○西宮弘君 私は、ただいま上程されました
畜産物の
価格安定等に関する
法律の一部を改正する
法律案について、
日本社会党を代表いたしまして、
反対討論を行なおうとするものであります。(
拍手)
まず、
反対の
理由の第一は、この
法律の欺瞞性についてであります。名はいかにも
畜産物価格安定法ではありますが、
価格の安定ないしは所得の保障には何ら全く役立たないのみならず、かえって、逆に
畜産物価格を最も低いところにくぎづけするために利用されておるのであります。その具体的な一例をあげれば、去る三月末日農林省が決定した、原料乳は工場渡しで一升五十二円と告示されました。今日、
日本じゅうどこへ参りましても、こんな値段で牛乳が売られてはおりません。一番安い地方でさえ、農民は自分の庭先で五十三円で売っておるのでありますが、この
法律に基づいて
政府が決定いたしました安定
価格は、工場渡しで五十二円、すなわち、農民から牛乳を買い取る乳業
資本家は、自分の工場まで運搬させまして、その買い取り値段を五十二円までは引き下げてもよろしい、こういうことがきめられておるのでありまして、この
法律は、全く
畜産物価格引き下げのために利用され、逆用されておるのがその実態であります。(
拍手)こんなばかばかしい話はないのであります。これでは
畜産物の
価格の安定とはおよそ正
反対の目的に奉仕をする欺瞞法と断ぜざるを得ないのであります。とかく
政府が提案をいたしまする
法律には羊頭狗肉のものがはなはだ多いのでありますが、この法案のごとき、まさにその典型といわなければなりません。(
拍手)
反対の
理由の第二に、
政府の畜産
政策に対する無
責任さでございます。そもそも畜産をして今日のブームにまでかり立てたのは、申すまでもなく、農業基本問題調査会の
見解であり、
政府の所得倍増のかけ声であったのであります。農業基本問題調査会は、畜産をして成長農産物の代表として、今後の
日本農業の発展はこれ以外にないことを強調いたしました。
政府はまた所得倍増計画において、農民の所得を増大させる道は一にも二にも畜産振興であるとなして、今後十年間に牛乳は五・七倍、食肉は三・二倍、鶏卵は二・四倍にまで増大すると、飛躍的発展の構想を示したのであります。従いまして、農民はこの
政府の鳴り物入りの宣伝に踊らされて、いずれも多額の借財をあえてしながら、養豚に、養鶏に、あるいは酪農にと取り組んで参ったのであります。畜産振興もとよりけっこうであります。しかし、
価格政策を持たない単なる奨励や宣伝は、はなはだしく無
責任のきわみといわなければなりません。もしも
価格が適正に保障され、安定していさえしますならば、特別な宣伝等をいたしませんでも、だまっておっても農民はこれについて参ります。しかるに、今日まで
政府が畜産振興、選択的拡大のためにとって参りました手は、その一つは所得増大のかけ声であり、
二つには、従来の米麦等のいわゆる耕種農業をできるだけ抑圧しようというやり方であったのであります。大麦、裸麦の作付制限のごときはその代表的例でありますが、米価の決定等にあたりましても、常に同じような
考え方に支配され、つまり米価を引き上げるといつまでも米に未練が残るから、これをなるべく低く押えないと果樹や畜産には取りつかないであろうという
考え方から、低米価を押しつけようとしてきたのであります。私
どもはこのような
考え方に徹頭徹尾
反対をし、畜産の振興には、まず
価格政策の確立がその前提条件でなければならないことを再三再四主張し続けて参ったのであります。(
拍手)しかるに、何ら
価格対策の裏づけを行なわずに、いたずらに増産を奨励した結果、農民は多額の借金をかかえ、収支全く償わず、絶えず不安にさらされてきたのであります。特に豚の
価格のごとき、暴落に次ぐ暴落をもってし、選択的拡大は、一転して選択的恐慌、選択的破局に突入したのであります。(
拍手)
反対の
理由の第三は、
政府の
法律無視、
法律じゅうりんの態度に対してであります。昨年秋の臨時
国会で成立した
法律には、特に原料乳または指定食肉の
価格決定には、再生産を確保することを旨として定めるとの一項が加えられたのであります。しかるに、先般
政府より告示をされました豚肉の安定基準
価格キロ当たり二百四十五円のごとき、完全にこの
法律の
規定を踏みにじるものであります。何となれば、この
価格をもってしては絶対に採算はとれず、再生産の確保などとうてい思いもよらないことは、火を見るよりも明らかであります。その点は当院において述べられました参考人の意見に徴しても明らかであり、さらに農林省発表の統計によりましても、たとえば百キロまでに太らした豚を枝肉二百四十五円で販売いたしますと、労力費をゼロとして計算いたしましても、なおかつ三千円近い赤字を生ずることをこの統計は計数的に示しておるのであります。このような
