○東海林稔君 私は、ただいま議題となりました
農地法の一部を改正する
法律案並びに
農業協同組合法の一部を改正する
法律案の二法案につき、
日本社会党を代表して反対の意思を表明せんとするものであります。(
拍手)
両法案は、ただいま委員長の報告にもありました
通り、昨年
政府・自民党が強行成立せしめた農業
基本法の関連法案として、相当の間問題となってきた法案でありまして、
政府基本法の最も重要な
考え方の一つであるいわゆる農業構造
改善を具体化するための法案であるわけであります。
昨年、農業
基本法案の審議にあたりまして、わが党は、共同経営の推進、農産
物価格支持制度の確立等を中心とするわが党独自の
基本法案を提案するとともに、
政府の
基本法は、
池田総理自身農民の六割削減を公言した
通り、その本質は、一言にしてこれを言えば、低
賃金維持のための小農いびり出しの悪法であって、その
目的に麗々しく掲げておる農業の
生産性を高め、農業従事者と他産業従事者との所得の
均衡を実現するということは、およそ無縁のごまかし法であることを指摘したのであります。(
拍手)自来わずか一カ年ではありますが、現われている結果は、まさにわれわれの指摘した
通り、農業と他産業との格差はいよいよ
増大して、農民の多数は経営に自信を失うとともに、正直に
政府の言うことを信じていては、ばかを見るだけだとして、
政治への不信をも高めつつあるのであります。農にとどまるも前途に明るい希望はなく、さりとて転業するにもよくなるという確信を持ち得ないまま、混迷の中に悩み苦しんでおるのが、今の偽らざる農民の姿といわねばなりません。
すなわち、われわれの両法案に反対するまず第一の理由は、このように他産業に転出して
生活の安定、
向上を期し得る何らの確たる保障もないまま、小農民をいびり出そうとするところの、構造
改善どころか、無慈悲きわまる構造改悪を一そう推し進めるための法案であるところにあるのであります。(
拍手)
第二の反対理由は、今回の改正案は、戦後
わが国民主化の基礎をなした農地改革の成果を、大きく後退させるものであるからであります。
現行
農地法は、
昭和二十七年、農地改革の
根拠法であった自作農創設特別措置法と農地
調整法並びに両法の適用を受ける土地の譲渡に関する政令の三者を合一して、講和
会議後の新しい
情勢に適合するよう制定せられたものでありまして、農地改革の成果を維持し、さらにこれを発展せしめることをその重要な役割といたしておるのであります。しかるところ、ここ数年来、一般的な復古調に加えて、
政府の
農地法順守についての熱意を欠く点からしまして、農地の不法転用、やみ小作料等の違反事例は枚挙にいとまないほどであり、一方、同法の積極的な面である農用地拡大のための未開墾地の取得は、現に規定がありながら、予算の削減と地主の反対のためにほとんど空文化し、いわば開店休業のありさまにあるのであります。かくて、農地改革の成果は年とともにだんだんくずれてきておるのでありまして、われわれのはなはだ遺憾とするところでありますが、ここに
農地法とともに
農業協同組合法を改正して、新たに農地信託制度を設けて、不在地主を容認し、また、農業
生産法人に対する貸付地についても限度以上の小作地所有を認め、さらに一般農地の所有制限を緩和して大農の発生を認めようとする等の諸点は、明らかに地主制度復活の糸口を開く危険と、農村の階層格差をさらに
増大する危険とを多分に包蔵しているものと断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)もし万一この両法案が成立するがごときことありとするならば、歴史的な
わが国農地改革の成果は著しくそこなわれ、農村の民主化は大きく後退せざるを得ない結果となることは、けだし必至であります。
第三の反対理由は、両法案は、現にやかましい論議を惹起しておる旧地主に対する農地補償問題と密接につながっておることであります。
御
承知の
通り、
政府は、
昭和三十七年度予算に、農地改革によって農地を買収された旧地主に対し、
国民金融公庫を通じて融資するために二十億円を計上したのであります。そして、これを生業資金に限定するか、−それとも
生活資金にまで拡大するかについては、
政府と与党の間にかなり長い間ごたごたが続いた結果、最近に至って、ついに議員立法として、
生活資金にまで利用せしむる趣旨の法案を提案するに至ったのでありますが、自民党の農地問題協議会は、さらに本格的な地主補償として、二千数百億の巨額に上る交付金の交付法案を作成して、これを今
国会に提案を強行しようと意気込み、目下党幹部を初め、
政府当局は、これが処理に頭痛はち巻の体であることは周知の
通りであります。(
拍手)
旧地主の補償については、二十八年の
最高裁の判決、すなわち、農地改革における農地の買収価格は適正であるとの最終決定によって結論が出、その後
政府も同判決に基づいて、しばしば旧地主の農地補償は一切いたさない旨を言明してきたところでありまして、農地被買収者問題調査会の使命も、旧地主の現在の実態を調査するとともに、
社会的な
意味から何らか措置が必要であるかいなかを審議、答申することにあって、農地補償についての是非を審議することとはなっていないのであります。しかも、先般発表された同調査会の調査結果によれば、旧地主の
現状は、全体としては一般に比べて悪くないという結果が出ておるのでありまして、
対策については目下審議中で、答申は未
