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1962-04-19 第40回国会 衆議院 法務委員会 第19号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年四月十九日(木曜日)     午前十時五十一分開議  出席委員    委員長 河本 敏夫君    理事 稻葉  修君 理事 林   博君    理事 牧野 寛索君 理事 坪野 米男君    理事 松井  誠君       井村 重雄君    池田 清志君       上村千一郎君    唐澤 俊樹君       岸本 義廣君    小金 義照君       阿部 五郎君    猪俣 浩三君       田中織之進君    志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 植木庚子郎君  出席政府委員         検     事         (訟務局長) 浜本 一夫君  委員外出席者         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 四月四日  委員田中織之進君辞任につき、その補欠として  帆足計君が議長指名委員に選任された。 同日  委員帆足計辞任につき、その補欠として田中  織之進君が議長指名委員に選任された。 同月六日  委員鈴木義男辞任につき、その補欠として片  山哲君が議長指名委員に選任された。 同月十二日  委員田中織之進君辞任につき、その補欠として  東海林稔君が議長指名委員に選任された。 同月十三日  委員東海林稔辞任につき、その補欠として田  中織之進君が議長指名委員に選任された。 同月十八日  委員池田清志辞任につき、その補欠として渡  邊良夫君が議長指名委員に選任された。 同日  委員渡邊良夫辞任につき、その補欠として池  田清志君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 四月二日  皇室尊厳をおかす者を処罰する法律制定に  関する請願田中龍夫紹介)(第三一八五号)  同外三十四件(小澤太郎紹介)(第三二三〇号)  同外二件(大村清一紹介)(第三二三一号)  同外一件(簡牛凡夫君紹介)(第三二三二号)  同外九件(中村幸八君紹介)(第三二三三号)  同(八田貞義紹介)(第三二三四号)  同(濱田正信紹介)(第三二三五号)  同外三百七十五件(福田一紹介)(第三二三六号)  同(池田清志紹介)(第三三〇〇号)  同外四件(臼井莊一君紹介)(第三三〇一号)  同外十件(賀屋興宣紹介)(第三三〇二号)  同外二十六件(小泉純也君紹介)(第三三〇三号)  同外四件(内藤隆紹介)(第三三〇四号)  同外二十三件(羽田武嗣郎紹介)(第三三〇五号)  同外一件(濱田幸雄紹介)(第三三〇六号)  同(藤山愛一郎紹介)(第三三〇七号)  同(小川半次紹介)(第三三三三号)  同(津島文治紹介)(第三三三四号)  同外一件(富田健治紹介)(第三三三五号)  同(永山忠則紹介)(第三三三六号)  同外十二件(薩摩雄次紹介)(第三三八〇号)  同(千葉三郎紹介)(第三三八一号)  同外百七十三件(野田卯一紹介)(第三三八  二号)  同(細田吉藏紹介)(第三三八三号)  同外九十二件(池田清志紹介)(第三四〇五  号)  同(瀬戸山三男紹介)(第三四〇六号)  同外二件(田中榮一紹介)(第三四〇七号)  同(高田富與紹介)(第三四〇八号)  同外四件(保科善四郎紹介)(第三四〇九  号)  同外五件(牧野寛索紹介)(第三四一〇号)  同外十二件(池田清志紹介)(第三四六六  号)  同外四件(花村四郎紹介)(第三四六七号)  同外十三件(富田健治紹介)(第三四八一  号)  同(永山忠則紹介)(第三四八二号)  同(福田赳夫紹介)(第三四八三号)  同(八木徹雄紹介)(第三四八四号)  同外四千八百九十件(松本俊一紹介)(第三  四八五号)  同(荒舩清十郎紹介)(第三五一三号)  同(愛知揆一君紹介)(第三五一四号)  同(池田清志紹介)(第三五一五号)  同(小山長規紹介)(第三五一六号)  同外四件(薩摩雄次紹介)(第三五一七号)  同外三十七件(坂田道太紹介)(第三五四二号)  同(藏内修治紹介)(第三五四三号)  民主的秩序維持法案提出反対に関する請願川上貫一  君紹介)(第三一八六号)  同(志賀義雄紹介)(第三一八七号)  同(谷口善太郎紹介)(第三一八八号)  同(石田宥全君紹介)(第三一八九号)  東京法務局足立出帳所移転反対に関する請願(  林博紹介)(第三三〇八号)  鹿児島刑務所霧島農場の移管に関する請願(池  田清志紹介)(第三三三二号)  東京法務局江戸川出張所移転拡張に関する請  願(天野公義紹介)(第三四〇四号) 同月九日  民主的秩序維持法案提出反対に関する請願外四  件(稻村隆一君紹介)(第三六六七号)  皇室尊厳をおかす者を処罰する法律制定に  関する請願外九件(宮澤胤勇紹介)(第三六六八号)  同(正力松太郎紹介)(第三七三七号)  同(富田健治紹介)(第三七三八号)  同(柳谷清三郎紹介)(第三七三九号)  同(福田篤泰紹介)(第三七九三号)  同外四件(大村清一紹介)(第三八三七号)  同(福家俊一紹介)(第三八三八号)  同外九十八件(田中伊三次君紹介)(第三八七  六号)  同(加藤常太郎紹介)(第三九四五号)  同外一件(小島徹三紹介)(第三九四六号)  同外二十九件(渡海元三郎紹介)(第三九四  七号)  同(保利茂紹介)(第四〇六二号)  政治的暴力行為防止法案反対等に関する請願外  十件(日野吉夫紹介)(第三六六九号)  同(山中日露史紹介)(第三七九四号)  青森地方法務局市野沢出張所存置に関する請願  (三浦一雄紹介)(第三八三九号)  政治的暴力行為防止法案反対に関する請願(山  崎始男紹介)(第三九四八号) 同月十八日  皇室尊厳をおかす者を処罰する法律制定に  関する請願外一件(青木正紹介)(第四〇九  八号)  同外一件(簡牛凡夫君紹介)(第四〇九九号)  同(富田健治紹介)(第四一〇〇号)  同外五件(荒舩清十郎紹介)(第四一八二号)  同外三十二件(古川丈吉紹介)(第四一八三号)  同外一件(米田吉盛紹介)(第四一八四号)  同(瀬戸山三男紹介)(第四二五一号)  同外四件(鴨田宗一紹介)(第四二五二号)  同(竹下登紹介)(第四二五三号)  同外八件(福田赳夫紹介)(第四二五四号)  同外十三件(藤原節夫紹介)(第四二五五号)  同外六十一件(牧野寛索紹介)(第四三〇二号)  同外五件(松永東紹介)(第四三七四号)  同外十六件(松山千惠子紹介)(第四三七五号)  同外三十五件(伊藤五郎紹介)(第四四一九号)  同(小川半次紹介)(第四四五二号)  同(床次徳二紹介)(第四四九一号)  裁判所代行書記官等制度廃止に関する請願外  九件(坪野米男紹介)(第四一〇一号)  同外一件(山中日露史紹介)(第四一〇二  号)  同外五件(坪野米男紹介)(第四一八五号)  同外一件(原彪紹介)(第四一八六号)  同外二件(松井誠紹介)(第四一八七号)  同外一件(森本靖紹介)(第四一八八号)  同外一件(湯山勇紹介)(第四一八九号)  同外二件(猪俣浩三紹介)(第四三〇〇号)  同外五件(坪野米男紹介)(第四三〇一号)  同外一件(山中吾郎紹介)(第四三七六号)  同外七件(板川正吾紹介)(第四四三五号)  同外二件(中村高一君紹介)(第四四五三号)  同(畑和紹介)(第四四五四号) は本委員会に付託された。     ――――――――――――― 四月六日  司法関係予算増額に関する陳情書  (第六八三号) は本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  行政事件訴訟法案内閣提出第四三号)  行政事件訴訟法施行に伴う関係法律の整  理等に関する法律案内閣提出第一三五号)      ――――◇―――――
  2. 河本敏夫

    河本委員長 これより会議を開きます。  行政事件訴訟法案及び行政事件訴訟法施行に伴う関係法律整理等に関する法律案の両案を一括議題といたします。  質疑を継続いたします。坪野米男君。
  3. 坪野米男

    坪野委員 大臣が見えたら、大臣に少し基本的なことをお尋ねしたいと思っておりますが、局長がおいでのようですから、逐条的にいろいろ細部についてお尋ねをし、教えていただきたいと考えるわけであります。  行政事件訴訟法案の方は、基本的な問題点についての質問は大体出ておるようでございますし、まだ若干細部について問題点質問を私自身も持っておるわけでございます。ただ整理法案が出て参りまして、これとの関連で、訴訟法案で問題になっておりました、たとえば訴願置主義例外を認める、その例外規定整理法案でずいぶんたくさん出てくるのじゃないかということは予想されておりましたが、整理法案の中で相当数例外規定が出てきておるということ、また出訴期間が現行法よりも短縮されたという点についていろいろ問題があったわけでありますが、この点についても、整理法案でその例外なり特例が若干出てきておるようでございます。それらの関連について、もう少し詳しくお尋ねしたいと思うわけであります。  最初にお尋ねしたいのは、訴願置主義例外規定整理法案の中で相当数規定されておるわけでございますが、これについて、整理法案の提案の逐条説明の中で、類別的には一応説明はなされておるようですけれども個々法律についての説明が必ずしも十分伺えないわけであります。そこで最初に、この訴願置主義をとる必要があるということで、今ここに整理法案の中でどれくらい出ておりますか、相当数あるわけでありますけれども、この整理法案立案されるに際して、政府部内でどの程度の、行政法規の中で訴願置主義例外を設けてくれという要望があって、そのうち、この整理法でこれだけにしぼられたのであるかという、その立案過程で各行政部局から出てきた意見と、それからここに現われた改正案との数的な比較を、ちょっとお尋ねしたいと思います。
  4. 浜本一夫

    浜本政府委員 立案過程において行政庁から要求があった数、そのうち折衝の結果例外を認めるべきものとして整理法に盛られました数、それらの数字的な関係は別に資料を残しておりませんので、今ここで明らかにすることができないのは、はなはだ遺憾に存ずる次第でございます。
  5. 坪野米男

    坪野委員 大体のことでもけっこうですが、約何百とかあるいは何十という程度でもけっこうです。
  6. 浜本一夫

    浜本政府委員 ただいま係の者に聞きましたところ、大体の記憶でありますと、行政庁から出てきた要求は二百ぐらい、それがここの整理法に残っておりますのは五十数個になったというふうに記憶しておるそうであります。
  7. 坪野米男

    坪野委員 二百数個の要求の中から五十数個にしぼられた、こういうことでございますが、そのしぼった理論的な根拠はどういうことでございましょうか。
  8. 浜本一夫

    浜本政府委員 その点につきましては、しばしばこれまで御質疑に対して御答弁申し上げておりますように、あくまでも私どもの方では、法制審議会において論議となりまして、大体結論として持っておりました、大量的になされる処分、それから専門技術事項にわたる処分、それから裁決第三者構成によって行政庁から独立した形で裁決をされる処分、こういったものに厳重に該当するかどうかということを審査した上で、行政庁要求を押えたものであります。
  9. 坪野米男

    坪野委員 そういたしますと、あくまでも本法の方の原則並行主義をとらしむべきである、その例外として訴願前置の建前をとらせる場合は、今言われた三つ観点から最小必要限度にしぼろう、そういうお考えで整理をされた、このように伺ってよろしゅうございますか。
  10. 浜本一夫

    浜本政府委員 全くさようであります。
  11. 坪野米男

    坪野委員 そういう原則を伺って、なるべく例外必要最小限度にとどめる、そういう趣旨から整理法案が出された、このように承知をいたします。そこで、整理法の方の逐条説明では類別的になされているわけですが、全部について今ここでお尋ねするわけにいきませんが、一、二例示的にもう少し具体的にお尋ねしたいと思うのであります。  恩給法改正訴願前置の建前をとっておる規定がございますね。恩給法の一部改正、第一条として十五条ノ二を追加する。この恩給法の一部改正をして訴願前置の建前をとったという理由について、一つ説明を願いたいと思います。
  12. 浜本一夫

    浜本政府委員 この恩給法改正による訴願前置を認めた理由は、三つ基準のうちの大量的になされる処分という考え方でございます。
  13. 坪野米男

    坪野委員 その大量的になされる処分という意味が、並行主義をとっては工合が悪いので、どうしても訴願前置をやらした方が行政運営上スムーズにいっていいのだという、その大量的処分がなされるという意味がちょっとよくわからないのですが、その点もう少し詳しく御説明願えませんか。
  14. 浜本一夫

    浜本政府委員 私どもの、大量的になされる処分例外として訴願前置を認めるという考え方の基礎になりますのは、その他の二項と多少趣旨を異にしまして、大量的になされるものでありますために、これを並行主義にいたしますと、第一審の訴訟の数が非常に多くなる。また、そのために、むしろ訴願審査によって争点裁判所審査に適するように、前置段階で整理された形で訴訟に持ち込まれるということが、いろいろな意味行政経済にもなれば、また訴訟経済にもなるという見地から、こういった基準が設けられたものと考えておるのでありまして、まさにこの恩給法における訴願などは、一応審査会審査を経た方が、訴訟経済にもあるいは行政経済にも適するという考え方からこれを例外一つと認めたものであります。
  15. 坪野米男

    坪野委員 この恩給法十三条第一項に規定する処分取り消し訴えですね、これが大量的になされると申しましても、こういう取り消し訴えをする当事者にすれば、個別的になされた行政処分ですね。個別的になされた行政処分について、自己に対する違法な行政処分取り消しを求めるという点に限って、そういう観点から見れば——なるほど恩給法関連した行政処分が大量の人たちに同種の処分がなされるわけでありますから、その中から違法な処分として取り消しを求める訴訟なりあるいは訴願なりが相当数出てくるという意味では大量的でありましょうが、しかし処分を受けた個々人たちにとれば、やはり個別的な処分でありますから、大量的処分の場合は訴願を前置しなければならないという合理的な根拠を発見するのにちょっと苦しむのですが、私の言う大量的処分という理解の仕方はそれで正しいんでございましょうか。たとえば税法なんかと同じ考え方、これも課税処分というものが国民大衆に大量的になされておって、その課税処分に対する不服の訴え訴願抜きでやらす場合には、乱訴の弊があるからという意味に理解してよろしいんでございましょうか。その点ちょっと誤解があるといけませんから聞かしていただきたい。
  16. 浜本一夫

    浜本政府委員 先ほど私が申し上げましたように、大量的になされる処分例外といたしますその根拠が、他の二つ基準とは多少性質を異にするのでありまして、もちろん大量的になされる処分でありましても、処分を受ける側からすれば、やはり個々的に受ける処分には違いないのであります。だからその種の処分全体を客観的に見まして大量的であるかどうか、並行主義によりますと訴訟がむやみやたらに多くなる、裁判所負担も考えなければならない、あるいはまた裁判所訴訟経済も考えなければならないという考え方でありますから、個々処分を取り上げて考えますれば、今おっしゃったような議論もあると考えるのでありますが、大量的になされる処分例外として認めるという基準そのものが多少そういった性質のものなのでありまして、処分を受ける人の個々処分を見れば、その処分そのものが個性を持ったものに違いないとは考えるのであります。私どもはさように今の基準を考えておるのであります。
  17. 坪野米男

