運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1962-02-15 第40回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年二月十五日(木曜日)     午前十時三十七分開議  出席委員    委員長 河本 敏夫君    理事 稻葉  修君 理事 小島 徹三君    理事 林   博君 理事 井伊 誠一君    理事 坪野 米男君 理事 松井  誠君       井村 重雄君    池田 清志君       上村千一郎君    唐澤 俊樹君       高橋 英吉君    馬場 元治君       松本 一郎君    阿部 五郎君       河野  密君    田中織之進君       田中幾三郎君    志賀 義雄君  出席政府委員         検     事         (大臣官房司法         法制調査部長) 津田  實君         検     事         (訟務局長)  濱本 一夫君  委員外出席者         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局         長)      桑原 正憲君         判     事         (最高裁判所事         務総局行政局         長)      仁分百合人君         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      樋口  勝君         判     事         (最高裁判所事         務総局家庭局         長)      市川 四郎君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局第         一課長)    長井  澄君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 二月十二日  委員上村千一郎辞任につき、その補欠として  山本猛夫君が議長指名委員に選任された。 同日  委員山本猛夫辞任につき、その補欠として上  村千一郎君が議長指名委員に選任された。 同月十三日  委員上村千一郎辞任につき、その補欠として  井出一太郎君が議長指名委員に選任された。 同日  委員井出一太郎辞任につき、その補欠として  上村千一郎君が議長指名委員に選任された。 同月十五日  委員片山哲辞任につき、その補欠として田中  幾三郎君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 二月十四日  民法の一部を改正する法律案内閣提出第九四  号) 同月十三日  皇室の尊厳をおかす者を処罰する法律の制定に  関する請願大村清一紹介)(第八五九号)  同(野田卯一紹介)(第八六〇号)  同(濱田正信紹介)(第八六一号)  同(小沢辰男紹介)(第九五二号)  同外十件(渡海元三郎紹介)(第九五三号)  同(辻寛一紹介)(第九九一号)  同(早川崇紹介)(第一〇二四号)  同(藤井勝志紹介)(第一〇二五号)  同外一件(三浦一雄紹介)(第一〇二六号)  同外一件(小澤太郎紹介)(第一〇七五号)  同外百四十四件(薩摩雄次紹介)(第一〇七  六号)  同外五十二件(瀬戸山三男紹介)(第一〇九  三号)  同外四十件(高橋清一郎紹介)(第一〇九四  号)  同(古川丈吉紹介)(第一〇九五号)  同(瀬戸山三男紹介)(第一二〇七号)  同外七件(中村幸八君紹介)(第一二〇八号)  同外五件(山崎巖紹介)(第一二〇九号)  政治的暴力行為防止法案反対等に関する請願(  中澤茂一紹介)(第一〇〇二号)  同外十一件(山口鶴男紹介)(第一二四二  号)  政治的暴力行為防止法案反対に関する請願(楢  崎弥之助紹介)(第一一八三号)  同(楢崎弥之助紹介)(第一二四三号)  同(坪野米男紹介)(第一二四四号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内  閣提出第二三号)  行政事件訴訟法案内閣提出第四三号)      ————◇—————
  2. 河本敏夫

    河本委員長 これより会議を開きます。  行政事件訴訟法案を議題とし、審査を進めます。  質疑の通告がありますのでこれを許します。上村千一郎君。
  3. 上村千一郎

    上村委員 行政事件訴訟法案につきまして、少しく質問をいたしたいと思います。  本日は概括的な点についてお尋ねをいたしまして、詳細な点につきましては、いずれ参考人その他の方々の御意見を拝聴した後に質問をさせていただきたいと思います。実は現行行政事件訴訟特例法につきましては、その運営上きわめて疑義の多かった点がある。なお、行政事件訴訟特質とかあるいは各種の行政法規との関連性などから、その運用面におきましても、きわめて困難な点が多かったということにつきましては、その通りであろうと思うのであります。そうしてこれが何らか抜本的に改正をして、また整備して、そうして国民要請にこたえたい。国民権利伸張並びにこれがそこなわれたものに対する救済ということについては、何らかの処置を講じなければならないであろうということは、各方面からこれを叫ばれておったことはその通りであろう、こう思うわけであります。  私、いろいろと御質問をさしていただく前に、具体的に、現行行政事件訴訟特例法運用上どういうような点がきわめて困難であったのであろうか。また疑義があったであろうかということにつきまして、簡略でけっこうでございますから、その運行の面に当たられておりました裁判所の方から御説明を賜わりたい、こう思います。——裁判所の方からはじきにお見えになられると思いますので、法務省の方から先に一つお答えを承りたいと思います。——実は突然法務省の方に変わったからお答えに御不便かと思いますので申し上げるのですが、逐条の御説明あるいは提案説明に載っておる点につきましては、もうすでに私ども承っておりまして、十分に頭に入っておるわけですから、それとダブって御質問を申し上げるわけじゃございません。ただ実際上、現行行政事件訴訟特例法といたしまして、これが運行上特にお困りになっておるというような点について、またこれが実態についてあらかじめ一つ説明を賜われば、以下質問をして参りますに好都合かと存じまして、概略の点をお尋ねをするわけであります。
  4. 濱本一夫

    濱本政府委員 取りまとめて遺憾のないようなお答えができるかどうか、私、非常に遺憾に思うのでありますが、今御質疑がありまして思いつきます点は、従来提案理由などで述べているところとダブるようなきらいがあると思うのでありますが、実際面で現行裁判所に迷惑を及ぼしているというふうな点、あるいは裁判所というよりも国民に迷惑を及ぼしている点、そういった二つの観点からしますならば、たとえて言えば、現実訴願前置主義の問題であります。国民としましては、自分不利益行政処分があれば、行政処分をした行政庁に泣きつくよりも、いきなり通常裁判所である司法裁判所訴えを持っていって公正な判断を仰ぎたいというのが、おそらく国民の熱望するところであろうと思うのでありますが、さような場合におきましても、現行法の上では、やはり行政処分をした当該行政庁もしくは、しばしば使われる言葉であまり好きな言葉じゃないのでありますが、これと同穴のムジナである上級行政庁に頭を下げて行かなければならぬということが、不利益をこうむった当該国民の何よりも不満とするところであったろうと想像するのであります。それからまた、無効確認訴訟ども現行法では特段の規定を置いておりませんので、はたしてこれが訴訟法上許されるかどうかというようなことについては大きな疑問があったのです。にもかかわらず、昭和二十三年にこの制度ができまして以来、多数の、ことに農地買収に関しまして多数の無効確認訴訟が起きまして、いささか裁判所混乱を、大げさに言えば混乱を生じたとでも言えるような事態が起きておったのではないかと、私、当時裁判官であったのでありますが、考えるわけであります。また、処分取り消し訴えと裁決の取り消し訴えとの関係につきましても、しばしばそういった、大げさに表現すれば裁判所混乱を生じさせるような複雑な関係を実際面において来たしたと考えるのであります。また管轄の点につきましても、現行法では当該処分庁所在地裁判所管轄とし、しかもその管轄を専属といたしました関係で、国民に非常な不利益、非常な不便を生じさしたというふうに私ども考えておるのであります。取り上げますれば、まだ幾つもあるかと思いますけれども、今申し上げましたような点が、さしあたって私どもが痛切に感じた点としてとりあえずお答えできる点であります。
  5. 上村千一郎

    上村委員 御説明のように、私宅、今度の法案につきましては、多くの疑義の点、不便の点、その他をきわめてよく解決しておるのではなかろうかというふうに思うわけでございますが、私は、きょうは一つ観点を変えまして、実はいかにいろいろその条文なり、その解釈上の問題が整備されたといたしましても、要は国民権利伸張並びにこれが救済という点に重点があるべきであろうと思うのであります、そういたしますと、実際面で、一体この法規によればどういうふうに国民権利伸張されていくのであろうか、あるいは侵害された権利がきわめて簡易に、きわめて容易に、しかも妥当に救済されていっておるものであろうか、こういう観点が一面きわめて重要なことであろうと思うわけであります。それで、この行政事件において国民が不服を生じた場合に、一体どういうふうに現実解決されていっておるだろうか。たとえば法務省からの資料を拝見いたしますと、裁判外において、きわめて多くの取り下げという形式において解決されておる。一体これは手続煩瑣なるがため取り下げて、もうあきらめてしまったのか。それとも一応申し立てばしておるけれども、いや自分の考え間違いであった、あるいは自分の言うのが不当であったというわけで取り下げておるのか。あるいはその間、行政機関においてある程度反省をされまして処置を変更し、そして取り下げていかれたものか。要決されておるということは、その内容は何であるか、一つお尋ねをしておきたいと思います。
  6. 濱本一夫

