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1962-04-13 第40回国会 衆議院 地方行政委員会 第29号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年四月十三日(金曜日)    午前十時十七分開議  出席委員   委員長 園田  直君    理事 金子 岩三君 理事 纐纈 彌三君    理事 高田 富與君 理事 渡海元三郎君    理事 丹羽喬四郎君 理事 太田 一夫君    理事 阪上安太郎君 理事 野口 忠夫君       伊藤  幟君    宇野 宗佑君       小澤 太郎君    大竹 作摩君       久保田円次君    田川 誠一君       津島 文治君    永田 亮一君       前田 義雄君    山崎  巖君       川村 継義君    松井  誠君       山口 鶴男君    門司  亮君  出席政府委員         内閣官房長官  大平 正芳君         内閣官房長官 細谷 喜一君         警察庁長官   柏村 信雄君         警  視  監         (警察庁交通局         長)      富永 誠美君         自治事務官         (行政局長)  佐久間 彊君         消防庁次長   川合  武君  委員外出席者         自治事務官         (行政局行政課         長)      岸   昌君         参  考  人         (一橋大学教授田上 穰治君         参  考  人         (早稲田大学教         授)      大西 邦敏君         参  考  人         (東京大学教授小林 直樹君         専  門  員 曾根  隆君     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  災害対策基本法等の一部を改正する  法律案内閣提出第一三九号)  道路交通法の一部を改正する法律案  (内閣提出第一四六号)    ────◇─────
  2. 園田直

    園田委員長 これより会議を開きます。  この際、お諮りいたします。本日は災害対策基本法等の一部を改正する法律案について、参考人として、一橋大学教授田上穰治君及び早稲田大学教授大西邦敏君の両君の御出席を願い、御意見を聴取することになっておりますが、なお、本日、東京大学教授小林直樹君にも参考人として御出席を願い、本案についての御意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 園田直

    園田委員長 御異議なしと認め、そのように決しました。    ────◇─────
  4. 園田直

    園田委員長 それでは、災害対策基本法等の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  この際、一言ごあいさつ申し上げます。  参考人各位には、非常に御多忙のところ、当委員会法律案審査のために御出席をいただき、まことにありがとうございました。災害対策基本法等の一部を改正する法律案につきまして、何とぞ忌憚のない御意見をお述べ願えればまことに幸いと存じます。  なお、議事の整理上、初めに御意見をそれぞれ十五分程度に取りまとめてお述べ願い、次に委員諸君からの質疑に対しましても十分にお答えを願いたいと存じます。  なお、小林参考人は用務のために中途で退席されますので、御意見並びに委員諸君質問も、小林参考人に対する御質問から終わるようにお願いをいたします。  それでは初めに小林参考人にお願いいたします。
  5. 小林直樹

    小林参考人 ただいま御紹介を受けました小林でございます。昨晩急にこの問題についての参考意見を述べよという御注文でありましたので、文字通り一夜づけの勉強をしてきたにすぎませんが、憲法学的な見地からどういう問題があるかということを若干私どもの目から述べて、御参考に供したいと考えております。  個々論点に立ち入る前に、この法律案を私が一読いたしまして感じたところから率直に申し上げてみますと、最初に、この法案目的としておりますように、総合的、計画的な防災行政を整備する上にどうしてもこれが必要だという趣旨は、基本的に理解できるわけでありますが、はたして従来までに存在しているような制度、あるいは立法手段ワク内で炭害対策に著しく事欠くことがあったろうかどうかということに若干の疑問を持ったわけでございます。つまり、特別にこのような基本法を作り、その中において一種の緊急権的な制度を作らなければならない絶対的な必要があったろうかどうかというばく然とした疑問を抱いたわけであります。しかし、この必要性の認定の問題は、従来まで慎重に審議されてこられました立法者の方々の判断に属しますから、ここで私といたしましては、そのようなばく然とした疑問を持ったというだけにとどめまして、論点に立ち入っていきたいと思います。  この法案災害、特に異常な災害に対しまして緊急権的措置をとり得ることを定めた点で、憲法のもとにおいて一般的な緊急権制度ノートレヒトに関する制度を認めるということになりはしないかというおそれが第二にあるのではないだろうか。これもまず本法案を読んだときの私の基本的な疑問といいますか、問題観といいますか、そういう感じを受けたわけでありますが、言いかえますと、自然の災害前提といたしまして、それに対処するために一種緊急政令の方策を設定することになりますと、この法的手段そのものが、自然の災害という特別な条件とは別な政治的問題、たとえば治安というような問題のもとにおいても一般化されはしないかという憂慮が生ずるからであります。しかし、そういうおそれを一応抱いて各条項を読んだ結果、私の結論を申し上げますと、現行憲法のもとにおいて緊急権制度を認めるということには強い疑問を持つものでありますが、非常災害という特別の要件のもとにおいては緊急制度一般化することはおそらくないだろう。従って今言いましたように、結論から先に申し上げますと、本改正案については、これを違憲とする格別のいわれはないのではないか。つまり、これからあとで若干出てきますような個々論点について勘考してみましても、これを総体として合憲的なものと見てもいいのではないかという結論に達したわけでございます。  私が持っておりました基本的な疑念ということをまず先に述べた上で、その疑念に照らしながら個々条項に触れていきますと、問題を二つに分けて見ることができるのじゃないだろうか。  第一点は、本法案の百五条に述べられております基本的なワクであります「非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、」という要件を取り出して見ますと、この基本的なワクは、先ほどもちょっと触れましたように、人為的な事件あるいは政治的な問題とは無関係に成り立つ自然災害という事柄の性質上、非常に明確に成り立つものでありまして、このワク内においてならば、要件さえしぼれば、応急対策のためにそれが必要である以上、そういう手段を設けるということは合憲的にできるのではないかと考えたわけであります。つまり非常災害という以上、かつ激甚な要件というものを前提とする限りは、この基本的なワクをはみ出ないような緊急手段を設けることは、憲法違反をもって論ずるわけにはいかないのじゃないだろうかと考えるわけであります。  この前提のもとで各要件をながめて参りますと、第二に、緊急権的規定に普通要求されております慎重な配慮がほぼ十分になされていると考えられます。その一々につきましてはここに私から述べるまでもありませんが、まず、通常緊急権制度に望まれております立憲的制約といいますか、政府の独断ないし恣意を許さないような制約というものは大体ここに尽くされていると考えられます。つまり、災害緊急手段布告にいたしましても、区域及びその布告をなすべき事態効力を発する日時といった事柄は、本法百五条の二項において述べられておりますし、国会がなるべく早く事後承認を与えるべきだということの趣旨のことも条文に明らかにされております。特に問題となります緊急政令の点についても、おそらくここでしぼられておりますような要件のもとで人権規定に触れるような問題は生じないのではないだろうかと考えられます。目的及びその範囲、さらに時間的な効力失効要件という各条項を検討して参りますと、政令委任をこの程度においてするということは、先ほど申し上げましたような異常災害という基本的なワク組みの中においてならば許されるのではないだろうかと考えたわけであります。  罰則委任においても、「二年以下の懲役若しくは禁錮、十万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑を科し」ということは、従来までの立法例に見られます基本的な線をはずれてはおりませんし、この点において特別論ずべきことはあまりないのではないだろうか。個々要件は、後ほどもう一度御質問等があれば詳しく論ずることにいたしまして、これらの諸要件基本原理的なワク内においてながめていきますと、慎重な配慮は十分になされているという点で合憲的なものと私は判断したわけであります。  ただし最後に、これはすべての立法あるいは政治について基本的な態度と言いますか、およそ憲法が予定しているところの最も重要な価値体系に触れないかどうかという点を十分に突っ込んで考えるときには、最初に申し上げましたような、そもそも緊急手段的措置立憲体制のもとにおいて取り上げるのは正しいかどうか、特に日本国憲法の中においてそれを取り入れていくのが妥当かどうかという問題に触れてくるわけであります。法の形式として、こういう災害という特殊な条件のもとにおいてではあっても、緊急政令的手段を認めるということが一たん確立されますと、一般的にそういう法形式が合憲であるという論理に飛躍しないかどうかという、最初に私が申し上げました憂慮はなおかつ残るのではないだろうか。条文をながめますと、おそらくそういうことはないだろうということは、常識的にはわかりますけれども、一たん作り上げられました条文は、私どもの世代をこえてさらに長い生命を持ちますし、それは別な条件あるいは別なイデオロギーによって解釈を下されるおそれがありますから、そういうことを十分に考えて参りますと、どうも一般的に緊急権制度が合憲化されるというロジックにならないかという憂慮は完全には払拭できないのじゃないだろうか。その意味において、本法でいうところの非常特別災害に限定するということを、審議の過程におきましても十分に明らかにされることが望ましいのではないだろうかということを感じた次第でございます。政治に必要なジェラシーと言いますを、憲法をなるべく厳重に解しまして、そこで要求されている立憲的な基本目的に照らして言うならば、今申し上げましたような特別な限定というものをここの段階で明らかにされた上で、これを通過されることを私は個人的に期待したいと存じます。たとえば憲法二十九条あるいは二十七条等について、ここの論点でこの法律が触れておりますところの若干の問題がございますけれども、そうしたものは先ほどあげましたような要件の中で大体慎重に配慮されていると思いますので、ここでは省略いたしました。もし問題がありますならば具体的に申し述べたいと考えます。  非常に簡単でありますけれども、とりあえず私の一般的な態度と言いますか、あるいは基本的な考え方を御参考までに述べた次第であります。
  6. 園田直

