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中山参考人 中山伊知郎でございます。
税制調査会会長という資格で、この間
答申いたしました案の
内容並びにその後の
経過、たとえば
政府案との
相違点その他について
お話を申し上げたいと思います。
この
税制調査会は、御
承知のように三年計画の
審議会でございまして、第一回の
答申を
昭和三十五年の十二月にいたしました。これが三十六
年度の
税制改正となって現われております。昨年三十六年中には、七月に
租税通則法に関する
答申をいたしました。それから引き続きまして、十二月に入りまして第二回の
税制調査会答申及びその
審議の
内容と
経過の
説明というのを発表いたしました。この全体の
内容につきましては十分御
承知のことと存じますので、ここでは
説明を繰り返しません。本日
お話し申し上げますのは、特に
昭和三十七
年度の
税制改正がどこに
重点を置かれ、事実上それがどのように
措置されたかということを中心にして
お話を申し上げます。
今度の三十七
年度の
答申案の主たる
内容は、まず第一に
間接税に
重点を置いたという点でございます。直接税、
間接税の
比率がどうあるべきかということは、これは
税制全体といたしまして大へん重大な問題でございますが、さしあたりこの
審議会で取り上げましたことは、過去五年にわたりまして
間接税の
改正がほとんど行なわれませんで、ほとんど全部直接税、特に
所得税の
軽減に
重点が置かれて参りました。ところが最近の
情勢になりますと、
間接税の御
承知の
逆進性というのと
所得税の
累進性というのが特に低い
所得階層において相殺せられまして、
減税の効果が、たとえば
所得の低い
段階におきましてはほとんど現われないというような結果が出て参りました。これは明らかに
減税方針の中での直接税、
間接税の
扱い方が十分でなかった証明である、このように考えまして、その
意味で、三十七
年度の
税制改正におきましては
間接税に
重点を置くということにいたしたわけでございます。
間接税の点について現在どうなっているかということを簡単に申し上げますと、
納税世帯におきまして、
納税世帯とそれから非
納税世帯の数を最近の
数字でとってみますと、三十六
年度でございますが、九百六十七万に対する千二百八十八万、大体五七・八%というのが非
納税世帯数になります。ところがその
所得額の比で参りますと、
納税世帯の
所得額が六三%に対して、非
納税世帯の
所得額は三七%になっております。ところでそのうちの
間接税の
比率を見ますと、
納税世帯の方が五一%の
負担に対して、非
納税世帯の
負担が四九%になっております。と申しますことは、
所得額において二対一というような
比率になっておるにかかわらず、
間接税の
負担においてはまさに一対一ということになっているということなんでございまして、そのような
意味で
間接税が非常に非
納税世帯、すなわち簡単に申しますれば低
所得者層に重いということが明瞭になっております。従いまして、今度の
是正をいたしまして、直接税と
間接税との
比率が大体五四%と四六%というような
比率になりますが、この
比率でもなお問題がございましょうけれ
ども、一応今度の
改正においてはその点に
重点を置いたということが第一の点でございます。
しかしながら他面におきまして、
日本の
所得税、直接税はなお
外国の例に比べまして必ずしも低いとは申せません、むしろ個々の
得所層を考えて参りますと、なお
相当に重いと考えざるを得ない。これは単に
所得対直接税の
比率だけでは問題をつかまえることができませんので、その
所得の中でどれだけが実際の
生活費にかかっているか、こういう
計算をして参りませんと、実際の
負担の重さというものを測定することができないのでございますが、この測定は現在のところどこの国の統計をとりましても、十分につかむことができるというところまではいっておりません。しかしながら、現在の
日本の
所得税をかりに
アメリカ、
イギリス、
西ドイツその他に
比較してみますと、これは
比較の
前提といたしまして、どのくらい
所得税を払っている
世帯あるいは
人間がいるかということを
前提として考えなければなりませんので、この
比率だけでは明瞭でないのでございますが、たとえば
日本の場合には
所得税を納めている
人間の有業者に対する
比率はおよそ三七%、それ以外の人は
所得税を納めておりません。ところが
アメリカの場合におきますとそれが七七%、
イギリスはさらにこえてもう少し高くて七八%ぐらいが
所得税を納めている
人数になります。
西ドイツはその中間で三二、三%だと思いますが、いずれにいたしましても
日本の場合には
所得税を納めている
人数が少ない。戦前に比べますと、もちろん非常に増加しておりますけれ