    濱本政府委員 私どもが具体的な事件に関与いたしました経験から申しますれば、この行政訴訟事件において、普通民事事件と比較して、おっしゃるように、あるいは取り下げによって解決されておるのが——解決というのはちょっと語弊がありますが、終了しておる事件が非常に多いというふうな現象もあるかと思いますが、その取り下げに至ります理由としましては、私どもが関与しておる限りにおきましては、裏面と申しますか、行政の実際面で原告の納得のいくような他の方法が用いられて、その結果取り下げをする。あるいはまた原告訴えを起こして後に行政庁から十分な説明を聞いて、終局まで訴訟を持ち込んで有利な判決が得られないことを納得した上で取り下げるという実例が多かったように思うのであります。それと同時に、何分にも行政事件におきましてはそのものずばりで和解をするということができませんので、今言ったような形で、本来ならば普通民事訴訟事件で言いますならば、和解といった形になるのが、訴訟面では取り下げという立場にならざるを得ないということもあるかと思うのです。私どもが経験いたしました上では、さように観察されると思うのです。
  7. 上村千一郎

    上村委員 それに関連いたしまして、少しく違った面でお尋ねをいたしたいと思うのです。  今度の行政事件訴訟法というものは、現行行政事件訴訟特例法とは非常に趣を異にしておる。というのは、現行行政事件訴訟特例法というのは、いわば民事訴訟法というものを基点といたしましてのそれで、民事事件として不適だというようなものをとりあえず規定しておったのではなかろうかと思うのです。けれども、今度の行政事件訴訟法案を拝見しますと、行政事件訴訟全体のいわば通則とも称すべきもの、要するに一つ法域といいますか、独立した法域規定するというようなねらいがあるのではなかろうかというふうに思うのでございます。そういう意味におきまして、従来のものをきわめて整理したものだというふうに理解してよろしいかどうか、一つお尋ねをしておきたいと思います。
  8. 濱本一夫

    濱本政府委員 きわめて基礎理論的な問題を含んでおると思いますので、私どもも十分な御納得いただくような説明を申し上げることはできるかどうかはなはだ内心じくじたるものがあるのであります。あるのでありますけれども、私どもが本法案を立案する初めからおしまいまでを通じまして、結局するところ、提案理由でも説明いたしておりますように、形式的には、本法案では、行政事件訴訟特質を詳細にわたって把握して、これに対する一般法たる行政訴訟法を作ろう、こういう建前で臨んだのでありまして、この法案の全部の条文構成形式的に見ますれば、提案理由説明いたしておりますように、やはり行政事件訴訟に関する通則たる一般法という建前で作ったつもりであります。しかしながら、これもやはりその他のところで説明いたしておりますが、あるいは証人尋問、あるいは口頭弁論方式、あるいは調書の方式、かような詳細な点にまでその特質が及ぶものでもなく、規定をするとしますれば、どうせ民訴と同じになるわけでありますので、さような点につきましては、大幅に民事訴訟法によることにいたしておりますので、私ども一般法一般法だと申しますけれども、あるいは見方を変えて言えば、実質は民事訴訟が大きな柱であって、実質的にはやはり特例法ではないかという見方もできぬ限りではないと私は思っております。
  9. 上村千一郎

    上村委員 よくわかりましたが、大体、私がお尋ねをしようと思うのは、行政事件として、それの訴訟処理としての一般法、こういう意味でございます。そういうねらいでは、この前の御説明から見ましても、要するに通則的なものをここに取りまとめて整備したという御説明からしてみれば、私は民事訴訟法という、要するに民事事件であり、しかも司法裁判所の一還として処理するという憲法上の規則からいえば、民事訴訟法一般法であるにきまっておる。こういう解釈をするのは、行政一つ分野としての民事訴訟法としての一般法であるか、こういうふうにお尋ねをしたわけですが、それは一般的な一つまとめた法規を考えたものなのか、こういうふうに理解していいのですか。もう一回あらためてお聞かせ願いたい。
  10. 濱本一夫

    濱本政府委員 少しお答えの仕方が粗雑であったのでおわかりにくかったと思いますが、本法全部の条文構成は、おっしゃる通り、また私ども説明しております通り行政事件というものを全般的にとらえて、それに対する一般法という構成をとっております。でありますから、たとえば行政事件の類型をあげる場合におきましても、全部をあげてはおりませんので、このほかにも考えられる行政訴訟がもしありとしますならば——これは考えられるのですが、ありとしますならば、やはりそれについても本法が適用になるという形式構成をとっております。
  11. 上村千一郎

    上村委員 訴願法、要するに明治年代にできて、一つ国民からお願いをする、いわば民主国家といたしましては、この訴願法内容についてはどうしても一回手を入れなければならぬ段階に立っておるだろうと思う。そういう意味から言いますならば、国民行政事件に対する権利伸張、もしくはこれが救済というような点につきましては、大幅な前進を考えなければならぬ時期だと思う。そのときに本法案が出たということは、私はきわめて喜ばしいことだと思いますが、一歩進んで、要するに現在の家庭裁判所あるいは交通裁判所に匹敵するような、それと考え方を同じうするような行政事件を扱うような、またそれに匹敵するような裁判所をお考えになっておられるかどうか、この点についてお尋ねをしてみたい。
  12. 濱本一夫

    濱本政府委員 御指摘の点につきましても、あるいはいろいろな考え方があるかと思います。またあるとも想像されますし、そういう声も耳にいたしております。しかしながら、本法を立案するにあたりました私どもといたしましては、仰せのような普通裁判所に対する家庭裁判所あるいは交通裁判所、そういったものを行政訴訟分野に特別に考慮するということはむしろ考えておりません。と申しますのは、家庭裁判所事件のようなのは、やはり公開の口頭弁論を要件とします。弁論主義のもとに運営される民事訴訟とは非常に違いまして、やはりああいった特別な構成をとる必要がその面から私はあると思うのでありますが、この行政事件のようなものについては、特殊性があるとは言いましても、さような点からの要請は特別、裁判所要請は出てこないと思います。また国民からいたしましても、長い間行政の系統に属する行政裁判所という特殊な裁判所で、きわめて限られたものだけについて保護を受けておったのが、通常裁判所に直ちに訴訟を起こせるというところに、非常な権利擁護に対する安心感を与えておるものと思うのでありまして、それをさらにまた、同じ裁判所の中といいながらも、そういった特殊な裁判所を作って、これに専門的に扱わせるということは、そこにまたぞろ一まつの暗い影を残すような結果になりはしないかを私どもは懸念するのでありまして、行政事件に関しましては、今のところ、私どもといたしましては、さような特別の構成裁判所を作っていくべきだというような考え方にはむしろ批判的であったのであります。現在もそのつもりでおるのであります。
  13. 上村千一郎

    上村委員 私は、その見解とは多少意見を異にするのでありまして、実は憲法上におきましても要するに終審裁判所としてでなければ行政訴訟のみを取り扱う裁判所を設けることもあえて禁止されているわけではないことは、裁判所法第三条第二項からもその趣旨は推定されますし、現実において家庭裁判所あるいは交通裁判所というようなものは置かれておって、憲法違反でないことは確かであるわけですね。明治憲法のような行政裁判所というもの、これは違憲であることははっきりしておりますが、時代がどんどん進展して参りまして、そうして国民生活がきわめて複雑化していくというような状態におきましては、それに適するような処理をすることこそ、国民権利伸張であり、また救済であると思うのです。何となれば、現在の司法制度国民裁判を受ける権利をそこなわれないということになっておる。また、現在の司法制度において、みな安心して、そして十分国民権利義務というものの救済が行なわれておるかという点は、今司法制度として大問題だと思うのです。それと同じように、行政事件処理につきましても、裁判所裁判をするだけで、それがきわめてロジックに行なわれるということだけで、権利救済あるいは国民権利伸張がはかられるというふうには思われない、こう思うのです。と申しますのは、法務省提出参考統計資料を拝見いたしますと、この三十五年末の行政事件未済件数を見ますと、第一審の事件が二千四百六十一件、高裁が五百二十四件、最高裁が百八十二件、計三千百六十七件、また新受件数、新しい受理件数を見ますと、三十一年から三十五年に、平均的に約千二百件程度であります。そしてこの統計を見ますと、処理能率は年々低下しておることを示しておる。また未済件数は二十二年のこの現行法施行以来最高率を示しておるように見えるのであります。この点は、実態上どういう点でこういう計数ができてくるのだろうか。もちろん統計はこうなっておるのだが、未済件数はどんどんふえてくる、どうも処理能率は落ちてきておる。これではたして行政庁、要するに一つ権力機関に向かって放済を求めていくのであります。そうすれば長引くことは国民がきわめて困る。要するに、いつまでたってもいいというような立場でないのであります。普通の私人の間の訴訟事件すら、この訴訟遅延することがいかに大問題であるかというわけです。争うことを一生の願いとするわけじゃない。まして一つ行政庁を相手にしてやっている場合に、長引くことについては、国民はその立場上、ほんとうにいろいろと苦難がある。だから先ほど申し上げましたように、取り下げというような状態が起きてくる。しかも、その件数がきわめて大きな数にふえておる。しかもそこに何か和解とかいうような状態が起きてくる。これはある意味においては一つのあきらめというようなものであります。真の国民権利伸張あるいは救済ということが現実に施されていないんじゃないか。あるいは他面から言いますれば、この手続法規をきわめてロジック構成したからといって、国民の真の権利伸張ということがそこで期されるかどうかということは、また別な角度から考える必要もあるのではなかろうかという観点から私は御質問をいたして、そしていろいろとお尋ねをしておるわけであります。この統計から見ましても、未済件数がきわめて多い。こういう点は那辺にあるのか、その点を一つお聞きしたいと思います。
  14. 濱本一夫