    園田委員長 次に田上参考人にお願いいたします。
  7. 田上穰治

    田上参考人 この今回の法案につきまして、私は、主として問題は百九条の緊急措置のところにあるのではないかと考えております。ところで、この緊急措置規定は、御承知のようにこの前の臨時国会において御審議になりました法案のこれに該当する条文と比較いたしまして、明らかにその措置の幅というか、政令規定する事項がしぼられておる。特に法案百九条第一項の二号、三号でありますが、ごらんの通りでありまして、私は大体この程度政令内容規定事項で限定されておりますならば、憲法違反疑いはないと考えるものであります。   〔委員長退席纐纈委員長代理着席〕  この法案は、経済的な自由に関するものでありまして、国民一般政治活動、あるいは広く申しまして人身の自由とか、そういうような点につきましては直接触れていないのであります。憲法調査会におきましても、広く非常事態における特例、特に憲法第三章の人権の保障を制限あるいは停止するということにつきましては、現行憲法のもとでは違憲疑いが強いのであって、その必要があるならば憲法を改正しなければならないという意見が相当多いのでございますか、今回のこの法案につきましては、今申しましたように直接政治活動の自由その他に触れてないのでありまして、現行憲法でも、二十二条とか二十九条に出ておりますように、国民経済生活につきましては特別な公共福祉制限が明記されております。これも学問的にいろいろ説が分かれておるのでございますが、私などは、一般社会生活政治生活における自由に比較いたしまして、経済生活については、今日二十世紀の憲法として、社会的な法治国というか、社会政策的なあるいは資本主義を修正すると申しますか、相当大幅に国民経済に対して国家権力の介入を認める必要がある。そういうふうに考えまするから、このような経済的な自由について、一応法律ワクをきめて、こういう緊急事態におきまして政令の制定を認めるということであるならば、憲法違反ではなかろう、また憲法改正の必要はむろんないと考えるものであります。  この点で蛇足でございますが、今小林教授が言われましたように、このような緊急事態における特別な措置を拡大するということになると、程度によりまして現行憲法基本原則に反することも起こると思うのでございます。この憲法原則としましては、国会立法権を本来行使するのであって、国会以外の、特に今回の法案にある内閣政令によって広い幅の立法権を行なうことは憲法四十一条の原理に反するのであります。これをもう少し申しますと、政令によって法律廃止あるいは変更するということは、憲法立法に関する原則と矛盾するのであります。また、政令に包括的に立法法律によって委任するということも、これまた憲法原理に反すると考えるものであります。かつての終戦前の国家総動員法のような広い幅の立法権の授権を認めるということは、現行憲法のもとではできないと思うのであります。ところが、この問題につきまして、国会立法権を本来独占するということに関するのでございますが、今回の法案のように政令通常の形で委任するのではなくて、この法律によりまする政令は、その直後に、臨時国会あるいは参議院の緊急集会におきまして、これを正常な姿の立法に変えなければならない、そういう暫定的な措置でございます。国会が必要な立法措置をとることができるまでの暫定的な措置である。こういうことになりますと、これは通常の場合よりはやや委任範囲が広い。その意味であるいは授権立法と言えるかと思いますけれども、私は国会立法権を侵すことにはならないと思うのであります。  また、この政令によりまして、現行法律効果が部分的に停止されるような形、廃止はありませんけれども現行法令に反するような行政的な措置が可能となるという点でございますが、しかし、これは廃止と、このような効果とは意味が違うのでありまして、これは現行法令を維持するために必要やむを得ないことと見るのであります。特例を認めることは、これは現行法令廃止するためではなくして、正常な状態に社会を復帰させることによって、現在の法令を生かすという意味でありますから、国会立法権を侵すものではない。  もう一つ申しますと、法の支配憲法人権を尊重し、司法権の優位を認めております。この点からも問題があると思いますが、しかし人権制限する、経済的な自由を制限する政令でございますけれども、しかし先ほど小林教授が言われたように、要件はかなりはっきりしている。この国の経済秩序を維持し、公共福祉を確保する。しかも、それはただ公共福祉の確保といえば、それだけを取り出しますと、かなり広いようにもとれますが、そうではなくて、全体として見ますと、経済的な一種緊急事態を解決するための対策であることは明瞭であります。  また、このような制度を試みに外国のとっておりますところと比較しますと、イギリスにおいても、フランスにおいても、アメリカにおいても、非常緊急事態における行政権範囲がかなり拡大されているのでありまして、これは必ずしもそのままわが国参考にはならないかと思いますけれどもアメリカにおきましても、格別規定憲法にありませんが、合衆国憲法第一条の国会立法権ということに基づきまして、国会法律によって相当幅の広い立法権能大統領政府に与えることができるということが判例で認められております。むろん、これは正常な姿ではなくて緊急事態に対処するためでございますが、純粋な政治的な決定の余地を含むような裁量で立法権能大統領に与えることも国会立法権によって可能である。またイギリスにおきましては、たとえば一九二〇年のエマージェンシー・パワーズ・パクトなどを見ますと、生活必需物資供給を確保するために政府にかなり幅の広い立法権命令を出す機能を与えているのであります。これは自然災害ではなくて、主としてストライキの結果として生活必需物資供給ができなくなったという場合でございますが、しかしこの法律では、ストライキが暴力にわたらない限りこれを罰することはできないとか、また人民にこのために労役を負担せしめることはできないとか、そういうふうな政府命令ワクをきめまして、そのワクの中で相当広い幅で立法権を与えているのであります。またフランスにおきましては、もう少し極端というか、ゆるやかになりますが、正常な事態における法の支配、これを維持することがかえって逆に法秩序を破壊するようなおそれのある場合には、いわゆる例外事情のもとにおける特別な権力というものを判例は認めておりまして、大体これは一九三九年ごろからの判例でございますが、そうなると、かなり憲法の認める法の支配ワク原則がゆるめられるのであります。こういうことは一々日本にそのまま持ち込みますと、先ほど小林教授が言われましたように、非常事態における権能ノートレヒトというようなものが非常に広く認められることになって、憲法民主政治が破壊されるおそれもある。でありますから、私は、外国制度がそのまま日本参考になると思いませんが、普通に民主主義の国といわれるイギリスにおいても、フランスにおいても、アメリカにおいても、このように通常の平時の場合とは違って、緊急事態におきましては、今の法の支配国会立法権を独占する原則、こういうものがある程度ゆるめられて——それが行政当局の権限を乱用するおそれがあるということは警戒しなければなりませんが、しかし、今回の法案のようにそのワクが比較的に明確にされており、特に経済生活に関するものであるということでありますと、憲法違反疑いはないと考えておるものでございます。  少し時間をとりましたから御質問を伺いまして足りないところを補足したいと思います。
  8. 纐纈彌三

    纐纈委員長代理 ありがとうございました。  次に大西参考人にお願いいたします。
  9. 大西邦敏

    大西参考人 申し上げるまでもなく、わが国明治憲法時代におきましては、その第八条で緊急勅令規定があった。第十四条では戒厳の宣告の規定があった。第七十条では財政緊急処分勅令でもってすることができる旨の規定があった。ところが、今の憲法にはこのような規定がないのでありますが、一体外国では一般的にこのような緊急命令とかあるいは戒厳その他非常事態というようなものに対しては、それぞれ国家がどういう態度をとっているか、これをごく簡単に御参考までに申し上げてみたいと思います。  今日、すなわち各国では民主政治が入っていったのでありますが、そのような今日でもなお三十カ国余りに上る多くの国家緊急命令憲法規定されております。また六十カ国に近い圧倒的多数の国家におきまして戒厳布告制度あるいは非常事態布告制度が採用されております。そして憲法緊急非常事態に迅速に対処して、その被害を最小限に食いとめようという態勢が諸外国では大体整っているのでありますが、わが国現行憲法にはこのいずれも認めていない。ここに私は大きな問題点が一つあると考えます。いついかなる緊急非常事態が発生するかもしれない、これが人間社会の常であります。ですから、この緊急非常事態対策が事前に整備されていることがぜひ必要でありますから、私どもは、すみやかに今の憲法を改正して、これが対策憲法上可能ならしめる必要があると考えております。しかし、緊急命令戒厳も認めていない現在の憲法でありますからといって、われわれは手をこまぬいて非常事態の到来を待っているわけにはいかない。   〔纐纈委員長代理退席委員長着席〕 としますと、現行憲法ワク内でなし得る緊急非常事態対策にはいかなるものがあるか、それをいかなる形で平常時において準備しておくかがさしあたっての重大な課題であると考えます。ことに天災というものが多いわが国におきましては、とりわけ非常災害対策恒久化ということは焦眉の急であったわけであります。この意味におきまして、このたび災害対策基本法等の一部を改正する法律案が提出されまして、災害緊急措置が実現の運びになったことは、私はまことに当を得たものと考えております。  憲法上の問題といたしましては、この法律案憲法に違反する規定を含まないかという点であります。具体的に申し上げてみますと、第百九条により制定されるこの政令に、財産権内容を定めるという本来の立法事項委任することができるかどうかという問題であります。憲法第七十三条の第六号は、法律委任がある場合にはその委任範囲内で政令罰則をも含む立法事項規定することを認めていると解されるのでありますから、このたびの法律案憲法違反疑いはない、かように考えます。しかも政令に対する委任は期間も限定しておりますし、また委任内容目的及び範囲をこの法律で指定しておりますから、なおさらにこの法律憲法違反疑いはないと考えます。  ただ最後に、私は若干憂慮を持つのでありますが、特例であるとは申しながら、少し慎重に過ぎやしないか。国会開会中には、緊急措置を必要とするときになりますと、政令ではできずして立法措置をとらなければならない。この立法措置が手間どって、あるいは時宜を失するというようなことはありやしないか。具体的にそのような事態に直面した場合は、国会におきましては、議員諸公の良識によって時宜を得た措置がなされるのだと思いますけれども、ただ立法措置をとることが時宜を失するというようなおそれがあるのではないか、この点は私は若干憂慮している点であります。  以上でございます。
  10. 園田直

    園田委員長 以上をもって参考人よりの意見の開陳は終わりました。    ─────────────
  11. 園田直

    園田委員長 次に、質疑の通告がありますので、これを許します。小澤太郎君。
  12. 小澤太郎

    小澤(太)委員 憲法との関係につきましては、私どもいろいろ心配しておったわけでございますが、ただいまの三先生の御意見は、結論的には、いずれも今回のこの法律案現行憲法の精神に照らして違憲のおそれはないという結論でございますので、実は安心をいたした次第でございます。  そこで、参考のために一、二お教えをいただきたいと思うのでございますが、先ほど田上先生は、主として、国民の権利を制限する面において経済活動であるというような点で、これは政治活動等のことと違いまして憲法上も認められるというお話でございました。そこで、まず小林先生にお伺いしたいのでございますが、私も先生の御意見通り、このような緊急政令というものがさらに幅を広げて普遍化するということを十分に警戒しなければならぬと思いますので、このような政令憲法違反でない、現行憲法範囲内において行なわれるとするならば、その限界をどこに求むべきかという点をお聞かせいただきたいと思います。
  13. 小林直樹

    小林参考人 私たちの持っております今日の憲法が、そもそも緊急権制度について何事も語っていないということの意味はどこにあるかという問題に触れるかと思いますけれども、ただいまの御質問に対して、そういう根本理論からやりますことは大へんでありますので、これの結論だけから申し上げますと、憲法緊急権制度について何事も語っていないというその沈黙の態度は、私は、単にそれは戦前の明治憲法のもとにおける緊急権的制度人権保障にとってはなはだ危険だというだけではなくて、もっと積極的に、基本的な人権を守るために法治主義をあくまでも貫く必要があるという基本趣旨の上に立ってそういう沈黙を示したのだろうと考えております。そうだといたしますと、これは先ほど田上教授からもお話がありましたように、現行憲法のもとにおいて緊急権制度一般化するということはできないのじゃないか、少なくとも憲法改正を要するのではないかと考えます。それならば、ここで定められておりますような範囲要件等について、具体的に見るとどうかといえば、先ほど申しましたように、そもそもその対象そのものが基本的な、非常に重大な災害というワクの中に設定されている限りにおいて、要件をしぼれば、その要件は十分に立憲的なものとして有効に機能し得るものであり、   〔委員長退席、高田(富與委員長代理着席〕 その事柄の性質上、決して政治的な自由を中心とする人権問題に触れることはないであろうというところに、私の合憲的だと見る根拠があったわけであります。大体この線を、おそらくぎりぎり、と言いますとちょっと語弊があるかもしれませんが、この線においてならば基本的に認めていいのじゃないだろうか。理論上どの線までいいかということは非常に困難でありますけれども、具体的にこの法案が示しているような厳格な要件のもとでならば、基本的な緊急災害というワク内においては認めてもしかるべきだと私は考えたわけであります。ですから、法的手続というものを一般化してしまって、災害というような特殊な対象から外に持ち出して一般化するということは、違憲のおそれが十分にあるだろう。しかし、このワク内において要件をしぼっていくと合憲になり得るだろう、そう考えるわけであります。  もう一つつけ加えますと、これはちょっと大西教授の述べられました点に触れますので、一、二分だけ時間をいただいて私の考え方をつけ加えさせていただきます。  暫定措置として、こういう特殊な要件のもとで緊急政令をなし得るという特殊な制度で、非常に注目されると思うのですが、そういう暫定措置的なワクを越えまして、授権作用を拡大いたしますと、国会にそもそも立法権を独占しておくべきだという憲法の考え方は非常に大きくそこなわれてくるだろう。これは先ほど言いましたような法の支配原則にそむくという言い方をし、政策的にも反対でありますし、憲法解釈学的にもこれは当然改正を要するような重大な事項であると思いますが、なぜそうかと言いますと、単に、憲法が明治憲法のもとにおいて認められてきたような緊急権制度を否認するような立場であるという、その事柄だけでなくて、実は外国制度がかくかくにあるから、日本においてもそれを移入してもいいじゃないか、あるいは諸国の憲法がどこでもとっておるような緊急権体制をとらないということは、かえって立憲制度を守る上から見て不合理ではないだろうかというような疑問が一方にあるのでありまして、その疑問を突き詰めていきますと、大西教授が言われたような、今日の憲法のもとでもこれを改正してそういう制度を作った方が妥当だという見解に達するかと思うのであります。しかし、制度を単に制度として比較するということは、ほんとうの意味の比較ではなくて、逆に、その制度のもとにあって、それをいかにして具体的に行使するかという国の事情とか、国民憲法意識とか、あるいは権力の従来までの伝統的なあり方、すべてそういう諸要件を比較して考えないと、非常な危険があるのではないだろうか。その意味緊急権制度は、その比較は格別な慎重な配慮を要するのではないかと私は考えております。それにもかかわらず、緊急事態が生じた場合一体どうするのかという疑問はどこまでもつきまとって参りますけれども、法治主義の原則を貫いて今日憲法の持っておりますような参議院の緊急集会——見方によっては非常になまぬるい制度しかないという点に心配をされる方々が多いと思うのですが、そういう制度ワク内において、最大限可能な限りの手段を尽くしていくほかないだろう。そういう点で、ここで見られたようなワクをしぼった仕方での制度を一応認めておるということは、私は合目的的であるだろうと思います。しかし、そのワクをこえるということは、憲法的には許されないし、政策的にもどうも賛成しがたいと考えております。繰り返しになりますけれども……。
  14. 小澤太郎