ども、なお少ない。このことは
日本の
所得水準の低いということを証明しているのでございますが、その低い
所得水準の中で
所得税を払っている人の
負担している直接
所得税の
比率というのが、なおいろいろな推計からいたしまして高いと考えられますので、この点についてもなお
是正の必要がある。今度の
税制改革は最初の
答申から通しまして全体として
負担の公平という点に
重点を置いて進行するということなんでございますが、その
負担の公平という点から申しますと、たとえば
勤労所得者の支払っております直接税、これは非常にはっきり目立って取られる税でございますので、そういう点を考慮しなければならない。あるいはその他の点につきましても、小さい点になりますけれ
ども、
利子所得あるいは
配当所得その他の
所得とのバランスにおきましても、あるいはもっと広い
意味で
中小企業者の
税負担という点をさらに考慮して、できるだけその点に
軽減の
重点を置くような
改正をすることが依然として必要である。従いまして、大ざっぱに申しますと、今度の予定されました平
年度千三百億強、それから
初年度におきまして一千四十一億といわれております
税軽減の半分が大体
間接税の
軽減、半分が
所得税の
軽減ということに当たっております。
なぜ
法人税に手を触れなかったかという点がおそらく御疑問になられると思いますけれ
ども、これも
相当問題になりましたが、この点は特に諸
外国の実情と比べまして
日本の
法人税必ずしも重いとは言えないということから、今回の
改正においては見送りになったものでございます。
さらにそのような公平という点から申しますと、必ず問題になりますことは、しかもわれわれの
審議会におきましても終始問題になりましたことは、これは
租税特別措置の問題でございますが、この点は三十六
年度に
相当の手を加えておりますので、もしあの三十六
年度の手をつけないで今
年度まできたといたしましたら、
租税特別措置のこの全体を通じての
改正によって改められました
金額は、およそ千五百億に上る推定でございまして、その
意味におきましては
金額的にも
相当是正をしてございますので、
昭和三十七
年度についてはあまり大きな
改正が行なわれなかったということになっております。
いずれにいたしましても、そのような
意味で
所得税の重さを
軽減する
意味において、特に
租税負担の
公平化という点を
重点に置いて、慎重な考慮が行なわれたということが第二点でございます。
第三点は、これも第一回の
答申にございまして、しかも十分に手をつけ得なかったことでございますが、
国税と
地方税との関係でございます。この問題は非常に広い深い問題を含んでおります。すなわちほんとうに
地方自治ということが行なわれますために、それにふさわしい独立の
財源を持つということになりますと、一体
地方自治のもとで行なわれております現在の
地方の
仕事量はどのくらいであるか、その適正な国との
配分率はどうであるか、簡単に申しますと、
収入とか支出という
税制の問題の前に、
地方制度の根本問題を考えなければなりません。従いまして、
税源配分のこの第三の問題は非常にむずかしい問題で、二年越しにやっと暫定的な
結論を得たにすぎませんが、その暫定的な
結論と申しますのは、とにかく現在のところでは
地方財政というのは
税源的に見て非常に弱過ぎるのではないか。もう少し安定的な、成長的な
財源を与えることによって
税源を確保する
措置を講じていく必要がある、こういう
結論に到達いたしました。
そこでその具体的な
措置といたしましては、
所得税の一部を
地方に譲与する、ただしそのかわりに
入場税というような今まで
地方税でありましたものを
国税に取り上げる。
差引いたしますと、現実に
初年度において
地方税に具体的に
収入増加となるものはおそらく百十億
程度だと思いますが、そのような
措置をとりあえずいたしました。このことによって将来はもっと
地方税の
財源が少なくとも今日の
初年度に現われた状態よりもよくなるであろうという
想定でございます。
なぜそういう
想定ができるかと申しますと、
入場税と今度あらためて付与されました
所得税の一部譲与というものとは、およそ現在の
金額ではとんとんに近いと思いますけれ
ども、しかし御
承知のように
入場税の
伸び率というのは最近非常に少ない。これは三年間でございますか、資料がございますけれ
ども、
年度がちょっとはっきりしないのでございますが、五%しか
伸びていない。ところが
所得税の方の全体の
伸び率は、御
承知のように年間二〇%の
伸びを示しておりますので、この率でもし参ることができましたら、これは今日少しリセッションに入っておりますので、そういくかどうかわかりませんが、しかしもしそのような率で参りますれば、将来の
地方財政にはいささか明るい面が出てくるのではなかろうか、このようなことで、
