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1962-03-28 第40回国会 衆議院 石炭対策特別委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年三月二十八日(水曜日)    午前十時二十七分開議  出席委員    委員長 有田 喜一君    理事 岡本  茂君 理事 齋藤 憲三君    理事 始関 伊平君 理事 中川 俊思君    理事 岡田 利春君 理事 多賀谷真稔君    理事 中村 重光君       倉成  正君    藏内 修治君       澁谷 直藏君    中村 幸八君       南  好雄君    井手 以誠君       滝井 義高君    渡辺 惣蔵君  出席政府委員         通商産業政務次         官       森   清君         通商産業事務官         (石炭局長)  今井  博君         通商産業鉱務監         督官         (鉱山保安局         長)      八谷 芳裕君  委員外出席者         通商産業事務官         (石炭局炭政課         長)      井上  亮君         参  考  人         (日本石炭協会         副会長)    麻生太賀吉君         参  考  人         (日本石炭鉱業         連合会専務理         事)      長岡  孝君         参  考  人         (日本炭鉱労働         組合中央執行委         員長)     原   茂君         参  考  人         (全国石炭鉱業         労働組合委員         長)      重枝 琢己君         参  考  人         (日本鉄鋼連盟         専務理事)   葦沢 大義君         参  考  人         (電気事業連合         会専務理事)  中川 哲郎君         参  考  人         (早稲田大学理         工学部教授)  中野  実君     ————————————— 本日の会議に付した案件  石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する法  律案内閣提出第七六号)  石炭鉱業安定法案勝間田清一君外二名提出、  衆法第一九号)  炭鉱労働者雇用安定に関する臨時措置法案(  勝間田清一君外二名提出衆法第二〇号)      ————◇—————
  2. 有田喜一

    有田委員長 これより会議を開きます。  内閣提出石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する法律案勝間田清一君外二名提出石炭鉱業安定法案及び炭鉱労働者雇用安定に関する臨時措置法案議題として審査を行ないます。  三法案審査のため、午前中は、日本石炭協会会長麻生太賀吉君、日本石炭鉱業連合会専務理事長岡孝君、日本炭鉱労働組合中央執行委員長原茂君、全国石炭鉱業労働組合委員長重枝琢己君の御出席をいただいております。以上の方々に午前中御意見をお述べいただき、午後二時からは、日本鉄鋼連盟専務理事葦沢大義君、電気事業連合会専務理事中川哲郎君、早稲田大学理工学部教授中野実君の御出席をいただくことになっております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。本日は、御多用中にもかかわらず、本委員会法案審査のためわざわざ御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。厚く御礼を申し上げます。  御承知のごとく、本委員会におきましては、現下のエネルギー消費革命の進行に対応して、石炭産業抜本的対策樹立のため種々の努力を払っておるのでありますが、石炭対策について深い御造詣を持っておられる参考人各位には、ただいま議題となっております三法案について忌憚のない御意見をお述べいただき、そうして本委員会法案審査参考にいたしたいと存ずる次第でございます。参考人各位には、最初にお一人約十五分間ほど御意見をお述べいただき、あと委員の質疑に応じていただきたいと存じます。  それでは、日本石炭協会会長麻生太賀吉君からお願いいたします。麻生参考人
  3. 麻生太賀吉

    麻生参考人 石炭協会会長麻生でございます。先ほど委員長のお話にございましたように、この委員会が現在不況にございます石炭業界のため、いろいろとしていただきまして、心から感謝いたします。きょうは三つ法案についての意見を述べろということでございますが、意見を述べます前に、御参考になると思いますので、現在われわれ大手石炭業界石炭鉱業についてどのように考え、また将来どうあるべきかということを考えておるか、それをまず第一に聞いていただいて、あと意見を申し述べる、こう考えております。  皆様承知のように、石炭業界昭和三十四年の末に石炭鉱業審議会の答申に沿いまして、スクラップ・アンド・ビルドというものを中心といたしました企業体質改善流通合理化とによって、三十八年度までに五千五百万トンの出炭規模で、単価を千二百円引き下げるという合理化計画を、非常に困難な前提条件のもとで、現在まで実行してきております。その結果、実質的には生産面でも流通面でも合理化はかなり進んだわけでございますが、皆様承知通りの資材また電力料金運賃等の相次ぐ値上がりで、せっかくの合理化効果コストに反映することができません。そこへ一段と最近きびしい金融引き締めのしわ寄せを受けまして、スクラップの強行も、ビルドの促進も、次第に足踏みせざるを得なくなってきているのが現状でございます。こうして、コスト引き下げ予定通りに達成されないでいるままに、石炭値段だけは間違いなくお約束通り下げてきましたために、企業経営内容は依然として改善されません。ここで抜本的な対策を講じない限り、合理化の前途が現在非常にあぶなくなってきているのが現状でございます。現状はこのように一刻を争う重大な時期にございますが、この際一時を糊塗するような手段などではどうにもこの切り抜けは困難なのでございますから、根本的な対策確立するという意味からも、業界石炭鉱業あり方をどのように考え、また信じているかということを皆様に御理解願うことが、まず第一番の重要な点ではないかと私は思っております。  簡単に申し上げますと、石炭業界総合エネルギー対策に織り込まれなくちゃならない石炭の基本的なあり方というものを次のように考えております。わが国のエネルギー需要が非常な勢いで伸びていくその中で、エネルギー経済を貫く原則は、消費者自由選択にあるということは申すまでもありません。しかし、この場合国内資源の有効な利用、供給の安定性、並びに本日の中心議題となっております社会的側面重要性などを考えまして、今申し述べました原則は当然制約があってしかるべきものだと考えております。すなわち、石炭について一定条件が満たされるならば、石炭価格が多少割高なことがあっても、一定量——これは五千五百万トンを考えておりますが、石炭需要需要家の御協力と政府の支持、御指導のもとで、確保さるべきものだと考えます。この方法エネルギーの総コスト上昇をできるだけ避けまして、社会的負担の増加を極力避ける方法であると考えるからでございます。もしも、それにもかかわらず、石炭石油価格差が極端に開きまして、石炭のこの五千五百万トンの需要というワクが脅かされるようなことがございます場合には、国家はそのよって生ずるところの損失を埋めて下さるなり、また五千五百万トンの直接需要を確保して下さるというような適切な手を打って、石炭の安定を期していただきたい、こういうふうに考えておるものでございます。  石炭の基本的なあり方をこのように考えますときに、業界に与えられた課題はおのずとはっきりいたしております。五千五百万トンが適切な量であるかどうかという点については、これまた論議のあるところではございましょうが、現在の需要の実勢を考えますと、また現在の市場の条件のもっといいヨーロッパの国々ですら、たとえばロビンソン報告のように、石炭需要を現在の横ばい程度見通しを立てていることなどから考えますと、この際五千五百万トンの線をくずすべきではなく、そのワク内で企業体質改善政府の全面的な御支援のもとではかっていくべきであると私どもは考えております。ところで、このような基本的な方向に向う過程で、石炭業界は、先に申し述べましたような非常な難局に現在差しかかっているわけでございますが、あくまでも先ほど申し上げました基本方向に乗せるという意味で、この際一時的に思い切った政府施策を、強く現在政府に要請いたしておる次第でございます。  以上申し上げました業界の基本的な考え方からしますれば、私は本日の三つ法案につきまして、次のような見解を表明しなければならないと思います。  まず、社会党が御提案になっております雇用安定法についてでございます。業界といたしましては、この基本的な考え方から、一定量生産ワク内で合理化を進め、能率を向上させつつ、賃金上昇を吸収して、コストを上げないという方向をとらざるを得ないわけでございますから、今までの人員整理のほかに、さらに今後もやむなく人員整理は生ずることになりますが、企業といたしましては就職先整理資金の確保など、日夜奔走に努めてはおりますものの、すべての人の完全な援助をすることは、企業の限界をはるかに越えております。この点は先に緊急対策として、政府に強い施策業界から要望いたしておるところでございますが、何と申しましても、国の広い社会政策経済政策の一環として実現していただきたいと考えます。社会党のこの点に関するお考えは、人間対策に急である余り、全体としての経済の繁栄を軽視していらっしゃるきらいがあるように感じられるのであります。この意味から、本案につきましては、業界といたしましては反対でございます。  次に、やはり社会党提案石炭鉱業安定法につきまして。  業界といたしましては、先ほど申し上げましておわかり下さっておることと思いますが、石炭あり方企業自主性を極力尊重いたしながら、しかも事に応じてできる限り共同化を進めながら実現しようと考えております。それが国民経済の見地からも妥当であるという考えでございます。拝見いたしますこの安定法案は、この点から見ますと、配炭公団等構想等が入っております、きわめて統制色の濃いものでございます。業界といたしましては賛成いたしかねる第一の理由でございます。  また賛成しかねる第二の理由は、次の通りでございます。すなわち石炭基本的あり方についての業界考え方は、当然なことではありますが、総合エネルギー対策確立を待って初めて具体的なものになると考えております。現在、その将来に対する総合エネルギー対策はまだ確立されておりません。この法案を拝見いたしますと、技術的な具体的対策として考慮さるべきものが多分に含まれておるように考えられますので、その検討は、総合エネルギー対策確立のできたあとに、初めてこういう問題が論議さるべきものだと思っております。現段階では時期尚早と考えざるを得ないからでございます。  最後に、政府提出合理化法一部改正について一言述べさしていただきますと、業界は昨年末、石炭基本的あり方を実現するための諸対策のうち、特に緊急を要するものを三十七年度予算編成の時期に、政府に強くお願いいたしましたが、本月十四日には、さらに緊急対策といたしまして、一時的に思い切った諸対策が直ちに必要である旨の要求を現在行なっております。業界のこの要求現状から見ますれば、三十七年度の予算措置は大へん皆様にお世話になったのではございますが、決して満足いたすべき額にまで達しておりません。この法案予算措置の一部を実施に移すための手続の一つにすぎない法案だと思いますので、この意味で、一歩を進めるものとして本法案が少しでも早く皆様の御賛同を得まして成立されますよう願うものでございます。  以上簡単でございますが、業界見解を述べさせていただきました。
  4. 有田喜一

    有田委員長 ありがとうございました。  次に、原参考人にお願いいたします。
  5. 原茂

    原参考人 炭労の原でございます。昨年の十月の臨時国会以来、特に国会の問題として石炭問題を取り扱っていただき、特にその重大な専門的な役割を果たす委員会として皆様に協力いただいたことを心から感謝をいたします。  まず、法案の問題について態度を明らかにしたいと思います。安定法の問題でありますけれども、基本的にはこの安定法賛成をいたします。なぜかというならば、現在の石炭合理化やり方は、安定ではなくて、むしろ不安定に拍車をかけている政策ですから、法律をもって安定化するという意味の強力な措置が講ぜられない限り、石炭産業は自滅の速度を早めるばかりである、こういうふうに思います。それは生産体制改善をし、合理化をして能率を上げるというやり方ではなく、むしろ人員整理をし、あるいはそこに働く労働者労働条件引き下げをもって経費の節減をする、こういうやり方だけが今日の合理化やり方である。こういうやり方をしている限りにおいては、石炭産業というのは何ら合理化されるものでなくて、むしろ斜陽の道に通じている事態が今日の状況ではないか。たとえば、大手から中小炭鉱格下げをする、あるいは第二会社格下げをする。独占でさえもやっていけない産業を、企業を縮小し、第二会社に落とす、こういうやり方を通じ、租鉱炭鉱などという業態をたくさんふやしていくことを通じて石炭産業合理化をすることは、一〇〇%不可能ではないだろうか。ここでやはりどうしても抜本的な生産体制というものの改善を願わなければ、石炭産業は安定をしない、そういうふうに考えます。それはむしろ坑区の整理統合であるとか、あるいは縦坑の開発であるとか、中小共同化する、いわゆる大炭鉱の若返りであるとか、こういう形を通じて近代化資金を国が責任をもって援助する、あるいは銀行に対するそういう指導を行なうことを通じて、初めて近代的な産業になる、あるいは合理化が達成される、こういうふうに思います。特に今日の時点では、銀行石炭産業もうけが少ないという理由で、締め出しをしている。中小に至っては石炭を掘って、目がねを通じて労働条件賃金、設備の改善合理化などができるしかけのものではない、こういうふうに思います。  もう一つは、それに伴った流通機構の問題があります。これは大手産業大手消費者売買契約をしている、たとえば電気との取引あるいは鉄鋼との取引、ガスなどとの取引、こういう大口においては、直接業者間において取りきめをいたしますから、生産価格と売炭価格との差は非常に僅少であります。ところが中小あるいは一般国民売買をされる流通機構が複雑なために、原価で五千円の石炭が東京では一万二千円になり、九州で原価四千円の石炭が大阪にくると一万円になるという矛盾を露呈をしている。一方わずか千二百円のコストを引き上げるために、十一万人あるいは十三万人の首を切り、中小炭鉱のほとんどをつぶしてしまう、しかも大手炭鉱もうけが少ない炭鉱閉山をするという、こういうやり方は、そういう矛盾を是正せずに、一方的に労働者の犠牲のみにおいて解決をしていく、ここが問題ではないかと考えるわけです。そういう改善が当然必要です。  もう一つは、雇用の問題である。世界的にエネルギー革命といわれている石炭問題を、どういう面からそれぞれの国々が取り上げているかというと、石炭企業の利潤をふやすためであるとか、あるいは石炭価格が高くてもいいんだということが平気で言われている意味ではなくて、むしろそこに働いている労働者という、石炭産業に関連する多くの国民生活、こういう問題が不安定であっては国の政治として問題である、そういう意味で取り上げられているのでありますから、雇用の問題を抜きにした石炭産業政策なり安定政策というものは、世界常識においてあり得ないことである。そういう一番大切なことについて、日本国会が、国の政策として明らかにしていないところに、今日の混迷せる石炭産業の危機があり、あるいは見通しも、あるいは希望もない状態のまま斜陽化していく事情速度を速めていくだけではないだろうか、こういうふうに思っております。従って早急に基本的な政策を立て、それを法律で明確にするのか、国の政策として明確にするのか、やり方は二つありますけれども、今日までの行政指導という弱いやり方では石炭産業を安定さすことができないから、法律をもって明らかにすることが必要になってきているのではないかと思いますので、賛成をいたします。  次に、炭鉱労働者雇用安定に関する法律案について賛成をいたします。  その理由は、現在どういう形で雇用問題が処置されているかといえば、ともあれコスト引き下げである、あるいはスクラップである、こういうことで閉山をする、あるいは人員整理をするというやり方をやっています。この大半の労働者は、八万も失業したうちの一割程度しか就職をしておらず、あとの九割というものは路頭に迷う——あるいはニコヨンになるか、生活保護法によって生活をする、こういう事情になっていますから、これが社会問題にならなかったり、あるいは政治の場で取り上げられないというのは、むしろ不思議な状態ではないだろうか。もう一つは、最近たまたま、治安当局がことしの七月、八月には筑豊においては暴動が起きる可能性がある、従って警察などを増員して、その鎮圧の対策を立てることを計画をし、準備をするという話を聞いています。それが事実であるかないかは別として、そういうことが想定される事態が、社会問題としてこの失業の問題から発生する要素を明らかに持っているが、今日の炭鉱労働問題ではないだろうか、こういうことが言えるわけです。しかも、これからどの程度失業者が出るか、果てしもなく続くということでありますから、一そう社会不安と混乱を想定せざるを得ません。  もう一つは、働いている労働者はそれでは生活不安がなかったり、雇用問題についての不安がないのかといえば、毎日、いつ首切りが出るだろうか、いつ賃金引き下げられるだろうか、こういう不安におののきながら増産に協力しているという労働者の非常に悲しむべき現状は、想像に絶するものがあるのではないか。こういう意味で、何はともあれ、石炭産業を生かすという道を国が考えるならば、雇用の安定を前提とする政策がない限り、石炭産業も安定はしないという事実を国会が明らかにしていただいて、この問題に取りかかっていただきたいということをお願いする次第であります。特に最近は、大手の中でさえ賃金引き下げを目的として、看板を塗りかえて第二会社にする、あるいは直接労働者を雇わずに、租鉱権炭鉱などをたくさん増設をして、低賃金労働者を使う、こういうやり方をしている。あるいは杵島とか三池に見られるごとく、大量の人員整理をしたあと労働力が不足になる、従いまして組夫臨時夫などを働かせて、安い労働者をふやすことを通じてコスト引き下げをやっているやり方は、まことに近代的な合理化の逆行といわなければなりません。そこに雇われる労働者というものがいかに不幸であるかということは明らかであります。そういう意味で、雇用の安定ということをこの際緊急に明らかにしない限りにおいて、労働者の不安だけではなくて、石炭産業の安定が危うくなってきているのではないか、こういう意味でこの安定法について賛成をする次第です。  この際特に一つだけ申し上げたいのは、たまたま雇用の安定ということは、首切りが自由にできないというのは、経営権の問題に触れたり、人事権の問題に触れるということで反対をする議論が、国会の内外において台頭しています。しかし社会主義の国ではなくて資本主義の国でも、石炭産業についての雇用の安定というものは、どこの国においても国の政治の問題として、雇用の安定を明らかにしていることは、皆さんも御承知のはずでありまして、思想であるとか、あるいは主義主張国家形態によってこの問題が議論されることは間違いである、このことを特につけ加えたいのです。  次に合理化法の問題であります。合理化法の問題については、賛成する部分もございますけれども、特にスクラップの問題について意見があります。それはスクラップをしなければならないという原則が正しい、正しくないは別にして、そのやり方について大へんな間違いを起こしているのではないだろうか。たとえば、現在保安というものを守らずにそこに働かせていることは、人命の問題である。こういう企業がある。こういう企業の問題は、スクラップの対象であるかないかにかかわらず、早急に措置すべき性質のものではないだろうか。もう一つは、終掘による閉山という問題がある。ところがそこにはいずれにしても大量の労働者が雇われているわけでありますから、この法律は山をつぶすということを明らかにしてはいますけれども、あるいは買い上げるということが明らかになっても、そこに働いている労働者が生きる道というものは一つも明らかにされていません。従って、そういう指導を行なおうとするならば、当然そこに働いている労働者の行く先、転換先が明らかに政治の問題として保障されない限り、ただ単につぶすとか買い上げてしまいましても、失業者が増大するだけでなくて、そこには社会不安という問題が同時に並行的に起きる重大な問題である、こういうふうに思いますので、その点をむしろ充足するということが必要であって、そのことなしにスクラップだけを強化することは間違いだと思います。  それからこれは三法案と直接関係もありますし、ない部分もありますけれども、炭労として特に意見があります。今日どこの世界を見ても、社会主義は当然国が管理をし、行政指導を行なうわけですが、資本主義においても、今や私企業として、労使の問題として石炭産業というものを合理化をし、あるいはその中から企業が独立をしていくというやり方をしている国は、一国もありません。たとえば、イギリスは国有国営でやっている。これは社会主義の国ではありません。フランスも同様であります。西ドイツにおいてもしかり、国有国営という方式はとっていませんけれども、そのやり方は、まず国の政治の場において石炭産業の安定を明らかにした中で、具体的に合理化を協力し合う労使協調というものが生み出されていく。従って今世界常識として、資本主義社会主義関係なく、国の政策なり管理なり、あるいは政治の問題として、石炭産業の安定という道を明らかにした上に国の経済として成り立っているということが、今日いわれているわけでありますから、そういうことを全くせずに、単なる石油との競合による値段競争で生きることを考えろというのは、結果において失業労働者を生み出すだけが精一ぱいでありまして、そこに産業の安定とか企業の安定などということがあると思うことは、非常に間違いではないかと思います。この際、こういう事態があるわけですから、幸いにして世論も支持し、国会は国をあげてこの問題を議論している最中でありますので、この石炭対策特別委員会は、国として、石炭産業世界常識にはずれるようなことでなくて、その線に沿って問題の処置をしていただくことをお願いをしたいわけであります。いわゆる労使の問題で解決するものではなくて、国の政策なり政治以外に解決の道がないのが、世界的な石炭産業の運命である、こういうことを御理解を願いたいわけです。  それからエネルギー革命というものは世界的なものであって、日本だけではないということを、三十四年以来言われています。しかしその場合に、世界各国労働条件なり労働者生活はどうなっているか、これは社会主義資本主義を問わず、炭鉱に働いている労働者はいかなる産業よりも高賃金常識になっています。あるいは一番短い労働時間でこの待遇を与えられるということも、当然になっている。こういう事情考えるならば、日本の場合は最低の賃金で最長の労働時間で、しかも労働不安と生活の不安と雇用の不安というものがつきまとっているという、こういうみじめな状態は、世界の歴史にない、逆行した労働条件と言わざるを得ません。  たまたま昨年以来皆さんの協力、指導を得まして、石炭政策あり方について臨時国会で決議をしていただきました。炭労はこの際政府にいろいろな要求をいたしていますけれども、この要求は昨年の臨時国会できめたことを実行してもらいたいという要求でありまして、あらためて別な要求をしているのではありません。たとえば国会決議の前文には、国内エネルギーとして石炭産業の地位をまず長期安定、確立することが先決である、これを早急にやるということが、決議の第一項に載っているわけであります。ところが今日、五千五百万トンで押える、コスト引き下げるために能率を上げる、従って労働者が生産に協力をし、増産運動に協力することは、仲間の首を切ることに通じている、あるいは、みずからが首を切られる運命を知りながら増産に協力するという不自然さは、いかなる思想のもとにも許せない人道問題ではないか、こういう意味で五千五百万トンという問題を、単に産業の生産のワクというものと労働者生活なり雇用の問題と切り離して措置することは間違いではないか、こういう意味のことを言っているわけであります。しかもそのことを想定をして、昨年の臨時国会の決議が、石炭産業国内資源としての地位を明らかにすると言うゆえんだと思います。二つ目には、これは総理大臣みずからが言われていますように、あの決議の中に盛られているのは、それは雇用に努力することは当然であるが、国としても、人員整理というものが起きる場合に、転換する職場がない場合、あるいは生活の保障がないのに人員整理ということはしないということが、決議の一項に載っているわけであります。従ってその決議を今日の時点で実行していないというのは、国会の決議を実行する義務は皆さん方にあると判断せざるを得ません。満場一致でなされた決議がなぜ実行してもらえないかという切なる要求をしているわけであります。新しい要求ではなくて、決議の実行をお願いしているわけです。  もう一つは、最低賃金の問題であります。これも対策特別委員会では総理大臣みずからが、炭鉱には最低賃金の必要であることを認めています。にもかかわらず今日の時点では、のらりくらりとしてその結論を出さずに、今日まだどうなるものか皆目わからないという実情にあることは、国会の決定なり総理大臣の答弁からいっても、まことに政治の場においてこれを推進させない怠慢であると言わざるを得ません。こういう意味で、総じて言えることは、われわれは今日の時点で新しきものを考え、創造するのではなくて、昨年の臨時国会で決議をされましたそういう公約なり決議を完全に実行していただきたい、こういうのがわれわれ炭労要求であり、あるいはわれわれの希望であることを最後に申し添えまして、私の意見を終わります。
  6. 有田喜一