    小澤(太)委員 憲法論としてはいろいろあろうかと考えます。少なくとも当面のこの法律としては、ただいま小林先生の御見解の、ワクの中で十分合憲性があるということでございますが、むずかしい議論は私ども不得手でございますので、今後もいろいろお教えをいただきたいと思います。  もう一つ、大西先生にお伺いしたいと思いますが、先生最後につけ加えられました、こういう非常政令でなしに、国会の開会中等におきまして、国会の法治主義が遅滞するというおそれがあるということでございました。そのようなことは万あるまいと思いますけれども、かりにそういうことがあるということが万分の一にも考えられるということになりますならば、むしろ非常政令というものの方が手っとり早いというような感じがするのでございまして、そのようなことになれば、きわめて重大な問題になるわけでございますが、先生憲法草案を前からいろいろ拝見しておりますが、先生の草案の第七十条第七項に、政府法律案の議決が緊急を要するということを宣言した場合には、国会はすみやかに議決をしなければならないというような項目を添えておられますが、おそらくこういうときの用意ということでございましょうが、このようなことをしなければならないというふうに——その実際上の必要性等はあるいはあるかもしれませんけれども、そのようなことでもって国会立法権に対する制限をするというようなことがやはり必要であるかどうか。緊急非常事態等の、天然災害の場合におきましてもそういうふうにお考えになるかどうか、この点をお教えいただきたいと思います。
  15. 大西邦敏

    大西参考人 私は、もちろん基本人権というようなものが非常に重要であり、国会が実質的な意味における法律を制定する権限を独占すべきであるという点については、これは疑わないのでありますが、ただ基本人権を守るということのみに没頭することによって、この非常事態が生じた場合、非常に混乱を生じ、それがやがては公共福祉を非常に害する結果を招くということになることを、われわれは阻止しなければならない、こう考える。それで非常に急を要するような場合には、政府がその法律案の緊急を宣言した場合には、一定の期間内に国会がこれを議決しなければならぬ——議決しなければならぬというのは、否決もできるし、修正もできるわけであります。その点、何も国会の権限を制限したわけではないので、ただ早く決を出してくれという体制まで必要じゃないか、私はかように考えております。  それから問題の政令は、国会開会中であれば、このような政令は出すことができない。立法措置をとらなくちゃならぬ。その立法措置をとる場合に、ただ実際にどういう事態が起こるかもしれない。たとえば議事堂が崩壊するということはないだろうか、一切の交通機関が途絶するということはないだろうか、また大雪のために、議員が議事堂に参集しようとしてもできないような事態が起こるかもしれない。そういうような場合に、どうしても立法措置を必要とするということになると、応急の措置はとれないのじゃないか、そういう点もやはり配慮しておかないと、せっかくこのような重大な法律案が制定されたにもかかわらず、実際にはなきにひとしい結果が起こるということも私は憂慮する。私ども、そういう非常事態が生じた場合にどうするか、これの対策はぜひ平時において確保されておらなければならぬ、これを痛感するものですから、きょう申し上げたような私の議論が生ずるわけであります。
  16. 高田富與

    ○高田(富與委員長代理 松井誠君。
  17. 松井誠

    ○松井(誠)委員 小林参考人最初にお伺いいたしたいと思います。  私も、この改正案緊急政令そのものというよりも、むしろこれが一般化されるということに、より大きな関心を持っておるわけなんであります。そういう意味で、現在でも警察法には非常事態の宣言というものがあり、あるいはまた自衛隊の緊急出動というものがあり、従ってそういう治安のための緊急政令というものは、制度的に何か隣に来ておる、そういう姿になっておると思います。従って、ここでこういう緊急政令ということを認めることによって、そういう治安のための緊急政令に門を開いてやる、そういうことになりはしないかという危惧が一番大きいわけであります。そういうことによって憲法の一角をくずす、われわれはそういうことに絶対に手をかすわけにいかないと思います。そういう意味で、先ほど先生がお答えになりましたけれども、あらためてもう少し詳しくお伺いしたいのですけれども現行憲法では緊急権というものについて沈黙をしておる。その理由というよりも、結論だけをお述べになりましたけれども、しかし、それにもかかわらず、この緊急政令というものは立憲的に機能し得るから、これはいいんだという御説明でありましたが、そうすると、それをもっと拡大した治安のためのたとえば緊急政令というものは、立憲的には機能し得ないのだ、今日の日本憲法とはそぐわない、なじまないのだと言われる理由というものを、もう少し詳しくお教えいただきたいと思うのです。
  18. 小林直樹

    小林参考人 緊急権制度というのは、御承知の通り実は立憲体制を守るために作られると説明されております。どこの国においても、憲法基本的な秩序のワク内では処置できないような異常な事態というものを考えるならば、それに法的に対処できる道を開いておかないと、かえって立憲秩序をそこなうような可能性があるから、たとえば問題となります緊急政令のようなものにいたしましても、一定の区域を限り、一定の時間を限って、そうして究極的には国会のコントロールのもとに置くというような仕方でやっていくことが望ましい。そうすることの方が、いわば立憲秩序を一元的にしておくだけでなくて、一つの円周の外側にもう一つ円周を描いて、合憲的な道を開いて、いつもそこからはみ出ないようにしておくことが、異常事態に対処していく上に望ましいと考えているからだと思います。従来のすべての緊急権制度をめぐる立論の基本的な趣旨は、そういうところにあると思うのですが、これに対しまして、もう一つ非常に重要な事柄は、何といってもそういう例外的非常的な手段であるにもかかわらず、それが権力の乱用という憂いを常に帯びているということにあると思う。実際にヒトラーがワイマール憲法をじゅうりんしたときに、彼がナチズムの暴力だけでなくて、ワイマール憲法の四十八条でありましたか、大統領制度の緊急権的な制度をまさに利用いたしまして、学者の言葉をかりますと、その橋の上を渡って政権を奪取して行ったと言われておりますけれども、こういう手近な幾つかの例を見ていきますと、立憲制度を守ると称する緊急権制度そのものが、実は命取りになるという可能性が非常に大きいわけでありまして、憂慮すべきことは、非常事態に対処し得るかどうかということよりも、その名をかりて立憲秩序を根底からくつがえすおそれの方が大きいのではないか。とりわけ国民の名におきまして、緊急権制度において定められているいろいろな要件権力の側でじゅうりんしたときに、それをきびしく批判し、もとの正常な立憲体制の状態に返すという復原力がないときには、その危険は絶大なものになるのではないだろうか。こういうことを考えてみますと、今日の日本国憲法がこれについて沈黙をしているということは非常に積極的な意味を持つと私が先ほど申し上げた意味が理解されるのではないだろうか、つまり、法治主義をあくまでも貫き、基本的な人権を尊重するという建前のもとで国会立法権を独占している。この状態は、時には民主主義というものは時間を食いますし、あるいは非常なむだな労力を要求いたしますから、非常にまだるこしいことがあるかもしれませんが、その弊害よりも、緊急事態に訴えて便宜の手段を与えておくということによって生ずる弊害の方が大きいのではないだろうか。国民立憲体制にいつでも引き戻そうとするところの非常に権力的な復原力がある場合には、なるほど緊急権制度の方が役立つかもしれませんが、乱用の危険がはるかに大きいということが、今日の憲法緊急権制度を取りはずしてしまった基本的な理由であると私は考えております。そういう意味において憲法の精神をくむならば、あくまでも法治原理を貫いて、多少の時間はかかりましても、国会自身が基本的にすべての問題に対処していくという行き方を守らないようになりますと、治安のための緊急政令というものに門を開く結果、根こそぎに立憲体制がくずれ去るおそれがあるのではないか、こういう憂慮を、私は初めに申し上げましたように持っているわけであります。若干不備かもしれませんが、なお問題がありましたならばお答え申し上げます。   〔高田(富與委員長代理退席、委員長着席
  19. 松井誠

    ○松井(誠)委員 そういたしますと、繰り返すようでありますけれども日本憲法緊急権制度を認めてないというか、それについて沈黙をしておるのは、そういう国民の立憲的な復原力と言いますか、そういうものとの関連で緊急権制度というものを認めないのだ、そういう立憲的な復原力がない限りにおいては認めない。ところが、この改正案にあるような緊急政令ならば、まさに憲法ワク内で立憲的に機能し得るという保障があるから、これはいわば特殊例外な緊急権の制度なんだ、手っとり早く言えばこういうような御趣旨になるわけですか。
  20. 小林直樹

    小林参考人 私の述べ方が若干つたなかったせいもあるかもしれませんが、復原力というのは、基本的な人権を守るという趣旨の一つの条件でありまして、それだけから今言ったような結論が出るわけではなく、やはり法治主義をどこまでも貫くということから緊急体制を持たないという制度になっていくような制度だと思うのですが、そういう建前で出ているのではないか。もう一つ副次的には、通常の場合に、たとえば戒厳令の例をとってもわかりますように、戒厳令を具体的に施行し得べき強制権力と言いますか、もっとはっきり言いますと軍の力というものが予定されているわけでありますが、日本国憲法は、第九条のためにそういう軍をそもそも持たないということがありますので、それとの関連におきましても、フランスやドイツ、あるいは先ほど田上教授からもお話がありましたように、英米等に見られるようなそういう軍事的な意味の緊急権体制というものを初めから予想しなかったと考えられます。でありますから、人権を守るという線と、第九条の線と、その背後には、さらに先ほど言いましたように国民の状況というようなものと、幾つかの条件が重なり合って日本国憲法が緊急権を持たないということになっているのではないだろうか、そう考えます。
  21. 松井誠

    ○松井(誠)委員 同じことをお尋ねするわけですけれども、そうすると、日本国憲法では、九条の関係で、軍事力というものを背景にした緊急権制度というものは予想していない、これはよくわかるのです。そういう意味で軍事力を背景にした緊急権というものはないということは、憲法自体からもわかると思いますけれども、今先生がおっしゃったような法治主義の原則、法の支配ということが憲法原則であるとすると、この改正案における緊急政令というものも、そういう意味では例外になると思う。しかし、それにもかかわらずこの場合は、立権的に機能し得るからいいんだとおっしゃいますので、ですから、一般的にはいけないのだけれども、なぜこれだけは、いわばこれがぎりぎりの限度として許されるのかという理由、それがどうもまだよくふに落ちないものですから、さらにお教えを願いたいと思います。
  22. 小林直樹

    小林参考人 ただいまの御質問は全くもっともだと思いますが、これは最初に申し上げましたように、この法律案の第百五条に示されております通り、「非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、」という基本的なワク組みがありますから、これは政治的な事由とかあるいは人為的事件とは性質が異なった状況のもとにおいて規定されているものだと見てしかるべきではないか。田上教授は、これは経済的問題という側面からとらえられましたけれども、そういった表現はとにかくといたしまして、必要がある限り暫定措置をとり得る前提条件として、人権に触れないような性質の問題だと見ていいのではないかと考えたのが、私の結論に到達した根本的な理由であります。従って、ここで百五条において述べられておりますような基本的な条件と言いますか、そういうワクを取り払って、なおかつ暫定措置としてではあっても、ここに認められているような緊急政令を承認するということになりますと、これは御質問にありましたような憂慮と言いますか、そういう心配が出てくるのは当然な事柄であると私も考えております。従って、要件をしぼってあるから合憲的だというだけではなくて、その要件が十分に機能し得るような前提基本的なワク組みがあるから認めるべきだ、認めても差しつかえないのではないかと申し上げたわけであります。
  23. 川村継義

    ○川村(継)委員 ちょっと関連して。今の小林先生のお話よくわかりましたが、関連して一言今の点をお尋ねしておきたいと思いますが、ぜひ明確にお教えいただきたいと思います。  それは先生のお書きになりました「日本国憲法体系」の中に、緊急権についてお書きになっておられるのですけれども、そのお言葉の中にいろいろずっと書いてございます中に、「第一二、一三条の「公共福祉」を手がかりにして、法律的に緊急権制度をつくることも憲法の精神の認めるところではない」、このようにお述べになっておられまして、いわゆる憲法に緊急権の規定のない理由を平和主義に求めておる。緊急の名における権力の拡大集中を許さない、こういう考えに立っておられるようでございます。つまり参議院の緊急集会が限度である。このようにお考えなさっておるということを伺っているわけでございます。今度この災害対策基本法緊急措置は、これはこの事態において、このいろいろな基本的なワク内において、またこれが自然的な何とかしてやらなければならぬ問題であるというので、これは認めるべきである。このようにお話を承っておりますが、率直に申しまして、結論は、結局憲法の解釈からいくならば、緊急権というものは政府にゆだねるべきでなくて、緊急集会が限度である。しかし、この災害基本法に示しておるような問題は、いわゆる自然的な事態に対処するものであるから、その限りにおいてわれわれは許さなければならない。このように結論づけているのでございましょうか、ちょっとその点を明らかにお教えいただきたいと思います。
  24. 小林直樹

