○藤原豊次郎君 私は、
日本社会党を代表しまして、ただいま
議題となりました
国民貯蓄組合法の一部
改正に関する
法律案に対しまして、
反対の
意見を表明し、あわせて
租税特別措置としての
国民貯蓄組合法の廃止を強く要求するものであります。(
拍手)
国家の財政をささえるための
税制は、その必要とする租
税負担を国民の間に公平に分配しつつ、しかも、国民
経済の発展に即するように組み立てられていなければならないのであります。しかるに、
租税特別措置は、この租
税負担公平の原則を犠牲にして、特別な
経済部門ないしは国民層に対して、租税を特に軽減したり、あるいは免除したりすることによって、特別な
経済政策の目的を達成しようとするものであります。かかる
租税特別措置は、政策上から見ましても、また基本
税制の上から見ましても、全く承認できるものではございません。
わが国の
税制体系は総合累進
課税を原則としております。しかるに、かかる原則を無視して、
貯蓄奨励のためという
理由のもとに、
租税特別措置として、
利子所得に対する分離一〇%
課税の
特例と、
国民貯蓄組合制度の
特例等があります。国民の
貯蓄が、
わが国の増大する
経済をささえる重要な柱であることは否定いたしません。また、一国の国民
経済の成長は、総資本形成の大きさによって促進されるものであり、その総資本形成は、国民の
貯蓄によって裏づけされるものであるということも否定しません。従って、国民
貯蓄の奨励には賛意を表するものであります。しかしながら、
貯蓄奨励のために、
国民貯蓄組合法のように
高額所得者の脱税に乱用せられつつある
租税特別措置は認められないのであります。
貯蓄に対するかかる
特別措置は、これと競争
関係にある他の形態の
貯蓄に対する
特別措置をも誘発する危険さえもあります。かくては、国の財政の大きな柱である租税の基本
税制に影響を及ぼすことが甚大であると思うのであります。
もし、
政府及び
自民党が、ほんとうに国の財政
経済発展を願い、そのために国民に
貯蓄奨励をしようとするならば、かかる
高額所得者の脱税を助けるような
国民貯蓄組合法によらないで、むしろ大幅な
減税と社会保障
制度の拡充と強化とによるべきものであります。そうするならば
貯蓄は次第に増加していくことは、火を見るより明らかであります。
戦前戦後を通じて、個人の消費と
貯蓄の趨勢を、国民
所得計算及び家計
調査から見てみますと、
わが国の
貯蓄性向は逐次高まっております。これを各国と比較してみますと、
わが国は最も高い水準にあります。
貯蓄性向が高くなったのは、
消費支出の増加を上回る可処分
所得の増加があったわけでありますが、その原因としましては、
所得水準の増加と国民の消費生活の節約とが主たるものであると同時に、
所得税の
減税もまたこれに大きな影響を及ぼしていることは否定するものではありません。すなわち、
貯蓄の増加は、
貯蓄を優遇する
税制上の
特別措置以上に、
所得税の一般的
減税が大きな役割をしているものだということであります。ことに、
貯蓄を奨励する
税制上の優遇策が
貯蓄形態のすべてに公平に認められないとするならば、
貯蓄はその優遇策の度合いによって自己の流れを変えるにとどまりまして、総体としての
貯蓄の増加には効果がないのであります。
次に、
貯蓄から生ずる
所得の担税力について考えてみますと、すべての
所得はその源泉から見まして、
資産の保有から得られる
所得、いわゆる
資産所得と、勤労によって得られる勤労
所得とに分けることができます。
資産所得の方が勤労
所得よりも担税力が強いということが一般の考えであります。このような考えによりますと、
貯蓄から生ずる
資産所得、言葉をかえますと不労
所得ですが、この不労
所得は、当然勤労
所得よりも担税力が強いことになります。従って、少なくとも
貯蓄から生ずる不労
所得を、他の
所得よりも軽く
課税することには、納得がいかないのであります。
さらに、注意しなければならないことは、
税制審議会の答申にも出ておりますが、
国民貯蓄組合制度の乱用であります。
昭和三十六年三月現在の
国民貯蓄組合への加入
状況を見てみますと、
組合員数は六千七百七十七万人に達し、そのあっせん