    有田委員長 ありがとうございました。  次に、長岡参考人にお願いします。長岡参考人。
  7. 長岡孝

    長岡参考人 日本石炭鉱業連合会の長岡でございます。  三十四年の十二月に立てられましたわが国の石炭鉱業合理化計画が、三十六年当初以来の石油の暴落、石炭原価要素の当初計画値をはるかにこえる暴及び金融の引き締めによって、計画期間の半ばであります今日以後において実行が困難になったことは、政府を初め各界の認めておられるところでありまして、そのために、去る二月二日の石炭鉱業審議会におきまして、政府当局は、まず、現存の石炭鉱業企業体から、昭和三十五、六年度の経営の実績と三十七年度以降四十二年度に至る経営の見通しを、現在の環境をもととして聴取することをきめたのでございます。これに対しまする各企業体の回答は、三十七年度以降、各企業体とも、新鋭炭鉱中心として、相当の増産によって所属各炭鉱原価を切り下げようとしておるのであります。新鋭炭鉱の増産力に既存炭鉱の生産力を合わせますならば、三十七年度の生産は優に六千万トンをこえることになるのでありますが、さて、手をこまねいてこの増加需要を期待することは困難だと考えられます。かような全般的な環境の中で、われわれ比較的中小規模の炭鉱といたしましては、具体的に次のように対処して参りたいと思っております。  第一は、需給をアジャストする道についてでございます。われわれの企業は多く一企業炭鉱でありまして、いわゆる所属事業場の代替性が少ないのでございます。今日まで、また今後といえども、石炭不況を切り抜けるために、企業体内のある不採算炭鉱を温存しても、他の採算炭鉱の利益で両鉱を引き続き稼行していくというようなことはできないのが多いのであります。直接みずからの一炭鉱合理化する以外道はない。なればこそ、今回のような情勢に入った場合には、われわれの炭鉱は全く、環境に対応しながら死ぬまでやっていくということ以外にはないのでございます。どうかわが国石炭企業の中で全国に多くの炭鉱を持たれる企業におかれましては、まずそのうちの老朽炭鉱を至急廃山せられて、石炭鉱業全般の崩壊を防がれんことを期待する次第でございます。従来の炭鉱の廃山は、必ずしも直接石炭の需給に影響したことは考えられません。その絶大な効果は、社会的意義だと考えております。今年以後は需給効果を目ざして直接廃山をしていかないと、石炭鉱業そのものが、おのおのの企業でなくて石炭鉱業全体が破綻に瀕するものと考えております。おそらく政府は、かような大規模な老山の廃山には、たとえ三十七年度予算を補正いたしましても実行をされる覚悟を持っておられることと私は考えておるわけであります。  第二の点は、中小炭鉱の資金手当の急務であります。三十七年度中に、中小炭鉱機械化のための無利子近代化資金の予算は、ようやく前年度より一億円増額された三億四千万円という案になっております。昨年の石炭鉱業審議会でも、もっぱら資金の、ことに中小炭鉱に対する資金の手当が一番大切であるという建前から、われわれ生産者だけでなく、需要者を含め、労働組合の代表の方を含め、学識経験者を含めた石炭鉱業審議会が、次に申し述べます具体的な十二の資金手当の方策を通産大臣に建議しておるのであります。  第一は、近代化資金の大幅の増額。第二は、開銀資金借入金の一部の返済猶予。第三は、開銀の金利を五分に下げる、もし必要があれば、一般会計からの金利の補給。第四は、中小企業金融公庫貸し出しの対象を、石炭鉱業については、従業員二千人程度の規模の企業にまで拡大する。第五は、中小企業金融公庫の石炭鉱業向けの資金を大幅に増額する。第六は、中小企業金融公庫借入金返済の一時猶予をする。第七は、中小企業金融公庫金利を五分引き下げる。第八は、石炭企業からの市銀手持ち手形については、日銀再割または担保適格手形とする。第九は、中小企業信用保険公庫から信用保証協会への融資を増額する。第十は、信用保険の填補率を石炭鉱業向けについては八〇%に引き上げる。十一は、保証保険の保険料の軽減をはかる。十二は、信用保証協会に対する国の損失補償制度を創設する。非常にこまかく、しかも具体的に石炭鉱業審議会でさような建議を通産大臣に出されております。われわれといたしましては、政府の方で三十七年度予算を補正してもこれを具現していくことがぜひ望ましいという考えでございます。  この第一の需給に対する一つの方途、第二の中小炭鉱向けの金、かような二つのものが万一順調に参らぬといたしますと、せっかく仕上がり低下を計画しても達成できず、金融の裏づけのないままの高仕上がりに放置されまして、やむを得ず企業は、将来回復の見込みのないダンピングをいたしまして、社会問題としてあとに残すということになるほかはないので、以上二つの方途が講ぜられない限りは、せめて三十七年度以降の炭価引き下げの目標を先へずらさなければ、企業そのものとして今倒れてしまうおそれがあるということを憂えておるものでございます。  なお、昨年十月に、私どもがあまりに著しい石炭原価要素の暴騰に対して、これに即応する方法として、生産炭一トン五百円の政府の補助を期待するということを方々に申し述べたのでありますが、まだ解決の道は開いておりません。これはただいま申しました三十七年度に対応する、あるいは対決する現在の立場の前の、三十六年度そのものの経営の基盤が傾いたままで、三十七年度以降にわれわれが対決しなければならないという姿でありますので、かりに直接トン当たり五百円という補助を、あるいは生産者あるいは消費者にやるという方途が講ぜられない限り、せめて政府自身の手で行なわれると思われる次のような具体的な五つの点は、ぜひ至急にやっていただきたいものであると考えております。  第一は、石炭の国鉄運賃値上がり分は、暫定割引を実行して、これによってもし国鉄の設備資金の不足が憂えられるならば、国鉄債の増発をするという方法があると思います。炭鉱用電力の料金、これは現にありまする農事用、灌漑用水用電力料金並みに下げるという方法を実行していただきたい。第三に、国有林は立木、素材、いずれにおいても炭鉱向けに特売するという方法を立てていただきたい。第四は、鉱産税、炭鉱用固定資産税の大幅の減額。第五は、鉱業法の最終改正意見が去る二十三日にきまりましたのでありますが、法律改正に至ります前にも、鉱区の調整を実際上もっと強力に行なえる方途を開いていただきたい。この五つの点は、先ほど申しました三十六年度、この二、三日うちに終わりまする現年度の経営基盤そのものが傾いておるということを直すために、政府におかれて、やろうと思えばできることでありまするので、あえて再び申し述べる次第であります。  なお、われわれの出しておりまする炭は一般炭が多いのでありまするから、やはり電力の消費というものに大へんつながっておるのでありまするが、なるべく安い電力を、なるべく炭鉱側から見て手取りの悪くない石炭値段で作るというには、申すまでもなく産炭地に近いところにおける発電に待つのが一番でありますることは申すまでもないのであります。そこで政府におかれては、ぜひ工場立地の策定上、できるだけ産炭地に近いところの電力需用喚起にあらためて力をいたしていただきませんと、大量に遠距離輸送をいたしますることのあまりできない炭鉱の多い中小炭鉱といたしましては、産炭地の電力にたよることができなくなるおそれがありまするので、ぜひ工場立地上の策定をさように仕向けていただきたい。本日、三法律案の御参考になるようにと思いまして、一番具体的な現在の中小炭鉱の立場を申し述べましたわけでありまして、重ねて申しますると、われわれの炭鉱は一業一炭鉱が多いのでありまして、その意味におきまして風当たりが比較的にじかで、かつきびしい点を、特に国会におかれましても御了察をいただきまして、御審議をお進めいただきたいものだと思っております。  三法案についての考えは、この前のこの席におきましてもちょっと申し述べましたのでございますが、やはり小なりといえども経営者の責任、また自由な仕事ということの可能になるということを信じておりまする建前上、たとえば石炭鉱業安定法案におきまする石炭販売公団というようなのがあるのは、大そう炭鉱としては都合がいいように考えられますけれども、公団自身が一手に買い取られたそのあとの消費そのものになかなかに経営者といたしましては心配もありますので、今賛成をいたすというわけには参りません。  雇用安定の法案につきましても、雇用の制限ということが、自分らの力で、自分らの責任で、そういう法律のもとでやっていけるかどうか、非常な不安がございますので、ただいま賛成がいたしかねるのであります。  合理化法の改正につきましては、先ほども申し述べましたように、現在当面しております三十七年度の事態からいたしますと、しかも今までと違った需給に力の加わり得る廃山を行なわなければ、石炭鉱業——おのおのの企業ではなくて、石炭鉱業全体が倒れるおそれがあって大へんであるという観点から、合理化法そのものは至急国会の議決を経て行なわれることが願わしいと考えております。以上であります。
  8. 有田喜一

    有田委員長 ありがとうございました。  次に、重枝参考人にお願いします。
  9. 重枝琢己

    重枝参考人 私は全炭鉱重枝であります。全炭鉱としての石炭企業突破についての基本的な考え方は、すでにしばしばこの委員会でも述べておりますので、それは省略さしていただきたいと思います。そこで、主として議題になっております三法案についての意見を申し上げさしていただきたいと思います。  今日、御承知のように、石炭産業を安定させるという道は、石炭鉱業審議会でいろいろ審議をされまして、これを政府に対して答申をしておりますが、事実上この審議会の答申によって安定化の道が示されておるといって過言ではないと思います。御承知のように、昨年の十二月六日に、緊急対策として第二次の答申を出しておりますが、それは現在の計画でありますところの五千五百万トン、千二百円下げというものを基本的には進めていく、しかしこれを進めていくためにいろいろ困難な事情が出てきておるので、それを克服するための政策を要望する、そうして新しく年次計画を組み直す、こういうことを中心に答申が出されておるわけであります。その内容については、先ほど長岡さんも詳しく述べられておる通りであります。  そこで問題は、この石炭鉱業審議会の示した答申をいかに実施するかというところに、問題はかかっておるように考えるわけであります。そういう考えからいたしますと、石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する法律案に示されておる点は、この答申を実施するという建前での改正と考えられるわけであります。そこで基本的には、この改正については賛成であります。しかし、まだこの答申を十分に実施できるような措置がとられていないという点が問題になっておりますので、本委員会におきましても第二答申をさらに御検討願って、足らざるところを大いに推進するという立場に立って、よりよい改正をやっていただきたいと思うわけであります。  次に、雇用安定に関する臨時措置法でございますが、これは大量解雇の制限、あるいは第二会社、租鉱権、請負の禁止、三年間の時限立法ということを骨子といたしておるようでございます。表面これを見ますと、解雇は制限され、大へんけっこうのように見えます。また、この点について経営者の方々は、解雇制限されるのは困るというようなことでございます。しかし、私は別な観点からこの法案を見ていきたいと思いますが、一定条件をつけて解雇を制限するということになっております。これを逆から解釈いたしますと、さような条件が満たされた場合には解雇ができるということに当然法律の場合はなってくるわけでございます。そうしますと、解雇制限法が実は解雇承認法になるというような危険を持っておるわけであります。そこに解雇制限法が両刃の剣であるということに、ドイツあたりの経験からも言われておるところがあろうかと思います。特にそういう点を留意していきたいと思いますが、そうしますと、解雇制限の法律ができるので、労働者はこれで解雇にならないというふうに安心してしまう。経営者の方は、何とかその条件を満たして解雇しようとする。よく日本では、法律で何かきめますと、それをくぐりさえすれば何をしてもよいというような考え方が往々にしてあります。免れて恥なしという考え方が非常に多いのであります。そういうことになりますと、解雇制限法を出された趣旨とはおのずから違ってくるように思うのです。問題は、炭鉱労働者に安心を与えるというのは、単に首を切らないということだけかどうかという点を考えてみなければならない。特に三年の時限法でありますが、一体三年たったらどうなるのか、三年で問題は解決するのかというような点が、いろいろ問題点として出てくるように思います。  そこで問題はやはり、現在の石炭危機を突破して石炭産業をどうして安定させるか、真の安定をはかって、生活も安定させ、雇用も安定させる、こういうことに結局は問題が行きつくのではないかと思うわけであります。すなわち、石炭産業の今日の危機を一体どのように認識するかということによって、雇用の問題に対する対策の立て方も出てくるのではないか。今日私たちは、エネルギー消費構造の変革という事態に直面して、非常に辛いけれども、体質改善というものをやらなければならない。その上に立って次の石炭産業の飛躍を考えるという立場に立っております。このような体質改善ということを進めるということから考えてみますと、とどまる者に対しては、石炭産業の中で働く者に対しては、十分なる労働条件を確保する。やむを得ず石炭産業を去って行かなければならないという人に対しては、新しい十分なる職場を確保するというところに主眼が置かれなければならないのじゃないか。そういたしますと、解雇制限ということも、もちろん一般論としては必要でございますが、むしろある程度炭鉱労働者雇用の義務を成長産業に求めるということの方が、むしろ問題の解決の前進をはかるものではないだろうか。今日行政的にそういうことが指導されておるわけでございます。諸外国におきましては、よく身体障害者、ハンディキャップ・パースンの雇用について、一定指数以上の労働者雇用しているところは、あるパーセンテージまで身体障害者を雇用しなければならないという措置さえとられているわけであります。一国の産業政策を進めていくという中から出てくる炭鉱離職者でありますから、もし行政指導というようなもので十分でないといたしますならば、そういうような雇用の義務づけをする方向こそ私はむしろ検討に値するものではないだろうか、どうか皆様のそういう点に対する御検討をわずらわしたいと思うのであります。  次に石炭鉱業安定法案でございますが、安定法の個々の内容について、われわれ大いに賛成するところもございます。しかし石炭鉱業の安定の道というのは、単に形式的にいろいろなものを整えるということでなくて、どういう安定政策を立てて、それをどう実現していくかということに実はあるわけであります。そういう点を考えますと、先ほども申しました繰り返しになりますけれども、今日の石炭危機をどう見るか、これから抜け出す安定化の具体策をどう立てるかということに帰着するのではないかと思います。そういたしますと、今日の石炭産業は非常に大きな国家保護を受けて、そして新しい体制を築こうとしておるわけであります。最初は、個々の石炭企業が私企業の建前を十分発揮して、石炭産業の役目を十分果せるようにというのが鉱業審議会等におけるねらいであったわけでありますけれども、いろいろな多くの悪条件、困難な条件が重なってきて、それらを克服するために国の施策をだんだん要請しなければならぬということになって参りますと、国家の保護はどんどん受けるけれども、その他の運営等については自由勝手だということでは、これはなかなか国民全体も承認しないような方向に現にきておるのじゃないだろうか、石炭経営者の中でも実際はそういう点を感じておられるのではないかと私たち思うのでありますが、そういたしますと、国家的な保護助成の施策に対応した国家的あるいは公共的な規制を石炭産業あるいは石炭産業の経営というものに加えていくという方向が、好むと好まざるとにかかわらず、必然的に出てくるのではないだろうかと思うわけであります。そういうような、単にイデオロギーの上で規制を加えるとか加えないとかいうことでなく、事実上、石炭産業の安定というものを進めていくと、必然的にそういう方向にくるというのが今日の状況ではないか。そこで、そういうような点を十分検討して、石炭鉱業における事業を行なうことに対する一つの規制、石炭鉱業事業法というようなものでも全般的に取りまとめるという方向の方が、石炭鉱業安定のためにはきわめて重要ではないか、こういうふうに考えるわけであります。今日石炭産業のねらっております体質改善というものを第一段階として達成した暁には、当然そういう事態がくると思いますので、総合エネルギー政策というものの確立と相待って、石炭産業の地位を固め、その石炭産業の中で事業を行なうことに対する国家的な規制ということを、そういう新しい見地から検討するという方向の方が、より妥当な方向ではないだろうかと考えるわけであります。  いずれにしても、石炭鉱業審議会には各界の代表が集まりまして、きわめて真剣に検討いたしておりますが、その審議会の方針並びにその経過というものを十分この委員会においても注視して、それを完全に実施するために、三十七年度の予算は従来の予算から比べれば相当大幅なものが盛られておるのでありますけれども、たとえばスクラップ・アンド・ビルドの場合に、スクラップの方にどうも重点があって、ビルドの方に少し足らないのじゃないかというような、軽重の度合いの相違というようなものもありますので、そういうような点を十分検討いただいて、十分な政府施策予算措置を求める。三十七年度の予算というものでこれができない場合には、遅滞なく補正予算等を組んでこれをうまく推進していくというような方向をぜひともとっていただくようにお願いをいたしたいと思います。  最後に、そういうような諸施策をやっていただきますけれども、石炭産業の安定というものに対しては、労使関係というものがきわめて重要でありまして、労使がいがみ合っておったり、労使が同床異夢で、てんでんばらばらなことをやっておるということでありますならば、石炭産業の中自体でもうまくいきませんけれども、国民全体から見て決していい姿ではないわけであります。そのことは、石炭産業に対する国家的な施策に対して、それにせいぜいブレーキをかける役割しか果たさないわけであります。そういうような意味において、石炭産業の中における労使の民主的な協力関係というものを作るという点も、あわせて考えていただかなければならない。そして個々の企業体質改善、あるいは合理化、あるいは配置転換、あるいは退職者というような問題についても、労使が事前に十分協議して、今言われておるところの事前協議を十分尽くしてやっていくというところにほんとうに新しい方向があるのだということを、御認識願いたいと思うわけであります。  さらに、たとえば近代化資金が今後も大幅に各企業合理化のためにつぎ込まれるわけであります。このような合理化資金を最大限有効に使うというためには、今申しました労使間の問題が重要であります。経営者だけが勝手な計画を立てて近代化資金を使う、それに対して資金をつけていくというようなことでは、せっかくの資金がむだ使いされる。使おうとして今度は労使間でうまくいかないということで、有効な資金の使用ができないというような面も過去にいろいろあったと思いますが、そういう点では、近代化資金を借りて使っていくという場合に、労使がその企業体質改善合理化という点について意見が一致して、これで大いにやっていくのだ、やれるのだという態勢になって初めて資金がそこに流入するというような、資金流入についての規制というものについても、労使関係というものをながめながらやっていくという点、これも新しい意味できわめて必要なことではないだろうかと思いますが、そういう点についても配慮されながら、全体的な施策を効果的に、集中的にやっていただくような処置をとっていただくことをお願いいたしまして、私の陳述を終わります。
  10. 有田喜一

