○春日一幸君 私は、民主社会党を代表して、ただいま
趣旨説明のありました自民、社会各
党提出にかかる
中小企業基本法各案について、それぞれの
提案者並びに
政府に対し、以降
基本的な諸点について疑義をただしたいと存じます。
まず、池田総理にお伺いをいたします。
わが国経済の
現状にかんがみ、
中小企業の安定と
振興をはかるためにこの種の
法律を制定せよとの論議が、ここ数次の
国会にまたがって繰り返し強調せられ、総理並びに所管通産
大臣は、そのつどそれにこたえられて、
政府は、この
国会会期を目途としてその
法案を
提出するよう努力するとかたく言明せられて参りました。また、一昨年来の
中小企業諸
団体のあらゆる大会の中心スローガンは、すなわち、この
中小企業基本法の制定を強く要望するものでありましたが、この大会に臨まれた
政府・与党の代表は、政権担当者たるの責任において必ず今次
国会においてこれを制定すると揚言せられ、そのたびごとに万雷の
拍手をかちとられたのであります。
しかるに、今次
国会の会期まさに終わらんとするこのとき、池田内閣はその公約、言明について何らこれを語らず、これを変則異例の議員
提出にゆだねられたことは、まさに本問題に関する内閣の責任をくらますものでありまして、むしろ陋劣なる態度と申さなければなりません。申すまでもなく、議院内閣制、政党政治のもとにおいては、与党と
政府はその
政策と政治
方針において全く同一でなければなりません。ここに自民党は、
中小企業基本法案について、現にこのように成案を得られたにもかかわらず、みずからの内閣をしてその
法案を
提出せしめ得ない
理由は何であるか、また
政府は、みずからの与党が決定したこの
法案を、何がゆえに
内閣提出の
法案として取り上げ得ないのであるか、一つは、自民党総裁の
立場において、他は、
内閣総理大臣の責任において、これらの
事情について、広く国民を納得せしめるよう、明確なる御
説明を願いたいのであります。
次は、通産
大臣に伺います。
仄聞するに、この自民
党案は、さきに、一たびは
政府提出の意図のもとに通産省の検討にゆだねられたが、通産省は、これを検討の後、自民党に返上され、その後、それが今回の自民党の
提案となった由に承っております。そこで伺いたいことは、
政府としては、いかなる点に問題ありとして、これを党に返上されたものであるか、しこうして、そのいわゆる問題点なるものは、今回の自民
党案においては、それが解消されて
提出されたものであるのか、もしそれ、その問題が解消されているとするならば、
政府はそれを
政府提案となすべきであろうし、また、解消されていないとするならば、その問題点について、
政府は、今後いかなる方向においてそれを解決せんとするものであるか。このことは、この
中小企業基本法が、今
国会において成立し得るか、またはゼスチュア・ゲームの小道具として、ほどよくあしらわれるかの重大なるキー・ポイントであると
考えますので、この際、通産
大臣よりその経過の御
説明を願い、あわせてこの自民
党案に対する今後の
政府の
方針を明らかにいたされたいと存じます。
次は、本
法案が目的とする
中小企業の安定と
振興をはかるための内閣の
基本政策について、藤山経企長官にお伺いをいたします。
池田内閣の成立以来、
わが国の
経済は、その
経済の高度
成長と
所得倍増
政策にあおられて、一時は相当の好
景気を描きはいたしましたが、幾ばくならずして反転して、その後、それが国際収支の逆調、物価の値上がり、全産業をおおう
金融梗塞、株価の暴落などを招来して、
わが国経済とその
国民生活は、今や著しく困難を加うるに至りました。特に憂うべきことは、
企業間、階層間において、その
所得格差が
増大しつつあることであります。現に大
企業の
発展は目ざましく、その工場やオフィスは冷暖房を完備して宮殿のごとく、これに反して、その底辺には無数の零細
企業が何の
変化も
発展もなく、十年一日のごとく重労働と低
所得の中をはい回っておるのであります。従って、
関係労働者の賃金は、その
企業所得をそのままに反映して、これを労働省の毎月勤労統計
調査に見れば、昨三十六年度の
企業規模別賃金対比率は、大
企業のそれを一〇〇とすれば、三十人以下の
中小企業労働者の賃金は、その半額に満たない四九・三にしかすぎないことを報告しておるのであります。同じ