金額は四兆六千億となっております。
国民貯蓄組合への加入は、一人一
組合が原則でありますが、この六千七百七十七万人という
組合員数は、実に総人口の七〇・六%に当たり、家族
従業員を含む有業人口の一五三・八%となっております。一世帯当たり三・一人が加入しておることになっている。これは、高額の個人の
預金が、
国民貯蓄組合法の適用を受ける範囲内の小口の
預金に分割されて、巧みに
預金利子の
課税からのがれておることを示しているものであります。(
拍手)これを裏づけるものとしまして、
昭和三十四年四月に、長期性
貯蓄の
利子の
非課税措置が廃止されましたときに、総体としての
預金残高は、課
税制度の変遷にはちっとも
関係がなくて、順調に
伸びているにかかわらず、三十万円以上の長期性
預金だけが減っているというこの事実をもってしてもわかりますし、また、国税庁の調べによりますと、ある銀行では、一千万円の
預金を
預金者から獲得するために、それを三十七口の小口に分けて、そしてこれを
預金させる、そうして脱税させたという事実もあります。
このように、
国民貯蓄組合法というものは、
貯蓄振興という目的から全くはずれて、高額
預金所有者の脱税のための一手段となり果てているのであります。(
拍手)しかも、こういう脱税という違法行為をやりましても、
国民貯蓄組合法によりますと、これに対する罰則は、驚くなかれ、ただの三百円であります。三百円の金を払えばいい。これが過料であります。しかも、これは
昭和十六年から三百円——十六年から、
国民貯蓄組合の
預金の
限度額は、二十万から三十万、あるいは五十万にふえてきておりますけれども、この罰則だけは、
昭和十六年の三百円そのままで据え置きなんです。
このたびの
国民貯蓄組合法の
改正におきましても、二重加入とか、分割
預金とか、そういうことによる脱税の乱用防止に対しては、何らの有効な方法が講じられていない。ただ、なされていることは、
預金者、あるいは銀行、それから今度入ります証券会社、これらの善意と、税に対する良識ということに待つだけで、精神的の問題だけが出ております。しかし、何とか脱税したいんだ、こういう考えを持っておる
高額所得者、銀行の
預金を集めるためには、こういうようにやれば脱税ができるんだということをわざわざ教える銀行家、それから、一枚でも多くの公社債を売りたいために、わざわざ脱税の方法を教えるところの証券会社、この三者が集まりまして、そうして違反をしましても、わずか三百円の過料で済むという、こういう実態のもとで、一体、今度の
法律が守られるだろうかということであります。おそらく、これは守られないと思う。これが守られると言う
政府当局なり、あるいはこれに
賛成する人たちの良識を、私自身は疑う。(
拍手)
この一人一
組合三十万円の非
課税限度を、今度は五十万円に
引き上げた。しかも、今度のでは二口まで認めた。実質的には、
免税点を三・三倍も
引き上げたということになる。総理府統計局の勤労世帯
貯蓄動向
調査によって、勤労者の
貯蓄保有高を調べてみますと、
年間所得八十万円から九十万円の階層で、
貯蓄額はわずかに二十七万円、
年間所得九十万円から百万円の階層で、
貯蓄額は三十七万円にとどまっておる。年収七十万円をこえる
所得者は、全
所得税納税者の一二%であり、年収百万円をこえる
所得者は、わずか四・一%を占めるにすぎないのであります。一方、
非課税扱いになっています郵便貯金の
限度額が、五十万円に
引き上げられ、また、
特別措置として、生命
保険料の
控除も認められている現在、さらに、このたび、
国民貯蓄組合の非
課税限度を、一口五十万円とし、二口で計百万円まで
引き上げられるとしましても、この
引き上げの恩恵に浴するものは、全納税者のきわめてわずかの
部分を占めている高額
預金所有者だけであります。一般の
勤労大衆は、全く見捨てられているのであります。一般
勤労大衆は、とのような
貯蓄利子の
非課税というようなものよりも、むしろ、大幅
減税を望んでいるのであります。
租
税負担の公平を害し、乱用により
高額所得者階層の脱税の手段となりつつあるこの
国民貯蓄組合法を、すみやかに撤回することを、
政府に強く要望しまして、私の
反対討論を終わります。(
拍手)