提出であるのであります。このような
状態のもとで、前述のごとく二十億の融資予算を計上したことについては、同調査会委員からも、調査会軽視として強い不満が表明され、一般世論もまた一様にこれを
批判しているときに、さらに法外な補償を強行しようとするがごときは、まさに常軌を逸したものというべく、参議院選挙を前にしての党利党略以外の何ものでもないと断じても決して過言ではないと思うのであります。(
拍手)
ところで、河野農相は、本両法案と関連し、地主補償問題について、委員会の質疑に対して次のような見解を表明しておるのであります。重要な点でありますので、速記録の
通り申しますと、「今提案されておりまする二つの法案は少なくとも農地解放当時のあり方と違ったものが出てきておる。たとえばそれが一反歩であろうが三反歩であろうが、出征とか都市に在勤するとかいうようなことであっても不在地主として所有を認められなかったものが、今度はその道を開くようになった。時勢の変化とはいいながら現実はその
通りである。従ってこれをどう扱うかということは
政治的に一応考慮の
段階にあると私は
考えます。ただしそれは補償すべきものか補償すべからざるものか、これをそのままにしていくべきものか、何らかの処置を講ずるかということは、わが与党並びに
政府によって
基本的なものが決定さるべきものである。その決定に従って私は善処いたします。」こう言明されておるのであります。すなわち、お聞きの
通り、補償は従来一切しないと言ってきた
政府の言明をくつがえして、補償については再検討すべきであり、実施するかいなかは今後決定すべき事柄であるとし、しかも、再検討の理由はこの二つの法案、すなわち、
農地法並びに
農業協同組合法の改正にあることを明らかにしておるのであります。
私は、昨日の委員会において、特に
池田総理に対して、
総理従来の言明とこのような河野農相の
考え方の相違を指摘して、
総理の所信をただしたのでありますが、
総理は、党の交付金交付法案についてはまだ報告を聞いていない、補償については、従来の言明
通りこれをしないという
態度は現在も何ら変わっていない旨の
答弁をなされたのであります。このように補償についての
総理と農相との
答弁には明白な
食い違いがあり、そのこと自身もきわめて重大なことではありまするが、私がここに特に声を大にして指摘したいことは、河野農相みずからが説明しておるように、この両法案が旧地主の農地補償に新たに
根拠を与えようとしている点であります。すなわち、今回の改正によって農地信託制度のごとく、
わが国農民になじみもなく、しかも、これを行なうかいなやは各農業協同組合の自主的判断による以上、全国的に一律に実施されるという制度でもなく、委員会の審議においても明らかになった
通り、
政府自体がさっぱり自信を持ち得ないほど実際
効果の乏しい規定を設けて、法制上ことさら不在地主を認めようとするようなやり方や、さらに先ほど第二の反対理由の際に述べたような反動的な改正とが相待って、旧地主や反動
政治家に補償請求の口実と勇気を与えておることは明白な事実であります。(
拍手)かくのごとき改悪をあえてなさんとする
政府の意図那辺にありやを疑わざるを得ないのであります。もちろん旧地主の中にも、実際に
生活に困っておるお気の毒な方のあるのは事実であり、従って、このような方に対して、国が
社会保障の
立場であたたかい手を差し伸べることについては、われわれも当然と
考えるのでありますが、現に自民党がたくらんでいるような
最高裁判所の判決に反するがごとき農地補償については、
日本社会党は絶対反対であり、従って、意識的であるかいなかはしばらくおくといたしましても、いやしくもこれを促進する結果を招くことが明らかな、このような法の改悪については、とうていこれを許すわけには参らないのであります。(
拍手)
以上、私は、反対の理由としておもなる点を三つあげ、説明いたしたのでありまするが、これを要するに、本両法案は、共同経営のための農事組合法人並びにその農地等の権利取得に関する規定整備を除いては、何ら農業の近代化と農民の福祉増進に役立つものではなく、反対に農村の民主化を妨げ、農民の窮乏に拍車をかけるきわめて悪質な反動立法であって、われわれの断じて容認し得ないところであります。
最後に、一言申したいのは、わが党の公開
質問状に対する
政府並びに自民党の無
責任な
態度についてであります。三月三十日、わが党は、最近の反動目に余る自民党
政府の農政に対し、強くその反省を求める
意味において、
池田総理並びに
池田自民党総裁に対して公開
質問状を発し、本月五日までに回答を要求したのでありまするが、今日に至るも、いまだ何らの回答がないのであります。まことに遺憾しごくであり、このことだけでも
政府並びに自民党が、農政について、全く自信を喪失していることをみずから告白していると申すべきでありましょう。(
拍手)
この際、
政府は、飽くことを知らない貪欲独占資本の勤労農民搾取に法律と国費をもってお手伝いしているような今の反動農政を一日も早く改めて、
ほんとうに農民が明るい平和な農村を喜び、すべての
国民とともに、平和憲法が保障しているごとく健康で文化的な毎日を楽しむことができるような、正しくしかも愛情に満ちた農政確立の方途を再検討することこそ、
緊急の責務であるということを
最後に警告して、私の
農地法の一部を改正する
法律案並びに
農業協同組合法の一部を改正する
法律案、両法案に対する反対討論を終わる次第であります。(
拍手)