○戸叶里子君 私は、ただいま
趣旨説明のありました、
日本国に対する戦後の
経済援助の
処理に関する
日本国とアメ
リカ合衆国との間の
協定の
締結、すなわちガリオア・エロアについて、
日本社会党を代表して、
総理並びに外務大臣に
質問を試みんとするものでございます。(
拍手)
戦後の食糧事情の窮迫したとき、アメリカより放出された多くの食糧は、確かに
日本国民にとっては感謝でありました。だからこそ、国会においては、各党各派の代表が最大の感謝の言葉をこの壇上より発表したのであります。(拍子)
その言葉の一、二を引いてみますと、「連合国最高司令官は、しばしば輸入食糧を放出されて、
わが国民を飢えと困窮から救われました。全
国民は、ひとしくこのことを感謝し、その高い人道的精神に感激している。」また、「人類愛に基づいて、国内における食糧を節約されてまで、
わが国に多量の食糧を輸入されて、
国民を飢餓と窮乏から救った」等、感謝感激を表明したのは実にこの議場であったのであります。(
拍手)ところが、同じこの議場から、今になって、あれは借金であった、払わなければならないという声を聞こうとは、だれが一体想像できたでしょうか。(
拍手)最大の感謝の表現をした人々は、恥ずかしさで身の縮む思いをするでしょうし、大統領が食糧を送ったのは、
日本国民の飢餓を救うための人道的立場というよりは、余剰農作物を売り渡したもので、それが今日では日本が借金としてそれを支払わなければならないと知らされたのでは、いかにアメリカに好意を持とうとする人でも、疑心暗鬼を持たざるを得ないのであります。(
拍手)
政府は、しばしばこの感謝決議に対して、ただでもらってありがとうとは言っていないと答弁しておりますが、当時の決議案と賛成討論をした人の発言の内容のどこに、いずれは返すものとしての心がまえが出ておりますか。出ておらないのであります。(
拍手)むしろ私は、日本語で「最高司令官の好意により人道的立場に立って
国民を飢餓より救うために食糧を放出してもらった」という言葉の中のどこから、代価を将来払いますという意味が出てくるかを逆に承りたいのであります。(
拍手)この
考え方は、私のみではありません。
国民の大部分がそうであります。そこで
政府は、これらの援助が債務性を持っていると
考えられる根拠資料を
提出してきました。それはいずれも債務と
考えるべき根拠が薄く、むしろ
国民の目をごまかすために集めてきた資料にすぎません。(
拍手)
いかに占領中のことといえ、覚書すらなくて、アメリカの
考え方の書類を出してきて、それによって債務としての根拠を求めようとしております。その一つは、アメリカの一九四七年六月十九日の極東
委員会の決定で、降伏後の基本政策が、「
日本国の輸出品の売得金は、
国民の最低
生活水準を確保した後、占領に必要な非軍事的輸入であって降伏以来すでに行なわれていたものの費用に対し支払いをするためにこれを使用することができる」となっており、第二は、一九四七年二月二十日、マッカーサー元帥が米国議会に対し発したメッセージの中で、「援助は慈善行為でなく、また
日本国民も慈善を欲していない。」第三は、一九四六年七月二十九日のスキャッピン、すなわち指令書なるものに、援助物資の支払いについては後日これを決定するのただし書きであります。この三つを引用して、対日援助は債務性があると
考えられる有力なる根拠資料であるといっております。
しかし、これはいずれもアメリカの立場から、アメリカの
考え方を述べたものを集めてきたにすぎません。(
拍手)これらの資料で
日本国の債務をきめる重大な資料とするならば、なぜこの当時日本の
考え方なり意思表示を残しておかなかったのですか。今になって、アメリカがこう言っているから日本はそうだと思う、では納得ができません。それとも、何か秘密文書でも取りかわしてあるのでしょうか、首相に伺っておきたいのであります。
むしろ、マッカーサー元帥が米国議会に対してメッセージを送ったのは、アメリカの
納税者が自分たちの税金で食糧を放出する犠牲を好まないと騒ぐので、これを押えるために送ったメッセージにすぎないのであって、この事実からすれば、アメリカ
国民は、アメリカ
政府が日本に無償で食糧などを送っていると解釈していたから騒いだのが事実であります。(
拍手)また、メッセージによって国の債権債務を決定する文書にならないことは、少し冷静に
