか親切に取り扱うといったような声もあるわけでございます。問題は、御承知通り輸銀が政府資金を使っております関係で、貸出先その他についてなかなか審査がきびしいおけであります。同時にまた、御承知通り、輸銀は直接に輸出業者ないし機械貿易業者との平常の関係がございません。もっぱら市中銀行を通じてその客に金融するという間接融資の形をとっておりまする関係上、市銀の審査段階においてあるいは御指摘のような声が出たのかと思いまするけれども、しかし、何と申しましても、全体として資金の不足な日本の状態におきましては、やはりほんとうの現ナマあるいは資金を出す輸銀の発言権が一番きめ手であるわけでございまするので、そういったことから、まあまあ私の見るところでは、大体適当なところで輸銀と市銀の関係はいっておるように思うのであります。しかし、御指摘や御希望の点もございまするので、われわれ市銀ないしは為銀といたしましては、極力輸銀の国家的機構が最大限に、また国民経済のために大きく役に立つように努力いたしたいと考えます。
  14. 青木正

    青木委員長代理 堀江公述人に対する質疑はこれにて終了いたします。  堀江公述人には、御多用中のところ御出席をわずらわしまして貴重なる御意見をお聞かせいただき、まことにありがとう任じました。委員長より厚くお礼を申し上げます。(拍手)     —————————————
  15. 青木正

    青木委員長代理 次に、岩佐公述人の御意見を承ることにいたします。岩佐公述人
  16. 岩佐凱実

    岩佐公述人 私岩佐でございます。  まず最初に、最近の経済情勢についての私見を簡単に述べさせていただきます。  日本経済は、過去二カ年にわたって実質成長率年平均一三%の高度の成長を実現いたして、世界の注目を浴びておることは御承知通りでございます。これを鉱工業生産で見ますと、三十四年度二九%、三十五年度二四%、三十六年度見込みでございますが、一九%と、産業規模の飛躍的拡大をなし遂げております。日本経済が戦後の荒廃から着実に立ち直りまして、かくのごとき高度かつ長期にわたる成長達成し得るに至ったことは、まことに心強い次第であるのでございますが、その拡大スピードがあまりに早過ぎましたために、国際収支や物価の面において不安定が招来されていることは御承知通りでございまして、まことに遺憾でございます。  今、国際収支悪化の状況を見まするに、経常収支じりは昨年一月から毎月大きな赤字となりまして、六月の一億四千七百万ドルを最高といたしまして、月平均一億ドル内外の赤字を継続するに至りまして、三十六年度国際収支じりは、最近の政府見通しによりましても七億ドル余の赤字と見られておるのでございます。このような国際収支の急激な悪化に対処いたしますために、金融界は昨年春以降諸種の対策を講じてきておるのであります。すなわち、日本銀行が昨年四月ごろから窓口の規制を強化いたしておりましたが、七月になって公定歩合の一厘引き上げに踏み切りました。また設備資金融資一割削減という点につきましては、日銀、大蔵省、市中銀行、三者の申し合わせを行なったのでございます。さらに九月以降は、政府の政策としても、国際収支改善という点に重点が向けられまして、輸入担保率の引き上げ、輸出特別償却制度の創設、輸出所得控除制度の改正、それに公共事業費など、七百億円余の支出を繰り延べるなどの対策が決定されたことは御承知通りであります。これらの諸政策に加えまして、九月下旬には、公定歩合をさらに一厘再引き上げいたしましたし、預金準備率の大幅引き上げ、日銀高率適用制度強化など、一そう強力な金融引き締めの措置がとられたのであります。  しかしながら、以上のような国際収支の悪化は、高度の成長に伴って当然起こります輸入増大によるものでありまして、今後国際収支改善するためには、経済成長国際収支黒字の範囲内にとどめるために調整することが必要であることは言うを待たないところであります。と同時に、国際収支改善のためには、前回の三十二年の国際収支悪化のときとは異なって、かなり長期間を要することも覚悟しなければならないと存じます。  最近、信用状面において収支バランスが相当改善されてきたことは事実でありますが、これはまだ在庫調整の段階でありまして、縮小均衡の状態であります。輸出が正常の軌道に乗って、拡大均衡の状態になるまでは、高度成長政策に復元することはできないのでありまして、今後なお国際収支を確実な黒字基調に乗せるためには、引き続いて調整を行なうことが必要であると考えます。それにしても、国際収支先行き指標であります輸出信用状収支において、次第に黒字額が増大の傾向を示し、本年一月には九千万ドルの黒字を示すに至ったこと、また、鉱工業生産水準が十二月に入ってわずかながら低下を見せるに至ったこと等は、ようやく景気調整諸政策の効果が浸透し始めたものと認めることができようかと思います。  かくのごとく調整効果がようやく現われた今日の日本経済として、何よりも第一の課題は、三十七年度輸出目標四十七億ドルの必達にあると思います。この目標に向かって官民一致協力による輸出増進体制の推進が緊急事であることは、これは論を待たないところであります。しかし、輸出四十七億ドルの目標達成は、アメリカドル防衛体制の強化、欧州経済の再編成、東南アジアにおける西欧諸国との輸出競争激化などを考えますと、輸出環境は必ずしもわれわれに有利に動いてはおらず、四十七億ドルの輸出達成には容易ならざる努力の必要なことを予想させるに十分であります。しかし、EECの拡大充実、EFTAとの統合は、欧州経済の安定と発展を意味するものでありますから、長期的に見れば、わが国輸出増大を可能とするものでありましょうし、政府当局の適切な政策と、民間企業輸出努力とが、十分にその実を発揮するなら、四十七億ドルの達成は必ずしも困難ではなかろうと思います。  以上のところから明らかなように、三十七年度においては、安易な成長のムードはこれを厳に戒めて、引き続き慎重な政策によって景気調整の実をあげなければならないのであります。もし一時的な国際収支好転を基調的な回復と誤認して、引き締め政策の緩和ないし拡大政策への安易な復帰が行なわれましたならば、三十七年度輸出目標四十七億ドルの達成は困難となり、また三十八年度以降における国際収支拡大均衡ということも不可能となるばかりでなく、国際信用維持の上からも容易ならざる事態に立ち至る懸念もないではないと存じます。  三十七年度予算の編成方針及びその内容を検討するにあたりましては、以上の点を十分考慮する必要があるのでありますが、かかる観点から見ますと、去る一月十六日に決定されました政府昭和三一七年度経済計画大綱のこの考え方は、われわれも賛成し得るところであります。すなわち、この経済計画大綱によれば、政府輸出の増大と国内需要の抑制により、本年度下期中に国際収支均衡を実現する方針で本年度経済を運営するとしているのでありまして、このような政策態度には全面的に賛意を表するものであります。このような経済運営の基本的態度に立った場合に、三十七年度予算は当然景気調整予算でなければなりません。しかし、同時に景気調節過程において生ずる若干の経済的波紋、たとえば中小企業部門の金融難に基づく経営上の諸困難、あるいは低所得層に対する社会保障の充実等については十分の配慮が必要であります。  しかし、もちろん三十七年度予算はこのような景気調整を目的とする消極的な性格のものだけに終わるべきではなく、将来の経済成長を可能とするための基盤育成についても配慮される必要があります。すなわち、社会資本の充実を推進させるための公共事業投資も、この際当面の景気を不当に刺激しない範囲において考慮に入れる必要があろうと思います。従って、三十七年度予算には、景気調整経済基盤整備という二つの命題が与えられているわけでありまして、その間の調節をはかりつつ、この両目的を実現することをその編成の主眼としなければならないものかと思います。  以上のような基本的な考え方の上に立ちまして、三十七年度予算案に対し、次に若干の問題点を指摘することにいたしたいと思います。  まず三十七年度予算の規模についてでありますが、三十七年度予算規模が経済に対して刺激的であるかどうかということを判断するためには、予算の編成方針並びに支出内容を検討する必要があります。まず予算規模でありますが、三十七年度一般会計予算は二兆四千億円をこえ、三十六年度の当初予算に比し二四%、四千七百四十億円余の増となっております。これは所得倍増計画の初年度予算として急膨脹を示した三十六年度当初予算の二四%増と増率においてほぼひとしく、増加額においては三十六年度の三千六百七十八億円増を上回っております。もちろん、予算規模は経済規模拡大とともに大型化するのは避け得ないところでありましょうし、収支均衡予算として組まれておるのでありますから、必ずしも経済を不当に刺激するものとは言えないのでありますが、本年度経済が前述のごとく調整を必要とする年であることを思えば、その一部を景気調整資金として一時たな上げし、事態の推移に応じて弾力的に支出するような措置をとることが望ましかったと思います。予算が膨脹したからといって、その膨脹の割合をもって直ちに有効需要に対し刺激的作用を及ぼすことはないといたしましても、わが国におきましては、民間産業界は、財政のあり方を政府経済に対する意思表示として受け取りがちでありまして、財政規模の増減に敏感に反応する傾向があります。従って、この際予算規模増大が行なわれたことは、少なくとも景気調整をおくらせることになるおそれなしとしないのであります。この意味において三十七年度予算の支出規模は極力圧縮し、少なくとも一千億円程度景気調整資金としてたな上げし、景気調整に対する政府の確固たる態度を打ち出してもらいたかったと考えます。近年財政規模は年々大幅の増加を来たしておりまして、ここ三カ年の間に実に一般会計の規模は一兆円の増加となっておるのでありますが、このような増大が不可避となった一つの大きな原因は、いわゆる当然増経費が年々大幅に膨脹するためでありまして、三十七年度においても、それは実に三千五百億円にも達することになっておるようであります。この点が一つの問題であろうかと思います。従いまして、財政規模の適正化をはかり、国民の負担を軽減するための減税を行なうためには、財政制度ないし行政制度に対する根本的な再検討、改革を必要とするのではなかろうかと思います。  以上のように三十七年度予算は、景気刺激的と言わないまでも、景気調整をおくらせる懸念を持つものと言わざるを得ないのでありますから、その運営いかんについては十分の配慮を必要とすると思います。たとえば予備費や公共投資などのように、支払い時期をある程度景気動向に合わせて選択し狩る経費については、極力支払い時期をおくらせる方法等によって金融引き締め政策を補完し、いわゆる財政弾力的運用を行なう必要があろうと思います。  次に三十七年度予算の内容についてでありますが、近代的福祉国家への接近が意図されていること、経済基盤整備のための公共事業関係、社会間接資本の増加などが考慮されていることは好ましいと存じます。  まず社会保障関係では、生活扶助基準の一三%引き上げ、失業対策費の増額、社会保険費の増額などを中心に、三十六年度当初予算比二0%増、金額で四百九十億円増となっておることは、国民生活の向上と社会福祉の充実を推し進めるものとして妥当な配慮と言えましょう。しかし、社会保障費はもっと増額してもよかったのではなかろうかとも存じます。特に今年は経済拡大によって、これらの社会的問題を解決することは困難な面もあり、むしろ経済調整の結果、社会的問題の発生が多くなるということも考えられますので、社会保障等については十分配慮することが望ましいと思います。  第二に文教、科学技術振興費が技術革新に対応した各種研究機関の設備などを中心に四百八十億円ふえておりますが、教育施設の充実、技術の進歩をはかるものとして適切な措置であると考えますが、教育問題としては、技術振興の問題とあわせて精神面についても配慮することが今後望ましいことではないかと思います。  第三に、公共事業関係費は、三十六年度当初予算比二八%、九百五十三億円増の四千四百十三億円と大きくふえ、特に道路整備費は二七%、三百七十六億円増、災害対策費、船込み対策、空港整備にも相当な配慮が加えられていることは、社会資本の大きな立ちおくれを取り戻すことが緊急事となっている情勢でありますので、政府改善の意欲を表わすものとしては妥当な措置であると考えます。しかし、道路予算の運営にあたっては、現在麻痺状態の激しい地域への重点的配分、経済効率の高い路線の優先等を原則として、むだのない配分をはかる必要があろうと思います。一方、三十七年度におけるかくのごとき公共事業費の増大は、その支出時期を誤った場合、景気を刺激して、金融面からの引き締め効果をそぐおそれが多分にあることを留意の上、その支出を極力下期へ繰り延べる等の弾力的運用を切に要望する次第であります。  第四に、中小企業対策にはかなりの充実がなされておると考えます。その内容は、一般会計で五十二億円、財政投融資計画で二百六十三億円の増加がなされております。配分は、政府系中小企業専門金融機関への投融資として中小企業金融公庫向けが五百九十億円、国民金融公庫へ四百六十五億円、商工中金へ七十億円で、合計千百二十五億円となっておりまして、三十六年度当初額八百四十億円より三四%アップとなっております。また一般会計の配分は、中小企業の近代化促進費、指導診断事業の強化などに四十七億円の増加がはかられており、中小企業の短期的運転資金及び長期的体質改善のための資金の充実が意図されている点は賛意を表するものであります。中小企業の体質改善は、貿易自由化を控え、日本経済構造高度化にとって不可欠の問題であるのでありますから、より一そうの充実に向かって今後とも真剣に取り組まれんことを要望するのであります。  次に、改善を要すると思われる点について若干批判を加えてみたいと存じます。  第一に、減税の規模が内閣及び自民党の税制調査会で考えられた額を大幅に下回って、初年度九百八十七億円、平年度千百六十四億円と縮小したことは、日本においては国民の租税負担率は、三十七年度減税後で二二%程度と、欧米先進諸国よりも低いようには感ぜられますが、財政から国民への社会保障などの振りかえ支出が比較的少ないことや、実質的国民所得の水準日本の場合相当低いことを考えますと、逆に実質的負担は大きいのが実情であろうかと思います。従って、租税負担軽減の意味から、来年度減税は平年度千三百億円から千五百億円程度の規模で行なってもよかったのではないかと思います。それは前述のごとく、財政による景気刺激を避けるために景気調整資金のたな上げを行なうのであれば、減税規模を小さくしたことは意味があると存じますが、減税を少額にとどめて、そうして財政規模拡大したということは遺憾であったと存じます。しかも、今回の減税は府県民税の引き上げを伴っておるので、物価値上がりによる実質賃金の若干の低下というような事情を考えると、来年度減税の恩恵は小さいものになろうかと思います。  第二に、食管会計の赤字補てん額が三十六年度よりも三百二十億円ふえて七百十億円の巨額に達したことは問題でありまして、食管会計の赤字は年々増大する傾向を持つものでありますが、現在の食管制度に何らかの根本的な改善策を講じる必要がある時期に立ち至っていると言えようと思います。食管赤字解消に向かって真剣な努力をいたされんことを要望したいのであります。  第三に、貿易振興及び経済協力に関しての一般会計による予算の配分は、三十六年度比三十一億円増の百三十九億円にとどまり、十分配慮されているとは言い得ないのであります。しかし、経済協力関係では通商局に経済協力部が新設され、経済協力が本格的に取り上げられたこと、海外経済協力基金に対する出資金の増額、外務省に対外技術協力事業団の設置を見たことなど、海外経済協力が漸進的ながら次第に軌道に乗りつつあることは好ましいと思います。しかし、貿易振興対策に関しては不十分であります。予算面からの輸出振興の重点は、もっぱら財政投融資による輸出入銀行資金の増強にかかっておるのであって、三十七年度のそれは不十分であります。輸銀に対する出資額は二百億円で、前年度百二十億円比、八十億円増、融資は六百十一億円で、前年度四百五十億円比、百六十億円増、合計で三十七年度は八百十億円で、前年度五百七十億円に比べ二百四十億円増にすぎないのであります。それに自己資金の増加見込み四十億円を加えると、輸銀の運用規模は、前年度の九百七十億円に対し、二百八十億円増の千二百五十億円にとどまっております。今後低開発国への輸出を伸長させるためには、延べ払い条件などにつき、EEC諸国などとの間に激しい競争を行なっていかなければならないのでありますから、そのためには、輸銀が安い長期資金を十分に供給しなければならないと思います。三十七年度輸出目標達成のかぎの一つは、輸銀の長期資金量とその弾力的運用にかかっているものと言わなければならないのであります。かかる輸銀資金の充実の必要と並んで、ジェトロその他輸出振興機関の育成強化による側面からの輸出強化策を一段と充実させる必要があろうと思います。  さらに海運業の不振は、国際収支との関連においても、その改善強化策を国民経済的な立場から早急に講ずる必要があることを痛感するのであります。しかるに、この点の配慮が三十七年度予算に欠けているのはまことに遺憾であります。  第四に、教科書無償配付は低所得者層に対する社会保障制度の充実の方向での解決が望ましいと考えますし、旧地主補償、軍人恩給増額の問題等も、むしろ社会保障体系の中に織り込んでいくべきものであろうかとも考えます。従って、専門的な実態調査を行なって、その結果の慎重検討を経た上、国民経済的見地から予算に計上すべきでありまして、かかる過程を十分経ないで、いきなり予算に組み入れることは、初度年予算の負担は小さいにいたしましても、あまりに政治的解決に過ぎたのではなかったかという感じがあるのであります。  第五に、財政投融資計画について、住宅、生活環境整備など、国民生活に直接関係ある部門への投融資が全体の五二%という大きな比重を占めるに至ったことは、国民生活部門重視の意味においては妥当な傾向と言えると思います。しかし、原資調達面において、ガリオア・エロア資金の返済が始まるため窮屈化し、公募債借り入れが千四百八十二億円と、前年度比二百四十五億円の増加を見、民間資金の活用の比重が非常に高まっております。この点については、引き締め基調を続けると予想される明年度市中金融を圧迫する材料となるおそれが多分にあるのであります。従って、政府民間資金需給の動きに十分留意し、弾力的態度をもって当たるように要望する次第であります。  最後に、三十七年度財政及び経済の運営についての要望を申し上げますが、三十七年度経済は、輸出四十七億ドル目標達成国際収支の年内均衡回復に向かって金融財政政策が運営されねばならないことは、上述の通りであります。また民間企業経営者も、経済の現状を深く認識し、経営の合理化、コストの引き下げ、国際競争力の涵養に全力を傾けなければならないのでありまして、三十七年度はぜひこれを景気調整の年としなければならないのであります。しかるに来年度景気動向としては、ともすればなお景気行き過ぎとなる要因が幾つか潜在していることに注意しなければなりません。それは民間設備投資意欲は依然としてかなり根強いこと、消費需要も年々その上昇傾向を増大していることなどであります。従って、国際収支改善が基調として確実なものになる前に景気上昇が始まる可能性が存在することを十分に認識し、金融並びに財政政策は当分の間引き締め基調を堅持することが必要であります。財政政策に弾力的運営が望ましいと主張するゆえんも、これによって明らかであろうかと思います。さらに、物価の上昇と賃金上昇は悪循環を結果しがちでありまして、国際競争力低下を招くばかりでなく、貯蓄意欲の低下ともなり、今や緊急事となっている資本蓄積の充実を阻害する要因ともなるのであります。この意味において、抜本的な物価対策を確立するとともに、賃金政策に対しても慎重な態度をとることが必要かと存じます。  次に、景気調整の主役を金融政策が演ずるためには、各種金利の弾力的変更が許されねばならないと思います。また、財政民間収支の季節的変動が引き起こします金融市場での悪影響除去のために、機動的オペレーションの実施も望ましいと思います。さらに、貯蓄意欲を高め資本蓄積を盛んにするために、預金利子の源泉分離課税制度の存続措置をとることも必要と思います。  最後に、金融引き締めと並んで個々の輸出促進策、たとえば外貨手取り率の高い産業を勇断をもって助成する輸出奨励策を推進し、政府経済界が協力して経済外交推進し、市場開拓努力する等の必要があろうかと思います。  以上をもって私の公述を終わります。ありがとうございました。(拍手)
  17. 青木正