    坪野委員 なるほど、そういう意味では恩給法あるいは地方税法等行政処分が大量的になされるということでありますけれども、それが訴願置主義原則から並行主義建前本法が変わってきたという場合に、ただ大量的になされる処分だから、これらの処分については例外的に訴願前置の建前にのっとろうということは、私は、あまり論理的ではないのではないか、もう少し訴願前置でなければ困るという合理的な理由がないと、それだけで例外規定を設けるというのはどうかと思うのです。この大量的処分というのはそれだけの理由しかないわけですか。
  18. 浜本一夫

    浜本政府委員 同じことを繰り返し御答弁申し上げるようでまことに恐縮でありますけれども、何分にもこの大量的になされる処分と申しますのは、年々非常に大きな数に上りますので、これを直ちに訴訟に持ち込むことを認めるといたしますと、現在の裁判所の機構では、おそらくその負担にたえますまいし、また争点もいたずらに多岐にわたるきらいがありまして、一応訴願審査の段階でこれを整理した上で訴訟に乗せる方が、諸般の見地から合理的である、やはりそこに一種の合理性があると私どもは考えておるのであります。また、法制審議会においてそういった基準を設けられたのも、やはりそういった見地からこれを例外一つと数えられたものと私ども考えておりますので、法制審議会における審議の結果を尊重して、あるいはまた私ども自身もそれに合理性があると認めて、これを基準として採用したのであります。
  19. 坪野米男

    坪野委員 私は、新法で並行主義がとられたからといって直ちに乱訴の弊が生ずる、訴訟がむやみやたらにふえるというようには考えられないと思うのであります。現行訴願制度の不備から、局長がよく言われる同じ穴のムジナである、同じ行政庁訴願に付しても結局満足した結果が得られないということが当初から見通されている場合には、そういった訴願抜きにして訴訟したいという気持になるでありましょうし、また一応訴願を経ても、もちろん不服でありますから訴訟に入るという事例がだんだんふえてきておるということは、国民権利意識に目ざめて行政訴訟がふえてきておるということが言えるでありましょう。また、社会関係複雑化から訴訟事件がふえたということは考えられると思うのでありますが、訴願前置の原則に縛られて、したい訴訟もできない。それがはずされて並行主義になったから訴訟がふえる、そういう性質のものではないと私は思うのですが、その点どうでございましょうか、御意見をお聞かせいただきたいと思います。
  20. 浜本一夫

    浜本政府委員 仮定論を申しましても実は無益かと思うのでありますが、ともあれかりに並行主義をとるといたしました場合に考えなければならぬことは、それは全部訴訟になった場合をまず一応考える、そうして例外としてであれ、訴願前置を認めた場合にどうなるかということを比較しまして、そこで個々国民権利救済を求める自由と、それからそれによって生ずる公共的な損得、利害というものとの間の調整の線をどのところに引くかという利害考量の問題なのでありまして、私どもは、やはりかような場合には、全部が訴訟になるものという前提に立ってその調整の線を引かざるを得ないと考えるのであります。もちろん現行法におきましても訴願前置を認められておるのでありますから、これをはずした場合にどうなるであろうかということは、要するに結局見込みの問題なのでありまして、私どもは、ここに立法いたしますにあたりましては、そういった一応はずされた場合にどうなるかという見込みというよりも、まずそれがフルに利用されるかもしれない、その場合に起きるであろう混乱、訴訟経済というものと、それからそれを一応制限することによって国民の受ける不利益、不自由というものとの間の調整をどういうふうにするかという点から考えたのでありまして、これを全面的にはずしたらどうなるであろうかということは、私どもも確たる見込みは立ち得ないのであります。
  21. 坪野米男

    坪野委員 もちろん、訴願前置の原則がはずされた場合に訴訟がふえるであろうかどうかという見通しを立てた上で、例外規定を設けるべきかどうかということを考えるべきでありますけれども、その見通しですが、訴訟訴願二つの道が許されておる。しかも訴願制度が、このたびは行政不服審査法案の成立によって整備されてくる。そういう形の中で訴訟を選ぶか訴願を選ぶかということを任意選択をさせたといたしましても、訴訟するのには弁護士の費用その他費用がかかる、ひまがかかる。費用ひまを犠牲にしてでも最終的に裁判所の判断を求めたいという深刻な事件については、訴訟の道を選ぶでありましょう。けれども、今の恩給法の問題、あるいは税法の問題、あなたがおっしゃる大量的な処分の中で、そういう本質的な問題でなしに、数量的な、税法でいえば課税の額を争うというような数量的問題——一か八かと言いますか、一切か無かというような深刻な権利争いの場合であれば、訴訟にいく場合が多いと思いますが、そうでなしに、数量的な争いの場合には、訴願の道があれば、費用もかからない、ひまも比較的かからないということで、訴願を選ぶということもあり得るのではないか。私は、国民大衆の立場からすれば、自由にしてやっても選ぶのではないかと思う。訴訟が許されたからといって、もう何もかも訴訟に持っていくということは、むしろ現実裁判制度の現状からしまして、そういうことはちょっと考えられないのではないかと思うのです。ですから私は、大量的な処分について並行主議をとられておっても、そのために行政訴訟がふえて困る、裁判所の今の裁判官の能力で消化し切れないというような不安はいわれがないのではないかと思うのです。特に今のような訴願前置の原則が掲げられておりましても、現実に私たちがこの訴願置主義原則を切り抜ける方法としては、訴願をすると同時に、同日付で訴訟を出す、それは例外規定があって許される。正当な理由があるのだという理由訴訟を出しまして、三カ月間たてばもう——またそういった事件でありますから、三カ月以内に裁決がなされるという場合がほとんどないわけです。ある場合もありますけれども、少ないわけであります。三カ月たてば、もうその訴願前置の原則に反するというような手続上の瑕疵が治癒されまして、結局訴訟手続が進行する。三カ月待って訴訟を出すよりも、訴願提起と同時に訴訟を出して、三カ月間、相手方に訴状が送達されて、訴訟の準備をさせ得るということで、訴訟進行はかえってその方が早いわけでありまして、私たち専門家から見れば、訴願置主義原則があっても、現行法のままでもそんなに大きな不自由を感じておらないわけです。ですからこういう規定を設けられても、今の行政不服審査法に基づく訴願に対する審査に対して不信の念を持つ者は、直ちに訴訟訴えてくるということはあり得るわけです。しかし、通常税法とかこういった関係争いは、直ちに訴訟に持ち込むというよりも、並行主義をとっておれば、むしろまさに今言いました並行的に出す場合もありましょうし、順序として訴願を先にやってみるということも私は多くあり得ると思うわけでありまして、訴願前置の原則をはずしたら全部訴訟になってしまうという可能性——抽象的可能性は、それは仮定の問題としてはありましょうけれども現実的に裁判ひまがかかり、金がかかるということ、そうして今の行政訴願といっても、それほど回り道にもならないという場合に、訴願を選ぶという可能性も私は十分考えられるので、この原則を設けなければ、大量的処分行政処分については訴訟が多くなって困るという可能性は、現実にはちょっと考えられないのではないかと思うのですが、一つご見解を聞かしていただきたい。
  22. 浜本一夫

    浜本政府委員 おっしゃるように恩給法における給付に対する訴訟というものを考えました場合に、訴願前置をしたからどうなるか、あるいは訴願前置をはずしたからどうなるか、ふたをあけてみれば、現実的には大した変わりはないということも言えるかと思うのでありますけれども、さような場合にどちらに合理性があるかということを考える場合には、やはり一応訴願前置をはずせば、直ちに訴訟になるということと、それからそういう場合には訴願前置を経て、むしろすべてを合理的に考えて、一応訴願審査の段階で争点整理された形になった後に訴訟の提起を認めるいうことが合理的であるという、そういった比較考量において合理的な線を調整をはからなければならぬものと私ども思いますので、現実には、おっしゃる通りはずしてもはずさなくてもそう大した影響はないのではないかというふうに私どもも考えてはおるのであります。しかしながら、やはり大量的処分については例外を認めるという法制審議会の結論は、そういったすべて訴訟を許した場合と、それから前置した場合とを比較して、やはりこういう場合には訴願前置をした方が合理的であるというふうに考えられた結果、そういった基準が設けられたものと思い、また私どももそれに合理性があると考えたのでありまして、現実には坪野委員のおっしゃるように、はずしてもはずさぬでも、そう大した影響はないのかもしれませんが、私どもはさように考えております。
  23. 坪野米男

    坪野委員 ですから大量的処分という観点からの訴願前置の原則例外的に認めるというのは、私は必ずしも合理的根拠はないと思うのです。むしろ学者などが言うように、そういった大量的処分の行なわれる行政処分に関する行政訴訟は、もう一度行政庁に再考の機会を与えるという——もちろんこれは訴願制度原則的な考え方でしょうけれども、大量的な処分の中には若干の処分の過誤があり得る。非常に大量的に処分をなされるから、その中には違法な処分も行き過ぎの処分も相当あり得るだろう。それを同じ行政庁で再考の機会を与えてやれば救済される可能性もある。そういう観点からむしろ訴願前置を義務づけようということになれば、幾らか合理性があるのではないかと思うのですが、ただ乱訴の弊があるという形で説明をされると、これはむしろ行政庁訴訟を好んでおらない。そうして現行法から一歩国民権利救済の方向へ改正されようとする並行主義、これに対する抵抗としてなるべく訴願前置をとどめようという考え方、そういう考え方の弁護をするための理論づけというようにしかちょっと私は理解できないのですが、やはり私が今最初に言うたような、大量処分の中に若干の手落ちあるいは違法な処分もあり得るから、再考の余地を残しておいた方が訴訟経済の立場からいっても救済される場合が比較的多くあり得るということで、制度としてやはり訴願前置がよかろうということになったというように理解したらどうか。私は、原則一本でもいいと思いますし、また例外を設けて絶対いけないとも思いませんけれども大量的処分行政訴訟に対しては、訴願置主義ということの理論づけとしては、やはりそういう訴願制度に対する原則的な理由づけでいいのではないかと思うのですが、局長の御見解を聞かしてもらいたい。
  24. 浜本一夫

    浜本政府委員 私ども従来御質問に対してお答えしていることが、多少一方だけを強調したきらいがあって、誤解を招いたきらいがあるかもしれませんが、おっしゃるような趣旨ももちろん私ども考えておるのであります。ただ一般的に私個人の経験から言いますと、私も実は恩給審査会委員をしておるのでありますが、一週に一回ぐらい——これは毎回会議をやることができぬ関係にあるとみえまして、一週一回くらい持ち回りでやっていくのでありますが、一回に数百件の事件を持ってくるのであります。でありますから、これが直ちに並行主義訴訟になったらということをやはり私ども考えざるを得ないような気がするのであります。もちろんおっしゃるように、かような事件には、一応訴願審査の段階で整理させたらよかろうという気持が現実にそういった場合は起きておるのでありまして、一面的に強調し過ぎた関係で誤解を招いたかもしれませんが、おっしゃるような趣旨ももちろん含んでおると私考えております。
  25. 坪野米男

    坪野委員 今の局長の御心配は杞憂だと思うのです。税務署に行ってごらんなさい。もっと大量に異議の申し立て、審査請求がなされているわけですから、恩給の比じゃありません。だからそれが全部行政訴訟になっているかといえば、行政訴訟になっているのはそのうちのほんの一部でありますから、私は並行主義がとられたからといって、金のかかる、手間のかかる訴訟をむやみやたらに、そういう心配をするのは私は杞憂だと思うのです。むしろ私は、そうでなしに、行政庁それぞれが既得権を侵害される、大体行政訴訟を通常裁判所がされるということが、この新憲法の司法制度そのものが、従来の官僚にとって、あるいは従来の行政庁にとっては好ましくない制度であろうということは、当然考えられるわけでありますが、そういう立場から訴願前置の原則に相当執着しておって、並行主義をとられたとしても、例外的に、何としてもこういう大量的な処分については一応裁判所へ出す前に訴願をさせて、準備というか、こちらで訴訟の対策を講ずる必要があるというようなことで、行政庁側の強い要求があって、こういったものが例外的に残ってきているのではないかと思うので、乱訴の弊ということからこういう規定を設けるということは、あまり理由にならないのではないかと考えるわけです。しかし、その点は見解の相違というよりも、立場の相違として、一応局長の答弁は答弁として承っておきます。  そこで、今の大量的処分の例として出されている訴願前置の原則規定ですね。これは例示的には逐条説明書に出ておりますけれども一つ指摘をしていただきたいと思います。今度改正を求められている点ですね。すでに整理法改正する必要のない法律もあるようでございますが、この整理法案で出ている大量処分の例というものは、何条と何条というように指摘してもらいたいのですが……。
  26. 浜本一夫

    浜本政府委員 お手元に御配付申し上げてあります要綱の第二に掲げられております今問題になりました恩給法、それから十六の生活保護法、十八の健康保険法、二十五の農地法、二十六の愛知用水公団法、二十七の食糧管理法、三十の鉱業法、四十の地方税法、これがこの整理法案に盛られておりますうち、大量的処分という理由でされている例外でございます。なお、そのほかにここにあげておりませんが、整理法の百十条の都市計画法の改正がこれに当たるのであります。
  27. 坪野米男

    坪野委員 百十条だけですね。
  28. 浜本一夫

    浜本政府委員 そうです、今申し上げましたもののほかにありますものは。
  29. 坪野米男

    坪野委員 では、ついでに伺っておきますか、専門技術的性質を有する処分というのはどの法案ですか。
  30. 浜本一夫

    浜本政府委員 同じく先ほど申し上げました資料のうちの第二の四の核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、それから五の放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、十二の外国為替及び外国貿易管理法、十三の外資に関する法律、三十二の計量法などがそれに当たるのであります。  なお、先ほど申し上げましたもので、十七の児童扶養手当法、これも大量的の方に入る。言い落としましたので、この際補充しておきます。
  31. 坪野米男

    坪野委員 今の専門技術的な処分について、三十二の計量法などと、こう言われたのですが、今この整理法案に出ている法律はわずか五十ほどですから、三つにはっきり区分けをして、検討し、質問してみたいと思いますので、今の技術的なものは三十二の計量法までですか。などと言わずに、法律が限定されていますから……。
  32. 浜本一夫

    浜本政府委員 今あげましたものだけであります。
  33. 坪野米男

    坪野委員 けっこうです。それから今の三番目の、第三者的機関によって裁決がなされる処分、だから訴願置主義をとろうという規定は、どういうものでありますか。
  34. 浜本一夫

    浜本政府委員 今引用しました資料のうらの第二の、今二項目としてあげましたもの以外のものが、第三者構成による裁決という基準に当たるものと私どもは考えております。
  35. 坪野米男

