運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1962-03-01 第40回国会 衆議院 法務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年三月一日(木曜日)委員会、次の通 り小委員及び小委員を選任した。   再審制度調査小委員会       池田 清志君    稻葉  修君       林   博君    赤松  勇君       坪野米男君   再審制度調査小委員長                 林   博君 ————————————————————— 昭和三十七年三月一日(木曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 河本 敏夫君    理事 稻葉  修君 理事 小島 徹三君    理事 田中伊三次君 理事 林   博君    理事 牧野 寛索君 理事 井伊 誠一君    理事 坪野 米男君       池田 清志君    唐澤 俊樹君       小金 義照君    高橋 英吉君       阿部 五郎君    赤松  勇君       猪俣 浩三君    田中織之進君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 植木庚子郎君  出席政府委員         内閣官房長官  大平 正芳君         検     事         (民事局長)  平賀 健太君         検     事         (刑事局長)  竹内 壽平君  委員外出席者         検     事         (民事局第二課         長)      阿川 清道君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 二月二十八日  委員萬田尚登君辞任につき、その補欠として  森山欽司君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  小委員会設置並びに小委員及び小委員長選任に  関する件  参考人出頭要求に関する件  民法の一部を改正する法律案内閣提出第九四  号)  法務行政及び人権擁護に関する件      ————◇—————
  2. 河本敏夫

    河本委員長 これより会議を開きます。  法務行政及び人権擁護に関する件について調査を進めます。  質疑の通告がありますのでこれを許します。赤松勇君。
  3. 赤松勇

    赤松委員 官房長官お尋ねをいたしますが、御承知のように、昨年は釜ケ崎事件発生しまして、政府並びに国会におきましては、この事件発生の背景なりあるいは原因というものを非常に重要視をいたしまして、その結果、政府当局釜ケ崎調査に着手して、国会におきましても、わが法務委員会社会労働委員会及び地方行政委員会の三委員会現地調査団を派遣いたしまして、しさいに調査を行なったのであります。その結果得ました結論は、もとよりああした事件は望ましいものではないのであって、これを防止する治安上の措置はもちろん必要ではあるけれども、しかし、ただ治安対策を強化しただけで問題の発生を防げるものでもない。要するに、その原因をなすところのさまざまな社会的要因一掃しなければならない。すなわち、問題は政治にある。政治の盲点としてあのようなものが起きたのである。池田内閣も、この事件につきましては深く遺憾の意を表すると同時に、これが是正のために、すなわち先ほど申し上げましたような社会的な要因一掃するための政策を行なうということを当時言明したことは官房長官御存じ通りであります。  そこでお尋ねしたいと思うのでありますけれども昭和三十七年度の予算は、ただいま予算委員会において審議中でありまして、間もなく衆議院を通過する段階になっております。わが法務委員会といたしましては、現地調査を行ないまして、そして当時委員長に対しまして、単に調査のしっぱなしでなしに、つまり血税を使って私ども調査をして、調査のしっぱなしをするということは国民に申しわけない。従来、ややもすれば衆議院調査調査のしっぱなしになって、これが政治の上に反映をしない、あるいは行政の上に反映をしないという点を反省いたしまして、昨年の調査に際しましては、強くこのことを要求いたしまして、常任委員長会議におきましては、私の意見が採用されまして、政府に対して三十七年度予算の中にこれを織り込んでいくということを要望するという決定が行なわれたということを、私は社会労働委員長から報告を受けておるのであります。  そこでお尋ねしたいのは、昭和三十七年度の予算の中には、これに対する対策、こういったものが予算上どのように出ているかということをお尋ねいたします。
  4. 大平正芳

    大平政府委員 労働省厚生省、文部省、三省にわたりまして、それぞれ処置いたしましたが、労働省におきましては、大阪府の労働部分室現地に設けるというような措置とあわせまして、釜ケ崎における労働者は、その生活環境等から見まして、公共職業安定所利用におなじみが少ない、一般の日雇い労働者に比べまして種々の困難がございますので、これらの地区労働者安定所利用を促進するために周知宣伝の活動、手配師利用求人者調査指導を行なう一方、今申しましたように、労働部分室を設置いたしまして、就業のあっせんを行なっているわけでございます。明年度におきましては、これら釜ケ崎地区労働者の就労の一そうの安定と福祉の向上をはかるために、この地区公益法人を設置せしめて、無料の職業紹介及び生活相談を行なわせるとともに、食堂宿泊施設等福祉施設を付置いたしまして、労働福祉施策を推進することといたしております。  厚生省におきましては、事件発生前において、すでに今年度の事業として釜ケ崎地区生活館一カ所を設置することといたしまして、事件発生大阪府並びに大阪当局と連絡をとって、地区住民要望を取り入れつつ当初計画の規模を拡大いたしまして、現在建設中でありますことは、赤松委員も御案内の通りでございます。なお、昭和三十七年度におきましては、府及び市の要望に基づきまして、さらに生活館一カ所、第二愛隣館というものの建設を計画いたしております。
  5. 赤松勇

    赤松委員 釜ケ崎対策社会保障一環としておやりになるかどうか、また全国的なスラム街対策一環としておやりになるのか、このことをお尋ねいたします。
  6. 大平正芳

    大平政府委員 私どもの基本的な姿勢は、先ほど赤松委員も触れられましたように、やはりこういった事態発生の社会的な要因の除去という点に重点を置いておるわけでございまして、そういう角度から施策を進めて参りたいと考えております。
  7. 赤松勇

    赤松委員 おそらく次の参議院選挙におきましては、社会保障に関する問題が、自民党社会党争点一つになると思うのです。すなわち、政府与党と野党との争点一つになると思う。従って、いよいよ社会党も四月から全国遊説を始めますから、その際に広くこれを国民の前に明らかにし、しこうして政府社会党社会保障に対する熱意あるいは施策内容を説明する必要があります。従いまして、特に官房長官出席をお願いいたしましたのは、この間予算分科会で、大蔵大臣にこまかいことは聞きました。本来をいえば、これは内閣総理大臣に聞くべき性質のものでありますけれども、今予算の途上でありまして、多少遠慮いたしまして、総理の代理として官房長官お尋ねしておるわけです。  今お尋ねをすると、社会保障一環としてやるのだという御返事であります。そういたしますと、社会保障一環としてやるということならば、予算の立て方も、おのずから政府独自の予算というものが出てこなければなりませんが、それが労働省厚生省予算の中にどこにございますか。
  8. 大平正芳