    青木委員長代理 ありがとうございました。  ただいまの御意見に対し質疑を許します。加藤清二君。
  18. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 お許しを得まして、ただいま御説明のございました富士銀行頭取岩佐さんに、二、三点質問をしてみたいと存じます。  すでに岩佐さんもお述べになりましたように、この日本の中小企業は、政府金融引き締め政策をまっ正面から浴びまして、非常に金融に難渋をいたしているわけでございます。一つは、御承知通り企業に納めました品物の代金、これの延べ払いと申しましょうか、手形払いがだんだんに延びまして、百日手形が次に台風手形となりお産手形となり、今では一年手形に延びてきている分もずいぶんございます。  〔青木委員長代理退席、保科委員長  代理着席〕 片や銀行は、選別融資をいたしております。選別融資とは何かといえば、結局は、信用度の薄い中小企業に貸すことを遠慮する、こういうことに相なって、言うなれば、中小企業金融の面につきましては、はさみ撃ちを受けているわけでございます。これについて、銀行の代表として岩佐さんはどのようにお考えになっておりましょうか。特にただいまお説にもございましたように、輸出振興は何と申しましても日本経済の至上命令でございます。それに参加をしている下請中小企業が困るということは、やがて輸出品の製造その他にも困る結果が招来をしてくるわけでございます。この点御勘案の上、一つよい知恵を御披露いただきたい、こう思います。
  19. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今の御質問でございますが、今回の金融引き締め影響が前回あるいは前々回の、昭和二十八、九年及び三十二年のときと比べますと、そのときよりも大企業に相当強く影響があったというのも一つの事実であります。その結果、中小企業への支払い、つまり下請企業への支払いというものが延びておる、これはもうお説の通りの事実かと思います。ですが、中小企業そのものへの金融の方は、これはこまかい数字を実は持っておりませんので、数字的に申し上げかねるので申しわけございませんけれども、大銀行その他金融機関をすべておしまぜまして、中小企業向けの金融というものは、前回、前々回の金融引き締め当時ほどにはきつく当たってないというのが実情であろうかと思うのであります。そういう点から言いましても、政府の方も中小企業金融に対していろいろの配慮を加えておられますが、金融機関としてもその点については十分な配慮をもってやっておるつもりでございまして、数字の上でも、そういうふうな結果が前回、前々回と比べましたときに出ておるのではないか、こう考えておるわけであります。
  20. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 岩佐さんは専門家でいらっしゃいますからすでにお聞き及びと思いますが、近ごろ黒字倒産という言葉が業界に流行している。これは御承知通り金融のはさみ撃ちを受けた中小企業の断末魔の声を称して黒字倒産、こう言うわけなんです。これは親企業のみならず、金融関係も一つ御考慮をわずらわさなければならぬ点ではないか。伸びる業態、この際金融のめどさえつけばいけるというそういう企業、それが金融のおかげでみすみす倒産をしなければならない。こういうものはしかし助けてしかるべきではないか、かように思いますからでございます。  それからおたくの御説明の中にもございましたのでございますが、三公庫は今年度と申しましょうか、これは確かに三四%当初予算よりはアップしました。増額されました。しかし、それでもなお資金難は免れません。国民金融公庫は大体希望者の三分の一を満たす程度でございます。それから商工中金もこれにやや似たりよったり、中小企業金融公庫は大体希望の四0%を満たしていると言われておりまするけれども、これはほしい人全体から見たパーセンテージではございません。すでに、借りに行ってどうせだめだろうというのであきらめている方々が非常に多いのでございます。従って、ほんとうに希望する者を土台にパーセントをとるならば、ほんの一割か二割程度しか満たされていない。それが現状であると思うのでございまするが、そういうやさきにあたって、ぜひ一つ銀行の方々にわかっていただきたい点があるのでございます。それは中小企業金融公庫の金でございまするが、これが非常に借りにくい。しかし借りられたとしても、なおどうなりまするかというと、届け出てから借りるまでの間に非常な時間を要するという問題でございます。これが第一点。第二点はいわゆる代理貸しという、つまりおたくの銀行、市中銀行その他を通じてこれを借りますると、とかく歩積み、両建をやらされるという問題でございます。しかも、この公庫法の第一条には、一般金融機関が融通することを困難とするものを対象に融資するをもって本旨とするということに相なっておるわけなんです。しかしながら、代理貸しの場合には、その銀行の金融ベースに乗る相手でないと貸さない。しかもそれを選別していく。そこへ歩積み、両建をやらせて、むしろ言うならば、銀行側の自行の営業成績を上げる材料に中小企業金融公庫の資金が活用されている。こういう点でございまするが、これは一体銀行協会その他ではどのような話し合いに相なっているのでございましょうか。これは今日に始まったことではございません。もう長年にわたる、これを対象とする中小企業の声でございますから、一つ御見解を承りたいのでございます。
  21. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今のお話の黒字倒産というような問題でごさいますけれども、そういうことはあるべきものじゃないのございまして、実際経営がりっぱにやられていくという企業につきましては、これは規模の大小を問わず、金融の面で問題があれば、それは金融としてできるだけのことをやっていかなければいかぬというのは、これは当然のことかと思います。それで昨今の情勢からいうと、黒字倒産というのが著しく——これは非常にこまかく調べればないとは言い切れないかとも思いますけれども、そう著しくそういう例が起こっているというのは、私まだ承知いたしていないのでございます。  そからあとの方のお話の、中小企業金融公庫の金を借りる場合の代理貸しの問題ですが、これは私の方といたしましても、努めて相談相手になって、代理貸しを行ない得るものは行なっていきたいという努力をいたしております。私の方の銀行のことになって恐縮でございますけれども、たとえば中小企業経営相談所というものも設けまして、そこへ取引のない方も自由に相談に来ていただけるという態勢を作っておりまして、そこに来てもらって、そういう中小企業金融公庫で取り上げ得る場合にはいろいろなお世話もするし、そのような手続もいわば指導して差し上げる、こういうようなことをやっておるのでございましてその中小企業金融公庫から資金の出ますまでの間のつなぎ資金というものも、相手方いかんによってはやっておるという例もございます。それで今のお話の歩積み、両建の問題ですが、これはいわば仕事をしている人の方から言えば、日常の運転資金というものはある程度、要るわけでございますから、そういう日常必要とする営業資金と、それから特別にそういうものを積み立てさせるということとの程度の問題は、どの程度からそれがそうなるかという、そこが実際問題としては非常にむずかしい点があるのでありまして、どっちにいたしましても、度を越えたそういう歩積みとか両建というものはやらないというのを原則としてわれわれもやっておるつもりでございます。そういうことが実情でございます。
  22. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 ぜひ、この点は、でき得べくんば支店長やあるいは直接窓口にあって融資する対象と話し合う従業員の方にあなたの親心をよく教育しておいていただきたいと思うわけでございます。ぜひこれをやっていただきませんと、親心は大へんけっこうでございまするが、窓口へ参りますと、ついつい歩積み、両建ということに相なるわけでございます。この歩積み、両建は、銀行にとっては、あるいは銀行の従業員にとっては成績を上げる材料になるでございましょう。しかし、金がないから借りに行く本人にとりましてはまことに痛い話でございまして、せっかく帳簿上一千万円借りたことに相なっておりましても、金利は一千万円に対して払いまするけれども、実際使い得る金は七百万円か六百万円と、こういうことになってしまうわけなのです。そうなりますと、せっかく中小企業金融公庫の金利は市中銀行よりやや低いはずになっているにもかかわりませず、金利までがその結果高いものになるわけでございます。この点、まあこういう席で承りましたりあるいは重役さんに会って話をしますると、どこの銀行さんも、口をそろえて、さようなことはなるべくいたさないようにいたしますと、こうおっしゃる。ところが、窓口に行ってみると、とんと話が変わって参りまして、あなたのところは信用力がないからと、こういうことで、歩積み、両建をやらされる。それが現状でございます。これは、ぜひ一つ、銀行協会その他でよくお話し合いの上、その親心が末端に届くように一つ御配慮を願わしいものだと存ずるのでございます。  次に、商工中金の金でございまするが、これに対する町の声としましては、組合を結成して組合として借りに行っておりながら金利が高いということでございます。これはもう、その資金源が金融債になっておりまする関係上、やむを得ぬと申しまするよりは、銀行側には責任の薄い話でございますけれども、銀行側にぜひわかっていただきたい点は、これが先ほどの輸銀と相似たものでございまして、金融債の元を握っていらっしゃるのは大体皆さんの方でございます。そのまた元を買いオペレーションで賢い上げて現金融資の資金になるわけでございますが、それを借りまする場合に、商工中金と、市中銀行あるいは都会銀行と申しましょうか、それとの協調融資の場合に、いずれかと申しますれば、市中銀行の意向が多分にこれに盛り込まれて、その金融ベースに乗らないとなかなか政府金融であるところの商工中金の金が借りられない、これが現状でございます。さて、これについても、先ほどの輸銀と同じように、やはり画龍点睛を欠くうらみがあるのだ、こういう声がもう長年続いているわけなのです。これについて一体とのような御配慮を願っているのか、その点を一つ……。
  23. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今のお話の商工中金との関係でございますけれども、御指摘のように、商工中金と市中の協調ということからスタートするというものもございますが、同時に、商工中金のやっていたものに対しまして、市中金融機関がその運転資金をめんどうを見るというようなケースもございますので、必ずしも市中金融機関の意図で商工中金の貸金が左右されていくというケースばかりでもないと思うのでございます。それで、これはもちろんそのときそのときのケース・バイ・ケースで実情に応じていろいろになると思いますが、商工中金でめんどうを見ていくというものに対しては、市中銀行としても、たとえば商工中金がどっかの長期の資金を出す、それから市中金融機関はこれに対して短期の運転資金を出すというようなことで、十分相互に連絡をとりつつ協調してやっておるという面も多分にあると思いますので、それは一がいにどっちがどっちということでもなかろうかというのが私どもの見ておる実情でございます。
  24. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 三十六年度予算におきましては、あなたの御説明の通り、三公庫に対して当初予算で三四%ほどこれは増額されておるわけでございますが、今年の状況にかんがみ、来年度予算、ただいま審議いたしておりまする予算の三公庫預託金、これは決して多いとは言えないわけです。いずれ補正その他で行なわれると思いますが、どの程度あったら、つまり、今年の三四%アップと比較して、来年度においてはどの程度アップされたら中小企業金融が円滑にいくとお考えでございましょうか、これは一つお教えを願いたいのでございます。
  25. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今のお話でございますが、これはどの程度のパーセンテージをアップすれば、どの程度の金額になればいいかということも、ちょっと私としてもはっきりお答えいたしかねるのでございますけれども、これは今後の情勢の推移にもよりますので、これが、今後、政府と申しますか、あるいは民間を含めまして全体の予期しておるがごときあれでいきますれば、そうこれ以上中小企業金融というものを特に取り立てて大きな問題にするということもあるいはないで済むのではないかと思います。しかし、それはまた情勢いかんによっては、そういう必要が起こることもあり得るのではないか、そういう情勢は絶対に来ないとも言えないと思います。ですから、どの程度のパーセンテージかということが、数字的には私はちょっとお答えいたしかねるので、その点一つ御了承をいただきたいと思います。
  26. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 今度はちょっと外資関係について一点だけ承りたいと思います。  赤字解消の関係で、先ほど東京銀行の頭取さんのお話にもございましたように、IMFあるいはバンク・オブ・アメリカその他で、ユーロダラーであるとか、あるいはユーザンスであるとか、いろいろな格好で金を借りて、そうして帳じりを合わせておるのが現状でございますけれども、、それのみならず、技術導入関係の費用であるとか、あるいは株式関係、あるいは社債関係等々で、日米友好通商航海条約及び貿易自由化によりましてアメリカ人は取得することができるように相なっております。それが内国人と同等の待遇を受けるように相なっておるわけでございます。そこで、この点を過去十年の実績をとってみますると、株式あるいは社債あるいは受益証券等等、合わせて今日では十二億ドル余に相なっているわけでございます。しかも、きのうきょうの証券市場は少し元気を取り戻しているようでございますけれども、この証券市場へ外資が相当に導入されつつある。こういう現況にかんがみまして、金融・銀行側としてはどのようにお考えでございましょうか、参考に承りたいと思います。
  27. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今の御指摘の、株式を買い入れるという形で外資が入ってくるという問題は、一つには日本経済に対してそれだけの国際信用があるとも見方によれば見られると思うのであります。それで、去年あたりどの程度入ったのかということについては、これは的確な数字を私持ち合わせておりませんが、ある程度これが入ってくるというのも、現在程度入るという程度であれば、格別にこちらの日本の株式市場そのものにも大きな影響を与えるということでもありませんし、それから、ひいて金融市場というものに格別それほど大きな影響を与えるという程度でもなかろうかと現在は考えております。これが非常に大きくふえていくということになれば、そこに株式市場あるいは金融市場に対しての影響ということも考えなければいけないと思いますが、まだそこまでの段階には至っていないのではなかろうかというふうに私は見ております。
  28. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 私が調査いたしましたところによりますると、昭和三十三年まではさほどでもございませんでしたが、それ以降、三十四年、三十五年、三十六年と進むに従いまして、外資による株式取得の数字が飛躍的に伸びております。三十三年は前年の約二倍でございます。三十四年はまた三十三年の約二・七倍、三十五年はまたその二倍、こういうことになりまして、今日では総トータルが十二億八千六百万ドル余と相なっております。これは、いわゆるユーロダラーあるいはアメリカ銀行あるいはIMF等々から借り入れました外貨よりもはるかに上回っている数字でございます。  そこで、私が特に銀行の皆さんに承りたいことは、銀行が国内の会社に融資をいたしたりあるいは株を取得したりなさいます。そうすると、その株の二割から三割程度を持たれますと、必ず重役派遣ということになりまして、その会社を大体管理する姿をとられるわけでございます。このようなことは、外資が入ってくれば、これはまた当然な結果として、むしろ内国の銀行関係よりはきびしい態度をもって、その会社の生産あるいは方向、あるいは販売ルートに至るまでサゼスチョンが行なわれるというのは、これは諸外国の投資の実例を見ても明らかな事実でございます。私はそれを承りたかったわけでございます。これについて一体どのようにお考えでございましょうか。
  29. 岩佐凱実

    岩佐公述人 私も的確な数字は持っておりませんのでお答えしにくいのでございますけれども、御承知のように、外国の会社と企業提携をいたしておる有力な会社も数社あるのでございまして、ことにアメリカとの関係においてそういう技術提携なり資本提携というものをはっきり打ち出している有力な会社も数社あるわけでございます。そとにはすでに市役であちら側の人が入っているということでありますが、会社によっていろいろでございましょうが、経営の面についてそれほどのいわゆる干渉がましいことも受けないで順調に運営されているという会社もあると思いますので、そういうような特別な関係にある会社を差し引いて、あとどういうことに向こうの人の株式の分布状態がたっているか、これを十分検討しませんと、なかなか結論的なことを申し上げにくいのじゃないか、こういうふうに考えます。
  30. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 では、もう一だけ承って次の委員に譲りたいと思いますが、金融政府が号令をかけて引き締めをしていても、なかなかにそれが徹底しない、なお会社の増設々々は次々に行なわれつつあり、なかなかにブレーキがかからない、こういう声があります。その内訳を調べてみますると、大体その会社は某々銀行と相当のコネクションのある会社に限られているようでございます。つまり、市中銀行、都会銀行は、自分の系列以外のものに対してはきびしい選別融資をなさいまするが、自分の系列傘下の会社に対しては、これは競争心をあおって融資をなさっている例がたくさんにございます。自分の系列の某々会社が他のそれと同じものを作りつつある会社との競争上、それに勝たせなければならないから、次々と融資を行なっている。こういういわゆる系列融資強化傾向政府金融引き締めと同時に一そう深刻に行なわれつつあるのが現状でございます。これに対して銀行協会としてはどのような考え方をもって臨まれようとしておりまするのか、この点お答えしにくいかもしれませんけれども、ちょっとだけ一つ。
  31. 岩佐凱実

    岩佐公述人 銀行協会としてというようなお話がございましたが、私、銀行協会の代表として参っておるわけではございませんので、その点だけは御容赦いただきたいと思いますが、今御指摘のような点がないとは私も申し上げません。過去においてはございましたし、現在も絶無とは申しません。しかし、こういう状態は、貿易自由化というものを控えまして日本国内経済体制というものをしっかり作っていくためには、決して好ましい情勢ではないと思っておりまして、これは金融界だけでどうこうできるという問題では必ずしもないと思いますので、他の産業界ともどもにこれについてとかく反省しなければならぬ点があるのじゃないかということで、私どももお互いにそういう点は反省して考えなければいかぬじゃないかということを話し合っているのが現状でございます。
  32. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 大へんありがとうございました。
  33. 保科善四郎

    ○保科委員長代理 木原委員
  34. 木原津與志

    ○木原委員 大へんお疲れのようですから、一問だけ簡単に質問いたしますが、あなたの先ほどの公述の中にもあったのですが、財政投融資の原資の問題です。ことしの財政投融資の原資の中に、御指摘のように、千四百八十何億かの民間借入金、公募債借入金というものがある。これは三十六年度ではこの借入金が千二百数十億だったと思うんです。ことしはそれが飛躍的にふえて、二百数十億円ふえておるわけなんです。そこで、この借入金、公募債について、あなたは金融の実務家ですから聞きたいのですが、はたして三十七年度は公募債を民間で消化することが可能であるかどうか。いわゆる融資引き締め民間でも資金が非常に窮屈な現状の中で、これを引き受けることができるか。もし引き受けることができないということになれば、実際の操作上それをどういうふうにされるのか。あるいは政府の方から民間の銀行その他にこの公募債の割当をするのか。そういう点に関する実際上のことをあなたにお聞きしておきたいと思うのです。
  35. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今の御指摘の点でございますけれども、御承知のような金融が非常に窮屈になっておるという情勢でございますから、はたしてそれだけの民間資金期待分を消化していけるかどうかということについては、その点やはり私は相当問題はあろうかと思います。それで、これは今後四月以降の経済状勢の推移いかんということにもかなり左右されるわけでございますけれども、民間金融機関といたしましては、その他設備資金あるいは運転資金という多数の資金需要に資金を供給していかなければならないという立場なのでございますので、重点的にどういうふうに民間の資金を配分していったらいいかという考え、またやり方とも関連する問題だと思いますので、現在から全然引き受けられないとかいうようなことも断定いたしかねると思います。それじゃ必ず消化し得るかというと、必ずしもそうもいかないというのがいつわらざる私どもの気持なんでございますが、そういうような引き受けられるか引き受けられないかというようなことに相なりました場合には、結局、民間資金をさらに詰めるか、またそこで日銀の態度等とかみ合わしてどう考えるか、そのときに考えるほかにないのではないかということ以上、ちょっと申し上げられないと思います。
  36. 木原津與志

    ○木原委員 そこで、実際は、民間で公募債を引き受けるということでなくて、日銀がちょうど復金債を一手に引き受けて購入したように、今度のこういうような財政投融資の原資の借り入れというのは、実際上は民間で引き受けるのでなくて日銀でこれを全額引き受けるというような手続になるのじゃないでしょうか。その点いかがですか。
  37. 岩佐凱実

    岩佐公述人 必ずしも私はそうも考えません。それは、結局、民間の資金をどれだけ詰めるかという、さっきもお話している点との関連もございますから、民間の資金をそれだけ詰めればやってできないことはないということにもなりますので、そういうこととのかね合いの問題になると思います。
  38. 木原津與志

    ○木原委員 最後に、昨年この財政投融資の千二百数十億の原資は公募債でやったわけです。これについて民間でどれくらい消化したか、御承知ならお聞かせ願いたいと思います。
  39. 岩佐凱実

    岩佐公述人 私、今ここにその数字を実は用意して参っておりませんので、数字は間違いがあるといけませんので、その点一つ御容赦していただきたいと思います。
  40. 木原津與志

    ○木原委員 それでは、これで質問を終わります。
  41. 保科善四郎

    ○保科委員長代理 辻原委員
  42. 辻原弘市

    ○辻原委員 大へん恐縮ですが、一点だけお伺いをいたしておきたいと思います。  先刻のお話の中に最後に述べられました三十七年度予算の運用にあたっての要望事項、特に財政投融資について、これが将来の経済基盤をつちかう上において、また、当面の景気調整、あるいは十分手の及んでいない中小企業その他に対する重要な部面として指摘をされたわけでありますが、その中で、対外支払いについて、これが今後の財政投融資資金に若干の影響を及ぼすのじゃなかろうかということで、ガリオア・エロアの返済の問題を指摘せられたわけでありますが、私どもも懸念をいたす一点でございまして、御承知のように、これを扱う投資特別会計は産業投資特別会計でありますが、政府の資料によりますと、全体の資産は三十六年度末で約六千億に上っておるようであります。ここで約二千億強が将来にわたって返済に充てられるということでありますが、どういう影響が具体的に現われるのであろうかということ、これが、私ども、この会計のみならず全体の財政投融資を考えてみた場合に予測しておきたい一つの問題点です。と申しますのは、本年度投資特別会計の内容を見ましても、新たな出資が約五百三十億円強であります。そのうち、一般会計から約二百三十億円の補てんをいたし、また積立金の資金関係から約百五十億ほど充てております。そういう諸般の関係からながめて参りますと、対外支払いの影響というものも、全体の投融資政策から考えていく場合に影響なしとは断ぜられない。しかし、影響なしということになりますと、心配も懸念もいたしませんし、新しく一般会計からの補てんということにつきましてもわれわれは考慮する必要もないわけでありますけれども、必ずしもそうではないのではないかという予測もいたすわけであります。それらの点について、先刻はごく簡単に触れられたのでありますが、若干御意見等をこの機会にお聞かせいただければ参考に相なると思いますので、お話しをいただきたいと思います。
  43. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今のお尋ねの点でございますけれども、私、まことに不勉強でございまして、ガリオア・エロア資金のことはあまりに知りませんので、これはまことに申しわけないと存じますが、ガリオア・エロア資金がいつ支払われて、どういう方法で、どういう形で払われ、そしてまたそれがどういうことでどういうふうに日本の方へはね返ってくるのか、そういうことを一切知りませんものですから、何とも影響があるとかないとかいうことを言い得ないのでありますが、さっき申し上げたのは、とにもかくにもガリオア・エロアというものを支払うことによって、財政投融資の原資の面においてそれだけの窮屈さが出るということだけは感ぜられるので、その点について、先ほどからいろいろお話がございますように、財政投融資の資金の調達の面で民間に負担の増加する分がふえるのではないかというふうに考えております。そういう意味においても若干影響ということを考えております。
  44. 辻原弘市

    ○辻原委員 もう一つだけ今の点で伺いますが、きまりましたならば、大体明年からの支払いが約百六十億程度ということであるようでありますが、今のお話のごとく、かりに一般会計からの補てんをいたさないということになりますと、それが民間資金により調達をする。ところが、前にも話がありましたように、最近の公募債その他のいわゆる資金市場というものはかなり窮屈になっている。そういう面から考えてみて、もしかりに百六十億程度民間資金を調達をしてそれだけの穴を埋めていくということになりました場合、現在におきまして、資金市場から見て、その程度のものは大した圧迫にはならぬだろうというふうにお考えになりますか、その程度の調達についても、新たなる調達としてかなり民間側としては苦労の種になるというふうにお考えになりますか、その辺の御判断はいかがなものでありましょうか。
  45. 岩佐凱実

    岩佐公述人 百六十億円というその数字で考えますと、これがどういう形でいつの時期にどういうことになるかという問題にも関連いたしますけれども、今の全体の資金の量から言いますれば別にそれほど大きな影響なしに大体それが吸収できていくものではなかろうかというのが、私の率直な感じでございます。
  46. 保科善四郎

    ○保科委員長代理 三浦委員
  47. 三浦一雄

    ○三浦委員 私のお尋ね申し上げたいことは、御承知通り、昨今は地方の後進地域の開発ということが非常に重大なことになってきております。各地ともこれに関するいろいろな調査会が設けられたり、また、国におきましてもいろいろな施策を進めてきておるわけでございますが、地方によりましていろいろ差がございましょうと思います。地方で見ておりますと、たとえば勧業銀行であるとか、あるいは興業銀行、あるいはまた、おたくのような中央の大銀行が地方に支店を持っていらっしゃるわけでございます。その場合の預金の状況を案じますると、非常に資産運用のために確実にこれを預金するということでございますから、預金としましても優良な性質のものじゃないかと思うのでございます。ところが、それは中央の方にだんだん吸い上げられて参りまして、地方への還元が非常に鈍いじゃないかという感じを持つわけでございます。おたくの富士銀行はどうだということじゃございませんけれども、非常に優良な預貯金を吸収して、しかもこれがなかなか地方に還元されておらぬ、こういうことがよくうかがわれるのでございます。ことに、言い過ぎてまことに恐縮でございますが、興業銀行のごとき、興業債券は地方へ引き受けさせる、しかし地方への還元の場合には一向円滑にいかないということが、地方銀行等からも言われることでございます。つきましては、吸収するだけでは困るので、これを地方に還元していただくということが必要であろうと思うのでございます。でございますから、地方の開発等に接着いたしまして、そうしてあるいは協調融資でもよろしいし、あるいはまた、北海道開発公庫その他公庫等もあるのでございますが、これらとの関連において地方の開発等に寄与していただくということが大切であろうと思うのでございます。この点についてのお考えを伺いたい、こう考えます。
  48. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今の御指摘の点でございますけれども、表面に出ます数字だけでは必ずしも判断しにくい点があると思います。たとえば、東京、大阪等に本社を持っておりまして、地方に大きな工場を持っておるという会社も多数あるわけでございまして、そういうものの経営というものが東京、大阪で行なわれます関係上、計数といたしましては東京、大阪の計数の中に入って出る面もあることを一つ御承知おきいただきたい。そういう点もございますが、御指摘のような、地方産業発展のためにそれじゃ十分やっておるかというと、これはやや不十分であろうというような面もあろうと思いますので、今後、いわゆる地域開発ということで、後進的な地域がいろいろ発展していくと思いますし、また、そういうことでやらなければならないと思いますが、そういうような場合には、そこにあります東京、大阪の銀行の支店としても、応分の融資を分担するというのが当然のことかと思いますし、そういうことで、従来よりも以上に漸次そういう機運が生まれてきておるというのが現状だと思います。
  49. 三浦一雄

    ○三浦委員 もう一つお伺いしたいのですが、昨今非常に観光ムードになっておる。一面において、この観光は、たとえば職場、農村等の人たちにも非常に有意義であるとは思うのございますが、ただ、しかし、一面考えてみますと、不換紙幣を持って回って、景気がいい景気がいいということで、あまりにも観光方面に金を使うということが一つの傾向であろうと思うのです。たとえば、農村におきましても、農協等では視察あるいはそういうような名目で預貯金をする。これを団体でもって使うという風潮があるわけでございます。こういうようなことでいきますと、長所はありますけれども、一面において、資本の蓄積そのものの観点から見るならば、ここに考うべきところがあるだろうと思うのです。ただ単に不換紙幣でもって外国では使えないものを振り回して遠いところにやる、これが一面においては交通上非常に障害にもなるし、それからまた、消費を過大に進めていくという点があるわけでございます。やはり、日本経済を建て直すという分には、資本の蓄積というものが非常に必要でございます。  そこで、お伺いしたいのは、昨今は、金融会社よこんにちは、銀行よさようならという言葉さえ言われておる。地方の一線に立つ人たちのお話を聞きましても、預貯金の伸びが非常に鈍っておるということでございますが、昨今の情勢では、いわゆる預貯金の増加の趨勢、こういうようなことがうかがわれるかどうか、あるいはまた鈍化しておるか、これに対してもとより銀行方面ではいろいろ御苦心はあると思いますが、こういうふうなことについての趨勢といいますか、こういうようなことについてもお考えをちょっとお伺いしたいと思います。
  50. 岩佐凱実

    岩佐公述人 今いろいろ御指摘になりましたような点があるのでございますが、これは、日本成長経済、さらに安定的発展をやっていくためには、何としても一そう資金の蓄積ということに馬力をかけなければいけないことは疑いのないところでございます。そこで、現在の一般貯蓄の趨勢でございますけれども、私どもの実感として感じたところでは、一般のいわゆる純預金というものは、そんなに悪い傾向ではございません。都市の大銀行の預金の伸びは思ったよりも悪いのでございます。これは、主として、法人筋の、事業をやっておる人たちの営業性の預金の伸びが悪い、あるいはところによっては減少しておる、こういうところから来ておるわけであります。一般預金というのは着実に増加はいたしております。それは、たとえば相互銀行、いわゆるわれわれのところよりももう少し零細なものを扱っておるところの預金の伸びをごらんいただいてもわかると思いますが、この方も順調に伸びております。そういうことから見ましても、それから、われわれの営業の第一線の趨勢を見ましても、一般の貯蓄心というものが非常に悪くなっておるということは感ぜられないのであります。しかし、今もお話がございましたように、貯蓄の増強ということは、もうますますやらなければいけないのでございますから、これについては、われわれとしても、銀行業者としては一段と努力をいたさなければならないし、またそのつもりでやっておりますけれども、傾向としては決して悪い傾向じゃないと思います。
  51. 三浦一雄

    ○三浦委員 最後にもう一つ。前段の御意見で承ったのでございますが、すなわち、東京方面に本店を持っておる大企業の方面には、今のような勧銀なり興銀なり、またおたくのような大銀行なり、双方を通じて還元融資が行なわれておる、これはよくわかりました。しかし、同時に、地方の中小企業方面に対する還元融資につきましては、おたくの方針としまして、逐次拡大していくようになっているのか、引き締めて中央方面に集中的に持ってくるというようなことをしておるのか。これはつかぬ話でございますけれども、地方ではやはり地方銀行と一緒に中小企業の育成を希望しているという点が多々あるものでございますから、この点に対するお考えを伺わせていただきたいと思います。
  52. 岩佐凱実

    岩佐公述人 私どもの方にいたしましても、地方の支店の貸し出しの状況というものは、決して特に地方を引き締めて中央に金を回しているというようなことはございません。むしろ、三十二年あるいは二十八年の金融引き締めのときよりも、地方の支店における貸し出しというものはパーセンテージで増加しておるくらいでございます。そういうわけで、私どもといたしましても、やはり地方に根を持った優良な——規模の大小を問わず、優良な企業については、それはできるだけ金融機関としても協力していかなければならない、そういう方針でやっております。数字上もそういう数字が出ております。
  53. 三浦一雄