    坪野委員 今の要綱第二の最初にあげられた二つ以外は、全部第三者的機関による裁決規定になる処分だ、こういうことですね。そうしますと、これ以外はないということですか。さっきの百十条の都市計画法の一部改正、これは要綱の中から漏れておったということですか。
  36. 浜本一夫

    浜本政府委員 都市計画法がこの資料に落ちておりますのは、この立案の段階でこういった資料ができまして、さらに立案の段階が進行しまして、そういうものが加わったことになりましたために、この要綱から落ちておった結果になるのであります。
  37. 坪野米男

    坪野委員 わかりました。今大体五十数個の法案について全部御説明いただいたわけで、あとは個々の法案について、訴願前置の必要があるかどうかという点について質問いたしたいと思うわけですが、松井委員質問を予定しておられるようですから、私の質問はこの程度で一応留保して、また午後にでも続いて御質問したいと思います。
  38. 河本敏夫

  39. 松井誠

    松井(誠)委員 大臣がお見えになっておりますので、最初大臣に二点ばかりお伺いをいたしたいと思うのです。  一つは、この法律規定しておるいわゆる総理大臣の異議権の問題についてであります。御承知のように、この異議権は、裁判所が執行停止をしたあとでも、総理大臣の異議があればもう有無を言わさず執行停止の効力がなくなってしまう。そういう意味で、執行停止の問題に関する限りは、総理大臣の異議権というものは裁判権に対して完全に優位な立場に立っておる。従って、少なくとも憲法に規定しておる三権分立の精神からいって、非常に重要な例外をなす制度だと思います。こういう制度をなぜ一体認めなければならなかったか。問題が重要であるだけに、その必要性というものに十分な納得のいく理由がなければならないと思うのです。そこでお尋ねをいたしたいのでありますけれども、このような制度を認めた根本の考え方の中に、やはり裁判官よりも行政官の方を信頼をするのだ、公共の福祉とは何かという考え方について、少なくとも裁判官よりは行政官が信頼に値するのだ、その考えのよしあしは別といたしまして、そういう考えがそこになければ、どうしてもこの制度の合理的な理由というものはないのじゃないかと私は思うのです。そういう意味で、この制度を憲法に対する非常に重要な例外、あるいは例外とは言えなくても、少なくとも憲法との関係で相当問題があるそういう制度をあえて認められた根本的な理由は一体どこにあるか。先般来局長にいろいろお尋ねをいたしておりますけれども、あらためて大臣から一度お答えを願いたいと思います。
  40. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 行政処分に対しまして、異議の申し立てなりあるいは訴訟が提起されました場合に、お話しのように、この案の二十七条によりまして総理大臣の異議をなし得る機会を作っていただこうというので、提案になっております。この問題につきましては、われわれ政府の側におる者といたしまして、今御指摘のように、公共の福祉に重大な影響を及ぼすということについて、裁判所当局の見解とわれわれ行政担当の政府の見解とが異なる場合に、しかもそれが、いわゆる訴訟が提起されて処分の執行を取り消されるということが、非常に事が重大であって悪い影響が及ぶというような、ほんとうの万やむを得ない場合に、初めて総理大臣がここに書いてありますような、それぞれ慎重な丁重な手続理由のもとに異議ができるようにしよう、こういうのであります。仰せのように、別に裁判所の公共の福祉に対する見解と、それから政府の公共の福祉に対する見解と、政府の側が常にまさっておるからという、必ずしもそういうような大それたことを考えておるのじゃないのでありまして、時には、どんなに裁判官といえども解釈なり事態の真相の把握について欠けるところもないとは言えない、絶無とすることはできないと思うのであります。   〔委員長退席、牧野委員長代理着席〕 たとえば裁判の普通の事例を見てみましても、第一審においては裁判官が無罪と認定しても、検事が控訴してその結果有罪になるというような場合もございましょうし、裁判所の判決はもちろん至上のものであってしかるべきでありますけれども、それは絶無とは言えない。しかしながら、その場合、それが非常に行政上公共多数の福祉に関係するという場合には、やはりこちらの見解を異にしている場合に、かりにその取り消しがいつまでも有効で裁判の結果を待たなければならぬということになると、行政処分の意義をなくしてしまうおそれがあるというような場合も、これはあり得るのじゃないかというふうに考えられますので、この最悪の場合を考えて、行政のでき得る限り緩和を期していきたい、こういうところにわれわれの考えておる主眼があるのであります。
  41. 松井誠

    松井(誠)委員 私も、裁判官は別に神様ではございませんから、間違うことがあり得るということを認めないわけではもちろんございません。しかし、そうかといって行政官が神様でない以上、行政官もやはり間違うことがあり得るわけであります。従って、今の説明では少しも説明になっていない。裁判官が間違う可能性があるから行政官がチェックするんだということになりますと、行政官は間違う可能性がないんだ、そういう前提でなければ意味をなさないと思う。しかし、現実にはやはり行政官も間違う可能性はあるわけです。従って、間違う可能性のある者同士がこの制度を運用していくとすれば、やはりこういう行政官が百パーセント優位に立つという形でなくて、相互にコントロールするという、そういう制度による以外にないのではないか。ところがこの制度は、御承知のように異議を申し立てさえすれば、そうしてその異議の理由が何であろうと、執行停止というものは効力を失ってしまう。異議というものには、その異議が理由ありゃなしやということを裁判官が判断する権限がない。そういう建前になっておるわけであります。そういう建前を合理的に説明するためには、やはり行政官はあやまちを犯さずという前提でもなければ説明ができないのじゃないかということを私はお尋ねしたわけです。私は、裁判官が万能であるとは思いません。しかし、その万能でない裁判官をチェックする行政官も決して万能ではないわけです。それにもかかわらず、万能であるかのようなこういう制度を設けたのは一体なぜかということをお尋ねしているわけです。
  42. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 その点は、裁判官は万能でない、従って行政官も万能ではないのではないかということは仰せの通りと私も考えます。従って、この問題につきましての、異議を申し立てをしたからといって、行政処分そのものが決定的にずっとそのまま生きていくのではなくして、訴訟そのものは御承知のようにもちろん進行するのであります。ただ裁判所側の行政処分取り消しによって、行政上考えておる公共の福祉がある期間阻害される。その阻害されることによる混乱その他福祉の侵害されることを防いでいこう、ここにあるのでありまして、結局は裁判所がもちろん優位に立って、そうして独自の判断で真相を明らかにして判決をするということになるのですから、仰せのように万能でない者同士の間における相互の間のコントロールは、これによって十分私はできる、こう思います。
  43. 松井誠

    松井(誠)委員 議論がこまかくなりますから大臣にお尋ねするのは適当でないと思いますけれども、今の場合、なるほど執行停止という問題に限っての行政官の権限ではございますけれども、しかし、執行停止ができなければ行政訴訟を起こした意味がないという、そういう場合が往々にしてあるわけです。従って、執行停止というのは、そのものをチェックされれば行政訴訟そのものがほとんどもう実効を持たないという、そういう場合が相当あるわけです。そういう意味では、単に訴訟のうちの一部分だけに行政官が関与するというのではなくて、やはり訴訟の全体にわたって関与するということに結果的にはならざるを得ない、そういう場合が多いわけです。そういう意味でお尋ねをいたしたわけでありますけれども、これはまだあと局長その他にお尋ねをするといたしまして、もう一点だけ大臣にお尋ねをいたしておきたいと思うのです。  この法案は、御承知のように今の現行法と違って訴願前置というものを必要としていない、これは私は、その限りでは確かに進歩だと思うのです。そして今までの非常に不十分な訴願にかわって、今行政不服審査法案というものが内閣委員会に出ておる。しかし、その行政不服審査法にしても、行政事件訴訟法にしても、ともかくすでにやってしまった行政処分についての事後救済であるわけです。その事後救済として行政上の救済をやる、あるいは司法上の救済をやるということが、今法案の直接の問題になっておるわけですけれども、しかし、できるならば事前の措置、救済前の行政手続をもっと慎重ならしめる措置、そういうものがあわせて考えられるべき問題ではないだろうか。先般も実はいろいろお伺いをいたしましたときに、何か裁判所の執行停止というものが多過ぎるというような、そういう印象を受ける御答弁があったわけです。むやみやたらに執行停止をやるから、従ってどうもこういう制度がなければいけないのだ、異議権という制度がなければいけないのだというように受け取れる御答弁があったわけなのです。そのときに私は、しかし執行停止という裁判が多いのは、そういうことをやる裁判官が悪いのか、あるいはそういうことをやらざるを得ないような行政処分が多過ぎるということに原因があるのか、その原因をはっきりさせなければこの問題の解決にはならないのではないかということを申し上げたわけなのです。そのときに考えておったのは、そういう執行停止をしなくてもいいような行政処分というものが、ちゃんと担保をされるような制度というものができていないということに一つの問題があるのではないか。つまり、行政処分をやるときに関係者の意見をよく聞いて行政処分をやる、そういうことが法律的にきらんと担保をされてない。そこからくるやはり行政官の恣意というものがどうしても行政処分の中に出てくる。従って執行停止ということが多くならざるを得ない。そういう原因があるとすれば、行政不服審査法というものを訴願法にかわって出しておるということは非常に進歩ではございますけれども、しかし、もう一つ事前のそういう措置というものが必要ではないか。これはあるいは大臣は所管外になるかもしれませんけれども、やはり行政事件訴訟法との関連なしとしませんので、一言お伺いをいたしたいのでありますけれども、たとえば訴願制度の調査会でも、不服審査法と並んで、やはりそういう行政救済をする以前の行政手続法というものが必要なんだということを調査会自体が認めておる。しかし、これは時間切れのためにそういうことができないのだということを言っておりますけれども、やはり、そういう司法救済というものを誤りなくスムーズにやるためには、大前提として、そういう行政処分をする際の行政官を拘束する、行政処分が公正に行なわれるということを具体的に担保する、そういう制度というものが必要だと思いますけれども、その点の御意見を伺いたいと思います。
  44. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 仰せのような行政処分について、事前に委員会等の制度をこしらえてそうしてそれが正確に適切に行なわれるような制度云々のお話でございますが、この点については、そういう制度も十分考えられる問題でありますけれどもまだわれわれ今日の段階においては、これを制度として取り上げるということはいかがなものかというので、まだ議が熟しておらないというのが今の姿でございます。
  45. 松井誠

    松井(誠)委員 議が熟しておらないというのは、そういうものを取り上げること自体についての議が熟しておらないというのか、あるいは結論を出すまでには至っていないというのか、どっちですか。
  46. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 後者の方であります。
  47. 松井誠

    松井(誠)委員 そうすると、そういう制度について検討はしておるけれども、結論はまだ出てない。そういう意味でございますね。
  48. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 問題についてはいろいろと検討はしておるのでございますが、まだ結論を得るに至っておらないというのが現状でございます。
  49. 松井誠

    松井(誠)委員 念のためにお伺いいたしますけれども、そういう制度がともかく必要ではあるけれども、具体的な姿としてはまだ確定をしていない、そういうように伺ってよろしゅうございますか。
  50. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 その通りでございます。
  51. 松井誠

    松井(誠)委員 それでは局長にお伺いをいたしたいと思うのですけれども、この前実はお願いをいたしました資料が出てないのですが、この前お願いをしたのは、われわれの手元には総理大臣の異議を言ったことに対するそういう資料は出ておりますけれども、しかし知りたいのは、執行停止の統計がどうなのか、そうして執行停止があった中でどれだけの異議というものが行なわれたのかという、そういう比較を知りたいと思ったのですけれども、この資料はどういうようになっておりましょうか。
  52. 浜本一夫

    浜本政府委員 お求めの趣旨にぴったり合致するかどうか、私ども自信がないのでありますが、すでに御配付申し上げてあります資料のうちに、執行停止事件件数表というものがございます。これで御了解願いたいというつもりなんでありますが、いかがなものでありましょう。
  53. 松井誠

    松井(誠)委員 今資料をいただきましたので、これは検討した上さらにお尋ねをいたしたいと思うのです。  その前に、この前局長がお答えになったことで、私どうしてもふに落ちない点が一点ございますのでお伺いしたいのですが、この前局長は、異議権の問題ですけれども、この法律は乱用されない、そういう担保がこの法律にはあるのだということを言われたわけなんです。おそらく局長も御記憶であろうと思うけれども、これが乱用されないということがこの法律で具体的に担保をされておるというのはどういう意味か、その具体的な理由というものを一つお示しを願いたいと思う。
  54. 浜本一夫

    浜本政府委員 乱用されないことについての法律上の担保ということに当たるかどうか、私、自信がないのでありますけれども、私どもが考えておりますのは、二十七条の、やむを得ない場合のほか述べてはならないということ、それからまた第六項におきまして、「内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ、第一項の異議を述べてはならず、また、異議を述べたときは、次の常会において国会にこれを報告しなければならない。」こういった点を私どもは一種の担保と考えてよかろうという趣旨でお答えを申し上げたのであります。
  55. 松井誠

    松井(誠)委員 それではお尋ねをしますけれども現行法のもとでは、その異議権というものは乱用をされていなかったか、あるいは乱用をされておるという傾きがあったかどうか、その点からお伺いをしたい。
  56. 浜本一夫

    浜本政府委員 その点につきましても、多少前回にお答え申し上げたものがその点に触れるものがあったかと思うのでありますが、私ども自身も、この制度ができました当初におきましては、多少乱用されたという非難を受けてもやむを得ないのじゃないかというふうな事例があったと私ども実は考えておるのでありますが、昭和二十何年かに次官会議の申し合わせができまして、この異議は必ず所管の大臣と法務大臣との協議の上でなければ総理大臣に申請をしてはいけないという申し合わせができました以後は、私どもは乱用に当たる事例は一つもないと申し上げてもいいかと思うのであります。
  57. 松井誠

    松井(誠)委員 現行法には、この改正案に書いてあるような、「やむをえない場合」云々というような言葉はないわけですね。そういう言葉がないのにかかわらず、局長のお話では乱用されてない。ところが今度の場合、この改正案には「やむをえない場合」云々という限定があるから乱用されないのだと言われますけれども、そうではなくて、局長の言われる通りをむしろ推し進めていくと、次官会議の決定というものがある限りは乱用のおそれがないというように理屈の筋道としては言われるのがほんとうではございませんか。具体的なこの条文があるから乱用のおそれがないのだというように言うのが正しいのかどうか、どうなんです。
  58. 浜本一夫

    浜本政府委員 今私が申し上げました法律上の担保——法律上と言うといささか語弊があるかもしれませんが、つまり、次官会議の申し合わせで従来は乱用がなかったと申しますのは、行政慣行としておるだけなのでありまして、法律上にはそれがなかったと言ってもいいかと思うのであります。今度はそれを行政慣行だけでなしに法律の表面に現わしたものというのがこの六項に当たるものであると私ども考えておるのであります。
  59. 松井誠