    大平政府委員 費目別の配置は、政府委員の方から承っていただきたいと思います。
  9. 赤松勇

    赤松委員 それは官房長官よりも私の方が詳しい。社会労働委員をやっておりますから、労働省予算厚生省予算も私の方が詳しい。あなたに聞きたいのは、予算のこまかい内容を聞こうとしておるのではありません。その点は事務当局でもいい。それでは予算を紹介いたしましょう。厚生省予算は、スラム街対策として、三十七年度予算の中には三千百五十五万円計上されております。それから労働省予算は千二百万円、これが計上されているわけですね。この内容につきましては、私十分存じております。従って、内容にも問題はあるわけなんですが、この予算を出すところの先ほどおっしゃった姿勢ですね。姿勢の問題なんです。姿勢の問題は、事務当局役人諸君に聞きましても出てこないと思うのです。私は政治の筋を聞いておるわけなんです。こまかい予算上の数字でなしに、政治の筋を聞いておるわけなんです。つまり、昨年あの事件発生したときに、再びこういう事件発生しないように予算上の措置を講じます、こういうことを政府は言明しておる。そうでしょう。それならば、予算の上に、当時政府国民に約束し、国会に約束したものが出てこなければならぬはずだ。出ていないじゃありませんか。政府独自の予算というものが出ていないじゃないか。その予算内容政府独自のものですか。うしろ事務当局の連中おるけれども、これはみんな補助金じゃないですか。補助金でしょう。労働省予算は四分の一負担厚生省予算だって全部これは補助金なんですよ。政府独自の予算なんというものはないじゃないですか。スラム街対策姿勢というもの、政治姿勢というものは、今のように貧弱な財源を持つ地方公共団体に依存しておったのでは、再び第二、第三の釜ケ崎事件が起こるのです。だから当時私どもは、地方公共団体にまかせるのじゃなしに、政府みずからがスラム街一掃するための社会保障一環として大きな予算を編成して、政府みずからの手でおやりなさい、やりましょう、こう言ったが、どこにその予算が出ておりますか。−官房長官よくわからないから、僕が説明してあげる。いいですか。この厚生省関係スラム街対策として出ておるのは、不良環境地区対策費三千百五十五万円、これについてこの間大蔵大臣に質問したら、大蔵大臣事務当局に聞いて、そうして三千百五十五万円計上してあります、こういって大きな顔をして答弁しておる。じょうだんじゃありません。この三千百五十五万円で一体何の対策がやれますか。釜ケ崎一つだって三千百五十五万円で満足なことがやれますか。まして三千百五十五万円というのは、都市スラム街全部です。官房長官よく聞いて下さいよ。都市スラム街全部です。ドヤ街パタヤ街、それからアイヌ集団地区及び部落民、いわゆる同和地区まで含んでおるのですよ。これら全部を含んだ不良環境地区対策費というものが三千百五十五万円。この予算でもってスラム街一掃をやりますなんて大きなことが言えますか。そうして一体何を作るのですか。内訳は、生活館を作ります、その補助金は二分の一、そうして今全国に七カ所のものを十三カ所にふやす、六カ所ふやすだけだ。これがスラム街対策実体なんです。共同浴場を作ります、これも補助金が二分の一、そうして八カ所を十一カ所にする、これも三カ所ふやすだけ。共同作業場を設置いたします、これは九十七万円、二カ所作る。それから共同炊事場、これも二カ所、二十八万円。共同井戸も作ります、百五万円、これは六カ所。下水排水路整備補助金として四カ所八十万円、これはなんですね、恐るべき池田内閣社会保障費一環なんです。スラム街対策実体なんです。労働省予算はどうか。今あなたは職安の問題を言ったけれども政府無能無策のために、あの釜ケ崎事件発生して、大阪府の知事はあわてた。元来あの問題は労働省がやるべきものだ。それをあの事件発生しましたために、大阪府は自分の予算——本来大阪府の予算でやるべき性質のものではない。それを大阪府は、労働部分室というものをあすこに設けて、そうして労働部分室職安事業を代行した。これは職安法違反ですよ。ただいいことだから、前向きの姿勢だから、われわれは目をつむってこれに文句を言わなかった。これはごまかしとは言いません。政府無能無策のために、やむを得ず地方公共団体が貧弱な財源から応急手当をしなければならなかったというのが、あの大阪府の労働部分室になって現われておる。そして今も労働省予算なんて官房長官は大きなことを言っておるが、これは千二百万円じゃないか。千二百万円でもって何をやるかといえば、生活相談とか、食堂とか、宿泊施設をやる。出さぬよりは出した方がいいですよ。しかし実態を言えば、また今年第二の釜ケ崎事件発生すると、予算をちっとも計上していないと困るというので、総理府の治安関係担当諸君などが集まって、とにかくちょっぴりでもよいから予算の頭を出しておいてくれ、そうすれば第二の釜ケ崎事件が起きても、予算手当はしてありますといって世間に申しわけは立つ、そういう考え方から出ておる。それでもって第二、第三の釜ケ崎事件を防ぐ、まことに遺憾であります。これは政治の貧困から生まれるところの欠陥であります。当時政府は言明しました、その反省というものは予算の上に現われておりません。そこで、私は特に法務大臣もおられますので、法務大臣官房長官に言っておきたいことがある。それは当委員会釜ケ崎を昨年調査した、これは同僚委員諸君がみな一緒に行った。行って、そうして大阪府におけるところの治安当局からいろいろ事情を聴取した。その席上で大阪高検検事長はどう言ったか。いいですか、これは大阪高検検事長の言葉ですよ。われわれが言っているんじゃない。その席上で、特に法務委員の皆さんに申し上げたいのは、一触即発、マッチの軸をすっとすって一本つければ、ばっと爆発するような地区釜ケ崎だけではありません。もっと一触即発地区があります。それは尼崎でありあるいは神戸スラム街だ。われわれ治安当局としては、問題が発生してからそれを押えても、一時は押えがきいても、それは恒久対策にならぬ。従って、われわれが出動しなくてもいいように、治安当局が手を出さなくてもいいような施策政府によってとらせるようにしてもらいたい。そうでなければ治安当局としては責任が負えないということを言っている。これをどう聞きますか、責任が負えないと言っている。今度の釜ケ崎事件は、共産党の扇動で起きた事件でもありませんし、社会党自民党扇動で起きた事件でもありません。これを科学的に調査するために、大阪市の依頼によりまして、和歌山大学を初めその他の若手教授社会科学研究会というものを持って、約三カ月間にわたって、作業衣を着、ボロをまとって、そしてあのドヤ街に入って、三カ月の間あの生態をつぶさに調査をいたしまして、その調査の結果が一冊の本にまとまってここに出ておる。これを読んでごらんなさい。涙なくしては読まれない。釜ケ崎は、あそこの住宅は日本で一番高いんですよ。たとえばここに出ておるところの統計によれば、〇・八畳のそれが一晩二百円から二百五十円、これを今の高級アパートに直してみなさい。それからここでは、われわれ法務委員会調査によって、またその当時大阪社会科学研究会学者諸君報告によると、あそこに暴力団が二〇%いる。この二〇%の暴力団一掃すれば、あとの八〇%は善良な人だ。たとえば働けない老人もおる、すでに労働能力を失った身体障害者もおる、あるいは未亡人、あるいは親のない子供、そういう者がたくさんいるけれども、しかし、これは全体としては政治によって救える人なんだ。問題は二〇%の暴力団だということをここで言っておるが、その暴力団内容を申し上げますと、今、まだ公然とあの地区において大手を振って君臨している。われわれが行ったら、変な何か、僕はよくわからないけれども、こんな帽子をかぶって細いズボンをはいたぐれん隊がずっといるわけなんです。われわれの姿を見ると、すっと逃げてしまう、しばらくするとまたすっと集まってくる。法務大臣一ぺんごらんなさい。そうして何何組というのが入口に木刀をずっと並べて、鉄かぶとをずっと並べて、そしてちょうちんをずっと並べている。いざというときには、みなその鉄かぶとをかぶって木刀を持って、ちょうちんをかざして行くわけです。これはもうすでに戦時状態です。朝八時から夕方まで、弁当代として、大体子供を預けるのに一日二百円で預けていく、そうして母親日雇い労務やその他に出かける。それから夕方から夜十二時までは二百五十円、別に住み込みの場合は月に九千円から一万円だ。それから子供を預けることのできない人は、子供に五十円食事代を渡して出ていく。これは子供がよくなるわけがありません。五十円もらって買い食いの癖を覚え、ふらふら遊んでいるからだんだん不良化していく、学校へは行かない、こういう状態だ。これを母親は監督するわけにいかない。先ほど申し上げましたように、住宅などは〇・八畳に対しまして二百円から二百五十円というような状態なんです。こういうように暴力団と、麻薬が香港から神戸経由で入ってくるけれども、この麻薬と暴力と売春と今言った窃盗、強盗、こういったものがあすこに入りまじっている。このスラム街です。釜ケ崎一カ所だけだって三千万円ぐらいの予算を投じたところでどうにもならぬ。それが厚生省の計上しておるところの予算というものは、全国スラム街、さらにアイヌ部落、そうして同和地区であるところの部落民を含んだこういう地区全体にわたるところの対策が三千百五十五万円、これが池田内閣実態なんです。そこで私は大蔵大臣に言った。参議院選挙の際に明らかにします。これでは池田内閣の独自のスラム街対策というものはないじゃありませんか、全部補助金制度じゃありませんか、こう言った。そうすると、大蔵大臣がこういう答弁をした。いやごもっともでございます。しかし、今の予算の立て方がこういうように、補助金制度になっておりますのでと、こういう答弁をしておる。これは昨年釜ケ崎事件発生する以前の考え方なので、その以前ならばそういう答弁だって世の中は通用する。ところが、あの事件発生をして池田内閣は、再びこういう事件発生しないように政府はこれを三十七年度の予算において手当をいたします、その施策をいたしますということをちゃんと約束をしておる。地方公共団体に依存して、その貧弱な財源に依存して、労働省予算を一千万円ばかり、厚生省予算を、今言ったように全国に三千万円ばらまいて、これでスラム街対策でございます、不良環境地区一掃施策でございますとえらそうなことが言えますか。私は、もうすでに今予算衆議院を通過しようとしておるこの段階において、官房長官に、今追加予算を出せのあるいは予算の修正をやれのと言ってみたところで、実際は不可能でしょう。だからそういうことは私は申しません。そこで昭和三十八年度の予算の上に、昨年われわれに約束したように、補助金制度に依存をしないで政府独自のこれらのスラム街対策予算を計上しておやりになるかどうか。今こういうシステムがあるならば、このシステムを改善して、そうして政府みずからが——たとえば大阪釜ケ崎におけるところの隣保館の問題だって、あれは大阪市にみなまかしておる。それにちょっぴり補助金をやっているだけじゃないですか。ところが、政府は、今度は国民にものを言うときには、政府釜ケ崎愛隣館を建てました、そういうなにを建てました、こう言う。何を言っているんだ。地方住民負担でもってやっていて、そうして政府は、やりました、これはごまかしです。だから三十八年度予算ではどういう姿勢でお臨みになるか、よけいなことは要りません、こまかいことは要りません。その一点だけ私は聞いておきたい。
  10. 大平正芳