    有田委員長 ありがとうございました。  参考人各位の御意見に対して質疑の通告がありますので、これを許します。始関伊平君。
  11. 始関伊平

    始関委員 最初に、麻生さんにお尋ねいたします。  あなたの先ほどのお話の中で、総合エネルギー対策確立といいますか、そういう問題にお触れになったのですが、実は、総合エネルギー対策確立しろというようなことは、非常にいろいろな人がいろいろな場合に言いますけれども、一体総合エネルギー対策という言葉はずばりそのものとして何を言っているか、それが実にあいまい模糊としている。群盲撫象といいますか、そういうような感もあるわけです。その内容にももちろんいろいろなことがあって、たとえばドイツのル—ル地方なんかでは、パイプ・ラインで原油が送られて、あそこに精油所ができるというような問題があります。しかし、そういう意味で九州や北海道に精油所を作るのは、総合エネルギー対策上望ましくないということもあると思いますが、しかし大筋を言いますと二つあって、一つは数量、もう一つ価格の問題です。数量の問題というのは、石炭と重油あるいは天然ガスの安定供給という意味から、私は将来もっといわゆる原子力発電、これをやらないといかぬと思うのですが、しかしこの点につきましては、その内容についてはいろいろ御批判があるだろうが、石炭は五千五百万トン、その他重油がどうなる、石油がどうなる、あるいは天然ガスはどうなる、あるいは水力発電はどうなるという一応の見通しがあるわけです。だからそういう単純な数量の見通しについては、いわゆる総合エネルギー対策というものは、中身に対する批判はあるにしても、ある程度できている、こう思うのです。残った問題は価格なので、石炭は五千五百万トンだと言ってみたところで、今のような情勢で重油がどんどん下がる。私は自由化になれば、原油の生だきというものも反対する理由に乏しいのじゃないかと思います。そうなるとまた、原油に引っぱられて石油が下がり、石油に引っぱられて石炭が下がるというわけで、どこまで下がっていくかわからない。この前、大田垣さんが電気事業連合会の会長としてこの委員会参考人として出てきた。どうするのだと言いましたところが、電力業界としては、三千三百万トンという約束の数字、あれは引き取る、しかし価格そのものはあくまでコマーシャル・ベースだ。それで、重油がどこまで下がることを期待するのかと言ったら、六千円であり、さらに幾らでも下がった方がいいのだ、その場合に裸でそれに見合うものでなければいかぬのだ、こういうお説なんですね。これじゃたまったものじゃない。ですから、数量のほかにそういう価格の問題、つまり競合するエネルギー源相互間に価格差があるわけです。これをどうするかという問題に対して、はっきりした見通しをつけないといかぬ。外国の例なんかを見ますと、日本現状石油価格においてはむしろ高価格政策がとられている。これはもうはっきりしております。これは国際石油資本の独占価格だとかなんとかいうことではなしに、政府が認めた意識的な政策価格だろうと思っております。その意味は、石油業者にある程度の利潤をあげさせて、そこで精製施設の拡充とか、あるいは資源探査の金とか、そういうものを調達させる意味一つある。もう一つは、石炭との価格のつり合い、こういう意味があるのです。ところが、このエネルギー政策の眼目だから私は考えているのですが、その点については政府エネルギー対策大綱というようなものの中にも発表されたものはないのですが、通産大臣なんかの所見を聞いておっても、まだきわめてあいまい模糊としているのです。五百円の補給金を出せとおっしゃったが、それは当面過渡期の問題としてという意味もおありだろうが、やはりそういったふうな価格差の調整という問題につながっているのじゃなかろうかと思うのですが、方法論は別として、私は補給金を出すという考え方にはもちろん反対ですが、しかし石油価格を安定させる。どうしてもだめなら——ドイツなんかほんとうに目玉の飛び出るほど高い関税をかけております。重油消費税についても二千数百円という高額である。そういったようなことでバランスをとらないといかぬ。今比較的明らかにされておる。総合エネルギー体策というものが全然ないわけじゃないのですが、一番はっきりしないのはそういう点だと思うのですが、御所見いかがですか。
  12. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今始関さんのおっしゃったのは——だいぶおわかりになっているかと思いますが、全体的のお話だと思います。しかし総合エネルギー対策をわれわれ言っているのは、現在税金があるというふうにおっしゃるけれども、私は大してきっちりしたものはないと思います。またあれは二、三年前に作られたので、根本的に狂ってきていますね。今の産業の伸びからいって、もう一ぺん再検討すべき時期にきている、こういうふうに思います。あのときにずいぶん早く原子力なんかも加味されておりますが、現在総合エネルギーとしてあのピッチではいかないでしょう。どうせ原子力をもう一ぺん加味しなければならぬと思います。だから私は、ことしくらいが、政府としてはお立てになる一番大事な時期じゃないかと思います。そこで私は総合エネルギーと申し上げたのであります。その申し上げた理由は、石炭というものが国内資源であるということ、これをどの程度残しておくか、価格だけで競争していけばゼロでもいいということになるかもしれません。私はそういう考え方もあると思います。五千五百万トンというのが、三十八年まできまっている。三十八年というのは来年のことですから、それだけではわれわれ非常に不安です。将来どうなるのかということは、政府として確実なものを考えて、この線に沿ってわれわれは仕事をしていきたい。そういう意味の総合エネルギーの総ワクですね。あと七、八年後には、この前の案を見ても、三億トン近い石炭換算のエネルギー需要があるわけです。その間、五千五百万トンずっと置いておくのか、価格だけで競争して、油が安い、原子力が安いということから、石炭は四千万トンに減らすのか、場合によってはゼロにするのか、こういう考え方がいろいろおありだろうと思いますが、その根本的なものを早く作っていただかなければ、われわれ不安であるということが、数量的な問題であります。  それから、そちらの方で、国内の資源であり、安定供給という前提石炭は五千万トンなら五千万トン、六千万トンなら六千万トンときまったら、これはその石炭産業が成り立つ価格で売れるような方法考えていただかなければならない。数量はきめたは、値段は油と競争しろ、どこまでもコマーシャル・ベースだというのでは、国内資源を保護する意味にならないと思うのです。価格の問題がそこに存している。こういう意味で、私は、数量と価格と両方加味した総合エネルギー対策というものを立てて——さっき重枝君なんかと話していましたけれども、われわれ、私企業としての前提である程度合理化法でいろいろな制限を受けておりますけれども、これでもっとひどい保護政策政府がとられる——国内資源であるということになるならば、これは政府としてそれだけの国の税金なりなんなりをお使いになるなら、今のような調子でみんなもうけたらもうけっぱなし、今はもうかっておりませんからよろしゅうございますけれども、もうけほうだいにやられることは、私は一国民としては反対だ。石炭業者として縛られるのは困りますけれども、しかし縛らずに、政府がどんどん金を出して私企業にやらせるということではよくないと思います。やはりそういう大きな将来計画を立て、そのワクがきまり、それで高かろうが何だろうが、国内資源はこれだけ確保するのだ、油と競争させないで残すということになれば、幾らかの政府の保護の手が伸びるということになれば、やはりそれ相当なそれに対する発言権というものは政府がお持ちになってしかるべきではないか、こういうふうに考えております。
  13. 始関伊平

    始関委員 今度は一つ原さんにお尋ねします。先ほどあなたはいろいろお述べになりましたが、石炭対策として生産体制の集約化といいますか、近代化、合理化ですね、その要するに所要資金を確保するということそちらの方が不十分ではないかという点が一点あったと思うのですが、その点については私どもも同感で、いわゆる千二百引き下げ合理化計画が始まってからの設備資金の調達状況というのは必ずしも芳しい実績を示しておらぬと思います。この点については、せんだって私どもこの委員会で通産大臣にも質問をしたのでありますが、予算の関係は別として、財政投融資の関係なんかは期の途中でも考慮の余地がある、できるだけ考えようというような趣旨のお話でした。それから、これはあなたはあまりおっしゃらなかった、重枝さんがおっしゃった。今度の政府合理化臨時措置法も、要するに通った予算を実施に移す手段にすぎない、これは麻生さんの言われた通りなんですが、そういう内容について不十分な点があるというお話ならそれもわかるのであります。  さらに、今度は再雇用奨励金とか離職者対策の経費がかなりふえておりますが、そういうものが不十分ならこれも国の責任として何とか救ってやるべきだというお話なら、これまた実情いかんでは考慮すべきものだ、こういうふうに思います。しかし、これは経営者側と労働者側、炭労の一番大きな見解の相違点は、社会党で出しておる二つの法案賛成反対かという点なんですが、これは実は非常に根本的な産業あり方に関する問題だと思うのです。私は、この二つの法案を見まして、昭和二十二、三年ごろですか、社会党内閣のときの石炭国管といったような当時の事情を思い出すのですが、石炭国管というのは、緊急増産という要請に対してはある程度効果を上げたけれども、しかし企業を健全化する、あるいはコスト引き下げるといったような意味ではむしろ逆に非常に悪い実績を示したと思います。それはたとえば、政府が増産命令を出すというなら、それに伴って資金を確保しなければいかぬし、また赤字が出れば赤字も補てんしてやろう。現実にそういう政策がとられたわけですが、そこで企業の経営責任というものが、一体政府にあるのか企業にあるのか、当時は労働組合にも相当な発言権があったのでありますが、労働組合にあるのか、どこにあるのか、一番重要な企業の経営責任の所在というものがまるっきりわからなくなってしまった。それで非常に混迷を来たしたと私は思うのですが、たとえばイギリスあたりでも、炭鉱が国営になっておる。国営になっておりますけれども、やはり国営企業としての炭鉱業を貫くといいますか、非常に大きなプリンシプルは、企業が充実経営でなければいかぬ、むやみと赤字を出して、これを国の方に転嫁するということは禁物なので、これが一番大きい原則のように私は承知いたしております。実際上はある程度の赤字が出ておるようですが、まあそういうことなんです。社会主義社会というものをかりに考えてみても、国営企業がみんな赤字を出して、そのしりをみんな国に持ってくるということでは、これは成り立つわけはないので、国営、民営を問わず、一番大事な原則というものはやはり企業の経営責任というものをはっきりさせなければいかぬ。これが大きな原則で、その原則を乱せば、非常に混乱した事態になるのは、私が指摘するまでもなく、炭鉱国管の当時を見てもわかる、私はこう思うのです。そこで今度の社会党法案というものは、全面的に赤字を政府が見ようという建前じゃありませんが、政府がそれを押えたという場合には、それに見合う赤字を政府が補てんしていこうということなんですね。もう一つ石炭鉱業安定法案というもので、いろいろな点を縛るわけです。企業の動き方、やり方をいろいろ政府が縛れば、その必然の結果として、たとえば経営に赤字が出れば、やはり政府の責任ということに自然ならなければいかぬ、こういう筋合いだと思うのです。こういうような意味合いから言いまして、私どもはこういう案が出てくる気持なり、事情なりはわかりますが、やはり国民経済全体の視野から雇用の安定、生活の安定というものをはかるべきで、雇用そのものだけを安定さすという考え方は、これは重枝さんもお触れになりましたが、適当ではない。石炭鉱業そのものの安定、さっき申しましたような意味での数量、価格両方面にわたる総合エネルギー対策確立、それから合理化の所要資金の確保、まだもう一つ不十分だとおっしゃるなら、離職者対策の一そうの拡充、こういうことでやっていくのが本筋であって、こういった基本的な考え方から、社会党の二法案はわれわれとしてはとても歯が合わぬといいますか、そう思うのですが、どうも質問にならぬかもしらぬが、一応お答え願います。
  14. 原茂

    原参考人 一つの問題点は、重要なポイントがやはり意見が違うんじゃないかと思います。現在の石炭産業というものを、石油と競合するところのコマーシャル、私企業で成り立つのであるという原則を確認して、そして石炭政策を立てようとする。私は、それでいこうとするなら、石炭産業は全部つぶすということを、政府が正直に言った方がいいんじゃないかと思う。たとえばトン当たり何千円も違うものを、いかに十一万人首切ろうと、二十万人首切ろうと、中小炭鉱を全部つぶしたって、これはコマーシャルではないのです。結論は石炭価格が高いということになる。その原則を認めてやるというのであれば、石炭政策ではなくて、石炭をつぶす政策だというふうに正直に言っていただいた方がいい。そしてつぶすなら、つぶした場合に、経営者は大へんな退職手当をもらうから食いっぱぐれがないが、ところが労働者はあしたから仕事がないのだから、そうすると、これは二十万という炭鉱労働者を首切れば、どういうふうに国は生活を保障するのかということをはっきりしてもらった方がいい。むしろその方がいいんじゃないか。われわれはそれは趣旨として賛成はします。そうではなくて、重要なことは、やはり一つ国内資源として生かすということを考える。こういう点で意見が一致をするならば、過程としてコマーシャルに合わなくても、やはり石炭産業というものを育てるということを政府の方針として、原則として確認をしていただけばいいのではないかと思います。その理由は今世界各国で、石油値段石炭価格が同じであったり、あるいは石炭値段の方が重油より安いという状態で、コマーシャル的に競合ができている国は、世界じゅうどこを探しても一つもない。コマーシャルではどうにもならぬのだ。そうすると、国内資源としてまず育てるということを原則として、一面、コストが高くてもいいのだということにはならないから、それを安くする、あるいは石油値段に近いものにするためにどういうように合理化した方がいいかというのが二つ目の問題だ、こういうふうに思います。日本の場合、現在は合理化というべきことをやっているだろうか。人間の首を切ったり、賃金を下げるということが合理化になることだろうか。それはなっていない。なぜならば、むしろ零細企業をたくさん作る。第二会社を作る。租鉱炭鉱をふやす。いわゆる零細企業をどんどんふやすことをやっているわけですね。零細企業をどんどんふやしていって、一定の限度にきたら、それを今度はつぶしてしまう。そうすると、タコの足ではないけれども、切ってはつぶし、切ってはつぶし、こういうことになってくるわけだから、最後には何が残るかというと、何も残らなくなる。そういうやり方を今やっているわけだから、合理化とか近代化におよそ縁のないものではないか。そこで、現在の近代化政策というのは、石炭経営者にまかしておいたら何を始めるかわかりゃしない、こういうことを言っているわけです。国の経済として、国内資源として必要だということを国が認めるならば、ここで合理化政策というものを明確にしてもらいたい。今のやり方は、そのようなやり方を全部経営者におまかせしますというから、経営者は金がないとか、退職手当がない、あるいは合理化資金がない、設備資金がないと言って、何をやるかといえば、当座のコスト引き下げたり、あるいは石炭値段をしゃにむに、買ってもらうために引き下げる、そのために閉山首切りをやっている。これではどこまでいったって近代的産業として、あるいは国内エネルギー資源としての生きる道ではなくて、これでは死んでいく道を進めていく方法であると思わざるを得ません。そうすると、そこにじゃまになるのは何だろうかというと、何といっても零細企業というものをどんどんふやすことです。その理由は何かというと、まず、鉱区を独占している。しかも非常にカロリーの高いところは自分でやって、あとは、今度は高い値段中小企業に売りつけてしまう、値段が合わなければ独占して遊ばせておく、そういうやり方をしている。だから、石炭産業の開発というものが、国の重要な産業として行なわれるしかけになっていない。こういうことが問題であるから、鉱区の調整が基本である。たとえばフランスが国営にしてからどうなったかというと、一番先に手をつけたのは、鉱区の整理だ。日本と同じで、斜坑でもって零細企業がたくさんあった。戦争中ですから、乱掘している。戦後何をしたかといえば、国営にしてまず手をつけたのが、鉱区の整理である。まるでお花畑のように、東京の交通のように、鉱区が混乱している。そういうところに何十億とかかるような縦坑を掘ってやる。ところがこちらでは何千万、何十億とかかるような設備をしないから、しゃにむに人海戦術で炭鉱を掘っていく。こういう乱掘した鉱区の整理というものが基本的にない限り、本来、近代的な産業として生まれ変わるということはむずかしいのだということが言われているわけです。ところが、昨年の国会において皆さん方の賛成を得て、鉱区の整理をしなければならぬということをきめていますが、ああいうものに手をつけないでほうっておくからいかぬと思うのです。もう一つは、斜坑、縦坑といっても立地条件がありますが、ヨーロッパでは今、縦坑のないところに炭鉱ありというように考えていない。日本では縦坑は幾つあるかというくらいで、全部人海戦術で斜坑で掘っていくというやり方をしているから、労働者を削る以外に経費を節約することができない。そういうところに問題がある。だから保安設備もろくにしないで、増産だけをやるという炭鉱がふえてくる。しかも大手でさえも災害がふえてきているが、こういう基本的なことが一つも解明されていない。ここに必要なものは何かというと、一定の総合開発計画というもの、近代化計画というものをちゃんと立てて、三カ年か五カ年できちんとしたらどうか。それが成立するまでの過程をどういうふうにやっていくか、その間の雇用をどういうふうにしていくかということが、やはり問題ではなかろうかというふうに考えております。  それから離職者の問題でありますけれども、離職者の問題を何とか——確かに昨年の国会できめていただいて、今度の予算で組まれた。その面は従来よりもプラスになったことは間違いないと思いますし、そこに救われるものは少しはできたかもしれません。今残っている労働者には依然として、雇用奨励金というものがあるために安定したものがあるかというと、全然ありません。たとえば中小であろうと、大手であろうと、人員整理をされた場合にどこに行き先があるかというと、九州においては閉山をしましても、退職手当は全然一銭もありません。こういう格好ですよ。やめても退職手当をもらう当ては一銭もない。こういうのが何万と筑豊にはうろうろしている。いかに法律考え方だけを並べましても、具体的に救う方法が講じられていない。こういうところに一番問題があるわけであります。先ほど重枝さんが言われておりましたけれども、それではいわゆる条件が満たされれば、首を切ってもいいのか、こういう反論が出ていました。私は、それは最低のものだと思います。条件が満たされたならば、人員整理もやむを得ぬ、こういう姿勢をとっている。炭労はとっておりますけれども、なぜかといえば、今は条件もなしに首を切られているんだから、せめて条件が満たされる場合にはという条件が出てくるのはあたりまえじゃないか。これが最低の条件であるとするならば、全炭鉱要求しているよりもっと低い条件炭労はしている。そういう面から、最も現実的な、しかもだれが見てもできそうなことを言っているわけだから、それに反対されるのは実に不思議で、仕事もなくて生活ができなくても、首を切られるのはあたりまえだとお認めになる方はないと思うのです。それが百とか二百とか、千とか二千とかいうようなことではなくて、何万というものが一時的にやられるという大量の人員整理という問題が計画されたというところが、私は問題じゃないかと思います。  それから国管の問題に触れられましたけれども、国管は確かに、内容はたくさん間違っていたところもあったでしょう。しかし、もしあれを今までやられていたら、こんな議論をしなくてもよかった。それをやめたから、こんな問題が起きた。やはり問題は、国が国の責任においてちゃんとやっていくということがきめられていれば、毎年々々計画を立てていくわけですね。ところが私企業にまかせておいたから、経営者は金がない、中小炭鉱は日がねももらえない、従って労働者の首を切ってしまう。何ぼまずい国管でもやっておったならば、今日の危機はこなかっただろうと思います。そのことの是非ではなくて、今日置かれている危機というものを直接打開するという現実的な話を私らはしていただきたい、こういうふうに思います。私らが言っている要求というのは、これが高いものであるということはいささかも考えておりません。皆さんも御承知通り、ヨーロッパの資本主義の国がやっている石炭対策石炭資本家やその国の政府がやっている最低のことを要求しているのであります。何も社会保障だとか社会政策要求しているのではなくて、ヨーロッパの国がやっている石炭政策の最低のものを要求しているのです。それさえも耳を傾けられないならば、それは石炭産業を育成するとか、重要産業として、国内資源として認めるのではなくて、これは政府が、めんどうくさいから、つぶれるならつぶれてしまえということになりはしないか。問題点として残っておるのは、たったこれ一つなんです。それをほったらかしておるのは何かといえば、石油石炭値段が違うから、その値段の違いということのためにほったらかしておるということになるのじゃないか。もし安いものならいいというなら、たとえば安いアメリカの石油とか、イギリスの石油がどんどん入ってくる。そのときにどんどん入れるということになれば、これは貿易の問題にも関係するだろうけれども、単なる、安ければいい、国の産業が滅びても安いものを使いなさいという国の方針が、今日の石炭産業をこういうふうにしている。だから国の方針として石炭を生かそうとしているのかどうしようとしているのか、そこできまる。そこには対立点というものはあまりないのじゃないか。ほんとうに石炭産業を生かそうと考えるならば、これは労働者の立場とか経営者の立場とかいうのではなくて、あまり対立点はないはずである。そういう意味で、議論の場というものは幅が狭まっておるのだと思います。それをもしこのままほうっておくならば、ここに中小大手の経営者の代表が来ていますが、簡単にいうと、何ぼつぶすということを考えるよりも、何ぼの山が残るだろうかということを考えた方が早道なんであります。それぞれ大手の各社は、あるいは中小の各社とも、残ると思っているかもしれません。しかし、しょせん残るのは何社残るだろうかと不安にかられている。三井は三菱がつぶれても自分だけは残ると考えている、三菱は三井がつぶれても自分だけは残ると考えている。そのための不当な企業競争がやられている。その企業競争は何の形で現われるかというと、首切りと賃下げの形で現われている。そういう競争が果てしなくやられているから、そこに産業が安定したり、国内資源として生きるという道が講じられていない。ここのところをきちんとメスを入れていただかぬと、これは大へんなことになると思います。
  15. 始関伊平