    松井(誠)委員 異議権の問題につきましては、このいただいた資料に基づいてまたあとでお伺いをいたしたいと思いますが、きょうはそのほかの具体的な条文の問題についてお伺いをしたいと思うのです。  まず第一に、この判決の効力の問題についてお伺いをいたします。効力の問題については三十二条と三十三条とに書いてございますけれども最初に三十三条のいわゆる拘束力というものについてお尋ねをいたしたいのですが、その前に、この拘束力というのを、三十二条の提案理由によりますと、形成的な効力というものと、それからやはり提案理由ではこの形成的な効力というものは既判力とは違うのだということが説明されておりますけれども、その既判力というものと、との三つについて、できるならば具体的の例をあげて、その異同というか、そういうものを一つわかりやすく御説明をしていただきたいと思います。
  60. 浜本一夫

    浜本政府委員 私どもの乏しい力で理解しておりますところでは、形成力と申しますのは、判決によって行政処分が取り消されれば行政処分の効力がなくなるというのが形成力と考えておるのであります。既判力と申しますのは、裏から申しますと一事不再理なんでありまして、同じ事案について異なった判決をされることのない効力であります。拘束力と申しますのは、たとえば申請があって、それに対する却下処分があった。その却下処分が取り消されました場合に、行政庁はさらにあらためて申請について処分をしなければならないという拘束を受ける、それを私ども拘束力と考えておるのであります。
  61. 松井誠

    松井(誠)委員 それでは具体的にお尋ねをいたしますけれども最初の拘束力という問題でありますが、今御説明のような拘束力の効力というのは、具体的には三十三条の二項に書いてあるわけですね。ところが三十三条の一項と二項との関係ですけれども、この二項というのは拘束力の具体的な効力であって、それ以外に拘束力というものはないというように考えるべきものなのか、この二項は第一項の拘束力一般についての特殊の場合というように考えられるべきものなのか、この点はどうなんです。
  62. 浜本一夫

    浜本政府委員 三十三条の一項と二項との関係は、三十三条一項において一般的に規定をし、さらに二項においては、多少疑問が残るかと思われるものについて具体的に規定をしたにすぎないのでありまして、一項と二項との効力には性質の差異はないと私ども考えております。
  63. 松井誠

    松井(誠)委員 先ほど拘束力の御説明のときに、いきなりこの二項に当たる効力の御説明があったものですから、拘束力即この二項に書いてあることかというように私は取ったわけですけれども、そうじゃなくて、やはり拘束力一般というのは第一項に書いてあるというように理解をしなければならぬとすると、拘束力というものは、何か二項の場合には特殊の場合と言うか、疑いのある場合をはっきりさせたということですと、一項の拘束力というものをもう少しわかりやすく説明をするとどういうことになりましょう。
  64. 浜本一夫

    浜本政府委員 今具体的事例について申し上げたらわかりいいかと思いましたので申し上げたのでありまして、やはり拘束力というものは、具体的例をあげますれば、一項にあるような申請に対して却下処分が取り消されれば、行政庁はさらにそれに対して申請が残っておるのでありますから、その申請に対して新たなる処分をしなければならぬという拘束力を受ける。わかりやすく言えばそれに帰するのであります。
  65. 松井誠

    松井(誠)委員 そうすると少しおかしいと思うのですがね。と申しますのは、これは取消訴訟規定でありますけれども、当事者訴訟には三十三条の一項しか準用がないわけです。第四十一条によりますと、当事者訴訟については三十三条の一項だけが準用になるわけです。従って三十三条の二項というのが拘束力のほとんど全部、いわば端的にいえば二項のことなんだということになりますと、一項だけを準用しているということがおかしいということになります。やはり一項の拘束力というものは二項をも含むもっと広い拘束力だというふうに考えなければならぬと思うのです。どうなんです。   〔牧野委員長代理退席、委員長着席〕
  66. 浜本一夫

    浜本政府委員 御指摘の四十一条によりまする準用関係はかように私ども理解するのであります。すなわち、当事者訴訟においては三十三条の二項のような関係は起きてこない、ただ単にその判決にうたわれた理由について当事者を拘束するというので、三十三条のつまり拘束力に関する一般法である一項だけを準用すれば足る、こう考えておるのであります。
  67. 松井誠

    松井(誠)委員 そうしますと、二項のような問題が起きないから一項だけを準用したということになる。従って、一項の拘束力というのは、二項を含むより広いものだということに考えなければならぬと思う。従って、一項に書いてある拘束力とは何かということを御説明願いたい。つまり、結局これは二項のことですよということでは説明にならないのじゃないか。だから、一項に書いてある拘束力一般とはどういうことなのかということを御説明願いたいと思います。
  68. 浜本一夫

    浜本政府委員 わかりやすい具体的例を言いますと、二項のところになってしまいますのでお気に召さぬようでありますが、抽象的に言いますれば、判決にある理由に示された判断が行政庁を拘束する、取消訴訟の場合には当事者を拘束する、抽象的に言えばそうならざるを得ないのであります。
  69. 松井誠

    松井(誠)委員 それじゃ具体的にお尋ねをします。蒸し返すようですけれども、当事者訴訟の場合に一項が準用される。そうすると、一項の理由に書いてあることが関係行政庁を拘束する。それじゃ具体的に事例をあげて、どういう場合にどういう拘束のされ方をするのか、その点お伺いしたいと思います。
  70. 阿部五郎

    ○阿部委員 今調べておられますから、その間にちょっと大臣がお越しになっておられますから、一点だけ伺っておきます。総理大臣の異議権という問題は重大な規定であるということはたびたび言われておるのでありますが、伺いたいのは、大臣のこの規定の重大さの程度についての御認識を伺いたいのであります。この規定は、御存じの通り前々からあるのであります。あるのでありますが、われわれは常々それをはなはだ不思議に思っておったのであります。前々からありましたのは、この総理大臣の異議がありましたならば、その異議に拘束されて裁判所は執行停止の処分をすることができない。処分と言いましても、これは裁判所の決定は裁判であります。判裁が拘束されるということは、これは司法権独立の立場から、何ものにも拘束されないというのが裁判原則でなければならぬ。もし拘束されることがあるとすれば、同じように上級裁判所裁判に拘束されることはあっても、裁判所以外の、司法権以外の拘束は受けないというのが、国全体の政治の常識、三権分立の立場からの常識であります。しかし、前々からも総理大臣の異議があったならば、裁判所は拘束を受けて執行停止の決定をすることができない。こういうことになっておったわけなんで、それすらわれわれは大へん不思議な規定だ、こういうふうに思うておったのであります。もちろん、事の重大さを立法の上にも表わしておって、他の行政権の拘束は受けないようにして、総理大臣だけの権限、こうなってはおりますけれども、総理大臣といえども、やはり行政権の首長にすぎないのであります。裁判がその拘束を受けるということ、すでにそれが不思議であったのでありますが、今回の改正法案によりますと、一たん裁判所が決定を下した、すなわち執行停止の決定を下した、それすら総理大臣の異議があったならば取り消される、こういうことになるわけなんであります。裁判が一たん下された以上、それの効力が失なわれるということは、司法権以外からの拘束によってそういうことが起こるということは、絶対にあり得ないのが原則であります。裁判が取り消されるということは、上級裁判所裁判によって取り消されることはありますけれども、司法権以外の影響を受けてそれが取り消されるということは絶対にないはずだと私たちは思うておるのであって、これはわれわればかりでなしに、政治の常識、一般の常識だろうと思うのであります。三権分立の立場からそうなければならぬ、こういうふうに思うておるのであります。今回の改正においては、裁判が、行政権の首長、総理大臣の異議によって取り消されてしまう。こういうことはまことに重大という中でもはなはだしく重大だ、こう思うのでありますが、法務大臣の御見解は、この点どの程度に、どうお考えになっておられるか、それをこの際一つ率直にお聞かせ願いたいと思います。
  71. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 総理大臣の異議の申し立てにつきましては、その理由が、公共の福祉に対してほんとうに重大な影響を及ぼすということがあまりにも考えられ、放置するときは、そのためにどうしても公共の福祉が妨げられるということがはっきりしておるという、非常に重大だというときに、いわゆるこの異議の申し立てをしまして、そうして処分の状況をしばらく、最終判決が下るまでの間効力を存続していきたい、こういう考え方でできておるのであります。従って、この問題につきましては、総理大臣として容易にこの異議の申し立てをすべきものではなくして、この事案そのものが影響するところあまりに大きいという、その大きさについて、これをどうしても放置することができないと考えなければならぬほどの重大さ、そういうときに初めてこの異議の申し立ての二十七条を使っていきたい、こういうのでございます。
  72. 阿部五郎

    ○阿部委員 今のお答えは、先ほどからのお答えから一歩も出ておりません。私のお尋ねしたいのは、司法権の行使に対する、すなわち裁判所の行動に関する行政権の関与、こういう問題について聞いておるのでありますが、その点には少しもお触れになっておりません。この点いかがでございましょうか。
  73. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 司法権に対して行政権が介入することがいいか悪いか、これは悪いときまっておると思うのです。だから、なるべくならばこういう事態は避けたい。従って、この二十七条の提案におきましても、めったにこれをやらないのだ、ほんとうに真に公共の福祉に及ぼす影響が重大であると認めたときにのみ執行するのだ、こういうところにあるのでありますから、司法権を尊重していこうという気持は、これはもう変わりない。しかし、それにもまさって、その裁判の決定をそのままにしておいて、訴訟が進行していく状態をそのままにしておくわけにはいかぬ、そういう場合に初めて使う、こういうのでありますから、だから司法権を尊重していこうという気持は十分ある。しかしながら、その間において、先ほども申し上げましたように、裁判所といえども、すでに行なわれた処分を取り消すというようなときには、普通の手続、最終判決のごとく必ずしも十分慎重なる手続であるかどうかについては、ややそこに急いでやらなければならぬ建前になっておりますから、従って、時には見解が違い、その見解が、どうしても行政官庁としてこれに承服することができない、それでは公共の福祉が侵されるという場合にのみ使おう、こういうのであります。
  74. 阿部五郎

    ○阿部委員 どうも御答弁は進展しておりません。大臣は、この規定裁判に対して行政権が関与しておるものであるということはお認めになったように、今の御答弁においては承りました。ところが、それは重大やむを得ざるもの、すなわち公共の福祉のためやむを得ざる場合であるからいたし方ない、どういうお考えのようでありますが、裁判所といえども、公共の福祉を心に入れないものではないことは言うまでもないと思います。そして初めて裁判所が執行停止を行なう場合においても、被告側に立っておりますその行政処分をした行政官庁、そういうものも十分意見を述べる機会があるのであります。その意見を述べる機会において、これが取り消された場合、あるいは停止された場合に、公共の福祉にいかなる影響があるかということを主張する機会はあるのであります。そして、なおかつ裁判所裁判を下しておる。それを行政権の一片の異議申し立てによって取り消す、これでは裁判の秩序は全く破壊されてしまうように私には思われます。さらにまた裁判制度の上から申しましても、それに対しては上級裁判所裁判を求めるところの抗告という手続は厳として存在しておるのであります。もし取り消された場合に、すなわち執行を停止ざれた場合に、公共の福祉がそこなわれるというのでありましたならば、当然最初の執行行政官庁は抗告をなさるでありましょうし、それに対して上級裁判所の決定はあるはずであります。にもかかわらず、なおかつ行政権の、すなわち総理大臣の関与を許さなければならないほどの重要さ、重大さ、それが私たちには容易に理解しがたいのでありますが、その点、法務大臣におかれてはいかにお考えになっておるか承りたいと思います。
  75. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 どうも私の説明がまずいため御了解をいただきにくいのかもしれませんが、私は、第一に御理解願いたいと思いますことは、この総理大臣の異議というものはめったに行使すべきではない、なるべく行使しない建前でおるのです。伝家の宝刀的なものであるということで、まずわれわれもそのつもりでこの条文を運用して参りたい、こう思っておるのであります。従って、いろいろな行政処分が行なわれ、また裁判所によって執行の停止が行なわれた場合に、何でも、事案の軽重というものを考えずに、政府、行政官庁が都合の悪いときには、すぐこの条文を運用していこうというふうにおとり願いますと、何か裁判権に不当な拘束と申しますか、影響力を与える、あるいは干渉を加えるというふうにおとりになるかもしれませんが、そうではないのでありまして、これがほんとうに公共の福祉に重大な影響が及んで、そしてその裁判所の措置が、公共の福祉を守っていかなければならない政府側の行政官庁として、どうしても放置できないという場合にのみ、きわめてまれなる事態の場合に発動するのだということでお考え願いますと、そういう場合もあり得るかというふうに私は思うのであります。
  76. 阿部五郎

    ○阿部委員 御説明を承りましても——なるほど一応は、公共の福祉に大きな影響を与えることを防がなければならぬという必要も起こるかもしれぬとも思いますけれども、そういう不安定な理由のもとに、国の政治の基本であるところの行政権、司法権の区分を乱る規定法律に設けなければならぬほどの重大さを、私たちは認めることができぬのであります。これ以上お答えを求めましても、明らかになるものは少ないと思いますので、御答弁は求めませんけれども、事はあまりに重大であって、その重大なことをあえて法律規定する必要というものはあまりに小さいように、またあまりに希有なように思われることを、この際申し上げておきます。
  77. 浜本一夫

    浜本政府委員 先ほどの、中断いたしました松井委員の御質疑に対してお答え申し上げたいと思います。  当事者訴訟と申しますものは、具体的に例をあげて申しますれば、たとえば懲戒免職になった公務員が、その懲戒免職を無効なりとして地位確認の訴訟を起こします。この場合には、抗告訴訟としてでなしに、公共団体なりあるいは国なりを当事者として、地位確認の訴訟を起こすわけであります。その場合に、裁判所で、懲戒免職は無効であって、依然として公務員たる地位を保有しておるという理由で原告の請求を認めたとしますれば、その判決にある理由中の裁判所の判決が当事者、すなわちこの場合国なり公共団体を拘束する。こういうのを、私ども三十三条の拘束力と考えていいだろうと思います、当事者訴訟に関してお答え申し上げれば。
  78. 松井誠

    松井(誠)委員 ですから、拘束するというのは具体的にどういう効果を伴うかという——今の場合に、地位の確認を求めた。従ってまだ首にはなっていないんだという、そういうことが理由で確定をされる。それに拘束されるというのは、具体的にはどういうことを言うのかということをお尋ねしております。
  79. 浜本一夫

    浜本政府委員 ただいま私があげました実例で申し上げますれば、依然として公務員としての地位を保有することを認めなければならぬという拘束力を認めるわけであります。
  80. 松井誠

    松井(誠)委員 そうしますと、この三十三条の一項の問題について、その判決の理由というのに書いてあることを、関係行政庁は認めなければならないという趣旨のように伺ったわけなんですが、この関係行政庁、すなわち「当事者たる行政庁その他の関係行政庁」というのはどういう意味でございましょうか。
  81. 浜本一夫

