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矢澤参考人 矢澤でございます。私の伺いましたところでは、問題は、無
額面株を
発行する場合の
発行価額が不適正であるというために
株主が害されるおそれがある、この場合に
株主はいかなる
方法で保護されるか、あるいはどういう
救済手段があるか、こういうのが私に与えられました課題であろうかと存じます。こまかい問題につきましては、後ほど、もしさらに突っ込んだ御
質問があればお答えすることにいたしまして、ごく概略、大筋だけを、ことに
現行商法の
規定に即して
お話し申し上げてみたいと思います。
実はこの問題は、むしろ
額面株式との対比において問題が提起されておるように思いますので、
額面株式についてと比較しながら御
説明申し上げたいと思います。大体場合は大きく分けて
二つ、さらにその
あとをまた
二つに分けて
三つに分かれるかと思います。第一の場合は、
株主に
新株引受権を与えて
発行する場合はどうであるか、これが
一つの問題。第二は、
株主に
引受権を与えないでやる場合はどうか、実はこの中には
三つ場合がありまして、いわゆる
第三者に
引受権を与えて
発行する場合はどうであるか、それからさらに何もそういう
引受権というものを一切与えないで、いわゆる
公募した場合にはどうであるか。大体大ざっぱに分けてこのように
三つに分けて考えないと問題の所在がはっきりしないかと思うのであります。
株主に
新株引受権を与える場合におきましては、これは
商法の
理論から申しますと、
発行価額の点は何ら規制をしておらない、こう言ってよかろうかと思うのであります。と申しますのは、
株主は一方において、
新株をもし低く
発行すれば、
旧株の
値段が落ちるわけでありますが、この落ちた
部分は、いわば低く
発行した
部分で補われる。非常に極端な場合を申しますと、百五十円株を五十円で
発行すれば、同じ株数を
発行すればちょうどまん中の百円に落ちつくはずであります。そうしますと、
旧株で五十円損をして、
新株は百円のものを五十円で取得するのですから、いわば五十円得をする。非常に図式的に申せばそういうことであります。もっとも
株式の
時価というものは必ずしもそういうふうに図式的に動くものではございませんが、この点は後に
小池参考人から
お話が出るかと思います。
いずれにせよ、このような
考え方を進めますと、結局
発行価額についての
株主の保護は、むしろ
新株引受権を与えられるということによって解決している、こういうふうに考えてよかろうと思います。従いまして、
解釈論といたしまして、後に
公募のところで申しますような
発行の
差しとめ、あるいは
損害賠償責任という問題は、少なくとも
株主に
引受権を与えた場合には
価額の点では働いてこない、こういうことになるかと思うのであります。現在まで無
額面を
発行した例は多くこの範疇に属するものでありまして、そういう意味では
発行価額の問題は
商法的な
理論からは問題にならない性質のものであります。この際において、
額面と無
額面の
差異が
一つ、つまり
額面の場合は
株主に対しては
額面以下では
発行できない、こういう
差異がある。これに対して無
額面の方はそういう制約はないということであります。しかし事の本質は同じでありまして、
額面株式がたとえば
特価千円で
額面は五十円である、五十円で
発行しておるということは
真実の
価額とは差があるわけであります。この点は無
額面株でも本質的には違わない。ただそこに五十円あるいは五百円という一応の金額的な最低限があるという点が違うだけであろうと思います。
次に、そのような
株主に対する
新株引受権を与えない場合を考えてみますと、この場合は今申しましたような論理、つまり
親株で失ったものを
新株で取り返す、こういうことが働かないわけであります。そこで考えられる
方法としては、一方において
親株の
実質的値段を落とさないような、つまり
親株の
真実の
株式の
価値にほぼ匹敵するような
発行価額で
発行しなければならないという
制限をするか、それともそうではなくて、それよりも低い場合には何か特殊な
引受権という形でやるかという問題になります。その
引受権でやる方がいわゆる
第三者に対する
引受権の付与の問題、この場合は
商法の
規定上は
発行価額というものは一応は
制限は付しておらないわけであります。従って、今の
株主の
引受権の場合と全く同じであります。ところが今申しましたように、
株主の方は失うところがあって得るところがないわけでありますから、そこで特に厳格な
特別決議、つまり普通の場合は
取締役会でできるわけでありますが、
特別決議で慎重な
手続を経て与える、こういう形になっている。これではたして完全に保護されるかどうか大いに問題があるところかと思いますが、一応
法律としてはそういう非常に厳格な
手続を経て初めて
発行できる、こういうことになっております。
そこで、最後に
公募の場合でございます。
公募の場合は、これは今申しましたように非常に害されるおそれがありますので、一応
取締役会が決定した
価額で
発行されますが、もしこれが著しく不公正な
価額であるならば、
商法二百八十条ノ十で
差しとめを請求することができる。そしてさらに十一で、この著しく不公正な
価額で
発行した
取締役会の
責任及びこれと共謀した者の
責任を問うことができる、こういうことになっております。この場合の
公正——法律の書き方は著しく不公正であってはならないということでありますが、逆に言うと、公正とは何かというとはなはだむずかしい問題でありますが、ごく抽象的に言えば、
旧株の
株式の
価値にほぼ匹敵するものを出すというのが本来のねらいであります。もっともこれは新しい株を出しますからどうせ
価額は落ちる。それが得られる限りの最高の
値段で出すというのが普通の
考え方だろうと思います。それで、これに違反したような場合は
差しとめでありますが、
差しとめは、少なくとも
法律の視角上は、これは別に
訴訟によらなければ
差しとめられないとはいってないのでありまして、実体的には
差しとめ
請求権がある。そうしてこれを
会社に申し出た場合には
取締役が非を認めてとめるということが期待できないことはないと思いますが、もし言うことを聞かない
——見解の相違ということになろうかと思いますが、その場合は普通の
民事紛争の
一般原則に従って
訴訟に訴えざるを符ない。この場合は
一般発行差しと
め請求という本案にしまして仮処分で行なう、こういうことになります。従来この
規定に基づく
差しとめは、私の見ました限りでも
判例集に六件ほど掲載されております。その中の
一つは、公正な
発行価額はどういう
基準できめるかということについての裁判所の
見解を示したものもあります。その
見解によれば、
時価、募価、将来の
収益力その他四囲の状況を勘案して合理的な
価額をきめればよろしい、こういうことについては
証券業界の
意見も聞いて客観的にきめていかなければならない。たまたまきめた
あとで
値段が下がってもそれが不公正ということはできない、こういうふうに伴いております。そして
損害賠償の方は、この場合、本来
引受人というのは
引受価額で押えるわけでありますが、これと共謀した者については差額を賠償するという二百八十条の十一の
規定がございますことを申し添えまして、一応私の
陳述はこのくらいにいたします。