    小林参考人 現行憲法の解釈という問題と、それから憲法ワクを乗り越えた政策という問題と若干交錯してくるような、非常な微妙な問題がありますので、答えにくいこともあるのですが、これも結論だけから申し上げますと、この法案で示されるような緊急権的措置は、治安のための軍隊出動といった戒厳令的なものの要素を全然含まないということで、平和主義の原則とは無関係に成り立つ。それからもう一つ、人権の問題になりますと、繰り返しになりますが、基本的には非常災害という特別な条件のもとで、このワク内においてのみ認められる事柄でありますから、政治的事由とかあるいはイデオロギーから生じたようないろいろないざこざとかは、どれほど大規模になってもこれによって取り締まられることはないだろう。それから経済的な問題については、これは田上教授が述べられたことと全く私は同意見でございまして、今日の二十世紀憲法が、社会国家としてあるいは社会福祉国家として要求しているところの財産権に対するある一定の範囲内での干渉ということは当然認めてしかるべきであるから、その原則に立って言うならば、二十九条等に対する抵触の問題はないだろう、二十九条についての憲法違反の問題はないと考えております。それから、ほかの点で憲法二十七条がありますが、これも立法趣旨そのほかを読んでみますと、決して恒常的な特例というものを作り出すべきではなくて、全く限られた範囲、限られた性質のものだと述べられておりますので、そういう意味では、必ずしも二十七条違反にはならないだろう。  そういう点で、個々憲法規定に照らしましても、この要件は、制度ワク組みの中でならば認めてしかるべき性格を持っているというために、現在の憲法の、緊急権制度基本的には持たないのだというシステムとはまっこうからぶつかることがないのではないだろうか。法の支配原則を否認するという、それほどの性格を持つものとは言いがたいし、むしろ、その必要性を認められている限りでは、こうした要件のもとで国民生活、国の経済の秩序を維持し、公共福祉を確保する目的のもとで、こういう措置を設定するということは認めていいのではないだろうか。ただし、その限界、政治的事由の問題に触れるような問題の限界というものは明確にしておかなければならないということを私は申し上げたわけであります。
  25. 川村継義

    ○川村(継)委員 ありがとうございました。それから、ちょっと問題が外にそれて恐縮でございますが、もう一つお聞かせいただきたいと思います。  今の点につきましてはよく理解ができたのでございますが、同じような緊急事態措置が警察法にも実は出て参っております。それから自衛隊法にも治安出動の条項等が出ているわけでございますが、警察法の規定する緊急事態措置などは、手続の形式はこれとよく似ておりますが、内容が治安的なものでございますが、これらについて先生方はどのようにお考えなさっておりますか。
  26. 小林直樹

    小林参考人 非常にむずかしい問題でありますが、これは公共福祉という言葉を一体どう解釈するかという一般的な問題と関連していると思います。この法律案の中にも公共福祉のためにという、多少正確に解するならば突っかかる点がございますが、警察法そのほかの場合についても、憲法が予想しているワクを出るかどうかという問題は、緊急出動について十分出てくるのではないか、特に自衛隊法の場合にはかなりな疑義を持っているわけであります。しかし、憲法の解釈において、第九条違反という問題は別といたしまして、積極的にそれが合法的に存在するところの権力手段というものが、要件さえしぼっていけば、憲法ワクを破壊するようなものにならないという線はありはしないか、理論上あり得るだろう、そういう線の上にあるか、あるいは外にあるかということは、個々の視点の相違によって若干異なってくるのではないだろうか。私は、かなり疑わしい問題も部分的にはあるかと思うのですが、警察法等については、事柄の性質上、どうしてもそれを認めておかなければ、逆に必要なものさえも——何が必要であるか、そもそも問題の対象になるかもしれませんが、どうしても必要な国民の生活のためのぎりぎりの一線というものを守るような事態のために、警察法が認めているような出動の要件憲法違反ではないという結論は十分成り立つと思います。第九条に関係いたします自衛隊法になりますと、これはもういろいろな価値判断そのほかのものが混入して参りますから、今言ったようにすっきりと言い得るかどうか疑問でありますが、私が考えておりますような憲法解釈上、大体参議院の緊急集会というものを中心とした一種の緊急権と言いますか、前緊急権的な手続を認めたワクをなるべくはみ出ないような立法措置というものはすべての場合に望ましい。この事例のような場合においても、その点で十分慎重な審議をいただきたいと思うわけでありますが、事の性質上、その論点に限ってこれを認めたわけであります。はなはだ不十分かもしれませんけれども……。
  27. 田上穰治

    田上参考人 ただいまの御質問、私に関係なかったかと思いますけれども、御承知のように警察法は、警察の組織に関するものでありまして、国民に対する権利を制限する警察権の発動についての特例を認めた条文は、警察の緊急事態には入ってなかったと思いますから、今回のはあまり関係ないように私考えております。
  28. 松井誠

    ○松井(誠)委員 今ちょうど田上先生からお答えがありましたので、これは小林先生田上先生のお二人にお尋ねをしたいのでありますけれども、警察法の非常事態緊急事態でしたか、それの宣言そのものは、今言われたように、警察官の指揮系統が変更されるだけで、国民の権利義務に直接の関係はない。従って、その限りではさして問題にするほどのことはないと思うのですが、この改正案災害緊急事態布告というのは、いわば緊急政令を出す前提としての意味があると思うのです。従って、警察法のような緊急政令というものがすぐあとにくっついてこない制度と違いまして、いわば緊急政令前提としての、前の段階としての重要な意味があると思いますので、その点でちょっとお伺いをいたしたいのでありますが、この災害緊急事態布告そのものは、布告を発するときには、国会の開会中であっても国会に付議をする必要がなくして、発した日から二十日以内に国会に付議をする、百六条にそういうようになっておりますが、国会の開会中であるにかかわらず、国会には諮らなくてこの布告を発する。そして布告を発してから、緊急集会とかそういうものを求めなくて、その次の国会で承認を求めるということで、布告を発する条件あるいはその承認を求める事後の措置というものが、緊急政令の場合と違って非常にゆるやかになっておるわけであります。国会の開会中であるにかかわらず、国会と無関係にこういう布告がなし得るということ、これは先ほども言いましたけれども布告そのものは直接の権利義務には関係がありませんが、あとですぐ、布告を出すということが緊急政令を出すという前提になるという意味では、もし一体として考えなければならないとすれば、この布告というものもやはり国会の同意にかかわらしめる、そういう方法が必要なのではないか。そうすることが緊急政令というものを最小限度にとめるという一つの必要な条件を作ってくるのではないのだろうかということを私は考えるのですが、この点、お二人の御意見を伺いたいと思います。
  29. 田上穰治

    田上参考人 ただいまの御質問でございますが、御承知のように、災害緊急事態布告効果といたしましては、直接は緊急災害対策本部ができることであって、それも実際は非常災害対策本部と比較いたしますと、その長が内閣総理大臣である、その他の国務大臣ではなくて、内閣総理大臣である、あるいは副本部長は国務大臣をもって充てるという点であろうかと思います。ただいま御指摘のように緊急措置、つまり百九条の緊急措置前提として百五条の布告が必要であるということはその通りでありますが、しかし、緊急措置につきましては、御承知のように百九条で、国会の閉会中または衆議院が解散中、その他のことが要件としてあがっておりますから、緊急措置の点を一応はずしまして考えますと、緊急災害対策本部の関係でありますと、ちょうど警察法の緊急事態のように、主として行政当局の組織、体制を幾分強化するということでございまして、直接国民の権利を制限する行政権を発動する、その効果についての特例ではないと思いますから、一応この法案でよかろうと私は考えております。憲法第三章の人権の保障との関係という問題になりますと、できるだけ慎重に考えるべきだと思いますが、これは主として百九条の方の問題であろうかと思いますから、そこに国会の閉会中その他の要件が出ておれは十分だと考えております。
  30. 小林直樹

    小林参考人 御質問のような憂慮は十分にありますので、その点はこれからの御審議の上でも御検討いただくように私も希望しておりますが、結論を申し上げますと、今の田上教授の御意見と同じように、権利義務に関係するという具体的な事柄は百九条にしぼられてくるのではないだろうか。だから百九条の要件をふんまえた上で考えますと、多少ルーズに見えるような布告要件も、直接の侵害を生ずる心配はあまりないのではないだろうか、そう考えて私もあまり問題にしなかったわけでありますが、もし、そういう憂慮があるといたしましたなら、御審議の過程でもう一度十分検討されることを個人的には期待しております。  私、時間の関係で……。
  31. 園田直

    園田委員長 小林参考人に対する質疑はもうよろしゅうございますか——。実は、急にお願いしたものですから……。
  32. 小澤太郎

    小澤(太)委員 たびたび御質問申し上げて恐縮ですが、先ほど現行憲法とこの改正法との関連におきまして、違憲であるかどうかということについてのお教えをいただいたわけでありますが、私は御意見ごもっともだと思いますが、今後非常権というものをいろいろ拡大されてと申しますか、だんだん変更されていくという懸念が十分ございますが、そういう面から考えましても、現在の憲法がこの非常権について沈黙を守っておるということ、それがかえってこのような——非常に国会が慎重にやりますから懸念はございませんけれども、いろいろこの思いをめぐらせますと、その面からかえって、あしたに一城夕べ一廓という形でいく可能性も全然なきにしもあらず、こういう見解に立ちますならば、むしろ憲法におきまして——これは憲法論になって恐縮で、少し的が変わってきますけれども憲法におきまして、ただいま小林先生あるいは田上先生のおっしゃったような、その精神が盛り込まれた非常権というものを規定する必要がむしろあるのではないか、このように私ども考えます。そのことによって、また先生憂慮されておりますような事柄が明確に国民に示される、そうして国会立法権が尊重される、政府との間の限界が明確になる、こういうふうになると思います。日本の法治主義というものが貫き通せられて、結局、民主主義を守るということになるのではないか、こういうふうに考えますが、その点についての御見解はいかがでございましょう。
  33. 小林直樹

    小林参考人 ただいまのような御意見が成り立つ余地は十分にあると私も考えます。先ほどもちょっと言いましたけれども緊急権制度を作ること自体が、たとえば今日の西ドイツにおいてもそうでありますように、ほぼ同じような根拠から出てきているわけでありますから、日本国憲法の場合においても、同様な理由で緊急権制度を考えてしかるべきだということはあり得ると思うのです。しかし、その範囲を一体どこに限るかということになりますと、たとえば明治憲法が設定しておりましたような、明治憲法第八条とか、あるいは七十条、十四条の戒厳令、特に終戦の最後まで一度も使われなかったというような大規模な三十一条といったようなもろもろの制度があったわけですが、そういった制度を一体どこらぐらいまで具体的に取り入れるかということになりますと、その理論的な一線というものはないわけであります。つまり、ここまでやったならば最も望ましいという線はない。最大限度の非常事態ということを考えれば、明治憲法と同じように第三十一条まで持ってきても理論上ちっともおかしくないという、そういう主張さえ出てくるのじゃないだろうか。そう考えますと、そもそも限界というものは非常に引きにくい問題だということが考えられます。それから、もし非常権を非常に具体的に厳格にしぼって憲法の上に掲げる、だれしも、どんな権力さえも乱用し得ないように厳格にしぼるということになりますと、今度は、そういう非常権のもとで実際にそれによって緊急事態を処理していくというようなことはむしろできにくくなる場合さえもあり得る。あまりしぼり過ぎると、制度そのものが非常にかたいものでありますから意味を持たなくなるだろう。そうなりますと、かえってその制度自体をうちこわすような、あるいは乗り越えるような事態さえも生じないとも限らない。逆にこれがルーズになりますと、これは非常に危険でありまして、いつ何どきでもその条項に基づいて特定の野心家あるいは野心的な思想を持ったグループが、その緊急権を根底から破壊しないとも限らない。繰り返し述べておりますように、緊急権制度の一番大きな欠陥はそこにあるわけでありますから、決して憲法を守るための城塞になるときめ込んでしまうのは、どうもできないのじゃないだろうか。むしろ、それを破砕する爆薬にもなるのじゃないかということを考えますと、今日の憲法は非常にあいまいに見えたりあるいはおぼつかないように見えるかもしれませんけれども、その意図しているところは非常に高いところにあるのじゃないだろうか、私はそう思っております。
  34. 園田直