    浜本政府委員 今の実例から申しますれば、懲戒処分をした行政庁でございます。
  82. 松井誠

    松井(誠)委員 当事者訴訟に限らず、この三十三条に書いてある関係行政庁というのは、当事者たる行政庁その他と書いてありますから、当事者たる行政庁以外に拘束をされる行政庁があるということになるわけですけれども、それは一般的に言い得るのかどうかわかりませんが、もし一般的に言い得るとすれば、関係行政庁というのは一体どういう趣旨なのかというお尋ねです。
  83. 浜本一夫

    浜本政府委員 今の実例で申し上げますれば、処分をした行政庁が、処分権者が下級なた行政庁であります場合を考えますれば、その上級の行政庁はそれに関係があるわけであります。また、上級行政庁が懲戒免職をした場合を考えますれば、関係行政庁としましては、何らかの関係があればその下級の行政庁を本拘束するという結果にたるのであります。
  84. 松井誠

    松井(誠)委員 上級、下級の関係があれば、そういうものが関係行政庁だ。そうしますと、学者があげておる例でお尋ねをしたいのですけれども、たとえば河川敷地なら河川敷地について、この敷地は私有地じゃなくて国有地だという認定をした。ところが税務署は、いや、そうじゃなくて、それは私有地なんだといって私有地として税金をかけてきた。そういう場合に、河川敷地の所有の認定をめぐって税務署が関係行政庁になるのかどうか。あるいはそのときに拘束されるというのは、具体的にはどういうことを言うのか、との点はどうでしょうか。
  85. 浜本一夫

    浜本政府委員 今あげられましたような場合、やはり税務官庁は関係行政庁になると思います。それから先ほどあげました実例で申し上げますれば、私、上級、下級ということだけを申し上げたのでありますが、たとえばそれに関して恩給が問題になれば、恩給に関する官庁なども関係行政庁になると思います。
  86. 松井誠

    松井(誠)委員 そうしますと、たとえば税務署なら税務署もその判決に拘束をされて、その認定に違反をするような行政処分はできない、そういうように解釈していいわけですね。  それから、たとえば行政庁行政処分を取り消された場合に、同じ行政処分をもう一度やるということはできないだろうと思いますけれども、そのできないというのはどういう規定に基づくのか、この拘束力に基づくのか、あるいは既判力の効力として、この規定がなくてもそれは当然にそうなるものなのか、そういうことはどうなんですか。
  87. 浜本一夫

    浜本政府委員 御設例の場合の関係は、やはり拘束力の結果起きる関係であると考えるのであります。
  88. 松井誠

    松井(誠)委員 第三十二条の第三者に対しても拘束力を有するという規定ですけれども、たとえば農地の買収処分なら買収処分が取り消された。従って、もうすでに売り渡しが終わっているときには、その売り渡しそのものの効力もなくなるわけでしょうけれども、そのときすでに売り渡しを受けておる人が売り渡しを取り消される。また、その買収処分が無効だということでもとの所有者に返ったということを否認をして、すでに売り渡しを受けた人が、その農地を引き渡せ、あるいはその所有権の確認を求める訴えを起こすときは、三十二条との関係はどういうことになるのですか。
  89. 浜本一夫

    浜本政府委員 御設例の場合を三十二条との関係で御説明申し上げますれば、その場合、売り渡しを受けた者は買収が無効であるという形成力、効力は受けるのでありますから、それをなおかつ売り渡しにより自分に所有権があるという前提で旧所有者に引き渡しなりあるいは登記を求めるということはできないことになると考えるのであります。
  90. 松井誠

    松井(誠)委員 いろいろわからないことがあるので具体的にお尋ねしたいのですが、これもやはり例としてあげられている問題として、たとえば地方税なら地方税の課税についての条例が、憲法違反なら憲法違反で無効だという理由で具体的な課税処分が取り消されるという場合、ほかの同じ原因による課税処分については、形成的効力あるいは拘束力との関係でどういう効力が出てくるわけでしょうか。
  91. 浜本一夫

    浜本政府委員 御設例の場合で御説明申し上げますれば、その事件について第三者に効力が及ぶだけでありますから、同種の事件でありましても、ほかの事件については何ら関することがないのであります。
  92. 松井誠

    松井(誠)委員 そうしますと、拘束力の問題として考えて、具体的なその課税処分を取り消さなければならないというのは当然出てくる。ところが、その取り消し理由として、その根拠になっておる条例なら条例がかりに憲法違反だという認定があるとする。そうしますと、課税処分一般を取り消すというのはこの拘束力の範囲ではないわけでありますか。
  93. 浜本一夫

    浜本政府委員 今の御設例の場合で申し上げますれば、他の課税処分についてはそういった効力は持たぬわけでございます。
  94. 松井誠

    松井(誠)委員 この三十二条には形成的な効力の問題を書いてあって、既判力については全然触れてないわけですけれども行政事件の判決の既判力はどのように考えられるべきものなんでしょうか。
  95. 浜本一夫

    浜本政府委員 それは第七条によりまして「民事訴訟の例による。」ことになると考えております。
  96. 松井誠

    松井(誠)委員 効力の問題については一応この程度にいたしまして、もう一つ訴訟の類型の問題についてちよっとお尋ねをいたしたいと思うのです。これで一番問題になりますのは、やはり無効確認訴訟の要件を非常にしぼったということでありますけれども、提案理由説明によりますと、今まで一般的に認められておった無効確認訴訟というものは、理論的にもあるいは実際的にもその必要がないのだという御説明でありますけれども、理論的な問題は別といたしまして、実際的に必要があるかないかという問題になりますと、私は必ずしもそうは言えないのじゃないかという気がするわけなんです。よく問題になります例の農地の買収の問題にしましても、そういう取消訴訟というものは取得期間の経過でできないというときに、無効確認という訴訟を起こした。ところが今度はそういうものが、たとえば所有権の確認というような形でやればいいんだということでございますけれども、今まではいわば無効確認訴訟ならば行脚庁を相手にしてやるわけで、従って農地の買収、売り渡しを受けた人は、当該の訴訟については、参加するととは別ですけれども、一応当事者の外にあるわけです。つまり県が一切裁判費用も出してくれ、やってくれる。ところが、今度はそういう司法上の所有権の確認というような問題になってきますと、普通の民事訴訟として当然被告の立場、あるいは原告の立場に立たなければならぬ。従って、今までいわば官費で裁判ができたものが、今度は自分自身費用の点でも矢面に立たなければならぬ。そういう意味では、これはなるほど理論的には無効確認というのは現在の法律関係に限るのだという立場から言えば、あるいはその通りかもしれませんけれども、その理屈を推し進めていくと、今言ったように、今まで無効確認というものを広く認めてくれたおかげで受けておった人たちの恩恵が失われる、そういうことも御考慮に入れた上でのことかどうか、その点をお伺いしたい。
  97. 浜本一夫

    浜本政府委員 私どもが無効確認訴訟と言いますものは、現行法のもとにおいて、一般の民訴と異なった形の無効確認訴訟というものは認めらるべきものではないと実は考えておったのであります。現在でも考えておるのでございます。でありますから、それが無効であるという以上は、現在の法律関係としての訴訟で争っていくべきものでありまして、おっしゃる通りむしろ現行法でそういうものが認められておったのが、無効確認訴訟を非理論的に、理論を無視して乱用されておったものであると私ども考えるのでありまして、そういった場合に、その訴訟によって利益を受ける者がみずから費用負担するのは当然であるというふうに考えておるのであります。
  98. 松井誠

    松井(誠)委員 しかし、今言われた理論というものも、必ずしも唯一絶対の理論じゃなくて、やはり今まで認めておった無効確認訴訟そのものを理論づけるという、そういう理論もあり得るわけですから、従って、そういう現実の実際の影響というものを無視してまで、あなたの言われる理論ということで筋を通すことが必ずしもいいか悪いか、訴訟制度というもの、立法の政策というものは、必ずしもそういう訴訟法学説そのものにのっとってやらなければならぬことは私はないと思うのであります。そういう意味で、非理論的であったから当然なんだという御説明は、学校の教科書を書かれる場合なら別ですよ。しかし訴訟制度をどうして作るかという点については、私は必ずしも当たっていないじゃないかと思うのです。そこでこの無効確認訴訟の提案理由の中で、ちょっと私わからない点があるのですけれども、それは無効等の確認を求める訴えが、一はかの訴訟では目的を達することができないような場合には、これを認めるのだということで、例として、「買収計画の無効確認など一連の手続中の先行処分の無効確認の訴え」ということを書いてあるわけですが、これはどういう意味か。その前に、買収処分の無効確認の訴訟は、所有権の確認、そういう訴訟があるのだから、これは必要じゃないのだ。しかし買収計画の無効確認というのは、この法律によってもやはり無効確認の訴訟としてやらなければならないのだということを書いてありますが、この説明をもう少し詳しくしていただきたいと思います。
  99. 浜本一夫

    浜本政府委員 この買収計画の無効確認の訴訟について考えてみますと、この場合には、現在の法律関係に引き直した訴訟というものが考えられない、また許可申請に対する却下処分につきましても、やはり同じことが言えるのでありまして、さような場合には行政処分そのものの無効確認を求める以外にはないのでありまして、しかも訴えべき理由があると考えられる場合に当たるのであります。
  100. 松井誠

    松井(誠)委員 単にその計画を立てたばかりでは権利関係の変動がないから買収処分無効等の場合とは違うのだ、こういうときに、買収計画が立てられてそれが無効だというときに、その次に手続が進行をしていくその進行を防ぐために、たとえば買収処分の差しとめの訴訟、そういうものは、無効確認の訴訟の問題とは別ですけれども、この法律ではどのように取り扱うつもりなんでしょうか。
  101. 浜本一夫

    浜本政府委員 そういった訴訟が許されるか許されないかということは、実は本法にはうたっておりません。公権力の行使に関する不服の訴えとして、第三条にあげておりますもの以外に当たりますものが、本法には触れておりませんから、それが許されるかどうかということは、将来の健全な判例の発展に待つというつもりでおるのであります。
  102. 松井誠

    松井(誠)委員 そうしますと、そのようにこの法律に書いてないいろいろな訴訟、それは当然出てくると思いますけれども、そういうものが、この執行停止の規定の準用があるかないかということは、やはりこの法律規定そのものからは出てこないわけでありましょうけれども、それはどのように解釈をすべきなんですか。
  103. 浜本一夫

    浜本政府委員 今の御設例の場合について申し上げますれば、買収計画の無効確認訴訟を起こして、そうして執行停止を求めれば、当然買収計画の発展段階として買収処分が行なわれようとしております場合には、その買収処分を防ぎ得る効果は、執行停止の効力として出てくるわけであります。  ただいまの説明、少し補充したいと思いますが、法文上の根拠をあげますれば、第三十八条の三項、無効確認訴訟に執行停止の規定が準用されておりますから、従いまして、買収計画の無効確認の訴訟を起こして執行停止を求めて、執行停止があれば、これによって買収計画の発展段階として考えられる買収処分が停止されるという形になるわけであります。
  104. 松井誠

    松井(誠)委員 私がお尋ねしたのは、ここに書いてある無効等確認の訴えならば準用の規定がありますけれども、たとえば差しとめ訴訟なら差しとめ訴訟を起こす。もしそれがこの法律で許されるということになりますと、その差しとめ訴訟そのものには、執行停止の規定が準用があるかないかということは書いてない。従って、そのような点についてはどのように考えるべきものか、こういうことなんです。
  105. 浜本一夫

    浜本政府委員 本法のとっております建前としましましては、一応三条に例示しておりますような、一般的に現在の段階で考えられておる学説なり判例なりにおいて固まっております形の類型の抗告訴訟だけをあげておりますので、今おっしゃるような、本法が取り上げております類型以外の類型の訴訟については規定を欠いておるということになります。従って、将来の健全な判例の発展を待つと私が申し上げましたのは、さような場合には、おそらくは本法を健全に解釈して、相応の規定が準用になるという解釈によって判例が作られるのじゃないかと思うわけです。
  106. 松井誠

    松井(誠)委員 そうすると、繰り返しますけれども、いろいろな訴訟が出てくる。それがたとえば、その本質において、抗告訴訟なりあるいは無効確認の訴訟なりに準ずべき性格のものであるとすれば、執行停止の規定も準用さるべきものなんだ、こういうように一般的には考えてよろしいわけですね。
  107. 浜本一夫

    浜本政府委員 全くその通りでございます。
  108. 松井誠

    松井(誠)委員 このあと訴願前置に関連をする整理法関係その他お尋ねしたいのですけれども、時間がおそくなりましたので、きょうはこれで終わりにしたいと思います。
  109. 阿部五郎

    ○阿部委員 関連して、一言局長さんにお尋ねしますが、行政訴訟における執行停止の申請に対して停止決定があった場合、今資料をいただいたのですが、この中で口頭弁論を開かずして停止した、こういう事例がどれくらいあるか、今おわかりだったらお答え願いたい。
  110. 浜本一夫

    浜本政府委員 私の知る限りにおきましては、執行停止事件そのものについて口頭弁論が開かれたという事例は、現在までおそらくなかったのではないかと思います。みな書面手続で決定がされておる状態であります。
  111. 阿部五郎

    ○阿部委員 それは正確でしょうか。
  112. 浜本一夫

    浜本政府委員 全然ないというふうに御理解願うと、ちょっと誤解を生ずるかもしれませんが、私がちょっと記憶がないくらい少ないようであります。
  113. 阿部五郎

    ○阿部委員 私は、行政事件の執行停止は重大ですから、裁判所は大てい双方の主張を聞くために口頭弁論を開いていると思うのですが、その点一つお調べいただきたいと思います。
  114. 浜本一夫

    浜本政府委員 私の今答弁しましたのは全くの記憶に基づいて申し上げておりますので、資料を求められますれば、できる限り資料は提供したいと思います。
  115. 坪野米男

    坪野委員 関連。その点局長、私もずいぶん行政事件をやっての自分の狭い経験だけですが、口頭弁論を開いてやったかどうかの記憶は、ちょっと今急な話で、ないのですが、大体裁判所は、執行停止を出すべきかどうかということについては、慎重に検討することは事実です。また一方で口頭弁論を開いて今の行政訴訟をやっています。そういう関係で答弁その他なにしているのですが、大体その前に総理大臣の異議が出てくるのです。あるいはもう出ないという見込みがきまった場合に、裁判所が開かずに決定した場合もありますし、開いた場合、開いて異議が出て却下になったか、私、ちょっと調べてみないとわからないのですが、今の阿部委員のお尋ねに対して、もう少しお調べいただきたいと思います。
  116. 松井誠

    松井(誠)委員 今の執行停止の資料のことなんですけれども、これはいただきましたが、実は私の知りたいのは、この前もお話ししたと思いますけれども行政協定、今地位協定と言いますか、それに基づく特別措置法関係のものも取り出していただきたい。ここには工業所有権関係として、ほとんど一件か二件しかないのを独立に取り出しておりますけれども、特別措置法関係はその他ということで一括されておるわけです。しかし、異議を申し立てた事例としては特別措置法に基づくものが一番多いわけであります。ですから、特別措置法に基づくものの執行停止が一体幾らであったかということを、やはり独立にこの表の中に表わすようにしていただきたいと思います。これは今すぐでなくてもいいですが、できないことはないと思いますけれども、どうでしょう。
  117. 浜本一夫