    濱本政府委員 何分にも訴訟、ことに行政訴訟を含めまして、民事訴訟遅延という問題は、わが国のみならず、諸外国におきましてもきわめて、申し上げにくいのでありますが、びまん的な傾向であります。訴訟促進の叫ばれることは実に古くして常に新しい問題であるとまで言われておるのであります。それで、これが解決については、ひとり本法のみならず、あらゆる角度から常に検討されつつあるのでありまして、ひとり本法がこれに対して有力な手がかりになるのだ、そのために本法が大いに役立つのだというような我田引水な答弁を私とてもできるものではない。こう思いますが、おっしゃるように、そのために特別の裁判所を作った方がいいという考え方もまさに適切だと思いますし、またそうすることが憲法違反でないことは私も承知いたしております。しかしながら、かりに特別裁判所がどうあろうとも、行政事件に関する通則法を定める必要があると考えて本法を作ったのでありまして、特別裁判所を作るか作らないかということは、本法といわば関係がないものであります。ただ私どもが、個人的には行政事件にはその必要がないということを一応考えておると申し上げましたので、作らないのだということを言うことは、私どもとして厚かましく言えた義理じゃございません。ただ、私ども本法を作る上にはそこまでは考えていないのだということを申し上げたまでで、おっしゃる通り、そういったものができれば、それによって大いに訴訟遅延を防止することに資するゆえんではあろうと思いますが、何分にも本法はそのこととは関係なく、行政事件に関する手続法を作りたいというのが私どもの念願であったのであります。
  15. 上村千一郎

    上村委員 御説明でよくわかりました。  次に、もう少し統計上でお聞きしたい。というのは、精緻な理論構成が行なわれたからといって、そこに国民ほんとう権利伸張救済になるかならぬかという別な観点も考えたい、こう思うから質問をするわけです。審理期間の平均を見ますと、地裁第一審といたしまして三十四年度の例を見ますと、二四・四カ月、高裁控訴審の三十四年度の例を見ましても二一・六カ月、最高上告審の三十四年度の例を見ますと一九・九カ月、これを通常訴訟で見ますと、同年度の地裁第一審を見ますと、これが半分以下の一一・九カ月、それから高裁控訴審の三十四年度の例を見ますと、通常訴訟は半分まではいきませんけれども行政事件として二一・六カ月というのが一五・三カ月、それから最高上告審に参りますと、ちょっと通常訴訟の方がふえまして二〇・七カ月、こういうふうになっております。それからこの行政事件につきましての控訴率を見ますと、三十四年度を見ますと七三・二%、通常訴訟は三一・九%、上告率を見ますと六〇・七%、それから通常訴訟は三丁七%というわけですが、この傾向を見ますと、いかにこの普通訴訟事件よりも行政事件の御審理関係、あるいは控訴上告、要するに上訴の率といいますのは、一般事件よりもきわめて審理期間が長くなり、しかも上訴の率がきわめて高いというのは一体那辺にあるのですか、裁判所の方から一つ説明を賜われば幸いだと思います。
  16. 仁分百合人

    仁分最高裁判所長官代理者 その前にちょっと申し上げておきたいと思いますけれども上告審上告率でございますが、これは私どもの調査いたしました数字によりますと、若干相違している点がございます。法務省から御提出にたりました数字と違って、ずっと低い数字が出ております。
  17. 濱本一夫

    濱本政府委員 今の御質問の点で私どもちょっとお断わりを申し上げなければなりませんが、従来お手元にお届けいたしておりました今御引用の統計表に、最近になって誤りがあることを裁判所の方から指摘されまして、実はきのうおそくなって行政事件訴訟件数表正誤表を作りましてお手元に届けましたので、あるいは今御引用のもの、その私どもが誤りとして訂正したものを引用されますと、少し数字が違って参ります。
  18. 上村千一郎

    上村委員 それでは今私の方が正しいのを拝見いたしまして直します。
  19. 仁分百合人

    仁分最高裁判所長官代理者 まずこの審理期間通常訴訟の場合に比べて非常に長い、これは統計に現われておる通りでございます。大体この行政事件の一件当たりの平均審理期間は、地裁の第一審におきまして通常訴訟の約二倍に当たるというようなことになっておるのでございます。統計上このような数字が現われますのは、結局行政事件訴訟の特徴によるものではないかというふうに考えるのでございます、と申しますのは、まずこの行政事件は、非常な困難な憲法上その他の法律上の問題を含んでおるケースが多いということでございます。それからまた租税事件などを考えてみますと、非常に計算が複雑なものがある。それから農地関係、それから選挙事件といったような、非常に多数の証人調べをしなければならぬ事件、あるいは検証のために日時を要する事件というようなケースがきわめて大きい数字を占めておるということと、それから欠席判決というものがまずないといってよるしいというようなところが、原因になっておるかと考えるのでございます。  それから控訴率上告率の点でございますが、これも御指摘の通り、確かに通常訴訟事件の場合に比べまして多い。数字にいたしますと大体二倍をこえるような形になっております。この原因といたしましては、結局、あくまで上告審の判断を求めようという傾向行政事件については強いのではないか。それはどこに由来するかということを私ども考えてみまするのに、行政事件は、社会的な影響の大きい事件が多い関係で、争いがきわめて深刻であるということも言えるのではないか。あるいは憲法その他法律上非常に困難な問題を含んでおるということも言えるのではないか。さらに行政法規に関する解釈と申しますものが、一般私法の解釈の場合とは多少ニュアンスが違いまして、固定的でない。そういった関係から、当事者としてはあくまで最終の判断を求めたいという気持を持っておる。そういう点に由来するのではないかというふうに考えておるわけであります。
  20. 上村千一郎

    上村委員 私も、大体そういうような点であろうかと思うわけでありまして、行政事件の争いは、この訴訟形態は、裁判所に判断を求める場合におきましては、それが次第に個人というよりも大きく影響力を持つような事件、また法解釈というものが多方面に影響力を持つような事件だろう、こう思うわけです。それだけ複雑であるし、また最後まで争うということになると思います。真に国民行政事件においての権利伸張あるいは保護、救済という問題は、むしろ、先ほどお見えにならなかった際ですが、実態としましては、一回出して取り下げてしまっておる、取り下げで終了しておる場合が非常に多い。何かそういういわば普通事件民事事件の場合の調停だとか、和解だとか、そういうような段階において実際上処理をされておるんじゃなかろうかというふうな感じを持つと同時に、むしろ国民の真の権利伸張あるいは救済という点は、行政事件の特性にかんがみて、そういう部面に力を入れてくる必要があるのではなかろうか。そういう面からすれば、むしろ現在の家庭裁判所あるいは交通裁判所というふうな特殊な、司法裁判所の系列にはもちろん入っておるわけですけれども、その事件特質に応じたような処理手続というふうなものが考えられる必要があるのではなかろうか、こういうふうに思うわけですけれども、先ほど法務省にはお尋ねをいたしましたが、裁判所とされましては、この点についてはどんなようなお考えをお持ちでございましょうか、この際お尋ねをいたしておきたいと思います。
  21. 仁分百合人