    ○三浦委員 どうもありがとうございました。  私の質疑は終わりました。
  54. 保科善四郎

    ○保科委員長代理 岩佐公述人に対する質疑は、これにて終了いたします。  岩佐公述人には、御多用中御出席をいただきまして、貴重なる御意見をお聞かせいただき、まことにありがとうございました。委員長よりあつく御礼を申し上げます。(拍手)  午後は一時半より再開することとし、暫時休憩いたします。  午後零時五十三分休憩      ————◇—————  午後一時四十七分開議
  55. 山村新治郎

    山村委員長 それでは、休憩前に引き続き会議を開きます。  昭和三十七年度予算についての公聴会を続行いたします。  本日午後は、法政大学教授大島渚君、横浜国立大学助教授長洲一二君、日本碍子株式会社社長野淵三治君の三人の公述人の方々の御意見を承ることといたします。  再開にあたりまして、御出席公述人各位にごあいさつ申し上げます。本日は御多用中のところを御出席いただきまして、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会におきまして審査中の昭和三十七年度予算について、各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位のそれぞれの専門的立場より忌憚のない御意見を承ることができますならば、本委員会の今後の審査に多大の参考となるものと存ずる次第であります。  御意見を承る順序に関しましては、まず大島公述人より御意見を承り、引き続き、その御意見に対し、委員から質疑を行ない、ついで長洲公述人、次に野淵公述人順序で進めることといたしたいと思います。公述人各位の御意見を述べられる時間は約三十分程度にお願いしたいと思います。  なお、念のために申し上げまするが、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ること、また、公述人委員に対しては質問することができないことになっておりますので、この点あらかじめ御了承をお願い申し上げます。  それでは、大島公述人よりお願い申し上げます。大島公述人
  56. 大島清

    ○大島公述人 私、ただいま御紹介にあずかりました法政大学におります大島清であります。ただいまから約三十分にわたりまして、当面する農業問題、それに対する三十七年度の農村関係予算についての私の意見を申し述べたいと思います。ただいま委員長から忌憚のない意見を述べてくれということでありますから、そのつもりで率直な意見を申し述べたいと思います。  昭和三十七年度の農林予算は、総額二千四百五十九億円ということが予算案ではきまっておるわけでありますが、この予算額は、昨年度に比べますと、これは補正後でありますが、昨年度は二千二百十八億円でありますから、約一一%の増加になっております。当初予算に比べますと、実に三一%の大きな増額でありまして、この農林予算がこのように増額されたということは、昭和二十九年以来ないことでありまして、この点については、いわゆる農業界では非常な歓迎の意を表するということが、新聞やその他によって伝えられております。私は、まずその点についての私の意見を述べたいと思うのでありますけれども、確かに昭和二十九年以来、農林予算は年々減少をたどっております。これがいわゆる農政の軽視であるとか、あるいは安上がり農政の現われであるとかいうふうに言われて、政府予算執行、予算の編成についての批判がなされてきたわけでありまして、そういう点から見ますと、今度農林予算が一一%もふえたということは、確かにその点については、私も歓迎すべきことであろうというふうにまず考えます。  しかし、予算というものは、私がそういう一般論を申し述べるまでもないことでありますけれども、それは、当面する経済情勢に対してその予算がどういう役割りをするか、どういう目的のために予算の規模をきめるかということによって判断すべきものだと思います。本年度は、昨年の下期以来特に顕著になりました外国関係貿易収支赤字、あるいは国内の消費者物価の大幅な値上がりというふうなことから考えますと、予算の規模は、望むべくはできるだけこれを小さくして、そのことによって景気の行き過ぎを抑える。むしろ、現在は景気の行き過ぎを引き締める。つまり調整期にある。これは総理大臣以下政府当局者がしばしば言明しているところでありますから、私はその方がいいと思ったのでありますけれども、そういう点で考えますと、ただ農林関係予算が一一%ふえたということだけで、手放しで喜んでいいかどうかということについては、そこに疑問が残ります。総予算が何しろ前年度に比べて一三%増加している中での農林予算が一一%の増加であるという点、またその農林予算の内容を見まして、はたしてこれが当面する農業問題に対して有効適切な手を打つ予算であるかどうかということも、私は、そこに考えなければならぬ第二点ではなかろうかというふうに思います。農林予算がふえる。たとえば農民に対する補助金がふえるということになりますと、これは同時に地方公共団体も予算がふえるということを意味するわけでありまして、つまり一定量の事業に対する補助というものは、その半額ないし同じくらいの公共団体及び受益者が負担をすることになるのでありまして、結局それは、農村住民である農民に税負担としてかかってきたり、あるいは受益者負担としてかかってきたり、いろいろな意味でこの負担がかかっていくのでありますから、ただ予算がふえたということだけで、私はこの農林予算をすぐ歓迎するというふうには思えないのであります。当然、従ってこの予算がどういう項目、どういう内容を持っているか、どういう編成になっているかということが、問題にならなければならないというふうに考えます。また、農林予算が、そのように相当大幅にふえたといいますけれども、その内容を見ますと、その中の七百十億円というものが、食糧管理特別会計の赤字補てんとして占めているのであります。そうしますと、そういうものを差し引いた残りは、一千七百四十八億円ということになります。この千七百四十八億円の農林関係予算が、一体どういう編成をもって作られておるかということが、次の問題になります。  それで、私は、その予算の問題に直接入ります前に、現在の農業の状態、農民の生活の状態は、日本一般国民経済の中でどういう状態にあるかということを、一つごく簡単でありますけれども、指摘しておきたいと思います。それには、幸い、つい最近農林省当局が発表いたしましたグリーン・レポート、いわゆる「農業の動向に関する年次報告」というグリーン・レポートが出ております。これによって一つないし二つの点を指摘しておきたいと思うのです。この「農業の動向に関する年次報告」によりますと、たとえば農業とそれから工業の生産性の比較が、そこにはなされております。たとえばこのグリーン・レポートの三十三ページを見てみますと、こういうふうに書いてあります。つまり農業と製造業の物的生産性の指数の比較ということでありますが、これは昭和二十五年から七年までを基準にして、その平均を一00とした基準数でありますが、製造業においては、昭和三十五年が二七二・八というふうにになっております。これに対して農業は一四七・五、こういう工合に、つまり生産性の程度からいいますと・この伸び率から見ましても、農業の方が工業の約半分になっております。しかも、昭和三十四年にこれを比べてみますと、三十四年においては、製造業が二二五・四という数字に対して、農業は一四一・八、つまりこの一年間を見ましても、生産性の開きというものは、明らかに相当に大きくなっていると見ることができます。あるいはまた、生産性の指数だけではなくて、今度は直接に生活内容を比較できるような消費支出の数字について若干御紹介しておきますが、このグリーン・レポートの五十一ページに、そういう農家と都市勤労者の消費支出の比較というのが出ております。五十一ページのところに、こういうふうに書いてあります。「農業の資本装備率の相対的低位とその開きの拡大が明瞭である。」つまり農業の資本装備率と製造業におけるその開きの拡大が明瞭である。また、それ以外の点におきましても、大都市生活者とそれから農民の一戸当たりあるいは一人当たりの消費支出というものが、大体工業の七五・八%とつまり農民の生活内容は、都会の一般勤労者に比べて七割五分前後というふうな数字が見えております。こういうふうに見ますと、日本の農業をこのままに経済の成り行きにまかしておくと、ますます農民の相対的地位が弱まっていく、劣悪化するということが明瞭になっていると思います。少なくとも、この政府報告の示すところによれば、私はそういう結論を出していいと思います。  では、次に、もう一つでありますけれども、今度は農業の内部におけるその状態をとってみます。たとえばこのグリーン・レポートと同時に出されました政府の「昭和三十七年度において講じようとする農業施策」という文書があります。これによりますと、この第一ページには、こういうふうに書いております。「農業と他産業との生産性の開差は拡大し、また、農業従事者と他産業従事者との生活水準の開きも縮小をみせなかった。」つまり生産性の開差は増大すると同時に、農民と一般の他産業の従事者との生活水準の開きというものも縮小を見せなかった。またこのいわゆるグリーン・レポートのあちこち——どこを開いてもわかるのでありますけれども、農村の内部における貧富の懸隔がますます開きつつある、進みつつある。農民層の上下、いわゆる分化、分解というものも進みつつあるということが、私はこの資料のあちこちを引用することによって証明することができると思います。この点は、私がこれから来年度の農林関係予算について意見を述べる一つの前提になっているのでありますから、それを一つ御承知置き願いたいと思います。  簡単に要約しておきますと、要するに、農業と農業以外の、つまり製造業との間の生産性の開差はだんだん大きくなり、一般勤労者の生活内容と農民の生活内容の開差、格差というものもだんだん大きくなっていって、まだとまらない。また、農村の内部においては、上下の開きがますます大きくなりつつある。これが、私が現在指摘したい農民の地位、農業の地位に関する一つの実態であろうと思います。  農業の動向に関する年次報告におきましては、結局のところ、現在農民の階層において、一町歩前後、つまり大きくもない、それほど小さくもない一町歩前後の農民の生活状態、経済状態が一番苦しいということを指摘されているのでありまして、はたして今度の農林予算が、そういうような低下しつつある農民の地位、その中における一町歩前後の、大部分を占めております非常にたくさんの零細な農民の地位に対して、どの程度にそれを救済するというか、あるいは保護というか、言葉は何でもけっこうでありますけれども、どの程度にその人々の経済と生活を考えて組まれているかということが、私はこれから問題になると思うのであります。このグリーン・レポート及び農林省政府当局の発表しております施策というものの中に、こういう言葉があります。これは大事でありますから私は写してきたのでありますが、それを読みますと、「その根底には零細な資本と土地を特徴とするわが国の農業構造の問題がある。」つまり現在の苦境に立っている農業や農民の根底には、零細な資本と土地とを特徴としている日本の農業構造があるということが指摘されております。私はこの指摘は非常に正しい指摘だと思うのでありますけれども、それではこの非常に重要な、現在の農業や農民が困っている根底になる問題としての経営規模の零細性、これに対して、一体農林予算政府の施策というものが、いかなることによって解決をはかろうとしているのかということが、私の農林予算に対する一つの大きな期待であったわけであります。  それで、三十七年度の農林予算では、非常に今までと違って目新しい言葉が目立つわけでありますが、その第一が、いわゆる構造改善の政策というものでありまして、構造改善というのは、つまり今私が読み上げました、農林省が三十七年度に実施しようとしている施策という文書の中にあります資本と土地の零細性という問題が根底にある零細経営の構造を改善するというのが、数年以前から唱えられております構造改善の政策、あるいは構造政策といわれているものであります。この構造改善に対して、つまり日本の農業問題の根本にメスを入れようとする構造改善の政策に対して、予算がいかに組まれているかということが、第一点の問題になります。  三十七年度の農林予算の説明という農林省予算課の出した説明書、あるいはその他の政府の公の報告、説明書によりますと、これには農業構造の改善対策として、構造改善事業費四十二億九千三百万円という予算が組まれております。これは河野農相がよく言われますいわゆる一町村一億円の構造改善費を投じて、日本のこの農業構造を改善すると言われている問題の項目であります。これは、パイロット地区とかあるいは一般地域というふうなところを設定いたしまして、一億円前後の事業費、それに対して五0%前後の国の補助を与えるというのでありますが、これをしさいに検討してみますと、いろいろそこにおもしろいことがわかります。  第一は、この構造改善という項目の中には、土地基盤整備費という名前でいわれているものがある。これは実際は土地改良費であります。従来の予算では土地改良その他の項目に含まれていた部分でありますけれども、この土地改良費に相当するものが十五億円含まれております。これは何も構造改善というふうに言われなくとも、つまり経営規模を広げるということを目的とする構造改善と言われなくても、土地改良と言われてもかまわないのでありますが、実際にわれわれがこの予算に盛られた新農政の考え方を具体化するものとしては、この四一三億円の中からこの十五億円というものを差し引いて考えなければいけないのではなかろうかというふうに思うのであります。その大体は、この構造改善という目新しい一つの看板でありますけれども、これに関する予算が、純粋には二十八億円程度盛られているというふうに考えていいでしょう。問題は、この一町村一億円という中で、補助金の補助率が五0%というのを、私の考えとしては、もう少し引き上げてやってはどうなんだろうか、これは前からそういう気がしておったのでありますけれども、この予算を見ますと、補助率は大体五0%というふうになっております。この点を私、もう少し考えることができないだろうかというふうに考えます。  また、この農林省当局の提出しております農林予算の説明によりますと、この構造改善というのは、農業経営の近代化と、それから立地に即した主産地の形成を目的として組んでいるという、こういう説明がなされております。経営の近代化というものも、私は、もちろん非常に重要なことだと思います。また、主産地の形成ということも、非常に重要なことだと思います。しかしながら、ここに盛られている二十八億円、大きくいって四十二億九千三百万円という予算は、構造改善ということを看板にして盛られている予算でありまして、構造改善というのは一体何を言うのか。これは、農業基本法第二条第一項第三号にその規定があります。その農業基本法第二条の第三号には、これは農業構造の改善というものの意味を書いてあるわけでありますが、その第一番に、「農業経営の規模の拡大、」ということがうたってあるのであります。従って、政府が農業の構造改善と言うからには、私は、第一にこの農業の経営規模を拡大するということを目標にして予算を組み、施策をしなければならない、そういう義務があるというふうに考えるものでありますけれども、この予算の内容を見てみますと、主産地の形成、経営の近代化ということがうたわれているのでありまして、そうして経営規模を拡大するには、何といってもまず土地の取得、農業経営の基本である土地の拡大ということが、第一の眼目にならなければならないと思うのでありますけれども、それがほとんどなされておらない。そういう点で私はこの構造改善というものの内容が、どうも基本法にうたわれておりますところの構造改善というものから、幾分的がはずれておるのではなかろうかという疑いを持つわけであります。  それで、この項目でなくて、経営規模の拡大についてはほかのいろいろな予算の項目があるじゃないか、こう思って私は見たのでありますが、たとえば農協の農地信託制度の準備のために八千五百万円の予算を組んでいる。これは助成金を出すわけでありますが、そういうものがあります。あるいは農地法を一部改正して経営規模の拡大に役立つような施策にする、こういうふうなことがいわれております。しかしながら、この農地信託制度というものが、はたしてどこまで現在の統制小作料のもとにおいて利用されるかということには、私はやはり相当困難があるのじゃなかろうかという気分もあります。また構造改善のためには農業近代化資金という制度の貸付金のワクを、昨年度の三百億円に比べまして本年度は五百億円にふやす、二百億のプラスになった、こういうことも考えられます。この五百億円というのは、もともとは農民が農協に預けた金で、それに対して政府が利子補給をして、この金を借りやすいようにするというのであります。この近代化資金についてはいろいろ根本的には問題がありますけれども、私はこのワクが増ワクされたということはけっこうだと思います。ただ五百億円という金額が、一体日本の現在困難に追い詰められておる農民にとって何を意味するかということになりますと、かなりこれは首をかしげざるを得ない。現在日本の単位農業協同組合、出資組合でありますが、一万二千ほどございます。この一万二千の協同組合の一つ当たり平均幾らになりますか、大体五百億でありますから四百万円です。そういたしますと、この近代化資金の貸付ワクは一口百万円ということになっておるそうでありますが、百万円としますと一つの協同組合の管内で四人しかこの金を借りることができない。かりにこれを五十万円借りるといたしましても八戸の農家しか金を借りることができない。非常にこの点は不十分であります。しかし金の運用についてはいろいろ事情があります。五百億円が少ないから、それじゃ一千億にしろというふうなことを今言うわけじゃないのです。問題は、こういう近代化資金というものを貸し付ける場合には、農民がどの程度の資金を借りたがっているか、農民の資金需要はどのぐらいあるかということをあらかじめ調べた上で計画的に資金ワクをきめ、次第にそれを広げていくというような計画的な施策がなければならないと思うのでありますけれども、どうもこの三百億あるいは五百億の資金ワクというものは 頭の中できめておいて、それを各農協に割り当てるというふうな印象を持つのでありまして、そういう点で農政が計画的にしかも長期的な見通しに立った計画によって資金ワクをきめておらない、農民の資金需要から見るときわめてわずかであるという点を私は指摘しなければならないわけであります。  また、この近代化資金の利子でありますけれども、これは個人が借りる場合には、ことしは利子を一分引き下げて六分五厘、しかし共同経営に対しては依然として七分五厘という差別をしております。これはなぜこういうことになったのか。個人が借りる分だけ一分利子を下げて、共同については一分下げないというのは、何かそれは共同について、あるいは協業についての熱意が足りないのじゃなかろうか、たしかこの近代化資金助成法案が国会を通過するときには、附帯決議として利子は五分程度に下げてほしいという希望がつけられていたと思います。それが今度においては実現しなかったわけでありまして、これは非常に私は残念だと思います。  それからまた、経営改善あるいは構造改善のためには、土地の取得ということが大事であります。これは、私、昨年農業基本法が国会を通過する以前の公聴会で、政府は、ほんとうに構造改善の熱意があるならば、自立農家を育成するという熱意があるならば、どうしてもその自立農家が土地を取得するための資金というものを、低利資金を用意して、これを農民に融通する必要があるのではないかということを述べました。それから一週間ほどして農林大臣は、そういう土地資金を低利融資する意向があることを新聞紙上に発表したことがあります。私は今度の予算でそれが実現するのではなかろうかという期待を抱いていたわけでありますけれども、今度の予算には全くその点が落ちている。これは実に私奇妙に思うのでありますけれども、構造改善ということが新年度予算においては一番の金看板になっているのであります。しかもその構造改善という中で最も重要なのは、前から政府のいっておるところの自立経営の育成ということであります。ところが奇妙なことに、今度のグリーン・レポート、「農業の動向に関する年次報告」それから「昭和三十七年度において講じようとする農業施策」という文書の中には、自立経営という言葉はほとんどすっかり姿を消しているのでありまして、私はこの施策の中にわずかに二カ所だけしかその自立経営という言葉を見出すことができなかったわけであります。農業基本法が通るまでは自立経営、自立経営という実にきれいな言葉がささやかれたのでありますけれども、実際の施策になりますと、自立経営という言葉はわずかに二カ所にだけ実につつましく出ているにすぎない。最初は非常に勇ましいトランペットを吹いたのでありますけれども、いざやるとなると、とうふ屋のラッパのようなものでありまして、私はどうもこういう点について、構造改善政策というものにやはり政府はもう少し前に言っただけの熱意と予算の裏づけをしてほしかったと思います。  それから第二の点でありますけれども、構造改善の政策はその通りでありますが、今度は農業の生産、流通及び価格安定の政策についてであります。これについて一々詳しく数字をあげて予算を批判するとか意見を述べることはできませんから、これから伸ばしていこうとする農業生産の中でのいわゆる選択的拡大の花形である畜産、酪農、そういう畜産に関する農林予算の組み方について少し意見を述べたいと思います。
  57. 山村新治郎

    山村委員長 大島先生、おそれ入りますが、ニュージーランドの方が見えておりますから……。     —————————————
  58. 山村新治郎

    山村委員長 途中でございますが、ただいまニュージーランド国会議員団の方々がお見えになりました。この際、御紹介を申し上げます。  団長、住宅大臣ジョン・レイ君   〔拍手〕  元保健大臣、元法務大臣H・G・  R・メイソン君   〔拍手〕  G・A・ウォルシュ君   〔拍手〕  P・B・アレン君   〔拍手〕  T・オマナ君   〔拍手〕  S・A・ホワイトヘッド君   〔拍手〕 以上でございます。     —————————————
  59. 山村新治郎

    山村委員長 どうぞ、大島さん、お続け願います。
  60. 大島清

    ○大島公述人 それではもう時間があまりありませんから端折って申し上げますけれども、畜産が現在当面しておる非常に大きな問題に飼料、つまり飼葉でありますが、家畜の食べもの、飼料の問題があります。飼料対策、たとえば飼料の価格を値下げするとか、あるいはその流通、需給関係を調整するという飼料対策予算措置は一体何か。これを見ますと、飼料の自給度向上のために九億五千万円、これは三十六年度五億五千万円でありましたから、約倍に増額されております。それから草地改良の政策として九億円、これも昨年度は五億二千万円程度でありますから増額されております。この増額は私は非常にけっこうだと思います。しかしながら、こういうものの中に購入飼料——農家が現在困っておるのは、購入飼料が高くて、だんだん値上がりをしておって、なかなかそれを買っておったのでは、生産費を償うようにうまくこの畜産がやっていけないということなのであります。それではこの購入飼料については、政府は今度の予算では何を考えているか。これは飼料需給安定法によって、その差益、差損額二十九億円というのがあがっております。それから農業資材の生産並びに流通合理化対策として、この農業資材全般でありますが三十一億円、これも昨年度二十一億ちょっとでありますから、かなりの増額であります。これは飼料が値上がりをしているということにも関係があるのでありまして、当然増額しなければならないのでありますけれども、しかしながら、この農業の生産資材、流通合理化というものの中に飼料関係は一体何があるかと申しますと、肥料と飼料をひっくるめた肥飼料検査所の予算八千八百万円、それから飼料の品質改善費として一千万円という程度でありまして、これは飼料の改善、飼料問題に対する対策としてはお話にならぬぐらい少ない額ではなかろうか。これで一体飼料の生産費の低下をどうして促進することができようかというふうな疑問を持ちます。  畜産に関しては昨年畜産物価格安定法という法律ができました。ところがそういう法律があって、まだ十分に働いていないせいがあるかもしれませんけれども、たとえば豚肉価格、昨今の新聞その他をにぎわしておりますような豚肉価格が、二百円台を割るような非常に安い価格になる、こういう畜産が非常に盛んになって、増産されたとたんにそういう生産費を割るような、実際に養豚農家が私に語ったところによりますと、現在の枝肉価格二百二、三十円の値段では労賃を見積もることはとてもできない。もしも自家労賃を見積もれば、子豚とそれからえさ代というものは全部ただになってしまう。売れば売るだけ損をするのだ、実に泣きの涙だということを言っております。私はこの養豚農家の嘆きというものが、あしたは酪農家の嘆きにならなければよいが、牛乳を作っても生産費が高い。その割に牛乳の値段というものは上がらないというふうなことで、畜産界全体が非常な、最近の豚肉価格の値下がりに対して不安を持っているのではなかろうか。事実また不安を持っているのであります。  こういうふうに大いに選択的拡大だ、需要があるから作れ、牛を飼え、豚を飼えと言っておきながら、豚の価格が下がってしまう。牛乳価格が下がってしまうと、ほとんどこれに対しては手が打てないというふうなことでは、私はせっかく政府がいろいろな形で、選択的拡大とか生産性の向上とかというふうな施策を講じておりましても、結局はそれは農民の、つまりたくさん作って値段が安くなっても所得がふえないという、ただそれによってもうけるのは、農民の作っている豚肉とかあるいは牛乳を加工する加工業者の利益になるということであります。もちろん私は、現在の農政がすべて加工業者あるいはそういう資本の利益に奉仕している、そこまで言うことはないのでありますけれども、えてして現在まで行なわれてきた生産政策というものが、有効適切な価格保障、流通対策を欠いているために、むしろ業者によってこれを歓迎されるような政策に堕しているということを私は強く指摘したいのであります。その点について飼料対策あるいはその出産資材に対する対策が非常に不十分であるということを私は申します。  肥料についても肥料二法が廃止されたあとに一体どうなるのか、予算の上ではどうもその点十分な措置が講ぜられておらないようであります。構造改善という名のもとに機械化を促進するとか、主席地を形成するとか、大体これは生産政策、増産政策と名づけられるものでありまして、こういうふうにして選択的拡大の名のもとに畜産や果樹がどんどん増産されていく。一方においてその生産費に非常に重要な意味を持つ飼料や肥料の価格がそう下がってこないということになりますと、結局これは農業基本法にいうところの、基本法の中には明らかに価格の安定をはかる。所得の確保をはかるということがうたってありますけれども、十分にその農業基本法の文句の通りに、看板の通り予算の裏づけがなされておらないのではないかというふうに私は考えます。そういう点で私は今度の予算における特徴の一つとして私たちの考えているような十分な所得補償の対策、価格安定の対策については非常に欠けるところがある予算ではなかろうか。  生産の面では基盤整備とか、そのほかで、従来食糧増産対策という名のもとに行なわれてきた土地改良その他の予算は相当組んであります。たしか百億円ぐらいその点は増額されておりますけれども、もう一方の所得確保の対策、価格安定の対策ということにつきましては、どうも私は欠けるところがあるのではなかろうか。もちろん流通対策とかあるいは価格対策というのは金もかかりますし、技術的にも相当困難な問題を含んでおります。しかしながら河野農林大臣は、人の寝ている五時ごろに魚河岸まで出かけて行って流通対策を考えるぐらいの熱意がある方なんでありますから、こういうことを予算の上で生かして、もっともっと流通価格安定の対策についての裏打ちをしてもらいたかった、そういうふうに私はこの予算については考えます。  私はこの農業基本法が成立される直前の公聴会で、生産政策ももちろん大事だけれども、所得確保、価格安定の対策がさらに現在の農政に不足している大事な点だ、どうかその点を考えて実際の運用をはかってもらいたいということを申し上げたのでありますけれども、もう一ぺんそれを繰り返さなければいけないということは、むしろこれは不幸なことであります。しかし私は繰り返しても、そのことを強くもう一ぺん指摘しておきたいと思います。  まだいろいろこの農林予算や、そのほかの農業問題についての意見を述べたい点がありますけれども、時間がもう過ぎたそうでありますから、これで私の公述は終わります。
  61. 山村新治郎