    浜本政府委員 松井委員から前回御要求がありました後に、私どもできる限り努めたのでありますけれども、資料としましてはこれしか今は出てこない、はたしておっしゃるようなものがありますかどうか、今まで私どもの探したところでは、ないのでございます。  それから、今執行停止事件について弁論が開かれるのが多いという御印象のようでありますが、私は、それは本訴の方の弁論と混同しておられるのではないかと思うのでありますが、執行停止事件そのものについては、口頭弁論を開くということは、ありましてもきわめてまれであると私は思います。
  118. 河本敏夫

    河本委員長 本会議散会後直ちに再開して質疑を続行することとし、これにて休憩いたします。    午後一時一分休憩      ————◇—————    午後三時二分開議
  119. 河本敏夫

    河本委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。志賀義雄君。
  120. 志賀義雄

    志賀(義)委員 行政事件訴訟法案質問に入ります前に、一言法務大臣に伺いたいことがあります。  この法案は、だいぶ長いこと法制審議会にかけられておったのでありますが、その期間はどれくらいだったでございましょう、きまるまでに。
  121. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 昭和三十年か三十一年のころからと思いますから、約六年間ばかり時日を費やしております。
  122. 志賀義雄

    志賀(義)委員 だいぶ長いことおやりになったわけでありますが、法務大臣は、先日坪野委員質問に答えて、法制審議会が難航した、あるいは調整に相当ひまをとりましたと言っておられます。浜本訟務局長も、法制審議会は実に長い期間にわたり、また広い資料、各方面の意見を徴したと言っておられるのですが、さらに法制審議会では少数意見もあったということでございます。  ところで、この委員会は、それほど長い間かけ、そうして少数意見もあったにもかかわらず、答申案しか資料として出されておりません。これはまことに不親切と言わなければなりません。かつて刑法の一部改正審議の際には、膨大な審議会の速記録が提出され、本委員会でその速記録を活用して私も質問して、小野委員長から、そこまで見て下さるとは感謝にたえないということを言われたことがあります。ところが、今度はそれが出ていないのです。どうですか、そんなに長い間かかったものなら、私どもも十分そういうものを検討してかからなければいけないのでありますが、今度はどういう意味でそういう速記録とか少数意見の内容をわれわれ委員にお渡しなさらなかったのでしょうか。何か渡すとまずいことでもあるのでしょうか。その点ちょっと伺いたいと思います。
  123. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 仰せの通り、相当長期間にわたって詳細に、また広範囲に論議を重ねたものでございますから、いろいろとその間の資料等もあることはあるのでございます。しかしながら、何しろあまりにも膨大になるきらいもありますし、せっかくわれわれといたしましては、現段階において最善の案と考えますので、こうした案を一日も早く国会に提案し、一日も早く国民の権利の伸張に資したい、かような考えで御審議をお願いしているわけでありますが、ただいま御指摘の少数意見等の問題につきましては、これを一般に広く公開、発表いたしておりますので、それによって、おそらく各方面とも、これに関心をお持ちの方は御承知を願っておるというような気持で、その準備がこの国会に間に合わなかったという点もございます。だから、ほんとうに親切な方法として考えるならば、それらもあらゆる万難を排して出し得たらば、なおよかったかもしれませんが、この点御了承をお願いしたいと思います。
  124. 志賀義雄

    志賀(義)委員 刑法の一部改正のときも相当膨大なものだったのです。それを見るだけでも私どももずいぶん努力したのでありますが、御承知の通り、そういうふうに難航した、調整に相当ひまをとりましたとあなた自身も言われるくらいのものですから、あなた方としてこれで最良のものと思ったと言われても、法制審議会でそういうふうになったのは、やっぱりわれわれに知らせて下さらないと、これはいいと思ったから、さあ早いところ上げろ、こういうことになりますと、困るのですよ。そうでしょう。今からでもいいですが、あるなら委員に配っていただきたいのですが、どうでしょうか。何も隠さなければならぬことはないでしょう。何か悪いことでもしているのですか。
  125. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 これを今提出するがためには、新たに印刷をしなければなりませんし、遺憾ながらとても間に合いませんので、御質疑に応じまして、政府委員等からでき得る限り詳細にお答え申し上げたいと存じます。
  126. 志賀義雄

    志賀(義)委員 これが本委員会にかかったのは二月の初めでしたか、今までの審議法制審議会で六年間もかかっているのだから、相当われわれとしても綿密に調べなければいかぬということでやってきておるわけです。法務大臣の方で、これはいい案と思ったから、審議の経過のことは知らなくてもよろしい、これでイエスかノーかを言え、こういうことになりますと、植木さん、まずいですよ。今後のこともあります。ただいまおっしゃったことは、どうも私、了承できません。今後法務省ではこういうことはやらないでいただきたいと思いますね。こういうことこそ官僚的なんで、法務省でいいと思ったから、これを国会へ出すのだ、これだけでやれということですが、たとえば公開したものでも委員会には特別に配付されるのがこれまでのならわしになっております。一般に公開したから、この委員会に出さないでいいということでしょうが、委員会というのは特にこれを審議するためにある機関でしょう、国会のこの法務委員会というのは。それに対してそういうことをとらないで、一般に公開しているから、それでごらん下さい、これでは済みませんよ。今までそういう例になっておりません。ちゃんとことには資料としてそういうものが配付されることになっております。その点をまず申し上げておきたいのです。遺憾に思います。  質疑に入りますが、今回提出された行政事件訴訟法は、行政不服審査法と並んで、行政事件行政行為についての法体系を新たにこしらえようとするものですが、問題は、まず現行憲法のもとで行政事件をどういうふうに見、またどう考えているかということなのであります。提案理由には、行政事件訴訟の特質というように書いてありますが、この特質とは一体何をさされるのか、その点をお伺いしたいと思いますが、提案理由、先日読み上げましたものにありましたね。
  127. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 行政事件の特質と申し上げました趣旨は、行政事件が、それぞれ単なる国民個々の一身上の権利義務に関するもののみならず、公共の福祉に広く関係を持つということを特に特質として申し上げた次第であります。
  128. 志賀義雄

    志賀(義)委員 提案理由にはこう書いてあります。解釈上幾多の疑義がある、また行政事件訴訟の特質及び各種行政法規との関連についての考慮が十分でないうらみがある、何分にもそうそうの際であったから。その運用の面においても幾多の困難があるとも書いてある。そこで、これらの障害を取り除き、一般法を作るというふうになっております。これを見ますと、明らかに政府行政権の行使の利益を中心に据え、国民の人権の救済、擁護がどうもうしろの方に退くようになっていると思われるのであります。そのことを示すのは、この法案には職権主義、公共の福祉というような言葉が数多く出てくるのでありますが、憲法第八十一条には御承知の通り「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」というふうになっております。この条項を考えると、どうもこの法案の考え方がさか立ちしているのではないか、こういうふうに考えるのでありますが、その点については法務省はいかがごらんになりましょうか。今度法案をお作りになるについて、職権主義、公共の福祉という言葉がよく出てきます。そして私どものおそれるのは、これでは憲法第八十一条の規定に基づく基本的人権の救済、擁護という任務が、政府の行政権のために不当にうしろの方へ押しやられてしまって、政府の職権、こういうものが前に出てくるのではなかろうか。公共の福祉という名で個人の人権が非常に押えられるのじゃなかろうか。その救済、擁護ということがどうも見落とされていると私どもは思う。その点はどうですか、こういう意味です。
  129. 浜本一夫

    浜本政府委員 先ほど大臣からお答えがありましたように、何分にも行政事件というものは単に国民個人々々同士の間の私益の問題ではございませんで、事柄一々が行政に関するものでございますので、一つ一つ事件が直接直ちに公共の福祉に影響するところが重大なのであります。もちろん、行政事件訴訟法案あるいは現行法におきましても、国民の権利の伸張、保護に関する制度でありますから、それがゆえに全部が全部職権である、公共の福祉であるということで、国民の権利の擁護をうしろにする、第二義的に考えるということでないことはもちろんなのでありますが、事柄が行政に関する訴訟でありますから、訴訟とは言いましても、訴訟即個人の権利の伸張、擁護と申しましても、おのずから公共の福祉との間に調整をはからなければならぬのであります。そこで今志賀委員御指摘のような職権主義とか、あるいは公共の福祉を考えてのことがしばしば現われて参りますけれども本法案におきましては、管轄を広げたり、あるいは訴願前置という点を抑制しておりましたり、あるいはまたもろもろの行政法規ではきわめて短い出訴期間にしておりますのを、本法では最小限度三カ月というふうにいたしましたり、諸般の点でその間の調整をはかっておりまして、必ずしも私どもは、公共の福祉の名のもとに国民個人の権利を抑圧するというつもりはないのであります。また、本法を正当に御解釈願いますならば、決してさような非難は受けることはないと私どもは信じております。
  130. 志賀義雄

    志賀(義)委員 では数字をあげましょう。現実に日本ではどういう状態か考えますと、第一審で年間わずか千件です。西ドイツでは一つけたが違って、大量五万件になっております。年間数十万、三十万もあるという状況も外国の大きい国の例ではあります。しかし日本ではただ千件。そして新憲法ができてから今日まで二万件にすぎません。諸外国の進んだところに比べると、こういうふうに行政事件訴訟に関する事件は非常に少ない。これは一体どうしてこんなに日本では少ないのか。管轄の規定、この変更も一つの技術的な改革にはなりましょうけれども、それ以上に、行政行為に対する国民のかまえに問題があるのではないか。この一千件ということが、他の数字と比較してその権利行使の状況がどうであるか。この行政事件訴訟法案を作られるにあたって、そういう点も十分配慮してやられたのか。あなたは、別に圧迫するようなことはないと言われておりますが、現実にこういう状態がある以上——あとでまた聞きますが、こういう法案を新たに出すにあたって六カ月を三カ月に縮めたというでしょう。一体どこにどう持っていっていいかわからないでまごまごするような国民がまだ多いのですから、そうなってくると、ますますこの一千件というものは少なくなるようなことになってしまう。これでは困る。そういう点の配慮はおありになるのか。国民の実情を組み入れ、一千件にすぎないというような状態を組み入れてこの法案をお作りになったかどうか、その点を伺いたい。
  131. 浜本一夫

    浜本政府委員 現実行政事件訴訟の数字的な統計、これはきわめて概数でありますが、今志賀委員のおっしゃられた通りであると私も承知いたしております。しかしながら、これが現行法なり、あるいはまた進んで今度の法案が法律になった後における法律が悪いから事件が少ないのだ、あるいは抑圧しているから事件が少ないのだというふうには私ども考えておりません。御承知のように、旧憲法の時分におきましては、行政事件訴訟と申しますのは、理論的にはいわゆる訴訟じゃございませんので、行政機関である特殊な行政裁判所に、しかも出訴事項が限られたものだけしか訴えができなかったのでありまして、現行憲法並びに現行行政事件訴訟特例法が施行になりまして徐々にふえた結果、その数字になったものと私ども承知しているのでありまして、今後もこの趨勢は、わが国の法律知識あるいは法律意識と言いますか、民度と言いますかが高まれば、おいおいとふえでいくことは当然予想し得るところであろうと思うのであります。それでありますので、志賀委員は、まだそれじゃ足らぬとおっしゃるかもしれませんけれども、あるいは管轄の制限をゆるめたり、あるいは出訴について訴願前置を多くのものについてはずしたりいたしまして、出訴しやすくこそいたしておるのでありまして、決して本法がそれで抑圧する方向に向いているというふうには私は考えておらぬのであります。もちろん本法案を作りますときにも、そういう考慮からでございますから、できるだけ国民の権利の伸張と擁護をしやすくするようにという心がまえは絶えず持っておったつもりでございます。
  132. 志賀義雄

    志賀(義)委員 心がまえでいけないのが、法文の中に他の法律関連して出てくるのです。それはほかでもありません。国税通則法に関連することです。この法案の条文についてそれを伺いますと、第八条、訴願置主義、これを原則として廃止することにしたとあります。この原則は当然のことですが、行政権行使は国民に影響をきわめて深くもたらすものでありますから、国民権利救済については十分な配慮が必要である。この点、いやしくも国民の基本的人権より国家行政行為が優位するような考え方は厳に戒めなければなりません。現行憲法の趣旨もこれを明らかにしております。われわれは行政事件については二本立、並列的、競走的に救済しなければならないと考えるのです。つまり国家行政の都合を優位させてはならない。そこでこれを徹底させるためには、この第八条のただし書きがございますね、これを全部削除しなければ、この意味が完全に底抜けになる。これはもう十九世紀のフランスのときから、ただし書きで憲法に規定された人民の権利というものが必ず否定されるということは、一般的な結論として出ておるのであります。今回のこの法案についてもそれがはっきりと言えるのでありますが、なぜそういうふうに申しますかというのは、最近最もただし書きが典型的に出てきたのは国税通則法であります。国税通則法第八十六条、第八十七条、第八十八条は、この法案のただし書きを法案成立前に法文化しておりますね。つまり第八条ただし書きは「法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。」こう書いてあります。このただし書きの、法律に云々とありますが、私は今例として国税通則法をあげましたが、そのほかにどういう法律がございましょうか。これを一つおっしゃっていただきたいと思います。
  133. 浜本一夫

    浜本政府委員 行政事件訴訟の出訴に訴願を前置することを条件とするか、あるいは全然そういう制限をくずして並行主義と言いますか、直ちに出訴し得るようにした方がいいか、これは今のわが国の学者間においても、必ずしも定説を見ておらぬところであります。なるほど、現行憲法では、行政事件訴訟をも普通司法裁判所に統一的に出訴し得るようになってはおるのでありますけれども、やはりその憲法自身が、司法裁判所が唯一の裁判所でなければならぬというふうには規定されておらぬのでありまして、終審としては裁判所なんでありますけれども、その前審においてはその他の裁判制度を決して禁止するものではないのであります。のみならず、行政事件訴訟について関連して申し上げますならば、訴願前置ということにも実は私ども非常にいい点もあると考えておるのであります。もちろん全部が全部訴願前置にするということは、それ自身はいいことではありません。ただしかし、どういうものが訴願前置になるのか、あるいはどういうものは訴願前置であってはいけないかということがより分けられてしかるべきであるという考え方から、第八条にこういう今志賀委員のおしかりを受けるようなただし書きをつけたのでありますが、法制審議会審議の段階におきましても、そのただし書きに収容すべきものはむやみやたらであってはいけないので、大よその標準は示すということで、しばしば私が御説明申し上げておりますように、大量的になされる処分である、あるいは専門技術事項にわたる行政処分である、あるいは訴願裁決行政権から独立した第三者構成委員会によってなされるという場合には、訴願前置にしてよかろうという結論でありまして、また、私どももそれは非常に合理的であると考えましたので、ただし書きを存置し、かつまた今度御審議を願っております行政事件訴訟法施行に伴う関係法律整理等に関する法律案におきましても、この私が御説明申し上げました逐条説明の十一ページに掲げておるのでありますが、これを数えますと五十二カ条になるかと思うのでありますが、そういう法律規定に基づく処分については、今言った三つ基準に当たるものとしてこれを例外的に訴願前置を条件とすることにいたしたのであります。一々条文をあげろとおっしゃいますれば、またあげますが、大体十一ページのところにあげてあるととろで一応御承知を願えるのではないかと考えております。
  134. 志賀義雄