    仁分最高裁判所長官代理者 この問題は大へんむずかしい問題でございますが、行政事件につきましては、特別な法律的な知識のほかに、また場合によれば特殊な知識が要るということが考えられなければならないかと思うのでございます。憲法が施行されましてから、行政裁判の実績を顧みますと同時に、裁判機構全体の上から見まして、はたして特別な裁判所というものを設けるのが適当であるかどうかということは、早急には結論が出せない、出し得ないように考えております。ただ、臨時司法制度調査会あたりが発足いたすということになりますと、あるいはこういった問題も御審議いただけるのじゃないか。それから、私どもといたしましても、特に欧米における行政事件処理について裁判官が研究に参りまして、ごく最近帰ったばかりで、まだ報告も伺っておりませんが、そういった御意見、報告あたりを伺いまして、われわれも検討して参りたいというふうに考えております。
  22. 上村千一郎

    上村委員 私がなぜそういう点をお尋ねするかといいますと、訴願前置主義というものを原則的に取りやめる、こういうわけですね。これはなるほど御説明にもなりますし、いずれ御提出される予定の行政不服審査法、こういうものとにらみ合わせて考えないと、私の質問もきわめてこまかい点に入れませんものでありますから、実はきょうは概略的なお尋ねをいたしておるわけであります。  実は、なるほど訴願前置主義というものは、もちろん訴願法自体がきわめて古い、また民主国家といたしましてはきわめて古過ぎるような理論体系になっている、こういうふうに思いますから、これは何とかメスを入れなければならない。こう思うが、ある意味においては早期に解決していくということにはなりはしないかというねらいですね、こういうことは行政不服審査法の方にその要請は取り入れられておるのではなかろうかと思うので、この分についてはこの程度で質問を打ち切っておきたいと思います。  次に、少しくこまかい点を一点だけお尋ねいたしておきたいと思いますが、行政事件訴訟法の第三条第五項によりますと、不作為の違法確認の訴え規定がございます。この不作為の違法確認の訴えの場合、これに関連しまして、この不作為の違法を確認するに際しては、これは判決をする際に、作為義務を前提といたしておるのじゃないかと思います。そうすると給付判決、給付の訴えというものは、今度の行政事件訴訟法としましては、一体どういうふうに考えられておるか。あるいは不作為の違法確認の訴えで、ある一定の不作為の行為の違法が確認されたといたしました際に、それは行政庁に対しまして一定の作為義務というものは確認するけれども、一定の給付行為を命ずるような関係は一体どうなのか。これは本案の作成についてもきわめて議論の多かったところであろうと思いますが、実際上ここで問題がきわめて起きてくるだろうと私は思うのであります。この点につきまして一つ説明を賜わりたいと思うわけであります。不作為の違法確認の訴えというのが第三条第五項にございます。これが不作為の違法確認が判決で確認されたといたします。その場合に、行政庁に対しまして、不作為の違法なんでありますから、作為をするということを前提としておるだろう、だからその作為の義務だけを確認する、要するにその行政庁に対する拘束力ですね、どの範囲まで拘束するのか、あるいは給付行為までもやらせる意味なのか。これは訴訟として現実にきわめて起きてくるところであろうし、問題はきわめて多くなってくるであろう。その際に、あらためて給付の訴訟を起こさなければならないのか、あるいはその給付の訴訟は、この行政事件訴訟法の体系としてはどこに所属すべきものか、ということだけをちょっとお尋ねいたしておきたいと思います。
  23. 濱本一夫

    濱本政府委員 私どもがこの法案を作成する経過におきましても、おっしゃるような給付判決、つまり裁判所処分行政庁にかわって処分内容までを主文に盛ったいわゆる給付判決をするということは、行政と司法との権限の交渉として、裁判所はそういうことはできないのであるというわが国における支配的な意見、従来の裁判例、それに従ってこの不作為の違法確認の訴訟というものを考えておりますので、御指摘の第三条第五項によります判決におきましては、そういう作為義務というものは主文には現われてこない。あくまで主文では、作為をしないことが、つまり何らの処分もしないことが違法であるということを宣言するにとどまるべきものである、こういうことを考えておるのでありまして、あくまで判決ではその作為義務の内容を主文に盛るということはないのだ、こういう建前をとっておるのであります。でありますから、理由におきましては、行政庁は詳細にその際になすべき作為の内容までも触れることはあり得ても、主文においてはそういうことはできないのだという前提に立っております。従いまして、その拘束力として、行政庁は、あるいはその判決の理由に盛られておりますような理論あるいは内容に従った処分をする、しなければならないという確定判決からの拘束力を受けるのでありますが、あくまでも裁判所行政庁にかわって、その作為義務の内容を主文においてうたうということはないのだという前提に立って、この不作為の違法確認の訴訟を考えておるのであります。あるいは将来において、従来の判例が変えられまして、そういうこともできるのだというふうな判例でもできれば格別でありますが、従来の支配的なわが国の学説並びに従来の最高裁の判例、いずれもその点では一致しておるように考えております。
  24. 上村千一郎

    上村委員 そうすると、下作為の違法確認を訴える、それでは普通の場合目的を達しませんね。達する場合もあるだろうけれども、達しない場合もあるので、あらためて、その作為行為を求める。要するに不作為の違法は確認されたけれども、作為行為を全然しなかった。行政庁がしなかったということになれば違法である。違法であるという判決をもらって、やってくれなければ国民権利は少しも救済されない、そういう内容のものもある。不作為の違法確認の訴えによって、行政庁がそれは作為しなければならないと感じてやってくれればそれに越したことはないが、やらぬ場合、要するに、不作為の違法確認の判決が下ったけれども、依然として行政庁はやらぬという場合は、どうして国民権利救済をしますか。こういう点をお尋ねいたしておるわけであります。
  25. 濱本一夫

    濱本政府委員 私ども、今申し上げましたように、あくまで裁判所行政庁にかわって処分内容を主文にうたうことはできないという建前をとっておりますので、不作為の違法を宣言した判決が確定したにもかかわらず、なおかつ行政庁がその拘束力に従わない。従って、拘束力に従った処分をしないと言う忌まわしい事態がかりに起こったとしますれば、法的な救済は国家賠償法による賠償の請求ということにならざるを得ないと私ども考えております。
  26. 上村千一郎

    上村委員 そうすると、たとえば行為を行政庁が一定基準によって認可するという場合に、基準が充足された、すべきものをしない。一定の事実を認定されたが、行為は必ずしもあらぬという状態になった場合に、その条件は充足されておるけれども行政庁処分しない、そういろときにもちろん不作為の違法の確認の訴えを起こせるだろう。その場合に、その不作為が違法であるという確認は出ていても、一定の処分行為が行なわれなければ国民としては権利救済にならない。そうすると、結局その処分行為をすべしその内容はたくさんあるでしょうが、せよという訴訟は起こせないということになるのだろうか、お尋ねをしておきたい。
  27. 濱本一夫

    濱本政府委員 お答えが不十分であって、御理解いただけなかったかと思うのでありますが、私どもは、実はそういった判決はできないという前提に立っておるのでありまして、そういった違法を宣言した判決が法的に確定した、訴訟的に確定したにもかかわらず、なおかつ当該行政庁が受けるべき拘束力に従わないといいます場合には、やはり国家賠償請求によってしか救済の実があげ得ない、これもやむを得ないことじゃないかと実は思っております。ただし、その国家賠償請求の民事訴訟におきましては、不作為が違法であるということは既判力で確定しておるわけでありますから、そこは審理を要しなくて、それによって受ける損害並びに損害の額というものだけが審理の対象になるので、損害賠償訴訟においては若干の便益といいますか、前の確定判決に効力が及んでくるということになると思うのであります。
  28. 上村千一郎

    上村委員 その問題については、詳細な問題になるし、学説も分かれておるし、また外国の事例なども分かれておりますし、それだけ言い切れるかどうかは重大問題だと思いますけれども、これはいずれあとから詳細に諸外国の事例あるいはいろいろなものについて申し上げて御質問するといたします。  今の立論の根拠に大きく流れておるものは、司法は行政に介入するというわけにはいかないというふうにものの考え方として思われる。そうすると、この行政事件訴訟法案の二十七条は、内閣総理大臣が裁判所に対して異議を申し立てるということになっている。この点については行政権の方が司法権に優先しておる。これは非常にしぼってはおりますけれども、優先しておる。ですが、これは今の原則から考えられてどういうふうに御説明をされるのか、その点を一つ説明をしていただきたい。もちろん、この点も大きく論争の的になっておる点であろうと思いますけれどもお尋ねをしておきたい。
  29. 濱本一夫

