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中野参考人
中野でございます。私、早稲田大学の理工学部の資源工学科の方に勤めておりまして、
法律関係には全然のしろうとでございます。ただしかし、
石炭鉱業の
関係におきましては若干の経験を持っておりますので、この
法案に対する貧弱な
意見でございますが、あるいは唐突な
意見と申しますか、私の信条といたします線に沿いまして開陳したいと思う次第でございます。
石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する
法律案、この
法律案につきましては、すでに施行されているものの一部改正でございますので、私直接これに
関係ございませんが、若干いろんなことを見ておりまして、しごく妥当なところであると思うわけでございますが、ただこの条文の中のたしか三十五条かと思いましたが、離職者に対して若干の前触れ期間を置きまして、首を切るときには三十日分の
賃金を支払え、そういうことが出ていたように記憶しております。そこでこの三十日分というのは、私ども率直に
考えて、三十日分だけ出せば首を切ってもいいということにつながるような気がいたしまして、いかにも少ないのではないか、この際思い切って、この三十日を六十日あるいは半年というふうに変えた方がさらに
雇用促進のために役立つのではないか、そんなような気がしております。臨時
措置法の一部改正につきましてはそういう
意見だけで、
あとは大体において異存のないところでございます。
それから次に、順序がちょっと狂うのでございますが、今
石炭産業におきましては離職者の問題、
雇用の問題と申しますか、これが非常に大きな問題でございます。むしろ緊急を要する問題でございまして、臨時
措置法の一部を改正する
法律案につきましても、私は
雇用の問題をえぐり出して見ているわけでございます。その趣旨に従いまして、
社会党提案の
炭鉱労働者の
雇用安定に関する臨時
措置法、これから先に述べさせていただきたいと思います。
この
提案の趣旨を拝見いたしますと、
提案の趣旨そのものについては
賛成でございます。と申しますのは、従来から
炭鉱離職者臨時
措置法とか、あるいは
雇用促進云々という
法律ができておりまして、それで強力に離職者
対策を推進していると伺っていたわけでございますが、先般筑豊方面に二回ほど参ったときに聞き及びましたところによりますと、職業訓練所を出た者がまた旗振りをしている、こういうふうなことを聞いたわけでございます。もしこれが事実といたしますと、そういう離職者
対策、援護
対策というものは非常に間違っていると
考えざるを得ないわけでございます。従いまして、このようなことがもし事実とすれば、
雇用の安定というのはかけ声だけであって、実際はあまり成果を上げていないというふうに
考えられるわけでございます。そういう
意味におきまして、
雇用の問題をこの際十分
考えなければならぬ。従いまして、
提案の御趣旨につきましては非常に
賛成しているわけでございます。ただ、この
法案そのものをちょっとながめてみますと
——その前にちょっと申し上げなければならないのでありますが、私も先ほどのお二人の
参考人の方と同じように、二日ほど前にこれを見たわけでございます。でき上がった姿のままを見ておるわけでございますので、
法律のことがわからない私には、そのままを学問的に解釈しておるわけでございます。従いまして、私が今後述べますことにつきましても、あるいは
法律的用語からいいますと、そういう解釈では違うじゃないかという御
意見もあると思いますが、その点は、私は御説明を承れば十分納得できるわけでございます。
ところで、この
法律の不備と思われる点を指摘してみたいと思います。この
法案は、まず第一に
炭鉱労働者の
雇用促進についてのみ限定しております。ところが資源
関係から見ますと、
炭鉱労働者もむろん大切なわけでありますけれども、金属鉱山
関係の
労働関係も、数におきましてはかなり少ないかもしれませんが、
合理化にからんで
雇用の問題がかなり大きくクローズ・アップされておるわけでありまして、できますれば全地下
産業に
関係した
労働者の
雇用に対する
法案でありたいというふうに念願しておるわけでございます。
次は、第三条の二項のただし書きであります。このただし書きを見ますと、「当該鉱業権者の
石炭鉱業の全部の継続が不可能であるときは、」云々ということが書いてございます。で、この判断を
労働大臣がすると書いてございますが、現在の私の
常識によりますと、
労働大臣は、その性格上、これを判断する能力がないというふうに見るわけでございます。これがかりに通商
産業大臣がやるということであれば、必ずしも理解できないことはないわけでございます。この点に私として非常にわからない点があるわけであります。それから三条二項の条文は、
考え方によっては、この条文の後段の解釈でございますが、これによって骨抜きになる心配がある。つまり
石炭鉱業の全部の継続が不可能であると判定されることによって、
労働者は直ちに解雇されるという
措置をとらざるを得ぬことになると思います。ここらが私としては納得できないところでありまして、これでは従前の
方法と何ら変わるところがないのではないか、こういうふうに
考えております。
次に第四条と第三条との間に
矛盾がございます。第三条によって、承認を与えなかった結果損をした鉱業権者には金を出すという形になっております。これはつまり第三条で所管大臣の判定が誤りであったということを裏づけることになるわけでありまして、こういう
法律ができるということは全くおかしいような気がいたすわけであります。
以上のようなところが気になったところでございまして、私の
考えといたしましては、この
法案の趣旨には
賛成ではありますけれども、
労働者の
雇用の安定を推進する
方法としては、もう少し強いと申しますか、簡単で素朴な
方法が必要ではないか、こういうふうに
考えております。その
一つの
考え方を申し上げますと、たとえばその鉱山の自然