    志賀(義)委員 今のあなたの御説明では、審議会でも云々と言われた。そういうことであるから、ここに出しなさいと言うのですよ。審議会で言ったからといっても、ここでその審議会の書類を出されなければ、われわれはわからないでしょう。さっそくあなたは、私がさっき請求したことがいかに必要かということを、あなた自身が証明して下さるのだから。結局、この第八条は、表面は民主的な原則をとったように見えますけれども、この原則が法案成立以前にたな上げされてしまって、ただし書きが原則になってしまうようにわれわれはおそれるのです。政府が民主的な原則と銘を打ったからには、これをどの程度守るつもりなのか。対象法律何%までを原則とするつもりなのか、これをどう保障するのか、そういう点がただいまの説明でも私どもはっきりしないのです。そういう点を法務大臣、所管の方としてどういうふうにお考えでございますか。
  135. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 従来の訴願を前置してやる制度になっておりましたもののうちで、相当数を今回は整理いたしました。そして訴願前置をどうしてもその性質上必要とする、ただいま政府委員説明になりました三つばかりの分類による法律については、これはそのまま引き続いて前置主義を継続していこうという方針をとっておるわけであります。
  136. 志賀義雄

    志賀(義)委員 どうもおっしゃることが、一向保障があるとはわれわれは考えられないのですがね。  次に問題を進めますが、第二十七条の、問題の内閣総理大臣の異議の点です。これは先日多くの参考人からも非難を浴びておるのです。特に東京地方裁判所判事の白石健三氏は、法治国家、民主主義国家では考えられないことだとまで言って非難しているのであります。これは申すまでもなく憲法第八十一条、第七十六条第三項に対する挑戦ではなかろうかと私どもは考えるのであります。この法案が、行政事件について国民の基本的権利と行政権との関係で、行政優位、国家行政権が独裁的にふるまわれるという本質がここに出ているのでありますが、これが行政権対司法権という形を変えた型で現われているのであります。私どもは参考人の正当な意見陳述、こういうことも参考にしまして、政府は、この際誤ったこの規定を取り下げるべきだと思うのであります。どうでしょうか、裁判所の判事をやっている人たちからも強い批判が出ているこういうものは、もう問題にならないと思いますが、こっちの思う通りにやるんだというお考えかどうか、その点を法務大臣にお願いしたいのですが。
  137. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 二十七条の規定にありまする内閣総理大臣の異議の問題につきましては、もう再三お答え申し上げております通り、真にやむを得ない場合、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあり、どうしても行政官庁として所見を異にする場合があり得るのであります。こうした場合におきましては、きわめて限定されたる範囲において、しかも慎重に、理由の付記でありますとか、この点についてこういうような異議の申し立てをした場合には、次の常会において国会にこれを報告して、そして国会の審議に待つというような方法を講じておりますので、この点については簡単に軽々しくこの条文の発動をすべきではないと考えておりますので、きわめてまれな事例に属するだろうと思いますが、そのときの備えとしてやはりこうした条文があって、そうして現在の裁判所の執行停止というものが行なわれます場合、比較的簡単な手続で、言いかえれば疎明に基づいて決定するとか、あるいは口頭弁論を経ないで済むこともできるとかいったような手続でできる執行停止については、それが公共の福祉に大きな影響を及ぼすおそれがあると思われます場合には、やはりこの二十七条のような備えが必要である。こう考えて提案をしておるような次第であります。
  138. 志賀義雄

    志賀(義)委員 私がこの点を特に指摘しますのは、あなたのおっしゃったように、この前松井委員からも指摘がありまして、いろいろ御答弁もありましたが、現行特例法に内閣総理大臣の異議権があるのは、直接占領のときのGHQの圧力のもとに作られた条項であって、この内閣総理大臣の異議権の発動は、すでに安保条約のもとでの行政協定について五件ほどあります。さらにこの法案の対象に、安保条約、行政協定、これに伴う関連法律関係するものがあります。そこでこの内閣総理大臣の異議権が、行政をすべてに優越させるという点だけでなく、アメリカの日本にいる軍隊、その施設、これを不当に守るという結果になるからであります。たとえば砂川事件のときにも、御承知のように最高裁の判決は、安保条約は高度の政治問題で、裁判所の手には負えないものだ、こう言って逃げております。従ってこの総理大臣の異議の発動は、今後の推移を見る場合、私どもは、今軍縮の問題が次第に現実化しようとしておるとき、またそれに対する抵抗が強いときに、必ずこのことがまた大きい問題になってきて、結局は異議の発動が司法権に圧力を加える、こういうことになる。ひいては憲法が破壊されるという結果になるのであります。現に政府は、最近重要問題については跳躍上告という手段さえ使っているのであります。私は、今法務大臣の言われた点を見まして、特にこれを入れたことについて積極的な理由があるように言われますけれども、現に砂川事件の判決にさえこういうことがあった。これが今度異議権ということになると、今の日本の情勢は、これは植木法務大臣もよく御存じでしょう。南朝鮮の問題もある、南ベトナムの問題もある、それから台湾の問題もある。いろいろと東アジアに限っても多くの問題が起こっておるのであります。そういう場合に、こういう点でまた結局裁判所の手に負えないことがあるのだ、お前さんたち口をいれるな、こういう結果になるということをおそれるのであります。そういう意味で私は申したのであります。この点について植木法務大臣は、そういう心配はないと言われるのかどうか。この点を私は事実をもって申し上げましたが、その点についてお答えを願いたいと思うのです。
  139. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 この最悪の場合におきまして総理大臣が異議を申し立てた場合に、それを結果的に見ますと、仰せのように、行政権が裁判権に干渉する、それに優位を得るようにあるではないか、それはその通りであります。従いまして、そうしたことが好ましくないとは私ども当然考えておるのでありまして、よってもってこの異議条項の発動につきましては、真にやむを得ない、公共の福祉に重大な影響を及ぼして、そのために行政秩序がめちゃくちゃになるというような心配がある、そういうような重大な問題のときにしか発動するつもりはないのであります。従って、そうした場合においては、むしろ両者間のいわゆる調整をとる、行政権と司法権との間の調整がこの条文によって行なわれる。一つの緩衝——緩衝という言葉はおかしいですが、両者間の調整的役割を果たす規定になる、かように考えるのでございます。
  140. 志賀義雄

    志賀(義)委員 次に、第三十一条のいわゆる事情判決の問題でありますが、われわれから見ると、これはまことに驚くべき条文で、つまり、処分なんかが違法であるけれども、公の利益、公共の福祉のためには、それに関する請求を棄却するというのですが、これは法務大臣、こういうことになるのですね。悪いことだけれども、公共の福祉のために国民はがまんしてくれ、がまんしようじゃないか、たといそれが憲法違反であっても、公共の福祉のためにはがまんをしてくれ、この三十一条の規定はこういうことになるのじゃございませんか。私は、これでは民主国家、法治国家とは言えないし、口を開けば法の厳守を言う政府、特に法務省は、一体これをどう考えられてやられたのか。私は、これはどうしてもやめなければならない、削除しなければならないものだと思います。悪いとは知っても、違法であっても、法律上間違っておっても、公の利益、公の福祉のためには、その請求を棄却するということになると、どうもこれは、今はやりの言葉じゃありませんが、わかっちゃいるけどやめられないということになるのじゃございませんか。しかもそれをはやり歌でやるならともかく、政府がやるのですからね。悪いことはわかっているけれどもやめられない、法律違反ははっきりしているけれどもやめられないということ、政府がそんなことをしちゃ困りますな。その点、法務大臣はどういうふうにお考えになるのでしょうか。
  141. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 法律違反でありますとか、あるいは憲法違反というような、そうした間違いを行政処分の上で起こした場合に、先ほど申し上げた総理大臣の異議申し立てをするというようなことは、およそ私には考え得ないのでございます。三十一条のこの問題につきましても、個人の権利に対して公共の福祉が優先するということは、これはやはり私は、原則論的には当然考えらるべき問題であって、こうしたことも必要な制度である、かように考えるのであります。
  142. 志賀義雄

    志賀(義)委員 私の申すことは、法文の解釈のやりとりじゃなくて、実際にわれわれが活動する上に、法務省の公安調査庁なんかでも、破壊活動の対象団体だなんといって、いずれこのことについては近くお聞きしなければならぬことがまた起こっているのですね。植木法務大臣なんかは、中国の問題について非常に御理解がある方なんだが、あなたのところの公安調査庁がよくないことをやるんだ。そういうこともありますしね。たとえば破防法、公安調査庁の行為なんかがやはり問題になってくるのは、公の利益、公共の福祉というためにやむを得ないということで、どういうことになるかというと、破防法の第二条には、この法律の解釈というのですが、破防法の適用は、「公共の安全の確保のために必要な最小限度においてのみ適用すべきであって、」と、こうなっております。そうなりますと、この第三十一条で、破防法はこの行政事件訴訟から——国がたとえば共産党を弾圧したときに、こちらが行政事件訴訟でやるという場合に、破防法の適用は、今の第二条の規定関連して、第三十一条との関係で、破防法というものは、この行政事件訴訟から全く免れてしまう。こういう結果になるのでありますが、その点はどうでしょうか。
  143. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 三十一条の場合には、この条文にも、御承知の通り、「裁判所は、請求を棄却することができる。」というのであって、その「棄却することができる。」ということを判断する場合に、「公共の福祉に適合しないと認めるときは、」と、こういうのでございますから、その問題そのものが公共の福祉に適合しないというときには、そういう判断に裁判所が達したときには、この請求を棄却することができるというわけでありますから、これはまた私の考え方のような、個人の権利に対して公共の福祉を当然優先させなければならぬという場合に適用になるものであって、そうじゃなしに、必ずしも公共の福祉に適合しないかどうかがわからぬようなあいまいなときに、どんどんこの条文を使って裁判所が棄却することもないと思いますし、あるいはまた、総理大臣の異議の問題にしましても、憲法上許されたる範囲内においての行動であります場合には、そう簡単に総理大臣の異議が申し立てられて、そうしてそれによって処分取り消しが直ちに行なわれるというような事態は起こらない。起こらないような運用をするのが当然であり、起こらないのが筋である。かように私は考えるのであります。
  144. 志賀義雄

    志賀(義)委員 あなたがそう言われても、この第三十一条をあなたが特に引用されないところが問題なんですよ。三十一条はどうなっておるかと申しますと、「取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。」こうなっておりますね。その点を今あなたはおっしゃるのですが、そのあとがあります。「この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。」と、こうなっている。いいですか、どういうことになりますか。これは判事として、こんなばかげたことがあり得ないと思うから、これに対して非常な意見が出るのです。書かされる判事の身になって、裁判所の身になってごらんなさい。明らかにこの処分または裁決は違法でありました、これを主文にまず書かなければならないのですよ。書いておいて、しかし、法律には違法ではあるけれども、お前の違法という訴えは受け付けない、そういう請求は棄却するんだ。これで国民が承知しますか。あなたはそういうふうに不都合なことが起こらないようにと言われますけれども、私は、これであなたと一緒に学校を出て別れてから四十年の間、年がら年じゅうそういう不都合にあってきているのだ。われわれの経験からいって、こういうことが一たび規定されたら、これがもうあらゆる摩詞不思議な威力を発揮するということは、もう目に見えているのですよ。これは確かに違法である、違法であるが、お前の違法であるという訴えは受け付けない。こんなことで法治国家と言うことができますか。これはこんなべらぼうな規定になっているのです。それで何でもかんでもお前たちの言うこと一たとえば、法律によってでなければ、判決によってでなければ、人は監獄にぶち込むことはできないでしょう。人の自由を拘束することはできないでしょう。さあ、私らが戦争の最中、釈放されるものになったらどうです、予防拘禁所というものを作ってぶち込んでしまった。そういうことが現実に起こっているのですよ。あなたはそういうことはあり得ないと言うけれども、違法ではあるけれども、お前の違法だからこれをやめてくれという請求は棄却することができるのだ、こういうことを法文に明記してしまう、これが非常な害悪を及ぼすのだ。あなたが法務大臣のときに、こんなものをうかうかと通したということになると、大へんなことになるのですよ。そういう意味で、私はあなたに、これを取り除くように申し上げているのですが、その点はいかがでしょうか。法文を見てごらんなさい。今の「この場合には、」以下、そんなことを書けと言われるのじゃ判事はつらいから、この間も参考人が来てみんな抵抗するのでよ。そうじゃないですか、これは違法だが、違法だというお前の訴えを棄却するなんて、そんな殺生なことを裁判官にさせるものじゃないですよ。
  145. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 その点はただいま志賀委員の御指摘になります通りであります。しかしながら、ここに書いてあります三十一条の趣旨というものは、全く特別の事情による請求の場合でありまして、その特別の事情による請求の棄却と申しますのは、いわゆるこれを取り消すことによって、公の利益に著しい障害を生ずる場合である。そしてその場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償または防止の程度、方法その他一切の事情を裁判官が十分考慮した上で、処分または裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めたときには、裁判所は請求を棄却する。こういうのでありますから、やはり先ほど来私が申し上げますような意味の、いわゆる個人の権利に対して、どうしても公益を優先させなければならぬというような特別の事情がある場合にのみ、この条文によって処理して参りたい、こういう提案の趣旨でございます。
  146. 志賀義雄

    志賀(義)委員 これはもうよほどの場合であって、特別の場合とおっしゃるのだけれども、私らは、その特別の場合というものはどういうものであるかを、今までずっと自分たちが身をもって経験してきた者なんです。公共の福祉ということを掲げることによって、以前ならば国体というようなことでできました。今は公共の福祉とか、同じような意味に使われるのであります。そういうことを私どもは実際自分の経験で痛切にわかっておりますから、あなたは、よほどこれは特別なことでなければやるのじゃないのだとおっしゃっても、これが一たびいろいろな条件が重なり合うと、きわめて当然なこととして不当なことが行なわれるという結果になる。こんなものが通ったら、おそらく将来の史家は、この法律に対して国会はどういう判断をしたのだろう、こう言うにきまっております。そのときになって、戦争は負けたんだ、おれたちのやったのは悪かったんだと言ってみたところが、そこで与えた国民に対する重大な損害、権利の侵害というものは、回復すべき道もないのであります。それでこの三十一条は、行政事件から事実上国民をシャットアウトするところまで立ち至る、こういうふうに私は申しておかなければなりません。  そこで法務大臣は、特別の場合ということで、今のような状態でそんなばかなことが考えられるか、こういうふうにお考えでしょうが、あなたが大蔵省におられたときに、日本はとんでもないところまで戦争でいったでしょう。治安維持法というものは、ごく一部の人間にしか適用されないものだ、こういうふうに言われておった。しかし、これが全国民を戦争にかり立てるための鉄のむちになってしまったのです。ですから特別の場合ということも、この環境の中で、今の条件の中で考えられるようなふうにはいかない。特別にお考えになったことも、こういうことが法文に明記されますと、それ自体が非常に重大な国民の権利を侵害する、こういう結果になるのであります。このことについて私はきわめて危険であると申し上げる。これについて法務大臣は、先ほどやめる意思はないのかということをお聞きいたしましたのに、明確なお答えがなかったのでありますが、その点を伺わせていただきたい。
  147. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 政府といたしましては、この三十一条の規定について、これの軽々しい運営が裁判所当局によってなされるとも思いませんし、また個人の利益に対して公益が優先し、公共の福祉が優先していくということの必要さも十分に考えられますので、この点は原案を変更する意思はございません。
  148. 志賀義雄

