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山内参考人 私は実は最近インドから帰りまして、こまかい最近の
事情を知りませんので、私の
参考意見が時宜に適しているかどうか、私自身非常に心配をいたしております。昨日
農業災害補償制度改正の要綱を読ませていただきまして、私に与えられました問題は、これにつきましても
意見を述べるということであろうと思っております。ただ私の考えを述べます前に、この問題を考えていく基盤といたしまして、今日
農家はこの
災害補償制度というものを一体どういうふうに考えているかということから問題を進めていきたいと思います。
実は、過去二年間ほどこの
災害補償制度につきまして、私若干の調査をやったことがございます。と申しますのは、東京で聞いておりますと、
農家自身が
農業保険は要らないのじゃないかという声すらも私には
感じられたわけでございます。そういたしますと、今日の
農家は大
へん技術も進歩いたしましたし、はたして
災害補償法自身が要らないのかどうかというふうに
感じているのではないかと思いまして、実は四つの県につきまして、
農業経営におきまして、
農家が一体何を
不安定要素として考えているのであるかということについて調査したわけであります。やりました地区は、香川県の白鳥町、これは非常に集約的な
農業が行なわれている
地帯で、非常に
規模が小さいといったところに特徴がございます。それから山形県の藤島町、これは
稲作単作地帯で
経営規模も非常に大きい
地帯であります。それからもう
一つは、福島県の保原町と申しまして、
果樹、
養蚕、米といったものの
複合経営が行なわれている
地帯でございます。それからもう
一つは
北海道の、ちょうど
稲作の
北限地帯に当たります
美幌町を対象に選びまして、いろいろなアンケートを試みたわけでございます。
まず私は、今日
農家が
生産変動、すなわち
作物災害というものをどういうふうに考えておるかということで、その危険の
意識を調べてみようというわけで、
質問事項として、左記の
事項で
経営主として
農業経営を行なうにあたって現在最も不安を
感じているものから第三位まで
順位をつけて下さいということにいたしまして、
作物の
災害、
農産物価格の
下落、家畜の死亡、家屋の火災、農具の破損、それから
肥料の
値上がりということを書きまして、
農家に一、二、三とその
順位をつけてもらったわけでございます。その結果、出てきました事実は、
作物災害と
価格変動というものが第一位あるいは第二位というところに出てくるわけでございます。それから
肥料の
値上がりというところが第三位に出て参ります。従って、
作物災害、あるいは
価格変動というものが
地帯によりまして、たとえば
北海道の
美幌町で、非常に不安定な
地帯でございます。そういう
地帯では、
作物災害というものは
危険意識として第一位に出て参ります。それから
価格変動というものが二位に出てくる。それから
安定地の
複合経営をやっております、たとえば
果樹あるいは
養蚕が入っております
地帯を見ますと、
農産物価格の
下落というものが第一位になり、
作物災害が第二位であるというふうに出て参ります。ほかの
不安定要因というものは、その
順位はいろいろございますけれ
ども、非常にそのウエートは軽くなっております。このことは、要するに直接
農業の
所得に影響をいたしますところの
要素、すなわち
生産面、従って
価格面、その
所得に直接影響いたします二つの
要素にやはり
農家は非常に不安を
感じておるんだというふうな
結論を得ました。それから
肥料の問題は、これは
経営費におきまするところの
可変費用でございます。従いまして、これが第三位にやはり当然の結果ではないかというふうに実は出たわけでございます。これは言うまでもなく、今日非常に技術が安定しておるわけでございますけれ
ども、なおかつ
農家には
生産変動といったことに対しまして
不安定要素が存在しておる。従いまして、異常
危険意識といたしまして、
作物災害に対する
危険意識というものがきわめてはっきりした形において価格とともに存在しておることを私は確信したわけでございます。そのことは言うまでもなく、過去における
災害発生の確率というものを見てみますと、非常に明白になるわけでございます。それで他の固定資産の問題になりますと、その発生いたします確率が非常に低くなって参ります。
作物災害あるいは価格保障のない価格につきましては、変動のプロバビリティは非常に高い。従って、当然
農家といたしましてはこの問題が経営におきまして
不安定要素として考えざるを得ない結果ではないか、こういうふうに思っておるわけでございます。もちろんこれは
経営規模、あるいは
地帯、専・兼業によって差がございます。しかし時間がございませんので、この点は御質問がございましたら述べることにいたしまして、次に移りたいと思います。
そこで、こういう
危険意識が
農家に存在しておる場合に、はたしてその農
作物共済に対して