    始関委員 どうも議論をしていますとなんでありますから、御答弁は要求しませんが、ただ原さん、私の先ほどの麻生さんに対する質問をよくお聞き取りいただけばよかったのですが、それは政府がはっきりそういう制度を打ち出していないのですから、今のような前提について誤解といいますか、認識の違いのあるのはやむを得ないのですが、私の議論していますのは、石油需要が非常に上がりますね、それを石炭がどこまでも追っかけていくということを言っているんじゃないのです。そうじゃなくて、石炭をある程度下げる、それから石油は、これは非常にむずかしい問題ですが、市場安定策なり、あるいはやむを得なければ関税をかけるなり何なりして、価格のバランスのとれるところに持っていきたい、それを新しいエネルギー政策の眼目として打ち出していきたい。これは非常にむずかしい問題ですが、できなければ、ある程度エネルギー資源をプールするという方法もあるだろうと思います。要するに、価格の方では最低のものがおそらく千二百円プラス・アルファ——アルファはあまり大きくないことになるかもしれませんが、それを裸で競合さすといったって、片一方は不当に安くなり過ぎているのですから、そういう大きい意味で環境を整備することによって、私企業としての石炭産業が成り立つような、そういう環境を作っていくということがエネルギー政策の大きな眼目であって、そうすれば、解雇制限とかなんとかいう、そういう企業原則とべらぼうに違う、混乱のもとになるようなことを考えぬでもよろしいんじゃないか、こう言ったわけであります。これは御答弁は要りません。
  16. 有田喜一

    有田委員長 中村重光君。
  17. 中村重光

    中村(重)委員 麻生参考人にお尋ねしますが、まずあなたの御意見を伺って率直に感じたままを申し上げてみたいと思うのです。  きょうは、労使の代表の方々がおいでになって、それぞれの立場で、経験の上に立っての貴重な御意見を伺ったのですが、石炭産業の安定の問題は、経営者、労働者という立場の上に立って議論が分かれていくというような段階ではもうないんじゃないか。麻生参考人の御意見がございましたが、確かに今推し進められている合理化政策、千二百円のコスト・ダウンというものは、当時と現在とは条件が非常に異なってきておる。従って、この合理化をそのままの形で推し進めていくということは不可能だ、こういうことに実は感じられるわけであります。ところが今御意見を伺っておりますと、やはり合理化計画の五千五百万トンはこれはあくまでも確保する、千二百円のコスト・ダウンもやらなければならぬ、こういったような御意見でございます。その中から社会党の出している雇用安定の法案あるいは石炭安定法案、これらに対しての反対意見が実はあった。私どもがそうしたあなたの御意見を伺って感じますことは、合理化政策を推し進めている方策というものは、やはり労働者整理、あくまで首切り合理化を進めていかなければならぬ、さらには、条件の異なってきた今日においては、重油の価格石炭価格が、非常に石油が安くなったためにどうにもやっていけないから、この価格差というものは政府が補給金をもって補っていけというような考え方の上に立っておられる、こう思うわけであります。その考え方は、この合理化を推し進めていくことは、やはり労働者首切りをあくまでやるんだ、さらには政府が補給金を出して、そうしてこの合理化政策を推し進めていかなければならぬ、こういう考え方の上にお立ちになって、そうして経営者自身が自己努力によって合理化をやっていこうという気がまえというものが、私はないというように感じるわけです。最近新聞等を見まして、合理化政策を変更しなくちゃならない、資金難であるとか、あるいは労働対策からして見て、首切り中心とした合理化政策はもうできない、従って増産による合理化以外にはないということが、石炭業界の話し合いの結論という形で出たということを実は見たのです。それによって政府に対する申し入れをされたというように聞いておったわけですが、きょうの御意見はそうではない、あくまで五千五百万トンを確保する、こういうことのようであります。新聞では、三十七年度の生産は六千二百万トンぐらいに大手中小を含めてなるんだということを実は見たのであります。そうしてみますと、六千二百万トンの生産というものは可能であるのにかかわらず、あくまでこれを五千五百万トンで押えていくという考え方の上に立っておられるということは、経営者のあり方としてどうか。やはり総合エネルギーの中に石炭産業の位置づけというものをしまして、そして政府に対するところの施策を強く求めるということ、これはそれなりにやらなければならぬと思う。しかし石炭産業の安定というものが、やはり労働者の職場の安定というものをはからずしてはとうてい不可能であるという現実は、経営者のあなた方としては十分承知しておられることと考える。それならば五千五百万トンをあくまで確保するという考え方というものを一擲して、もっとこれを増産していかなければならぬ。この上に立っての安定政策をここで確立していく。先ほどあなたがおっしゃった、一時を糊塗するやり方ではだめなんだ、抜本的対策を樹立しなければならぬというその考え方の上に立つならば、やはり経営者自身としましてもいろいろな方策があろうと思う。社会党石炭安定法の中にあります、いわゆる鉱区の調整であるとか、あるいは休眠鉱の開発であるとか、あるいは流通機構を整備していくやり方であるとか、こういうことはイデオロギーの問題ではないのであって、当然経営者も政府もともに、石炭のいわゆる抜本的な安定政策を樹立するという上に立って不可欠の問題である、こう私は考える。そういうことに対してあなたはどうお考えになっておられるのか。きょうの御意見は、少しも前向きの姿勢というものが感じられないわけです。それらの点についてお答え願いたい。
  18. 麻生太賀吉

    麻生参考人 石炭委員会委員でいらっしゃるから、石炭事情は百も御承知だと思っておったのだが、どうも御承知ないところもあるようですから、私の過去の例を、こうなっている事情——なぜ五千五百万トンなり千二百円下げというものがあり、それをわれわれは守ろうとしておるかということは、前提があるわけです。今になって急に変えられるものじゃない。三十四年のときに五千五百万トンで千二百円下げということがきまり、現在その過程にあるわけであります。これはわれわれの業界だけでは何ともできないことで、場合によっては、この委員会でも御解決になれないでしょう。石炭審議会の結論が出ない限り動きのとれないものだと思う。こういう千二百円というのは、コマーシャル・ベースに乗っていないのです。C重油が八千四百円という前提で千二百円下げました。現在C重油が六千百円、こうなっている。コマーシャル・ベースでは問題にならない値段です。少なくとも千二百円、五千五百万トンの範囲なら買ってやろう、こういうことでお得意さんが買ってやろうということになった。その上に、おっしゃるように現在五千五百万トン以上掘った場合、石炭はどこに持っていくか。買う人がいないのです。その掘ったものは貯炭する——貯炭して何になるかということになる。むだな費用がかかる。売れるだけの炭を掘っていくということが、われわれ経営の責任だと思います。  また、先ほどからお話を伺って、物事は裏から見たところと表から見たところと、およそ違うものだと思います。石炭合理化首切りだ、私はそう思っていません。石炭合理化は、経営者の責任において機械化し、炭鉱整理をし、余剰人員整理する。余剰人員なんです。合理化のための首切りではない。逆にいえば、今までよけい人間を抱え過ぎていたということになるとも思います。   〔委員長退席、齋藤(憲)委員長代理着席〕 いろいろな言い方があると思います。ものの言い方は、先ほどおっしゃった、五千五百万トンをもっとオーバーしたらいいんじゃないかとおっしゃるけれども、これは現在の日本の需給の状態をあまり御承知ないのじゃないか。今言った、六千万トン掘って売れるかということ、売れる見込みはない、そういう状態にあるから、今五千五百万トン以上はしないのだ。経営者の責任を果たしていない——私は完全に果たしている、こういうふうに思います。
  19. 中村重光

    中村(重)委員 今あなたの御意見を伺っておりますと、五千五百万トン以上掘っても、これを貯炭しておくということだけではだめである、買う人はいないんだ、こういうことなんです。ところが、先ほどあなたの御意見の中にありましたように、エネルギー需要というものがぐんぐんふえてきた。それはお認めになった。いわゆるエネルギー需要はずっとふえてきた。石炭だけが五千五百万トンでこれを押えられておらなければならぬということは、私はないと思う。そういうことであるならば、政治ではない。合理化政策を徹底的に推し進めていく。しかし、それだけではできないのであって、国の唯一の資源であるこの石炭産業を伸ばしていくというようなこと、そのためには、石油石炭価格というものが違う、石炭コストが非常に高くなる。従って、石炭価格が高くなるという場合においても、先ほどあなたが要求されたいわゆる五千五百万トンの範囲であっても、これは経営者だけの努力をもっては、千二百円のコスト・ダウンができないということは、石炭協会会長もこれを言うておられる。あなたもそうお考えになっておられる。当初、計画は、そういった条件の違いにおいて、政府施策に待たなければならぬという形でここへ出てきている、こういうことですね。それならば、五千五百万トンが六千万トンになり、あるいは七千万トンになっても、それだけ増産されるのであるから、いわゆる増産の中におけるコスト・ダウンということもやはり考えられてくるわけであって、五千五百万トン以上掘ったんではどうにもしようがないんだ、石炭をそのまま貯炭してほったらかしということにしかならないんだという考え方は、私は少なくとも経営者としての前向きの姿勢、総合エネルギーの中において、エネルギー需要が伸びていく中において、もっと掘り、もっと生産し、もっとこれを使わせる、そのためには経営者も努力し、政府に対する施策をもっと要求していくという態度がないと思うのです。あなたの答弁の中からはそのようにうかがわれる。
  20. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今のお話は、将来計画をおっしゃっている。三十七年度、三十八年度五千五百万トンということはさまっておるから、申し上げておる。私は、始関君の質問に答えたように、将来総合エネルギー対策というものが立つ場合、石炭の位置がどこにあるかということがきまれば、それは五千五百万トンになるかもしれません。場合によっては、こんな高いものじゃなく、四千万トンかもしれない。場合によってはこれで伸びるかもしれない。われわれは伸びることを望みます。しかし現在の時点においては、五千五百万トンというものはきまっておる、そういうことです。
  21. 中村重光

    中村(重)委員 きまっておることをその通りだというならば、あなた方としては、特別に政府に対して価格差補給金的なものの申し入れをやるとか、あるいは特に政府施策を求めるということをする必要はないと思います。やはりきまった通りにならないところに、より一そう政府施策要求することになるのでしょう。そうだと思います。一方においては、あなたは、五千五百万トンということがきまっておるんだから、三十七、八年計画できまっておるんだから、それ以上はだめなんだ、こう言っておられる。政府に対してなお強い、積極的な施策を求めようという態度をおとりにならない。そうしてあなた方が、御自身の努力においてできないことのみを政府要求し、あるいは労働者に対する首切り、あるいは能率を高めるために労働強化を進めていく、こういうことをおやりになることは矛盾だと思う。あなたの答弁の中からはそうした矛盾だけしか実は受け取れない、そう感ずるわけです。
  22. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今のお話は、前提条件がその通りであるならば、あなたのおっしゃる通りだと思います。しかし、違うのです、前提条件が。五千五百万トンがきまりましたときに政府が言われたことは、労働賃金は三・八上げるんだ、物価は横すべりというのが前提条件にあるのです。その前提条件を、第一、国鉄運賃という政府のみずからコントロールできるところで上げてきた、電力料金政府の公益事業によって押えられるものを、それを上げた。そういう狂いを政府が起こしている。それから同時に、ほかの物価は押えられないかもしれないが、物価は横すべりという前提が狂ってきた、そういう前提条件を見のがさないでいただきたい。千二百円下げるのにむろんよけいなことをしていただきたいということを要求しているのじゃない。その点をお間違いにならないようにお願いしたい。
  23. 中村重光

    中村(重)委員 この点に対してあなたといろいろ議論しても、それはあなたはあなたの立場の上に立っていろいろと議論をしておるので、平行線になってしまう。五千五百万トンの問題は、委員会で佐藤通産大臣に、五千五百万トンは政府は責任を持つか、これに対しては責任を持つということを確約をしておるわけですね。それから千二百円のコスト・ダウンの問題に対しても、政府計画通りこれを実行するんだ、経営者に対しては当初の方針通りこのコスト・ダウンはやってもらわなくちゃ困るのだということを言っておられる。ところがこれに対して石炭協会会長は、これは不可能だということを言っているのですね。どうしてもできないと言っている。あなたは今千二百円のコスト・ダウンは計画通りやるということに対しては、これは不可能であるという考え方の上に立っておられるのか、これはやはり当初の計画通り、経営者自身が合理化によって負担する面、政府要求する面、それは当初の方針、計画通りこれを実行し得るという見通しの上に立っておられるのか、その点どうなんです。
  24. 麻生太賀吉

    麻生参考人 最初申し上げた前提条件、先ほどから簡単に申し上げましたけれども、いろいろな前提条件がついているわけです。開銀、興銀の金繰りにしても、開発銀行の資金は三十四年度以後毎年、実際ふえる分は八十億ずつふやして金を貸していくというのがついております。合理化資金は一年間に五十億ずつ、四年間に二百億という前提条件があるわけです。さっき申し上げた物価は横すべり。現在興銀、開銀の純増は幾らかというと、年々十億か十二、三億でしょう。合理化資金は御承知のような金額です。そういう前提条件が狂っているわけです。現在政府のお約束のものも、これを一つはっきりしてその通りにしたい。それから物価が、さっき申し上げたような運賃その他のもの、これの始末をつけていただくならば、予定通り千二百円のコスト・ダウンはできる。その点をはっきりしていただきたいというのが、今度政府にお願いしているこういう事情でございます。だから会長ができないと言ったというのは、どういう意味で言われたのか——政府がそういうことをしてくれなければ、今のまま手放しでやられては当然できない。下げないでもつぶれる炭鉱は出ると思います。しかしわれわれの初めの前提条件が全部そろうならば、千二百円下げはできる、こういうふうに申し上げているわけであります。
  25. 中村重光

    中村(重)委員 さらに先ほど私が申し上げた経営者の御努力によって合理化コスト・ダウン、具体的には、先ほど申し上げましたが、経営者自身でやられることは、鉱区の調整であるとか、あるいは流通機構合理化していくということですね。さらには中品位鉱を開発していくといったようなやり方、そういうことをやらなければならぬ。これは当然今日の段階においては、経営者の責任だと思うのです。それに対してはまず、最近の新聞紙上で伝えられるところによると、新昭和石炭において一元的にこれを取り扱っていくという、販売面からするいわゆる合理化というようなものも考えておるようでありますけれども、われわれが期待しておるのはそういうものではないのであって、もっと前進した形の努力がなされなければならない。それらに対して経営者としての、協会としての考え方があるかどうか。
  26. 麻生太賀吉

    麻生参考人 はい、ございます。今新聞とおっしゃいましたけれども、ここにだいぶ新聞記者もおられますが、これは百パーセント信用されると違うので、最初におっしゃった六千何百万トン増産ときめた、こういうことは全然われわれは相談いたしておりません。五千五百万トンの線に合わせようというのが、われわれ協会の意思でございます。その点やはり誤報だったと思います。その点だけ訂正しておきたいと思います。  それから今後前を向けというお話、やはり今までも前向きに行っておると思います。先ほど流通機構の問題が出ましたが、これも現在予定通り、われわれとして百二十二、三円下げるということになっております。現在百二十一円か下がっております。これも大体合理化の線に沿っていっていると思います。鉱区の調整と一言にしておっしゃるが、いろいろな行き方があると思います。どういうことをおっしゃっておるのか、内容を伺わないとわかりませんが、その調整の内容はどういうことなのでしょうか。それを伺うと、また御説明のしようもあると思います。
  27. 中村重光

    中村(重)委員 鉱区の調整という言葉を見ると、それは内容はいろいろあろうと思う。しかし、これはあなた方経験者として、鉱区の調整に対しては内容的に当然わかっておると思う。
  28. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今委員のおっしゃった鉱区の調整というのは、何を内容としておられるか。それを伺わないとお答えしにくい。
  29. 中村重光

    中村(重)委員 申し上げたように、中品位鉱の開発等を申し上げたのですが、あなた方の方では鉱業権に基づいて実は鉱区の許可を持っておられるんですね。これを実際には採掘をしておられない。しかし、許可だけは持っておられる。従って他の鉱業権者が、その地域まで掘ってくるけれども、それ以上は、その許可を他の鉱業権者が持っておるためにこれは掘れないという形が現実に起こってきておるんです。そういうことからいわゆる鉱区の整理統合、調整といったようなことが行なわれれば合理化が非常にスムーズにいくということは、常識的に判断されている問題なのです。そういう鉱区の整理統合といったようなことを進んでやっていくということが、当面最も大切な問題ではなかろうか、私はこういう考え方を持っておるわけです。
  30. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今のような鉱区の調整——隣から掘ってきたらすぐその隣に鉱区があるのじゃないかというのにも、いろいろございます。原さんは縦坑のことを言われましたが、縦坑を掘っているようなところはそういう問題はないのであって、小さい鉱業権者がわきから掘ってきて大手の持っておるものを掘りたい、これは乱掘の一つです。これは具体的な例によらないと、非常にお答えがしにくいのですが、具体的に合理化の線において行なわれておるのは相当たくさんございます。しかし一般に言われる鉱区の調整——ここに長岡君がおられますけれども、中小炭鉱というのは、大手炭鉱を食うことで将来行こうという連中が多いわけです。こういうものに片っ端から鉱区を渡したのでは、大手の鉱区はくちゃくちゃにされてしまう。そういうものも調整しないという不都合な線がよく出てきますから、その点一つよくわかっていただきたいと思います。大手の問題で、大手同士でこうしたらいい、ああしたらいいという合理化の問題は、お互いにずいぶんやっております。調整は今やっていないとおっしゃるけれども、やっていないわけではありません。
  31. 齋藤憲三

    ○齋藤(憲)委員長代理 岡田利春君。
  32. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 麻生参考人に二、三点お聞きしたいと思うのですが、今日の炭鉱合理化の実態をどのように認識しておられるかという問題。もちろん経営者も努力をして、何とか一つ自分の山の経営が立ち行かなければならないということで、懸命な努力をしておられるわけです。しかしその内容にはずいぶんアブノーマルな要因が非常に含まれておるわけです。政府に言わせると、ずいぶん苦しいと言うけれども、炭鉱経営者は何とかやっているじゃないか、けっこう歩いているじゃないか、決算を見ればある程度の収益もあるじゃないか、こういう見方もあって、石炭合理化の進行過程における問題点というものは、どうも表面に浮かび上がってこないという欠陥があると思うのです。これは私は一つは、日本石炭協会というものの機能が非常に弱くて、どうもそういう点について業界が一致して行動をとるとか、ある程度そういう連携をして、ほんとうの近代的な文字通り合理化を進めるという点について欠けておるのじゃなかろうか、こういう感じがするわけです。さらに合理化が進んできますと、今日非常に企業の格差が出てきておるわけです。極端にいえば、昭和四十年度の合理化を今日しておる山もあるわけです。一方においてはあっぷあっぷで、来年どうするか、今年どうするか、こういう状態の山もあるわけですね。このように考えて参りますと、やはり現在の合理化の内容というものが問題になってくるのではないか。そういう意味で、石炭協会あたりで石炭黒書でも発表して、今日の日本炭鉱の実態というものを明らかにする必要があるのではないか。これくらい積極的に国民石炭産業の内容を公開をする、訴える、こういう真摯な努力があってしかるべきではないかと私は思うのですね。ところが、いろいろ検討されて政府には要請されておるようですが、そういう点についてはどうも不十分だと思うんですね。石炭産業は基幹産業でありますし、これはやはり将来のエネルギーの供給源の確保の面からいっても、国としても重要な課題なわけですし、それをになっておる労使の場合も、そういう点について常に国民にその立場を鮮明していく、内容を知らしめる、こういう真摯な態度が非常に大事だと私は思うんですね。そういう点についてどういうお考えを持っておられるか、お聞きしたいところなんです。
  33. 麻生太賀吉

    麻生参考人 御質問の要点がちょっとわかりかねるのだけれども、どういうことですか。
  34. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 ポイントを言いましょう。石炭合理化というものの今日の実態、それは企業の格差も極端に開きつつあるわけです。しかも政府のそういう一つ政策に基づいて、この方針に合わせて努力しておるわけですね。そのためにはずいぶんアブノーマルな要因もあるわけです。これは安定性を持った要件ばかりじゃないわけですね。むしろ不安定な要因を持っている面が実際は多いわけです。そういう土台の上に、政府の方針に基づいて今日石炭企業家がコスト引き下げに努力しておるわけでしょう。それは政府から言わせると、苦しい苦しいといっても石炭経営者は何とかやっておるじゃないか、だからそんなに深刻に考える必要はない、そういう気持があるように思うのですね。そこに石炭政策というものが明確に出てこないうらみがあるのではないか、こういう感じが実は強くするわけです。ですから業界自体でも、これが将来の安定経営というものを考えた面でいくと一体どうなるのか、今はアブノーマルな努力をしておるのだ、これをもし正常なベースに乗せる場合は、これ以上、このような赤字になるのだ、こういう問題が出てくるのだ。石炭産業は将来にわたってあらゆる面で安定しなければならぬわけなんです。そういうものをはっきり打ち出すというか、また多くの国民にも知らせる、そしてわれわれはこう努力しておるのだということを明らかにしなければ、なかなか石炭問題は多くの人たちが理解できないと思うんですよ。そういうような点について、協会の副会長をやっておるのですから、どういうようなお考えを持っておられるか。
  35. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今のお話の、経営格差というものが非常に離れておるということは、ある、どんどん離れます、つぶれていくものはつぶれていくということに、今のままではなるということはおっしゃる通りだと思います。  それから現状が、われわれの努力が足りないというか、PRが足りないという御説のようだし、どう考えているかということですが、これは今の石炭産業はどこまでも私企業ですから、その経営内容をばらまくことをいやがるところもあるでしょう。それを簡単に一本にやっていくというわけにいかない。それから政府石炭は何とかやっているじゃないか、こういう考えは、私の知っている範囲ではないようです。そういう点は御安心願いたい。それから将来についてのいろいろな問題もありますが、やり方としては、今の経営格差の問題はどうしても出てきますから、一律でやっていくということはだんだんむずかしくなっていくという状態にあることはもう間違いありません。
  36. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 ですから、今のままで合理化を進めていこうとするならば、極端な企業格差が出てくる。これはわが国の産炭構造なり、成層条件が非常に変化に富んでいる。初めから立地条件が悪いし、炭層条件についても千差万別なわけです。ルールのように均質ではないわけです。そういうことで、自然条件でも初めっからハンディキャップがあるわけですね。それを一律に政策としてやっていくということになりますと、非常に無理も実は出てくるのではないかと思うのです。そういう意味で、きわめてフィールドが広くて、機械化ができて、成層条件も安定している、大体傾斜度も非常に少ないという場合には、これは外国的に機械化、近代化すると思うのです。ところが褶曲が非常にはなはだしいところ、こういうようなところは、機械化するといってもそういう条件はないわけですから、縦坑を開さくして運搬系統を短くするという程度だと思います。そういう点で日本炭鉱は幾つかブロックがあると思うのです。しかも産炭地が九州、北海道という端と端とが占めている、そういう意味で、石炭政策というものはもう少しきめのこまかい政策をやらなければ、長期の展望に立つ場合無理ではないか、こういう見解を持っているが、どうでしょう。
  37. 麻生太賀吉