    山村委員長 御苦労様でした。  ただいまの御意見に対しまして質疑を許します。申し出順に委員長が許可いたします。  倉成正君。
  62. 倉成正

    ○倉成委員 ただいま大島先生から非常に貴重な御意見を伺ったのでありますが、構造改善についていろいろ御批判をいただきましたが、私はやはり構造改善その他の問題を論ずる場合には、日本農業をこれからどういう形の農業に持っていくかという一つの理想図があって、その理想図のもとにおいて予算の構成なりあるいは構造改善について議論すべきであると思いますが、ただいまの御説明では、そういった根本の前提となる日本農業をこれからドイツ的なものに持っていくのか、あるいはイギリス的なものに持っていくのか、そういった一つの理想図というものが明確でございませんでしたので、その点を一つお伺い申し上げたいと思います。
  63. 大島清

    ○大島公述人 日本の農業を将来どういう理想型のもとに近づけるか、あるいはどういうふうに持っていくかという質問でありますが、なかなかこれはむずかしい大きな問題でありまして、すぐ簡単に答えが満足できるかどうかわかりませんけれども、ドイツ的とかあるいはイギリス的とか言いましても、日本日本独得の歴史と農業構造を持っておりまして、これをどこかの国に近づけるというふうなことは、私は必ずしも妥当ではなかろうと思います。ただ申し上げたいことは、私は現在のような零細な八反歩前後の平均経営規模を持っている農業では、とてもこれは貿易自由化とか、あるいはこの製造工業との競争関係というものの中で、とうてい農業が生産性を伸ばして発展していくことはできない。従って、何らかの意味でこれを大規模な生産性の高い、能率のよい農業にしていかなければならないというふうに考えます。  その場合に考え方は二つあるのです。たとえば、現在の残っている農家の経営規模を広げるために離農を促進する、兼業農家の離農を促進して、できるだけ能率のいい農家に土地を耕作してもらう、つまり自立農家育成の考え。それからそうじゃなくて、それができない場合には、協業——政府の言葉でいうと協業ということ、あるいは共同経営でありますが、共同経営によって、個別農家の行なう従来の経営を幾つか集めて、十町歩とか百町歩の経営にして大規模農業に持っていく、こういう考え方があります。  私はこの二つが全然相いれない、矛盾する考えであるとも思いませんし、また私は、自立農家という言葉はどうも妥当でないと思いますから、そうじゃなくて、ある程度一町五反の農家が、二町歩やれば最も合理的な農業ができるなら、そういう形の農家を作る、そういう方向に持っていくのも、一つの方法ではなかろうかと思います。しかしながらいずれにしろ、現在のような野放しの状態では兼業農家はふえますけれども、農家の数は減らない。これは結局なぜそうなるかといいますと、日本では農家をやめて都会の労働者になっても、それで不安なしに一生をその工業に託すだけの賃金とかあるいは社会保障というものが充実しておらない、こういうところに根本の問題があると思うのであります。私は、一方において、そういう離農者が十分安心して農業以上に安定した生活を確保できるような労働条件とかあるいは社会保障の条件を整えると同時に、そういう農業を離れていく人が土地を手放すと、その手放した土地を十分に買えるような資金の手当だとか、そのほか一切の手当をできるだけの形で世話してやるのが、そういう意味でそういう家族農家を作っていく上での一つの方策ではなかろうか、私はそういうふうに考えるのでありまして、自立農家一本やりで農業を進めていくというふうにも考えませんし、そうじゃなくて、協業でなければ、現在すぐ協業に踏み切らなければ、日本の農業はだめなんだというふうにも考えません。はなはだ煮え切らぬような態度でありますが、現実論としては、それ以外にはなかろうというふうに考えております。
  64. 倉成正

    ○倉成委員 ただいま非常に現実に即したお答えがあったわけでありますが、ただいまお答えの中にもありましたように、たとえば一町歩の農家を二町歩にしたら、すぐ農業経営がよくなるものでもない。また地域的に考えてみると、九州の農業と北海道の農業ではいろいろ特色がありますし、一律にはいかないし、同じ九州でありましても、果樹栽培の農業であるとかあるいはその他の違った形の米作農業であることによって、経営規模も異なってくると思います。従って、構造改善の事業として農林大臣が掲げました項目の中に土地改良費がいろいろあるとか、いろいろ御指摘がありましたが、私はやはり構造改善というのは根本的には農業基盤の整備をやっていく、すなわち土地改良をやり、開拓をやり、干拓をやり、相当大きな土地を作っていく。たとえば三十七年度予算には、昨年四百六十九億ありましたのが、ことしは五百五十七億というふうに大幅にここに農業基盤の整備費が増加されておる。こういった点がやはり構造改善の根本になるのでありまして、たまたま農林大臣が構造改善事業として新新農村計画を打ち出した中に、そういった経営規模の拡大が少ないからこれの意欲が少ないという御批評は、若干当たらないのではないかと思うのであります。  それはそれといたしまして、先生にお伺いしたいのは、先ほど食管の赤字七百十億ということについてお話がございましたけれども、私は、今日の段階において農家が米価の一万一千五十二円何がしを要求し、消費者米価を上げないとすると、どうしても七百十億の赤字が出てくるのは、当然の結果じゃないか。この点は一体どのようにお考えになるか。先ほど何か予算規模はふえたけれども、七百十億があるからどうかというお話がありまして、これに対する価値評価がはっきりしませんでしたので、ここで明確にお答えをいただけば幸いと思います。
  65. 大島清

    ○大島公述人 私が総農林関係予算二千幾らかの中で、食管会計の赤字差損額七百十億円があるということを申し上げましたのは、それはいかぬというふうな意味ではないのでありまして、新しい、つまり構造改善を看板にして発足した本年度の農林予算というものの中で、新しいものは一体どのくらい盛られているのだろうか。  その意味において、食管会計の赤字というのは、ずっと従来から続いておって、そうして消費者米価を押え、生産者米価を生産費所得補償方式でやっていく限り出てくる差損であります。これは私は、そのままでちっともかまわない。その金額がどうか、あるいは米価がどうかということについての意見はありますけれども、そのことを軽べつしたり、そんなものはない方がいいというふうに考えておるのではないのでありまして、新しい施策としてどの程度予算額が今度組まれておるかということを考える場合には、ただ総農林予算がふえたというだけではなかなか判断がつかぬではないか、こういうふうに申し上げたのであります。
  66. 倉成正

    ○倉成委員 時間がないようでありますから、あと二点だけお伺いをしたいと思いますが、一つは、ただいま食管会計の七百十億についてのお話がございまして、先ほど先生は、農林予算全体がふえたことは歓迎する、今食管会計の七百十億については、これはやむを得ないものであるというふうにお話になったようであります。そうなりますと、残された総農林予算から食管会計の赤字を引いた残りで、もし先生が今お述べになったような角度で農政をやられるとするならば、一体どういう項目の予算を大きく掲げられるか、一つ参考までに一、二例をあげていただきたいと思います。もちろん飼料対策、流通対策とおっしゃいましたけれども、問題は、予算としてどういうふうに組んでいくかということが問題でありますから、一つ御意見があったらお伺いしたい。
  67. 大島清

    ○大島公述人 私が農林大臣にあしたなれというのでしたら、おそらく今晩考えて、いい答弁ができるかもしれませんが、残念ながら力が足りなくて農林大臣になれないのです。しかし予算を、じゃどう組むかと言われましても、とっさの場で、それでは肥料検査所、飼料検査所を倍額にしろとか、そんなことを言っても、これは無意味でありまして、私が申し上げたいのは、予算の比重として割合に従来やってきたことは、食糧増産とか、つまり生産政策、これは補助金を出して土地改良をしたり、土壌改良をしたりすることがおもでありまして、割合にイージー・ゴーイングのやり方でないかと思うのです。ところが流通機構に入りますと、たとえば魚河岸一つでも、おそらく十分調査はできていないと思います。いかにして手を打つかということになると、野菜でも魚でも畜産物でも、相当にこれはやはり流通機構との摩擦が避けにくいわけですね。何しろ自分たちの利潤に関係することでありますから、非常にそれじゃ役所としてもやりにくい、また調査も十分できておらないということで、技術的には、やりにくい点があるし、金もかかると思いますけれども、そういう点に、たとえば今度の豚肉安定対策が、この前のあれでは基準価格二百三十円とか、二百七十円ということを聞いておりますけれども、農家では、そういう高い値段を望んでおるのじゃないと思うのです。生産費が安くて、ともかく働けばまあ一般国民並みの生活ができるような、そういう農業を望んでおる。大部分の農民はそうであります。そういう点については、やはり飼料価格、飼料流通対策、あるいは肥料の価格、肥料流通対策という点に、もう少し現在のような、私から見ますとどうも——たとえば果樹の対策としては、わずか一億の単位もないですね。四千万円か二千万円の単位しかないわけです。価格変動が非常に激しくて、果樹なんというものは、固定資本が相当たくさんであります。多くの固定資本を要しまして、そうしてそういうものが現在では生産として供給されないのであります。五年後、十年後になりますと、たくさんの生産力が出て参りまして、必ずまた価格暴落という問題が起こってきます。そういうものに対して、現在わずか二千万とか四千万円の予算を組んで一体何をしようとしておるのかという点が不満なのでありまして、そういう私たちのような不満が、もしもこの農政の当局に当たっている方に正当に理解されましたならば、現在よりももう少し変わった予算が組まれるのじゃなかろうか。そういう面についての長期見通しに立った予算対策というものが打たれるのじゃないかというふうに感じておるわけであります。あまり名答弁にはなりませんけれども、一つこれでかんべんして下さい。
  68. 倉成正

    ○倉成委員 流通対策をもっとしっかりやらなければいけないとか、あるいはいろいろな金利をもっと下げなければいけないという点については、私ども先生と全く同感であります。  なお、果樹は私専門でやっておりますので申し上げておきますが、二千万程度予算ではございません。これは果樹園造成あるいは果樹振興法による予算その他を加えますと数億になりますので、これは訂正していただきたいと思います。  なお、最後に御質問申し上げたいのは、EECとの関係であります。欧州共同体がいよいよ第二段階に入って参りまして、これに対して日本の農業はどう対処するかという問題で、とりあえずの問題として何か縁遠いようでありますけれども、現地の農民というのは非常に敏感に何か不安を感じておる。一体これにどういう形で対応していくかという問題について、端的に、たとえばこういうふうな方向日本農業はとるべきではないかというお考えがありましたら、一つお聞かせいただきたいと思います。
  69. 大島清

    ○大島公述人 だいぶむずかしいですな。(笑声)これはしかし一般的にいいますと、要するにヨーロッパあるいはEEC、共同体の農産物に対して対抗できるような生産力を持つ農業を築くという以外に手はないわけですね、ところが、それには一挙にそういうことはできませんから、関税障壁を設けて、徐々に関税障壁を低めていきながら生産力を高める。そのためには、どうしてもさっき申しました選択的拡大とか、あるいはこれから伸ばさなければならぬ農産物というものをはっきり目標をきめまして、その生産力を高める。また資本装備率とか、先ほど申しましたように、経営の規模を何らかの形で拡大するということ以外に、一般論としては方法はないのでありまして、いつまでも全然隔絶した別の世界日本農業を置くことはできない、これは当然のことであります。しかしながら、そういうことになりましても、農業は一般のほかの産業と違いまして、その担当である農民というものが、何といいますか、企業主であるというよりは勤労者の性格が強いのでありまして、こういう人々を、EECの農産物を直接に日本輸入するとかいうことで直ちに市場競争の中に投げ込みますと、これは非常に大混乱が起こると思います。そういう点は、漸進的に日本の農業の発達の状態、また外国農業の農産物の価格その他の状態を考えまして、やはり相当に慎重な保護政策、あるいは保護政策といったら語弊がありますけれども、そこに調整の政策がとられなければいけないだろう。農業の問題はなかなか一挙にどうというふうにはいかないというふうに私は考えております。
  70. 倉成正

    ○倉成委員 時間がないようでありますからこれで終わります。(拍手)
  71. 山村新治郎

    山村委員長 淡谷悠藏君。
  72. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 大へん短い時間での質問でございますので、ほんの一、二点大島先生にお聞きしたいと思います。  今度の農林予算に流通に関する予算が大へん少ないことは、これは事実でございますが、最近農民の困っておりますのは、どうも生産費の方じゃなくて、やはり流通に対するさまざまな施策の貧困から困っているようであります。いろいろ農業基本法以来論議がかわされますが、論議をかわしている間にも農村の窮乏が非常に進みまして、この間も笑っていましたが、牛を飼ってももうからぬ、豚を飼ってもとんとんで、鶏飼っても元がけいらんといったような(笑声)落語みたいなことがはやっておりますが、これはほんとうの姿だろうと思うのです。むしろ豚はとんとんどころか、もう元手を割ってしまったような形になっておりますが、この辺などにやはりことしの農林予算は非常に鋭いメスを入れてこそ、農業基本法が出たかいがあったというのですが、お話の通りこれは全くないと思います。これをいつまでも放置しておりますとどうなるかというと、私は非常に困ったことになると思うのは、最近の水産資本の農村進出であります。これは各地に起こっておりますが、私の郷里などでもある水産会社系統の資本が入りまして、しかも地元の海産物商が豚の多頭飼育をやった、これは三千頭の多頭飼育であります。この間も私見て来ましたが、豚小屋と申しますと私のうちみたいなものが典型だと思いましたら、そうじゃなくて、これは非常にりっぱな学校みたいな豚小屋ができている。この水産資本がやりますと、生産から販売まで一つのシステムになってやっておりますので、生産の利潤だけじゃなくて、流通の利潤まで全部その資本に返ってくるような形態が、具体的にこれは各地に起こっているだろうと思うのであります。こういう形が出て参りますと、ことしの農林予算のように、たかだかパイロット・ファームみたいなものを試験的に作るという形じゃ、これはタイムリーにどうかという感じがするのです。この河野農政というものをやりましてから、実は農業基本法で予定されました方向かなり逸脱した方向に参りました。この前の農林大臣のときにやった新農村建設という、これはまた非常に見当のつかない試験みたいなものをもっと大がかりにやろうという構想がまた出てきましたようで、私たちから申しますと、若干昨年度の農林予算の編成とは別の方向に逸脱した感じがするのであります。特に近代化資金あるいは基盤整備資金というのは、この広大な日本の農地、——広大と申しましても比較的の話でありますが、それから農民の数、特に数、これなんかに対する施策としては、かなり大規模な予算を組まないと、これは構造改革なんということはてんで問題にならぬと思うのです。それが出ないものですから、一農協当たり四百万円とか、一戸当たり農家の近代化資金が平均五千円とか、お話みたいな話になってしまうのでありまして、この予算の乏しさから勢いまた試験的なパイロット・ファームの予算でお茶を濁したという感じが実に強い。その点で先生のおっしゃることに私同感でございますけれども、具体的に進んで参ります水産資本の形に対して、当面これはことしは流通過程に重点を置くにしましても、あるいは規模の拡大に重点を置くにしましても、もっと何かねらいをつけたところに重点的にしぼって、かなり巨額の予算を注ぎ込む必要があったんじゃないかと思いますが、この点はいかがでございましょう。
  73. 大島清

    ○大島公述人 ただいまの御質問、わかります。それは、つまり、大洋漁業とか林兼ですね、そういうところで最近は陸に上がってきまして、農民から豚や鶏を買い集めて大いにしこたまもうけようという、こういうことでありまして、これはもうみんなどなたも御存じでありますが、実際に、最近この一、二年の間の農業界の大きな動きとしては、そういう大資本、大洋漁業あるいは自動車会社とか輸入貿易商をやっておりますような伊藤忠とか、そういうところの資本が農村に入って参りまして、原料の買い集めをしているわけであります。それは、私も知っておりますけれども、全国各地にその例が見られるのであります。その場合に、大部分の農民は、そういう水産会社——加工業者でありますが、加工業者が農民にえさを分ける、あるいは設備の資金を貸し付ける、そして最初のうちはなかなかうまい手を使って農民から原料を集めております。規格品が必要でありますから、たくさんに統一規格品を集めるのでありますが、そういうことによって非常に農産物が大いに売れる、選択的拡大だというふうに農民が考えているわけでありますけれども、さっきから私も申しますように、そういう業者と農民との間の取引関係に対しては、現在の農政というものが、直接にはもちろん何も手は打てない、打っておらないわけであります。協同組合も、これに対して中央の方で十分な統制をとって、契約条件を整えたり調整したりすればいいのでありますが、そこまで手が及ばない、非常に弱体ぶりを示しておるのでありまして、従って、どうしてもこの流通関係を規制する、弱い農民が原料としての農産物を買いたたかれるのを防ぐようなやり方をとらなければいけない。その点は私は強く感じます。その場合に、畜産物価格安定法というのが昨年できましたけれども、これは、畜産事業団ができて、ことしは十億円の予算が盛られたようでありますが、どうもこの場合に私の不満は、畜産物の中で一番重要な牛乳の価格なんかにいたしましても、これは乳製品の価格を安定させる、需給安定のための措置をとります、畜産事業団が乳製品の価格が下がると買い上げる、上がるとこれを払い下げて価格をうまく安定させるということを言っておりますけれども、肝心の、農民が作っている牛乳についての直接的なそういう調整の手段はとられない。それに対するいろいろな政府の答弁を聞いておりますと、どうも牛乳というのは腐りやすいとか、集めにくいとか、直接のそういう統制はできないというふうに言っておりますけれども、現在イギリスでも、アメリカのある州でも、——全部ではありません。カルフォルニアというような州でも、牛乳については直接に政府が買い集める、特殊団体に買い集めさせてその価格を支持するとか、あるいは価格が非常に下落した場合には調整金、不足金を支払うというような形で、酪農を育てております。これはドイツでもEECの諸国でも、そういうことをやっておるのでありまして、そういう点についての農産物の流通面、そして価格ないし所得保障という面についての施策が、今度の畜産物価格安定法に基づく政府の諸施策、特に予算の面においては非常に不十分ではなかろうか。そういう点は、私の最初の公述の中にも申し述べた通りであります。その点については、ただ畜産物だけではなくて、ほかの、これから特に伸ばそうとする農産物については十分にやってもらいたい。これもたしか衆議院の附帯決議でありますが、あの価格法案が通るときに、生乳、つまり農民が販売する牛乳についても将来は考えるということが、希望としてつけられていたと思います。また、農家の再生産、酪農家の再生産を保障するような形の価格をきめてもらいたいという附帯決議もついておったと思います。ところが、今度の豚肉の問題で、どうもそれがあやしい。そういう点、ほんとうに附帯決議を尊重して施策をやっているようには思えないという印象が私にはぬぐい切れないのであります。大体そんなところでございますが……。
  74. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 もう一問だけお伺いしたいのですが、今年の予算が、農林予算で一一%くらいの増加を示しています。これは、他の物価の値上がり、特にこの農村労働力の高騰ですけれども、こういうものに比べますと、比較的にスライドされただけの話であって、ちっとも増大という感じがしない。依然として停滞している。しかも、その内容に至っては、これまでの農政を踏襲して一割広げただけの話ですね。農業基本法を出したかいがちっともないような、新味のない予算に思える。これはやはり新しい味を出そうと思うと、かなり大きな予算を組まないとこの構造改革なんかできないと思いますので、この予算を組むにあたりましても、もし本気で構造改革をやり、本気で農民所得の倍増を考えるならば、思い切って大きな予算が組まれない限りは不可能と思いますが、その点はいかがでございますか、この一点だけをお伺いしておきます。
  75. 大島清

    ○大島公述人 ただいまのお話でありますが、予算の現在のような規模は、物価が上がっただけそれだけスライドしたにすぎないからというお話であります。そう言えば確かにそうであります。大体、農業予算というものは二十九年以来減っておりますから、それがとにかくことしふえたという点について、私はそこに一つの新味を認めようというふうに考えます。社会党の方はあまり喜ばぬかもしれませんけれども、私はそういうように考えております。ただしかし、そうは言いながら、その内容を見ますと、金看板の構造改善という点については、非常にこれはお粗末な、どうもお話にならない内容ではないかというふうに私は考えるのでありまして、まあこれでどうですか。
  76. 淡谷悠藏

    ○淡谷委員 終わります。
  77. 山村新治郎

    山村委員長 松浦周太郎君。——時間がございませんので、よろしくお願いいたします。
  78. 松浦周太郎

    ○松浦(周)委員 予算審議にあたりまして、学界の新進の方の国会外の御批判は、ほんとうに感謝します。特に御指摘になりました諸点は、非常にわれわれの参考になりました次第であります。重ねてお礼を申し上げます。  しかしながら、農業基本法は、御存じのように昨年仕上がっただけであります。まだ関連法律は、重要な農地の問題、あるいは信託する組合の制度を直す問題、あるいは共済制度の問題、その他ビート政策につきましては新たに法律を出そうといたしております。その過程において、今年は、御指摘になりましたように経済引き締めなければならぬという年でございますから、十分な財源を考えるわけには参りませんでした。そこで、今年の予算の規模の中におけるできるだけのことをやったのでございます。すべての仕事は、始めた年から理想へ達するようなことはできないと思うのです。漸進的に……(「種をまかなければ芽は出ないよ」と呼ぶ者あり)順次種をまきながらやっていかなければならないと私は思っております。そういう意味において、今年取り上げました項目は、少なくとも前向きの行き方であるということは御了承願えると思うのであります。  そこで、先ほど来いろいろ御議論のございました構造改善の問題でございますが、これに対しまして、まず一点は、個人の金利と団体の金利に差があるのはおかしいじゃないかという御指摘でございますが、これはわれわれもそのときはそう思ったのでありますけれども、団体としては、現在できておるところの法律制度によりまして七分五厘より安く貸すことはできない。この制度を直した上で同じような金利にしたいということが一点であります。もう一点は、今年は五百億でありますから五百億だけでやめるかという問題ではない。われわれの構想は、少なくとも農業の預金というものが、再び農村に還元されて、そうして低金利で使える方向に今後研究していきたい、かように思っておりまして、その農村から出る資金をもって農村の構造改良をやりたい。それがためには、今の九分五厘だとか一割だとかいう金利ではどうにもなりませんから、これを政府財政調整によりましてその金利を補てんしていく、こういうことの頭を出して、こちらの方で種をまかなければいかぬというのでありますが、その種をまいたのであります。この真意は一つぜひ買ってもらいたいと思っております。  その次には、私の考えていることを申し上げて、一点御批判を願いたいと思う。今年のこの予算の中に草地改良九億、これは公共事業費といって、一般農地的に認めたのでありますが、これも頭を出した。この構想についてお尋ねいたしたいことは、民族の食糧生活というものは、だんだんと澱粉質本位が少なくなりまして、脂肪、蛋白の面に多くなる、あるいは果樹、蔬菜の方に多くなるという傾向であると信ずるのであります。従って、日本の農業構造改善を根本的にしようとするならば、現在不毛の地と見られているところの、約三百万町歩ぐらいある草原の開発をする以外に道はないと思う。その草原開発というものも、集団的に五千町歩とか一万町歩とかある東北、北海道というようなところに、オランダが海底干拓をやったような行き方において、政府がすべてのものをこしらえて、農地を作ってやる、牛を買ってやって、そこでかかった金を三十年なり四十年かかって年賦償還していくというような方向で大規模の構造改善をやったらどうかといこうとが、食生活の転換される需給の関係から見てどうお考えになりますかという点が一点であります。  もう一点は、御指摘になりました肥料政策の問題であります。日本の肥料政策は、御存じのように、四一%というものは外国に出さなければなりません。従って、今後この委員会審議される一つの問題は、肥料政策を貿易面に向けていって、他国の肥料と競争していくことのできるような方向にするという方向政府は考えております。それをするために、一方に安くするために他面において農村にその負担がかかってはならないと思いますから、この政策を遂行するために、直接肥料工場に政府援助することは、自由化の問題の上においてもおもしろくない、これをドイツでやっているような肥料購入補助金というようなことにして、農村の方は原価で肥料が使える、また、輸出もこの原価を割らないで輸出することができるような方向を選ぶことが、この際必要ではないか。その補助金のパーセントとかその他のことについては申し上げませんが、その考え方についてはどうだということをお尋ねいたしたいと思います。
  79. 大島清