条件が云々であるとか、あるいは採掘
条件が云々である、あるいは生産形態が云々であるというような、そういうようなところに
一定の基準を置きまして、この基準に合わない鉱山、
炭鉱というものは全部つぶしてしまう、そして
一定期間にその処置をとるわけでありますが、その間に
失業した
雇用者と申しますか
労働者に対しましては、国があたたかい手を差し伸べまして、何かの形でもって完全
就職あるいは
雇用者
対策ができる、こういうふうにやった方がもっと率直ではないか、こういう率直な声の方が確かに世論に受けるのではないかというふうに感ぜられるところでございます。以上が
雇用安定に関する
法律案に対する私の
意見でございます。
次は、
石炭鉱業安定法案に関することでございます。この
提案の中で、
石炭鉱業の拡大生産の必要性を指摘しておられる点、それから国策として
石炭の
需要拡大をさらに重く見ていられる点では、私は
賛成であります。ただしこの
需要拡大につきましても、おのずから限界があることはわかっておるのでありまして、私の見るところによりますと、今
日本の
炭鉱界だけについて申しますと、いささか
能率が増進する過程にあるように
考えられるわけでございます。その過程におきまして、かりに何%かの増産をすることによって、逆に
現状におきましても
コスト・ダウンができるという
可能性もないことではないわけでありまして、
国家の言っております五千四百万トンあるいは五百万トン、この数字がプラスの方にちょっと動いただけによりまして、買い入れる方の炭価が安くなるとすれば、多少大きな方に動いてもいいのじゃないか、こういう趣旨によりまして、この
提案の趣旨の中のその二点につきましては
賛成でございます。ただ、この
法案を通読いたしまして感じましたことは、この
法案の底には、現在
日本の
石炭鉱業の置かれておる立場をかなり過大評価しているのではないか、はたしてこういうような
法案が、世論にこたえて、実現する
可能性があるであろうか、そういう不安を持っております。それと申しますのは、この第七条によりまして、実施
計画に定める
石炭鉱業の安定に必要な資金は
政府が確保するよう努力せよとなっております。現実の問題として、それからまた今の
政府といたしまして、あるいは
石炭産業の力といたしまして、この金の調達をする能力があるかどうかということに私は疑問を持っております。
提案者にいたしましては、この辺についてどれほどのお
考えを持っているかを伺えれば、私は非常にうれしいと思うわけでございます。もしこの
計画に対する裏づけの資金が不十分であるといたしますと、この
安定法案というものは画餅に帰する心配があると
考えられるところでございます。
次に四十七条でございますが、買取
価格が生産費より低いときは、その差額を
価格調整金として交付されることになっております。私ども技術の立場から見まして、あるいは心理的な
考え方から見まして、こういうことになりますと、かつての戦後の統制と同じことでございまして、生産
能率向上の意欲がなくなるのではないか、こういうふうに率直に
考えております。たとえば損したものは金を出してまかなっていくということによりまして、かなりの資金がこの運営に必要になるわけでありますが、こういうような資金の出し方を
石炭産業だけに許すような
状態であるかどうかということを
考えなければならない。そういう面から見まして、これに不安を感じているわけであります。
次に第九十六条、
炭鉱補償事業団が買収する採掘権の基準ということが示されております。これによりますと、
価格調整金の交付を受けられない場合もあるというふうに読み取れるわけでございます。そういたしますと、先ほど申し上げました四十七条とかなり
矛盾してくるわけでありまして、もしこういう
状態のままで実現するといたしますと、
石炭鉱業界に混乱が起きるのではないか、つまり中途半端な点で混乱が起きるのではないかということが私に感ぜられたわけでございます。もしその点の
関係のことが十分裏づけがあるということでありますれば、こういう形の
法律案そのものではないといたしましても、通せる形、あるいは
可能性もあるし、またスムーズにいくのではないかと
考えているわけでございます。
以上、各条文について思いついたことを申し上げたわけでございますが、全体の感想を
一つ述べさせていただきます。
第一は、現在の
石炭鉱業は、いわば世論として見放された
産業となっているわけであります。しかし
石炭の
重要性というものはわかっているわけでございまして、こういういわば多少といいましょうか、かなり間違った
方向を指し示しております世論というものは直させなければいけない、その
方向を直させて、
石炭鉱業の
重要性を認めさせなければならないということが緊急のことであると思われるわけであります。しかるにこの
安定法のような、非常に大きな構想でありまして、この構想の中身がかりに非常にりっぱなものであるといたしましても、今の世の中の
常識では、この大構想をそのまま受け入れるような社会情勢にはまだ至っていないのではないか、こういう懸念を持っているわけであります。しかしながら、地下資源というものの開発がどうしても国で必要であるということになりますれば、何らかの形で国が金を出さなければならない運命にあるとも
考えられるわけであります。それにつきましては、こういう大きな構想よりも、もっと急所をついた構想で強く迫っていく、必要な資金をうんととってしまうというような戦術が必要ではないかと
考えられるわけであります。確かに
石炭産業は今重大な時期に直面しておるわけでありますが、これは
雇用の問題がかなり大きなウエートを持っているわけであります。従いまして、この
雇用の問題が
一つの大きな急所でありますので、この急所をうまくつくような
法律をあらためてお
考えになりまして、もって
炭鉱離職者の
雇用の完全を期せられるようにしていただきたいということを希望いたしまして、私の
意見を終わります。
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