    麻生参考人 長期の問題については、始関さんにお答えしたように、やはり総合燃料対策を立てるときにどうするか、ドイツ式の運賃の問題とかいろいろな問題を考える、それから先ほどお話の経営の格差の問題、坑内条件の格差の問題、これはよくおわかりの通りですが、逆にいいますと、坑内条件がいろいろ違うのに、労働賃金が全部一律だというところにも無理がいっているということも言えます。そういうことも私どもからは考えられる。   〔齋藤(憲)委員長代理退席、委員長着席〕
  38. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 労働条件の違いというものは、これは見解の相違でしょうから、私はこの際私の見解を言いませんけれども、そこで私ども考えなければならぬのは、当面千二百円のコスト・ダウン、これは業界も協力して、そして三十八年度千二百円のコスト・ダウンを達成する、しかし現状は、先ほど申し述べました労賃の問題だと思うのです。あるいはまた物価の値上がり、当初予定をしていないマイナス部面というものが非常に大きく出てきているのですね。これはすでに評価をしているわけです。赤字があろうとなかろうと、今日の時点で三年間のコスト・ダウンで、そういうものを含めて幾らになりますか。
  39. 麻生太賀吉

    麻生参考人 逆に売り値から申し上げた方がいいと思いますが、売り値は三年間で六千二百カロリー、揚げ地の値段で二百五十円下げていきたいわけです。それで物価の値上がりやいろいろなもので三百円ぐらい上がっていましょう、予定よりか上がったものがあると思います。そういうことになりますから、初め千二百円下げるというときには、われわれとしては千四百円近くのコスト・ダウンをしていきたいという前提に立って、八百円下げようということだったのですね。そこで八百円じゃ足りないということになって、先ほど申し上げた合理化資金は出そう、開銀資金はふやそう、地方税はまけよう、いろいろな前提条件がついたわけです。そして千二百円という数字が出てきているわけです。さっき申し上げた非常に安い金利で金が借りられなくて、それから、合理化資金は金額が初めから少ないということで、そこにコストの狂いが起こってきた。そこでどうでしょう、今これは各社プール計算になりますが、自分の会社はよくわかりますが、コストはなかなかみんな出してこないものだから、金額を七百五十円下げただけ、コストは下がっていないのじゃありませんか。それで今苦しくなっている。それで大体平均いたしますと、プールで三十四年の実績は四千八百円というのが、三十六年の実績は、見込みが入りますが、合理化の基本計画では四千百三十三円ということになっているのに、現在四千四百三十一円というのが上期の実績、こういう数字になります。三百円近く狂う、こういうことになります。
  40. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 北海道なんかですと、昨年末で九百七十円から九百八十円コスト・ダウンしているのですね。だから当初の計画から見れば、非常な努力でしょう。実際にその上にさらに毎年二百五十円の炭価引き下げをしなければならぬということは。だからその計算でいっても、もう千五百円を軽くオーバーしてしまうわけです。ですから、この面が特に問題になって、その分も今度はやはり能率を上げなければならぬ、生産性を上げなければならぬ。その分も追加して修正をして、人員を淘汰しなければならぬ、こういうところにきているのですね。そういうポイントに立って考えてみるならば、炭鉱労働者は至上命令で首を切られて、ちまたにもはんらんしておる、下流にもはんらんしておるわけですよ。さらに次々と堤防が決壊して、応急措置もできないままに、さらに失業者が送り込まれるわけなんですね。ですから、もちろん政府施策と相待って、今日計画的に雇用転換というものをはかっていく、こういう態度はやはり経営者の場合といえども大事だと思うのです。もちろん今日、経営者の場合、ある程度企業先に渡りをつけて、安定的な雇用の転換をはかることに努力しておることは私ども知っておるわけなんですが、そういうものをもう少し総合的にやっていく必要があるのではないか。ですから、単に首切りをストップする、人員を減少することをストップするのではなくして、そう一度に送り込まれると、産炭地は極端に疲弊するでしょうし、こういう予期しないような状態閉山されるということであれば、これまた対策が立たぬわけですね。一時的な混乱が起きる。ですからこれを計画的にやっていくという考え方の上に立たなければいかぬのではなかろうか。なかなかごりっぱな人もおるのですが、中にはがんこな人もおって、切り捨てごめん。これは企業から見ますと非常に性格も違いますから、ある程度やはりコントロールする必要があるのではないかと思うのですが、そういう点についてはいかがでしょうか。
  41. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今だんだん御質問に入っていると、そちらの案に賛成せざるを得ないということになるかもしれませんが、ただし根本は反対なんでございますから。言いようはいろいろございますが、今のようなやり方でやっていく以外に方法はないので、それを労使で話し合って、プリンシプルとして、片っ方は余剰人員は持たないということになるし、片っ方は余剰人員でも極端に言えばかかえておけということになるのじゃないか。さっき原さんはある程度認めると言われたけれども、それは言い方でいろいろございますし、あの案を見ても、コミティにかかった場合に、そのコミティでどうなるかということになる。内容に入りましたけれども、そういうことがあるので、ああいう法律はない方が石炭合理化をやるのにいい、こういうふうに思っております。
  42. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 麻生さんに対する質問はこれ一問で終わりますが、石炭合理化をしていく場合に、接点で非常に苦労して何とかやっておるというのが実情のわけですね。そうすると、そこに労使のいたずらな紛争が起きると、それだけ大きなマイナスになるわけですよ。大体日本労働運動をずっと振り返ってみますと、重大な長期の争議が発生するのは、労働条件を大幅に下げるとか首切りの場合ですね。往時のような権利闘争というのは非常に珍しいのですね。大体この二つに深刻な争議が発生しておるのです。石炭の場合、合理化をしていかなければならぬということがあるのですから、計画的にそういうものが消化されていくということになれば、労使関係の安定の問題についてもうらはらの問題として当然考えられてくると思います。しかも審議会等を通じてこれをやるわけです。労使対等ではなくて三者構成でやるわけですから、そういうものの議を経て雇用が安定でき、転換をはかり得れば、必然的に争議の発生も防ぎ得ると思うのです。ですから、そのことは、やはり今日これから特に苦しい合理化を続けていかなければならぬ石炭産業にとっては、絶対必要な条件ではなかろうか、このように私は理解するわけです。社会党案そのもののいい、悪いは別にして、その思想、考え方、そういう点については十分検討されるべき時期ではなかろうか、こう私は考えるわけです。ですから、社会党案に反対としても、経営者として、そういう面について、物事の考え方といいますか——これはもちろん企業家だけではできませんよ。政府施策の裏づけもある程度必要でしょう。そういうものと相待ってその方向を選ぶことの方が、よりスムーズに合理化を進めていく、将来石炭産業が安定し得る道を早急に切り開くことになりはしないかと思うのですが、いかがでしょうか。
  43. 麻生太賀吉

    麻生参考人 今のようにある程度計画的に物事が進むということは、大へんけっこうなことだと思うのです。今三者構成のお話も出ましたが、原さんがいらっしゃるので大へん相済みませんが、今までの炭労の行き方を見ておりますと、そういうものがうまくいくかどうかということは非常に疑問を持っております。
  44. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 その点は、こういう至上命令ですから、それをうまくいくようにやろうということを考えなければならぬことですから、そういう点は一つまた御検討願っておきたいと思うわけであります。  次に、重枝参考人に伺っておきたいのですが、先ほどの御意見をずっと聞いておりますと、先ほどから問題になっておるように、今日もう七百五十円のコスト・ダウンに対して、千円をこえるがごときコスト・ダウンをしておることは事実です。しかも東京電力なんかで、千二百円の下げをした場合に、手取りは三千六百円程度。カロリー当たり七十一銭ですか、ずっと計算しますと、大体六千カロリーでその程度です。そうすると、たとえば北海道の場合には、室蘭から東京まで船賃が千円、釧路ですと千二百円かかる。留萌ですと、千四百円くらいかかる。北海道は広いわけですから、内陸運賃がまた膨大です。そうすると、大体五百円前後、安いところで三百五十円、大体四、五百円かかる。芦別のごときは六百何十円もかかる。羽幌炭鉱の場合も、内陸運賃はほかに比べてかかるわけです。そうすると、それは絶対に動かない輸送賃ですから、それを引きますと、二千を切らなければ採算がとれぬということになるのです。しかも消費構造が変わってくる。電力用炭は安いから、どんどんほかの方に振り向けていく。ほかの方は案外炭価が高いのです。消費構造の変化だけでも、またマイナスの部面が出てくる。私の見ておるところでは、トン当たり六十円の、消費構造の変化によるマイナスがあると思う。これは百円を軽く突破すると思う。ですから三十八年の十月までで一応合理化計画が終わるのですが、いろいろあろうけれども、このままで三十八年度までいけると考えられておるのか。やはりマイナスの部面が多く出ておるから、そういう当初の計画を組んだ場合と、情勢も変わってきておるし、計画そのものにも私はずいぶんラフなものがあると思う。あとから所得倍増計画エネルギー委員会のこういう一つの展望などが出てきておる。その場合にも石炭の方は、合理化計画は組まれておるから、そういう部面から見ても十分再検討をしなければならぬ時期にあると思う。ですから、やはりそういうことになってきますと、何を一体やってもらわなければならぬか、どういうことを今日政府施策として要望しなければならぬか。実際今年度の予算を見ますと、石炭はずいぶんやったという感じはわれわれは石炭対策特別委員として持っておりますが、ほんとうにやったのは離職者対策くらいで、船を三ばい作っても、来年でなければできぬのです。これは制度の問題として評価していいと思う。産炭地事業団に五億ついた、これもこれからやるのですが、効果の現われるのは来年ですね。これも制度としては評価していいと思う。しかし、それ以外に、近代化資金とか、スクラップの新しい買い上げ方式なども出ておりますけれども、そう画期的なものではない。たとえば、エアハルトが労働組合の会合にまで乗り込んで、自分の考え方を述べ、あれだけの政策を出したが、そういう面から見れば非常にお粗末だと思うのです。こういう感じが実はするのです。そういう点についての見解をもお聞きしたいと思います。
  45. 重枝琢己

    重枝参考人 三十八年までの基本計画前提条件が変わったり、あるいはその後悪条件が出て、非常にむずかしいということは、われわれもいろいろな機会において述べておるところで、みな知っております。そこで問題は、むずかしい悪条件が出てきたから、それではその基本計画をくずしてしまう方がいいのか、あるいは出てきた悪条件を何かほかの手段で克服して、基本計画をとにかく実現するという方向をとったらいいのかという、大別して二つの方向に分かれてくると思います。そこで、本席は石炭対策特別委員会なので、大体石炭を何とかしてやらなければならぬという、われわれからいえば非常に頼もしい委員会なんです。石炭関係者だけからすれば、前提条件も変わって、困難な条件がまた新しく出てきたから、これ以上基本政策を実現させるのは無理なんだ、だからお前たちは、千二百円下げと言っておるけれども、コスト・アップの要因から考えれば十分それは実現しているんだ、だからもう一休みしていいんだ、そしてむしろその上に立ってやっていったらいいんだということを言われるのは、大へんうれしいような気がするのです。それがしかし、世間で通るかどうかということが問題なんです。世間で通らないことを内輪でどんどんと慰めに言われて、そこで安心したり、勇気を持って一歩家の外へ出てみたら、石炭産業の外に出てみたら相手にされなかったということでは、石炭産業はその次の瞬間にもっとひどい状態になるわけです。その点を考えてみますと、エネルギー消費構造の変革という問題、それは経済あるいは政治の体制がどうあろうと、それを克服していかなければならないという必然的な宿命に立たされておる石炭産業ということを考えてみると、やはりいろいろの要件も違ったし、ずさんなものであったかもしれないけれども、基本的な計画というものを実現して漸次石炭産業はそこまでやったんだ、そこまでやった石炭産業というものは、これはここまで来たからその次は今度はここまで来いというような形ではなくて、その達成した段階に立って新しい石炭産業の安定、育成という方策を立てるべきだという世論の支持を得た方が、むしろ本筋としてはいいんじゃないだろうか、こういうふうに私たちは考えておるわけです。というのは、なるほど千二百円以上の実際の努力はしているんだといっても、肝心の需要者が買ってくれなければ困るわけです。皆さんがここでわれわれを大いに激励して、むしろ五千五百万トン、千二百円下げなんということをぶっこわしてやっていったらいいんじゃないかとおっしゃるけれども、それではそれがよその産業全体の中で同じようなことが言われ、通るかというと、残念ながら通らないところに私は問題があると思うので、それは単に政治の貧困とか、そういうような問題だけではないのであります。今日もちろん政治の貧困というものがそういうものに拍車をかけていることは事実ですが、それだけではないというところに、先ほども私意見を述べるときに申し上げましたけれども、石炭産業の危機というものの認識をどうしていくかという問題があるのじゃないかと考えるわけです。  そこで繰り返しますけれども、私としては基本線は貫いていくという立場に立って悪条件あるいは新たに出てくる条件というものを克服する手段を、政策という面で確立をしていくということが一番必要なことではないか、そういう意味でいろいろな問題を要請しておるわけであります。先ほど申し上げましたようにスクラップないしスクラップから出てくる問題の対策の方が進んできて、ビルドの方がどうもうまくいかないというような、何かやはり石炭対策というものが、はやりの言葉でいえば前向きでなくて、混乱が起きた、それを何とか収拾しなければならぬというようなところに、まだ何となく姿勢としては低迷していると思うのであります。もう少しビルドの方に足を一歩も二歩も踏み出していくという方向をお願いしたいと思います。
  46. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 長岡参考人にこの際承っておきたいのですが、日本中小炭鉱ですね、これは山別で見れば、たくさんあるわけです。羽幌も中小炭鉱であろうし、飯野炭鉱もそうでしょうし、一番末端は三人か五人、一年のうち、やっているかやっていないかわからぬようなものもあるわけです。年間一万トン出ない山が二百もあるわけですね。ですから中小炭鉱の問題というのは、日本の場合、外国へ行って、ドイツの炭鉱関係者に説明してもわからぬです。これは浅いから非常に安易にとれるという自然条件があるわけなんですが、しかし石炭政策を進めていく場合に、やはりこれは分析をして、一度ばらばらにして組み立て直していかなければ、中小炭鉱に対してはなかなか筋の通った政策というものは出てこないのじゃないかと思うのです。鉱業会に集まっておるのは、比較的大きい中小炭鉱だと思うのですが、ただ一般論として中小炭鉱問題ということになりますと、なかなかむずかしいわけです。そういう点で、これから特に合理化が激しくなって、中小がつぶれていくという運命にあるわけです。その場合中小炭鉱の経営者としてやはりみずから方針というもの、要望というものをまとめるということでなければ、政策のポイントが合わぬと思う。今まで石炭問題を扱って、そういう感じが非常に強くするわけです。そういう点についてはっきり言えば、お手上げなのか、何かそういうところまで決意をきめて努力をしておられるのか、その点はどういう状態になっておるのでしょうか。
  47. 長岡孝

    長岡参考人 簡単に中小炭鉱と申しましても、おっしゃる通り、規模は非常に違っております。そこでこれを大胆に再編成するとか、あるいは組み立てを考えてはどうかという御意見、これも一応ごもっともに存じておるのですが、先ほどもちょっと申し述べましたように、それぞれ今までありまするものは、一業一社が多いのでありまして、これはそれぞれ経営の責任を持っておるものでありますので、マクロ的に見て、こういう組み立てがどうかというようなことは、政府においても何回かやっておられるようであります。われわれも頭の中には描いたことはないではございませんが、これを実施するということになりますると、一人々々の現実の企業でありますので、なかなか一企業体の中の炭鉱を、こちらをこういうふうに考え、こちらをこういうふうにするというふうには参らないのであります。それをお手上げと言ってしまってはおしまいだと思いまして、実は連合会を結成いたしましたのがちょうど十年前でございますので、事あるごとには方向づけを皆と相談をいたしてきてはおります。しかしいざとなりますと、なかなか一業一社の多い世界でありますので、簡単にある企画を統一的に進めるということは、なかなかむずかしい、こう申し上げるよりほかはないのじゃないかと思います。
  48. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 これで終わりますが、私は今参考人の方々の御意見などを聞いて、日本炭鉱合理化をより進め、将来石炭産業を安定させるためには、一番最低の要件として、もちろん自由企業ですから自律性を尊重するけれども、一方においてある程度規制をしなければ、私は長期にわたって石炭産業は安定しないのじゃないかと思うのです。しかも合理化計画昭和三十八年の十月で一応終わるのに、炭鉱の数はあまり減っているわけではない。産炭構造というものは、そう変化はない。もちろんそれぞれ個々には変わってきておりますが、総体的に見ると、そう期待した結果というものは出ていないと私は思うのです。だからどうしてもある程度規制というものを考えていかなければむずかしいのじゃないか。特に原料炭の場合、四十五年度には今の五倍も原料炭を輸入するわけです。そうすると、弱粘結においても相当輸入量がふえるわけで、三池なんかの石炭は、強粘結を買ってミックスすれば、原料炭に向けることができるのであります。それ以外に純原料炭的なものがあるわけです。そういうものの産業向け転換ということは、単に今の業界にまかしておっただけでは、私は不可能だと思うのです。富士製鉄では一般炭を製鉄に使うことができるという結果がはっきり出て、あと残っておるのは炭価の問題なんですよ。そういう点なんかもやはり大胆に考えていく。これは国の政策でやったら外貨節約の点からいっても大事だし、将来三千万トン近い石炭を輸入するといっても実は大へんな話なんです。だから、そういうものを総合的に進めていく場合においても、何らかの規制がもう少しなければ実際にはむずかしいのじゃないか。行政指導なんというなまやさしいものでは解決がつかぬのじゃないか、こう思うのです。この石炭政策は今日一番大事なんですから、そういう点のアイデアというものが建設的に発表されることを期待するわけです。業界であっても、労働組合であっても、そういうことを実は期待しておるのですが、なかなかその面は、個人としては言えても、業界としては言えぬということが実態だと思うのです。そういう面、特に私の考え方を述べて、そういう点についての努力を特に要請して、私の質問を終わりたいと思います。
  49. 有田喜一

    有田委員長 委員各位にお願いしておきますが、だいぶ時間がおそくなって、参考人も御迷惑でしょうから、一つ簡潔に御質疑を願いたいと思います。  多賀谷真稔君。
  50. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 実は三月十四日付で石炭協会会長から政府に対して要請をされた案文がわれわれに送付されておるわけです。これについてちょっとお聞かせを願いたいと思います。  第一は、資金難のために設備資金の調達に難渋して、スクラップが強化されないままに、増産によるコストの低減をはからざるを得なくなって五千五百万トンのベースを上回った、こういうことが書いてあるのですが、私は確かにこの一面も否定できないとは思います。実情はわかります。しかし、ではその設備資金の調達ができ、そしてスクラップしたいと思ったらスクラップをしておるかといいますと、その会社からはなるほどスクラップでほうり出されておりますが、その石炭は別会社の形でその会社が使っておる、こういう実例がことに協会の内部の会社で多いわけです。ですから、スクラップといっても五千五百万トンの増産の関係は減ってない、私はこういうように考えるのですが、この点が一点。  それから次の点は、先ほど中村委員の質問に対しまして麻生さんから、五千五百万トンを約束しておるのだし、それ以上掘っても意味がないし、また貯炭をしても買い手がないではないか、こうおっしゃっているわけです。ところが協会の方のこの要請によりますと、過剰貯炭の発生は避けられないので、この過剰貯炭について自主調整をしたい、これについては交付金を出してもらいたい。さらに過剰貯炭について、新昭和石炭の機能を強化して、これで貯炭を保有したい、こういうことが出ておる。どうも若干矛盾があるのではないかという気持がするわけですが、その点をお聞かせ願いたい。
  51. 麻生太賀吉