    ○大島公述人 最初の質問の要点を、済みませんけれども、もう一度ちょっと簡単におっしゃっていただきたいと思います。
  80. 松浦周太郎

    ○松浦(周)委員 最初の質問は、始まったばかりの農業基本法の過渡期において、意図するところの頭を出したということは認められるだろうということです。それで、今後これを積算方式によって理想に達したい、こういう考えで政府のやっていることはお認めになりますかということです。
  81. 大島清

    ○大島公述人 先ほども私申し上げましたように、構造改善ということが、昨年の基本法、それから今度の予算ということで、どこまでその看板通りにこの予算が組まれているかということが、私の最大の関心でありました。そういう点で、政府のやっておられる、たとえば農地法の改正とか、あるいは農協法の一部改正というようなこと、これはまだ実際に国会を通っておりませんので、はたしてそういう点で農地の取得制限が緩和されるのかどうか、また、そういう法律が通りましても、一方地主制度の復活ということを防ぐという、農地改革以来の日本の農政の基調を堅持する限り、そういう形での土地の取得とかあるいは農地の信託ということは、なかなか困難ではなかろうかというふうに考えます。また、今度の予算でも構造改善の種をまいたじゃないかと言いますけれども、種はまいたけれども、それがはたしてはえるかどうかはまだわからないのです。私は、そういう点について、今後の関連法案とかあるいは政府のやり方というものによって、それに水をやり肥料をやるやり方によって、初めてそれが生きるも死ぬもきまるのでありまして、そういう点で現在まだ私の考えを明確に、これで十分だとか、これでいいというふうには申し上げるわけにはいかないと思います。  それから第二の点でありますけれども、現在のような米麦農業のかわりといいますか、それにプラスして、畜産、酪農を取り入れた立体的な農業にしていき、食生活も米麦の澱粉じゃなくて、動物の蛋白に変えていこうというお考えでありますが、これは私その通りだと思うのであります。問題は、ただ、その場合に、もしもそのようにお考えになる政府とか政党がおありになるなら、実際にそれができるように、酪農が伸びるように、たとえば牛乳の生産費を引き下げる、そのためには、乳業会社の牛乳買い入れ価格を考えるとか、肥料、飼料の値段を考えるとか、そういうことによって酪農が伸びるような条件を作らなければいけない、そういう点については、今度の予算はどうも不十分ではなかろうか、こういう意見であります。  第三の肥料の問題、これはいろいろドイツあるいはイギリス、特に日本にはドイツの問題が一番参考になるかと思いますけれども、一つは、日本の化学産業の規模、スケールというものと、ヨーロッパのイギリスやイタリー、あるいはドイツの化学産業の規模が違いまして、大体日本は十分の一程度の小さい規模であります。日本では大きな会社でありますが、非常にそういう点で、このコンビナートとしてはまだ小さい産業であります。そして、日本の肥料工業というものは、大体国内の農民消費を目当てにしてきたのでありまして、それが今度はいろいろな形で東南アジアに肥料を輸出するとか、生産力が高まったから、国内の消費市場だけでは狭過ぎて、外国に向かってダンピングをしなければいかぬというふうになっているのが現状であります。この場合に、たとえば政府が補助金を出して、農民には肥料買い上げの補助金を出して、ある程度安く売る、あるいは外国の輸出肥料についても輸出補助金を出した方がいいのかということになりますと、どうでしょうか、私は、それは過渡的な措置としては、何らかそういう肥料工業に対する手が打たれると思いますけれども、根本的に言いますと、やはり日本の化学工業が、現在もうおそらくこれ以上肥料の消費をふやすことは困難だと思います。そうしますと、輸出ということに——現在四0%ぐらいしかありませんが、これが五0%あるいはそれ以上ということになると思いますけれども、何らかの形で生産性を高めてコストを低める、農民がそれを手に入れても農業が成り立つような形にしていかなければならぬ、これは目標は大体はっきりしている。そのやり方については、それは政治家のいろいろな考えによって決定する以外にはなかろうかというふうに私思います。その点の具体的な詳細な研究はしておりませんから、私には答えることができないのは残念でございます。
  82. 山村新治郎

  83. 石田宥全

    石田(宥)委員 時間がないので、私二問だけお伺いしたいと思います。  昨年、農業基本法の審議にあたりまして、政府は、私どもに参考資料として、構造改善の中の具体的な考え方として、二町五反程度、粗収入百万円程度の農家を十年間に百万戸作る、こういう資料を提出したのであります。私どもは、一面において、農地の移動がきわめて困難であって、二町五反の農家百万戸を作るには、少なくとも百五十万町歩くらいの農地を移動しなければならないが、その移動はおそらく行ないがたいであろうという点が一つ。それからもう一つは、先ほどもお話しに出ましたように、EECがだんだん強化されるということから、国際的に経済がブロック化して参ります。日本の農業もやはり国際性を否定するわけに参りません。今大島公述人も述べられたように、直接どこへどう影響するかということは別といたしまして、間接的には必ずこれは影響をもたらされると考えた場合に、日本だけが二町五反くらいの規模で自立経営可能であるなどということは、おそらくナンセンスじゃないか。たとえばフランスでは、十九ヘクタール以下の農家に対しては政府制度金融はしない、トラクターの購入資金などは貸さない、こういうふうにきめておる。国際的に見るとやはり二十町歩内外のものであるのに、日本だけが二・五ヘクタールで自立農家が可能であるなどということは、どうも受け取りがたい。そのほかの理由もありますけれども、そういう見地からこれを否定して参ったのであります。しかし、一面において政府は行政指導をやりまして、地方に参りますと、府県においてあるいは市町村等が、はなはだしい例を見ますと、一町歩までは切り捨て農家だ、一町五反以上二町歩くらいまでは兼業農家だ、二町歩以上はこれは自立経営農家だというような階層別の資料まで作って、これを示した例がある。現実にこの例があるのです。そういうふうなことから、二町歩以下の農家というものは、戦々きょうきょうとして逃げ出す支度を実はしたわけです。その当時、二町五反程度の農家は、われわれは自立経営が可能なんだというふうに安心しておった。ところが、一年たった昨今になりまして、二町五反も二町七反も作るような農家がとても採算が合わない、われわれも何とか逃げ出さなければならないというような不安、動揺にかられておるわけです。今大島参考人からお話がありましたように、構造改善の基本的な大きな問題の一つなのでありますが、私どもは、今日なお二町五反で自立経営が可能であるなどという考え方は、全くこれは今日の時代においてはナンセンスだと考える。政府は行政指導もやり、基本法審議にあたっては、これを具体的な数字を持ち出しておるのでありまするから、これに対してはやはり数字の再検討をし、具体的な構造改善についての自立経営農家というものの考え方を政府は示さないと、農民は非常な不安に襲われておるのであります。これに対して大島公述人の率直な御意見を承りたいと思う。
  84. 大島清

    ○大島公述人 ただいまの御質問にお答えいたします。  第一点は、いわゆる自立農家を作るためには、百五十万町歩前後の土地の移動が必要である、そういうことを十カ年でやるには相当な金がかかる、一体自立農家を育成するということ自体が、初めからナンセンスなことではなかろうかというふうな意見でありまして、それについてどう思うかということであります。これはもうすでに、私、基本法の公聴会において、実際に百五十万町歩の土地移動のためには、一反歩二十万円とかりに価格を押えましても、大体三兆円くらいの土地資金が必要である、それを十年間にとにかく全部と言いませんけれども、ある程度の金を貸さない限り政府の計画はうまくいかないけれども、どうかということを申し上げた例もあります。私は、確かに、そういう土地購入資金、これは土地銀行を作ってもいいでありましょうし、あるいは何らかの制度金融ができてもいいのでありますけれども、土地購入資金というものを考えていかなければ、政府の言っている看板通りにはいかないのじゃないか。これはナンセンスかどうかということは、私も少し言葉を慎みますから申しませんけれども、とにかく非常に困難な問題であるというふうに私は答えましょう。  それから第二の点でありますけれども、その二町五反程度のことでは自立経営ということは不可能ではないか、外国の農業は二十町歩とか三十町歩の経営規模ではないか、こういうことでありますが、確かに、直接に外国の農家と日本の農家を比べますと、まるで横綱と子供が相撲を取るようなものでありまして、とうていこれでは直接に市場で競争するわけに参りません。従って、どうしてもたとえばEECやあるいはアメリカの農産物の輸入とか、いろいろの問題が出て参りまして、これから日本の農業はますます困難に立たされるわけであります。しかし、今直ちにそれでは経営の規模を拡大したところで、二町五反程度ではナンセンスじゃないかといって、これをほうっておくわけにはいかない。現実問題としては、できるだけその家族の生活水準を高めるような農業構造にしていかなければいけない。そういう点は、非常に私考えが、何といいますか、漸進主義といいますか、生ぬるいのでありますけれども、次第に農家の経営規模を広めるような形、それを一戸当たりあるいは三町歩にするか、あるいは五町歩にするか、あるいは二町歩の農家十戸が共同して二十町歩にするかという選択の問題もありますけれども、何らかの形で経営規模を広めていかなければならぬ。その場合に二町五反がはたして自立経営として適当かどうかということは、そのときどきの外国並びに日本農業の生産力の程度ということによってきまってくるのでありまして、確かに二町五反でも、現在の農家は十分な平均標準的な国民生活はできません。しかし、一町五反に比べればいいでありましょう。相対的にはいいでありましょう。従って、われわれ現実的な考え方からしますと、できるだけいい生活のできる農家がたくさんふえるような形をとっていく。共同経営あるいは個別経営、いろいろな方法がありましょう。また、地域によっていろいろな経営の組織がありましょうけれどもそういう形で日本の農業を引き上げていく以外には手がないのではなかろうか。二町五反だから十分だ、これで自立できるのだというような考え方は、私は絶対しておりません。
  85. 石田宥全

    石田(宥)委員 もう一問だけお伺いしますが、農業基本法で、第二条第一項の「選択的拡大」ということが規定されております。そうして、選択的拡大に基づいて成長財としからざるものとを区別しておる。畜産については、成長財として大いに奨励すべきものであるという態度が明確である。私もその方向は間違っていないと思うのでありますが、先ほど松浦委員からも質問がございましたように、日本の飼料というものが大幅に外国に依存しなければならぬという実情であります。現在もかなり飼料の状況がよくないのでありますが、港に行って見ますと、半月も三週間も船をつないでおかなければならないほど、港の施設が不十分である輸送の施設が不十分であるというような点が、大きな隘路になっておる。ところが、これは推定でありますけれども、このままで畜産が伸びて参りますと、おそらく十年後には輸入飼料だけで六百万トンをこえるのではないかと推定されるのでありますが、そういうことになりますと、飼料を外国に依存するところの畜産というものは、非常に不安定なものになるのではないか。  そこで、今年の予算には、先ほど御指摘がありましたように、草地の造成とか改良とかの予算もついております。しかし、これもけっこうでありますけれども、今日政府が買い上げをしてあるいわゆる国有未開発地が約五十万町歩ありますし、さらに開墾、開発可能の田畑または採草放牧地として適地であると判定される山林原野が五巨万町歩をこえておるということが、農林省で発表されておるわけです。ところが、これも先ほどちょっとお触れになりましたが、政府は今回旧地主に対する生業資金の融通をするということになった。ところが、旧地主の要求は、実はこれは融資措置ではなくて、補償を要求しておるのであります。その補償が実現するかどうかは別の問題でありますが、少なくとも融資措置が行なおれるということによって、旧地主の政治的な勢力と申しますか、これは非常なものになっておることは間違いがございません。そうすると、旧地主勢力が政治的に結集して参りますと、山林原野の開放というようなことは全く不可能に陥るのではないか、旧地主勢力の政治勢力が強化するということのために、小作地の取り上げの実力行使が行なわれましたり、あるいは小作料の非常な値上がりを招いたり、いろいろな連鎖反応を生んでおるのでありますが、もしここでさらに融資措置をやったり、補償をやるというようなことになって、旧地主の勢力が強化された場合に、はたして五百数十万町歩に及ぶ未開発地を採草放牧地として飼料の自給度を高めるような措置の前提を作ることができるかどうか、私は全く不可能な状態になるのではないかと考える。そういたしますと、畜産が将来成長財であるという些末的なその考え方に私も賛成はいたしますけれども、そういうところに、飼料の日給度を高め得ないような国内の畜産というものがいかに危険なものであるかということを憂慮せざるを得ないのでありますが、それらの関係についての参考人の意見を承りたい。
  86. 山村新治郎

    山村委員長 石田君に申し上げますが、答弁を含めて五分以内でありますので、どうぞよろしくお願いいたします。大鳥さんどうぞ。
  87. 大島清

    ○大島公述人 私は、経営規模の拡大とか構造改善については、確かに未墾地特に国有未墾地を安い値段で払い下げるということが非常に大事だと思います。また国有でない私有の営農に転地できる山林も、できれば農地としてこれを利用するようにした方がいいと思います。だからほんとうは、今度の基本法の関連法案に国有未墾地の開放についての規定でも出るのじゃなかろうかと期待しておったのでありますが、まだそのことは知りません。できるだけそれは政府の方から出してもらうように、私は希望します。  それから今の問題とからんで、旧地主に対する国民金融公庫の二十億の融資ということが、そういう未墾地の開放ということに支障になるのではなかろうかという意見、それに対する御質問でありますが、私は、旧地主がそういうことによって大いに気勢を上げ、結束を固めておるということも理解できます、しかしながら、どの程度にそれが実際の政治力になって政府に働きかけて、そうして畜産の選択的拡大という農政に響いてくるかということについての判断は、まだついておりません、もしもそういうことがあれば、非常にこれは困ることだとは思います  それからついででありますから申し上げておきますと、旧地主だから特にそういう形で補償するとか融資をするというのじゃなく、一般国民の一人として、やはり生活の困窮の方、困っている方には、社会保障の一環として、公的扶助あるいはもろもろの社会保障によってこの問題を解決していった方が民主政治の常道ではなかろうかというふうに、ふだん考えております。どうですか、これでようございますか。
  88. 山村新治郎

    山村委員長 上林山君。
  89. 上林山榮吉

    ○上林山委員 少しばかり詳しくお尋ねいたしたかったのですが、時間がないそうで、一、二点だけ要点をお尋ねしておきたいと思います。  大島公述人の最初の公述を聞いておりまして、質問の点が非常に多かったわけですけれども、だんだん質疑応答をかわしていく間にその疑点が少なくなりまして、われわれもあなたの公述が非常に穏健にして適切であるかのごとき印象を受けて参りました。  その中で、ことしの農林予算は二千四百五十九億円だが、これは確かに三一%当初予算に比べてふえた、補正後に比べて一一%ふえた、しかしながら内容を検討すると予算はふえたけれども批判すべきものがある、こう言っていろいろ御説明になったのでありますが、そこで倉成君が非常に適切な質問をされましたけれども、少し私は角度を変えてお尋ねいたしておきたいことは、食管会計の問題です。食管会計は、もう御承知通り、一面これほど農民の所得を保障している制度はなかろうと考え、二面、消費者に向かっては、これほどまた確実な社会保障をここに確保しておるものはないかのごとくにわれわれは見るのです。そこでいろいろな批判があるけれども、ここ当分は、検討を重ねながらも、この予算上の矛盾、高く買って安く売る、予算編成上こんな矛盾はないのですよ。だがこの矛盾をしばらく一つ調和をとっていこう、こうしておるのですが、これに対して何年くらいこれを続けていったらいいと思いますか、あるいは永久に続けるべきものである、こういう御見解であるかどうか。私は、この問題を十年も二一年もほうっておくべきものではない、これにかわる何らかの、出席者、消費者双方に何らかの形において、やがて政治家はいかなる批判を受けても適正な措置を考えていかなければならないのじゃないか、こういうふうに考えるのですが、その意味において七百十億円という赤字は、農林予算に占めるウエートとしては非常に大きい、これを単に食管の赤字だと形式論的に片づけられない非常な大きな要素を含んでいる、こういうふうに考えるのでありますが、これをどうお考えになりますか、これが一点。  第二点は、構造改革の問題で議論の焦点が、適正規模農家というところにだんだん落ちついてきておるようでございますが、あなたは漸進的には二町五反もやむを得ない、あるいは場合によっては、数名が一緒になって二十町歩、三十町歩の共同経営もまた一つの方法である、こういうふうにお述べになっておるのですが、ここにはやむを得ない日本農業の一つの矛盾を含んでおるわけではありますけれども、これに対して、あなたのお考えになっておる適正規模農家というものがもしあれば、これは農林大臣でないから、農林政策は実際にやるとなると非常にむずかしいと思うという、まことに正直な見解をあなたは述べられてはおりますけれども、これが議論の焦点でありますから、あなたの考えられる適正規模農家というものは、日本の農業近代化と並行して考えて、どういうデッサンを描いておられるか、これが第二点。  第三点は、先ほど述べられました兼業農家のごときもの、こういう種類のものは離農を促進しなければならぬと、非常にはっきり言われておったのでありますが、この離農促進のパーセントをどの程度で抑えたならば、いわゆる適正規模農家あるいは近代的、立体的な農業経営というものが成り立つというふうにごらんになっているか。離農を促進しなければならぬ、こうおっしゃったのだが、その離農のパーセント、これがいろいろ議論になっておりますが、一つ率直にこの京も参考に聞かせてほしい点であります。私はここで議論を展開しようとは思わない。その意味において簡単にお尋ねした次第であります。
  90. 大島清

    ○大島公述人 だいぶ私も疲れましたから、簡単にやります。  質問の第一点でありますが、あと何年この食管制度を続けていくかという、これはなかなかむずかしいことで、これは社会党と自民党の政治勢力の問題もありましょうし、なかなか理論でこうだというふうにいかない非常に複雑な問題があります。ただ、いかにも現在の食管法によって農民から米を買い上げる値段が高い、非常にこれが農民保護になっておるというふうに考えている方が多いようでありますけれども、農民の方から見ますと、これは別に高くなっているのじゃないのですね。つまり昨年度の物価に比べて今年度の米価をこの程度までつり上げるというだけのことでありまして、要するに、もともと低い農民の生活を毎年毎年続けていくだけのことでありまして、それが残念なことに、日本の農業の生産力が低いために、ほかの諸物価はむしろ下げてもいいのに上がっていく。農民の方は生産費が上がるからやむを得ずに上げざるを得ない。これは工業の生産品と農産物というものの根本的な違いでありまして、そこをわれわれはよく農民のことを考えてやらなければいかぬというふうに思います。従って、いつになったらこれを解くことが妥当かどうかということは、私はやはりこれを解いても、農民の生活がそのことによって打撃を受けないようになったころ、そのころが一つの大きな目安でありまして、それが来年になるか、あるいは十年先になるかということになりますと、いろいろこれは経済情勢、政治情勢というものによって具体的に判断していかなければならぬというふうに思います。少なくとも私は来年というふうにはもちろん考えない。おそらくあなたもそういう考えだと思いますから安心しておりますけれども、そういう点については、私は根本的には農民の経済生活を基盤にして、その問題を判断してもらいたいということが一つ。  それからもう一つは、自立経営の規模はどの程度を理想と考えるか、こういう御質問であります。それは一町よりは二町五反の方がいいということであります。私もそういう現実的な農業問題の解決としては——解決になるかどうか知りませんけれども、改善策としてはその程度がいいんじゃないかと思います。しかし、根本から言いますと、確かに二町歩とか三町歩の農家で安定した農業がやれるというふうには私は考えておりません。じゃどうしたらいいか。結局これは、現在の家族制度というものに立つ農業をやっていく以上は、何らかの形で部分的——あるいは八0%、場合によっては一00%の共同経営ということが考え得るのではなかろうか。ただ、非常に私が心配しますことは、現在のような資本主義社会で、しかも政府の手厚い保護というものが期待できないような条件のもとで共同経営に踏み切るということが、はたして農民のために幸福になるかどうかという点についての疑問はあります。そういう点で、外国農業と十分対抗できるようにするためには——農業で資本家的な大経営をするということは、おそらく不可能でありますから、私は問題にいたしません。そうなりますと、日本の伝統に立った小農経営というものを漸進的に大規模な農業にするには、程度の差はありますけれども、何らかの形で共同に持っていった方がよかろう、こういうふうに私は考えております。  それから第三の離農促進、現在の離農というのは、要するに農民として生活しておるよりも工場あるいは会社にサラリーマンあるいは労働者として働いた方がいいから、農民はおそらくいい生活を求めてどんどん都会に走っているのでありまして、別に政府が離農促進政策をしたわけでもないわけです。しかしながら、そういう形で若い労働力が農村からどんどんなくなる、農村は非常に荒れていく、しかも一方において農政に力を入れて農業をよくしなければいかぬという要請があるのでありまして、農業自体を全然なくするというわけにはいきません、従って、私が申し上げますのは、離農するならば、その離農したい農家が一家をあげて農村から出られるように、もう少し、たとえば最低賃金制について考慮するとか、あるいは雇用の拡大について完全雇用の政策をとるとか、あるいは失業した場合の手当、失業保険手当を拡充するとか、そういう形で社会保障を手厚くしてやることによって、三反歩や五反歩の土地を残して不安な気持を持って労働者になるよりも、労働者として自分の家族が十分養えるような雇用条件を作る、これが日本の政治家の一番大きな任務ではなかろうか、こういうふうに考えたので、私は先ほど離農のことを申し上げたのでありまして、現在の条件のままで離農を促進した方がいいのだということは、ちっとも私考えておらないわけであります。そういう点につきまして、実は今度の新しい予算では、項目がありまして、離農促進については、たとえば職業教育をするとかなんとか書いてありますけれども、どうもそういう点は、私は本気になって離農のできるような条件を作る、そういう政策としては貧弱ではなかろうかというふうに考えております。
  91. 上林山榮吉

    ○上林山委員 最初の食管の七百十億円は予算編成上非常に重大な問題であるという点、現段階においては、先ほど申し上げたような理由でなかなか簡単にはいかないという点、ことに私は農民出身でございますから、農民の所得を補償しなければならぬ、これはあなたのおっしゃる通り私は考えているのです。ですが、これを進めていってどの段階になったならばということは、あなたがお考えになってもなかなかむずかしいでしょう。だから、これを単に形式論的に、食管の赤字があるからいわゆる農業予算そのものがだめじゃないかという飛躍した議論は、やはり慎重に考えるべきではないか。  それから、私は項目的にあげましたけれども、これはもう議論をしません。大事な点であるから項目だけあげた適正規模の問題、それから、離農促進のパーセント、これが聞きたいのです。これはいろいろ議論になっている点でありますので、どれくらいは離農してもよろしい——あなたのおっしゃるように受け入れ態勢がどうのこうのという議論もありますけれども、こういう点はもう一皮むいて聞かしていただきたかったのであります。以上。
  92. 山村新治郎

    山村委員長 川俣清音君。
  93. 川俣清音

    ○川俣委員 ただ一点だけお尋ねしたいと思います。  農業基本法で大上段にかまえた経営規模の拡大に対して、その裏づけとなる予算がないという公述人の公述については、私はその通りと理解いたします、実際、上段にかまえながら、足元もふらふらしておるし、形だけであって何らの裏づけがないということは、全く農民の指摘するところでありまして、公述人と農民の考えが一致している点だと思うのです。それはそれでよろしいと思うのですが、その規模の基本になります農地の問題について意見を伺いたいと思うのです。  農地、すなわち土地でございますが、との土地あるいは農地というものを商品と見たらばよいのか生産基盤として見たらばよいのか、あるいは資産、財産というふうに見たらばよいのかいろいろ問題が出てきたのであります。というのは、農地法の改正で政府は信託制度を考えるということになった。信託制度というものは資本主義の最高の経済的なやり方でありまして、これをはたしておくれた農地に適用できるものかどうか。農地というものは非常に流通性の欠けているものであります。農業の本質でございます。それを資本主義、自由経済の高度な信託制度に持っていくことができるのかどうか。そこで、一体農地というもの、土地というものは商品として見たらばよろしいのか、あるいは生産基盤として見たらばよろしいのか、あるいは先ほど申し上げましたように財産、資産と見るべきものか、これによって信託制度のあり方が変わってくるでありましょうし、適用することが困難になってくるではないかと思いまして、私どもこの点では非常に疑問を持っておるので、意見を申し上げるのではなくて、これについてはお説をお伺いいたしたいという考え方であります。私は意見はないのですが、御意見を拝聴したいのです。
  94. 大島清