政府のもとに生きる同じ国民が、一方は、このように繁栄と幸福を満喫し、他のものは、かくも貧困と苦渋の中に金縛りされておることを池田内閣は何と見るか。ある
経済学者は、
わが国経済の
現状を二重構造なりと指摘し、また、ある評論家は、これを不安定きわまる逆ピラミッド型と戒めておるのであります。実に
わが国産業
経済の生態は、大
企業の側がいよいよ隆盛に、
中小企業、零細
企業の側が次第に衰退して、これは、いうならば、脳天肥大症、胴体萎縮症を併発したかたわ者と申さなければなりません。これは、まさしく長年にわたる大
企業偏重の
資本主義
政策の強い矛盾の現われにほかなりません。今こそ、
政府と
国会は反省をきびしくして、すみやかにこのゆがみを是正するために、まずもって国民
所得の均衡をはかるここを第一義とし、この
経済構造の画期的な改革を断行せなければ相なりません。かかる要請にこたえんとするものが、実にこの
中小企業基本法案であると思うのであります。
しかる
政府は、本院に三分の二の絶対多数を占める与党を有しながら、この重大時期において、この深刻なる大問題に対して積極的な
施策を何ら講じようとしないのは、いかなる認識に基づくものであるか。ここに、社会党も、わが民社党も、しこうして、失礼ながら、与党たる自民党までもが、事態遷延を許さずとして、ここに
わが国経済の改造に必要なる
政策の
基本を提示いたしておりますが、内閣がこれに対し冷ややかに緘黙して何ごとをも語ろうとしないのはどうしたことか。(
拍手)藤山
経済企画庁長官は、
わが国産業
経済のこのようなあり方についていかなる見解をお持ちであるか、しこうして、
経済の高度
成長と
所得倍増をはかる長期計画において、
企業間、階層間の
所得の均衡を確保するためには、いかなる
施策が必要であると
考えられるか、池田内閣の
経済政策の
基本について、その責任をになう藤山経企長官より、その認識とこれが
政策について、この際これを国民の前につまびらかにいたされたいと思います。
次は、自民
党案の
基本理念について
提案者にお伺いをいたします。
自民党は、
わが国経済において、
企業間、階層間においてかような
所得格差を発生せしめた原因と、しこうして、
中小企業の
存立条件をこのように著しく不利に陥れたる
理由を何と理解されておるのであるか。この
実情を的確に把握することなくしては、その対策は正鵠を期し得ないと思うのであります。われわれは、それは
資本主義
政策の長年にわたる大
企業偏向の行財政が因果相からみ、重なり合って、ついにこの結果を招いたものと判断せざるを得ないのでありますが、自民党の御反省はいかがでありましょうか。
また、自民党は、この
法案の前文に、
経済秩序の法則を、もっぱら自由にして公正なる競争の原則の中に求めておられますが、特に重視してお伺いいたしたいことは、ここに自民党は、その際、優勝劣敗と弱肉強食とをいかなる限界において区別せんとするものであるか。また、
資本主義自由
経済は、その
発展の度合いに正比例して、大
企業と
中小企業との
経済力の
格差を造成する
基本的性向を持つものと思うが、ここにその
格差を解消しつつ、将来にわたってこの種の
格差の発生を防止するための自民党の
基本的対策はどのようなものでありましょうか。自民
党案は、これらの重要なる
基本的諸問題について、その態度が全くあいまいであるばかりでなく、わざとその病根に目をそむけ、ことさらにその治療を回避しているものでありまして、いうならば、この
法案は、大
企業に著しく気がねしながら
中小企業に色目を使う、まさによろめき
法案といっても過言ではないのであります。(
拍手)自民党は、これらの
基本問題についてさらに検討を加えられて、真に実効の期待できる
政策の
基本路線を設定し、もって議会第一党たるの責任を果たされるべきであると思うが、これらの諸問題・について、
提案者の御所見をお述べ願いたいと存じます。
次は、自民
党案における
中小企業の
組織方針について伺います。
ここに
中小企業者の
事業活動の基礎となるものは、自主的にして民主的な協同
組織であると思われるのであります。自民
党案は、これに関し、ただ漫然と
中小企業者の
組織を
助成するというのみで、その
事業活動を
発展せしめ、その効率を高めるための協同
組織の方向について何ら明示されるところがありません。
現行の
中小企業の協力
組織は、