    麻生参考人 お話は、スクラップを強化するという点で、第二会社を作るということでございましょう。それは確かにこの通りこれに関連いたします。これで資金難ということですが、金が十分にありますれば、ああいう第二会社など作らなくて、きれいさっぱりしていくということも私はできると思う。これは、あなた方の関係している組合の関係もある。組合がスクラップすることを承知しない。第二会社でもいいいから何とか使ってくれ、こういうお話から起こっている。これは資金難が影響している関係があるのです。この意味では間違ってないと私は思う。  それから、さっきの貯炭の問題、私は言葉が足りませんでしたが、中村委員の六千二百万トンみんな掘るというようなお話、それを貯炭すれば何百万トン、そんな貯炭は持っていない。この新昭和でもそうですが、そんな大きな貯炭は持とうと思っておりません。数量はもっと少ない。それでもって常備貯炭というものを持っていきたい。ことしスクラップは間に合いませんから、来年になったら思い切ってやる、そして貯炭なんかしなくてもいいように調整するというのですが、ことしのところ、ちょっと間に合いませんから、一応貯炭する、その資金難です。だから、さっきお話しになった六千二百万でありましたか、六千万トン以上出るという話が出たけれども、それを全部が全部残りを貯炭していこうという考えではない。
  52. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 自主調整の交付金、これはどういう意味ですか。
  53. 麻生太賀吉

    麻生参考人 自主調整する場合、結局コストが上がりますね。そのコストの差という意味です。かりに百万トン自主調整しますね、そうするとそれだけコストにもはね返りがあります。その意味です。
  54. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 これは政府からの補助金を期待されておるのですか。資金の手当ですか。
  55. 麻生太賀吉

    麻生参考人 これは私どもの考え方は、この場合の交付金は補助金の意味です。
  56. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういたしますと、麻生さん、というよりも協会の考え方は自主調整をしたい、その自主調整によるコストのはね返りについては補助金で見てもらいたい、景気変動とか若干の問題として常備貯炭を持ちたい、こういうことだろうと思うのです。しかし資金がかなり豊かでも、むしろ今のあなた方の傘下の会社は販売網を確保しておきたいという意欲が非常に強いですね。今の出炭ベースを見ますると、炭鉱がなくなっても取り扱い石炭は変わらない、現実にこういう状態になっておるのです。ですから生産会社よりも販売会社でないかというような様相を一部呈しておる、こういうところがあるわけです。ですから私は、おっしゃるように、資金の調達が難渋するからスクラップができないのである、それが五千五百万トンにはね返っておるのだ、こういう理論展開にはならないと思うのです。どうもその点が各社自分のことばかり考えて、むしろそれ以上に、自社だけは何とか生き残りたいというところに問題があるのではないか。そこで私は率直にお伺いしますが、三十七年度六千百万トン出るといわれておる、この六千百万トンを協会としてはどういうふうに自主調整されるか。
  57. 麻生太賀吉

    麻生参考人 第一そんなに炭が出ると思っていないですよ。どこから出た数字か知りませんが。
  58. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 出なければけっこうですけれども、私は各種の新聞に六千百万トンという数字を数回にわたって見ました。今各社の計画あなたの方で集められると、六千百万トンぐらいになるのではないですか。これは中小を別ワクとして、それを含めれば、そういう傾向はないわけですか。
  59. 麻生太賀吉

    麻生参考人 それは各社集めて出したいという数字はありますが、あなた方承御知のように、年々あなた方の騒ぎが起こるので、二百万トン、三百万トンいつでも減っている。だからそれが済んでみないと、はっきり見当は出ません。
  60. 有田喜一

    有田委員長 滝井義高君。
  61. 滝井義高

    ○滝井委員 今の点に関連するのですが、さいぜん麻生さんの方で、自分の方としては五千五百万トンのワクは守っていくのだ、それを破る決定などしたことがないという御意見中村さんの質問に対してあったわけですが、長岡さんの方と麻生さんの方との関連ですね。これはやはり五千五百万トン、千二百円引き下げを守っていこうとすれば、大手中小やはり有機的一体を保っていかないと、出炭の五千五百万トンのワクというものはなかなか守れないわけです。両者の関係は一体どうなっているかということなんですが、これを一つ御両所から……。
  62. 麻生太賀吉

    麻生参考人 非常にむずかしゅうございますね。過去においてもそういう話し合いをやりましたけれども、自主調整をする場合に大手がそれを全部かぶります。中小が良心的にやられる範囲においてという意味でやりますが、少しも実際問題として守らない、今まで、過去の実績はそういう状態です。
  63. 長岡孝

    長岡参考人 私どもの今のたくさん出したいということ、企業者が今年度は大いに出したいということ、出さなければ仕上がりが下がらないということは、大手中小を問わず、先ほど麻生さんはどこからそういう数字が出たかとおっしゃっておいでになりましたが、私は政府の当局から、各企業体の自分の方はこういうふうにしたいということを聞かされたところによりまして六千万トン以上になるだろうというふうに、経営者の一人として心配をいたしておるわけでございます。  そこで今お話しの、その関係はどうなるかという点は、中小の一業一社が多い炭鉱が、所定の計画よりも著しい減産をして山をもたしていくということが、そうでない場合よりも非常にむずかしいという認識から、はなはだ大胆ではありますけれども、三十七年度にはぜひ——たくさんの山を持っておられるような企業体におかれて、すでにもう老山であり、数年あるいは二、三年後にはやめられようというような御予定もおありになるところは、先ほど麻生さんは、ことしはいろいろのことが間に合わぬというようなお話がございましたけれども、私は、本年度の石炭鉱業全体の需給の安定のためには、よそ様のことを言うようではございますけれども、大企業のうちの老廃に近い炭鉱を今年度整理しなければ、炭鉱全体が悪いだろう、こういうふうに考えております。
  64. 滝井義高

    ○滝井委員 御両所の意見、だいぶん違うようであるのですが、そうしますと、五千五百万トンのワクというものが両者できちっと守れればいいのですが、麻生さんの方がお守りになっても、長岡さんの方が、今言ったように一業一社で、どうもその一社で損をかぶるということになるとこれはつぶれるという問題が出てくるので、どうしてもやはり生き抜くためには増産以外にない、ワクを越えた出炭をして一トン当たりの炭価を安くして、そしてできるだけ販路を拡張して生き抜くということになるのだろうと思うのです。  ちょっとこれは新しい問題になるのですが、石炭鉱山の保安臨時措置法が去年できたわけです。今度新しく合理化の方式がこの石炭鉱業合理化臨時措置法等でできるわけです。それから今までの古い買い上げの合理化は、依然として六十七万トン、あるいはそれ以上になるかもしれませんが、残っておるから、いくわけですね。まず第一は、鉱山保安臨時措置法で山をこの際全部調査をしております。そうしますと、調査を受けて、自分の山は近く勧告を受けるかもしれぬ、こういうニュアンスが経営者にわかってくるわけです。政府がぽっと勧告しないのですね。実績から見ると、調査をして半年以上置いておるわけです。その間に未払い賃金が相当たまる傾向が出てきているのです。こういう実態があるのかないのかということです。これは麻生さんの方よりか、中小の方です。調査を受けて、君のところはどうも保安がかかるぞということは言わなくても、大体事業主はわかるのです。第一、調べられるような炭鉱はリストに載っているわけです。そうすると急に未払い賃金がふえる傾向にある。なぜかと言うと、今度保安でだめだと言われるところには、御存じの通り政府の交付金が未払い賃金と鉱害に最優先していくわけですね。そこで、賃金を払わずに炭を出せば、その分もうかるわけです。もうかるというか、あとから自分の山で支払うことになるけれども、支払いがあとになりますからね。これがずっと上昇する傾向が出てきている。そういう傾向はございませんか。
  65. 長岡孝

    長岡参考人 はなはだ不勉強でございますが、非常に保安の悪いために政府から指定を受けるという実態については、あまり詳しく存じておらないのでございます。従いまして、責任のあることを申し上げにくいので、差し控えた方がよろしいと思っております。
  66. 滝井義高

    ○滝井委員 あるいはあなたの方に入っていないような炭鉱かもしれませんね。では、これは政府の方へ一つなにしましょう。  それからもう一つ、今度は、これは麻生さんの方に関係があるわけですが、今までの合理化の買い上げでいきますと、六十七万トン残っているやつでいきますと、その鉱業権者が鉱害を処理しないと、買い上げたものを政府、事業団がリザーブして、そうしてどんどん払ってしまう。これは岡崎林平さんの真岡鉱みたいなことになる。岡崎さんを相手にして裁判をして、支払ったものは最後には事業団がとるということになる。ところが、今度の新しい方式でも、あるいは石炭鉱山保安臨時措置法でいっても、交付金というもののワクでいくのですね。これは未払い賃金と鉱害をやる。そうすると、鉱業権者は、今までならば合理化事業団からやかましく言われたけれども、未払い賃金と鉱害分に見合うどころか、とにかくその山が登録を抹消すれば、交付金がくるわけです。その交付金を全部投げ出してしまって、そうして、悪い言葉で、どこかへ行ってしまえば、それで罪がなくなるわけですね。今まではどこに行ったって事業団が追っかけていく。事業団が追っかけていくということは、国が追っかけていくことです。ところが、国も、交付金だけ取り上げておけば責任がない。事業主、鉱業権者もない、こうなりますと、一番泣くのは被害者になるわけです。特に最近、大手が第二会社を作り、租鉱権を設定し、組夫を入れてやるようになると、ますますそういう傾向が強くなってくる。きょう公述する合理化法に一番関係があるこの跡始末について、大手ないし中小の鉱業権者というものは、どういう跡始末を考えておられるかということです。もう交付金の範囲——特に一社一業である場合に、その山を買いつぶされたら、もうあとはどこか姿をくらましてしまえば、被害者はどうにもしようがないという問題が出てくるわけです。この跡始末の問題について何か鉱業権者としてはとくと相談をして、交付金でなお不足の場合には、自分たちは鉱害についてこれだけのことをやる態勢を整えているんだという腹がまえがあれば、ここで一つ明確にしておいていただきたい。
  67. 麻生太賀吉

    麻生参考人 それは今初耳でございますが、鉱業権者に非常に有利な話なんです。いいことを教えていただいた気もするのだけれども、そんなことは考えてもみませんでした。そういうことがあるなら、もう少し考えないといけないことかもしれませんが、われわれのところには、逃げてしまうというようなのはいないでしょうね、仕事をそれぞれしているのですから。
  68. 滝井義高

    ○滝井委員 ところが、それが大手にもあるのです。今まで、いわゆる合理化方式で申請をしておったわけです。ところが、今度この新方式が通ると、合理化をやめてこれにかわろうというものが出てき始めた。それはなぜかと言うと、得なんです。大手でも、そういうかわるというのが出てき始めた。それはどうしてかと言うと、今言ったように、政府から追及されることが少なくなり、被害者とは対々になる。そうすると、まさか九州から被害者が東京の本社に来るというわけにいかないわけですからね。筑豊炭田では大手が撤退作戦をやって、鉱害事務所をやっていたが、これはもう閉鎖だ。飯塚、田川に小さな炭鉱だけをやって、鉱害等を取り扱う福岡事務所は置く必要はない、事務費の節約だということで、東京にさっと引き揚げてこられたら、鉱害被害者も、まさか、のこのこ東京まで汽車賃を使って賠償金を取りに来るわけにいかぬから、泣き寝入りになって、一千万円なら一千万円の交付金の範囲でまとめましょうか、こういうことになってしまう。そうすると、被害者はその限度で補償されるだけであって、今までみたいに事業団で責任を持ってというわけにいかなくなってしまう。だから、大手の方ではすでに切りかえ始めた。これは麻生さんの方の得になることで、きょう私から言われて、ありがたいということですが……。
  69. 麻生太賀吉

    麻生参考人 私はそういうことがあるということは今初めて伺ったのです。やり方が変わることは知っていました。もしそういうことになるのなら、もってのほかですから、われわれのグループはそんなことのないようにさせます。
  70. 滝井義高

    ○滝井委員 これはどうせ私も政府の方にもう少しはっきりさせますが、そうなっている。従って、今度それをとろうとすれば、国に責任を持たせるためには、その鉱業権者に破産の宣告をやる以外に方法がないという形になるわけですね。これは麻生さんの方でまだ御研究になっていないなら、長岡さんの方もそうだろうと思いますから、これでやめますが、それと関連をしてもう一つ、国鉄の運賃を今度事業団が保証してくれますね。特にこれは、大手はそうではないのですが、中小は保証するわけです。その支払いについて何か計画をお立てになっておるかどうかということです。これもやはり今のと同じ関係が出てくるわけです。こういうことも支払い計画がなければ、鉱害についてはなおないということになるわけです。何か長岡さんの方で、こういう法律が出るについて——事業団が、三年間、半額は保証するわけでしょう。その保証について何か支払い計画をお考えになったことがあるか。それとも、もうこれは差しとめたまえ、事業団で見てくれるのだから、中小は払わなくていいのだとお考えになっているのか。
  71. 長岡孝

    長岡参考人 鉄道運賃の石炭に対する値上がりにつきましては、かねがね私どもは、きょうの公述でも申しましたように、これは割引をして、それによって鉄道の方で建設の資金の手当に不足するならば、鉄道債の増発をしたらいいではありませんかということをかねがね基本的に主張いたしておるのでございます。そこで、かりにただいまの延納に対する事業団保証ということに対してどういう考えを持っているかというお話がございましたが、私は企業別にいろいろあると思っております。ある企業は未払いを経理上立てるところもあるように聞いております。しかし、必ずしも全部がそれだけの力を持っておるとも考えてはおりません。今のところ、各企業体別に別々だと思っております。
  72. 有田喜一

    有田委員長 藏内修治君。
  73. 藏内修治

    ○藏内委員 参考人もお疲れでしょうから、簡単に伺います。実は原参考人に、雇用安定法との関係で、租鉱だとか第二会社とかの問題が、どうも現在の民法とか商法の通念に反するような気がいたしまして、この点いろいろ質問したいと思ったのですが、お帰りになりましたので、その方の質問はあとに譲ります。(「提案者に聞いたら」と呼ぶ者あり)追ってそういう機会があると思います。  麻生参考人に一点だけまとめて伺いますから、まとめてお答えを願いたい。  実は先ほどからの公述で、現在の合理化計画の過程においては、五千五百万トンの出炭ワクというものは守らざるを得ないということは、私も了解ができるように思います。ただ、今度はまた別な面で、総合エネルギー対策というものを将来策定していく上については、その総合エネルギーの中における石炭の位置づけということが必要であり、この位置づけということは、わかったようなわからないような言葉でありますけれども、現実の問題としては、総エネルギーの消費量の中に占める石炭の消費量を上げるということ以外には、位置づけというものはないだろうと思う。そうなれば、必然的に出炭のワクというものをある程度将来においてふやしていくということ以外には考えられないわけです。そこで、その石炭の需給の問題になってきます。実はこの需給の問題を、私、委員会石炭局長にも伺ったことがあるのですが、三十五年度、三十六年度というのを見ますと、五千二百五十万トンぐらいから五千四百八十万トンまで伸びた。この伸びはわずかに四%くらいである。ところが、この年度の鉱工業生産の伸びを見ますと、これは平均いたしまして一四%ぐらい伸びておる。そこで、この鉱工業生産の伸びに対して、エネルギーとしての石炭の生産の伸びというものは非常に貧弱ではないか、こういうことは一体考慮しておるのかどうかという点を伺ってみましたら、実態は、大口消費、小口消費をできる限り集めてみて、これを推計して出しているにすぎない、こういうことのようです。そこに自然、われわれが少し皮肉な見方をしますと、合理化審議会、合理化計画の中にあって、おのずから理論上、机上の操作であらかじめ五千五百万トンというワクを設定しておいて、これに生産をはめ込んでいっているのだという気がどうもしてならない。そこで、今の出炭の実勢が、ことしの一月か昨年の十二月を基礎にいたしますと、六千万トンをこえるような実勢になる。そういうことは、合理化の効果が上がっておるのか、あるいはまた、先ほどから問題のコストの切り下げを増産によってカバーしているのか、この両方の要素があろうと思いますが、いずれにしても、需給計画というものはもう少し慎重に検討されていいんじゃないか。従って、不足エネルギーの分を輸入エネルギーで補っていく、こういうことで、出炭ワクを守るということになると、輸入エネルギーの分が今後ますます増大してくるという結果になってくる。そこで、さらに競合エネルギー石炭との戦いを不利にしていく、こういう感じが私はするのであります。そこで、これは炭労や総評の方が言っておられる生産拡大方式という意味、そういう概念とは別な観点から、需給計画上、現在の合理化政策というものがどうも生産構造の改革というか、改善という点に重点が置かれ過ぎておって、消費構造の改善といいますか、石炭の消費を伸ばすという意味における消費構造の改善という点にほとんど考慮が払われていないじゃないか、これはもっと政府関係業界と努力することにおいて非常に伸びる余地がありはしないか、そういう点について業界の内部からもっと強い意思が、ほかの競合エネルギーに対して働いていいのではないか、また、それを政府もバックアップしていいのじゃないか、そういう感じがするのでございます。そういうところにおいて石炭協会自体がもっと、炭労、総評とは別な意味において、生産のワクを拡大する努力をなさるということができるものかできないものか、こういう点が一点でございます。  それからもう一点は、何といいましても、要するに炭鉱企業というものも、石炭を生産し、これを販売して、その販売の利益が企業の基礎になっておるわけですから、炭価というものはもう無視できないものだ。ところが、今のような状態では、これは当分の間企業としての経営上の健全性というものはちっとも出てこない。ここにやはり銀行の投資の対象にも融資の対象にもなり得ない宿命があると思うのです。ここで石炭協会も、前回からの補給金というものを一応正面から引っ込められた格好になっておりますが、この炭価というものについて、これを将来能率の向上だけで利潤というものを生み出す可能性が、一体何年度からならあると見ておられるのか。私は実は、能率の向上だけでは、炭価に対する何らかの措置が加えられなければ、炭鉱企業としての健全性は回復できないと思っている。ところが、そういう問題についてあまり触れられないということは、今の合理化における能率の向上だけで企業としての健全性が、ある時期には認められるということなのであるか。いろいろな要望を出しておられるについて、こういう要望が満たされれば、炭鉱企業は将来においては経営基礎が固まって黒字が出てくるという、将来の青写真というか、希望図というものが実際設定されておるのかどうか、この二点について、副会長としての御意見を承りたい。
  74. 麻生太賀吉

    麻生参考人 第一の御質問は、五千五百万トンのワクの問題でございますが、今三十六年度の末から急にとおっしゃいましたけれども、ふえたのは何がふえたかといいますと、今電力だけがふえているので、その他の産業は全部減っております。大体二百万トンから三百万トンくらい一年間に一般に揚地の需要は減っております。そして積み地の発電所、それと揚地の火力発電所、これでもって年間二百万トンから三百万トンの需要が出てきておるという状態です。電力が、豊水、渇水で一年間に二百万トンから三百万トン近く石炭需要が違います。去年あたりは幾らか渇水ぎみであったので、石炭が足りないで、四十五万トンくらい石炭を輸入しておるわけでありますが、それで需給をやっと合わしている状態であります。今後石炭需要が、今のままほうっておいて伸びていくという見込みは、今の私どもには立ちかねている状態であります。これが幾らかもつかと思うのは、最近金融引き締めで、石炭ボイラーを石油ボイラーにかえようと思っていた方々が、とにかく今金がないのだから、コストは高いけれども、当分石炭を使っていこうというので、幾らか動いているという状態でありますが、一番近い例がセメントみたいなもの、三十六年度よりか三十七年度の方が、増産は一割近くいたしますが、石炭需要はずっと減ります。これは全部ボイラーで油をたきます、あれはそのままたけるものですから。そういうことで、将来の四十二年くらいの見通しを立てまして、はっきり契約したわけではないのですが、七百万トンくらい契約したのが、三百四、五十万トン買っていただけば上々ではないか、大きな狂いがそういうところに出ております。今のままにして油との間でコマーシャル・ベースで競争していくのだったら、石炭需要は五千五百万トンも非常にむずかしい、そういう気がする。今度お願いしたのも、この五千五百万トンの需要だけは確保していただきたいということをお願いしておるわけです。これは場合によれば、さっきのお話の通りでございまして、今後総合エネルギーはふえるわけでございますから、私どもとしては、何とか五千五百万トンのワクで、そのワクの中でふやしていっていただきたいということを、私どもの今後の総合エネルギー対策を立てるときにもお願いしたい、こう思っておるのであります。それがいろいろな意味国内資源として確保され、こういうものが要るのだという現在の総需要の中で五千五百万トンということになれば、これがふえればやはりそのパーセンテージがある程度伸びていなければいけないのじゃないかという考え方もできると思いますので、その際には一つ御考慮いただきたいと思っておる問題でございます。  それから次は炭価の問題、これはいろいろな見方があるかと思いますが、先ほどからいろいろと申し上げておりました中でお聞きいただいたと思いますが、千二百円下げということがきまりましたときの前提条件というものがずいぶん狂いまして、物価だとか運賃その他の問題の上に、先ほどから申し上げております合理化の資金の方も拝借するのが少ない、それから合理化資金の無利子というのが少ない、開銀資金も少ないのでございます。そういうことで、さっき申し上げるように、コスト予定通りは下がっておりません。今度十四日に出して、皆さんに御説明してお願いしておるあの計算方法は、四十年度まで差額についてめんどうを見ていただきたい。そうすれば、それで一人前に何とかやっていけるようになります。しかし、これも前提条件がございます。物価だとか何とかいうのが今より上がらないという条件でございます。労働賃金は三・八%平均の上がり方、こういう前提条件がございます。その範囲内でいくならば、四十一年度からペイしていくものになっていく、こういう計算の基礎に立ってお願いしております。
  75. 有田喜一