    大平政府委員 スラム街対策として必要な事業の経営あるいは施設の管理、こういったことは本年の今の制度では地方公共団体の固有の事務ということになっております。その制度がいけない、国が直接責任主体になってやれという御提言のように拝聴いたしましたが、この問題は、地方自治制度との関連におきまして十分検討を要する問題であろう。これはもう赤松委員も御了承願えると思うのでございます。ただ問題は、補助の形でやっておるが、補助金はあまり小さいではないかということでございますが、小さいながらこういう施設が芽ばえて参りました。これは本委員会の御慫慂等へん力があったと思うのでございますが、せっかくこういった仕事に手を染めたでわけございますから、これを愛惜していただきまして、年々歳々充実して参るという方向に私どもも考えて参る。従って明三十八年度におきましても、今御提言ございました御趣旨をくみまして、できるだけ努力するつもりでございます。
  11. 赤松勇

    赤松委員 この委員会では大平調で通るのです。そのリズムでいいですよ。しかし、これがテレビ討論会立会演説会であなたと僕とやった場合には通らぬですよ。徐々にとかあるいは次第にとか、少し芽がふき出したとか、これをだんだん芽ばえさせていくのだというようなことは、釜ケ崎の住人がそれを待ってくれればいいけれども、待ってくれなかったらどうしますか。今言ったように、検察当局が、釜ケ崎だけではない、尼崎でもあるいは神戸でも、そういう危険というものが内在しているのだ。だから政府の手で、これを早くそういう事件発生しないようにやってくれ、こう言っているのです。だから大平調ではいけない。あなたがその程度の答弁しかできないならできないでよろしい。それを国民の前に明らかにして、大平官房長官池田総理にかわって答弁をしましたが、こういう答弁でありましたということを率直に私は国民に訴えますから、それはそれでいいわけです。そうすると、三十八年度の予算の上では、あくまでも地方公共団体補助金に依存しながらぼつぼつやっていくのだ、こういう考え方でよろしゅうございますね。
  12. 大平正芳

    大平政府委員 予算の立て方の問題は先ほど申しました通り地方自治制度との関係で、直接政府仕事にするかどうかという点については、ここで私が今どうするというようなことを申し上げられませんで、検討を要する問題だと先ほど申したわけでございます。
  13. 赤松勇

    赤松委員 僕は、一つ例をあげましょう。たとえば釜ケ崎あすこに私鉄あるいは国鉄が通っておりますね。あの鉄道用地のところに、その辺の板ぎれを拾ってきてぽんぽんと小屋を建ててしまう。もう動きません。これを人に貸すのです。あるいはその中に十人なら十人というものを収容して、宿のかわり、まあバラック・ホテルになるわけです。それでずいぶんもうけているわけです。ところが大阪市の連中が行ったって立ちのきませんよ。下手にやれば、これをやられるのですから。だから吏員もこわいから無理には言わない。ただ、一つ届け出てくれ、こういうことを言うのです。届け出たら、もうこれは合法的に、地上権というのか、居住権というのか、そういうものができてしまう。そこで手をやいているのです。これは大阪市だけの力では何ともできないのです。こういうスラム街対策というものは大阪市だけの力では何ともできないのです。そこまできているからああいう事件発生したのです。ですから思い切って、たとえば不良環境地区スラム街環境を改善するための法律案をお出しになったらいいじゃないですか。そうして住宅対策建設省だなんて言っておらずに、別個にそういうスラム街対策というものを立てて、あの地区に八階建でも十階建でもアパートを、ずっとあの不良地区一掃して、建てていくというようなこともおやりになったらどうです。僕らが見たらまだあき地がありましたよ。  暴力団一掃にしたって、大阪府の警察本部にまかしたってだめです。だから政府の中で総合的にこれを行なうところの姿勢というものが出てこなければだめなんです。それを私は言っているのですよ。あなたは、補助金制度になっておる、そのシステムは変えられないということならば、来年でも、若干予算がふえたって同じような姿勢しか出てこない、こういうことになるわけです。あなた禅坊主みたいなことを言う人ですから、何ぼここでやっても禅問答みたいになって、ぴんとこないのだけれども、この間大蔵大臣は、三十八年度予算では一つ考えますということを言っておりますから、一つ三十八年度予算ではよく大蔵大臣と相談し、さらに総理大臣とも相談していただいて、この夏再びあの事件発生したら今度は承知しませんよ。ちゃんと大蔵大臣から言質を取っているのです。あなたに対しても、今私どもは言うべきことを言ったのですから、今度は相当覚悟してもらわなければならぬと思うのです。  ついでに、法務大臣お尋ねしますから、あなたもよく聞いておいてもらいたい。というのは、まだたくさんありますけれども、時間がありませんから多くを申し上げませんが、われわれは堺の大阪刑務所を視察した。そうすると、あそこの受刑者——今は僕はちょっと表を持ってこなかったのですが、二千人くらいいましたか、あの受刑者の中の四百人が暴力団で、暴力関係で入っている連中なんです。ですから、看守もその辺の初犯の受刑者を扱うのと違って、こいつらは百戦練磨ですから、十分鍛えられたやつですから、従って一つ間違えばやはり暴力事件が所内で発生をするということから、その看守の肉体的、精神的の疲労度というものは非常に強いわけです。こういう暴力団が多く入っていますから、四百人入っていますから、それぞれの組に属しておるわけでありますけれども、こういう連中を扱うのに大へん困っておる。しかも人員不足のために完全な週休制がとれない、労働時間がオーバーになるということから——まあ飯にもいろいろ問題がありましたが、食事のことはしばらくおくとしても、この刑務所、つまり法務大臣の管轄する方面の労働関係は、私は一番おくれていると思うのです。そして政府の方も、何か法務関係ということになりますと、まあじゃま者扱いはしないけれども、あまり重要視しないことだけは事実なんです。これは大蔵省のお役人もその頭があるんじゃないだろうかと私は思うのです。たとえば通産省方面の予算になってくると、いろいろな強力な陳情などもあって、そしてやる。あるいは労働省方面になりますと、これまた労働組合の突き上げその他があって、割合にその声が政治の上によく反映する。ところが法務関係になって参りますと、たとえば刑務所の職員は労働組合を作る権利を持っておりません。——権利を持っておるのでしょうけれども、それが奪われているという状態なんです。警察官の場合と同じなんです。だから、そこから出てくるところのいろいろな不平不満というものが、集中的に政治反映するということが割合に希薄なんです。非常に薄い。それだけにああいう恵まれないところ働いておる諸君に対しましては、特別な配慮が必要ではないだろうか。私ども大阪刑務所あるいは交野女子学院ですか、その他をずっと調べて参りましたけれども、ほとんど人員不足のためにオーバー労働をやって、そして極度の労働強化のためにみな非常に疲れておるし、労働条件が悪い。こういう点については政府の方でお考えを願いたい、こういうように思うわけであります。  この点につきましては、法務大臣、今の釜ケ崎の問題でも、検察当局がそう言っているのですから、遠慮は要らぬから、閣議においてばんばんやってもらう。たとえば河野一郎君が農村問題で発言しても、農村よりもむしろこっちの方が大事なんだというくらいな気概を持って——どっちが大事かよくわかりませんが、それくらいの気概を持ってやってもらわないと、何か法務省の方がいつも片すみの方に追いやられて、そして実力者——実力があるのかないのかよくわかりませんが、と称する連中が閣内において大手を振って、そしてそういう連中のところには予算がたくさん行くというようなことになって参りますと、正直者がばかを見る。私のようなひよわい者が絶えず損をするということになるのでありまして、その点は法務大臣も大いに閣内でがんばっていただきたい。また官房長官もぜひそれをバック・アップしてもらいたいと思いますけれども、この点について官房長官法務大臣の御所見をお伺いしたいと思います。
  14. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 ただいま赤松委員から矯正施設におきましての職員の過労の問題等について適切なる御意見がございました。私も若干各地を回って参りまして、全く実は同感なのであります。それで、せめてそれを少しでも直したいと思って、いろいろ今度の三十七年度予算におきましても苦労をしてみました。しかし、どうも微力にして、まだ十分ではございません。今も御指摘になりましたが、それはあえて堺の刑務所だけではないのでありまして、私の見ました福岡の刑務所等におきまして若干の事例を聞いてみますと、一年間全然休暇がとれない。それが一年どころではなくて、はなはだしいものは十三年にわたって一度も休暇をみずからとったことがないというほどの勤務ぶりでございます。何もそれがいいというのじゃございません。その人の心がけたるや、実にりっぱだと私は思いますけれども、しかもそれがその人だけじゃなしに、そこに約五百人ばかりの看守諸君がおりますが、そのうちの百数十名というものは一年間全然休暇をとっていないという人がおるのです。それはなぜそうなるかというので調べてみますと、ただ単に役所に行って仕事をしたいからじゃないのです。やはり休暇もほしいのですけれども、勤務の関係からどうしてもそれができないので、やむを得ずそういう勤務に置かれておるという状況を聞きまして、私も定員の増加の問題あるいは処遇の改善の問題でいろいろ考えてみましたが、不幸にして、まだことしは、ほんのちょっぴりした若干のことはできておりますけれども、とても思うにまかせておりません。こうしたことにつきましては、どうぞ国会におかれましても、なるべく機会を得てごらん願いまして、そうしてあの実情をよくごらんになって、そうしてわれわれの施策につきましても御支援を願いたいと思うのであります。たとえば、今の堺の刑務所に暴力団の人が非常におって看守諸君も困りきっておるというお話、ところが、それはあえて暴力団じゃなくても、刑務作業をやっております場合、いろいろ危険な道具を持っております。その道具をもっていつ何どきやられるかわからぬという非常にむずかしい場所において監視をしておるというわけなのであります。一歩誤りますというと非常な問題が起こる。現に傷害、殺人とまではいきませんけれども、そういう事件がときどきあるのです。あの危険な作業をしておりますのに、先年警察官等に対しては、一たん危害にさらされて、そうして犯罪捜査等の場面において傷を受けるとか、あるいは死んでしまうというような場合に、特別なほう賞の制度をこしらえられました。あの当時も、われわれ法務当局といたしましては、ぜひ看守諸君もその中に加えてもらいたいという主張をしたのでありますが、不幸にして、いろいろな権衡上、これまたやむを得ぬ点もありますために、いまだに実現に至っておりません。こうした問題についても、何とか私はあの危険な勤務にさらされてやっておる人たちに対して、万一のことがあった場合に、今の程度のほう賞でいいかというと、どうもいいとは思えない。こうした問題も実はたくさんございますので、非常に適切な御意見を拝聴いたしまして、むしろ私の微力をおわびする次第でございます。今後なお一そう努力いたしたいと思います。
  15. 大平正芳