団体組織法と環衛法が重複、錯綜しておるばかりでなく、それには欠陥や抜け道が少なからずあって、ために、いまだ完全なる機能を果たし得てはおりません。これに対して民社党は、この際これが根本的解決をはかるために、英断をもって
団体組織法と環衛法を
発展的に解消し、これにかわって、府県を一地区とする
業種別同業
組合を
組織する同業
組合法を制定し、これをもって
中小企業の協同
組織の根幹に据えるべきであると
考えるが、これに対する自民党の御見解をお示し願いたいと存じます。
次は、
中小企業の
事業分野の
調整について伺います。
昨今の
中小企業問題の中心的非難
事項の一つとして、大
企業の
中小企業産業分野への
進出のことがはなはだ深刻に取り上げられるに至りました。たとえば子供が楽しんでおる土俵場に横綱、大関が飛び入ってこれに勝負をいどめば、その横綱、大関がことごとく勝利を独占することは当然でありますが、およそ、かかる勝敗を、競技の法則はこれを正当なものと認めるでありましょうか。ここに大紡績が縫裁加工に、電気メーカーがガス、石油器具に、私鉄会社が陸上小運送に、精糖会社が菓子ケーキ類と、これは
生産と流通の各部門を扱って、まさにジェット戦闘機からエプロンまでといわれるほどに、大
企業はその巨大なる
資本力をかり立て、奔放無拘束に
中小企業の
事業分野に侵入し、思うがままにそれを席巻しておるのであります。もしそれ、かかる
状態を、この先ともに、これを弱肉強食の推移にゆだねますならば、大
企業の暴威はやがて産業の全体を包んで、
中小企業はその中で悶絶するに至りましょう。今こそ
公共の
福祉のために、これに対して公正なる規制の
措置が断行されなければなりません。自民
党案は、この問題について若干
調整の意図を瞥見せしめてはおりますけれども、その対策をいかに講ずべきか、
法案のいずこにも何らその方向を明示するところがありません。
民社
党案は、これが対策として、
中小企業による
経営が
経済的に、また社会的に適切であると認められる
業種については、これを
中小企業産業として法定し、もって
わが国の
経済活動のいずれかにすべての国民を能力に応じてその所を得せしめんとするものでありまして、われわれは、この種の法的
措置を行なわずしては、今後の
経済社会において公正なる
経済秩序を
確立することは不可能であると思うが、これに対し、自民党の
提案者よりその御見解をお示し願いたいと存じます。
次は、下請
企業に対する諸問題について伺います。
今や、下請代金支払いの遅延、下請単価の不当な切り下げ等、これら下請
企業の
経営をして、生かさず殺さずのせとぎわに浮動せしめ、常にそれを不安にさらしているのでありますが、自民党はこれらの大
企業のする
経済的悪徳行為に対し、この際、民社
党案のごとく積極的にこれを規制するの御意思はないか、この点について、
提案者よりその対策について述べられたいと存じます。
次は、
金融について伺います。
自民
党案は、その第十二条において、
中小企業金融の
拡充についてそれぞれ画期的な
方針を打ち出されました。特に
中小企業者に対する融資が優先的に確保されるよう、民間の
金融機関を
指導することと、
中小企業者に対し行なわれる融資の
貸付条件が大
企業に対して不利とならないよう
措置をとることの二項目は刮目に値するものでありまして、深く敬意を表します。ここに
中小企業は、
わが国総雇用の七二%、総
生産の六〇%、総輸出の五二%を占めているのでありますから、これらの
経済活動を行なうためには、当然にしてそれに比例した
資金量を必要とすることは言うを待たないところであります。しかるに一
わが国金融機関の貸出実績に徴するに、現にその総貸し出し十四兆円のうち、なかんずく、
中小企業はわずかに六兆未満であって、これに比べ、大
企業は、実に八兆円の多くを独占しているのであります。まことに順逆の転倒はなはだしく、あたかも
中小企業が栄養不足のまま重労働をしいられておるようなものであっては、これでは、
わが国経済がこのようにかたわになることは当然の帰結であります。今こそ、
経済悪の根源とも目すべきかかる
金融のあり方に対しては、
国民経済の名において、最もすみやかに根本的な斧鉞を加えなければなりません。すなわち、
中小企業金融を確保するためには、第一に、各
金融機関の貸し出し
資金について、それぞれ
中小企業への特別ワクを法定すること、第二には、大
企業に対する
集中融資、
系列融資を制限することが緊急にして不可欠の要件であると思うのであります。自民