    園田委員長 小林参考人はよろしゅうございますか。——それでは小林参考人、どうもありがとうございました。
  35. 小澤太郎

    小澤(太)委員 田上さんにも一つ……。
  36. 田上穰治

    田上参考人 実は、先ほどから私も申しましたけれども、緊急権という言葉が確かに今この法案と関係がないわけではありませんが、少し表現がきついような感じもいたします。と申しますのは、広い意味においてはもちろん緊急事態に関する法案でございますから、緊急権と学問的に考えてよいと思っております。しかしこれを狭い意味に考えますと、緊急権とかあるいは非常事態の法制ということになりますと、司法権による監督、コントロールがはずされる場合が多いのでございます。たとえば軍隊を持っておる国でありますと、軍法会議のようなそういう特別な裁判所で一般の人民を裁判するとか、あるいは人身保護の特権を停止するというようなところまできて、法の支配特に裁判所が、最終的に法律が行なわれているかどうか、国民の権利が十分守られているかどうかということを、もはや責任を持って審査をし、そしてこれを維持することができなくなる。そこまでくると、これは非常時のためにやむを得ないというわけでございますが、非常事態の特別な法制ということになるのでございます。この現在審議になっております法案は、そこまで極端というか深刻な法案ではないのでございまして、ただ普通の法律に比べますと、政令委任している範囲が幾分広い、だからこれはあるいは包括的な委任一種である。これを日本憲法で申しますと、九十四条で条例を制定する場合、法律範囲内において地方公共団体が制定できる。ところが七十三条の方の政令でありますと、罰則などは、法律委任によって罰則を制定できるのでありまして、この委任という場合と法律範囲内という言葉づかいがございますが、そこにかなりの違いがある。いわばこの今回の法案などは、厳密な意味委任というよりはもう少しゆるやかになりまして、むしろこの法律政令規定する事項ワクをきめている、むしろ法律範囲内においてやや独自な立場で自主的に政府政令を作ることができる、こういう意味合いを持つと思うのでございます。そうなりますと、これは本来厳密な意味委任とは程度の差であって、非常緊急事態に対応しましてどの程度法律ワクをゆるめて、やや広い範囲政令を個別的な場合に制定することを認めるのか、そういう問題になるかと思うのでございます。その場合に、先ほどからいろいろ御議論を伺っておりますと、肝心なのはやはり国会のコントロールというものがはたして維持されるかどうかという点でございまして、広い範囲政令を作ることを認め、それに一切まかせてしまって、国会はあと何もものが言えないということでありますと、いわば立法権の放棄である。憲法国会を唯一の立法機関としたのに、実際は一定の範囲をきめまして、その範囲では全く政令というか内閣の方に立法権を譲り渡してしまって、あとは国会はその限度では憲法上の権限を失う、みずから放棄する、そういうことになりますと、違憲になるのでございます。ところか今回の法案は、そういう点は十分に御考慮になっており、臨時会の召集あるいは参議院の緊急集会をすみやかに求めて、そこで正常な法律の姿に政令を変えるということになっているのでございますから、国会のコントロールは十分維持されておるのでございまして、その意味で私は、法の支配あるいは日本国憲法の四十一条の、国会が唯一の立法機関であるというこの原則が貫かれていると思うのでございます。考え方としましては、でありますから、私はこの憲法第三章との関係では、この法案もやはり公共福祉制限の一つの場合と考えてよかろうと思います。公共福祉ということを広く考えると、行政権の乱用になるおそれがございます。しかし具体的にどの程度公共福祉によって、このような経済生活経済的な自由を制限できるか、これは第一に国会の良識、国会の立場においてお考えになり、法律でこの程度ならば憲法趣旨に反しないということをおきめになるわけでございます。第二は、そのような政令立法権を付与している法律が合憲かどうかということを裁判所が審査する。だから国会の自主的な判断と事後に裁判所が審査を行なう、そこでどの程度まで憲法委任できるか、どの範囲まで政令委任できるかということがきまるのでございます。それを憲法規定の上で明確にするとか、あるいは学問上明確な線を引くということは実は困難でございます。むろん抽象的には申し上げられないことはございませんが、必要の程度に応じて幾分その限界は弾力性を持つ、つまり非常災害の規模あるいはその程度によりまして、これに対応する措置も変わってくるのでございまして、一方で適用される場合を非常に狭くしておりますると、今回の法案のようなこういう場合でありますると、幾分通常法律政令委任する範囲よりは広くなることも憲法上許される、憲法上というよりもむしろ公共福祉という立場から認められると思うのでございます。繰り返し申しますが、そうなると、一般の警察関係の法規と同じように、あまりこれをルーズに考えると、行政権が乱用されて人権の保障を危うくするという御懸念があると思いますが、この問題は、結局繰り返し申し上げますが、憲法の上では、国会の権威と裁判所の事後の審査、これによって妥当な線を出すべきものと思うのでございます。ところで、この法案国会のコントロールが十分明記されておりまするし、また裁判所の審査を排除するような意味合いは持っていない、こう考えまするから、その意味において憲法には反しない、こう考えております。
  37. 小澤太郎

    小澤(太)委員 どうもいろいろ詳しく御説明いただきましてありがとうございます。私がお尋ねしたのは、実は少しこの趣旨とは方角が違うわけでございますが、今のような御議論から今度振り返って、先ほど先生現行憲法に、非常命令については一切これを規定する必要がないのだというお話がございましたが、先ほど私が申し上げましたような意味におきまして、憲法の精神を明確にする意味において、むしろこの際そのような非常命令ができるような規定を設けた方がかえっていいのではないか、こういうような気がいたしますので、この点についての御見解を伺いたい、こういうことでございます。
  38. 田上穰治

    田上参考人 御質問趣旨を少し取り違えておりまして恐縮でございます。  私は、憲法を改正してそういうふうな規定、いわば今回の緊急措置あるいは緊急政令の根拠を憲法上明確にするという点でございますと、実はそういうふうに憲法を改正することに反対ではないのでございます。ただしかし、先ほどから申し上げておりますように、フランスにおきましても、イギリスにおいても、あるいはアメリカにおいても、特別な非常事態についての憲法の根拠なく、実際には法律によって今回の法案よりもはるかに広い範囲の非常時の特例を認めているのでございます。それがよいか悪いかは別にいたしまして、そういうことになりますと、憲法を改正しなくても、日本現行憲法のままで大体非常事態に対処することには支障がない。ただその場合にも、繰り返し申し上げますが、そういった外国判例なりあるいは制度に便乗して、それと同じように広い範囲わが国において非常事態の法制を考えてよろしいかというと、それが適当かどうかということになると、非常にこれは議論の余地があるわけでございまして、憲法上は必ずしも私は改正しなくても不可能でないと考えておりまするが、しかし憲法上可能だということが常に適当な立法であるか、政策的に見て適当であるかというと、そうはいかないのでありまして、それはやはり具体的な場合、特に政府権力を乱用しないようにということを慎重に考えながら、どの程度ワクで非常緊急措置を認めるかということは国会が御決定になるべきであり、また国会の御決定に対してあるいは裁判所、また学問的にわれわれもいろいろな意見を述べる機会があるかと思いまするが、そういう意味でさしあたって今すぐにこの問題で憲法を改正しなければならないとは考えていないのでございます。  しかし、憲法改正の議論をここで申し上げるような、そういう場所かどうかわかりませんけれども憲法九条などに関連して、たとえば自衛隊の防衛出動のような場合になってくると、これはそう簡単にいきませんし、特にまた先ほど申し上げた人身保護というか、その特権を剥奪する、つまり身体の自由を拘束するような、そういう本来の伝統的な自由権、国民基本的な権利、その保障を停止するというようなことになりますと、これはかなり憲法上は疑問があるのでありまして、むしろその必要があれば、疑義を払拭ずる意味におきまして明文の規定憲法に入れる必要があるのではないか。しかし現在私は、さしあたってそういう必要な事態が予想されるとは思わないのでありますけれども、もしそういう必要があるならば、現行憲法ではまかなえないというふうに考えております。
  39. 園田直

    園田委員長 松井誠君。
  40. 松井誠

    ○松井(誠)委員 田上参考人に二点だけお伺いいたしたいのですが、あと詰まっておりますから、簡単にお尋ねいたします。  それも今のお答えで大体尽きるかもしれませんが、一つは、先ほど先生が言われましたこの改正案経済的な自由の問題なのであって、人身の自由だとか政治的な自由だとかいうものに関係がないということを、合憲の一つの理由にされたようでありますけれども、治安のためのいわゆる緊急政令というものが、そういう人身の自由なり政治活動の自由なりというものに直接関係がある、従って治安のための緊急政令とこの改正案が考えておる緊急政令とは、緊急政令一般という形でなくて、やはり相当違うものだ、いわば質的に違うものだというふうに考えていいかどうかということが一点。  もう一点は、やはり今お答えの中にありましたけれども、他国の制度がこうだからということですぐ日本に持ってくるわけにはいかない——先ほど小林参考人が、ワイマール憲法とナチスの例を引かれて申しましたけれども、他国の制度をそのまま日本に持ってくるわけにいかないという理由の一つは、国民のそういう立憲的な小林先生の言葉を使えば復原力、そういうものとの関係で考えなければならないのだという理由なのかどうか。その点を一つお教えを願いたいと思います。
  41. 田上穰治

    田上参考人 ただいまの御質問でありますが、一つは、経済生活につきましては現行憲法公共福祉制限を特に明記してございます。御承知のように二十二条とか二十九条で、「公共福祉に反しない限り、」とか「公共福祉に適合するやうに、」というふうな言葉が書いてありまして、私どもは実を申しますと小林教授とはちょっと立場が違って、一般の、たとえば言論、表現の自由などにつきましても、やはり公共福祉制限を認めるものでございます。しかしそれは意味が違うので、二十二条、二十九条などにあります経済生活に関する公共福祉は、かなり幅の広い制限を認めるものと考えております。積極的に現状を一そうよくしていくための制限も可能である。ところがそういった政策的な意味制限ではなくて、二十一条とかその他の一般の自由につきましての公共福祉というのは、消極的な現状維持の線でありまして、この問題はこの法案とちょっと関係がございませんから簡単にいたしますが、そういう意味で警察法規についても私は公共福祉を根拠にして憲法上説明をしているのでございますが、その意味合いが違っている。それは現行憲法規定の上でも区別されているということ、そしてまたこれは一般の二十世紀の憲法の趨勢でございますが、外国におきましても、経済的な自由については一般政治活動の自由などとは区別している。  ついで申し上げますが、現行憲法の三十一条では「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」とありまして、これはアメリカ憲法などにあります生命、自由または財産を奪われない、こうあるのと意識的に日本憲法は違えてある。つまり財産を奪うという——その法定手続の保障で、財産を奪われないというところは、日本憲法に出してないのであります。これは、アメリカ憲法が十八世紀の終わりに作られた条文でありまして、日本憲法は二十世紀の憲法でありますから、もう時代が変わっている。現在は財産、広く言って経済生活については生命、自由を奪う場合とは全く違うのであって、相当ゆるやかな保障になっているということがわかると思うのであります。それが今の御質問に対する一つの答えであります。  もう一つの点でありますが、私も松井委員と大体同じような気持でございまして、それはたとえばイギリスなどはもう六百年、七百年という立憲政治の訓練を経ておりますから、御承知のように憲法の明文の規定がなくても、民主政治あるいは法の支配が維持されるのでございます。日本の場合は遺憾ながらまだその程度には達していない。だから憲法規定の上にどう書いてあるかという条文の字句が絶えず議論されまして、明文になければそのことは認められないとか、書いてあるからそうだというふうな議論が非常に強いのであります。ところがイギリスアメリカ——アメリカは成文憲法でございますが、イギリスその他の国々では多くの場合に条文が必ずしもきめ手ではない。そういう国柄と日本制度と同一に論ずると誤解を生じやすいのでありまして、やはり民主政治の歴史が古い国とそうでない国とは事情が違っている。その意味で、先ほどちょっと申し上げましたが、外国の例は必ずしも無条件日本に持ってくることはできないと考えております。
  42. 園田直