    濱本政府委員 立案の経過におきましても、あるいはまた従来の特例法上におきましても、内閣総理大臣の異議というものが今御指摘のような観点から非常な議論の対象とされたことは事実であります。私どもといたしましては、立案の経過を通じまして、わが国における支配的な学説並びに従来の最高裁判所及び下級審の支配的な資例に従いまして、裁判所による行政処分の執行停止ということは、きわめて行政処分的な応急的な措置を裁判所に認めたものでありまして、それ自身固有の司法の働きとは考えていないのでありまして、それに対して行政権が内閣総理大臣の異議という形で作用を及ぼしても、実際には好ましくないことかもしれませんけれども、理論上は行政による司法への介入にはならないというように実は考えておるのであります。もちろん、実際から言いますと、でき得ればかようなものは存置したくないという希望が実は多くありますし、私どももそういった希望に十分の理解を示したつもりであります。そのことは、二十七条におきまして、あらゆる面で、遠慮しながらと申しますか、特殊の場合にだけしか使ってはいけない、また、使った場合にはかような政治的責任を明らかにしなければならないというふうな規定を盛ったところに、私どもの苦心が現われていると思うのであります。ともあれ、理論的に言いますと、少なくともわが国の支配的学説並びに支配的な判例は、従来これは行政の司法に対する介入と見るべきものではないということになっておると私ども理解しておるのであります。
  30. 上村千一郎

    上村委員 いろいろと御説明を承っておりますればよくわかって参るわけですが、冒頭に申し上げましたように、この行政事件訴訟法案は、いろいろ論点はございますけれども、大きな前進だろうと思うのです。現行特例法と比べますと、はるかに大きな前進であると思う。けれどもが、あまりにもむずかしい。また、手続法自体がなかなか難解なものである。しかし、行政事件の特性から参りますと、また提案の理由を拝見いたしましても、国民権利伸張あるいは失なわれた権利救済というような点に大きくこれは関係があるし、また、それを主眼としているわけです。民主国家としましては、これは当然なことであります。そうしますれば、この行政事件訴訟法が成立をいたした場合を仮定いたしても、これはどうして国民に対して周知徹底をはかっていくか、国民がどういうふうにこれを手っとり早く理解し、また利用し得るか、要するに周知の方法について何か腹案があるのか、あるいはこれについて予算措置はどういうふうにされているのか、こういう点につきましてお尋ねをいたしておきたいと思います。
  31. 濱本一夫

    濱本政府委員 お説のように、本法案の領分なり概念なりあるいは構成全般にわたりまして、私どもの力の及ばぬところが現われているかと思うのであります。言いかえれば難解であるということ。それは一面には、訴訟手続というものがもともとそういった性質のものであるということにも基因するのでありますが、主として私どもの力の至らなかった結果であろう。その点私ども非常にじくじたるものがあるのであります。従いまして、これをおっしゃるような観点から、取り扱う側において周知徹底をはかるということもきわめて必要であろうかと思うのでございまして、予算要求をいたしました結果、わずかではありますが、認められております。まずこれを取り扱います私どもの方の内部機構における周知徹底方法といたしまして、三十七年度の予算におきまして、中央で、一応各法務局並びに地方法務局の係官を中央に呼び集めまして、二日間にわたって詳しく説明をして、取り扱う上に過誤なからしめたいと考えておるのでありまして、その費用といたしまして法務局旅費に八十一万七千円の旅費、それから中央本省の方におきまして、会議費といたしまして合わせて二十四万八千円、これだけが、きわめてわずかではありますが認められております。また民間側には、周知徹底の方法といたしまして別段の予算を獲得することは、これはまあ慣例から言いましても、あるいは私どもの努力の至らなんだ点かもしれませんけれども、予算的には取れませんでしたけれども、今年の七、八月の候を期しまして官報に、行政訴訟制度の改正についてというものを資料版に掲載をする。それからまたやはりそのころには、本法は十月一日から施行を予定しておりますので、そのころにラジオ放送の「政府の窓」を通じて周知徹底をはかるようにいたしたい、こういう広報番組を考慮いたしております。また、裁判所の方でどのように予算を獲得せられますか、私ども承知しておりませんので、ちょっとその点は……。
  32. 上村千一郎

    上村委員 大体私は概括的な点についてのお尋ねはこの程度で終わりたいと思いますが、先ほど冒頭で申し上げましたように、参考人の方々の御意見なり、その他いろいろ具体的な問題につきましては、お聞きした上で一つ質問をする機会をお与え下さることをお願いいたしたいと思います。たとえば実際問題としまして、司法の専門家としましても、行政事件をどこへ提訴するか、相手方の当事者を那辺にするかということは、行政機構が複雑になればなるほどわからないのであります。弁護士を職とする専門の方としましても、どこにしたらいいのかというので迷うのであります。ましてや一般国民としましては、お役所というのはどこもかもみな同じようにお役所として見る。しかも、なおかつこれが提訴期間を六カ月を三カ月にしておるというようないろいろな点など考えますと、これはきわめて、国民ほんとうに利用しやすいように十分準備をする必要があるのではなかろうか。また、いい法律はよくこれを徹底させる必要があるのではなかろうかというような、諸般の問題点があるのではないかと思うわけでありますが、本日はこの程度で質問を打ち切らしていただきたいと思います。      ————◇—————
  33. 河本敏夫

    河本委員長 次に、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑の通告がありますのでこれを許します。松井誠君。
  34. 松井誠

    ○松井(誠)委員 私は、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案について少しばかりお伺いをいたしたいと思うのです。これは直接予算に関係することでありますので、最初に一点だけ裁判所の予算全体について確かめておきたいと思うのですが、ただいま私の手元に最高裁判所から出しておる裁判所時報の一番新しい号なんですが、それに裁判所予算が昭和二十三年から昭和三十七年まで国の予算に対してどれくらいの割合を占めておるかという、そういう統計が出ておるわけであります。それを見ますと、大体昭和三十、三十一、三十二と、その辺を頂点にいたしまして、裁判所の予算の国の全体の予算の中に占める割合というものはだんだん低下をして参ってきております。そして三十七年度はとうとう〇・八%を割って、〇・七%台に落ち込んでおるわけでありますけれども、この数字そのものはもちろん信頼のできる数字だと思いますけれども、間違いないですね。
  35. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 裁判所時報の二月一日号の二十六ページ、二十四ページにかけてあります予算の比較表は、お尋ね通り間違いございません。
  36. 松井誠

    ○松井(誠)委員 三十、三十一、三十二とずっと上がって参りまして、それを山にして下り坂になったというこの原因はいろいろあるかもしれませんけれども裁判所当局は、大体どういうことをその原因としてお考えになっておられるか、一言伺いたい。
  37. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 事務費の関係の予算は、なかなか増額ということが困難でございまして、数字の上ではこういうふうな経過を通っておりますけれども裁判所の事務を遂行していく上においての費用というものは、実質上それほど大きな低減はないというふうに解釈いたしております。
  38. 松井誠

    ○松井(誠)委員 私は、いずれ予算全体の問題についてはあらためてお伺いをするときがあると思いますので、詳しくは触れませんけれども、今のような、裁判所の経費というものは大体がコンスタントなんだ、だから一般の規模がふえれば、それだけ比率が減るのだという考え方は、必ずしも正しくないのじゃないかという気がするわけです。それでは何でもかんでも悪いととは高度成長のおかげだというふうに言うつもりはございませんけれども、しかし、具体的にあとでお伺いをいたしますけれども、やはり裁判所の予算の比率が減ってきたということは、犯人は高度成長だということをどうしても言いたいと思う。池田総理は、農業の生産性がほかの産業の生産性にだんだんおくれをとっていくのは、農業の生産性が上がらないからじゃなくて、ほかの産業の生産性の方が高いのだという、そういう言い方をしておるわけです。しかし、われわれから言わせれば逆で、そういう高い生産性を上げておるというのは、実は農業の低い生産性というものを犠牲にしておるのだ、そういうことを考えるわけなんですけれども、それと同じように、この裁判所の予算というものも、少なくともほかのいろいろな行政部門、あるいは手厚く保護されておるいろいろな大企業に対する施策、そういうものと同じような形で裁判所の予算というものが手当されておって、そうしてその上に全体の規模が大きくなるというならば、今のお答えはあるいは当たっておるかもしれませんけれども、そうじゃなくて、やはりどうしても裁判所の予算の中で、ほんとうにのどから手が出るほどほしいそういう予算というものを実は犠牲にして、ほかのところに回してておるのじゃないか。そういう意味で、この予算の比率の低下というものは、私はやっぱり高度成長の被害だということを考えざるを得ない。具体的にそれがなぜそうかということを、私はこのあとの質問で確かめていきたいと実は思うのです。  そこで私が最初にお伺いをいたしたいのは、先ほど、大体裁判所の経費というものは一応あまりふえないのだということを申しましたけれども、御承知のように、最近少年犯罪というものが異常な膨張を示しておるわけでありますけれども、この参考資料としていただいた中で、一番末尾に少年保護事件統計が出ておりますけれども、これは昭和三十五年度は三十四年度から比べると格段の膨張ぶりを示しております。三十六年度はまだ正確な数字はあるいはわからないかもしれませんけれども、大体の概数程度がもしおわかりでしたら一つついでに教えていただきたい。
  39. 市川四郎