考えれば、だれでもわかることだと思うのでありますが、池田
総理大臣はどうお思いになりますか、お伺いしたいのであります。(
拍手)
私たちはまた、わが同胞がとうとい命を失った阿波丸事件を忘れることができません。
昭和二十年二月十七日、南方地域へ、連合国側の俘虜及び抑留者にあてられた米国からの救恤品を積んで日本の船が派遣されました。赤十字の旗が立てられてあり、国際法により安全航海権があるのに、四月一日真夜中、台湾海峡で、一米潜水艦に撃沈されました。当然にある日本の賠償請求権を放棄する決議案が出されたとき、国際法違反であり、請求権と感謝とは別ではないかという強い意見が出たのもこの議場でした。(
拍手)賛成の人々は、アメリカよりの食糧の贈与を受けているので、その代償として阿波丸事件の犠牲に対する請求権を放棄してもよいとの意見でありました。
ところが、ここに問題があります。この決議案のすぐあと、
昭和二十四年四月十四日に
政府は、阿波丸請求権の
処理のための
協定と了解事項をアメリカとの間に結び、国会の
承認も経なかったのであります。いかに占領中のこととはいえ、国の債務に関することをアメリカとの間だけで勝手に話をつけて、
国民のあまりなじみのない条約集にのみ載せておくことは、許すべからざる行為であります。(
拍手)
政府の持論の、批准条項がないからとか、占領中であったから国会にかけなくても仕方がないとかの逃げ口上は、問題によりけりであります。
国民の利害に最も
影響のあることを、こんな形で時の
政府が権力を乱用しては、
国民はたまりません。しかも、その了解事項の中には「本日署名された阿波丸請求権の
処理のための
協定の署名者は、各自国の
政府のために、次の事項を確認した。占領費並びに
日本国の降伏のときから米国
政府によって
日本国に供与された借款及び信用は、
日本国が米国
政府に対して負っている有効な債務であり、これらの債務は、米国
政府の決定によってのみ、これを減額し得るものであると了解される。」とあります。問題は、ここで初めて、
日本国に供与された借款及び信用は有効な債務であることをアメリカ側にのみ向かって確認したのであります。もちろんこれは、先ほど述べたごとく国会に諮ってありません。しかも、
昭和二十四年四月といえば、すでに新憲法は発効になっております。憲法八十五条には「国費を支出し、又は国が債務を
負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。」と記してあります。従って
政府は、当然国会の
承認を得る義務があったはずであります。ここで
政府は憲法違反を行なっていることが一点。(
拍手)さらに、
財政法に違反しております。その八条には、「国の債権の全部若しくは一部を免除し又はその効力を変更するには、
法律に基くことを要する。」となっているにもかかわらず、基づく
法律もなくして、日本が米国に持っている損害賠償その他の債権を
政府は放棄したのであります。これほど重要な日米の
協定を、国会にかけず、また了解事項は、この種の債務に関しての敗戦後初めての米国
政府との間に交換された公文書であるにもかかわらず、これをも国会にもかけず、みずから憲法に違反し、
財政法を無視した態度は許すことができません。(
拍手)この点をはっきりすることなく、ほおかぶりして、債務として支払う
考えであるかどうか、伺いたいのであります。
岡崎元外務大臣は、阿波丸事件に対する請求権を放棄した決議案に基づいてやったことであるから、
財政法違反でないと、多少の良心があったのか、声を低くして言われました。これは大へんなことです。決議案が
法律に優先するならば、多数党の決議案を通せば
法律を無視してもよいことであり、勝手に自分に有利な
法律も作れます。池田
総理はまさかこんなお
考えはお持ちでないでしょうと思いますが、念のために伺いたいと思います。(拍子)
もっとも最近の
政府の答弁は、債務とは言わず、債務と心得る、そうして国会の
承認があれば債務になると、わかったようなわからないような答弁をしております。このことは、現在の自衛隊がだんだんに軍隊化し、最近では師団などという言葉さえ用いるようになりましたが、いかに軍隊と内容が同じでも、日本の憲法によって制約をされていて、軍隊と言えず、憲法さえ