    園田委員長 門司亮君。
  43. 門司亮

    ○門司委員 お二人の教授の方の公述を私は十分に聞いておりませんので、あるいは的はずれになろうかとも思いますが、最初に聞いておきたいと思いますことは、法律政令の関係については先ほどからいろいろお尋ねのあったことだと思いますし、また田上教授からかなり詳細にお話を伺いましたが、問題になりますのは、非常事態がかりに布告されまして、政令に一応ゆだねます。そして政令でいろいろなことを出して参りますと、それに違反した人の行為については必ず罰則が出てくるだろうと私は思います。そうした場合には、これが罰則の適用を受けて拘束される。それが裁判の結果でなければはっきりしたことはわからないことはその通りでありますが、そうした関係と、次にこれが国会に報告されて、かりに一部分だけでも国会がそういう事態を認めないという立場に立った場合のそれらの人たちの人権の保障は、国家賠償法というような形でこれが補償されるのかどうか、そういう点を一つお話願いたいと思います。
  44. 田上穰治

    田上参考人 罰則の点から申し上げますと、法案に出ておりますように、これは法律が直接に、政令違反に対してどの程度の刑罰を課するかということを規定しているわけでございまして、その限度は、法案の百九条の第二項では——大体地方自治法の十四条にございますが、条例違反に対して条例で罰する、二年の懲役、十万円の罰金というのが限度でございます。この点、地方自治法の十四条に基づいて条例が罰則を制定するということと比較いたしまして、政令罰則を認めていることは差しつかえあるまいと思うのでございます。ただしかし、はっきり申しますと、普通の委任よりは法律政令の関係がこの法案では少しばく然としている。でありますから、その意味では、法律と条例の関係に近いものと考えるのであります。でありますから、普通の政令では、こういうやや広い範囲政令を出し、またその違反に対して政令みずから罰則を設けるということは、憲法上疑問があります。けれども、この政令はその直後に国会に出して、国会審査を受け、そして法律に切りかえができなければ効力を失うとなっておりますから、その意味でこの要件がしぼられておるので、条例とも違い、政令ではありますが、憲法違反ではないと思っております。  それからもう一つ御質問の点の、国会でその政令にかわる法律ができなかった場合に、罰則を適用することはどうなるかというのでございますが、これは一応この百九条の第八項に出ておりますように、その政令効力を失う前に行なわれた罰則に触れるような政令違反の行為については、罰則の適用を認めることになっておりますが、それでよろしいのではないかと考えております。これはそうでありませんと、いわば国会臨時国会なり、あるいは参議院の緊急集会法律を作らなかった場合にさかのぼってその政令効力を失って適用を免れるような結果になるのであって、そうなりますと、根本において緊急事態における措置というものは実効性を失ってしまう。でありますから、これは御承知の緊急集会の場合の憲法規定にもそのような趣旨がございますが、過去にさかのぼらない、将来に向かって失効するのであって、この国会できまる前に政令に反した場合は、制度趣旨からいって刑罰を課せられてもやむを得ない、かように考えております。
  45. 門司亮

    ○門司委員 今、田上教授のお話でございますが、私は今引例されました地方自治法の関係で、なるほど地方自治体が一つの規則をこしらえまして、それに違反したものについては十万円以下の罰金とか、二年以下の懲役を課することができるということは地方自治法に書いてありますが、この場合における地方自治法の罰則を課することができるということは、これは憲法の第九十四条に基づいてこれが有権的なものになっておると思います。それは憲法第九十四条であり、地方自治体でも行政を執行する権能を与えております。ちょうど憲法の六十五条と同じような、いわゆる内閣行政権を与えたのとやや似たような形で九十四条に委任いたしておりますので、ここで法律にやや近い効力を持つものが私は認められていいと思いますし、また認められておる。ただし、それには制限を加えておる、こういう形であろうかと思います。そこで問題になりますのは、従って、直ちに、政令罰則を課するということが可能であるかどうかということと同時に、今申し上げましたような問題については、私もまだいささか疑問を実は持っておるわけであります。どうも地方自治法の十四条との関係、それから憲法の六十五条と九十四条の関係をずっと見てみまして、そして直ちにここで政令で定めることができるということは、実際はともかく明治憲法のときだと一応勅令が出て、その勅令の下にまた規則とかなんとかということで、こまかいものは、罰則その他はここで定めるというようなことで、勅令もきわめていいかげんな勅令が出ておったのでありますが、現行憲法ではそれは許されない。少なくとも憲法範囲でなければ国民の自由というものはそう拘束されるべきものではない、そう考えております。  こういう議論をいたしておりますと非常に長くなりますから、疑問は疑問としてこれから審議の過程で私ども検討いたしたいと思いますが、その前にもう一つお聞きしておきたいと思いますことは、この法律で定めております緊急事態布告し得る災害範囲でありますが、これはかなり実際の問題としては問題になろうかと思います。文章で書けば大した問題ではございませんが、これを実際にどう適用するかということになりますれば、かりに大正十二年の震災のように一つの地域でなくて、他の幾つかの地域が非常に大きな災害を受けて、全く人心の収攪もつかなければ経済の行為も不可能になっておるというような事態にこれを限られるのか、あるいはもう少し小さくして伊勢湾台風のようなものまでもここに入るのか、こういう問題が当然出てきはしないか、はなはだ迂遠のことを聞くようでありますが、この法律基本をなしております、また一番具体的にむずかしい問題だと考えられます激甚な災害範囲というものは、どの程度に考えたら一体よろしいかということでありますが、その点先生にお伺いするのはいかがかと思いますが、御意見がございましたら一応お聞かせ願いたいと思います。
  46. 田上穰治

    田上参考人 その点は、私はこの法案というよりもむしろ災害対策基本法規定を見ますと、非常災害対策本部というものが置かれる場合がある、これは大体私どもの理解するところでは、一つの市町村あるいは都道府県の区域でまかなえる、言いかれば市町村長なり都道府県知事が災害対策本部をもってまかなうような程度ではなくて、かなり広い地域、でありますから、少なくとも数府県にまたがるようなものを一応私は私なりに考えていたのでございますが、この緊急災害対策本部、あるいは災害緊急事態布告になりますと、それを上回ることが考えられる。法文の比較の上から上回らなければおかしいと思うのでありまして、その意味で伊勢湾台風というような具体的な例になると問題でございますが、私はあの程度ならば一応入るのではないかと考えております。なおしかし、もう少し勉強してみませんと、またこの条文は昨日拝見したところでございますから、あるいは私の考えが間違っていることをおそれるのでありますが、関東大震災はむろん入ると思いますし、伊勢湾台風の程度であれば入るのではないか、このように考えております。  それから、これは御質問があったかどうか、今おっしゃいました地方自治法十四条の関係でございますが、私は大体門司委員のお考えと同じ、そんなに違っていないと思うのでありますが、つまり憲法七十三条の第六号で法律委任によって政令罰則を設けることができる、あの規定のあそこに言っている委任というものは、九十四条の法律範囲内というよりはもっと狭いのであって、つまり委任する事柄は大体限られているというふうに考えるのでございます。従いまして、この法案の百九条でございますが、もしこれが国会にこの政令を出さない。罰則を作っておきながら、それはそのままであって、出さないというふうなことでありますならば、またその要件において相当範囲は広いと思いますが、しかし一方で時期的に暫定の措置であるということがかなり明確になっておりますから、そういう意味合いにおきまして憲法違反ではないと考えるのでございまして、普通の委任の場合、あるいは単純な政令にこのような広い範囲委任するということでありますと、憲法上は七十三条の第六号の委任とは違っておる、言いかえれば憲法違反疑いがあると考えておるのでございます。ただ、繰り返し申し上げますが、この政令は御承知の普通の政令ではなくて、できるだけ発布いたしました直後に国会に出して、そこで正規の法律に切りかえることを要するものである。その意味で時期的に暫定的なものであり、また国会が十分これを監督し、その行き過ぎを押さえることができるようになっておるからよろしいのであって、そうでなければ、単純な委任だというだけでは憲法に適合する説明はむずかしいと考えております。
  47. 園田直

    園田委員長 参考人の方々には、長時間にわたり貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表して厚く御礼を申し上げます。    ─────────────
  48. 園田直

    園田委員長 次に、本案について政府に対する質疑を行ないます。阪上安太郎君。
  49. 阪上安太郎

    ○阪上委員 私は官房長官にお伺いいたしたいと思います。長官も御案内のように、この災害対策基本法等の一部改正、これが前国会におきましてああいった削除、修正の形をとってきたのでありますが、それが今国会改正案を出すことにつきましては条件がついておったわけであります。そしてこの条件につきましては去る三月二十四日における六者会談におきまして、自由民主党並びに日本社会党の間で話し合いがついたわけなんであります。そのときの申し合わせ事項によりますと、本法案に対する衆参両院の附帯決議事項については可及的すみやかに立法化する。特に激甚災害にかかる統一的恒久立法については今国会において、それから個人災害に伴う援護法等については次期国会において立法化することに努力する。こういう申し合わせになっておるわけであります。そこでいよいよこの災害基本法審議がだんだんと煮詰まって参ったわけなんであります。われわれ首を長くしてこの約束に基づきますところの激甚地災害の恒久立法が提案されることを待っておるわけなんであります。ところがいまだに出てこないのであります。どういうわけでこんなにおくれているのか、われわれは非常に不思議に思っておるのでありますが、政府の見通しを一つこの際お話し願いたいと思います。
  50. 大平正芳

    ○大平政府委員 ただいまお話のような附帯決議がございますので、政府といたしましては当国会におきまして成案を得て御審議を願う予定のもとに、災害対策基本法成立直後から無慮三十回ないし四十回くらいの会議を事務当局で持っていただきまして、熱心に御討議をいただいて参ったのでございますが、問題が非常に複雑で、今の時点におきまして成案を得ておるというところまで参っておりません。しかし内閣といたしましても最終的にそれを取りまとめる基本方針をお示しいたしまして、副長官中心に乗り出していただいておりまして、予定よりは若干おくれておりますけれども、当国会に御提案できるように今鋭意努力中であるという状況でございます。
  51. 阪上安太郎

    ○阪上委員 この法案が前国会で通過いたしましたときから三十数回にわたって激甚地災害恒久立法を出そうという努力を願っておる、こういうことでございます。常識的に考えてそれだけやれば大余結論が出るのじゃないか、こういうように思うのでありますが、いまだ成案を得ていない、こういうことでございます。われわれこの法案を賛成して通した場合のものの考え方といたしまして、この程度のことでは災害基本法としては全くこれは大したことはないということでもって、衆参両院とも同じような附帯決議を出して今日まできておるわけなんであります。従ってああいった関係立法が整備されませんと、実際問題として基本法を通した価値がないというふうに考えておるわけなんであります。そこで長官は、こまかいことは御存じないと思いますが、一体どんな点でもめているのですか、はっきりこの際お聞かせ願いたいと思います。
  52. 大平正芳

    ○大平政府委員 仰せの通りでございまして、せっかく立法をお願いする以上はりっぱなものにしたいと思います。それで激甚地災害特例の対象になっているものを大きく分けまして公共施設が農林水産関係のもの、それから中小企業、社会労働関係のものと三つに区分けいたしまして、それぞれに最も適切な具体的に妥当するような方法、内容を盛り込もう、こういうことでございまして、この三つはそれぞれ違った原理があるわけでございますので、体系的にも、またでき上がった法律の運用上も、ちゃんと筋が通ったものといたしたいという基本方針でやっているわけでございます。公共施設につきましては、御案内の総合超過累進方式というもので割り切っていきたいということでございまして、総合超過累進方式のとり方について各省の間に微妙な距離がございますので、それを一つ埋めてりっぱな方式に定型化いたしたいと思っておるのであります。それが相当時間がたっている理由の一つでございます。  それから恒久立法との関連でございますとか、一般の母法の改正との関連をどう考えるかというような点も検討を要する問題であろうと存じまして御検討いただいているわけでございます。私ども予想以上に各省熱心に協力いただいておりますし、非常に建設的に御協力いただいておりますので、しばらく御猶予をいただいて、決して私は食言するつもりはございませんので、男前のいいものを作り上げたい、こういう考えでおります。
  53. 阪上安太郎