    大平政府委員 法務大臣等と協力いたしまして、最善を尽くします。
  16. 小島徹三

    ○小島委員 関連質問でちょっとお尋ねしたいのですが、看守の増員という問題ですが、全国平均で刑務所をとると、大蔵省の言う通りに、この程度でいいという数字が出ても、そういうふうな特殊な堺刑務所とか、たくさん収容し過ぎているとか、しなければならぬという状態のところに対して、何か特別の取り扱いをするという方法はできないものですか、大蔵省と相談して。
  17. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 ただいまの収容人員の多寡と現在の看守定員の割合の問題になるのでありますが、この点につきましては、なるほど大蔵省の言うような考え方も成り立たぬのじゃないのであります。しかしながら、それは現実の問題として、すでに予算上規定になっております看守の定員と、そうしてそれに対しての犯人、収容人員の増加の問題でありますが、これにはやはり、かりに三十人の収容者がある場合、三十人に三交代で六人要るものと仮定いたしますと、その割合はそれでいいかもしれません。しかしながら、一つの刑務所が一単位として運営されていきますためには、やはり最小限度、ただ看守の数と収容人員の数だけでは割り切れぬものが相当数あるのであります。その問題について大蔵省とわれわれとの間になかなか意見の食い違いがあって、それが実現することができない。だから本来から言えば、収容人員が少ないところでは、多いところへどんどん持っていったらいいじゃないかというふうに大蔵省から言われますけれども、しかし実際問題としては、最小限度保守の要員その他事務職員も要りますし、なかなかそれをはずすわけにもいかないというようなことにもなりますので、どうも定員増加については十分ではございません。しかしそれは、部内で実はやりくりいたしまして、でき得る限りの措置は講じて、多いところの方はふやして、収容人員の少ないところは減らしていくというような、できる限りの実際上の措置は講じておる次第であります。しかし、まだまだわれわれとしては、もっと増加してもらいたいという要望をしているのですが、これがなかなか実現できないのが実情でございます。
  18. 赤松勇

    赤松委員 それでは私は、同僚議員の質問がありまするので、一点だけ質問して終わりたいと思うのでありますけれども官房長官には、またいろいろこのスラム街の問題で質問もし、御意見を拝聴する機会もあると思うのでありますけれども、非常に質問時間が短かくて、意に満たない点が多々あるのですが、私どもの気持もくんで、この点についての施策を強力に推進していただきたいということを望んでおきます。  それから法務大臣には、実は昨日僕は最後に、あまり本人が興奮しちゃって、あのペースに巻き込まれて、法務大臣の所信をお伺いすることを忘れちゃったのですが、あの吉田君の件に関するあなたの所信、この点について一つお伺いしてみたい。特に再審制度に関する問題等についても一つ考えていただきたい、こういうように思うのでありますが、いかがでありますか。
  19. 植木庚子郎

    ○植木国務大臣 昨日のいわゆる吉田石松氏のあの事件につきまして、私も若干書類を見、またきのうその人本人の顔も見まして、発言も聞きまして、全く感慨無量でございました。もし——今さらそんな言葉を使うと、お前はまだ疑っているのかとおしかりをこうむるかもしれませんが、もし吉田氏の言う通りであるとしますと、ほんとうに国家として何とおわびしていいかわからぬ、ほんとうに気の毒な、重大な問題であると思います。私は、なるほど裁判官もあるいは検察当局も、常に慎重な用意で、そうして十分手を尽くして調べたのだとは思います。従って、十分記録も見たり、またそれこそ紙背に徹する眼光で考えなければならぬのだろうと思いますけれども、きょうまであれに関与せられた三回の裁判あるいは何回かの再審あるいは情願等々の問題の際における役所の人たちの判断というものは、よほどこれは気をつけなければならぬ問題であると考えます。今回のこの具体的の事件そのものについては、どうすればよいか、私はやはり、目下最高裁において抗告の審理中でございますから、その結論を待ちたいと思いますが、またわれわれ当局といたしましては、裁判関係の書類が焼失その他でもうなくなっている部分もあるそうでありまして、その当時の真相をいま一度考え直してみる材料も十分残っておるかどうか非常に疑問はありますけれども、よほど考えねばいかぬ、こう思います。  一般論といたしましては、きのうも赤松委員の御意見にもありました通り、現在の再審の制度、法規の現状があれでいいかどうか、非常に狭められている。それをもう少し広げる必要があるのじゃないかというような問題。一面におきましては、これはもちろん基本論でありますけれども、裁判で決定しました、十分慎重な審理の結果、裁判で決定したものに対するその結論を尊重していかなければならぬ問題は、これまた非常に、社会秩序全般から考えて、当然のことでもあります。しかしその間、個人の人権の尊重という問題と考えあわしますときに、よほどこれは反省をし、研究をして、そうして、とにかく今の法制ではいかぬのじゃないか、もう少し研究の必要があり、若干そこには新しい考え方で十分一つ見直す必要があるのではないか、かように考える次第であります。
  20. 河本敏夫

    河本委員長 志賀義雄君。
  21. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 ただいまの事件に加えて、もう一つ、徳島のラジオ商殺しの婦人が和歌山刑務所に入っております。これは店員が偽証したということを申し出ているし、別に真犯人とみずから名乗って出た者がおるのであります。その婦人が今たしか懲役十五年で服役しております。本人は、どうもいろいろなところで泣き寝入りをさせられていると思うのでありますが、家族の人、あるいは地元の人、新聞社の人、それから法曹界の人で、この問題を明らかにしようという運動があります。この法務委員会でも、かつて神近市子さんが、委員として取り上げられたことがありました。ただいま、吉田事件についての法務大臣の御意見を承りましたが、これもあわせて御調査を願いたいと思います。  なお、きょう資料要求をいたしたいのは、警察官けん銃使用及び取扱規範というものが今あります。これを四月一日から改めて、新しい要領として、ピストルの使用の方法を具体的に定めた服務要領を国家公安委員会規則として施行するという基本方針を、全国都道府県警察警務関係課長会議で去る二月二十七日にきめております。このけん銃使用に関する現行規範と、今度の新しい服務要領、これがどういうものであるかということを、この法務委員会の方へ知らしていただきたいと思いますので、そのように法務委員長の方で、理事会にお諮りの上、お願いしたいと思います。と申しますのは、けさの朝日新聞に、去る二十七日、札幌中央署の岡田基伸巡査が強盗犯人と見て射殺した小林政雄というのが、実は強盗犯人ではなかったと、翌二十八日午後、北海道警察本部で発表しております。これは一人の婦人、保健婦の南川まさ子さんというのが短刀を持った男に襲われ、千二百円入りの財布を奪われたという事件であります。それで、犯人と思って射殺してみたら——これは短刀を持っておったし、短刀でおどされたんだから、これだろうというのでそういうことになったのでしょうが、財布を持っていないので、犯人は別にあるものと思われるということを、特に翌日、北海道警察本部で発表しております。そうなりますと、問題は、この事件自体も糾明さるべきでありますが、こういう調子だと、新しい指導要領で、もっとどんどん撃てということになっておるそうであります。そうなりますと、強盗ならともかく、またぞろ国民一般の民主運動なんかにこういうことをやられては、はなはだ困りますので、一体どういうことをやろうとするのか。そのうち小島君なんかもやられるかもしれない。よく法務委員会で見ておく必要があります。それを一つ委員長の方で資料要求をしていただきたいと思います。
  22. 河本敏夫

    河本委員長 志賀君のただいまの御発言につきましては、次回の理事会に諮り決定をいたします。      ————◇—————
  23. 河本敏夫

    河本委員長 民法の一部を改正する法律案を議題として審査を進めます。  質疑の通告がありますので、これを許します。阿部五郎君。
  24. 阿部五郎

    ○阿部委員 この民法の改正案につきましては、すでに同僚委員から質問があったそうでありますから、重複するかもしれませんけれども、この改正案をお出しになるに至ったいきさつですね。それをまず簡単に一つ御説明いただきたい。
  25. 平賀健太

    ○平賀政府委員 御承知の通り、いわゆる新民法でございますが、これは昭和二十二年の国会で、第一回の国会で可決されたのでございますが、その際、民法はもう一度検討して再改正すべきであるという附帯決議がなされておるのでございます。そういう関係もございますので、法務省におきましては、昭和二十九年以来、法制審議会におきまして、民法の改正の問題を検討して参ったのでございますが、何分根本問題にわたる事項が非常に多うございまして、全般の改正ということはなかなか短時日にはできないのでございます。そこで、全面改正のための検討と並行いたしまして、現在実務上非常に困っておる点が若干ございますので、そういうのをまずとりあえず改正したらどうかということで、一昨年ごろから、法制審議会の民法部会におきまして検討いたしまして、現在実務上困っておる問題これは現行の法文解釈に疑議がございますこと、取り扱いが分かれていること、こういう問題を捨ったのでございます。それとなお、根本改正にわたらない事項で、この際あわせて改正しておいた方がよくはないかというような事項も若干ございましたので、それを取り上げまして法制審議会で検討していただきましたのが今度の改正案となって現われた次第でございます。
  26. 阿部五郎

    ○阿部委員 そうすると、民法の全面改正という件につきましては、法制審議会で依然として審議中なのでございますか。それは一応おいているのですか。
  27. 平賀健太

    ○平賀政府委員 法制審議会におきましては、民法の全部にわたりまして、財産法、身分法の全部にわたりまして引き続いて検討いたしております。しかし、財産法の方におきましても、身分法の方におきましても、非常に大きな根本問題がありますが、これはいろいろな意見がございまして、なかなか意見がまとまらないような状況なのでございます。これはもう少し時をかしていただきまして検討を続ける必要があろうかと思っております。そういうわけで、現在の見通しでは大体いつごろになったら結論が出るか、そこまでまだはっきりした見通しを得ることができないような状況でございます。
  28. 阿部五郎

    ○阿部委員 わかりました。ところで、いつごろになれば全面改正を立案するかについて見通しは得られないにしましても、現在、現行民法の中では、何しろ立法が相当古いのですから、字句の上でも非常に難解な部分もあり、それから現状に適しない表わし方というようなものもあるように思われます。そういうふうな点の部分改正というものが、今回のこの改正によって一応それが行なわれたとしてしまわれる考え方なのであろうか、さらにまた全面改正、根本的な改正までに至る間に、また中間的と言いますか、部分改正を予想せらるべきものであろうかどうか、この点でありますが、いかがなものでありましょうか。
  29. 平賀健太

    ○平賀政府委員 法務省におきましては、今度の改正で一応部分改正は打ち切りで、あとは全面改正まで待つと、そういう趣旨ではございませんで、たとえば同時に御審議を願っております民法の建物区分所有の関係、これも実質的には民法の改正でございまして、今後も必要に応じまして部分的な改正は引き続いてやっていきたい。そのほかになお、これは主として身分法の関係でございますが、いろいろの根本問題、特に相続制度の問題についてはいろいろの問題もございますので、根本改正の方もなお検討を進めていきたい、そういうふうに考えておる次第でございます。
  30. 阿部五郎

    ○阿部委員 その部分改正の問題ですが、身分法関係で改正の要がまだ相当残っておる。こういう御見解のようでありますが、そのほかに、たとえば担保物権という方面などには相当改正の必要があるのじゃないかと思うのですが、今のところ、どういう御見解を持っておられますか。
  31. 平賀健太

    ○平賀政府委員 仰せの通りでございまして、財産法の関係では、まあさしあたって今問題になっておりますのは担保物権でございます。ことに私ども問題にいたしておりますのは、根抵当権の問題なのでございます。これは民法の規定にはっきりした条文の、明文の規定がございませんので、今抵当権の規定を基礎にしまして解釈上補っておる状況でございますけれども、財産法の方面におきましてもただいま仰せのような抵当権の問題がございます。その他にもまだ問題がございまして、これも目下検討いたしている次第でございます。財産法の関係におきましては、抵当権の問題はかねてから検討いたしているのでございますが、最近におきまして特に区分所有の建物の関係ケースが非常にふえて参りました。これは早急に立法化の必要が生じました関係で、財産法の方面ではまずこれが一番手初めだということで、この区分所有を取り上げた次第でございます。その他の方面におきましても、今後引き続き検討をいたしまして成案を得ましたら法律案といたしまして、また御審議をお願いいたしたいと考えておる次第でございます。
  32. 阿部五郎

    ○阿部委員 根抵当について注目せられておるようでありますが、そのほかにも売り渡し担保という制度が実際に行なわれておりまして、しかもこれは最近ではなく、ずいぶん古くからあるのでありますが、これについての規定が不備なために相当民間財産権に不当な不安と侵害を行なわれておるやに見受けられるのでありますが、この点御注目になっておられるであろうかどうか、また注目されておるとするならば、どういうふうに注目されておるであろうか、お聞かせ願いたい。
  33. 平賀健太

    ○平賀政府委員 売り渡し担保の問題につきましても、ただいま仰せの通り問題があるわけでございます。財産法の関係におきましては、私どもとしましては、まず担保物権、担保権の制度から取りかかろうということで実は現在検討を進めておるわけでございます。しかし、法制審議会の方におきましては、一応の案もまだ今できていない状況で目下検討中でございます。仰せの通り、売り渡し担保につきましても、先ほど例としてあげました根抵当の問題と同時に、ともに検討をすべき問題と思うのでございます。
  34. 阿部五郎

    ○阿部委員 それでは今回のこの改正法律案について伺いますが、第一に、この失踪関係で改正をなさろうというお考えのようでありますが、事変その他臨時の危険の場合の失踪宣告の失跡期間を短縮される、こういう御趣旨のように見受けられますが、一応ごもっともと思うのであります。ところが、さらにさかのぼって一般の失踪の場合でありますが、それについては現状の七年をそのまま置いて、そして特別の危険に臨んだ場合の失踪の期間を三年から一年、こう短縮をなさろうというお考えのようでありまするが、一般の部分は短縮の要なし、こうお考えになる根拠は、逆にまた、短縮の必要がないかという点についての御意見をいただきたい。
  35. 平賀健太