    ○市川最高裁判所長官代理者 お手元に差し上げてありますのは三十五年の統計でございますが、三十六年度につきましては、まだ正確な統計ができておりませんので、お手元に差し上げることができないことは大へん遺憾に存じております。ただ、私どもの方で概略考えておりますことは、三十五年度に対してかなりの増加が見込まれているのではないか、こう思っております。たとえて申しますと、道路交通事件については約二十万、それから通常事件においても約二万件程度の増加がなされておるのではないか、こう考えております。
  40. 松井誠

    ○松井(誠)委員 この資料によりますと、昭和三十四年度に対しまして、全国の総計で昭和三十五年度は少年保護事件が、大体ですけれども約三割増になっていると思うのですが、こういう増勢の大体の傾向というものは、やはりそういうグラフ、同じような傾向、同じような、たとえばやっぱり三、四〇%くらいの増勢、増加というように考えて大体間違いございませんか。
  41. 市川四郎

    ○市川最高裁判所長官代理者 大体お話のように、従来の傾向がここ一、二年の間は続くと考えております。ただ昭和四十年をピークといたしまして、家庭裁判所の対象になる少年の層が絶対数と申しますか、それがかなり増加することが見込まれておりますので、今後昭和四十年ごろまでの間は現在よりもさらに一そうの増加の傾向を示すのではないか、こう私どもは見ております。
  42. 松井誠

    ○松井(誠)委員 この同じ資料で、たとえば家事審判の事件だとか、家事調停の事件というのは、大体昭和三十三年、四年、五年と横ばい程度になっておりますけれども、少年保護事件は、今言ったように異常な増加を示しておるわけです。こういう少年保護事件裁判所の中で取り扱っておるのは、家庭裁判所の調査官が主としてやっておられるわけなんですけれども、その家庭裁判所の調査官の人員というものは、昭和三十三年、四年、五年、大体どういう数字になっておりますか。
  43. 市川四郎

    ○市川最高裁判所長官代理者 調査官の増員につきましては、従来から調査官が家庭裁判所の家事事件あるいは少年事件において占める地位、重要性、そういう点から考慮いたしまして、増員を要求して参っております。ただ現実に増員が認められましたのは昭和三十四年度から認めてもらったような次第でございまして、三十四年度には調査官が二十名、それから官補から官への切りかえが三十名、それから昭和三十五年度におきまして、調査官が二十名、三十六年度、これは予算の要求の年度ですから、ほんとうに増加いたしますのは一年ずれることになりますが、これは御了承いただきたいと思うのです。ですから三十六年と申しますと、三十七年度の増員ということになる。これは調査官が三十名、それから調査官補から官への切りかえが六十六名大体見込まれております。そういう状態でございます。
  44. 松井誠

    ○松井(誠)委員 調査官の定員は、この資料によりますと一大体九百名くらいということになるわけですね。そうしますと、今度三十七年度約九十六名ふえて、一割くらいふえるということになるわけですが、三十三年度の調査官の定員数と、三十六年度あるいは七年度の定員数を比べてみますと、この少年保護事件の激増している中で、一体これが事件処理について遺憾なきを期するという、そういう数字であり得るのかどうか。これは両方の数字を比べてみればわかると思いますけれども、念のために一言お聞きしておきます。
  45. 市川四郎

    ○市川最高裁判所長官代理者 私どもといたしましても、今の事件の増加に対比いたしまして、調査官の増員が決して満足すべきものであるとは考えておりません。
  46. 松井誠

    ○松井(誠)委員 今度の予算で、調査官の増員は、この資料によりますと、大体七千数百万の要求に対して、千二百万何がしという予算しか認められなかった。大体六分の一に削られたというように私は読めるのですけれども、これはその通りなんですか。
  47. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 調査官の増員の要求につきましては、裁判所が当初要求いたしました数よりもかなり下回った数が増員としては見込まれたわけでございます。すなわち、来年度は三十名の増員になるわけでございます。そのほかに、これは定員の増とは直接関係はないのでございますけれども、調査官補から調査官に組みかえる人数が六十六名認められたわけでございます。従いまして、実質的に合計九十九名、約百名の増員ということになるわけでございます。
  48. 松井誠

    ○松井(誠)委員 私のお伺いしたのは、少年事件処理の適正化ということで、予算要求額が七千六百九十一万八千円ということになっておりますので、これは全部調査官の人件費増という形で御要求になったのか。あるいはさらにお伺いしますけれども、それじゃ調査官の増員の要求のときには、具体的に当初はどれほどお出しになったかということをお伺いしたい。
  49. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 最高裁判所で、調査官の増員として当初要求いたしました数は百二十四名でございます。
  50. 松井誠

    ○松井(誠)委員 七千六百万あまりの予算の要求額というのは、百二十四名の人件費だけではないわけですか。
  51. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 ただいまお示しになりました数字は人件費でございます。
  52. 松井誠

    ○松井(誠)委員 そうしますと、三十名増員で千二百万というと、一人の人件費が大体四十万になりますが、百二十四名で七千六百万というと、数字としては、一人当たりの人件費としては相当多いように思いますが、これは間違いないですか。
  53. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 その詳細は刑事局長の方から御説明申し上げた方が正確な数字が出ると思うのでありますが、ただいまのところ手元に資料の十分なものがございませんので、なおよく調べた上でお答え申し上げたいと思います。
  54. 松井誠

    ○松井(誠)委員 百二十四名の要求をなさって、新しく増員は三十名、合計九十六名ですか、ということで、これはしかし決して十分な数字ではないということを今言われましたけれども、私は、そういう少年保護事件というものが急増をしておる典型的な例である東京の場合、具体的に東京の家庭裁判所の調査官がどういう職場の中に置かれておるかということ、そういうことを特にお伺いをしたいのです。それもこのあとすぐお伺いをいたしますけれども、今非常に問題になっておる交通事故の激増、これも最近非常に目ざましい激増ぶりを示しておるわけであります。従って、そういうものはやはり裁判所の肩の上にかかってくるわけです。ですから、裁判所の経費とかそういうものは、大体いつもコンスタントというようなことでは決して律しられないということが、少なくともそういう保護事件の激増あるいは交通事故の激増ということからうかがい知られると思うのですが、この家庭裁判所の中の調査官が、少年の交通違反事件、道交法違反の事件について、具体的にどういう処置の状況であるのかということについてお伺いをいたしたいと思います。先ほど申し上げましたこの裁判所時報の一番おしまいに、ちょうど少年の道交法違反事件の数とその処理状況のグラフが出ておりまして、これももちろん信頼すべき統計に違いないと思うのですけれども、この中で、たとえば東京の場合に、未済事件の比率というものが、昭和三十一年を一〇〇とすると、三十五年には約二十倍くらいに激増をしておる。こういうように未済事件の激増そのものも私は決してゆるがせにできない問題だと思うのですけれども、問題は、それよりも実質的に具体的にどういう処理の状況をされておるのかということをお伺いをいたしたいのです。  具体的にお伺いをいたしますけれども、たとえば家庭裁判所で、交通違反の少年が送られてくる。そのときにいろいろな処置、いろいろな処分をされるわけですけれども、そのもののそういう具体的な取り扱いのパーセンテージですが、約何割を不開始にする、約何割を検察官に送る、そういう具体的な数字が、東京の家庭裁判所に限ってでけっこうですけれども資料がありましたら一つお伺いしたい。
  55. 市川四郎

    ○市川最高裁判所長官代理者 東京の家庭裁判所につきまして、これはやはり三十五年の資料しかございませんので、三十五年の資料に基づいて申し上げますが、道路交通事件処理総数が、このときには東京では八万八千六百件余りになっておりますが、そのうち検察官送致をいたしましたのが、パーセンテージにいたしまして一〇・三%、件数にいたしまして約九千件でございます。それから不処分に付しました事件が、総数が一万四千八百九十八件、パーセンテージは二八・八%ということになっております。それから不開始処分にいたしました事件が、件数にいたしまして六万三千六百五十八件、パーセンテージにいたしまして七一・八%、こういうことになっております。
  56. 松井誠

    ○松井(誠)委員 事務の処理関係で私が特にお伺いをしたいのは、この中で、たとえば調査官が具体的にその少年に面接をして、調査の上いろいろな処分の決定をされる率と、あるいはそういうものを一切しないで、書面審理できわめて形式的に機械的に処理をされる率と、そういう区分けがもしおありでしたら一つ……。
  57. 市川四郎