農家が積極的な加入意思があるかどうかということを私は聞いてみたわけであります。実は今日
制度が強制でございますので、私はもし今日の
制度が任意加入というふうになったならば、その結果はどういうふうになるだろうかということを頭に置きまして、三つ答えを書きまして、それにまるをつけていただくようにいたしました。質問は、今日の農
作物共済が任意加入制になった場合に加入するかどうか、下の三つの答えにまるをつけて下さいというので、加入するというのと、掛金が安くなれば加入するというのと、それから加入しないという三つの答えを
提出したわけであります。その結果どういう答えが出て参るかというと、
北海道、これは非常に不
安定地帯でございます。特に
北限地帯でございますから、この場合加入するという答えが約九〇%出て参りました。安くなれば加入するというのが約九%、あとは加入しない。それからその他の
地帯の、たとえば過去におきまして相当
被害の高かった香川県を見てみますと、加入するというのが約三四%、掛金が安くなれば加入するというのが約六〇%ということになっております。それから藤島町と申しますのは、最近山形県の藤島は非常に
安定地帯でありますが、ここで加入するという答えは約三〇%、それから加入しないというのが三〇%、掛金が安くなれば加入するというのが四〇%出ました。これらのお答えは水稲についての統計を申しております。それから福島の保原につきましては、これは複合
地帯でございますので、米麦作のウエートというものは非常に軽いのでございますけれ
ども、そこでは加入するというのが一二%、掛金が安くなれば加入するというのが四八%、加入しないというのが四〇%、こういった形で出て参りました。従いまして、農
作物共済
保険に対しますところの需要というものを見てみますと、加入するというのはいわば有効需要でございます。掛金が安くなれば加入するというのはいわば潜在的な需要と言えるのでございます。従って、こうして見ますと、結局、
北海道を除きまして有効需要は三割前後、潜在需要というものが大体四〇%から五〇%の範囲に存在しているということがわかるわけでございます。そこで問題をさらにかえまして、現在の掛金負担の高低につきまして
意見を求めたわけでございます。その掛金が安くなれば加入するという人に対しまして、一体どの程度を要求するのかということを実は聞いたわけでございます。これは潜在的な需要を有効需要にかえていく
一つの条件であろうと思うわけでございますが、その結果、これは大体今日の半分というところに答えが集中をいたしました。それから掛金が高いという
農家の
意見を、過去におきまして
保険料を支払われた分と
農家が現実に負担した
部分の比率を出してみますと、過去十年間のバランスでございますけれ
ども、たとえば白鳥町の場合におきましては掛損ではなくて非常にプラスになっている。それから保原においてもやはりそういうことが出ます。それから山形県の藤島町の場合にはむしろかけ捨てをしているという方が多かったわけでございますけれ
ども、結局このことから言えますことは、
農家の高低に対する
意見というものは、いわば長期的な判断に基づいたものでなくして、きわめて今日の短期的な経験から問題を判定していくというふうに私はとったわけでございます。問題は、
農家の
作物災害に対する
危険意識は存在し、またその
順位は高いわけでございますけれ
ども、今日はきわめて潜在的な需要が存在している。従って、今日
保険の
改正ということになると、いかにしてこれを有効需要にかえていくかということになってくるのじゃないかと私は思ったわけでございます。
それからなお
農家の
保険に対する基本的な態度でございますけれ
ども、これは一般的に
保険というものをわれわれが考えます場合には、
保険の用益でありますところの安全ということを実は買うわけでございます。ところが
農家には
保険に加入する場合に安全ということの
意識が非常に希薄でありまして、むしろ
所得というふうな観点から問題を考えていく。実は危険の
意識があるのだけれ
ども、それに対する安全というものを
保険を通じて買うというふうな
意識が非常に低いのではないか。このことの原因は、たとえばわが国では今日強制がとられておりますけれ
ども、これはやはり日本の
農業経営の基本的な構造に基づくものでございまして、
作物災害あるいは価格の
下落があっても、その
経営費の中の、資材費とかそういった可変的費用と、それから最低の消費欲求を充足し得るだけの
所得、すなわち家族労働力を維持し、再生産し得るだけの家計費さえあれば何とかその構造が維持されるという
一つの構造的特質がございますけれ
ども、こういったことが基本的に
農家の構造の中にありますので、
保険のような間接的な効用を持つものに対しましての
農家の支出の緊急度と申しますか、その序列というものは、直接的な効用を持つものに比べまして非常に低いということに原因があるのではないか。
農家の経営から見ますとそういうふうなことが考えられます。
もう
一つの問題は、やはり今日の
保険制度というものが
農家に合っていない点が
一つの側面であるだろう。もちろん今日の
制度は御承知のように戦後の
農業の構造の上に成り立っております。従いまして、食糧生産の増大という絶対的な要請の基盤の上に出発いたしましたので、その間に食糧統制のもとにあって強行せられました低価格政策、そのもとにおける
生産変動に伴う
農家の
所得を維持した。あるいはまた過剰人口のもとで耕作せざるを得ない限界地耕作というものを維持した。そしてその限界地耕作を維持するために
補償制度というものが少なからざる役割を果たしたということも言える。従いまして、その
意味において過去における
補償制度に対する
評価というものはわれわれ見過ごすことはできないと思うわけでありますけれ
ども、今日は
農業の構造がその後の経済成長とともに次第に変化をいたしておりますので、いわば
補償制度のワク自身が変わってきたといわざるを得ないように思います。特に
農業内部におきまして経営上の地域分化を起こしておりますし、また地域におきまして産業構造の変化等を通じまして
農業の構造が変わってきております。従いまして、いわば
農業の構造的な地域的な分化が非常に進行している。そうなってきますと、画一的な
保険政策というものが
農家に与えますところのベネフィットというものは、地域によって非常に変わって参ります。また
補償制度が対象にいたしております
災害の
農家に持つ
意味自身も非常に変わってくるように思います。従いまして、基本的には地域の特性を反映するような
保険の対象を考慮して
保険制度というものを再編成することがやはり今日の見通しではないか、こういうふうに思います。また同時に、今日価格政策自身もいろいろな面において進展するであろうし、またいろいろ
制度化されると思っておりますが、その際に、あるいは金融面もそうでございますけれ
ども、
保険制度自身も独立させないで有機的な結合の中に持っていかなければ、ただ単なる
保険ということでは、
農家に対して魅力というものも出てこないのではないか。有機的な結合があって初めて
農家の
保険に対する考え方というものも変わってくるのではないか、こういうふうに思うわけであります。しかしながら今日なお
農業構造は変革の過程にございまして、直ちにこれをどうするというわけには参りません。従ってたとえば
果樹保険という問題が出てきておりますし、あるいはまた
北海道の豆類についての
保険というものも出てきておりますけれ
ども、これは今日の
農業構造の変化に伴う
一つの現われだろうと思うわけであります。従いまして、こういった面に今後の方向というものを対応させざるを得ないのじゃないか。たとえば私は調査中に
感じたわけでありますけれ
ども、
稲作に対しますところの
農家の
災害の
意識というものが、たとえば北と南でずいぶん違うように思いました。たとえば非常に零細な兼業
農家の多い
地帯では、かりに五割以上になりますと、もう絶対非常に困る。そういうときには完全な補償、てん補をしてほしい。ところが北の方なりますと、
稲作技術が非常に安定してきた。しかし
経営規模が大きいので、
所得面から見ますと、かりに二割ということになっても、かりに三町歩ですと、反三石といたしますと、九十万でありますから、それの二割といいますと、相当大きい額になります。そうすると
農家自身は
一つの低
被害ということに対しても
所得量の変動という面につきましては非常に問題になる、こういう問題を考慮してほしい、こういった声がございます。そのこと自身はいわば地域の特性を反映したものではないかというふうに考えたわけでございます。
さて、私が今申しましたことは、今後の
一つの方向でございますけれ
ども、さしあたって今日
提出せられているものについて次に問題を考えてみたい、こういうふうに思います。
一つ問題点として出ておりましたのは、画一的強制加入の緩和ということでございます。これはおそらく
農業に依存しないで、全く片手間で
農業をやっていく階層を
意味しているだろうと思うわけでございます。しかしながら強制加入ということは、小農制のもとにおきまして、たとえばアメリカのような、同じ家族経営でありましても、比較的大
規模でコマーシャライズしているというふうな
地帯と違いまして、先ほどから申しましたような
農家の基本的な性格がございますので、この強制加入というものを緩和と申しますか、はずしますと、これはやはり結果的には不
安定地帯だけの逆選択ということが起こらざるを得ない。だから緩和については、これは当然の措置と存じますけれ
ども、強制加入をはずすということにつきましては、
保険の運営面からはずすことはできないのじゃないか、こういうふうに思います。
それからもう
一つの点の
農業共済組合の共済
事業責任の拡充ということでございますが、これは考えてみますと、今日存在しております
農業作物保険の型を分けてみますと、その
一つに当たるのじゃないか。すなわち今日、日本の
制度自身がそうでございますけれ
ども、分けまして、集中型と申しますか、セントラリゼーション、それからもう