    ○阪上委員 なかなか長官は言い回しがお上手で恐縮しているわけでありますが、各省非常に熱心だというお話でありますが、熱心だということは言葉をかえて言うならば、非常に問題が多いということでありまして、むしろ各省ともえらくもんでおるという感じがするわけです。そのことはともかくといたしまして、やはり法律案を出すということは、その国会において成立さすということが政府のお考え方じゃないか。ただ六者会談の申し合わせがあるからといって、極端な話が、今国会の最終日に出してもいいという、そういうものの考え方ではいけないのではないかと私は思うのであります。そこでこの際見通しとしていつお出しになりますか、これはやはり私は伺っておきたい。実は内輪話になっておかしいのですが、それが出なければ災害対策基本法改正案というものはわれわれとして通さないという強い考え方を持っておるわけです。自由民主党さんにおかれては、あるいはいつもの手でこれを改正することがあるかもしれませんけれども、われわれとしてはやはりそれは通すべきではないというような考え方を強く持っておるのでありますので、この点も一つお考えいただいて、一体いつごろお出しになるか、この点をはっきりさしていただきたい。それによってこの法案審議が行なわれていく、こういうことなんです。これはほんとうにはっきりお伺いしておきたいと思います。
  54. 大平正芳

    ○大平政府委員 来週早々には要綱にまで固めたいと思っております。それから成案を得るまでの段取りを計算しなければいけないわけでございますから、提案をする以上は、御審議する時間もはかりましてお願いしたいと思っているわけでございます。当国会で御審議がお願いできる余裕を持って御提案申し上げるという決意を今断念したわけではございません。
  55. 阪上安太郎

    ○阪上委員 そういうような御決意をいただいてけっこうでありますが、これは約束を間違えずに必ずできるだけ早く出していただく、そして今おっしゃいましたように審議の期間を与えるというようにいきませんと、この災害基本法は工合が悪いのです。このことを長官よくおくみ取りいただいて可及的すみやかに御努力願いたい、こういうように考えるわけであります。  それからいま一つ、本院の附帯決議の中に、ただ単に激甚地災害だけでないのでございまして、ほかにいろいろとあるわけなんであります。その中で、六者会談の中で特に必要に考えられておったのは個人災害補償の問題でございます。これは次国会という話し合いになっております。そこで、それ以外のものとして、地すべりであるとか、あるいは地盤沈下対策であるとか、海岸侵食であるとか、高潮対策、こういったものがあるわけなんであります。地盤沈下につきましての法案は、こういったものに対するところの単独立法の関係はどうなっておりましょうか、ちょっとお伺いしておきたいと思います。
  56. 大平正芳

    ○大平政府委員 激甚地災害特例法というのがまずわれわれが取り組まなければならない問題と心得まして全力をあげてきたわけでございまして、今御指摘の法案を用意しておるかというお尋ねでございますが、目下その方の立法作業として、政府が今の段階で着手しておるわけではございません。今は激甚地の方に全力を上げさせていただいておる、こういう状況です。
  57. 阪上安太郎

    ○阪上委員 これは全然考えておられませんか。そういうことでは、今国会ではもう間に合わぬと思いますね。どうでしょう。
  58. 佐久間彊

    ○佐久間政府委員 地盤沈下の関係でございますが、これにつきましては、建築物用地の関係につきましては建設省で立案をされまして、ただいま国会において御審議をいただいております。それから、工業用水の関係による地盤沈下の関係につきましては、工業用水法の改正案として通産省で立案をされまして、国会に提出をして御審議をいただいております。
  59. 阪上安太郎

    ○阪上委員 それではあなたにお伺いしますが、海岸侵食はどうですか。あなたの知っている範囲でけっこうです。
  60. 佐久間彊

    ○佐久間政府委員 海岸侵食につきましては、立法措置はとっておらないように伺っております。
  61. 阪上安太郎

    ○阪上委員 長官、そういう状態でございますから、ぜひ一つこういったことも、附帯決議だからといって軽く見られないで御配慮を願って、少なくとも次国会には出せるように御努力願いたい。重ねて申し上げますけれども、激甚地災害についてはこれはぜひとも早くお出し願いたい、このことを特にお願い申し上げて、長官に対する質問を終わります。
  62. 園田直

    園田委員長 門司亮君。
  63. 門司亮

    ○門司委員 総理大臣のかわりに大平さんおいでになっているのですから、一応政府の意向をただしておきたいと思います。  今も参考人の方にお聞きしたのでありますが、非常災害に対する規模、範囲というものを、この法律を書かれるときには、一体どの範囲まで内閣としてはお考えになっておったか。この点をもしここで内閣意見として明らかにすることができますなら、一つ教えておいていただきたい。参考書には、大正十二年の震災の参考書が配られておる。大体どの辺までをお考えになっておられますか。
  64. 大平正芳

    ○大平政府委員 関東大震災程度のものを考えておるわけであります。伊勢湾台風程度のものは、地方的な非常災害というような大まかな考え方でおります。
  65. 門司亮

    ○門司委員 この法律の中に、たとえば例の災害救助法ですか、というようなものが考えられなければならないと私は思います。それから今、阪上委員からお話しいたしましたように、災害基本法である限りは、災害に関するいろいろな処置が各省に別々に分かれておりますし、そして最も厄介な問題といいますか、大きな問題は、厚生省の関係になっております例の非常災害、ところがこの法律では非常という文字を取って、単に災害ということに法律の中で直しております。これはどういう関係ですか。非常災害という文字は、ただ字句上法律から非常という文字だけを取るということになると、何だかおかしいような気がするのです。法律はほかにあるのですから、その法律はそれで生かしておいてよさそうだと思うのです。災害救助法ですね、その関係ですが、これはどうしてあそこを字句を変えられたのですか。
  66. 佐久間彊

    ○佐久間政府委員 災害対策基本法の中で非常災害というものにつきましては、特定の災害、大きな災害を考えておるような概念を規定いたしております。そこで災害救助法では従来非常災害というておりましたものと範囲が違って参りますので、災害救助法は、災害対策基本法の中で非常災害というておりますものと、非常災害にも至りません普通の災害も一緒にひっくるめて適用の対象に考えておりますので、広い意味にいたしますために非常災害というのをただ災害というふうに改めたのであります。
  67. 門司亮

    ○門司委員 字句上はそういう意味で取られたのなら、なおさら今の阪上委員意見にありましたように、個人災害その他についても、やはり災害基本法である限りは、この中で全部を集約することがよろしいのではないかというように考えられる。同時に災害範囲ですけれども、これはこの法律もやはり災害対策基本法の一部を改正することになって現在出されております。これもやはり災害対策基本法であることには間違いない。そうすると、災害という片一方の場合はそういうことで字句の整理をされた。しかしこの法律の表題は災害対策になっておる、内容非常災害だというややこしいものの考え方はやめたらどうですか。これは災害対策基本法というのなら、すべての災害に関する法律はやはりこの中に集約するというような形で、個人災害も全部これで一本にまとめたらどうなんです。そうせぬことには、やはり先ほどから言われておりますように、この法律審議するためにはそうしたものが出てきてそろわなければ、これだけをやっていますと、何か法律が半端なような気がするのです。災害がまだほかにあるはずだという気がするのですが、その点どうでしょう。どうしてもこれと一緒に出ないのですか。さっきは来週あたり要綱ができると言っておられますが、もう会期は幾らもありませんから……。私はやはりそういうものをつけて、災害に対する一まとめにしたものの中で審議をすることがよりいい審議の仕方でもあるし、また法律自体としても完璧を期することができる、こういうように考えるのです。どうでしょう、大平さん、これを一緒に審議するように急いで出してもらえませんか。
  68. 大平正芳

    ○大平政府委員 仰せごもっともでございますが、今までいろいろ実定法として三十六年の特例法も出ておりますし、そういったものを段階的にまとめて、門司委員がおっしゃるような全体の集大成に持っていきたいと考えておるわけでございます。そういう基本の考え方はおっしゃる通りでございますが、現実の作業として部門別に固めていくというように努力いたしておるわけでございまして、大へん御審議に御不便をかけて申しわけないのでございますが、先ほど阪上委員にも申し上げた通り政府は決して怠慢ではございませんので、精一ぱいそういう目標に向かって努力しておるということをおくみ取りいただきたいと思うのでございます。    ────◇─────
  69. 園田直

    園田委員長 道路交通法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑に入ります。通告がありますので、これを許します。小澤太郎君。
  70. 小澤太郎

    小澤(太)委員 きょうは時間も十分ございませんので、そう大きな問題ではございませんけれども、ちょっと今回の改正法律案につきまして疑問の点がございますので、一応その点の御説明をいただきたいと思います。  この法律案最初に「第八十八条第一項第一号中」云々とあって、三行目に「同項第五号中「第一項」を「第二項第二号又は第三号」に改める。」とこうあります。また「第九十六条第二項中「第百三条第二項」の下に「第二号ヌは第三号」を加え、」云々とあります。こういうふうに、第百三条の第二号、第三号を取り上げまして、この第一号についてはこれを取り上げておらないというのはどういう意味であるか伺いたいと思います。  なおつけ加えますが、「同項第五号中「第一項」を「第二項第二号又は第三号」に改める。」、これはおそらく何か現行法の誤りがあった、一項でなくて二項であるべきものが、第一項となっておったので、この際これを改めようという意味であろうかと思いますが、その場合において、第二項全部ならばいいと思いますが、第二号と第三号だけを取り上げておるということの意義を伺いたいと思うのでございます。
  71. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 これは御指摘の通り、この前の改正の最終段階におきまして、実は整理の間違いがございましたので、その点を事務的に整理し直したわけでございます。第八十八条の第一項第五号にございます「第百三条第一項の規定により免許を取り消された日から起算して」というふうに規定しておりますが、第百三条第一項……。
  72. 富永誠美

    ○富永政府委員 これははっきり申し上げますと、若干この前ミス・プリント、というよりミスがございまして、そのための訂正をやったわけでございます。第百三条の第二項の第一号は、「身体の障害で自動車等の運転に支障を及ぼすおそれのあるものが生じたとき。」は、当然これは取り消しになるわけでございますので、それから一年を経過するというのはちょっと無理でないかということでございます。そういう意味で今回の機会に訂正さしていただきたいというのでございます。
  73. 小澤太郎

    小澤(太)委員 それは先ほど申しましたようにミスがあったから——第一項とあるのは、ほんとうは第二項であるべきもののミスであったから、この際取り消す、これはよくわかります。  そこでお尋ねしたいことは、第二項の第一号を除外して、二号、三号を取り上げたという意味でございます。と申しますのは、御承知のように第一号は「第八十八条第一項第三号に該当するに至らない程度の身体の障害で自動車等の運転に支障を及ぼすおそれのあるものが生じたとき。」とあり、この第八十八条第一項第三号は「前号に掲げる者のほか、政令で定める身体の障害のある者」、この程度に至らない者で、自動車等の運転に支障を及ぼすおそれのあるものが生じた場合に、これに対して免許の取り消しまたは停止が行なわれるということでございます。そういう人たちは特に除外してあるとするならば、この人たちが検査を受けておる場合において、第八十八条による許可を与えられるのか。それから現行法第九十六条第二項第一号の試験を受けることができるのか、また今度の改正法による九十六条第二項にいうところの大型免許の試験を受けることができるのか。これはこのまま読めば、そういう人たちはできる。試験を受けることもできる、許可も与えられる。これはどういうことであろうか、これをお尋ねいたします。
  74. 富永誠美

    ○富永政府委員 第百二条第二項第一号の場合は、御存じの通り身体障害で自動車等の運転に支障を及ぼすおそれがある場合に取り消しができるわけでございますが、この場合、身体の障害と申しましても、それが永久の身体の障害である場合ばかりじゃない、その障害が今後治るという場合もございますので、それが一年の間だめだというのは無理じゃなかろうか。これは身体の障害でございますので、かりにその者が、奇跡と申しますか、その身体障害が治るという場合も考えられまして、治った場合は、かりに一年未満でもこれはやらなければおかしいのじゃないか、あるいは身体の障害が長く続いている場合は、これは一年たとうがたつまいが、これはいかぬというふうに考えられるので、これは期限を一年と限るのはおかしいということでございますので、かりに治った場合におきましてはまた免許なり試験を受けられるということでございます。
  75. 小澤太郎