入場税を
国税として取り上げるかわりに、
所得税の一部を
地方税に譲与するというような大きな
措置をここで考えたわけでございます。
ただこの
措置の実現につきましては、さしあたってのところでは、
府県段階におきまして非常に
地方税が重くなるというような印象が出て参ります。このことは
地方行政にとって
相当な問題でございますので、自治省と
大蔵省との間ではその問題の
調整について
相当の論戦ないし
調整のための
議論が重ねられたようでございますが、
税制調査会はそのような点についてははなはだ敏感で必ずしもないのでございますので、その点についてはいろいろな問題があとに残るかと存じます。
しかし
税制調査会といたしましては、
税制という
立場からそのような
措置が必要だと考え、それに対する第一歩を踏み出したということを御了解願いたいと思います。
まだほかにたくさんございますが、このようにいたしまして、
答申といたしましては
先ほど申しましたように平
年度で一千三百八十二億、
初年度で千二百四十四億という
減税の
答申をいたしました。
ところがその後、
政府の側でこの
答申に基づいて実際の
減税案を組まれます場合に若干の
修正が行なわれました。その
修正のおもなるものにつきましては、たとえばビールの
税率の改定とか
生命保険料控除額の拡大とか、
物品税の
手直しとか、
入場税の
税率の一本化、これは一〇%に一本化されたのですが、一本化とか、あるいは
通行税の
軽減その他を合わせまして、これは
金額といたしましては二十五億
程度のものでございましたが、その他のいろいろな
措置を実際に勘案してみますと、ついに百三十八億という
減税をいわば打ち消す
金額が出て参りました。つまり
答申いたしました一千二百四十四億から百三十八億を引いた
金額が今
年度の
減税の案として、
政府案が出されているわけでございます。この
数字は、これから百三十八億を引きますと、なお千億をちょっとこえる——今の
金額は平
年度でありますが、
初年度におきましては一千四十一億、これが
政府案でございますが、この中から関税の
増収分というのを約四十億ばかり引きますと、九百億オーダーの
減税案が実際としては出されているわけであります。しかしこの
政府案による
修正は、
先ほども申しましたように若干の
手直しではございますけれ
ども、基本的な点にはほとんど触れておりませんので、まず大体において
答申案がそのままに実行に移されているのじゃないか、このように考えていいかと存じます。これが
案自体についての
説明でございます。
なお、
中小企業に対する
措置その他については、御
質問がございますれば
お答えをいたしたいと存じます。
最後に特に
税制調査会三年の実績を振り返って申し上げたい
一つの点は、
税制調査会といたしまして何回やりましたか、ずいぶんたくさんの
会議を重ね、今日まで三回の
答申をいたして参りました。しかしたくさん問題がまだ残るのでございます。たとえばただいま申し上げましたごくわずかのことに関連して申しましても、直接税と
間接税との
比率をどうしたらいいかという問題。それから
法人税には全然手をつけていないのでございますけれ
ども、一体
法人税というのはそのままにしていいかどうか。あるいは
所得税との
比率においてなお考えるべき問題があるのかどうか、そのような問題。あるいはこれはいささか政策的な問題になると思いますけれ
ども、
皆さんの御
承知のように最近の各国の
税制が
景気調整という問題と結びつけて考えられるようになっておりますが、そのような
考え方をどの
程度までこの
税制の中に盛り込むことができるかというような点。まあ
税制自体が
一つのビルト・イン・スタビライザーではございますけれ
ども、それを越えてなお直接に
景気調整というような役割をどの
程度まで
税制に持たしたらいいか、このような問題。その他
日本の
税制といたしましてこれから先考えるべき問題が現に暫定的という
措置で押えられている問題について、たとえば
利子所得に対する
特別措置、そういうものを
日本の
経済に必要な
貯蓄増強というような問題とからめてどのように解決したらいいか、そういう問題がたくさん残っておりますので、私
どもといたしましては、現在の
税制調査会はむろん
期限つきでございますので、この三月をもって終了することになりますが、何かの機関をもってこのような研究を続けられることが願わしいのではないか。これは一面においてわれわれの勉強の至らなかったことを次の
審議会にお願いするようなことになるので、はなはだ恐縮なんでございますけれ
ども、しかし力及ばなかった点は正直に申し上げて、そして善後の
措置を
政府その他において十分にお考えを願いたい、こう思うのでございます。
これだけで、はなはだ簡単でございますが、一応の
説明を終わらせていただきたいと存じます。(拍手)