    ○平賀政府委員 これは前回にもお答え申し上げましたように、普通失踪の場合は、行方不明になる原因がいろいろあるわけでございます。家出するとかいうようなことで所在をくらましておるといういろいろな事由がございまして、その残った人たちとしましては、生存を信じておるという場合が多いわけでございまして、交通通信が発達したといいましても、やはり長期間わからないことがあり得る、そしてまた帰ってくるというような可能性が多いわけでございます。ところが、この危難失踪の場合は、ほんとうに死亡の原因となる危難が現実に発生するわけであります。この場合は、そう期間を置かなくともよい、三年も置かなくとも一年で十分だということが考えられるのでございます。普通失踪の場合は、やはり相当の期間を置くことが適当ではないかと思うのでございます。試みに外国の立法なんかを見てみましても、資料としてお手元に差し上げておりますが、大体普通失踪の期間は十年前後というのが現在でも多いわけでございます。そういう関係で現行法は七年になっておりますが、七年をそう短縮する必要はないじゃないか、危難失跡に比べましてこれを短縮する必要性はきわめて薄いのじゃないかということで、普通失跡の失踪期間というものは今回は短縮いたさなかったのでございます。
  36. 阿部五郎

    ○阿部委員 一応ごもっともに承りますが、元来この失踪というのは、親族その他の関係者の申請によってするものでありますから、かりに短くしましたからといいまして、申請がなければその短いというものが実現されるものでもないのでありますし、またその反面から言いまして、諸般の法律関係を安定させるという面から見ましたならば、いま少し短くするということも必要ではないかと思われるのでありますが、その点さらに一つ立ち入った御見解をお聞きしたい。
  37. 平賀健太

    ○平賀政府委員 この失踪宣告の請求は、民法では利害関係人からということになっておるわけでございますが、利害関係人、これは法律上利害関係がある者ということになるかと思うのでありますが、範囲がかなり広いわけでございます。たとえば失踪者の配偶者であるとか子供なんとかいうのは、これは本人の生存を信じておる、夫は生きているはずである、父は生きておるはずであると生存を信じ、あるいは生存を願っておるわけでございますが、たとえば債権者などからでも、やはり利害関係人ということで失踪宣告の申し立てができるわけでございまして、遺族としては、ことに近親者たちとしては、生存を信じ、帰ってくることを信じておるのだけれども、債権者などから失踪宣告の請求をされ、死んだものとみなされてしまうという可能性もあるわけでありますが、やはり最短期間というものは七年くらい置いておくべきではなかろうかというふうに考えられる次第でございます。
  38. 阿部五郎

    ○阿部委員 いろいろこれは考え方の相違があろうと思います。ある程度までは裁判所の自由な判断にまかせておく方がいいのではないかというふうにも考えられるのでありますが、これはそれでおいておきましょう。  それから死亡の時期の確定でありますが、今までは宣告の時期が死亡の時期というふうになっておりましたのを、今度は遡及して効力が発生するというふうにお改めになりましたが、この点いかなる御見解でございますか。
  39. 平賀健太

    ○平賀政府委員 この点は、実際の死亡の危険を伴う危難が終わったとき、そのときとすることは、実際の死亡の時期にも合うのではないか。実際に合わせるという趣旨からこういうふうに改めた次第でございます。
  40. 阿部五郎

    ○阿部委員 それはもう初めからよくわかっておるのでありますが、旧法においてもおそらくその点において心づかないで立法したとも思われません。しかし、それにもかかわらず、宣告のときから効力を発生するということにしておったゆえんのものは、なるたけこういうものはさかのぼって効力が発生することを避けたいという趣旨であったのではなかろうかと私は推測しておったのであります。今度その原則を変えられるのでありますが、その点の双方の法律制度としての利害得失などお考えになったと思います。それらについての御所見を承っておきたいと思います。
  41. 平賀健太

    ○平賀政府委員 従来におきましても、失踪期間は、普通失踪でありますと七年、危難失踪でありますと三年ということでございますが、この失踪期間を経過したら直ちに失踪宣告の請求があるという例はむしろ少ないのじゃないかと思うのであります。十年たち、二十年たって請求される事例がかなりあると思います。この失踪期間の経過後相当年数がたって失踪宣告の請求がございますと、行方不明になったときから、消息不明になったときから七年あるいは三年たったとき死亡とみなすわけであります。従来でも、やはり実際のケースにおきましては、死亡とみなされる効果が遡及するという例が実際に多いわけでありまして、その点は制度としては仰せのように非常に変わるわけでございますけれども、そのために不都合を生ずるようなことはないと考えておる次第であります。
  42. 阿部五郎

    ○阿部委員 それと同時死亡の推定でありますが、この同時死亡の推定の規定を設けられようとなさっておられますが、そうなった場合に、従来と多少でも変化を生ずるということはおそらくないのじゃないか、従来通り変更ないのだ、こう思ってよろしゅうございますか。
  43. 平賀健太

    ○平賀政府委員 仰せの通りでございます。従来も、解釈としては、やはり明文の規定がございませんでしたけれども、死亡の先後が明らかでない場合には同時に死亡したものと推定して、相続その他の関係を規律していくというのが従来の解釈であったと思うのでございます。そういうわけで、これは解釈を明らかにしたということで、実質的には変更はないと言って差しつかえないと思います。
  44. 阿部五郎

    ○阿部委員 次に、養子の離縁の規定の改正でありますが、これも実質上は、私はあまり法律上の効果が変更されることはあるまいと思いますが、いかがなものでございましょうか。
  45. 平賀健太

    ○平賀政府委員 これも仰せの通りでございまして、実質的にはそう変更されていないのでございます。問題になりましたのは、養子が離縁をしようという場合に、実父母がともに死んでしまっておる場合はどうなるかということであります。一つの見解によりますと、その場合には、養子の法定代理人が離縁の承諾をするわけであるが、その場合の法定代理人は離縁をしようとする養親でございますので、利益が相反するので、これは利益相反の場合であるから、養子の特別代理人を家庭裁判所に選任してもらって、その特別代理人と養親との協議で離縁するという解釈と、もう一つは、いや、そうじゃない、その場合はあらかじめ後見人を選任することができるんだ、あらかじめ後見人を選任して、その者が養親と協議をして離縁するんだ、後見人説と特別代理人説と二つ分かれておりました。家庭裁判所の取り扱いが、やはり一致いたしませんで、特別代理人を選任する裁判所と後見人をあらかじめ選任する裁判所と両方あるわけであります。これはやはり解釈上明らかにしておきたい、取り扱いを一定しておきたいというので、八百十一条の改正をしたわけであります。この改正の結果、あらかじめ後見人を選任するのでありますから、あらかじめ選任されました後見人が、養親と協議をいたしまして離縁をいたしますと、その者が今度は名実ともに後見人になるわけであります。ところが、特別代理人でありますと、離縁の協議をするだけの特別代理人でありますので、離縁の協議が済みますと、特別代理人ではなくなる。そうして後見開始ということで、あらためてまた後見人を選任しなければならぬ。実際問題としても、その特別代理人になった人が後見人になるケースが多いと思いますけれども、必ずしも当然に後見人になるわけではないのであります。そういう点で若干の違いが出て参りますが、実質的には仰せの通りそう変わってはいないと私どもは考えております。
  46. 阿部五郎

    ○阿部委員 次に、八百十五条の改正なのでありますが、これはどうでございましょうか、従来と多少変わるところがございますか。
  47. 平賀健太

    ○平賀政府委員 この八百十五条も、協議離縁の場合の八百十一条を改正しましたことに伴って、それに合わしたわけでございます。いま一つ、現行法によりますと、「養子が満十五歳に達しない間はその縁組につき承諾権を有する者から、離縁の訴を提起することができる。」ということで、養子が原告になる場合だけを規定しておるようにとれるわけであります。ところが、解釈としましては、被告になる場合もやはりこれでいくべきではないかと思うのでございまして、その点が条文の上でははっきりしておりませんので、この改正案におきましては、養子の方から訴える場合も、養子が訴えられる場合も、ともに離縁しようとしたならば、その法定代理人になるべき者が養子にかわって訴訟の当事者になって訴訟をするというふうに解釈を明確にいたしたわけでございます。実質的には現行の規定とそう変わっていないと言っていいと思うのでございます。
  48. 阿部五郎