    小澤(太)委員 おそらくそういう意味だと思いますが、取り消しでなしに、六カ月をこえない範囲内で停止を行なうということであります。その場合に六カ月以内の停止期間中に許可を与え、試験を受けることができるという解釈になるわけでございまして、こういうふうなことが自動車の安全運転ということを強く要求されておりますときに、二号、三号は、処罰を受けたというような場合、それから非常に交通の危険を感じさせるというような場合、そういう場合につきましては停止期間中に試験を受けることもできず、免許も与えられないというのでありますけれども、身体の軽度の障害であって、しかもそれが運転上危険を生ずるというおそれがあるために六カ月間停止を命じておる、その停止の期間中にこれが免許も試験も受けられるというようなことにわざわざしたということについてはいかがであろうか、こう思うのであります。
  76. 富永誠美

    ○富永政府委員 大体身体障害の状況を見まして取り消しまたは六カ月をこえない範囲内で停止をいたすわけでございますので、そういう身体の状況を見てやりますので、その場合に、こういうことはほとんどないと思いますが、六カ月以内に身体障害がなおったとなれば、これは六カ月間という範囲内で停止するのはちょっとおかしくなるわけでございます。やはりそういう証拠がはっきりできておれば、受けさせてもかまわないのじゃなかろうか。それを逆に八十八条の五号をかりに適用しまして、「免許を取り消された日から起算して一年を経過していない」とか「免許の効力が停止されている」というのはちょっとおかしいのじゃないだろうか。従って免許の効力が停止されている場合はそういうことがないと思いますが、一応免許の停止というものは、あるいは場合によっては解除しなければならないのじゃないか。おそらくそういうことはないと思いますが、実際問題としまして、その身体の状況を見ながら停止期間をやるわけでございますので、そういう意味に御解釈願いたいと思います。
  77. 小澤太郎

    小澤(太)委員 そのように運転免許所有者の立場から考えて、できるだけ運転に従事せしめたいという気持であろうかと思います。そのようなはっきりしたお考えで、また免許試験等にあたりましても、十分慎重におやりになるというお考えでこの改正をされるということにつきましては、私も別に異存はないわけでございますが、どうも大事な第一項と第二項を間違えて数年間放置しておいたというようなことから考えますと、あるいはひょっとすると、十分考えずにおやりになったのじゃないかというような老婆心から、まことに意地の悪いような質問でございましたが、一応質問させていただいたわけでございまして、取り扱いにつきましては、こういう自動車の安全運転ということを特に要求されておりまする現状からいたしまして、慎重な御配慮をいただきたい、かように思うのでございます。  もっといろいろ詳しくお伺いしたいわけでございますが、時間がございませんので次に進みます。  まず第三条の関係でございますが、今回は改正に至っておりませんが、今回の改正法に関係がございますので……。  大型自動車について今回その運転者に対する年令並びに経験年数、こういう制限を加えようということでございますが、その大型自動車というのは一体どういうものか、その定義と申しますか、総理府令できめることに第三条でなっておるようでございますが、それを教えていただきたいと思います。
  78. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 自動車の種類につきましては、車体の大きさ、構造並びに原動機の大きさを基準といたしまして、総理府令、これは道路交通法施行規則でございますが、その第二条によって定めておるわけでございます。大型自動車というのは、車両の総重量が八千トン以上であるか、または最大積載量が五トン以上のもの、またはバス等の場合は、乗車定員が三十人以上のものを大型自動車というふうに言っておるわけでございます。
  79. 小澤太郎

    小澤(太)委員 大型自動車を今お話になりましたような規格でもってきめたその根拠と申しますか、第二条によりますと、車体の大きさ及び構造並びに原動機の大きさを基準としてきめる、こうなっておりますが、今のお話ではトン数できめておるようでございます。トン数も車体の大きさに関係はあると思いますけれども、五トン以上の自動車ということにきめられました根拠と申しますか、そういう点がわかりましたら教えていただきたい。
  80. 富永誠美

    ○富永政府委員 大型自動車は、普通の自動車と違いまして、おのずから車両感覚というものが違ってくるわけでございます。それから、大きい場合におきましては制動力あたりも違いますので、普通の免許と区別したわけでございまして、結局トン数が多ければ大体大きい車になりますので、積載量の場合は五トン、それから自動車自体の総重量の場合におきましては八トンというものを基準にしまして、大型自動車というものをきめたわけでございます。
  81. 小澤太郎

    小澤(太)委員 今申されました基準というのは、現在の交通事情、現在動いております自動車の状況などから申しまして、やはり適当であるとお考えになっておられますか。
  82. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 この大型自動車の制度を定めましたのは、たしか三十一年であったと思います。そのときには、五トンというのが一番大きい部類であったわけです。これはどこの国でも同じでございますが、だんだん機械が発達して参りまして、さらに大型のものがどんどんできてくるということでございますけれども日本の実情から申しますと、やはり五トン、五トン半という砂利トラックあたりが非常に多く動いておるわけでございます。これはやはり国によっていろいろ違います。たとえば車の総重量も、日本では八トンとなっておりますが、西ドイツあたりは七・五トンというようなことで、日本より低いのもあります。また高いのもあるわけでございまするけれども日本の実情からいたしますると、現在の事故の状況、そういう点から見て、さしあたっては五トンというのをやはり大型というふうに考えていくべきではないかというふうに考えておるわけであります。
  83. 小澤太郎

    小澤(太)委員 今月の二十五日から東京都内における車種別規制をおやりになるということでございますが、その際のトラックのトン数は何トン以上になっていますか。
  84. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 東京都において今月末から行ないまする車種別規制におきましては、いろいろ諸般の状況を検討いたしました結果、七トン半以上のものについて、昼間の運行について相当の規制を加えていくということにいたしたわけでございます。
  85. 小澤太郎

    小澤(太)委員 七トン半というのは自重ですか、総積載トン数ですか。
  86. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 総最大積載量でございます。
  87. 小澤太郎

    小澤(太)委員 それでは、この五トン以上を大型自動車だ。ただいままで伺いますと、その大型自動車に関して、その運転者に対する制限も行なうのがこの改正の目的であるように承っておりますが、その五トンということと都内の七トン半ということとは関連性はないわけでございましょうか。
  88. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 直接的には関連性はございません。五トン以上ということの規制の仕方もあるいは考えられないことはないかと思いまするが、こうなりますとほとんど大きい自動車による輸送が昼間はとまる。ことに五トン程度のものは個人の事業等においても多く使われておるわけでございまして、こういうものを一切昼間動かさないということは酷に過ぎる。しかし七トン半以上ということになりますれば、大部分は相当の営業形態を持ち、相当大きい輸送力でございまして、こういうものは夜間に切りかえるということも比較的容易であろうという点、そういう事情も考慮いたしまして、七トン半以上ということにいたしたわけでございます。
  89. 小澤太郎

    小澤(太)委員 そういたしますと、この七トン半以上というものは交通麻痺をなくそうという、自動車の疎通をよくしようということが主目的であるためにそのような制限をいたした、片一方の五トン以上というのはむしろ事故防止、安全運転という目的から五トン以上を対象とする、その方が適当であるという御見解のように思うのでありますが、そういう見解であるとするならば、五トン以上の大型自動車によるところの事故がその他の自動車による事故に比べてはたして多いかどうか、その程度はどういう状態になっているか、伺いたいのであります。
  90. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 最近砂利トラック等によりまする大型自動車の事故が非常にふえてきておるわけでございまして、昭和三十六年中における自動車による交通事故を見ますと、大型自動車につきましては千台当たりの事故件数が二百二件、死者七・八人ということになっております。自動車全体の千台当たりを見ますと九〇・五件、死者二・一人でありまして、比較いたしますると非常に高率であるということになるわけでございます。また今回の改正におきましては年令の引き上げを中心に考えておるわけでございますが、その事故の件数も、運転者数との比較においては十八才が最高でありまして、二十一才未満の年少者の事故を起こす率が高い。十八が一番多く、十九、二十と下がってきまして、二十一才以上は大体横ばいというような状況であります。
  91. 小澤太郎

    小澤(太)委員 そういたしますと、大型自動車の事故がほかの自動車に比べて、ここにいただいておりまする資料のように、件数の比率といたしましても、一千台当たり二百二台、普通が百三十五台、その他が五十三台、こういうふうに非常に多い。また年令的にもそのような数字が出ておるのでございますから、この大型自動車の運転者に対しまして特別の制限をするという理由はよくわかるのであります。  それに関連して伺いたいのでございますが、この砂利トラックとかダンプカー、特別の作業をする車でございます。これの事故も非常に多いように聞いております。提出していただきました資料によりましても、三十六年中のダンプカーと砂利トラックによる交通事故の発生は非常に多い数字が第五表に出ております。それでこの場合に、一律に大型自動車として規制をするか、あるいは砂利トラックあるいはダンプカーというような特別の構造を持ち、特別の作業をする車、こういうものを特に取り上げて措置をするか、こういう問題があるのでございますが、それはいかようにお考えでありますか。
  92. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 大型車のうち用途別によってまた考慮すべき問題があるのではないかというお尋ねのように承ったわけでございます。元来免許制度というものはできるだけ簡明と申しますか、あまり複雑に何種類もの免許ということでないことが好ましいと思いますけれども、また同時に危険度の高いもの、あるいは操縦の困難なものというようなことから、運転技術についても要請される面が多様になってくるということはあると思うのであります。従いまして、免許制度全体としては将来十分に検討していかなければならぬ問題があるかと思いまするが、ただいまそういう用途別で直ちに分けるのが適当であるかどうか、これは非常にむずかしい問題だと思います。十分検討はいたしたいと思いまするけれども、今回の改正におきましては、とにかく最大積載量五トン以上という現行の区分はそのままといたしまして、年令と経験ということで、事故防止に資していきたい、こう考えております。
  93. 小澤太郎

    小澤(太)委員 大体御趣旨はわかりましたが、先ほど申しましたように特殊の構造と作業力を持つ車でなしに、普通のトラックで五トン以上とするのは少し酷であって、現在の経済事情、車の状況などからいたしまして、これを六トン以上にしてはどうかという意見があるわけであります。五トンのところで線を引くか、六トンで線を引くかということによって、いろいろ規制の対象の数が違いましょうし、いろいろの差異が出てくると思いますが、それについての御見解はいかがでございましょうか。
  94. 柏村信雄

    ○柏村政府委員 現在の車両の台数から申しますると、やはり五トン、五トン半というのが非常に多いわけでございます。従いまして一律に六トンというようなことになりますると、非常に多くのものが、この事故防止のために行なう年令の引き上げあるいは経験年数というような点からのがれていってしまうわけでございまして、やはり将来の問題としてだんだん機械も発達し、また試験等あるいは訓練等において十分配慮されていった場合に、だんだん高まっていくということも傾向としてはあり得るかと思いまするが、直ちにこの年令引き上げをするから、五トンでは酷だから六トンにするということは、少し無謀ではないかと思いまするし、また現在すでに免許を受けております者は、たとい年令が二十一才にならなくても、あるいは経験年数が足りなくても、これは既得権として運転ができるようにいたしますから、直ちに非常な支障を来たすという問題は起こって参らないと思いますし、将来の給源というようなことにつきましては、各都道府県等におきましても、十分にそういう養成機関についての配慮等も考慮するようにして参りたいと思っております。急激な影響というものはそういう意味において防げると思いますし、将来についてはまたこれについての配慮を要するものがある、こう考えておるわけであります。
  95. 小澤太郎

    小澤(太)委員 急激な影響はないということでございますが、五トン、五トン半というのが非常に数多く使用されておって、将来それが運転手を必要とする度合いも相当高いでしょうし、また五トン、五トン半というのを使っております業者の形態から申しましても、比較的中小の業者が使っておると考えられますので、そういう人たちが新しく運転者を雇用する場合に、非常にむずかしくなるというような事情があるように聞いております。これにつきましては、今後におきましても十分にいろいろな面での御配慮が必要であろうかと存じます。  もう時間が参りましたので、実はまだいろいろ伺いたいと思っておりますが、きょうはこれで私の質問を一応打ち切らせていただきます。
  96. 園田直

    園田委員長 次会は公報をもってお知らせすることとし、本日はこれにて散会いたします。    午後一時十二分散会