    ○大島公述人 農地をどう見るかということでありますが、農地は、現に生産をしている農家にとっては非常に重要な、命の次に大事な生産手段、生産基盤とおっしゃったのですけれども、非常に重要なもので、これが農業の基本であります。しかし、現在のような商品経済の社会では、ある条件のもとではこれを売ることができる。従って、商品性も持っております。また、価格も別に統制されておりませんから、これは売買もできます。しかし、農地法の規制を受けるということは当然であります。そういう点で、私は、農地はいろいろな性格を持っていると思います。また同時に、農家にとっては財産であります。そういう点について、私は、農地は一筋なわではいかないいろいろな側面を持ったものだと思います。ただ、問題は、そういう農地を信託制度にすることがはたして適当かどうかということであります。たとえば一定の期間を限って、とにかく五年間なら五年間だけ都会に行っても、農地は先祖代々の遺産であるから手離したくない、まあ貸してもいいという人が六百万の農家の中には少数はおるでしょう。しかしながら、はたして現在の統制小作料——大体最高一反歩千四百円何がしでありますけれども、これだけの金額でもって農地を手離すような農家が一体はたしているのだろうかどうかという点に、まず第一の現実的な疑問を感じております。しかも、これをきっかけにして小作料をつり上げるというふうなことはやってはいけないことだと私は思います。そういうことをいたしますと、次第にいわゆる農地改革によって私たちの先輩が行なった偉大な改革というものが、なしくずしにだめになっていきますから、そういうことはいけない。そういたしますと、統制小作料は堅持して、農地信託制度をやるということが、はたしてどこまで現実的な、政府の考えておるような土地の流動性を高めて、経営規模を拡大して、構造改善に役立つかということになりますと、私はどうもその点については疑問を感じております。農地法の改正につきましても、現在はそれほどそのことによって制限はないのでありますから、これについても経済的な効果というものは大してないのじゃないかというふうに私は考えております。
  95. 山村新治郎

    山村委員長 八田貞義君。
  96. 八田貞義

    ○八田委員 時間がないようですから、一問だけお尋ねさせていただきます。  大島先生から今度の経営規模拡大、構造改善、並びに農林予算等の関係について公述がございました。それに対して質問が集中しておったのでありますが、私はまず農村における農業就業人口の確保につきまして、先生の御意見を伺いたいのであります。ただ、農業就業人口の確保につきまして、今までのような農村人口を維持するとか、あるいは食糧増産のための要員を確保する、こういった観点からは違った面で見ていかなければならぬと思うのであります。ところで、先ほどもお話がありましたように、農業就業人口が昭和三十年、あるいは三十三年ころの農業就業人口を基本にしまして、大体年率二・九%くらいずつ減っていくだろう、そうすると、四十五年になると千百万かあるいは一千万くらいになるだろう、こういうことが基本問題調査会で言われておったのであります。ところで、最近の現象を見ますと、地すべり現象でどんどん減ってきておる、非常な憂慮すべき状態があるわけです。青年がどんどん都会に出る、こういった無計画に出ていくこと、これに対してはわれわれは考えなければなりませんが、ただこういうふうにどんどん農業から都会に移っていくという傾向、これは認めなければならぬわけです。その場合に、農村から都会に人口が移動していく、これをスムーズに円滑に動くように施策しなければならぬわけです。一方において農業就業人口というものを確保しなければならぬ、将来の農業をになう青年というものを確保しなければならぬ、こういう前提があるわけであります。そこで、先生にお伺いしたいのですが、将来の農業をになうべき青年を毎年どれくらい確保しなければならぬかという問題です。もちろん、こういったたとえば十万とか二十万とかいう青年を確保しなければならぬということになれば、このための構造改善を進めていかなければならぬ、こういうふうになって参りますが、簡単に自分の提案を申し上げまして、先生の御意見をお聞かせ願いたい。というのは、いろいろ農協法とか農地法の改正をやって、政府は農地の拡大を考えておるわけでありますが、われわれ農民も考えていかなければならぬと思うのであります。具体的にどういうことを考えたらいいかと申しますと、現在の農業を経営しておられる人、将来経営者になるべき人、言うならば、父と子供の間に賃金契約を結んでやっていこう、こういう考え方なんですが、父と子供の間に賃金契約を結ぶ、こういう構想に対しまして、いかがにお考えでありますか、お聞かせ願いたいのであります。私としては、もちろん賃金水準等も問題になると思うのであります。賃金水準は今の農産物価格支持政策において考えておられる自家労賃の所得価格以下であってはならぬ、あるいは工業における最低賃金以下であってはいかぬ、こういったふうな賃金水準をきめる、それからまた、生活費を幾ら控除していただくという問題については検討しなければなりませんが、こういった賃金契約を結ぶということがいいか悪いか、これはこれから農業就業人口を確保していかなければならぬというときには、やはり考えていかなければならぬ問題だと思うのです。特に、家族賃金労働者に対して、社会保障的なあるいは労働保護的な施策を講じなければならぬということを先生も申されていたのですが、そういった観点から考えると、将来経営者となるべき子供と、現在経営をやっておられる父との間に、賃金契約を結ぶ、こういった考え方はどうか。先生の御見解を一つお聞かせ願いたい。
  97. 大島清

    ○大島公述人 ただいまの御質問の方の、農家の経営主とその家族の従事者との間に賃金労働契約を結んだらどうか、大へんこれは進歩的な御意見であります。何党の方か存じませんけれども、私は実に進歩的な刮目すべき発言であると思います。私それに全く賛成であります。ただ、それはもうすでに部分的には行なわれておるのであります。たとえば農家自身が農協に一定の貯金をしておいて、毎月月給をもらってくる。その場合に家族にもある程度の額を与えるというようなことであります。共同経営というのは、大体その農家の従事者と、その経営主との間の賃金労働契約をやっておるのであります。それをただ個別農家について、おやじとむすことの間に一定の契約関係を結んだらどうか。これは、一方において実際にそれをやろうとしますと、日本の家族制度を破壊するとか、いろいろな反対論が出るのでありますけれども、もしそれがやれれば、私は非常に画期的な進歩になるだろうと思います。ただその場合、現在のような農家の所得では、自家労働の評価をして賃金を払うということはとうていできない。大部分の農家は、賃金を払っただけでつぶれてしまうおそれがありますから、これは農業について政府のよほどの手厚い助成、保護の政策を加えてからでないとできないというふうに考えるわけであります。
  98. 八田貞義

    ○八田委員 それについてお願いしたいのでありますが、先生今お話になったように、現在賃金契約を結びましても支払える農家はなかなかないだろう、ないではないが、私はまだ数は少ないと思う。しかしこういった契約を結ぶことによって、経営主の遺産から優先的に支払うようにすれば、私はこれを実行できる農家は非常に多いと思う。これは一つの考え方なんですが、現在賃金契約を結んでも、払える農家は絶無ではないけれども少ないだろう。しかし経営主の遺産から優先的に支払うようにやっていくならば、私は相当の農家がこれに含まれると思う。先生の今の同感だというお話をお聞きしまして、私は奨励すべき施策ではないかと考えております。どうぞよろしく。
  99. 山村新治郎

    山村委員長 それではこれにて大島公述人に対する質疑は終わりました。  大島公述人には御多用中のところ、長時間にわたり貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。(拍手)  どうぞお引き取りになってけっこうであります。     —————————————
  100. 山村新治郎

    山村委員長 次に長洲一二公述人並びに野淵三治公述人がおいでになっておりますが、時間の関係がありますので、お二人の公述を先にしていただきまして、お二人に対する質疑はまとめていたしたいと思いますから御了承いただきます。  それでは長洲公述人
  101. 長洲一二

    ○長洲公述人 長洲でございます。私は経済一般について話をしろというふうに伺っております。三十分で日本経済一般について、予算との関係でお話を申し上げることは大へんむずかしいのでございますが、ごくおもな点、感じました点だけを一、二点拾って申し上げたいと思います。  まず日本経済全体の動きに対する政府財政政策のいわば基本的な方向でございますけれども、御承知のように、日本経済は最近非常な勢いで高度成長を遂げております。しかし、この高度成長を遂げております実際のにない手は、言うまでもなく民間企業でございます。民間産業でございます。そういう民間企業中心になりまして、どんどん高度成長を遂げている。そういう高度成長経済と申しますのは、現在の経済体制のもとでは、かなり激しい優勝劣敗の過程、あるいは栄枯盛衰、非常に激しい浮沈交代の過程を含んでいるような構造変化をどうしても含むと思います。従いまして、そこからいや応なしにいろいろなアンバランスやらいろいろな不安定な要素やらが、どうしても出てこざるを得ない。政府財政金融政策というようなものは、そういう民間企業が生み出していく高度成長の中でいや応なしに出てくるアンバランスやら不安定といったものを調整していくことにぜひ重点を置いて考えていただきたいように私は思います。政府の方が、民間の激しい勢いでがむしゃらに進んで参ります高度成長政策の先頭を切って旗を振るような財政金融政策をとりますと、実際には、高度成長に伴って生ずるアンバランスやら不安定やらというものがますます倍加されて現われてくるようになる。この点は、財政金融政策というものが、むしろ民間の行き過ぎを押え、不足を補うといったような補正機能を重点に考えていただきたいと思います。誘導機能というような名目で、政府民間動きの先頭に立って旗を振ってしまうといったような方向に走りがちではないだろうかという感じを、私、日ごろ持っております。そういう意味で、政府は、民間企業動きのむしろ逆をいくような勇気と英知を発揮していただきたいように思います。  これが一般的な私の考え方でございますが、そういう高度成長経済の中でいろいろな問題が生まれて参りましたことは、ここ半年ほどの間のいろいろな経済界のできごとで皆様方十分御存じの通りだと思います。それを一々数え上げますればきりがないわけでございますけれども、私は、そういう角度から、高度成長経済が生み出したさまざまなアンバランスというものの調整を政府が重点的にやっていくという場合に考えられます点は、大きく言って三つの点があるのではないかと思います。  一つは、何と申しましても、あまりにも激しい勢いで行き過ぎております設備投資でございます。言いかえますならば、これは日本の貨幣資本と申しますか、国民的な資金の運用の仕方、資金の使い方というものをもう少し効率的に安定のとれた形で上手に使っていくような、そういう誘導措置を、ぜひ財政金融政策の中で考えていくべきではないだろうか、そういう点で、もう少し投資合理化でございます。個個の投資合理化投資でございますけれども、国民経済全体として見ますと、合理化投資という名前で、全体としての投資かなり大きな不合理化効果を生んでいるように思います。そういう合理化投資全体の国民経済的な合理的な調整といったような問題に、政府財政金融政策が、あるいは日本銀行との関係もあると思いますし、あるいは財政投融資の関係もあろうかと思いますけれども、そういう点でもう少し調整機能を発揮していただきたいという点がまず第一点でございます。  それからもう一つの点は、御承知国際収支の問題に関連いたしまして、日本貿易構造を一体これからどういうふうに考えていくのかという問題でございます。この点は自由化の問題もございますし、あるいはアジア市場を一体どう考えるのか、あるいはすぐお隣に人口七億の広大な市場を持っている中国市場との関係を一体どう考えていくのか、こういう点で日本の外交政策の問題とも関連するかと思いますけれども、現在の高度成長が生み出しましたいろいろな問題を解決して参りますためには、どうしても貿易構造の問題をここで木枠的に政府及び議会の方々が検討していただきたいように私は思います。  以上二つの点、これは時間もございませんので、本日はあまりこまかいことは申し上げないつもりでございます。  高度成長経済の中で生み出されました大きな問題、アンバランスとして、私三番目に、特にきょう取り出して申し上げたいと思いますのは、一口に申しますと、生産と消費のアンバランスと申しますか、別な言葉で申しますと、国民経済の中で個人消費の比率が異常に下がってきたという最近の日本経済の実態でございます。きょうはむしろこの点を中心にしてお話し申し上げたいと思っております。  最近の高度成長経済、岩戸景気以来の大へんな好景気の中で、確かに国民の消費生活水準は上がって参りましたけれども、しかし、総生産の伸びに比較いたしますと、国民消費水準は、相対的な割合としましては、目立って低下しております。このことを私、企画庁その他で発表しております国民所得統計で一、二計算してみましたので、それをまず最初に申し上げてみたいと思います。  かりに名前を消費率というふうに呼ばさせていただきます。これはどういう数字かと申しますと、国内の総需要、需要の全体、すなわち個人消費と、政府の財貨、サービス購入、政府財政購入、それから三番目には民間の総資本形成、民間投資でございます。それから四番目に輸出、この四つの有効需要の項目を全部合計いたしましたものを総需要と名づけます。その総需要の中で個人消費支出がどれだけの比率を占めるかという数字を、私簡単な計算をしてみました、その結果は次のような事実が現われて参りました。  まず戦前と比較いたしますと、総需要の中で個人消費支出が占める比率は、昭和五年から昭和十一年まで、ちょうど戦争以前と申してよろしいかと思いますが、この時代は大体五割から六割でございます。この七カ年の平均の数字は五六・六%になります。それが中国との戦争が始まります昭和十二年以降は、すなわち戦時経済になりますと、これが四割台に落ちます。さらに昭和十六年、太平洋戦争が始まりました以降は、十六年が三九・八%、十七年が三九%というように、これが三割台に落ちて参ります。すなわち、ここで申し上げたいことは、戦争経済になればなるほど、個人消費の比率は五割台から四割台、さらに三割台へ落ちてきたということでございます。  戦後の数字で申しますと、終戦後、昭和二十一年から二十四年までの戦後の復興期は、個人消費の比率は大体六割台でございます。日本経済がようやく復興を遂げまして安定し始めました二十五年から三十三年まで、この九カ年は大体五割台以上になっております。この九カ年の平均は五三・五%になります。ところが昭和三十四年、すなわち岩戸景気で大へんな好景気になって、総生産もぐんぐん伸びていく、総需要も非常な勢いで伸びていく、この昭和三十四年以降、ただいま申しました総需要の中で個人消費支出が占めます比率、すなわち消費比率は四割台に落ちます。三十四年が四八・七%、三十五年が四六・七%、三十六年が四六・三%、三十七年の先般の政府経済見通しによりますと四七・九%、いずれにしましても五割を割っております。これはもし類型を求めるならば、あの国民の生活水準が低くて国内市場が非常に狭かったと言われました戦前でも、消費比率は五割台を絶えず維持しておった。五年から十一年までの七カ年平均が五六・六%であります。それが四割台に落ちますのは日中戦争、支那事変が始まりました昭和十二年以降四割台に落ちているわけでありまして、そういう点で考えますと、この大へんな好景気、そして一部には消費ブームというようなことが言われている中で、実は生産あるいは総需要との比較で申しますと、戦時経済一歩手前のところまで国民の消費比率は落ちたというのが、数字で見ます限りでの事実でござります。この点は、私ども日本経済を考えます場合に、ぜひ大いに注目しなければならない問題だと思っております。  もとより個人消費の絶対水準は言うまでもなく上がっております。絶対水準が最近上がっておりますのは、ある意味で言うまでもないことでございますけれども、問題は、総生産あるいは総需要の伸びと比較しての個人消費なり、国民の生活水準の伸びでございまして、そういう点で申しますと、総生産の伸び、総需要の伸びが非常に著しいにもかかわらず、個人消費の伸びはそれに比べれば相対的におくれ、しかも逐年その比率が下がって、ついに五割を割ったという事態、これは私は国民経済の姿としてはかなりアブノーマルな状態ではないかというふうに思います。この点は欧米諸国の詳しい数字を十分に調べるいとまがございませんでしたけれども、最近の五0年台後半のころの欧米諸国の数字を見ますと、大体今のような計算で数字をはじいてみますと、個人消費比率は、大体アメリカは六一%、イギリスが五四%、フランスが五九%というように、総需要のうち大体六割前後が国民の消費生活の中で占められている。それに対して日本ではそれが四割台に落ちたということは、私は、国民経済の状況としてはかなり異常な状況ではあるまいかと思います。言うまでもございませんが、個人消費市場というのは、もちろん景気動向によって多少の変動はございますけれども、比較的安定しているマーケットでございます。そして言うまでもなく、その水準が上がるかどうかということが、言ってみれば経済の究極の目標でございます。高度成長経済あるいは所得倍増計画というようなことがいろいろ言われておりますけれども、その究極の目的が国民性活の向上にあることは、これは申すまでもないと思いますが、そういう生産の究極の目標であり、かつまた経済構造としましてもかなり安定的な市場であります個人消費の比率が五割を削ったというこの状況、これは私は日本経済を考えていく場合に最も注目すべき現象の一つではないかと思います。  先ほど申しましたように絶対水準は上がっております。従いまして、確かに私どもの生活はある程度年とともによくなっておりますけれども、しかし問題は、何度も繰り返しますように、生産力との比率でございます。生産力は一流でありながら生活水準が三流のままであるというような、そういう経済構造は非常に不安定な経済構造であると言わなければならぬ。そういう点で考えますと、ごく最近の数字は、まだ正確な数字がわからなくて利用できませんでしたので、ちょっと前の数字になりますけれども、三十五年、一昨年の数字になりますが、これで比べてみますと、確かに消費水準は上がっておりまして、それに伴いましてやはり個人の可処分所得もふえております。個人の可処分所得は、三十五年には前年に比べまして約一一%増大しております。かなり大幅な増大でございます。これはまことに喜ばしいことでございます。今申しましたのは全都市勤労者の個人可処分所得でございますが、同じように農村も約一%ちょっと上昇しているようでございます。しかし問題は、先ほど申しました全体との比較でございます。そういう点で申しますと、総需要の伸びはこの年一五%をこえております。従って、個人可処分所得はふえておりますが、総生産あるいは総需要の伸びに比べると、個人可処分所得の伸びは逐年おくれている。従って、リラティヴな割合は次第に下がっている、こういうことがまず注目されます。  さらに二番目に、個人の可処分所得の伸びと個人の実際に消費に使いました消費支出の伸びとを比べますと、可処分所得の伸びよりも個人の消費支出の伸びはまた一段と劣っております。先ほど申しましたように、全都市勤労者可処分所得が、三十五年は前年に比べまして二%の増大でございますが、消費支出の方は九%ちょっとの増でございます。つまり、総生産、総需要の伸びよりも個人可処分所得の伸びがおくれ、さらにまたその個人可処分所得の伸びよりも個人消費支出の伸びがおくれる。こういう形で、高度成長の中で全体の消費支出の比重は逐年下がってきてしまった。そして先ほどから申し上げておりますように、ついに五割を割り、この四年間は四十数%というきわめて、諸外国にも例を見ない、あるいは戦前の日本でさえない、いわば戦時経済以外にはなかったような状態になってきたというのが数字の示すところでございます。  そこで私は、この問題は何とかして解決しなければいけない。先ほど申しました高度成長の中で生じましたいろいろな不安定、不均衡要因、それを調整する機能が特に政府の責任として大きいとするならば、この消費比率の異常な低下を財政なりあるいは政治の手で調整し、直していく。消費比率を何とかして高めていくということが財政金融政策の一つの重要な力点にならなければいけないのではないかというふうに思います。  そういう点から考えて参りますと、先ほど申しましたように、まず一つは、個人可処分所得の伸びが、総生産あるいは総需要の伸び、いわゆる成長率に比べておそい。これは言いかえれば、いわゆる分配率が次第に低下しているということでございます。従いまして、この点はもう少し個人可処分所得を何とかしてふやしていくということが、消費比率を高めるためのまず第一に打つべき手であろうと私は思います。  では、いかにして分配率を改善し、あるいは個人可処分所得を増加していくか。これは具体的には、雇用者の場合であるならば賃上げとかあるいは月給を上げるとかいう問題も出て参りましょう。あるいは農民の場合であるならば、やはり農家の所得をいかにふやしていくか、こういう問題にもなろうかと思います。さらにそうい第一次的な所得分配の問題に加えて、ことに政府の場合には、そういう個人消費用の個人可処分所得をふやすような減税措置をかなり大規模に考えていただくことが重要なのではなかろうか、こういうように私は思います。この点、今度間接税を中心にしました減税がある程度行なわれましたこと——私は、減税の規模としては非常に小さい、もっとできるのではないかと思いますけれども、間接税を中心にしました減税が行なわれましたことは、ある程度けっこうなことだと思います。ただそれが実際に個人可処分所得の増加を現実に生み出すように、減税分だけきちんと値段が下がるような、そういう措置を必ずあわせて考えていただきたいと思います。  さらに二番目でございますが、先ほど申しましたように、個人可処分所得がふえまして、それよりもまた実際にそれを支出に使ってしまう個人消費支出の伸びは、また一段とおくれてしまうというのは一体どういうわけであろうか、これが私は問題であろうかと思います。この点はこまかい数学的な分析を必要とするかもしれませんけれども、、簡単に申し上げます。  まず私は、そういう点で二番目に強調したいと思いますことは、個人の所得の中でも、特にやはり消費比率を高めるために重要なのは、低所得者層の所得をふやしていくということだろうと思います。御承知のように、所得が高ければ、それに伴いましていわゆる消費性向と申しますか、所得のうちで消費に使う金の部分は相対的に減って参ります。所得の低い層ほど、所得があればそれを一00%消費支出に回していく。そういう意味で、低額所得者ほど所得がふえればそれだけ消費市場拡大して参ります。そういう点で日本の所得構造を考えてみますと、御承知のように、例の二重構造というかなり大きな所得格差がございます、しかし、最近の数字を私つまびらかにいたしませんけれども、一昨年でございましたか、企画庁の発表いたしました国民生活白書によりますと、昭和三十五年の初めごろの数字だと思いますが、あの当時でもなおかつ年間所得二十万円以下の世帯が全世帯の二八%を占めているといったような数字が出ておりました。この数字の厳密な正確さということは一応別にいたしましても、とにかくかなり分厚い低額所得者層がいるということは間違いない。この層の所得をかなり大幅にふやすことなしには、全体としての個人可処分所得がふえましても、なかなか消費支出そのものをふやしていくということにはいかない。そういう点で、やはり生産と所得のアンバランスを調整していく上でも、何とかして二重構造を解消していく。そのためには特に低頭所得者の所得を何とかして高めていく、こういう手をかなり思い切ってとっていただく必要があるのではないかというふうに思います。  この場合に、やはり私が注目しなければならないと思いますことは、ただ単に低額所得者に社会保障的なことで金をやるということだけではやはり不一分なのではないだろうか。先ほどから農業の問題で、離農農家のお話なども、私かたわらで伺っておりましたけれども、最近の離農される第二種兼業農家の人たち、あるいは農村から出てくる若い労働力なども、その行き先を見てみますと、非常に一般論でございまして、個々の例外はたくさんございますけれども、ごく一般に申しますと、そういう農村から出ていく人が都会の中での日陰の部分、中小企業あるいは零細企業の部分に就職したり、あるいは臨時雇用といったような非常に不正常な雇用形態でわずかな賃金で働くといったように、なるほど高度成長の中で二重構造の底にある人が一部上に上昇していくことは確かにございますけれども、しかし上昇する者があれば、また他方では二重構造の底を絶えず補っていくような人たちもいる。こういう底辺を絶えず補っていくような、あとからあとから底辺に人が補充されるような、そういう機構そのものを何とか制度的に抑えていくということがなければ、この低所得者対策というものは十分なされないのではないだろうか。そういう点で、この点は最低賃金制だとか、家内労働法をもっときちっとしたものを制定するとか、あるいは臨時雇用といったような不正常な雇用について、もう少し何とかして規制をできないであろうか、そういう問題をぜひ考えていただきたい。  さらに同じように教育、このごろは自営業者が次第に被雇用者に変わって、勤め人なり労働者なりサラリーマンになる場合が多うございますが、その場合に、非常に自営業者——農民やらあるいは小さな商人の方やらが、特殊な技術も身につけずに、非常な不安定な雇用形態になっていくために・労働条件が非常に悪い。そういう人たちに対する職業再訓練の問題、これも今度の予算案の中でもいろいろ項目は出ておるようでございますけれども、訓練を受けている間の生活保障も考えてやるような、かなり手厚い援護をした形での職業再訓練といったような問題を考えませんと、絶えず底辺が補充されるという機構を作り変えていくわけにはいかない。そこのところの矛盾をせきとめて、低額所得者層の対策というものを考えていただきたいように思います。  さらに三番目の問題でございますが、これは先ほど申しましたように、個人の所得がふえましても、なかなか消費はふやしていかれない。それは別な言い方をいたしますと、これはよく問題になることでございますけれども、日本の庶民が、所得は非常に低いにもかかわらず、諸外国に比べまして、たとえば西ヨーロッパに比べまして、賃金水準は平均して二分の一あるいは三分の一であるにかかわらず、貯蓄率はヨーロッパの大体倍に上っている。昨年のごときは、都市勤労者は大体所得の一五%を貯蓄したことに数字では出ております。ヨーロッパの場合には大体七、八%の貯蓄率でございます。こういうように所得が非常に低いにもかかわらず、なぜこんなに高い貯蓄をやっているのか、これはいろいろ調査もございますけれども、一口に申しますならば、これは決して楽だから貯金しているわけではなくて、生活の不安、病気のときどうするか、あるいは老後になったらどうするか、不時の災害に備えてどうするか、こういう生活の不安に対する備えと、それからもう一つは子供の教育費、子供だけはせめて高校へやりたい、あるいはできれば大学へやりたい、こういう教育への投資と、それから生活不安を社会保障でなくて個人保障でやっている。こういうことと、そしてさらに一部つけ加えまして、住宅のために、何とかしてせめて小さくとも自分の家がほしいという形で一生懸命貯金をする。こういう非常に社会保障の欠除やら不十分さやら、あるいは教育が非常に金がかかるということのために、どうしてもかなり涙ぐましい、泣きの涙で貯金をしている。そのために所得がふえてもなかなか現実の消費がふえていかない、こういう構造になっているように思います。そういう点で、社会保障といったふうなものがきちっとでき上がっていて、病気のときの心配やら、あるいはさらに教育にもう少し金がかからないような体制になっていなければ、なかなか個人消費比率を高めるということはむずかしいのではないかというふうに思います。  その点で最近の個人生活でございますが、確かにいろいろな形で個人生活が合理化され、近代化されて参りました。個々の家庭の中でも、かなり電化製品がふえてきたり、あるいは家の中にはじゅうたんを敷くといったような生活がだんだん出て参りましたけれども、しかし、そういう個人生活の合理化というものも、ある程度限界といったふうなものが、最近はかなり出ているのではないだろうか。そういう点で、私はこの消費生活について、単なる社会保障だけではなくて、社会保障というのが狭い意味での救貧制度のようなふうに考えられるだけでなくて、もっと国民の消費生活を社会的に考えていく、いわば社会的消費の手段をもう少し豊かにしていくことなしには、これからの国民生活の向上ということはなかなかあり得ないのではないかというふうに思います。そういう点で考えますと、たとえばこれはいろいろ調査もございますけれども、諸外国に比べまして、日本の場合にはかなり、たとえば家庭の電化製品といったような点では、普及度は高くなっております。ヨーロッパでも一流でございます。次いで衣料、着物といったような点では、ヨーロッパでも一流の下と言いますか、二流ぐらいになっている。食事がまた悪くなっている。さらに住宅となると四流ぐらいになる。さらに社会環境施設、道路、上下水道、病院とか学校の文教施設とか、レクリエーションの施設とか、こういう点になりますと、世界で有数の工業国であり、非常に大きな国民所得を出している大工業国でありながら、これほど貧弱なところはないのじゃないか。そういう点で、私は、社会的消費の手段をもう少し充実するということが、これからの国民生活にとっては非常に重要であろうかと思います。ところが、この点が、高度成長経済の中で、ある意味ではますます、ことに、たとえば都会の生活をごらんになればわかりますように、数字に現われて参ります総生産成長率はなるほど高くなって参りますけれども、しかし、こういうように次第に緑の地帯も都会の中から失われていく、うっかり安心して外も歩けないといったような、経済学の方でよく外部不経済と申しますが、個々の企業の内部経済経済的に非常に合理化されましても、国民経済全体としての経済生活は、目に見えない、数字ではかれない形で非常に不経済な状態が広がってきている。こういうことを何とかして解決していくということがこれから非常に重要であろうと思いますが、そういう点で、公共投資をもう少し社会的消費手段の投資に重点を移していただきたい、民生用の公共投資をもっと充実していただきたいように思います。最近の公共投資予算を拝見いたしましても、あるいは財政投融資の予算を拝見いたしましても、かなり次第に民生用の投資がふえつつあることは、私は喜ばしいと思っておりますけれども、しかし、まだまだ全体の比重としてはやはり低いのではないだろうか。これも私ある人に聞いたわけでございますけれども、日本では、公共投資の中では、特殊な事情もございますけれども、大体半分近くは道路・輸送関係でございます。あとの一割くらいが電力、水道。住宅関係は今のところは四%くらい。文教施設については五%くらい。これが、イギリスの場合には、住宅がむしろ第一位で三一%を占めている、こんなような数字が出ております。もちろん単純な比較はできませんけれども、とにかく、民生用の公共投資をもう少し充実していただきたい。この点は、一般会計の公共投資につきましても、またあるいは財政投融資の面につきましても、いろいろ御配慮をいただきたいように思います。  さらに、それに加えまして、先ほど申しました社会保障あるいは民生用のいろいろな公共投資、さらに、先ほどもちょっと申しました学校、文教施設、これは、私が学校におりますので我田引水のようになるかもしれませんけれども、文明国で、池田首相のいわゆる大国で、日本くらい貧弱なボロ校舎で子供が育てられているところは私はないのではないかと思います。さらに、御承知のように、最近は高校生が猛烈にふえてくる。この高校生の問題は、義務教育ではないということで、国家予算の中では、私の感じでは、今度も非常に冷遇されているように思います。たしか、私の記憶では、十五億円程度のお金がおもに工業高校用の国家補助として出ているだけで、一体、この調子でいけば、来年度からは中学浪人が二十万人以上出ることは必然だというようなことを文部当局が言っているということを伝えている新聞記事も読んだことがございます。私は、二十万人が正確であるかどうかは別といたしまして、明らかに、中学浪人が、あるいは高校へ進学できない子供たちが大ぜい出てくる、これはほぼ間違いないことだろうと思います。この点、よほど文教施設についても金を回していただきたい。私は、そういうような意味で、民生用の公共投資を充実することで国民の生活水準を高めていくという、消費生活、国民の生活というものについて、個人的な消費生活のやりくり算段ではなくて、国家的な社会的なやりくり算段をもっと考えていくことが文明国の一般的な趨勢であるので、そういう方向にぜひ予算を配慮していただきたい。その点が幾分見られますけれども、しかし、まだまだ不十分ではなかろうかというのが私の感想でございます。  さらに、それに加えまして、先ほど来申しておりますような、個人消費が五割を割ったというような異常な状況を何とかして財政金融政策の中で是正するような、そういう予算の組み方、これを社会保障予算なりあるいはその他減税についての配慮なりというところで十分に払っていただきたいように思います。  以上、私が最近自分で数字をいじってみましてこの異常な消費比率の低下という事実にあらためて驚かされましたので、そういう点から特にその点を本日は申し上げたわけでございます。もちろん、そういう点で、民生用の、個人生活用のウエートを高めれば、投資の比重が減ってくることは当然出て参るかと思います。一体どこから金を生み出すのか、こういうことが当然問題になって参りますけれども、従いまして、これは、当然、資金について、一体現在の資金の使い方が国民経済的に見て全体的に合理的であるかどうかということをもう少し再検討することが必要ではないだろうか。今日のように、いわゆるコンビナートというのが、日本全国の中に、この狭いところに二十カ所近くもできるといったような形が、はたして合理化投資と言えるのかどうか。こういう点で、資金計画そのものについても配慮をしていく、こういうことも必然的に随伴してくるだろうと私は考えております。そういう点で、いろいろ問題は広がりますし、私の意見は本年度予算のこまかい数字にわたることはできませんでしたけれども、大まかな方向について、私の感じを、ちょうど時間一ぱいになりましたので、以上申し上げた次第でございます。(拍手)
  102. 山村新治郎