    有田委員長 齋藤憲三君。
  76. 齋藤憲三

    ○齋藤(憲)委員 私は専門家じゃないのです。ただ私の選挙区は石油地帯でありまして、またそれと同時に、長い間原子力発電というものにタッチしておりますので、この総合エネルギー的な立場から、石炭の抜本策というものは一体いかにあるべきかということは、私も、一人前の頭でないとしても、考えておるわけであります。そこで、一つ簡単にほんとの参考意見として拝聴いたしたいと思うのでありますけれども、私から考えますと、日本国家安全の立場から考えエネルギーというものは、今では石炭しかない。それは二百億トン石炭があるわけです。しかも炭層地帯における天然ガスというものは、まだ未調査でありますけれども、これは膨大であります。それでありますから、抜本策について総合エネルギー対策から考え石炭あり方というものは、先ほどお話にもありましたが、これは政治の貧困などと言うておられない大きな課題だろうと思う。だから抜本策が見つかれば、これに向かって政治の総力を結集してこの問題を解決していくというところに、いわゆる石炭対策が根本的に立ち直る原因があるのだと私は考えておる。それでは一体どうしたらいいかという問題ですが、私は私なりに、一体この二百億トンの炭層というものに対して国家が最も大きな手を差し伸べていく、一方では合理化を推進していく、五千五百万トンで千二百円下げ、これはきめた線でありますから、どんどんやれるだけやっていかなければならぬけれども、そこから浮き上がってくるところの離職者などというものは、新しい炭鉱の調査、開発に持っていって、そうしてたとえば十年後に一億トンの石油エネルギーも使わなければならないといっても、レビー報告を見ますと、ドイツあたりでは、やはり基本は、いざというときには石炭を使えるようなことにいたしております。ですから、日本としても、やはり国家安全という立場からエネルギー対策考えてみれば、これは二百億トンという石炭に重点を置かなければならぬということはきまっておるのですから、今まで石油が安いから石油を使っておるといっても、国家安全の建前から見れば、二百億トンの石炭石油にかえて使うという態勢に持っていくということが、私はやはりエネルギー対策の基本じゃないかと考えておる。ですから、そういうことが業界でもそれは当然だ、それから石炭に関しての政治的な感覚からいっても、そういうことはやるべきだということであるならば、やはりそういう政策というものは一ぺん打ち出していかなければならないと私は考えておるのです。また、そういう政策を遂行していく過程において、一体今の石炭がほかの新しい使用面を見出し得ないかといったら、いやしくも賢明な九千万の国民がおって、神が与えた二百億トンの石炭を今の使用しか見つからないという、そんなばかなことはないと思う。たとえば、今の製鉄だってそうです。原料は外国から持ってくる、強粘結炭は外国から持ってくる。もし強粘結炭が日本の手中に入らなかったら、強粘結炭でなしに製鉄をやらなければ、日本というものは立ち行かない。そういう方法は幾らもあるのです。そういうコンビナート式な技術面を検討していって時をかせいでおる間に、新しい石炭の使用面というものを開拓していくということをやるのが、私は抜本策だと考える。現在のいろいろな直面した問題はお互いに専門家にまかしておいて、全然それにノータッチなしろうとの立場から抜本策を考えていく、こういう線しかないのではないか。しかもその石炭を使用する面というものは、強粘結炭を使わないで製鉄をやれといったら、これは大へん石炭——それは製鉄の分野には重油とか天然ガスは入れない。日本石炭で製鉄をやる、これでコスト・ダウンした優秀な鉄を作る方法もあるが、どうかということでやれば、いわゆる新しい使用面というものは出てくるのではないか。そういうことをやらないで、ただ現実の押し迫ったところの問題にばかり頭を突っ込んで抜本策だ、抜本策だといって、何が一体抜本策か。抜本策は一つもないでしょう。抜本策という旗を振ったって、永久に旗振りだけに終わってしまうのではないか、私はそういうふうに考えておるのですが、こういう面に対して、実際今石炭業に携わっておられる方々はどういうお考えをもって抜本策ということを口にせられるのか、それはちょっぴり一つ伺いたいと思います。
  77. 麻生太賀吉

    麻生参考人 全部私のところにばかり回ってくるようでございますけれども、先ほどおっしゃったように、石炭日本で二百億トンあるわけでございますから、これを何とかしてやっていきたいという考えはもちろんございます。それから私ども二、三年前から石炭技術研究所を作って、現在お話のたき料である一般炭を粘結炭のかわりにどう使えるかというような問題、それからガス化の問題、これも研究しております。こういうことでも日本で成功していけば、大きな需要が出てくる。抜本策の問題を口で言っても始まらぬじゃないかという筋だと思いますが、私としては、現在ここで申し上げることは今まで申し上げた通りのことでございますけれども、では将来どうするのかということになりますれば、先ほど始関委員は、総合燃料対策というものは立ててあるというお話でしたが、私の考え方からいえば、政府としては確実なものじゃないのじゃないかと思います。それをできるだけ作っていただく。そうすると、今のような問題で国内資源をどの程度使っていくかということがはっきりすると思います。お耳に入っておるかと思いますが、場所によっては、こんな高いものはやめてしまえというお説も、お役所の中にはなくはないのです。そういうことになっては大へんなので、この数字を最低にして、燃料需要がふえてくるワクと一緒に石炭ワクもふやしていただきたい、そうして日本の総合燃料対策として安い石炭を与えなければならぬ、そういう意味で、私どもとしては、一日も早く総合燃料対策を立てて、石炭はどういうふうにやるというはっきりしたものを一番希望し、その線に沿って努力していただきたいと考えておるわけであります。
  78. 有田喜一

    有田委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多用中にもかかわらず、ほんとうに長時間にわたりまして貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。本委員会法案審査に稗益するところ実に大なるものがあると確信いたします。厚くお礼を申し上げます。  午後二時より再開することとし、暫時休憩いたします。    午後一時四十二分休憩      ————◇—————    午後二時二十八分開議
  79. 有田喜一

    有田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  石炭法案審査を続行いたします。  午後、三法案について御出席をいただいております参考人の方々は、日本鉄鋼連盟専務理事葦沢大義君、電気事業連合会専務理事中川哲郎君、早稲田大学理工学部教授中野実君の各位でございます。  この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。本日は御多用中にもかかわらず、本委員会法案審査のためわざわざ御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。厚くお礼を申し上げます。  御承知のごとく、本委員会におきましては、現下のエネルギー消費革命の進行に対応して、石炭産業の抜本対策樹立のため種々の努力を払っておるのでありますが、石炭の関連産業関係されておられ、あるいは学識経験者で石炭産業に深い御造詣を持っておられる参考人各位には、三法案について忌憚のない御意見をお述べいただき、そうして本委員会法案審査参考にいたしたいと存ずる次第でございます。  参考人各位には、最初にお一人約十五分間程度で御意見をお述べいただき、あと委員の質疑に応じていただきたいと存じます。  それでは、日本鉄鋼連盟専務理事葦沢大義君からお願いいたします。葦沢参考人。
  80. 葦沢大義

    葦沢参考人 鉄鋼業界の立場から、一言われわれの考えておりますところを申し上げたいと存じます。  ただいま委員長のお言葉にございましたように、エネルギーの根本的な対策について、皆様方特に御熱心に御検討をいただいておるということでございまして、私どもエネルギーを原材料といたしまして、重要な資源的な内容を持っておりますわれわれ鉄鋼業界といたしましても、心から感謝を申し上げるとともに、敬意を表する次第でございますが、本日御質問になっております石炭関係は、むろん鉄鋼業界といたしましても非常に重要な原料でございまして、石炭産業の今後の運営がどうなるかということについては、鉄鋼業界としても多大の関心を持っておるわけでございます。本日の議題になっておりまする石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する法律案内閣提出に相なっておりまするものにつきましては、まず結論を申し上げますと、賛成でございます。と申しますのは、石炭価格の安定、あるいは需給の安定ということにつきまして、かねて業界においてもそれぞれお話し合いを進めて参りました。鉄鋼業界といたしましては、石炭は、御承知のように、特に粘結性のあります、原料炭と申しております石炭がその対象となるのでございます。従いまして一般炭は、鉄鋼業界としては、自分のところの自家発等にたきます若干のものだけでございますので、大部分の問題の対象は原料炭に相なるわけでございますが、しかしながらこの原料炭も、原料炭だけで山を経営しておられるところはごく少なく、一般炭とからみ合っておりますので、一般炭とあわせてうまい経営をしていただかないと、われわれの業界が入手いたします原料炭もうまいことに相ならぬというわけで、むろん密接な関係があることを私ども承知いたしておるわけでございます。御案内のように業界同士の話し合いで、われわれ原料炭につきましては、長期の安定取引の申し合わせをいたしております。三十八年に千二百万トン、四十二年に千三百万トンの原料炭を、これはガス業界と一緒でございますが、安定取引の長期の取りきめをいたしまして、かねて示されております三十八年千二百円引き下げの線に向かってお話し合いをいたしておるような状況でございます。しかしながら、この千二百円の引き下げにつきましては、石炭業界も非常な御努力を払っておられますにもかかわりませず、最近のいろいろな諸物価の高騰等から考えますと、なかなか困難な問題もあるように伺っておる次第でございます。これらの原因につきましてはいろいろあり、また対策もいろいろあろうかと存ずるのでありますが、石炭業界のみの努力によってなかなか達成できないものも多々あるように伺っております。つきましては、政府資金による補助、援助、あるいは投融資等によりまする対策も、きわめて重要な大きい一面があろうかと思うのであります。伺いますところによりますと、三十七年度の石炭対策の予算といたしましても、ある程度予算に計上になっておるようでございますが、まだまだ現在の予算等の措置から見ますと、石炭業界の話を伺いますと不十分であるというわけでございますが、不十分にいたしましても、これらの予算等の関係措置いたしますためにこの臨時措置法の一部改正の法律が必要であるというわけでありますので、私どもとしては賛成をいたす次第でございます。  ただ、この法案とからんで、ただいま申し上げましたような石炭産業の経営がうまく成り立っていきますためには、まだ資金が必要であるということでございまして、つい最近石炭協会の方から伺いますところによりますと、ここ四年の間に九百五十億くらいの資金ボリュームがほしい。年間二百五十億くらいになるわけでありますが、そういうものによって五千五百万トン出炭、千二百円引き下げというラインに向かって石炭業界でも全幅の努力を傾けたいということでございまして、今週の初めにも、われわれ鉄鋼連盟の会長石炭協会会長とお会いになりまして、ともどもそういった線について関係御当局に陳情を申し上げたいというような話し合いが行なわれたくらいでございます。以上のような状況、次第によりまして、本案に賛成をいたす次第でございます。  次は、石炭鉱業安定法案炭鉱労働者雇用安定に関する臨時措置法案の二法案についてでございます。実はわれわれまことにおわびを申し上げなければならないのでありますが、日ごろ法案につきまして承知をいたしておりませんで、昨日、資料を拝見をいたしまして、なるほどこういう法案提出になっておるのかということを承知いたした次第でございます。従いまして、われわれ連盟といたしまして、こういう方面を審議いたします委員会の機関があるのでございますが、その委員会にも諮って御意見を申し上げるというような段取りにならなかったことをおわび申し上げなければならないのでございます。しかしながら、せっかくちょうだいをいたして拝見をいたしましたので、まことに個人的な意見にわたって恐縮かと存じますが、その点はお許しを願いたいと存ずるのであります。  石炭鉱業安定法案を拝見いたしますと、まず目的でございますが、まことにごもっともな目的で、私ども賛成でございます。その目的の達成のための内容につきまして、非常に一貫して整備をなさっておられますのに敬意を表する次第でございますが、内容自体は石炭業界それ自体の問題が多くございまして、関連産業の立場から、石炭産業自体の意向も伺わずにどうこう言うのは恐縮なような感じもするのでありますが、ただ関連産業の立場からこの法案について一点だけ感触を申し上げますと、石炭の販売公団について規定がございます。われわれ関連産業として石炭を購入する側に立ちますと、この点が一つの問題点になろうかと思うのでございます。御承知のように、現在の炭の購入方法につきましては、それぞれ製鉄会社石炭会社と、いろいろな条件、地理的な条件もございますし、あるいは出資の関係とか、いろいろ相互に持ちつ持たれつのようなところもあるわけでありまして、そういうような現状経済の取り合わせの上から石炭を購入しております。それが、略称すれば配炭公団といえるかもしれないと思いますが、戦争中にあったものでございますが、そういった種類の公団で一本配給になるということでありますと、現状の問題からしますと、いろいろな問題を生ずることもあるのじゃないかというような感じをいたすわけでございます。若干統制色が濃厚になるという点において、そこにいろいろな問題が出てくるのじゃないかというような感じがいたすことだけを申し上げる次第でございます。  それから炭鉱労働者雇用安定に関する臨時措置法案につきましても、これも石炭業界意見を伺わずに、われわれが外から関連産業としてどうこう申し上げるということも大へん恐縮なような感じをするのでございますが、ただいま問題になっておりまする雇用問題につきまして、鉄鋼業界としましては、同じ関連会社関係におきましては、特に雇用の受け入れについて、ここで具体的に名前をあげませんけれども、積極的な努力をしておるところもあるわけでございます。また一般的な雇用安定対策に関しては、いろいろな面において御協力できる面は御協力を申し上げておるのでございますが、労働大臣の許可によって雇用をくぎづけにするという、これもやはり統制色が少し厚くなるようなお考えの案でございます。そういうような方法によらなければ解決できないものであるかどうか、お互いの善意と努力によって自由の天地で解決することがいいかどうかというような問題が私はあろうかと存ずるのでございます。  私の大へん個人的な感触だけについて申し上げて恐縮でございますが、以上をもちまして、簡単でございますが、三法案に対します陳述を終わらせていただきます。
  81. 有田喜一

    有田委員長 ありがとうございました。  次に、中川参考人にお願いしたいと思います。中川参考人。
  82. 中川哲郎

    中川参考人 電気事業連合会の専務理事をいたしております中川でございます。御指名によりまして、石炭鉱業合理化臨時措置法の一部改正法律案についての意見を最初に申し上げさしていただきたいと思います。  現在、日本経済成長に伴いましてエネルギー需要が非常に増大いたしております。所得倍増計画におきましても、十年後でございまする昭和四十五年度におきましては、エネルギーの総需要は現在の約倍に達するという計画でございますが、このうちでも電力の需要はほかのエネルギーに比べまして増加率が非常に大きく、十年後におきましては現在の約二倍半になる予想でございまして、総エネルギーの中に占めます電力の割合も、現在四〇%でございますが、十年後におきましては約五〇%になるように想定いたされております。従いまして、このエネルギーの安定的確保ということは、今後の重大な問題でございますが、私ども電気事業の立場からいたしましても、これに対応いたしまして電源開発を遂行しておりまする反面、また電力コストをできるだけ上がらないようにして参るということに最善の努力をいたしておる次第でございます。今後の開発は、やはり水力資源が減って参ります関係上、火力発電が重点になっておりまするので、燃料費というものは、総コストの二割をこえる状況でございますので、同時に燃料費の低減をできるだけはかっていきたいということが、電力業界としての中心的な問題に現在なっております。こういうような関係からいたしまして、燃料源であります石炭、重油という両方を比較してみました場合に、何といたしましても、重油の方が石炭に比べて割安でございます。また発電所の建設費や運転後の便宜等も考慮いたしますと、現在でも相当量の油を使用しておりまするが、今後はふえます部分の過半を油でまかなっていくということによって、同時に経済性を確保して参りたい、こういうふうに考えておるわけでございます。これはひっきょういたしまするところ、世界的なエネルギーの構造転換ということの端的な現われであろうと存じます。貿易の全面的な自由化を前にいたしまして、基幹産業として進んでコストの低下をはかるということが、同時にまた国民経済全体の上に寄与し得る方向だというふうに思っております。しかしながら、こういう燃料源を考えてみました場合に、一方この貴重な国内資源でありまする石炭産業の将来も考えまして、国家的な見地からこれを見ました場合には、やはり燃料源としても合理的な発達を考えていきませんといけないと存じます。この意味で、昨年の六月に経団連のあっせんによりまして、石炭業界との間に石炭の長期安定引き取りの申し合わせをいたしました。御承知のように、この申し合わせでは、三十八年度に千八百万トン、四十二年度に二千万トンの石炭を順次増大して電力業界が引き取って参ろう。そして反面におきまして、石炭業界は、責任を持ってそれの供給を確保し、また炭の値段につきましても千二百円引き下げをはかって参る、こういう約束に相なっておる次第でございます。この長期引き取りの申し合わせは、ひとえに国内炭の需要を長期に安定させまして、石炭産業合理化の促進をはかって参る、こういうことが眼目でございまして、私どもといたしましても、いろいろの石炭対策は、ひっきょう基礎物資でありまする石炭に市場の競争力を付与することを最終目的といたしまして、経過的には、こういった関係業界の協力によってそういう素地が生まれていくように、お互いに努めていこう、こういう趣旨にあると存じます。この意味石炭対策は、あくまで将来においては、重油に対抗し得るような石炭価格を究極の目的といたしまして、石炭産業合理化を徹底的に推し進めて参ることが本筋でございまして、そのために現在いろいろ政策が講ぜられております。スクラップ・アンド・ビルドの強化、あるいは離職者についての諸対策、運賃の補助、こういった合理化対策を今後とも大いに推進していっていただきたいと思っております。そしてこういう場合におきまして、将来石炭の炭価が経済ベースに乗るような値段に引き下がった場合におきましては、私どもといたしましても、進んで石炭の使用量の増加をはかりまして、できるだけ国内資源の優先確保という線に、さらに一段の協力をして参りたいというふうに考えております。こういった長期引き取りの線に対しまして、私どもとしましても、必要な発電設備は現に工事中でございまするし、三十七年度におきましても、引き続いてある程度石炭専焼発電所の新設を計画いたしておる次第でございます。一面、石炭業界におかれましては、いろいろその後の情勢の変化等はございまするが、既定の合理化計画を進めますことに渾身の御努力を傾けておられますが、最近におきましても、あらためて出炭の五千五百万トンを堅持し、そのワク内で予定の千二百円の引き下げを達成しようということを確認いたされまして、それに必要ないろいろな施策を、政府よりも要望されたように聞いておる次第でございます。従いまして、今回提案されました石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する法律案は、こういう一段と強まってきた石炭鉱業合理化の必要性に対処されまして、今まで行なってきましたスクラップ・アンド・ビルド施策を一そう強化いたしまして、従来の整理炭鉱の買収方式、こういうことに加えまして、さらに整理促進交付金方式を新設される、あるいは合理化事業団によって長期の運転資金を直接貸し付けよう、さらに運賃の延納債務の保証、こういった項目を加えられたものでございまして、関連産業の立場といたしましても、その趣旨には全く賛意を表する次第でございます。  なお、今後ともこういった方向におきまして、石炭対策をさらに推進させるために、私どもといたしましても希望いたしたいことは、合理化予算措置についてでございますが、必要な場合さらに財源をふやされて、一そうそれの徹底をはかられるよう要望申し上げたいと存じます。ただその場合、競合エネルギーでございまする石油につきまして、関税を引き上げましたり、あるいは消費税を課するといったようなことでございますると、一般のエネルギー価格の高騰を来たすというようなことになりますので、私どもとしては、その財源は今後ともぜひ一般会計に負担を願いまして、一般会計から十分な支出をされるように切望いたしたい次第でございます。  なお、この際一点だけつけ加えまして、お願い申し上げたいことは、現在の五千五百万トンの出炭規模を拡大してはどうか、さらには千二百円の引き下げについての計画を改定しよう、こういうようなお話も伺っておる次第でございますが、出炭規模の拡大を、現状におきましてお考えいただきますることは、私ども現状でやや出炭が多目であるということは、整理予定の非能率炭鉱が、そのまま出炭を継続しておられるという向きも少なくないように伺っておるのでございまして、かような現状前提にいたしまして、出炭規模を拡大いたしますことは、結局これによって今までの石炭鉱業合理化計画が、画餅に帰するのではないかということを憂うるものでございます。従って、炭価の引き下げ等につきましても、そういうことがあるいは逆に支障になっているのじゃないかというふうに心配いたしておる次第でございます。石炭につきましては、当分は石油に比べ割高でございます。従って、需要にも一定の限界があることと存じますので、ぜひ既定の合理化計画の線に従いまして、これを強力に推し進めていただくというふうにしていただきたいということを要望申し上げたいと存じます。  続きまして、社会党提案石炭鉱業安定法案についてでございます。私どもも、この法案をいただきましたのは昨日でございましたために、十分業界内で意見を戦わしたわけではございませんので、今まで業界で議論されておりました線をそんたくいたしまして、私的な意見として申し上げる次第で、御了承いただきたいと思います。  この法案を拝見いたしますと、石炭産業の生産の近代化、あるいは流通機構の整備、採掘権及び鉱区の整理統合、あるいは坑口の開設の制限、こういうような趣旨が中心になっておるようでございますが、現在すでに、いずれも実施あるいは計画されつつある内容のものが主であるようであります。従って、これを一そう促進されますことは、関係業界として、先ほども申し上げましたように、大いに賛成いたすものでありますが、私どもの希望といたしましては、こういった合理化の推進は、基本的にはもっぱら石炭産業の自主的な努力によって行ないまして、それの遂行に必要な場合に、国が側面から助成措置を十分にやっていただく方向で処理していただくことをお願いいたすわけでございます。なお、この法案の中に盛られております流通機構の整備構想として、石炭販売公団の条項がございますが、私どもも石炭合理化の一面として、流通機構に問題があることは承知いたしております。従いまして、この流通機構合理化として、ある程度機構を整備されることも望ましいとは存じますが、これを公団の形で、一手に買い取り、販売をいたしますことが、はたして現実に流通コスト引き下げに役立つかどうか。もう一点懸念されることは、やはり需要業界といたしましては、品質の問題でありまして、これは鉄鋼業界における粘結炭と一般炭の場合とはやや異なるとは存じますが、今まである程度の品質の保持が、各山あるいは需要家との間の契約に従いまして、それぞれ責任を持って品質の保持が行なわれておりましたが、公団となって一手買い取り、一手販売ということになった場合に、はたしてその品質が一定の適正なものが保持できるかどうか、この点が過去の例等から見まして心配な点があるわけでございまして、こういった点につきましても、十分関係業界も含めて御検討されました上、その見通しが立ちませんと、現在直ちにこの法案には賛成であるというふうには申し上げかねる次第でございます。  続きまして、炭鉱労働者雇用安定に関してでございますが、私ども炭鉱合理化が必然的なものであり、その推進に関連業界はもちろん、政府といたしましても、できるだけの援助をお願いするのが当然の筋であろうと存じます。この意味で離職金の補助とか、あるいは転職に対しましてのいろいろな施設、さらに職業訓練、こういうような一連の対策が現に講ぜられつつございますし、これが三十七年度予算を見ますると、さらに雇用促進事業団の交付金制度等も拡充実施されているように承知いたしておりますが、いかにいたしましても炭鉱の労務者問題は、国民経済的に見まして非常に大きな問題でございまして、社会的面からいたしまして十分な配慮と援助が必要だというふうに存じます。従いまして、現在実施されておりまする諸対策が不十分でございます場合は、ぜひこれをさらに徹底して遂行していっていただきたいと思うのでございます。しかしながら、本案のように解雇を事前に抑制しまして、一定就職先があるまでは解雇を認めないという点につきましては、従前のわが国におきまする労使の慣行からいたしまして、いかにも大きな変革でございまして、こういう点は日本産業全体に及ぶ相当大きな問題であろうかと存じます。従いまして、このような方策が最終的に必要であるかどうかにつきましては、十分事前によく検討が必要であろうかと思いまして、既定の慣行に従ってできるだけ円満な、円滑な雇用関係の処理をお願いいたしまして、必要な政府の助成なり援助なりの方策をさらに一段と徹底させるという線でできるだけ御解決をお願いいたしたい、そういうふうに存ずる次第でございます。  以上でございます。
  83. 有田喜一