党案第十二条は、当然このような立法
措置を意図されてのことであると思うが、念のため、この際、
提案者よりその構想について、具体的に御
説明を願いたいと存じます。
次は、社会
党案について質問をいたします。
社会
党案は、
経済政策として相当に整備されたものではありますが、ただ、うらむらくは、将来の社会主義社会における
中小企業の地位とその
役割について論証されるところがなく、これでは
中小企業の
基本憲章として、その性格と使命が不明確かつ不安定であると思われるのであります。社会党は、将来の理想社会において、
中小企業にいかなる地位を与え、いかなる
役割を果たさしめんとするものでありましょうか。すなわち、社会党は、将来の社会主義社会における
中小企業の
経営は、それを
協同化と社会化と国有化などの諸形態のうち、そのいずれの方式をとらしめんとするのであるか、はたまた、
中小企業が私
企業として
存立することを容認するものであるのか。この点、社会党の綱領に基づいて、
提案者より御
説明を願いたいと思うのであります。
わが党は、これについてわが
党案の前文の中に、これを次のごとく明確に論証いたしました。すなわち、人は単一の
経済人にあらずして、習俗、習慣、趣味、嗜好を相異にする多元的存在であり、それゆえに多元的社会を形成するものである。ゆえに、この多元的社会における
中小企業は、社会化
企業と相並んで
経済活動の基礎をなすものであるとして、私
企業としての
中小企業の地位を永遠に保証し、かつ、それを重く使命づけておるのであります。これに対する社会党の御見解を、
提案者よりあわせて御開陳願いたいのであります。
次は、
中小企業の産業分野の確保に関する条項について伺います。
社会
党案では、
業種指定がなされた後における制限について、その後は新規の開業と拡張を禁止することにとどめ、大
企業が従前よりするその営業を継続することについてこれを容認しておることは、論理が一貫せざるのみならず、これは従来のこの種の立法の経験に徴し、これでははなはだしく弊害を生ずるのおそれありと思うのであります。すなわち、百貨店法や繊維機械
設備制限法制定の前後期には、法の規制に先んずるために、いわゆるかけ込み新増設が殺到し、ために、その
設備制限法は、事もあろうに
設備促進
拡大法のごとき逆現象を現出したことは、
提案者よく御承知の
通りであります。
わが民社
党案は、そのことをも深くおもんばかり、すなわち、
業種指定のあった後は、大
企業はその指定
業種に属する
事業は全く営むことのできないことにして、この
施策の効果を確保しつつ、あわせて脱法行為の発生を密閉いたしておるのでありますが、これに関する社会党の御見解をお示し願いたいと思います。
最後に、社会
党案にも、自民
党案にも、その
政策を
実施するための財政上の
措置が明示されていないことについて伺います。
これらの
中小企業政策を強力に推進するためには、当然のこととして、予算の裏づけが必要でありまして、それなくしては、いかにりっぱな
政策といえども、口頭の禅にひとしきものになりましょう。民社党は、この予算の確保については、その
基本法案第十七条において、必要にして十分なる予算を計上することを国の義務として明示し、
地方公共団体またこれに準ぜしめることにいたしております。これに対する社会党の御見解はいかがでありましょうか。
以上、私は、本
法案にかかる重要とおぼしき諸点について質問をいたしました。
私は、ことが
政策討議の場所でありますだけに、いささか苦説を交えましたけれども、翻って
考えますならば、待望久しかった本
法案が、幾多の困難を経て、ここに三党打ちそろってその
提案がなされたことについて、各
提案者の熱意に対し、ここにあらためて深く敬意を表します。もとより、この三党の三案は、それぞれの党のよって立つところに従って、それにはおのずから一長一短の特色がありましょうが、要は、われら
国会がこれらの
政策を着実に実現することにありと思うのであります。
願わくは、三党が今後の
審議三通じ、これら三案の長所を総合されて、全国四百万の
中小企業者と千七百万の
関係労働者の願望にこたえ、誓って今会期中にこの
中小企業基本法制定の大事を達成することのできますように、ここに
提案者の一そうの御奮起を望み、あわせて議員各位の御協力をこいねがいまして、私の質問を終わります。(
拍手)
〔国務
大臣池田勇人君
登壇〕