    ○市川最高裁判所長官代理者 東京につきましても、お話しになりました書面審理で済ましておるものと、それから調査官が面接して処理しておるものとの比率は、私の手元でまだ正確に把握いたしておりません。ただ、こういうことだけはぜひ御考慮いただきたいと思います。今のお話の比率で申しましても、不開始処分が七一%もある。こういう点について考えてみますと、通常の成人の事件で申しますと、警察から検察庁に行きまして、検察庁でふるいにかけて、そのふるいにかけられたものが起訴によって裁判所に行く、こういう関係になりますが、これが家庭裁判所の場合には、警察からいきなり家庭裁判所に持ち込まれるものもありますし、また警察から検察庁を通して家庭裁判所に来るものもありますが、家庭裁判所がそれをどういう処分にするかということを振り分けるわけでございますので、非常に軽微なものも、かなり重要なものも、何もかもすべて家庭裁判所に来る、こういう関係になります。従いまして、警察で微罪であるからということで放免され、あるいは検察庁で軽微であるからということで不起訴処分になる、そういうものもかなり家庭裁判所で取り扱っておりますので、そういう程度のものについては、場合によっては、やはり書面審理で済まされるものもあるかと私は考えておるのでございます。
  58. 松井誠

    ○松井(誠)委員 われわれの調査ですと、昭和三十六年に面接をしないで書面でいきなり検察官に送致するというものが約一割九分くらい、それから書面で不開始の決定をするものが約六割六分くらい、残りの一割五分内外というものだけが調査官が直接に面接をして、その結果いろいろな処分をする。そういう比率になっておるわけでありますけれども、私は、その処分の刑が重いとか軽いとかいうことを言うのではなくて、こういう形で八割五分というものがいわば機械的に処理をされておるということ、しかしこれは処理をされざるを得ないという人員の配置だということを申し上げたいのです。これは最近の交通事故の激増の中で、特に少年の暴走犯というものが非常にきわだって多くなっております。そういうものが、一体どうしてその傾向というものがやまないのかという一つの原因というものも、私はこういうところにあるのではないかと思うのです。こういう形で八割五分については書面審理でやるということになりますと、おそらくは具体的な個々の実情に合わない処分の仕方、そういうものも必ずや含まれているに違いないと思う。面接をやって、いろいろな事情を聞いて、そしてその事情に応じた具体的な適切な措置をとるならば、あるいは再犯を防止し得るかもしれないような、そういう事案が見のがされて、そしてそれが暴走事件となって結果してくるということになっておるのじゃないか。そういう実情というものは、おそらくこの職場に働いておる方々をお呼びしていただいて、そして具体的な実情をお聞きになれば、私ははっきりすると思いますけれども、この東京の家庭裁判所では、合計たった十五名ですかの調査官が、交通係の調査官として活躍をして、年間八万から十万という、この膨大な数字の事件処理をしておるわけであります。これは必ずしも十分な調査官の数ではないと思う。そういうなまやさしいことではなくて、これは少なくとも少年保護事件、そしてその中で非常に大きな要素を占めておる少年の交通事故の取り扱いとしては、私はむしろ致命的な問題ではないかと思う。そういうことが、先ほど申し上げましたような高度成長の被害者だというのは、たとえばこういうところにあると考えざるを得ないわけです。  その次に、ちょうどその交通事故の問題になりましたので続けてお伺いをいたしたいと思いますけれども、最近こういう交通事故の激増というものが、交通の麻痺状態とともに、非常に大きい問題になってきておるわけです。その中で、先ほど言いましたように、少年の占める比重というものがだんだん大きくなってきておる現在、交通事件については特別な刑事手続がきめられておるわけでありますけれども、その特別な刑事手続を行なう、いわゆる交通裁判所というものが、今全国でどれくらいあるわけですか。
  59. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 東京都と大阪とに、交通裁判所が二カ所あるわけでございます。
  60. 松井誠

    ○松井(誠)委員 三十七年度は、その交通裁判所は増設される予定でございますか。
  61. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 名古屋に一カ所増設される予定を立てております。
  62. 松井誠

    ○松井(誠)委員 それは、当初の裁判所の方の御要求では、現在の東京、大阪の二カ所のほかに、名古屋に一カ所という要求であったのか。あるいはもっと多かったのか。
  63. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 お尋ねの件につきましては、御承知の墨田簡裁が東京にございますが、東京の分につきましてもう一カ所増設したい、こういう要望をいたしたわけでございますが、敷地の関係で、その点は実現に至らなかったわけでございます。なお横浜の方は、御承知と思いますが、交通裁判所を今年度新設できる見通しがついたのではないか、かように思っております。
  64. 松井誠

    ○松井(誠)委員 その交通事件の全国的な数字、それも概数でけっこうですが、たとえば昭和三十四年くらいから、五、六と、どんな増勢の傾向にありますか。
  65. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 大体の数字を申し上げますと、三十二年度をとりますと百四十一万三千五百一件、これは終局人員調べになっておりますが、御承知のように、終局人員とそれから新受人員は大体一致いたしますので、さよう御承知願いたいと思います。三十二年度が百四十二万七千七十一件、三十四年度が百四十二万四千四百七十二件、三十五年度が百八十五万三千五百九十六、昨年の三十六年度が二百十九万九千五百五十二、かようになっております。
  66. 松井誠

    ○松井(誠)委員 これもおそらく、その典型的な例が東京の墨田簡裁になると思いますけれども交通裁判所である墨田の簡易裁判所の取り扱い件数はおわかりでしょうか。
  67. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 墨田につきましては、ただいまと同年度をとりますと、三十二年度が二十二万五千三百五十五、三十三年度が十七万六百四、三十四年度が二十四万三千六百七十二、三十五年度が三十五万三千三百十六、昨年の三十六年度が三十五万六千四百九十六、かような数字になっております。
  68. 松井誠

    ○松井(誠)委員 ついでに、この墨田簡裁の裁判官の数、三十二年からどういう状況か、お知らせいただきたい。
  69. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 ただいま私の手元にございますのが、昨年の十二月現在の分でございますので、一応それをお答えいたします。裁判官が名、書記官が六名、書記官補が四八名、事務官が十五名、雇が四名、経理が三名、タイピストが二名、かようになっております。
  70. 松井誠

    ○松井(誠)委員 三十二年ごろから……。
  71. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 その資料は、今私の手元にございませんので……。
  72. 松井誠

    ○松井(誠)委員 それで、私大体計算をしてみますと、昭和三十六年三十五万六千余り、かりに三十六万といたしますと、一カ月に三万件ということになり、一日に大体一千件ということになる。その一千件を八人の裁判官が毎日、これは日曜日を入れての割り算ですから、もっと多いに違いない。八人の裁判官が、おそらく一千数百件に上る事件を毎日やっている。そうしますと、一人の裁判官は一日に百数十件ということになるわけであります。この百数十件というものは、一体物理的に考えてみましても、機械でない限り、私はほんとう裁判事務の処理という形ではできないのじゃないかと思いますけれども、そういう実情について、一つおわかりでしたらお知らせ願いたい。
  73. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 一般裁判官一名が一日に処理し得る能力というような点から考えてみますと、略式手続のみを担当した場合が三百ないし四百、御承知の即決手続、これを担当した場合が大体八十ないし百件、こういうような数字に従来なっておるわけでございます。先ほど申し上げました昨年の十二月、これは二十一日現在ということになっておりますが、墨田におきまして即決の手続をやっておりました裁判官が大体四・五名、一人当たり大体八十九件、略式が三人、一人当たりが三百四十七件、かような数字になっておるわけでございます。
  74. 松井誠