    志賀(義)委員 次は第十四条の出訴期間のことでありますが、簡単に申しましょう。六カ月を三カ月にしてしまうということになっております。これは後に申しますが、今自民党から旧地主の補償を出しておられることと将来非常に関係があるから、私どもは非常に心配しておりますが、農民が出訴しなければならないような事態が出てくるときに、六カ月を三カ月にする、どうしたものだろうかと思っておる間にその三カ月が済んでしまうというのでは、これは不親切なことになる。ことに国家が相手なのでありますから、国民救済の道として、逆に一年くらいに延長するのがあたりまえなのに、これはさかさまであります。行政事件というものは国民にとっては非常にやりにくいものです。そこで三カ月間ごまかせればそれでオーケーというようなことになって、しかもこれで行政権と安定させるのでというようなことになっては、言語道断と申すほかはないのでありますが、どうしてこれを三カ月にされたのか、また、私が申すような意味でこれを一年に延ばされるつもりはないのか、その点をお伺いしたいと思います。
  149. 浜本一夫

    浜本政府委員 期間だけから申しますれば、おっしゃる通り、三カ月が六カ月、六カ月が一年ということがいいことは、きわめて抽象的には言えると思うのでありますが、現実に今日まで起きております取消訴訟を見ましても、さような六カ月もしくは一年たたなければ訴訟が起きないというような例は実はございません。また諸外国の立法例を見ましても、そんな長い出訴期間を認めた制度は、私どもの承知する限りではないのであります。もちろん、六カ月が相当か、三カ月が相当か、あるいはまた一カ年が相当かということになりますと、水かけ論になってしまうおそれがありますので、私も自信を持って言うわけではないのでありますが、今までの現実の経験から言いますと、六カ月も必要でなかったのが実情であったように私ども認識しておるのであります。また、これをあまりに長きに規定しておきますと、それぞれの行政法規でかえって短い出訴期間を規定するような悪い傾向を馴致するようなことさえも考えられるのでございまして、やはりそこら辺のところを考えてみますと、三カ月ぐらいで調整をいたしましても、双方にさような弊害を及ぼすようなおそれはないというような考慮から、三カ月という期間を定めたのであります。もちろん、現在の新憲法のもとで行政事件訴訟特例法が施行になりました当初のころ、ことに農地訴訟に関しましては、きわめて言葉は悪いのでありますが、粗雑な行政処分が行なわれたきらいもありますし、確かにその場合には、あるいは六カ月でも短かったと考えられる節もないではございません。しかし今では、そういった点は、行政処分をする行政庁の側におきましても、あるいは行政処分を受ける国民の側におきましても、十分訓練を経ておりますし、今ここら辺で三カ月というふうに切りましても、決してさような混乱なりあるいは国民の権利の伸張を抑圧するような結果にならぬものと私どもは信じてこれを三カ月と統一したのであります。そのかわり整理法におきましては、きわめて短いものについては、これを三カ月に延ばしておりますので、ここら辺で明確に三カ月ということを国民に印象づけて、間違いのないように期した方がむしろいいのではないかと私どもは考えたのであります。
  150. 志賀義雄

    志賀(義)委員 先ほど、日本の件数が一千件、諸外国に比べて非常に少ない。これはなぜかということについて、今の出訴期間の問題ですね、これがやはり関係があるのではなかろうかと私は考えるのです。なお、私がかように申し上げるのは、最後に申し上げる次の二つの点からであります。本法第三十六条の無効確認の訴えに関する規定でありますが、現行法のもとで、最高裁判所の決定は、行政処分の無効確認の訴えを提起することが許されておるし、処分行政庁を被告として提起することができる、こういうふうになっております。ところが本案によりますと、行政庁に対する無効確認の訴えを事実上制限することになるのではないか、私はさように考えるのであります。というのは、第三十六条に「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、」と、こうなっている。これを「提起することができる。」というふうになっております。この制限について、参考人の猪俣幸一判事はきわめてはっきりと、かつ正しく指摘しております。なお白石判事も、これは旧憲法的な考えであると痛烈に具体例をあげて述べているのであります。この参考人の二人の判事、猪俣判事と白石判事がそれほどまでに極言していることについて、言葉をきわめてその不当を指摘していることについて、政府は変更される意思はないのでしょうか。その点、どうして参考人の意見を聞いても変更しなくていいとお考えになるのか。その点をまず伺って最後の質問に移りたいと思います。
  151. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 この問題につきましては、なるほど仰せになりましたような御意見の方もあることは承知いたしておりますが、この条文全体にわたってはもちろんのこと、この問題につきましても法制審議会の議を十分経て、多数の皆様の御賛成も得ることができた。その上においての条文でありますし、また政府といたしましても、こうした場合やはり必要である、こうした制度を存しておくことが必要であるという建前で採用しておるのでございますから、この点、志賀委員には御意見を異にせられるかもしれませんが、このままぜひ成立させていただきたい、こう考えております。
  152. 志賀義雄

    志賀(義)委員 私だけがこれについて不満なのではないのです。現職の判事がこれほど痛切に言っているということもあわせて考えなければならない。かように申すのでありますが、私が言いたいことは、猪俣判事も言っているように、現に農地改革に関係して問題が起こっており、これから広く起ころうとしていることに関連するからであります。最近の新聞にも出ております通り、自民党と政府によって二十億円の金が旧地主に贈られる。そうして、自民党の中には、これでは足りないというので、総額二千八百億円の交付金を出そう、こういうふうになっております。私が綱島君に聞いたときには、これよりもさらに大きい金額でありましたが、最近の新聞によりますと、総額二千八百億円の交付金ということであります。こういうことが問題になって、しかも自民党の中でも二百名以上の賛成署名者があるとき、この行政事件訴訟法案法律として成立しますと、どういうことになるか。農地の現所有者に対して所有権不存在確認の訴え、あるいは旧地主の所有権確認の訴え、つまり、旧小作人を相手に旧地主が訴訟を提起することができる道を開くことになるのではないか。こういう場合に、今までは、その不当について政府に対して現在の農地所有者、農家がやることができるのが、この法律ができますと、この条項によりますと、それがだめになってしまうのではないか。私のおそれるのは、必ず全国的に小作人相手の旧地主の訴訟が続出するであろうということです。それがいやなら二千八百億円出せ、あるいはもっと出せ、こういうことになるのは、私ども、もう火を見るよりも明らかだと思うのでありますが、そういう点の御心配は法務大臣はないとおっしゃるのでしょうか、どうでしょうか。
  153. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 ただいまの御質問の点については、考えてみたことがございません。従って今直ちに——一応仮定の御議論でもありますし、ただいまお答えすることは差し控えます。
  154. 志賀義雄

    志賀(義)委員 もうこういうことは淡路島その他には起こっているのですよ、地域的に。そうして、これがさらに農業基本法で農家の六割を農業から離れさせる、こういうことともからみ合って、大臣仮定のことと言われますけれども仮定のことが仮定のことでなくなるのです、いつも私らが言うことは。こういうことをほっておくと、これはとんでもないことになりますよ。必ずその通りになっております。決してこれは仮定のことでなく、現に今までも起こっておることが、この法案がもしも成立したならばとんでもないことになる。そのことについて私は申し上げているのでありますが、法務大臣の方としては、そういう点は仮定のことで、別にそんなことが起こるとも思わないというのが、大体きょうの御答弁の基調になっていると思うのでありますが、私どもは、きょうはごく大づかみのところについての質問にとどめたのでありますが、この法案は、池田内閣の全施策、特に刑法改正、機密保護法制定、さらに憲法改正に向かう道、こういうもの、さらに臨時行政調査会等々を考えあわせますと、どうも行政権の不当な優位というもので憲法の原則を破壊するということになる。私どもは、こういうことになることにはどうしても賛成することができないのであります。  なお、ちょっと一言、これに関連して伺いたいことがあるのでありますが、刑法改正草案、これは法務省としては支持なさってお進めになるのでしょうか。というのは、機密保護法あるいは保護規程を作ろうとしているということをわれわれは聞いているのでありますが、そういうことはありましょうか。また、それはそのままでいかれるのか、その点についてちょっと伺いたいのですが、どうでしょうか。
  155. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 昨年末に発表いたしました準備草案を土台といたしまして、これより法務省当局において法務省としての原案を作成する段階に入ったわけでございます。従って、との法務省としての原案作成にどれくらいの日時を要するかわかりませんが、その間におきましては、すでに一般に公表もいたしておりますし、各方面からの意見等も若干ずつ入手しておる向きもございますし、なお今後一そう国内各界の方面の御意見をでき得る限り参考に聴取いたしまして、法務省としてまたさらに原案のいやが上にも誤りなきを期するように努力をする。そのためには相当の期間がかかるかと思います。ただいまその期間がどれくらいか、予想はつきかねますけれども、少なくとも二年内外、長くなれば三年ぐらいの日時が要りゃしないかとさえ考えられます。しかし、でき得る限り現段階において各国の法制等も参酌し、日本の方の事情等も十二分に組み入れまして完璧を期した案でございますから、なるべく早くとれを国会に提案して御審議を仰ぐのが至当であろうと考えまして、省内の事務の促進方を極力これから行なって参りたい、かように考えております。  なお、その間におきまして、今御質問の機密保護云々の問題がございましたが、これにつきましては、ただいまの準備草案には、すでに発表のものによって御承知の通り、機密漏洩を防止することにつきまして所要の条文が入っておりますが、これをいかに採用していくかということについては、一般世間の御意見も十分に参酌して参りたい。すでにこの問題についていろいろの御批判が出ておることも承知しておりますから、いやが上にも念を入れて審査をして参りたい、かように考えております。
  156. 志賀義雄

    志賀(義)委員 私は、なぜこの行政事件訴訟法案についてこんなことを伺うかと申しますと、若干沖縄なんかには、向こうの基地の設備の中には入れないにしても、日本人は行けますね。しかし、小笠原島となると、そこで何が行なわれているか、日本人には全然わからないでしょう。あそこにいた日本人も追い出してしまって、ここで一体何が行なわれているか、これを少し考えてみますと、この改正刑法草案の機密保護の規定というものが今度の行政事件訴訟法案と結びつきますと、これはとんでもないことになります。法務大臣御存じであろうかと思いますが、沖縄の事態も重大でありますが、小笠原には日本人がいないので、とんでもないことにあそこがなっているのではないかということをそろそろ日本人の有識者は気がついております。  きょうは、その問題についてはこのくらいにしておきますが、とにかく裁判所までが、これは法律違反だということがわかってはいるのだが、請求を棄却するということになりますと、こういう法律を新たに作って、そうして行政権をますます固めていくということになりますと、公務員の憲法十五条にきめられた罷免の権利、「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」ということを生かされなければ、こういうものが一方的にきめられたのでは、また戦前に逆戻りです。そういう点は少しもお考えにならないで、こういう法案を、審議会で出したものをそのままお受け入れになったのか。審議会内部では、そういう危険があるから、この憲法十五条に基づく行き過ぎの件、こういうものについての規定を入れなければならぬ、こういうことが問題になったことがあるでしょうか。その点を伺いたいと思います。
  157. 浜本一夫

    浜本政府委員 私、今の志賀委員の御発問の憲法十五条と本法との関係は、ちょっと理解しかねるのですが、もう少し御説明いただけませんか。
  158. 志賀義雄

    志賀(義)委員 この行政事件訴訟法案が成立しますと、裁判所までが内閣総理大臣の異議のなにによってそれが認められる。そうして判決の主文に申し立ての通り違法であるということは認めるけれども、しかしながら、違法であるということについての請求は棄却するということになりますと、これは行政官の方が不当に権限を持つことになる。悪いことはわかっちゃいるけれども、がまんしろというととを裁判所までが押しつけてくるということになると、国民が非常に不当な不利益をこうむる。そういう場合に対抗し得るものとして、そういう不当な公務員に対してこれを罷免させるということについての保障を生かす措置をお考えになりましたか。審議会で問題になったか、あるいは法務省でそういうことを考えられたか、このことをお尋ねしているわけです。
  159. 浜本一夫

    浜本政府委員 御疑問の点を私は正確に理解しているかどうかわからないのですが、三十一条の特別事情による請求棄却の判決あるいは二十七条の総理大臣の異議というものが、無制限にこの法律規定の要件を無視して、あらゆる行政訴訟に働きかけるのだということになりますと、御指摘のような弊害はある。これはもちろん当然なことなのでありますが、それでありますから、三十一条にいたしましても、あるいは二十七条にいたしましても、なるほど、抽象的だというおしかりは受けるおそれはあるかもしれませんが、きわめて厳重な要件を課しておるのでありまして、御指摘のような結果が起きるものとは私ども実は想像だもいたしませんでした。また、法制審議会審議の段階でも、さような心配を持った方は少しもなかったということを御報告申し上げておきたいと思います。
  160. 志賀義雄

    志賀(義)委員 あなた方がお考えになっただけで事が足りないから、国の建前として法務委員会にかけられるんです。法務委員会には私のような者も出ております。いいですか、あなた方がそういうことは万が一ないということが、現にこの前の戦争で起こったじゃありませんか。そのとき監獄で私らがそういうことを言ったら何と言われたか。監獄では気違いのことを瘋癲と言います。こんなばかな戦争を始めて一体どうするつもりだ、結局負けるのだよ、ばかなことをしなさんなというのが私らの意見だった。これが瘋癲だというのです。どっちが瘋癲だったか、十七年前に証明されているでしょう。だから、こういうものを法務委員会にかけたら、私のような人間もいるのだから、あなた方の想像しなかったような意見が出てくるのはあたりまえです。そういうようなもので、もう一度考えあわせてみてこそ、人間としてまっとうな法律を作ることにもなるのですよ。だから私はあえて発言するのだ。そういう意味で、この法案はきわめて危険なものであるということで、私は終わることにいたします。
  161. 河本敏夫

    河本委員長 次会は明二十日午前十時より理事会、理事会散会後委員会を開会することといたしまして、本日はこれにて散会いたします。    午後四時二十二分散会