改正すれば、今日の自衛隊はそのままで軍隊と言えるので、自衛隊は軍隊と心得ると答弁するのと同じ意味であるかどうかを聞きたいのであります。(拍子)これは文字だけの問題ではありません。アメリカとの了解事項では債務と確認し、日本の国会では債務と心得る、一体どちらがほんとうでしょうか。債務と確認したことになると、憲法違反を追及され、責任問題になるので、苦肉の策として債務と心得ることにしたのでしょうが、この矛盾はこの際はっきりさせていただかなくてはなりません。(拍子)納得のいく責任ある答弁を、一国の責任者として
総理大臣より承りたいのであります。
政府はまた、口を開くと、西ドイツより有利であると言っていますが、西ドイツの場合と日本と根本的に違っている点は、西ドイツに対するアメリカの援助は早くからドイツの債務として確定しておりました。だからこそ、ドイツ
国民は、トウモロコシの粉などは家畜の飼料で、人間の食べるものでないと堂々と断わったのであります。(
拍手)私たちは、食べた大豆粉といわれるもので下痢を起こし、代替物を陳情にいくのにもずいぶん遠慮したものです。債務であったとするならば、
政府自身もっと人間の食べものらしいものを主張したでありましょう。(
拍手)西ドイツの場合は、戦前の債務二十六億ドル、戦後は余剰農産物を含めて三十七億九千六百万ドル、合計六十三億九千六百万ドル余りを三十二億七千三百万ドルに、ほとんど半分に話し合いで削ってもらいました。それが最終的には十六億三千五百万ドルを五年据え置き、三十年償還で、八七年七月一日までに返済がきまりましたが、繰り上げ償還も加えて近年中に支払いを済ませるようであります。西ドイツが支払いを始めた五三年ごろの西ドイツの人口は四千八百万人に比し、日本は八千六百万人、当時の国際収支は西ドイツの八億ドル黒字、日本の三億千三百万ドルの赤字等、西ドイツの人口は少なく、借りた額は多く、
経済状態はずっとよかった国と、これと全く反対の立場の日本でありながら、ドイツよりも有利だと宣伝する日本の
政府の意図がどこにあるのか、疑いを持つのは私のみではありません。(
拍手)当時のドイツの事情等も正確に調べ、その比較の上に立って、なおかつ日本が有利であるとするならば、その根拠を数字に明るい
総理にお示し願いたいのであります。(
拍手)
支払金に対して、
政府は東南アジアにこれを振り向けることを熱望しているようであります。どこの国へ、何の目的で使われるかも重大問題でありますが、昨年十一月の箱根会談で、すでに申し入れたのにもかかわらず、米議会の
承認が問題になっております。そして交換公文では、今後
検討を続けることで、今すぐ日本の希望をいれると言い切った文句もなく、ただいまの外務大臣の御
説明でもこれを期待されると言い、今後に問題を残しております。どれもこれもあいまいであります。なぜこのようにすっきりしない
協定の
承認を急がれるのか、了解に苦しむものであります。この他多くの問題を含む
協定であるにもかかわらず、債務性の疑問すら
解決されないまま、事前に国会に諮らず、アメリカと調印を済ましたのであります。しかも、まとまれば他党の党首に了解を求むるとの予算
委員会での答弁も実行されておりません。首相はさっそくわが党の党首の意見に率直に耳を傾け、誤りは誤りとし、すなおに認められる御意思があるかどうか、承りたいのであります。(
拍手)アメリカの理解と協力を得る点にのみきょうきょうとして、贈与であって、あとで返済を求められる債務でなかったはずなのにという、割り切れぬ一般の
国民の納得と支持を得られるように努力されることこそ、
国民のための政治であることをお
考えにならないかどうか、念のために確かめたいのであります。
以上で私の
質問は終わりたいと思いますが、今ここに債務として払ってもよいという人があっても、その人は仕方がないから払おうという人々であって、心から納得している人はほとんどいないということと、そんな内容の
協定を無理に通すことは、将来の日本の歴史の上に大きな問題点を残すことをお
考えになり、アメリカの顔を立てるか、
日本国民の信用をかちとるか、どちらの道を選ぶかの選択を聡明な
総理が誤らないことを心から念願して、質を終わります。(
拍手)
なお、私は答弁によっては再
質問を保留したいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇〕