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小林参考人 ただいま御紹介を受けました
小林でございます。昨晩急にこの問題についての
参考意見を述べよという御注文でありましたので、文字
通り一夜づけの勉強をしてきたにすぎませんが、
憲法学的な見地からどういう問題があるかということを若干私
どもの目から述べて、御
参考に供したいと考えております。
個々の
論点に立ち入る前に、この
法律案を私が一読いたしまして感じたところから率直に申し上げてみますと、
最初に、この
法案が
目的としておりますように、総合的、計画的な
防災行政を整備する上にどうしてもこれが必要だという
趣旨は、
基本的に理解できるわけでありますが、はたして従来までに存在しているような
制度、あるいは
立法手段の
ワク内で
炭害対策に著しく事欠くことがあったろうかどうかということに若干の疑問を持ったわけでございます。つまり、特別にこのような
基本法を作り、その中において
一種の緊急権的な
制度を作らなければならない絶対的な必要があったろうかどうかという
ばく然とした疑問を抱いたわけであります。しかし、この
必要性の認定の問題は、従来まで慎重に
審議されてこられました
立法者の方々の判断に属しますから、ここで私といたしましては、そのような
ばく然とした疑問を持ったというだけにとどめまして、
論点に立ち入っていきたいと思います。
この
法案が
災害、特に異常な
災害に対しまして
緊急権的措置をとり得ることを定めた点で、
憲法のもとにおいて
一般的な
緊急権制度、
ノートレヒトに関する
制度を認めるということになりはしないかというおそれが第二にあるのではないだろうか。これもまず本
法案を読んだときの私の
基本的な疑問といいますか、
問題観といいますか、そういう感じを受けたわけでありますが、言いかえますと、自然の
災害を
前提といたしまして、それに対処するために
一種の
緊急政令の方策を設定することになりますと、この
法的手段そのものが、自然の
災害という特別な
条件とは別な
政治的問題、たとえば治安というような問題のもとにおいても
一般化されはしないかという
憂慮が生ずるからであります。しかし、そういうおそれを一応抱いて各
条項を読んだ結果、私の
結論を申し上げますと、
現行憲法のもとにおいて
緊急権制度を認めるということには強い疑問を持つものでありますが、
非常災害という特別の
要件のもとにおいては
緊急制度を
一般化することはおそらくないだろう。従って今言いましたように、
結論から先に申し上げますと、本
改正案については、これを
違憲とする
格別のいわれはないのではないか。つまり、これからあとで若干出てきますような
個々の
論点について勘考してみましても、これを総体として合憲的なものと見てもいいのではないかという
結論に達したわけでございます。
私が持っておりました
基本的な
疑念ということをまず先に述べた上で、その
疑念に照らしながら
個々の
条項に触れていきますと、問題を二つに分けて見ることができるのじゃないだろうか。
第一点は、本
法案の百五条に述べられております
基本的な
ワクであります「
非常災害が発生し、かつ、
当該災害が国の
経済及び
公共の
福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、」という
要件を取り出して見ますと、この
基本的な
ワクは、
先ほどもちょっと触れましたように、人為的な事件あるいは
政治的な問題とは無関係に成り立つ
自然災害という
事柄の性質上、非常に明確に成り立つものでありまして、この
ワク内においてならば、
要件さえしぼれば、
応急対策のためにそれが必要である以上、そういう
手段を設けるということは合憲的にできるのではないかと考えたわけであります。つまり
非常災害という以上、かつ激甚な
要件というものを
前提とする限りは、この
基本的な
ワクをはみ出ないような
緊急手段を設けることは、
憲法違反をもって論ずるわけにはいかないのじゃないだろうかと考えるわけであります。
この
前提のもとで各
要件をながめて参りますと、第二に、
緊急権的規定に普通要求されております慎重な
配慮がほぼ十分になされていると考えられます。その一々につきましてはここに私から述べるまでもありませんが、まず、
通常緊急権制度に望まれております
立憲的制約といいますか、
政府の独断ないし恣意を許さないような
制約というものは大体ここに尽くされていると考えられます。つまり、
災害緊急手段の
布告にいたしましても、区域及びその
布告をなすべき
事態、
効力を発する日時といった
事柄は、
本法百五条の二項において述べられておりますし、
国会がなるべく早く
事後承認を与えるべきだということの
趣旨のことも
条文に明らかにされております。特に問題となります
緊急政令の点についても、おそらくここでしぼられておりますような
要件のもとで
人権規定に触れるような問題は生じないのではないだろうかと考えられます。
目的及びその
範囲、さらに時間的な
効力、
失効要件という各
条項を検討して参りますと、
政令委任をこの
程度においてするということは、
先ほど申し上げましたような
異常災害という
基本的な
ワク組みの中においてならば許されるのではないだろうかと考えたわけであります。
罰則委任においても、「二年以下の懲役若しくは禁錮、十万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑を科し」ということは、従来までの
立法例に見られます
基本的な線をはずれてはおりませんし、この点において特別論ずべきことはあまりないのではないだろうか。
個々の
要件は、後ほ
どもう一度御
質問等があれば詳しく論ずることにいたしまして、これらの諸
要件を
基本の
原理的な
ワク内においてながめていきますと、慎重な
配慮は十分になされているという点で合憲的なものと私は判断したわけであります。
ただし
最後に、これはすべての
立法あるいは
政治について
基本的な
態度と言いますか、およそ
憲法が予定しているところの最も重要な
価値体系に触れないかどうかという点を十分に突っ込んで考えるときには、
最初に申し上げましたような、そもそも
緊急手段的措置を
立憲体制のもとにおいて取り上げるのは正しいかどうか、特に
日本国憲法の中においてそれを取り入れていくのが妥当かどうかという問題に触れてくるわけであります。法の
形式として、こういう
災害という特殊な
条件のもとにおいてではあっても、
緊急政令的手段を認めるということが一たん確立されますと、
一般的にそういう
法形式が合憲であるという論理に飛躍しないかどうかという、
最初に私が申し上げました
憂慮はなおかつ残るのではないだろうか。
条文をながめますと、おそらくそういうことはないだろうということは、常識的にはわかりますけれ
ども、一たん作り上げられました
条文は、私
どもの世代をこえてさらに長い生命を持ちますし、それは別な
条件あるいは別なイデオロギーによって解釈を下されるおそれがありますから、そういうことを十分に考えて参りますと、どうも
一般的に
緊急権制度が合憲化されるというロジックにならないかという
憂慮は完全には払拭できないのじゃないだろうか。その
意味において、
本法でいうところの
非常特別災害に限定するということを、
審議の過程におきましても十分に明らかにされることが望ましいのではないだろうかということを感じた次第でございます。
政治に必要なジェラシーと言いますを、
憲法をなるべく厳重に解しまして、そこで要求されている立憲的な
基本目的に照らして言うならば、今申し上げましたような特別な限定というものをここの段階で明らかにされた上で、これを通過されることを私は個人的に期待したいと存じます。たとえば
憲法二十九条あるいは二十七条等について、ここの
論点でこの
法律が触れておりますところの若干の問題がございますけれ
ども、そうしたものは
先ほどあげましたような
要件の中で大体慎重に
配慮されていると思いますので、ここでは省略いたしました。もし問題がありますならば具体的に申し述べたいと考えます。
非常に簡単でありますけれ
ども、とりあえず私の
一般的な
態度と言いますか、あるいは
基本的な考え方を御
参考までに述べた次第であります。