○佐藤国務大臣 大へん便宜をはかっていただいてありがとうございました。
今の輸出四十七億、輸入四十八億という、この数字でございます。今までしばしば言われておりますことは、一国の輸出に向かう普通の金額というか、数量というか、総生産に対して一割前後は可能だろう、こういうことがいわれております。これを基礎にして考えてみますと、四十七億という数字は、総体的に非常に困難な状態の数字ではないということが実は言えると思います。だがこの点は、四十七億というものが非常に目標の高い数字ではないかという総体的なことが言えると思います。問題は、しからば三十六年の輸出の実績等から見て、三十七年に四十七億に進めるという、その具体的方策は可能かどうか、こういう問題であります。ことに三十六年の輸出が伸びなかったことは
一体どこにあるのか。総生産の一側というならもっと出たはずだが、
一体どういうわけだ、こういうことですが、三十六年の輸出の伸びが悪かったことは、何と申しましても国内の内需が旺盛だったということが、輸出を相当阻害しておる一番大きな要因ではないかと私は見ております。また一部国際市場の変動と申しますか、いわゆるアメリカのドル防衛なり、あるいは輸出ドライブというか、そういうような事柄も
日本の輸出が伸びるという面において、また悪条件であったと思います。
ところで、最近の国際収支の改善をはかることがただいまの私
どもの
責任であり、また経済界の協力を得る第一の使命だ、かように考えまして、最近におきましていわゆる設備投資の抑制がある程度効果を発揮したり、あるいはまた言われておる輸出マインドというものが
国民の間に非常に強くなってきたり、あるいは内需についての鎮静も設備投資の抑制と並行して行なわれておる。こういうことでいわゆる輸出を進めていく、そういう方向の素地は今日できつつあると思います。
問題は、しからば外国の市場に対してどういうような見通しを立て得るかということだと思います。私が申し上げるまでもなく、御
承知のように対米貿易のアンバランスというものが、
日本の国際収支に大きな影響を与えておることはもちろんでございます。ことに先ほど申しますアメリカの輸出ドライブという政策、これが非常にきいてきていると思います。それに対する対策として、私
どもが対米経済外交を全面的に展開しておる、あるいはAIDの資金の使い方についても、あるいは綿製品の賦課金の問題について真剣に取り組んでおることは、御
承知の
通りでございます。また私
どもが対米市場を見ました場合に、アメリカの市場と一言には申しますが、あの膨大な国で、とかくニューヨークを中心にしての東部に
日本の輸出が集中されておる形もございます。それで、そういう事柄が
日本の輸出について非常に批判を受けておるようでございます。アメリカ自身は広い市場でございますから、もう少し東部以外の地域に対しましても輸出の市場を開拓していく、あるいは貿易品の品種をふやしていく、こういうことによれば、最近のアメリカの経済成長政策とも相持って、必ず今日の状況をもう少し改善できるのじゃないか、かように実は考えております。
また欧州の市場、EEC等ができて、あるいはこれがブロック化し、
日本は締め出されるのじゃないかという言い方も一部にございますが、同時に一億七千万の人口を擁する大きな経済圏ができるということでございますから、この
意味においての経済の拡大、これにはやはり
日本も輸出の面、市場として協力する余地はもちろんあるのじゃないかと思います。基本的な、いわゆる戦前の経済ブロックの思想は、あらゆる機会にこれを打破して参るつもりであります。その場合に、私
どもが特に経済の外交の面で努めていただきたいと思いますことは、工業先進国が
日本に対して各種の差別待遇をいたしておりますが、この差別待遇の廃止あるいは緩和等を外交の面で交渉を持つことであります。あるいはまたいわゆる低開発国に対しての経済協力、これを総合的に効果あらしめるような努力をすることだと思います。
また国内の資金的な問題にしては、何と申しましても輸出入銀行その他の経済協力資金等の資金の確保なり、あるいは輸出が円滑にいきますように輸出保険制度を整備するとか、あるいは強化するとか、あるいは輸出金融の円滑化をはかる等、各種の施策を実施することによりまして、本来可能なこの四十七億というその目標を達成したい、こういう
意味で各界の協力を得る、そういう努力をいたすわけでございます。
それから四十八億ドルの輸入ということに対しては
一体どうなるか。今
日本の鉱工業生産等の伸び、経済の発展等から見て、過去の実情等から言えば、四十八億ドルに押えることは非常に困難ではないか。これはなかなか困難なことだと思います。十分協力を得なければならぬと思います。ただ私は、昨年の九月以来輸入抑制について
政府がとりました諸施策、輸入担保率の引き上げであるとか、あるいは国内金融の問題であるとか、あるいは業界の協力等、それらが、ようやくある程度最近の輸出入の信用状等に現われておりますように、効果を免じつつあるように思います。
もう
一つの問題は、国内の生産をささえておる原材料の在庫が、
一体今日まで適当な数量であったかどうか。言いかえますならば、在庫投資が昨年は相当あったのではないか、こういうことも実は最近いわれておるわけであります。いわゆる設備投相当過大と同時に、輸入在庫の数量も相当多いのではないか。これは、私
どもかように申しますのは、最近の鉱工業生産の実態等を見ました際に、輸入を押えてきておるにかかわらず、鉱工業生産はあまり鈍化しておらない。その実情等から見ると、ある程度の輸入在庫があった、蓄積がある、こういうことが実は言えると思います。この輸入在庫の蓄積を、今後は輸入抑制の結果、ある程度食いつないでいく、そういうような形に進むのではないかと思います。そうすることが
一つの、国内生産を維持しながらも、同時に輸入を押えるという方向の効果が上がるのではないかと思います。
この前も一言簡単な
答弁をいたしたのでございますが、最近自由化がどんどん進んでおりますし、その
立場から見ると、輸入は非常に楽ではないか、そうすると、
政府はそういうふうに考えても、四十八億ドルに押えることは困難ではないかというお話があったと思いますが、私は、この為替も、同時に国内の金融の実態と密接な関連のあるものだ、かように心得ておりますので、国内金融の引き締め状況がいましばらく続く現状のもとにおいては、この輸入を四十八億ドルに押えることも、これまた可能ではないかと思います。
もちろんかように申しましても、私は輸入、輸出について楽観をいたしておるわけではございません。また今日の国内の経済情勢そのものが、いわゆる引き締めの効果が上がり、調整がすでに実績、効果を上げつつあって、将来に非常に見通しが明るい、かような楽観的な
議論をしておるわけではございません。ただこの新年を迎えまして、この結果輸出入信用状等について黒字が出る、あるいは輸入の実績が通関ベースにおいても横ばい、あるいはやや減っているとか、こういう数字が出ておりますので、これらは少なくとも将来を見通すものの
一つの好材料としては取り上げたいと思います。しかし今日まで国内金融を引き締めて参っておりますので、この状態をもしも短期間のうちに緩和することがあれば、おそらく財界は一ぺんに走り出す、こういう危険もまたあると思いますから、そういう
意味において、十分警戒を要する問題だと思いますが、そういう
意味においてのPRも十分いたしまして、そうしてただいまの柱になるような点、これについての財界、金融界の十分の理解と協力を得て、そうして本来の目標の数字を達成したい、かように考えておる次第でございます。