    ○松井(誠)委員 略式が一日に三百件ないし四百件、これはどの程度の証拠書類がそろえら——略式ですから、これはもちろんただその通りに署名をして判こを押すというだけになるわけでしょうけれども、それにしても、これではもう略式が相当であるか不相当であるかというような判断をし得る時間的な余裕というものが、一体この三百ないし四百の処理の間にできるのかということも問題だと思います。それからこの即決裁判八十件ないし百件を一日にやるといたしますと、大体事実上九十件ぐらいはやっておるということになるわけですけれども、九十件を一日にやるということになりますと、これは朝っぱらからそういう即決ということでいきなり判事の前に出るわけじゃなくて、おそらく検事のところを通ってから来るわけですから、裁判所の判事の勤務時間が一日何時間か知りませんけれども、ともかく一分で一件だとか一分で二件だとか、そういうことにならざるを得ないのじゃないでしょうか。即決裁判にしても、少なくとも人定尋問をやって、黙秘権を知らせて、そして裁判の判決は告知をしなければならぬという、そういうぎりぎり最小の限度の時間を見ましても、判事の一日の勤務時間を九十件で割って、これが一体人間としてできるという数字になるでございましょうか。この具体的な実態裁判所側では把握をされておるかどうか、あわせてお伺いしたいと思います。
  75. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 ただいまの御質問でございますが、御指摘のように、あそこへ参りました被告人は、大体検察庁を通りまして裁判所へ出てくるわけでございますが、裁判所といたしまして、昨年のちょうど夏ごろでございますが、今御指摘のような一件どのくらいの時間をかけて即決公判をやっておるかということを調査したことがございます。この数は平均でございますから、長短、多少伸び縮みはございますが、即決を当時は平均いたしますと大体四分間ということでやっておったわけでございます。御指摘のように、一人々々について人定質問はいたしますが、その他、即決裁判の手続にするについて異議がないどうかというようなことは、一度に十人ばかり法廷に入れます関係上、一括して告知をする。こういうような方法をとっておりますので、いわゆる前置きの質問はさほど時間はとらないわけでございます。  なお、これももちろん御承知とは思いますが、即決公判の事件は、いずれも事実については争いのない事件が回って参ります。それからまた交通事件は、内容も大体定型化されております関係上、その程度の時間をかけますれば、決して粗雑に流れるということはないのじゃないか、こういうように考えておるわけでございます。現に即決公判に回りました事件につきまして、裁判官が検察官の求刑の金額とは違った金額を言い渡す、さらにまた、即決公判には不適当であるということで正式裁判の方へ回すというふうな例も、決して絶無ではないわけでございます。私の手元に即決、略式双方を含めてのさような数字が若干ありますので、即決だけについてどのくらいというような数字は今申し上げかねますが、判事としても、その程度の審査は十分いたしておる、かように考えておるわけでございます。
  76. 松井誠

    ○松井(誠)委員 ついでですから、略式と即決裁判と両方合わせたものでけっこうですが、検察官の要求とは違った取り扱いをしておる。パーセンテージはどのくらいになっておりますか。
  77. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 私の手元にございますのは三十六年、昨年の分でございますが、求刑金額と違いました額を言い渡したということが、十月には両方合わせまして二百八十五、十一月は二百三十八、十二月が二百二十九、昨年一ぱい全部合計いたしますと、六千二百二十という数字が出ております。  なお、いわゆるさような手続については不相当であるというふうなことをいたしました件数が、十月が十九、十一月が十七、十二月が十三、一年合計いたしまして百五十八という数字が一応出ております。
  78. 松井誠

    ○松井(誠)委員 手続はどうであれ、ともかくあそこの裁判所へ行って五万円までの罰金は取られるという、事故を起こした者にとっては非常に苦痛になる判決をすることができる。そういう裁判であるのに、何か品物の大量生産みたいな、そういう形で事件処理がされておる。年間約三十六万件のうちで、検察官と意見の違ったのが両方合わせたところで六千何がし、そのうち金額の点についてはともあれ、ほんとうに重大な取り扱いについての意見の相違という形で、そういう形式が不相当だということで裁判所がやったというのは、総計三十五万六千のうちで百五十幾ら。これはあるとはいうものの、私は、ほとんど言うに足りない数字じゃないかと思う。こういう形で、家庭裁判所の調査官が形式的に交通事故の事犯を処理せざるを得ないのと同じに、今度は最終の段階であるべき交通裁判所に行っても、やはり交通事故というものは非常に形式的に処理されていっておる。先ほど一人大体四分ということを言われましたけれども、四分というのは平均だと言いましたが、四分が平均であるならば、もっと短いのももちろんあるわけであります。一人四分で、十人くらい中に入れてやれば、四十分はかかってもよろしいということになるのではありましょうけれども、そういう形では、共犯でも何でもない者、どこのだれかちっともわからない者、そういうような者が全部一堂に集まって、学校の先生から訓辞を聞くような形でこういう判決を受けて——裁判所が単に罰金を取る、そういう機械に成り下がっておるというなら別ですけれども、そうではなくて、やはり裁判そのものの中にも矯正的な機能というものを多少ともまだ認めようとされるならば、元来あるべき裁判の姿じゃないのじゃないか。ですから、裁判所の方では、こういう交通裁判というものの増設はお考えになっておるに違いございませんけれども、それが先ほどのお話ですと、東京では敷地の関係でだめになったというような、よく意味がわかりませんけれども、そういうことでまた見送られておる。今、交通事故についての取り扱いがいろいろ議論になっておりまして、そしていわばこういう状況というものを逆用して、警察官が直接、科料であるか罰金であるか知りませんけれども、取り立てようという違警罪即決令の復活のような形が出てきておる。これは御承知だと思うのですけれども、そういう手続のやり方について、ちょっと余談になるかもしれませんけれども裁判所はどういうお考えを持っておるか、あわせてお聞かせいただきたいと思います。
  79. 樋口勝

    ○樋口最高裁判所長官代理者 先ほどの私の申し方が不十分だったと思うのでありますが、敷地の関係でだめになったというわけではなく、敷地が確定いたしませんので、その分は未定だというような意味で申し上げたのでございます。その点は御了承願いたいと思います。  それからお言葉を返す趣旨は毛頭ございませんが、先ほども申し上げましたように、交通事件は大体定型的な内容でございまして、しかも全然事実に争いのない事件についてだけ即決をやっております関係上、裁判官としても、いわゆる考慮すべき情状と申しますか、あるいは罪態と申しますか、そういうことが普通の犯罪事件と比べますと非常に明瞭になってくる。これは御承知のようにアメリカでもどこでも、いわゆる相当大量的に交通事件裁判しておるのは、あるいはその辺に胚胎するのではないかとひそかに考えておるわけでございます。しかし、裁判でございますので、もちろん機械的にやるということは避けなければなりません。  ただいまの御指摘の制度の改正の件でございますが、私もちらほら新聞紙上でさような意見の出ておるのを承知いたしておるのでありますが、まだこの席でさような意見についてどういうふうに考えるかということを私がお答えするのは適当な時期ではないと存じますので、お答えは後日に留保させていただきたいと思います。ただ、われわれといたしましても、先ほど申し上げたように、現在の制度のワク内で、できるだけ、裁判事務を合理化していくということを考えますと同時に、この際制度を改正すべき点があるかどうか、あれば、どういうふうな方法で改正すべきかという点は、事務当局といたしまして、相当以前から検討は重ねておるということを申し上げておきたいと存じます。
  80. 松井誠

    ○松井(誠)委員 その交通裁判所事件を扱うべき簡易裁判所の判事の増員というのは、三十七年度はないわけですか。
  81. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 簡裁判事につきましては、欠員等もございますし、充員の見通しというようなことも考えまして、三十七年度におきましては簡裁の判事の増員はないわけでございます。
  82. 松井誠

    ○松井(誠)委員 全然要求をされなかったからなんですか、そうではなくて、要求はしたけれども、結局認められなかったということなんですか。
  83. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 予算上の要求といたしましては、簡易裁判所の判事五人の増員要求をいたしたわけでありますが、その分について、充員等の見通し等についていろいろ論議をかわしました。この簡裁判事五人は、交通事件関係で増員するという目的であったわけでございますが、結局、充員の見通しが必ずしも立ちがたいということで、増員は結局においてはなされないことになった次第でございます。
  84. 松井誠

    ○松井(誠)委員 くどいようですけれども、今のようなそういう交通事件が激増しておる中で、簡裁の判事の増員ができないということになりますと、かりにそういう交通裁判所を増設しても、交通裁判所におけるそういう判事の肩にかかってくる重荷というものは非常なものになるに違いないと思う。これは単にそういう判事だとか、あるいは家庭裁判所の調査官だとか、そういう者の人権の問題というだけには限らなくて、今非常に問題になっておる日本の少年事件、あるいは交通事件、そういうものに非常に大きな影響を持つだけに、われわれはもっと何とかこういう難局を切り抜けていけるような、そういう人員の配置というものを望みたいわけです。単にお上手で、足りないけれどもどうにかやれますというようなことではなくて、ほんとうに足りないのだということを、むしろ裸になっておっしゃっていただいた方が、お互いこれからあとのそういう問題の検討のためにもいいのじゃないか、そういうことを最後に一言だけ御要望申し上げまして、私のきょうの質問を終わりたいと思います。
  85. 桑原正憲

    ○桑原最高裁判所長官代理者 先ほど答弁を留保いたしました七千五百九十一万八千円という要求額は、これは人件費のみの要求でございます。
  86. 河本敏夫

    河本委員長 次会は、明十六日午前十時より理事会、理事会散会後開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後零時三十七分散会     —————————————