一つ分散型といいますか、ディセントラリゼーション、アメリカのような、いわばアメリカ
政府が中心になりまして、
作物保険のアメリカの連邦
作物保険公社といったものを作って
末端にエイジェントを置いておりますのは、いわばセントラリゼーションだと思います。日本の今日存在しておりますのは、各
保険団体が一定の
責任を持って
保険を運営している、そういうことはいわば分散型すなわちディセントラリゼーションではないかと思います。これを経営面から見ますと、ディセントラリゼーションをいたしますと、ただ単に経営面のみから見ますと、運営費の面ではむしろ集中化の方が安く上がるのではないか。
〔
委員長退席、秋山
委員長代理着席〕
ただ今日存在しております農村の現実というものから推しまして、やはりディセントラリゼーションというものにならざるを得なかったのではないかというふうに思うわけでございますけれ
ども、ただここで
共済組合が
通常災害部分について全面的な
責任を負うということにつきましては、本来の
保険の発展の過程から申しますと、なるべく拡大化していくというようなことが従来のあり方だろうと思うわけであります。しかしながら、これが日本の今日の世論調査から見ましてもそうでございますけれ
ども、自分たちのものとして運営していくというふうな
意識が農村にございますので、その
意味では、この
共済組合の
事業の
責任の拡充ということは
実態に即するわけでありますけれ
ども、ただ
保険運営からいたしました場合にたえていけるかどうかという点が非常に大きな問題になってくると思います。そうなるとやはり金融上の措置が十分に考慮されなければ、
共済組合の今後の運営というものが非常にむずかしいのではないか。
同時にもう
一つ問題がございますが、
共済組合が今日も存在しておりますけれ
ども、ここで問題は、付加
保険料の問題でございます。おそらく
農家の、先ほど私が申しました調査を通じましても、半分にせいということは、
農家から考えますと、純
保険料
部分と付加
保険料
部分の合体したものが
農家の掛金負担ということでございますから、半分にしろということは、結局その付加
保険料を安くしろ、あるいはなくしろというふうなことに通ずるのではないかというふうに感ずるわけでございます。従いまして、この
共済組合の
事業拡充の場合におきましても、やはりその付加
保険料というものをいかにして軽くするか、あるいはまた国家がこれをいかに負担していくかということが運営上の大きい問題になるだろうと思います。
それからもう
一つ共済組合ごとの料率算定ということが出ております。これは従来のあり方は、実は各
組合が経験がないものですから、県を
単位に出しまして、そうしてそれを割り振っていくという形が行なわれておったわけであります。これは今日経験が次第に各
組合で積まれましたので、
保険的理論から申しましたならば、この上に立つということは当然のことだと思います。従って個別化ができておるわけでございますから、これは従来よりも
一つの進歩ではないかと私は思います。
それからもう
一つ、掛金の割引と病虫害防除
事業ということが出ております。これは小農区における
作物保険というものが、ただ
保険事業だけでもって
保険を運営するということは、実は不可能に近い。必ずその生産政策というものをかたわらに置かないと、
農家の
保険事業自身から受けるベネフィットといいますか、それが非常に少ない。やはりその
意味におきまして、今度病虫害防除がこういった形で入ってきたということは、私は当然のあり方ではないかというふうに思います。
それからもう
一つ出ておりましたのは、一筆
収量建引き受けか、あるいは農単かということが問題になっておったようでございますが、理論的に申しますと、当然これは
農家単位でもって十分な填補をしていくということが理論としてはあり方だろうと思います。ただ問題はその
損害評価の面、あるいはまたその補てんを受ける回数といいますか、あるいは可能性と申しますか、今日の土地所有の形態から申しますと、どうしても零細農に農単の方が有利な結果が過去の実験からは出ております。従いまして、やはり農単になっていく基礎は、なるべくいわばアメリカのような形におけるファームというふうなことに日本の
農業の構造というものが変わらざるを得ないのではないか。そうして初めてそこに農単という問題が生まれるので、私は理論としては農単は賛成をいたします。しかしながら
農家の過去の
意見を見まして、やはりその
保険をやっていくということになると、そこに何らか過渡的な考慮が必要ではないかというふうに私は
感じたわけでございます。
なお
事業団でございますが、やはり
事業団をやるからには徹底したセントラリゼーション、私が申しましたセントラリゼーションということが初めて
事業団を可能にするのであって、ディセントラリゼーションの過程では、これはもう
一つ趣旨がはっきりしない、理論的に合わない、やるならやるでセントラリゼーションを徹底してやらなければ
事業団は
成立しないというのが私の
意見であります。