    ○阿部委員 これは従来の解釈でも、養子を相手取って養親側からの訴えもできると思っておったのでありますが、その通りでよろしゅうございますか。
  49. 平賀健太

    ○平賀政府委員 その通りでございます。
  50. 阿部五郎

    ○阿部委員 それと、これは私は不勉強で何か気がつかないのでしょうけれども、八百八十七条の改正で代襲ということを条文に入れたわけなんですが、従来ともこれは法律用語としては使われておったので何ら変わりはないと思いますが、その中でただし書きに、「但し、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」、こうなっておるのでありますが、直系卑属でない者が代襲相続人になる場合というのがちょっと考えられないように思うのですが、どういう場合があるのでございましょうか。
  51. 平賀健太

    ○平賀政府委員 これも現行法の取り扱い解釈を明文化したということになると思うのでございますが、現行法のもとでは実はこういう問題があるわけでございます。被相続人、お父さんをかりに甲といたします。それが乙という養子をもらった。ところが、この乙が甲の養子になる以前に乙に子供があった。たとえば養子縁組前に生まれました丙という子供がいる場合を仮定いたします。それからまた養子縁組後、今度は丁という子供が生まれるという、こういう場合を仮定いたしまして考えますと、今、甲よりも先に養子の乙がなくなってしまったという場合に、一体乙が養子になる以前にできておった丙というものが代襲相続ができるかどうかということで実は問題があったわけでございます。養子縁組によりまして直系血族の関係ができますが、その乙の子供というのは、養子縁組後に生まれた者だけが甲の直系血族になる。おじいさんと孫という関係ができまして、養子縁組前に生まれております丙というのは、甲との間には血族関係ができない、親族関係が生じないわけでございます。そこで一体この丙に代襲相続権があるのかないのかということが問題になりまして、従来、法務省におきましてもそうでありますが、裁判所における解釈も、直系卑属でない者は代襲相続権がないという解釈できておるのでございますが、一部に、いやそうではない、養子縁組前の子供丙のような者にも代襲相続権があるという見解があるわけでございます。この点、やはり解釈上の疑義をなくして明確にしたいということで、現在の裁判所、それから私どもの方の関係、登記などの関係でとっておりますところの、直系卑属でなければならないというこの解釈を明文ではっきりしておくということなのでございます。
  52. 阿部五郎

    ○阿部委員 私は気がつかなかったのでありますが、そうすると、すでに子供を持っておる人間を養子とする場合に、その養子の子供を孫にしない、こういう養子の縁組は現実にあるのでありましょうか。
  53. 平賀健太

    ○平賀政府委員 夫婦養子をするような場合でございますが、その夫婦に子供がいる夫婦養子をしたような場合には、その養子になった夫婦の子供というのは養親の孫にはならぬのでございます。現行の養子制度——従来もそうでありますが、日本の養子制度のもとでは、養子の子供は、すでに生まれておる子供は、当然には——当然にはというよりも、すでに縁組み前に生まれております子供は養親の孫にはなれない。養子縁組後生まれました子供だけが孫になるわけでございます。血族関係がないということになっております。でありますから、旧法のもとにおきましては、夫婦養子になりましたその養子が、自分の養子縁組前に生まれました実子をさらに養子にするということでもって、孫、おじいさんの関係が作れたわけでございますが、現行法の解釈としましては、実子は養子にできないというような解釈をとっております関係で、現行法ではどうも孫にする方法がないわけでございます。これはやはり一つの大きな根本問題なのでございまして、普通の日常生活関係では、たとえば夫婦養子になりました者が小さい子供を一緒に連れてきたという場合には、やはり、養親の孫とするのだ、かく考えるのが普通でありまして養子縁組後に生まれた子供と区別するのはおかしいじゃないかということが言えるわけでございます。これも養子制度の根本問題の一つでございますが、養子制度にはそういう問題がございますので、今回はそういうところまでは手をつけないで、そういう点はなお今後検討いたしまして、何らかの解決を考えたいと実は考えておる次第でございます。
  54. 阿部五郎

    ○阿部委員 そうすると、それはやはり人情にもとる点が確かにあると思われますが、その点いかがなものなんでしょうか。このただし書きがなければ、これはどういう法律効果になるのでありましょうか。
  55. 平賀健太

    ○平賀政府委員 ところが、ただいま申し上げました例では、夫婦養子になりました養子の子供がまだ小さいという場合ですが、よく例がございますのは、農村なんかで、子供がない、弟夫婦を養子にするなんという例があるわけであります。その弟も、ずっと大きくなって、四十、五十になった弟を養子にするという例があるわけであります。その弟には当然に子供がいる。その子供はもう結婚しておるというようなずいぶん大きくなった子供がいるわけでございます。それはもちろん弟の方の家に残しておいて、弟だけが兄貴の養子になるというような例もあるわけでございまして、その弟の子供が兄貴の孫になるなどということを考えてない場合も実はあり得るわけであります。一がいに言えないいろいろなケースがございまして、被相続人の直系卑属でない者が当然に代襲相続権を持つというのも、また実際に人情に反する場合も考えられるわけでございます。そういう関係で、これは養子縁組制度の根本問題の一つといたしまして、今後なお検討していきたいというふうに考えておる次第でございます。
  56. 阿部五郎

    ○阿部委員 それから次は大体相続の承認、放棄の問題であるようでありますが、それのうちの九百三十九条であります。この改正が何か法律効果に変動がございますか。
  57. 平賀健太

    ○平賀政府委員 相続の放棄の効果につきましては、実は二通りの見解がございまして、解釈が分かれておるわけでございます。例を申し上げますと、甲、乙という夫婦がおると仮定いたします。甲が夫で乙が妻といたしますが、それにかりにA、Bという二人の子供があると仮定いたします。この場合に、夫の、父親の甲が死亡いたしますと、現行の相続法でいきますと、妻の乙と子供のA、Bが、いずれも相続人になるわけであります。そして相続人になりますと、妻の乙には相続財産の三分の一に当たるものがいきます。子供のA、Bに、合わせて三分の二がいくわけでありますが、全相続財産の三分の一ずつがそれぞれA、Bにいくことになるわけです。一つの解釈によりますと、これは九百三十九条の二項の解釈でございますが、現行法では「数人の相続人がある場合において、その一人が放棄をしたときは、その相続分は、他の相続人の相続分に応じてこれに帰属する。」ということでございますので、かりにたとえば子供のBが相続を放棄したといたします。子供のBが放棄したとしますと、その相続分の三分の一は、乙とAの相続分に応じて分けられることになるというふうに考えますと、このBの相続分の三分の一が二分されまして、乙とAにいく、六分の一ずつ乙とAにいきまして、結局乙とAの相続分は二分の一ずつということになるわけでございます。Bはもう相続人ではなくなりますから、全相続財産の二分の一が乙、残りの二分の一がAという計算になるわけであります。これが一つの解釈でございます。ところが他の解釈によりますと、いや、そうじゃないのだ、Bが相続を放棄したとすれば、Bがそもそも最初からいなかったものと考えろ、相続人は乙とAだけだと考えるべきである。そういうふうに考えていきますと、乙は生存配偶者でございますので、相続分は三分の一、Aは三分の二と、これは株分け説と申しております。生存配偶者の株は三分の一で、直系卑属の株は三分の二だから、そういう株に従って分けるのだという株分け説と、いやそうではない、九百三十九条の二項を文字通りに解釈して、Bが放棄したとすれば、Bの相続分の全体の三分の一が乙とAの相続分に応じて分けられるのだ、そして乙とAが半分ずつ相続しているのだという、こういう二つの見解が対立しておるわけでございます。これが家庭裁判所における取り扱い、あるいは私どもの不動産の登記の制度における取り扱い、それから税務署の相続税の関係の取り扱い、この両説に分かれておりますために、非常に実は実務上困るわけでございます。これをはっきりしたいというので、これはただいま申しました二つの説のうち、株分け説と申しますか、その株分け説によりまして、ただいま申しました例に即して申し上げますと、子供の一人のBが放棄した場合には、Bの相続分は直系卑属の株の中で放棄されたんだから、もう一人の子供Aに全部行ってしまって、Aが三分の二、生存配偶者は依然として三分の一だ、こういう解釈になるわけでございます。一体二つの解釈のうちどちらが実情に適するかということでございますが、これは私どもいろいろ考えたのでございますが、これはいろいろの場合によって株分けの方が適当な場合もありますし、株分けでなく、現行法の文理解釈で処理した方が適当な場合もございまして一律にいかないわけでございます。そこで、こういうふうに解釈が二つに分かれておって、取り扱いが区々になっておることが非常に不便なので、解釈が分かれる余地をなくする、取り扱いがはっきりきまるということになれば、被相続人の方におきましても、自分が死んだらこういうことになるから、それでは困るということで遺言で適当な配分をきめておくということも可能になる。そういうわけでございまして、解釈を明らかにしたというのが九百三十九条の改正の理由でございます。
  58. 阿部五郎