    山村委員長 長洲公述人には、まことに御迷惑と思いますが、しばらくお待ちを願いたいと存じます。  それでは、引き続き野淵公述人にお願いをいたします。  野淵公述人に申し上げますが、最初の公述は約三十分程度でお願いをいたしまして、あと引き続き長洲公述人と同時に質問をいたしますから、よろしくお願いいたします。  野淵公述人
  103. 野淵三治

    野淵公述人 ただいま御紹介にあずかりました野淵でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  先ほどからいろいろ諸先生方の御意見を伺い、また御質問の先生方のお話も承っておりますると、なかなかむずかしいことばかりでございまして、私どもは多少お門違いかと思うのでございますが、あえて公述させていただきたいと考えます。最初にお断わりしておかなければならぬことは、私は産業界団体の代表ではございません。一産業人の意見として申し上げたい、これを前提といたしたいのでございます。  三十七年度予算案全体に対する一般論については、ただいま私が申し上げたようなことでございまして、私には多くを語る資格はございませんが、ただ、財政のしろうとである私でございますが、次のような感じを抱くものでございます。すなわち、前年度に比較いたしまして何しろ二四%強増の大型予算でございますから、これが実施につきましては、今後の経済動向を見て、どうか弾力性のある運用を行なってほしいと考えるものでございます。三十七年度は、三十六年度後半に引き続く金融引き締め措置と、企業においては、やはり、計画の一部練り直しでございますとか、繰り延べをいたしております。民間設備投資も増大を来たさないだろうと私は考えるのでございます。それでございますから・その運用によっては不測の悪影響を及ぼすようなことはない、こうしろうとながら考えます。強い金融引き締めによりまして、設備の抑制をやっておるわけでございますから、公共部門は三十一年以来相当引き締められておりまして、大へんなおくれを来たしておると思うのでございますから、こういうものはこの機会に大いに進めなければならない、こういう感じがいたします。  それから、一部の経済学者が新聞なんかに書いております通り予算案の内容につきましては、やはり、既定経費でございますとか、既定計画の当然増というのが非常に多いように思うのでございます。これが毎年尾を引いて参りますから、十分考えなければならない二面を内蔵しておるのじゃないかしらん、こういうふうに考えます。こういう当然増を切ることができない、今後とも引き続いてやらなければならぬということになりますると、これも私のしろうと考えでございますが、常識といたしましては、やはり、国家経費を減ずる面においては、行政整理を強力に行なわなければならぬのじゃないかというふうに考えますし、また、国家収入を増す面におきましては、やはり私はいよいよ産業の振興をはからなければならぬと思う。先ほど来いろいろお話がございますが、一体そんないろいろなことをやったら財源はどこから出てくるのかというふうな感じを、われわれ日ごろ仕事に一生懸命になってもうけることばかりやら生産をやっている男はそんなように感ずるのでございますが、やはり、産業がより以上に発展するように、その発展したものから税をとるように、また、税制をこの際さらに適正化する必要がある、全国民協力のもとに、正しく、ごまかしのない租税納入の形を確立することが、一つのやはり財源を作る源じゃないかしらんと考えるのでございます。こういうことを言うと、おしかりになる先生もあるかもしれませんが、あえて私はこの目で見てさようなことを申し上げたいのでございます。  また、予算というものは、諸先生方や官吏の方々の財政学上の原理原則に基づく演繹的なやり方でなくして、私は、やはり、経済も政治も、いろいろなものが動くのでございますから、日本の実情、現状に照らしたそのときどきの帰納的な方式を重点として行なってほしいものでございます。そうじゃないと、国民の生活は上がったりいろいろするかしらぬが、世界におくれるんじゃないかしらんというような気がいたしますが、諸先生方の御研究をお願いいたしたいのでございます。  次には、予算の内容の一部に触れまして、また行政面のことでまことに恐縮でございますが、政府に対しまして私のお願いをいたしたいと思うのでございます。先ほど来の諸先生方の御意見と多少違うかもしれませんが、私は、今回の減税が、間接税に重点が置かれ過ぎて、法人税などの減税が没却されているのを非常に遺憾に考えるものでございます。これはお笑いになるかもしれませんが、われわれとしてはさように考えます。それだから、一つそこは御研究を願いたいことでございます。いろいろ進んだ国とのアンバランスのことを申しますと、やはり、法人においても、日本の法人の大部分は欧米諸国法人の資産内容に比して著しく劣悪でございます。償却等も十分ではございません。競争力を十分にする建前からも、当面、私は、減税の考慮が、こちらでやっていいのかどちらでやっていいのか存じませんが、私どもの立場からそういう考えも抱くものでございます。また、英米は別といたしまして、日本のような直接税の高いところは、私は少ないと思うのでございます。欧州諸国は取引税が多いように私は聞いております。  次には、社会保障の充実を期して前年予算より二〇・九%増加を示されたことは、あるいは少額かもしれませんが、大へん私どももうれしいことに存じ上げます。特に、働こうと思っても働けない母子家族でございますとか、不具者でございますとかに対しましては、どうか一そうの御処置を願いたいのでございます。  また、公共投資を積極的に進める上におきましては、やはり、こういう時勢でございますから、選別をしていただいて、たとえば、道路で言いますと経済性の高いものから早くやっていただく、港湾にいたしましても、その輸送の逼迫の最もはなはだしい、船が一ぱいでどうにもならぬという京浜、阪神、名古屋、こういうところに重点を置いてほしいものでございます。また、空港のごときも、航空機の使用がいよいよ多くなりまして、特に最近は貨物輸送が多いと思います。今後いよいよ貨物航空輸送が多くなると思うのでございます。観光客もふえるわけでございますから、空港の拡大整備費は十分これをとっていただきたいと思いまするし、こういう方面は少し先まで考えて手を打つことが必要じゃないかしらんと考えるわけでございます。  次には、われわれに関係のある電力について申し上げますが、エネルギーの問題は刻下国民にとりまして一日もゆるがせにできないところでございまして、年々増加の一途でございます。開発を怠れば、また先年のような電力不足の悔いを残すことになるのでございます。金融逼迫のおりから、電気事業は開発資金がないため非常な苦しみをなめておるのでございます。どうか、社債の流通性を高めるための社債の買い上げ機関を作るとか、いろいろ資金調達の面を考えていただきたいと思うのでございます。また、財政投融資資金におきましては、何とか捻出をしていただきまして、不足額を開発銀行の投資会計ワクに入れて融通することができないかと思うのでございます。これはお調べになったらわかることでございますが、どこの国でも、進んだ国なら、電力事業の開発の金を困らせている国というのはあまりないように考えるのでございますが、いかがなものでございましょうか。また、あえて電力と限りませんが、公共事業の土地の買収につきまして、補償問題がなかなか容易でございません。困難をきわめております。妥当な、もっと完全な補償立法を望むものでございます。  次には、輸出問題について私から献策したいと考えるのでございますが、輸出振興の大切なことはもはや申し上げることもないわけでございまして、国際収支悪化問題が多い今日におきましては、特にしかりだと思います。この問題はまさに国をあげてこの方向に向かわなければならない大問題であると思うのでございます。輸出増進のための諸政策は慎重に進められておると考えますが、予算面に現われましたところだけでは振興措置は確かに講ぜられておると言えるのでございますが、しかし、非常に意欲的なものであるかというと、そうではないと私は思うのでございます。すなわち、貿易振興及び海外経済協力費といたしまして組まれたものも、予算総額のたしか0・何%というようなものでございます。また、財政投融資におきましても、輸出入銀行に千二百五十億円というワクが与えられたのみで、必要額と私どもが聞いておりまする千四百億にも達しておらないのでございます。輸出の振興政策にどうか大胆なる処置を私は望むものでございます。そうでなければ、目標の四十七億ドルははたして可能であろうかと、かように考えるものでございます。  なお、私は、輸出産業に従事しておる一員でございますので、次のような政策の実行を提案したいのでございます。英国が欧州共同市場に参加するなら、おそらくこれは御承知のように強力な海運諸国がそろうことになると思うのであります。これと競争することになりますが、戦時補償の打ち切りと建造のために大きな負債を負っておりまして弱体化いたしております日本海運の強化策をはかってほしいと考えるものでございます。このことは財界あげての要望でございます。あるいは御案内かと存じますが、経団連、同友会が共同声明を出しておるところでございます。かようなことを着実に講じておかない場合には、私は、貿易外の収支赤字はいよいよその大を加えるものであろうかと考えるものでございます。  なお、輸出品に対しましては、その輸出商品を構成しておりますところの原資材である鉄鋼等がそれらの資材の輸出価格で入手できるように、政府の育成でございますとか、あるいは誘導政策を私は望むものでございます。二次、三次の加工を経て輸出することは、付加価値の高いものの輸出となり、外貨が多くかせげることは自明の理でございます。  次の問題は、輸出品に対する重複課税防止のことでございます。わが国産業は、資本及びその構造とも、西独に見られるような一部廃業のコンツェルン式でなく、細分化、分業化されておりまして、御案内の通り、その生産工程に数段階の企業の手を経て最終製品となって輸出せられるわけでございます。ところが、その租税は、輸出であるといなとにかかわらず課税せられております。かくのごとく、各分業工程ごとに課税せられては、輸出競争に大なる弱点となることは明らかでございます、輸出に関する限り、これらの課税体系を整理いたして、最終段階一回の課税ということにすべきと私は考えます。なかなかむずかしい問題でございましょうが、かようなふうに持っていかないと競争に負けると考えるものでございます。西独の機械類輸出の大部分は、御案内の通り、大コンツェルン所属企業によって行なわれておるように聞いておるのでございます。日本の大企業輸出のふるわぬ一つの原因であろうかと私は考えておるのでございます。  次には、渡航外貨についてでありますが、外貨がだんだん少なくなってきますと、渡航外貨を制限されるような傾向になっておるのでございます。もちろん必要のものは認めますが、制限傾向にあります。どうかこれを制限しないでほしいと私は思うものでございます。これからの世界は、民族と民族とが交流いたしまして、あるいは学術、あるいは交易、文化その他を相互にやはり接触融合せしめるときでございます。日本を理解せしむることは、すなわち輸出の増進となるでございましょう。外貨の制限は、外人が日本に落とす金を尺度に適切な寛大な額で抑えればよいと私は考えておるものでございます。  さらに、経済外交を画期的に前進せしむべき時期に参っております。外務省の予算ワクを私は説明書によって拝見いたしましたが、非常に小さい気がするのであります。経済外交を行なう費用を大きく組むべきであると考えます、先進国の外交官は非常に商務官的でございます。日本に来ておるどこかの大使が、その国の機械を買った需要家を集めましてパーティを開いて礼を言ったりしておるようなことも聞いております。大きな外交折衝の場合はともかくといたしまして、日常におきましてはやはり経済外交が主であらねばならぬ、私はかように考えております。  次には、民間人を大きく外交官に採用してはどうか。経済に明るい民間人が大使、公使にまでなれる制度にしなければならない。その活用をはかるべきであると考えます。何も民間人と限りません。外務省以外の官公吏にも適材があれば抜擢すべきでありまして、すべて、もはや今日の日本は小さなワクの中だけで考えておる時期ではないと思う。日本銀行等の若い人材を考慮することも一法であろうと考えております。  なお、次の問題は、昨年から、財界から輸出増強に関しまして最も重要なる改善案といたしまして輸出保険制度改善案につきましてお願いをしておるわけでございますが、なかなかこれがいれられません。その内容は、資本金の増額、担保危険の拡大、信用調査機関の拡充、保険料率の引き下げ、そういうものを含むものでございます。  次に、輸出振興と並んで、特に日本が九0%の自由化をやるということになりますと、どうしても不要不急の輸入を一部防ぐ必要があるように考えるのでございますが、なかなかむずかしい。何が不要であり、何が不急であるというような問題もむずかしい問題でございますが、不合理にならぬように、どうが諸先生方において御研究の上対策を講ぜられることを私どももお願いをしておきたいと思いますし、また、輸出金融につきましても、だいぶ寛大な優遇措置を講ぜられておりますけれども、もう少し幅広い考え方をしなければならないのではないかしらんとも考えます。  大へん抽象的な表現でございますが、あわせてお願いをいたす次第でございます。大へんありがとうございました。(拍手)
  104. 山村新治郎

    山村委員長 それでは、これより両公述人の御意見に対する質疑を行ないます。  質問者に申し上げまするが、先ほどの理事会の申し合わせの通りに、質問の時間は五分以内でお願いいたしまするし、なお、質問の内容は、先ほど両公述人がお述べになった御意見に対する質問を一つ展開していただきたいということをお願い申し上げます。  最初に臼井莊一君。なお、公述人はお名ざしを願います。
  105. 臼井莊一

    ○臼井委員 長洲先生にちょっとお伺いしますが、先ほど文教の施設費の率ですが、私聞き違いであればあれですが、何か五%くらいの伸びだというお話でございましたが、そうでございましたか——これは今ちょっとにわかにあれしたのですから、あるいは私の方が絶対正確だとは申しかねるかもしれませんが、施設費だけについて見ると、四三%くらい当初予算に比べるとふえている。補正を加えても一八・七%くらいというあれですが、今実は正確に調べさしておりますが、その点、その五%というのは、前年度に対してじゃないのですか。どういう点でございましょう。もう一度……。
  106. 長洲一二

    ○長洲公述人 私もちょっと正確な数字をここに持っておりませんけれども、公共投資総額の中で占める文教関係の施設費のことで、伸び率ではございません。
  107. 臼井莊一

    ○臼井委員 まあ、伸び率としては、今申し上げたように、相当伸びているのですが、ただ、全体のしにおいては少ないという、その点においては、われわれも大いにこれはふやさなければならぬと考えております。  それからもう一点は、先生は、おもに個人の消費率について、いろいろ統計等の計数からお話がございましたが、ただ、お話にもございましたように、個人の消費の絶対数は伸びているが、率においては低下している。これは総需要の額がむしろふえ過ぎているということから、急激なふえのために、経済成長が急激であった、そういうところから一つは来ているのじゃないかと思うのでございますが、それはアメリカの六一%、英国の五四%、フランスの五九%と——ドイツのことは例にあがっておりませんが、もしドイツなどの例を承れれば一つお伺いしたいということと、結局、欧米の方では経済成長率が非常に低いというところから考えると、むしろ、個人消費率がそれに追いつかぬということは事実でございましょうけれども、そういうこと、むしろ、成長率の方が早過ぎたというようにも一方考えられるのではないかということと、それから物価との問題ですが、先生は分配が要するに低いので、もう少しベース・アップとか低額所得者——これは低額所得者に対して十分しなければならぬということはわれわれはわかるのですが、ただ、分配ということで、そちらの方にして、消費の方をうんと回すということになると、物価がもっと拍車がかかって上がっていく心配はないかという問題でございます。ということは、ことに民間側の方に比例して公務員もやはりベース・アップいたしますが、この  一月二十九日の日経の新聞で見ますと、フランスで、昨一九六一年後半期の小売価格は五・四%上がった。これは主として労働攻勢による公務員や国家所有機関の従業員の給与の増額による。最近は牛肉等の値段も上がって、政府当局はこの点注意している、こういうようなあれがございましたが、結局、給与の上がるということはけっこうですが、あまりそれの点にあれすると、消費の方を増すような点に力が入ると、奨励といいますか、そういう点に消費ブームが一そうに深まっていくと、物価の方がさらに上がる結果を来たしはせぬか。イタチごっこになって、せっかくのベース・アップが何にもならぬことになりはせぬかという心配でございますね。その点についてどうお考えかという点を一つ……。
  108. 長洲一二

    ○長洲公述人 いろいろこまかい点がございますが、消費率が下がりましたことは、成長率が非常に高過ぎたからではないかという点、ある意味では私もそうだと思います。外国に比べまして非常に成長率が高かった。この異常に高い成長率をささえておりますのは、やはり申し上げるまでもないと思いますが、民間設備投資でございます。ちょっと数字で申しますと、昭和三十年を一00にいたしまして、昭和三十六年の数字では、個人消費は一七0、これに対して民間設備投資は四七一、六年間で約五倍近い伸びを示している。これはやはり設備投資が異常に商過ぎた。そのために、あらゆる生産の伸びが全部そこに吸収されてしまって、設備がふえればふえるほど、消費率が相対的に低下したということになるだろうと思います。で、おっしゃる通りに、この消費比率の問題は、成長率との相互関係でやはり見なければならない。ただ、そういう点から申しますと、この総生産の伸び率を、普通成長率が一0%であるとか、九%であるとか、七・二%であるとか、いろいろ申しますけれども、やはりこの中身が問題でございまして、総需要の伸びが、お互いに、個人消費の比率も総生産の伸びにある程度見合って伸びていくということがやはり必要であるし、これは倫理的にいい悪いとはまた別に、国民経済の安定的な発展のためにも必要ではあるまいかというのが、私の強調したい点でございます。最近のあれで見ますと、異常な民間設備投資の伸びのために、消費比率が傾向的に比率として下がっている。五割から次第に四割になり、四割六分になってきた。こういう、長期にわたって傾向的に下がってきたという点が、やはり問題だと思います。外国の場合には、なるほど成長率はそれほど高くないという点もございますけれども、比較的個人消費比率は大体安定的でございます。つまり、それだけ成長率の伸びと生活水準の向上とがある程度見合っているということが言えるのではないか。この点は、日本経済の構造を考える場合に、何とかして私どもも学問的にももう少ししっかり照明を当ててみたい問題だと考えております。  それから西ドイツのことでございますが、西ドイツは、私の知っている限りでは、やはり個人消費比率はかなり低うございます。これはおっしゃる通りに、成長率の異常に高いところが消費率が低いわけでございます。  なお、念のために申しますと、日本の場合には、個人消費比率が低い分だけ民間設備投資がふえております。非常に高い。西ドイツの場合には、民間設備投資はそれほどではございません。輸出の比率が非常に高い。いわば日本設備投資型、西ドイツは輸出型といったような発展の仕方のように思います。ちょっと何か学校の講義のようになりまして恐縮でございますが、そういう消費比率の傾向的低下という点を特に私は問題にしたわけでございます。  それから、二番目の物価問題でございますが、おっしゃる通りに、やたらに賃金が上がっていけば、コスト・インフレということももちろん考えられると思いますけれども、そういう点では、私は、いろいろ労働組合なんかが賃金の値上げを要求すると同時に、ぜひ価格引き下げのことを労働組合としても考えてもらいたいと思っております。そういう点で、労働組合の運動が賃上げの要求と並んで、価格について、自分たちの企業についてある一定の要求をしていく、そういう形で国民の要望にもこたえていくということを私は個人的には希望したいと思います。ただ問題は、この物価の問題は、単純に賃金が上がるから物価が上がるというふうには言えないのではないだろうか。今までの状況で見ますと、むしろやはり賃金の上昇は、昨年だけ比べますと確かに上がっておりますけれども、全体で見ますと、生産性の伸びに比べまして分配率が次第に低下している。そういう点では、むしろ賃金がおくれをここで取り戻そうとしている、こういう動きのように私は思います。そういう点で、やはり生産性との関係で考えることが必要ではないか、そういう点で考えますと、一口に物価と申しましても、いろいろな物価があるわけでございまして、生産性を非常に上げにくい民間のサービス料金のような物価もございますし、非常に出産性が事実高まっておりますたとえば鉄鋼であるとか、その他の大機械メーカーのものであるとか、あるいは重要な基礎原材料生産している大企業生産物であるとかは、非常にここ数年来生産性が高まっているにもかかわらず、卸売物価が下がっておりません。私は、むしろ物価問題の一番のポイントは、やはりそういう部門で生産性の上がった大企業での価格があまり下がらないという点に問題があるのではないだろうかと思います。  なお、それと加えまして、先ほどの政府の機能ができるだけ民間のアンバランスを補正する方面にいっていただきたいということと関係するわけでございますが、その点ではやはりいろいろ苦しいところはあるかと思いますが、公共料金につきましては、政府はぜひ民間とは逆な方向で、公共料金については、ここで少し苦しくとも上げない方針を堅持していただきたいと思います。そういう点で、この物価問題というのは、やはりそれぞれの物価——私は物価を幾つかのタイプにグルーピングできると思いますが、それぞれのグループに対応した物価対策を緻密に立てていくということで解決すべきであって、一般的に物価問題というふうには考えられないのではないかと思います。  なお、念のために申しますけれども、生産性が非常に上がったはずの大企業が案外物価をちっとも下げてない——上がっていないというふうによく申しますけれども、上がっていないということは、逆に言いますと、生産性が上がっているのですから、物価はむしろネガティブに上がっているということになると思いますが、そういうところは、それぞれやはり理由はあると思います。大きな理由は、たとえば減価償却費が非常に高いというようなこともございますが、そういう点を考えますと、一体そういう減価償却費をやらなければならないほどのむちゃくちゃな——むちゃくちゃというのは語弊があるかもしれませんが、異常に高い設備投資をなぜやっていかなければいけないのか、その辺にやはりもう一度メスを入れてみることが必要ではないだろうか、こんな感じが物価問題についてもするわけでございます。十分なお答えになりませんけれども……。
  109. 山村新治郎