事情は、酪農についてもまた全く同様であります。生産費は一升七十円以上はどうしてもかかるのでありますが、実際の
取引は五十五、六円程度であり、これではとても間に合わないので、生産農民は
政府の安定
価格の決定に一縷の望みを託しておったのであります。ところが、先月末日発表されました
政府決定の
価格は、この実際の
取引をさらに下回るものであることは、前に述べた
通りでありまして、農民の失望と憤激はその極に達しているのであります。
政府の所得倍増計画によりますと、牛乳は六倍にまで伸びることになっておるのでありますが、近来とみに伸び悩みを示しておりますことは、申すまでもなく採算割れの結果であります。このように
法律の明文が完全に無視され、没却されておることをわれわれはどうしても見のがすことはできないのでありますが、もっとも、国法の根本であります憲法をさえ、御都合次第で自由自在に
解釈をし運用をいたします
政府のことでありますから、農民保護のための一
法律のごとき、ほとんど眼中にないのかもしれません。
政府はそれでいいといたしましても、助からないのは畜産農民であります。去る二月半ば、九州の一農民は、
畜産物価格の値下がりを苦にして、ついに自殺を遂げたのであります。全く痛ましい限りと申すほかはありません。
畜産事業のコストは、その大半は飼料費、えさ代でありますが、このえさ代は、いたずらに高騰するにまかせられ、従って、今や、飼料高と生産物安のはさみ打ちにあいまして、あえぎあえいで苦しんでおる農民の姿は、まことに惨たんたるものであります。
反対の
理由の第四は、
畜産物価格審議会の運営についてであります。まず第一に、その委員のメンバーの選び方が不公正であり、次には、その
会議は非公開として、鉄のとびらをかたく閉ざし、一切を世人の耳目からおおい隠そうとしておるのであります。いやしくも、
政府が、所得倍増のためのただ一つの成長農産物だと唱える
畜産物の
価格の審議を、何がゆえに秘密会にしなければならないのでしょうか。しかも、このことは、近く開かるべき米価審議会も同様だと伝えられておりますが、一体、
政府は、何におそれおののき、何に血迷っているのでありましょうか。かくのごとき反民主的、反動的暗黒政治は、やがて最も高価なる代価を支払わせられるであろうことを、私はこの際特に警告いたしておきます。
最後にあげまする
反対の
理由は、畜産振興事業団の機能の拡大についてであります。畜産振興事業団は、何はさておきましても
畜産物価格安定のために全力を尽くし、これに専念すべきであるにもかかわらず、今回は
法律を改正いたしまして、大幅にその機能を拡大しようとしておるのであります。そもそも、かかる事業団等の設置は、本来
政府が直接負うべき
責任を回避するための手段として利用される場合がはなはだ多いのでありますが、今回は、当然に
政府が行なうべきあらゆる指導、助成の事業等までもこの団体に行なわせようとするのでありまして、私
どもはこのような
考え方にはとうてい承服することはできないのであります。(
拍手)かかる特殊の機構を乱設いたしまして、不正事件を誘発せしめ、しかもその間、往々にして政界とのくされ縁を疑わしむるがごときは、断じてとるべき策ではないと
考えます。(
拍手)
私は、以上数点の
理由をあけて本法案に
反対して参りました。これからの農民諸君はすべからくこの畜産の振興で所得をふやしなさいと、
政府が声をからして宣伝する
畜産物に対する施策にしてなおかつかくのごとしであります。これでは、今後の農民の所得を向上させて、他の産業の所得との開きを解消することをもって目的とすると
規定いたしました農業基本法第一条のうたい文句が泣いています。大声を上げて泣いております。しかも、かくのごとき農業
政策の貧困は、決してひとり農林当局だけの怠慢の結果ではないのであります。すなわち、換言すれば、現在の
池田内閣そのものに農政確立の意図が全くないからであります。試みに、先般本
国会の開会にあたり述べられた池田総理の施政方針を聞きますと、農業問題については、たった一言、農業生産の選択的拡大と農業経営の近代化は、急速に進展し、農業所得も堅実に増加しているということを報告しているだけであります。つまり、
わが国の農業はすばらしく発展し、農民の所得も大いに増大していると、いわば万々歳だと言わんばかりに、うちょうてんになって手放しで喜んでいるだけでありまして、現在
日本農業が当面をいたしております所得格差の問題等々、困難にして重大なる問題はひた隠しに隠して、これには全く触れようとはしないのであります。
かくのごとき農業軽視の、働く農民大衆を捨てて顧みない
池田内閣それ
自身の姿勢を正すことなしには、
日本農業の振興、発展の道は絶対にないことを、私は特に声を大にしてつけ加え、その具体的現われとしてのこの法案にあくまでも
反対するものであります。(
拍手)