    ○阿部委員 よくわかりました。もう一つこれに似たことでありますが、九百九十四条、ただ「前」というのと「以前」というのと、これはどういう効果があるのです。
  59. 平賀健太

    ○平賀政府委員 九百九十四条でございますが、現行法では、「遺贈は、遺言者の死亡前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」ということになっておるのでございますが、現在の法令の用語として死亡前というのと死亡以前というのを区別しておるわけであります。現行法は「遺言者の死亡前」でありますから、遺言者が死ぬ前に受遺者が死亡した、その場合は遺贈は効力を生じないということになるわけでございますが、最初にお尋ねでございました同時死亡の規定を今度実は置いたわけであります。その関係で、遺言者と受遺者が同時に死亡するということもあり得るわけであります。こういうことがはっきり出てくることがあり得るわけでございます。同時死亡の推定を受けまして、たとえば台風なんかの災害で親子がともに死亡した。どちらが先に死んだかわからぬ。今度の新しい規定によりまして、はっきり同時死亡と推定されました場合に、一体この遺言は効力を生ずるのだろうか、従来は潜在的でそうこれが問題にならなかったのでございますが、新しく同時死亡の規定を置きました関係で、ここもはっきりさせておく必要があるだろう。とにかく同時死亡した場合には遺言は効力を生じないとするのが本筋であるわけでございます。そこをはっきりいたしまして、「遺言者の死亡以前」というふうに改めたわけでございます。これは要するに同時死亡の場合も、あるいは同時死亡の推定を受ける場合も遺贈は効力を生じないという趣旨の改正でございます。
  60. 阿部五郎

    ○阿部委員 そうすると、これは同時死亡の場合においては遺贈は効力を生ずるのですか。
  61. 平賀健太

    ○平賀政府委員 生じないのでございます。
  62. 阿部五郎

    ○阿部委員 これは文言でいくと、遺言者と受遺者が同時に死亡する。遺言者の死亡する以前に死亡したのではない。同時に死亡した。そうすると、遺言はやはり効力は生じそうに思われますが、生じないのですか。
  63. 平賀健太

    ○平賀政府委員 普通遺言する人は、たとえば財産をある者はやりたいという場合には、自分が死んだ後に生き残っておることを前提にしておるわけでありまして、その者が自分よりも先に死んでしまったという場合には、また別に遺言をし直しまして、ほかの者にやるという遺言をするのが普通であるわけでございます。でありますから、遺言をした人よりも先に、遺言によって財産をやろうとしたその受遺者が死亡した場合には、当然遺言は効力を生じないというふうにすべきだと思うのでございますが、同時死亡の場合も、やはりそれに準じて考えてしかるべきではないか。同時死亡の場合に効力を生じますといたしますと、受遺者の相続人と申しますか、それに財産がいくということになるわけでございますが、そこまでは、やはり遺言した遺言者としては考えていないと考えるのが普通ではないだろうか。その場合もやはり遺言は効力を生じないとした方が遺言者の意思に合うのじゃないかということで、死亡以前にという点をはっきりしたのでございまして、現行法の解釈におきましても「遺言者の死亡前に」とございますけれども、やはりそう解釈すべきであろうと思うわけでございます。なお、それと関連して考えられますのは、現行法の八百八十八条の代襲相続の規定でございますが、この代襲相続につきましても、現行法では「前条の規定によって相続人となるべき者が、相続の開始前に、死亡し、」というふうになっております。たとえば子供がおやじよりも先に死んだときということになっておるわけでございますが、親と子供が同時に死亡した場合には一体どうなるか。さらにその子供がある。要するに、孫は生き残ったが、親と子は同時に死亡したという場合には、一体代襲相続が起こるのか、起こらないのかという場合があるわけでございます。これはやはり現在の解釈では、代襲相続なんだ、親と子の間には相続関係はない、子供が一たん親の財産を相続してそれが孫にいくのではなくて、親子の間には相続関係は全然起こらない。おじいさんからいきなり孫に代襲でいくのだという解釈なのでございます。これもやはり現行法では「相続の開始前に、」という言葉で、同時死亡の場合は考えていないような規定でございますけれども、これはやはり条理として開始以前と読むべきであろうというふうに現行法でも解釈しておるわけでございます。その点も今度の新しい八百八十七条の規定では、はっきりいたしまして、この新しい規定の二項で「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、」と、同時死亡の場合もはっきり含むように「開始以前に」といたしたわけでございます。今度の新しい八百八十七条の第二項でございます。従来は「開始前」とございましたのが、「開始以前」として、同時死亡の場合も代襲相続になるのだということをはっきりさせました。
  64. 阿部五郎

    ○阿部委員 お話はよくわかるのですが、その文言の意味になるとちょっと逆のようにとれるのですが、いかがですか。九百九十四条ですが、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合効力がないとしたら、同時に死亡したときは、反面解釈として効力がある、こういうふうになりそうに思われるのですが、いかがですか。
  65. 平賀健太

    ○平賀政府委員 これは現行法では「遺言者の死亡前に」となっておりまして、従来の法令の用語からいきますと、遺言者よりも先に受遺者が死んだときですから、同時に死亡したときは、あるいは同時に死亡したと推定されますときは、遺言は効力を生ずるという解釈が生まれる余地があるわけでございます。それはやはり不合理だからというので「死亡以前に」と改めたわけでございますが、現在の法令用語からいきますと、死亡のときも含めましてその前という意味でありますから、「死亡以前」といたしますと、同時死亡の場合は、まさしくこれは「死亡以前」に当たるわけなんで、遺言が効力を生じないわけでございます。ちょっと「死亡前」と「死亡以前」とこまかい使い分けをしておるものでございますから、おわかりにくいかと思うわけでございます。
  66. 阿部五郎

    ○阿部委員 私の質問はこれで終ります。      ————◇—————
  67. 河本敏夫

    河本委員長 この際、小委員会設置の件についてお諮りいたします。  再審制度について調査をなすため、小委員五名よりなる再審制度調査小委員会を設置したいと思いますが、これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  68. 河本敏夫

    河本委員長 御異議なしと認め、そのように決しました。  なお、小委員及び小委員長の選任につきましては、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  69. 河本敏夫

    河本委員長 御異議なしと認めます。よって小委員に    池田 清志君  稲葉  修君    林   博君  赤松  勇君    坪野 米男君 また小委員長に林博君を指名いたします。  なお、お諮りいたします。今後における小委員の辞任の許可及び小委員に欠員を生じました場合の補欠選任につきましても、委員長に御一任願っておきたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  70. 河本敏夫

    河本委員長 御異議なしと認め、そのように決しました。     —————————————
  71. 赤松勇

    赤松委員 先ほど来、私はスラム街の問題を問題にしましたが、なお聞くところによれば、神戸尼崎はさいぜんも申し上げましたが、それから姫路、こういう方面に暴力問題などもあり、特に本委員会におきましては、いわゆる法務行政の立場から見るところの交通問題をまだ取り上げていないので、こういう方面の調査をする必要もあると思います。国会開会中でありますので、はたして議運の承認を得る必要があるかどうかは別といたしまして、もし議運の手続を省略して、本委員会が自主的に調査に出るというようなことが委員会の意思としてきまりますならば、各委員の都合なども見計らって、適当な機会に、以上申し上げましたような地区調査を行ないたい。この点につきまして委員長に一任しておきますから、よろしく理事会でお取り計らい願いたいと思います。
  72. 河本敏夫

    河本委員長 ただいまの赤松君の御発言につきましては、追って理事会に諮り決定いたします。      ————◇—————
  73. 河本敏夫

    河本委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  人権擁護に関する件のうち、昭和女子大学の問題についての参考人として、本日御出席下さることになっておりました昭和女子大学学長玉井幸助君が病気のため御出席できないとのことであります。ついては、本件についてあらためて参考人の出席を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  74. 河本敏夫

    河本委員長 御異議なしと認め、そのように決しました。  なお、人選等につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  75. 河本敏夫

    河本委員長 御異議なしと認めまして、そのように決します。  なお、右参考人の意見の聴取は、本日午後一時より開会予定の法務委員会、文教委員会連合審査会において行ないたいと存じますので、御了承願います。  次会は明二日午前九時五十分より理事会、午前十時より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後零時二十八分散会