    山村委員長 時間がありませんからどうか……。
  110. 臼井莊一

    ○臼井委員 もう一点ちょっとお伺いしますが、何か、先生のあれを伺っておりますと、個人消費の、これは生活が欧米に比べて低いですから、水準が上がることはいいのですが、ただ、日本は現在欧米にあらゆる面で、生産においても追いついていこうという、こういう過渡期においての一つの悩みから、たとえば貯蓄にしても、非常に貯蓄率が多いという。貯蓄率が多いからこそ、それが再生産の方にも回るので、これがあまりどんどん消費されると、昨年あたりのデパートなんぞ、非常に購買が高くて、それこそ神武以来の売れ行きだったというようことです。むしろ個人消費というものは、消費ブームというものをある程度がまんしなければならぬ段階で、品物にもよるし、階級にもよると思いますが……。そしてこれを輸出の方に向けるし、再生産の方に貯蓄して向けなくちゃならぬじゃないかというふうに考えるのですが、ただ御説のように、公共投資と、それから個人施設ですな、民間施設投資が非常にアンバランスで、これは政府に聞くと、自由競争の自由主義だからやむを得ないということもあるけれども、これはむしろ民間側の事業者の方にお聞きする方がほんとうかもしれませんが、確かにこれは何とかバランスをとらなければ、二重投資だなどと非常にむだが多いと思うが、その貯蓄の面でちょっともう一度、何か貯蓄があのままですと、もっと消費に回る方がいいというふうにおっしゃったのではないと思うのですが、ちょっとそう聞こえたものですから……。
  111. 長洲一二

    ○長洲公述人 やっぱりおっしゃるように、貯蓄がありませんと、蓄積が行なわれませんから経済が発展いたしません。そういう点では、あちら立てればこちらが立たずという関係になりますので、ある程度の貯蓄が行なわれて、蓄積が行なわれて、生産力が発展していくということが必要でございますが、私が強調しておりますのは、その比率が、外国に比べてあまりにも個人消費率が下がり過ぎているのではないか、そして設備投資の比重があまりにも高過ぎるのではないだろうか。しかも、これは過渡期という御説明がございました。確かにそういう面もあるかと思います。思いますけれども、戦後十数年間、ある意味では絶えずまず生産力を一流にする、そのためにはしばらく三流の生活でがまんしようという形で、生産力が一流になりますまで、その間はあらゆる輸入もすべてそれ重点に、設備投資のための原材料重点に、最大限に輸入をやっていく。四年目くらいになると、必ず国際収支赤字の壁にぶつかる。そうなると、すぐ号令がかかって消費の行き過ぎを押さえて、しばらくまた耐乏するのが国民課題である。こういう形のようで、いつも生産力を伸ばすときは、しばらくがまんしてくれ、そして何か国際収支赤字という壁に四年目ごとにぶつかると、今度は消費の方はまたもう一度がまんしろ、こういう形で、いつでも繰り返し繰り返し十何年間やってきた。こういう発展の型に、そろそろ反省を加えてもよろしいのじゃないか。そのためには、私の申しておりますことは、何も貯蓄を減らして投資が無意味だというのではなくて、投資をもう少し国民経済的に合理的に考えるような道を何とかして考えていくべきではないか。その点は、なかなか民間の自由企業体制のままにまかしておくことはできない。そういう点をむしろ調整していくのが政治の役割ではないだろうか。そういうことが行なわれていけば、投資比率をそれほど下げずに、しかも蓄積もやっていける。こういう非常に国民経済的に能率のいい投資ができるのではないか。こんなところが私の書生論議でございます。
  112. 山村新治郎

    山村委員長 加藤清二君。
  113. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 私はたくさんの質問を持っておりますけれども、時間の関係上、二点ずつにしぼってお尋ねをしたいと存じます。  まず第一は、長洲先生に対してでございます。久方ぶりにすっきりした講義を承りまして、頭のもやもやが消え去ったような感じでございます。まことにありがとうございました。しかし、今の質問者もおっしゃられましたように、今日の命題が輸出振興である。その命題を遂行するにはどうしても賃金のアップはストップをしなければいけないじゃないか。国内消費はあくまで押えて、余ったものを輸出するというその考え方でなくして、輸出そのものを考えていかなければいけないじゃないか。そのためには耐乏生活もやむを得ないではないか、こういう声がございます。言うなれば、封建時代の貧乏の親孝行型と申しましょうか、そういう空気がなきにしもあらずでございます。これに対して先生の御意見は、やや異なった方向のように承ったわけでございます。これについて一体先生はどのようにお考えでございましょうか。同じ質問を、りっぱに工場を経営していらっしゃいまする野渕社長にも一つ承りたいと思うわけでございます。  第二点は、長洲先生に、輸出振興長期のポイントは何かということを承りたいのでございます。本委員会におきましても、予算委員会におきましてもそうでございまするが、赤字解消のための短期策というものはすでに述べられ、あるいは答えられているわけでございまするが、長期輸出振興策というものをあまり数多く聞いておらないわけでございます。これをぜひ一つ御指導いただきたいと思います。  次に、野淵社長さんにぜひ承りたい点は、中共貿易とかソ連貿易という言葉を口にいたしますると、それやつは赤だとか、あいつは中共のかいらいではないかとかいうように、まるでこれにさわること伝染病患者にさわるかのごとき感情を持っている向きがあるようでございます。ところが、幸いにおたくは英知と勇気をもってこのソ連貿易を行なっていらっしゃるわけでございまするが、これについてぜひ承りたいことは、その効果と欠陥と申しましょうか、ソ連貿易はもっと伸ばすべきであるか、いやもうやめておくべきであるか、今後の共産圏貿易に対する方針と申しましょうか、と同時に、その貿易を行なうことによって、あなたのところの社員なり、あるいは労働組合なりが、ソ連からの思想的影響を受けたか受けないか、こういうことについて、ぜひ一つ現状をお漏らし願えれば、まことに幸いと存ずるわけでございます。  以上でございます。
  114. 長洲一二

    ○長洲公述人 大へんむずかしい問題で、簡単にうまくお答えできないかもしれませんが、賃上げをすると輸出がうまくいかないのではないかというお話かと思います。確かにそういう点はあると思います。従いまして、長い目で見ますと、ことに底辺層の中小企業の賃上げをやっても、生産性を高くして、それで十分勝負をやっていける、こういうように中小企業の体質改善をやはりやっていくことが必要だろうと思います。やはりチープ・レーバーだけにたよっていつまでも輸出をやっていくということでは因るのじゃないか。そのための条件は、私はやはり中小企業にそれだけの資金を回していくことではないかと思います。先ほど資金といったような問題についてはこまかいことを申し上げませんでしたけれども、日本金融制度そのものが、いわば、私は金融の二重構造というような言葉で名づけておりますけれども、やはり、どうしても中小のところに資金が非常に流れにくく、大企業に集中するような制度になっております。これは、やはり、日本銀行からの間接金融制度や何やら、いろいろな問題がそこに介在してくると思いますけれども、いずれにしましても、そういう資金の合理的な計画化ということの中には、私は、融資の二重構造を直して、もう少し中小企業に資金を与えて、そうして生産性を高くしていく、そうして、チープ・レーバーだけで勝負していくということを少しでも脱却する方向を、長期方向として考えていかなければならぬじゃないか。それをやらずに、ただ賃上げをすれば輸出が伸びないと言っているだけでは、永久に日本はチープ・レーバーを輸出しなければならない。こういう型が固定化されてしまうのじゃないか。事実、日本の最近の貿易で見ましても、非常に賃金の低い中小企業の分が非常に輸出が高い。それと同時に、かなり高賃金、高能率の大企業の分もある程度伸びております。鉄鋼なんかはある程度その例でございましょう。やはり私どもは長い目で見ては、そういう高能率、高賃金で輸出競争力を強めていく。そういうために、融資制度かなり根本的に考えていくということが必要ではないかというふうに考えております。それがまず第一点のお答えでございます。  それから第二点の長期貿易構造という点でございますが、今申し上げました中に、ある程度そのことも含まれていると思いますが、ごく大ざっぱに申しまして、大ざっぱのお話でございますが、日本では中小企業の非常に低賃金の生産物アメリカ輸出する、あるいはヨーロッパに、先進国に輸出する、それでかせいだ金で重化学工業用の大企業原材料をごっそり輸入してくる、それをまた国内設備投資中心の発展の材料に使っていく、こんなような形になる、あるいはそれでできたものはせいぜい東南アジアに売っていく、こんなような貿易構造になっていると思います。現在の自由化やら何やら、いろいろこまかい問題はございますけれども、今のままのテンポで行きますと、その非常に固定化した、先進国にはチープ・レーバーでなければ太刀打ちできない、そうして後進国だけは重化学工業の製品もやっていけるという、こんなようなゆがんだ形、いわば中進国型的な貿易構造というものが、そのままではいつまでも固定化されて、二軍構造の解消どころの騒ぎではない、こういうような気が私にはいたします。そのためには、何と申しましても、やはり重化学工業の大企業が作りました生産財を、もっと大規模に輸出できるような市場海外にも求めていくということが必要ではないか。その場合に、私としましては、まっ先に考えられますのは、イデオロギーは抜きにいたしまして、中国あるいはシベリアでございます。この広大な市場を背後地に持った形でやっていかない限り、ヨーロッパのあのブロック、アメリカのブロック、ソビエトのブロックという世界的な大きなブロックの発展の中で、日本は最後まで孤児になるのではないだろうか。そういう点で、経済的に申しますと、むしろ、ここで外交政策にいろいろ検討を加えていただきまして、商売としては社会主義圏貿易を大規模にやっていく、そこで大工業の重化学工業の生産財の輸出のマーケットを確保していく、こういう貿易構造の再建の問題をやはり取り上げるべきではないか。以上のようなことと、それから、国内の融資体制をもう少し民主化といいますか、中小企業向けの融資をもう少し厚くするような制度的な保障を作っていく、こういうようなことがあわせ備えられて、初めて低賃金が輸出競争力の唯一の武器になるといったような、こういう構造から次第に抜け出して、先進国型になっていくのではないだろうか。大へん不十分でございますが、長期的な見通しとしてはそんなふうに私は考えます。
  115. 野淵三治

    野淵公述人 お答えをいたします。  ただいまお話がございました点につきましては、低賃金でがまんさせなければならないじゃなかろうかという御質問でございますが、決してさようなことはございません。今お話がございました通り生産性を上げまして——相当上がっておるように申しておりまするが、まだまだ生産性を上げる余地は十分にございます。それには、やはり教育の問題、特に技術教育の問題、訓練の問題、それから機械化をさらに一段進歩した機械化へ持っていく資金の導入でございます。私の方で実例をあげますと、ただいま、残念ながら、未熟練の人々もおられますものでございますから、一人当たりの生産高が月十七万円ぐらいでございまするが、私は二年後には必ずこれを一人当たり二十五万円に持っていく自信を持っております。よその各企業においても同様なことと思います。中小企業に対しましては、ただいま先生からお話しいたされたお考えと、私も同感でございます。  次の問題にお答えいたしますが、私どもは、ソ連でございましょうと、中共でございましょうと、政府がその道を貿易上開いてくれれば、幾らでも商売はいたしたいのでございまして、決して思想の上から商売を考えるものではございません。ただ、これには政府がやはり責任機関でございますから、これが責任を持って誘導して道を開いてくれなければどうにもならない。中共との関係につきましては、ただいまの政府におかれてもいろいろの考え方があるように考えます。道さえ開いてもらえば、今申します通り、いつでもわれわれはついて参ります。  次には、ソ連貿易の問題でございますが、私の方は最近毎月——月によって違いますが、平均二千万円くらい、多いときには三、四千万円ちょうだいしておるようでございます。何らアメリカ、カナダその他の国と異なるところなく、順調に商売をいたしております。また先方の人々も参りまして、おのおの課せられた目的を遂行しておりまして、親和的に交わっておる次第でございます。  次の御質問に対してお答えをいたしますが、それがために労働組合がどうのこうのというようなことはございません。あんまり思想問題なんかを向こうの人は話したがらない。思想と商売は別だというようなことでございまして、フェデレンコ大使も参りましたが、思想の話は私はしませんで、商売の話ばかりをしておるようなわけで、どうぞよろしく。
  116. 加藤清二

    ○加藤(清)委員 どうもありがとうございました。
  117. 山村新治郎

    山村委員長 倉成正君。
  118. 倉成正

    ○倉成委員 時間もないようでありますから、長洲先生にごく簡単に御質問申し上げたいと思います。  国民生産あるいは総需要の中で、民間投資輸出財政、個人消費、この四つの中で輸出財政、個人消費は着実に伸びておるけれども、民間投資の伸びに比して他が非常に少ない、特に民間投資と個人消費とのアンバランスということを最近の統計を使ってお話しになりました。この点は私も数字的には全く正しいと思うのであります。ただ私お話を伺っておって、こういう点はどういうふうにお考えになるか、お伺いしてみたいと思うのです。  個人消費が、民間投資と総需要の中で長期的に見てバランスをとらなければならぬということ、お説の通りと思うのですけれども、問題は、個人消費が着実に伸びていくということは、やはり経済成長していく場合の一つの要件ではないか。その点からいいますと、個人消費が民間投資の伸びに比べると確かに問題はございますけれども、最近四年間の例をとりましても、年率八%程度伸びておるということになっておる。そうなると、先ほどからお話がございましたように、日本経済と西欧諸国経済構造が、完全雇用その他非常に内容が違っておりますけれども、日本経済が今日EECあるいは世界経済の中でやはり自衛的に、それは決してチープ・レーバーでいくという意味ではなくして、こういった複雑な世界経済の中で伸びていくためには、やはりこの生産力の発展というのが非常に大きな要素になり、これがまた輸出の原動力になってくるというふうに考えるわけです。従って、生産力と消費の統計的なアンバランスがすぐこれは非常にけしからぬのだということは、いささか、今日の日本経済の現実また世界経済の中に置かれた立場から考えると、少し言い過ぎではないだろうか、確かに低所得者に対する配分の問題、もっと個人消費を伸ばしていく目標ということはおっしゃる通りと思うのですけれども、しかしやはり生産力が将来の賛金アップの原動力になり、また日本経済中心になっていくという意味において、今日の過度成長が適切だとは申しませんけれども、日本経済の持っておる、内蔵しておる要因から、やはりある程度出てくるというのはやむを得ないのではないか、こういうふうに考えるのですが、どうでしょう。  それから、それと関連して、やはりある政策的な意欲を持って長期的にいろいろな経済政策を進めていく場合に、非常に短期的にものを見るか、もう少し長期的にものを見るかということで、若干角度が違ってくると思いますが、やはり将来世界のブロック経済が解かれて自由経済になっていくという形において、日本経済の二重構造も解消していくという形で、民間投資、個人消費のバランスがとれていくということは当然のことだと思うのですけれども、現段階でその評価をどうするか、たとえばソ連の経済等、長洲先生詳しく御承知と思いますが、やはり工業等を伸ばすためにある程度消費を押えるということも、一時的には考えられておるわけです。そういったことを、一つごく簡単でけっこうですから、お願いします。
  119. 長洲一二

    ○長洲公述人 先ほどの御質問とも関連していると思いますので、多少繰り返しになるかと思いますが。おっしゃるように、確かに個人消費は着実に絶対額が伸びておりますので、そのことは私は大へんけっこうだと思います。ただ私の申したいことは、やはり相互関係のバランスでありまして、そういうバランスから考えますと、もう少し伸びられるのではないだろうか、たとえば社会保障にいたしましても、ことしは二0%くらいの伸びでございましょうか、社会保障の関係は総予算の伸びに比べますと伸びておりますけれども、やはりもうちょっと伸ばすことができるのではないだろうか、そういう点でのバランスを私としては申し上げたわけでございます。  二番目に、確かにおっしゃいますように、蓄積をいたしませんと生産力が伸びません。その点はまことにおっしゃる通りでございますが、私が出しております問題は、御説のように設備投資がいささかアブノーマルに多過ぎたのではないかということと、もう一つは、蓄積資金というものを、ほんとうに国民経済全体として国際競争力を高めるような方向に、有効に使われているかどうか、先ほど申しましたコンビナートの例が、それだけが適当な例かどうかわかりませんけれども、日本全体に十数カ所も作りますと、一つ一つ見ると非常に中途半端でやり足らない。しかし全体を合わせると、明らかにこれは石油化学の設備としてはオーバーである、こういう非常に非能率なことが起こっているのではないか。そういう点で、個人消費の比率を高めまして、かりに高めて欧米並みにいたしましても、それだからすぐ生産力が発展しないというようにはならないで、もう少し国民的な資金の合理的な使用の方法、これは一口に言えば金融体制の問題でございますが、それをもう少し懸命に考えて、現在行なわれているような過当競争のようなことを何とかもう少し統御できないだろうか、そういう形で問題を考えたいわけでございます。従いまして、また国際競争力という点にいたしましても、もちろんEECとの競争とかアメリカとの競争という点もありますけれども、これもやはりいわゆる自由化という形で今いわれておりますが、御承知のようにおもに欧米だけでございます。たとえばアジアにつきましては、自由化なんというものは問題になっていない、そういうアジア諸国に対する貿易をどうするか。ことに先ほど来問題になっておりますような中国市場の問題を一体どうするのかというようなことは、やはり単なる今いわれておりますようなEECに対抗するための国際競争力ということとは別個に、貿易構造全体、貿易政策全体について、もう一ぺん考え直す余地があるのではないか、そういうかなり全面的なことを考えた上でないと、消費比率を高めたから生産力の発展が阻害されるのではないかというふうには、簡単には言えないのではないかということが私の申し上げたい趣旨であります。
  120. 山村新治郎

    山村委員長 それでは、井手以誠君。
  121. 井手以誠

    ○井手委員 長洲先生に二点だけ簡単にお伺いいたします。  第一は、先刻先生は個人消費は総生産に対して四0%台だと説明をなさいましたが、政府の説明は、来年度十七兆六千億に対して九兆五千億になっておりまして、五三%だと言っておるのであります。どこにその違いがあるのか、それが第一点であります。  次に、現在の不況対策について、政府はお話のように、金融引き締め中心でございます。国際収支をこの秋に均衡させると申しておりますが、ときに国際収支が黒字になるということがあっても、そう簡単に黒字基調になるとは、私はどうしても考えないのでありますし、また重なる設備投資の、いわゆる三カ年に十兆円近い設備投資によって過剰生産に陥る、今政府はこの景気調整を割に簡単に考えておるようでありますけれども、私はどうも過剰生産などを考えると、恒常的な不況に陥りはしないかという心配を持っておるのであります。本年も昨年と同様な三兆七千億の設備投資を考えておるわけでありますから、その点に対する先生の政治的な、あるいは身分的な立場を離れた、良心的な景気見通しを一つ卒直にお話し願いたいと思う。それでは一体どうすればいいのか、今まで先生の論文を見ますと、設備投資を押えろということが常に言われておりますが、どうすれば押えられるのか、今の機構のもとでどうすればいいかということを、一つ項目的でけっこうですからお教え願いたいと思います。
  122. 長洲一二

    ○長洲公述人 まず最初の点でございますが、これは計算の数字がちょっと違います。個人消費が五三%でございますか、そういうふうに申しましたのは、これは総生産と比較した個人消費でございます。私が申し上げましたのは総需要でございまして、総需要の場合には、個人消費と民間投資政府財政支出と、それから輸出と、この四つの需要を合計したものが総需要でございますが、総生産という計算になりますと、そこに輸出輸入の差額が入ります。そのために総需要よりも総生産の方が数字が少し小さくなります。それで分母が小さくなりますので、消費比率が少し上がるわけでございます。ただ、市場問題というふうに、だれが買うのかという需要の面から考えますと、私は、輸出輸入の差額というだけではなくて、一応総生産輸入を加えて総供給を考えまして、それを全体でだれが買うか、こういう計算をした方がよろしいと思いますので、総需要を分母にして計算したわけでございます。その点で少し数字が狂って参ります。これはただ数字の取り方でございます。  それから二番目の景気見通しでございますが、これは正直のところ、身分その他を離れて良心的にということになりますと、実は短期的な見通しは、私もちょっと今のところ十分つきかねます。ことしの景気がどうなるかということは、よく私にもわかりません。ただおっしゃいますように、ここ数年間の猛烈な設備投資の中で、今までは設備投資がおもに買いに回っておりました。設備を作るためにいろいろな原材料が売れていく、機械も売れていく、こういうことでございますが、その設備投資が一巡しますと、今度は物を作って売りに回るわけでありますから、非常に供給力がついてくる。この市場問題を一体どう考えているのか、どう解決するのかということが、これからの日本経済としてはかなり深刻な問題になってくると思います。そういう点で、売り先をいかに見つけていくかという市場問題が、今年以降かなり重要な深刻な問題として顕在化してくるであろう。それがすでに部分的には過剰設備の問題、過剰生産の問題というようなことを潜在的に進行させているわけでございまして、そういう点では、景気見通しは私は必ずしも明るくないと思います。従いまして、その市場を何とかして確保していくためには、結局、今申しました総需要のうちの四つの項目のどれかをふやしていくということに最後のところはなるわけでございますが、輸出見通しは、私はそう簡単に楽観はできないと思います。従いまして、私はそういう市場問題を考えた上でも、やはり安定的な個人消費市場が四割台に落ちているというこの異常な状況を何とかして解決していかないと、国内消費市場拡大ということを本気に考えていかないと、かなり深刻な不況問題がやはり迫っているのじゃないか。そういうことがきちっとやられていって、初めて輸出なり、あるいは場合によっては公共投資でどんどん民間の品物を買っていくということもあるかもしれませんけれども、そういうようなことがおかしな方向にいかないで済む。そういう点から考えましても、個人消費比率を高めていくということは、最近市場問題が次第に顕在化してきた、猛烈な勢いの設備投資を通ってきた今後の日本経済の中から、経済論理の上でも非常に重要な課題になってくるであろうということを私は感じているわけでございます。そういう経済論理の上からも、何か今までのところは、景気が悪くなると、すぐできるだけ買わないように買わないように、耐乏生活というふうに言っておりますけれども、私は論理としてある意味で逆なんです。景気が悪くなったときに、とたんに国民がぜいたくをし過ぎているというような号令をかけるべきではないというのが、むしろ私の言いたい点であります。
  123. 山村新治郎

    山村委員長 以上をもちまして両公述人に対する質疑は終了いたしました。  公述人各位には長時間にわたり貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。(拍手)  次会は明十四日午前十時より開会して、昭和三十七年度予算についての公聴会を続行することといたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時三十七分散会