    有田委員長 ありがとうございました。  次に中野参考人にお願いします。中野参考人。
  84. 中野実

    中野参考人 中野でございます。私、早稲田大学の理工学部の資源工学科の方に勤めておりまして、法律関係には全然のしろうとでございます。ただしかし、石炭鉱業関係におきましては若干の経験を持っておりますので、この法案に対する貧弱な意見でございますが、あるいは唐突な意見と申しますか、私の信条といたします線に沿いまして開陳したいと思う次第でございます。  石炭鉱業合理化臨時措置法の一部を改正する法律案、この法律案につきましては、すでに施行されているものの一部改正でございますので、私直接これに関係ございませんが、若干いろんなことを見ておりまして、しごく妥当なところであると思うわけでございますが、ただこの条文の中のたしか三十五条かと思いましたが、離職者に対して若干の前触れ期間を置きまして、首を切るときには三十日分の賃金を支払え、そういうことが出ていたように記憶しております。そこでこの三十日分というのは、私ども率直に考えて、三十日分だけ出せば首を切ってもいいということにつながるような気がいたしまして、いかにも少ないのではないか、この際思い切って、この三十日を六十日あるいは半年というふうに変えた方がさらに雇用促進のために役立つのではないか、そんなような気がしております。臨時措置法の一部改正につきましてはそういう意見だけで、あとは大体において異存のないところでございます。  それから次に、順序がちょっと狂うのでございますが、今石炭産業におきましては離職者の問題、雇用の問題と申しますか、これが非常に大きな問題でございます。むしろ緊急を要する問題でございまして、臨時措置法の一部を改正する法律案につきましても、私は雇用の問題をえぐり出して見ているわけでございます。その趣旨に従いまして、社会党提案炭鉱労働者雇用安定に関する臨時措置法、これから先に述べさせていただきたいと思います。  この提案の趣旨を拝見いたしますと、提案の趣旨そのものについては賛成でございます。と申しますのは、従来から炭鉱離職者臨時措置法とか、あるいは雇用促進云々という法律ができておりまして、それで強力に離職者対策を推進していると伺っていたわけでございますが、先般筑豊方面に二回ほど参ったときに聞き及びましたところによりますと、職業訓練所を出た者がまた旗振りをしている、こういうふうなことを聞いたわけでございます。もしこれが事実といたしますと、そういう離職者対策、援護対策というものは非常に間違っていると考えざるを得ないわけでございます。従いまして、このようなことがもし事実とすれば、雇用の安定というのはかけ声だけであって、実際はあまり成果を上げていないというふうに考えられるわけでございます。そういう意味におきまして、雇用の問題をこの際十分考えなければならぬ。従いまして、提案の御趣旨につきましては非常に賛成しているわけでございます。ただ、この法案そのものをちょっとながめてみますと——その前にちょっと申し上げなければならないのでありますが、私も先ほどのお二人の参考人の方と同じように、二日ほど前にこれを見たわけでございます。でき上がった姿のままを見ておるわけでございますので、法律のことがわからない私には、そのままを学問的に解釈しておるわけでございます。従いまして、私が今後述べますことにつきましても、あるいは法律的用語からいいますと、そういう解釈では違うじゃないかという御意見もあると思いますが、その点は、私は御説明を承れば十分納得できるわけでございます。  ところで、この法律の不備と思われる点を指摘してみたいと思います。この法案は、まず第一に炭鉱労働者雇用促進についてのみ限定しております。ところが資源関係から見ますと、炭鉱労働者もむろん大切なわけでありますけれども、金属鉱山関係労働関係も、数におきましてはかなり少ないかもしれませんが、合理化にからんで雇用の問題がかなり大きくクローズ・アップされておるわけでありまして、できますれば全地下産業関係した労働者雇用に対する法案でありたいというふうに念願しておるわけでございます。  次は、第三条の二項のただし書きであります。このただし書きを見ますと、「当該鉱業権者の石炭鉱業の全部の継続が不可能であるときは、」云々ということが書いてございます。で、この判断を労働大臣がすると書いてございますが、現在の私の常識によりますと、労働大臣は、その性格上、これを判断する能力がないというふうに見るわけでございます。これがかりに通商産業大臣がやるということであれば、必ずしも理解できないことはないわけでございます。この点に私として非常にわからない点があるわけであります。それから三条二項の条文は、考え方によっては、この条文の後段の解釈でございますが、これによって骨抜きになる心配がある。つまり石炭鉱業の全部の継続が不可能であると判定されることによって、労働者は直ちに解雇されるという措置をとらざるを得ぬことになると思います。ここらが私としては納得できないところでありまして、これでは従前の方法と何ら変わるところがないのではないか、こういうふうに考えております。  次に第四条と第三条との間に矛盾がございます。第三条によって、承認を与えなかった結果損をした鉱業権者には金を出すという形になっております。これはつまり第三条で所管大臣の判定が誤りであったということを裏づけることになるわけでありまして、こういう法律ができるということは全くおかしいような気がいたすわけであります。  以上のようなところが気になったところでございまして、私の考えといたしましては、この法案の趣旨には賛成ではありますけれども、労働者雇用の安定を推進する方法としては、もう少し強いと申しますか、簡単で素朴な方法が必要ではないか、こういうふうに考えております。その一つ考え方を申し上げますと、たとえばその鉱山の自然条件が云々であるとか、あるいは採掘条件が云々である、あるいは生産形態が云々であるというような、そういうようなところに一定の基準を置きまして、この基準に合わない鉱山、炭鉱というものは全部つぶしてしまう、そして一定期間にその処置をとるわけでありますが、その間に失業した雇用者と申しますか労働者に対しましては、国があたたかい手を差し伸べまして、何かの形でもって完全就職あるいは雇用対策ができる、こういうふうにやった方がもっと率直ではないか、こういう率直な声の方が確かに世論に受けるのではないかというふうに感ぜられるところでございます。以上が雇用安定に関する法律案に対する私の意見でございます。  次は、石炭鉱業安定法案に関することでございます。この提案の中で、石炭鉱業の拡大生産の必要性を指摘しておられる点、それから国策として石炭需要拡大をさらに重く見ていられる点では、私は賛成であります。ただしこの需要拡大につきましても、おのずから限界があることはわかっておるのでありまして、私の見るところによりますと、今日本炭鉱界だけについて申しますと、いささか能率が増進する過程にあるように考えられるわけでございます。その過程におきまして、かりに何%かの増産をすることによって、逆に現状におきましてもコスト・ダウンができるという可能性もないことではないわけでありまして、国家の言っております五千四百万トンあるいは五百万トン、この数字がプラスの方にちょっと動いただけによりまして、買い入れる方の炭価が安くなるとすれば、多少大きな方に動いてもいいのじゃないか、こういう趣旨によりまして、この提案の趣旨の中のその二点につきましては賛成でございます。ただ、この法案を通読いたしまして感じましたことは、この法案の底には、現在日本石炭鉱業の置かれておる立場をかなり過大評価しているのではないか、はたしてこういうような法案が、世論にこたえて、実現する可能性があるであろうか、そういう不安を持っております。それと申しますのは、この第七条によりまして、実施計画に定める石炭鉱業の安定に必要な資金は政府が確保するよう努力せよとなっております。現実の問題として、それからまた今の政府といたしまして、あるいは石炭産業の力といたしまして、この金の調達をする能力があるかどうかということに私は疑問を持っております。提案者にいたしましては、この辺についてどれほどのお考えを持っているかを伺えれば、私は非常にうれしいと思うわけでございます。もしこの計画に対する裏づけの資金が不十分であるといたしますと、この安定法案というものは画餅に帰する心配があると考えられるところでございます。  次に四十七条でございますが、買取価格が生産費より低いときは、その差額を価格調整金として交付されることになっております。私ども技術の立場から見まして、あるいは心理的な考え方から見まして、こういうことになりますと、かつての戦後の統制と同じことでございまして、生産能率向上の意欲がなくなるのではないか、こういうふうに率直に考えております。たとえば損したものは金を出してまかなっていくということによりまして、かなりの資金がこの運営に必要になるわけでありますが、こういうような資金の出し方を石炭産業だけに許すような状態であるかどうかということを考えなければならない。そういう面から見まして、これに不安を感じているわけであります。  次に第九十六条、炭鉱補償事業団が買収する採掘権の基準ということが示されております。これによりますと、価格調整金の交付を受けられない場合もあるというふうに読み取れるわけでございます。そういたしますと、先ほど申し上げました四十七条とかなり矛盾してくるわけでありまして、もしこういう状態のままで実現するといたしますと、石炭鉱業界に混乱が起きるのではないか、つまり中途半端な点で混乱が起きるのではないかということが私に感ぜられたわけでございます。もしその点の関係のことが十分裏づけがあるということでありますれば、こういう形の法律案そのものではないといたしましても、通せる形、あるいは可能性もあるし、またスムーズにいくのではないかと考えているわけでございます。  以上、各条文について思いついたことを申し上げたわけでございますが、全体の感想を一つ述べさせていただきます。  第一は、現在の石炭鉱業は、いわば世論として見放された産業となっているわけであります。しかし石炭重要性というものはわかっているわけでございまして、こういういわば多少といいましょうか、かなり間違った方向を指し示しております世論というものは直させなければいけない、その方向を直させて、石炭鉱業重要性を認めさせなければならないということが緊急のことであると思われるわけであります。しかるにこの安定法のような、非常に大きな構想でありまして、この構想の中身がかりに非常にりっぱなものであるといたしましても、今の世の中の常識では、この大構想をそのまま受け入れるような社会情勢にはまだ至っていないのではないか、こういう懸念を持っているわけであります。しかしながら、地下資源というものの開発がどうしても国で必要であるということになりますれば、何らかの形で国が金を出さなければならない運命にあるとも考えられるわけであります。それにつきましては、こういう大きな構想よりも、もっと急所をついた構想で強く迫っていく、必要な資金をうんととってしまうというような戦術が必要ではないかと考えられるわけであります。確かに石炭産業は今重大な時期に直面しておるわけでありますが、これは雇用の問題がかなり大きなウエートを持っているわけであります。従いまして、この雇用の問題が一つの大きな急所でありますので、この急所をうまくつくような法律をあらためてお考えになりまして、もって炭鉱離職者の雇用の完全を期せられるようにしていただきたいということを希望いたしまして、私の意見を終わります。     —————————————
  85. 有田喜一

    有田委員長 どうもありがとうございました。  参考人各位の御意見に対し質疑の通告がありますので、これを許します。岡田利春君。
  86. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 初めに葦沢参考人にお伺いいたしたいと思いますが、所得倍増計画に基づく目標年次の昭和四十五年度には、原料炭の輸入は昭和三十四年度に対して大体四・五倍程度のものが実は見込まれておる。そこで今日の鉄鋼業界から見た——これは鉄鋼だけではありませんけれども、鉄鋼業界から見て、この原料炭の輸入見通しというものは所得倍増計画に基づく昭和四十五年度二千五百七十万トン程度でありますか、こういう見通しは大体当を得ておるとお思いになるかどうか、まず第一にその点をお伺いしたいと思うわけです。  それと相関連しまして、今日日本の原料炭というのは大体頭打ちの状態にあって、画期的な増産が非常に不可能である。しかし日鉄二瀬の有明あるいはまた北海道の南大夕張地帯の開発というのは、現実の問題として開発可能な地域でもあるわけです。しかし原料炭ではないけれども、比較的サルファが多い、このために原料炭にならぬ、こういう原料炭に準ずる炭もあるわけですね。こういうものは、たとえばオーストラリアあるいはカナダ等から非常にサルファの少ない強粘結の最も優秀な炭を輸入をして、これを混炭する、こういうことによって、今まで一般炭に落とされておるものを、原料炭に振り向けることが可能だと思うのです。その代表的なものは私は三井三池の石炭ではないか、このように考えるわけです。そのことによって、国際収支の面から考えても、できるだけそういうものを原料炭として救い上げる、こういうことが総合的に石炭業者並びに需要家として検討されなければならぬ問題ではなかろうか、このように私は考えるわけです。加えて富士製鉄のような場合には、もうすでに一般炭のコークス化、ルルギー方式については、これは試験段階を終わって実用段階に移すことができる、こういう態勢にあって、ごく限られた炭の銘柄になりますけれども、比較的灰分が少なくて良質な一般炭については、価格の面の調整ができれば、これは製鉄用として使い得る、こういう面も出てきた。もちろんこれは油との関係で、油とともにたくことになると思うのですが、そういう傾向が実はあるわけです。従って昭和五十五年になりますと四千五百万トン程度の原料炭輸入というものが見込まれておるわけなんですから、そういう面から見ますと、今の日本の原料炭の開発、それに加えて準原料炭を今言ったような方法で原料炭に救い上げるとか、一般炭を、ドイツはルルギー会社でやっておるわけなんですから、そういう点についても積極的に一般炭を使用する、こういう態勢が国内資源を活用するという面で望ましいと私は思うわけなんです。それが鉄鋼企業としてはどういう状態にあるのか、その点お知らせ願えれば非常に幸いだと思うわけです。
  87. 葦沢大義

    葦沢参考人 ただいまのお尋ねにつきましては、私どももごもっともなお尋ねだと思うわけでございます。昭和四十五年に四千八百万トンの粗鋼ベースというものを一応基礎にいたしますと、輸入も多量にしなければならない。あの計画によりますと、国内原料炭の使用量は九百三十万トンということを予定いたしておりますが、現在七百万トン程度でございますから、あと二百三十万トン程度は国内の増産に待たなければならないというような状況でございます。また輸入の方の手当も、四十五年度分まで全部済ませておるというわけではございませんので、お説のような国内におきまする準原料炭の使用について何らか研究、検討するということは、重要な課題であろうと存じます。何と申しましても技術的な問題と、それから御指摘のように価格の問題がございますので、それらの問題の見当が十分につきますことであれば、そういう方向をぜひ確立する要があるというように存ずる次第であります。  ただ一面、石炭の使用量の増大傾向は、粗鋼ベースの増産傾向に伴って一応増大して参る趨勢でございますけれども、ただいまそのほかに技術的な、非常に世界的な一つの傾向になってきておるのでありますが、高炉に重油を使用するということがすでにほかの各国でも実現をいたしておりまして、またわが業界においても、この点についても各国からおくれをとらないように研究をいたしおります。それらの技術的な日々の向上発展、進歩の度合いとあわせましてやはり探究する必要がある、こういうように存ずる次第でございます。
  88. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 もう一点お伺いしたいのですが、わが国の鉱工業部門におけるエネルギーコストということがよく言われて、それぞれ各産業別にはばく然と言われているわけですが、鉄鋼の場合、電力、油、石炭を含めて燃料費、エネルギーコストというものは製造原価にどの程度占めているものでしょうか。一般的でけっこうですが、もしおわかりだったらお知らせ願いたい。
  89. 葦沢大義

    葦沢参考人 このコストにつきましては、実は私どもも明瞭になかなかきわめない状況でございます。各社も原料の内容につきまして、コストの何%かということを明示した資料は出しておりません。しかしながらコストに占める内容としては、そう大きなものでないということは言えます。と申しますのは、ほかに鉄鉱石、スクラップその他人件費、いろいろなものがございまして、大きなものでないという意味は、パーセントにしますとおそらくそう大きなパーセントにはならないだろうというように考えております。
  90. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 燃料費を調べるのは非常にむずかしいのですね。鉄鋼会社の二社、これはあまり大きい会社ではないのですが、それによると、電力、石炭、コークス、重油を含めて、一つ会社は大体六・六%、一つ会社は七・二%程度なんですね。これは数字が当たっているかどうかは別にして、意外に少ないわけですよ。もちろん製鉄の場合には原料そのものが相当のウエートを占めますし、こういう数字になるのだろうと思いますが、当初考えておったよりもきわめて低い、実はこういう率直な感じを受けたわけなんです。ですから特にこの傾向というのは、非常に熱管理が進んで、技術革新が進んで、石炭の量はもちろん減って、あるいは油の量が減って、むしろ製鉄生産量が増加していく、こういう傾向なんですね。最も進んでいるところは、総合エネルギー管理をやっているのですね。非常にむだなく、エネルギーを効率よく使っている。こういうことが鉄鋼の場合非常に進んでいると私は見ているわけです。従って若干の価格の問題、ある一定期間、一年か二年の問題だと思うのですね。そういう場合、ある程度の弾力性ということは、それぞれエネルギー産業中心にしてある程度吸収するのは、そうむずかしい問題でないのではないか、このように私は考えるのですが、いかがなものでしょうか。
  91. 葦沢大義

    葦沢参考人 エネルギーコストが思ったより低いという御指摘で、普通一般にいえば相当大きなものだというようなお考えの向きには、今のような御指摘の数字の前後くらいというような、予想より少ないというお感じがなさることはごもっともだろうと思うのですが、しからば弾力性があるから、大いにそこで弾力性を発揮して受け取ったらいいじゃないかという御説もまた一つのお考えではありますけれども、鉄鋼は非常に、ほかの品物もそうでありましょうが、御承知のように国際的な商品でございまして、やはり幾らかでもコスト引き下げるという使命は、国内需要に対しましてもむろんのこと、いわんや国際商品として輸出市場において日本の輸出政策に寄与して参るというような面からも、コスト引き下げはどんな微細なものでも極力努めなければならぬし、またその要請のもとにおいて努力を重ねておるわけでございますので、一時的な弾力を発揮して大いにかぶってもいいじゃないかというような御説かとも思いますが、それはなかなか容易にできない状況でございますことを一つお含みおき願いたいと思っております。
  92. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 次に中川参考人にお伺いしたいのでありますが、大体これも所得倍増計画に基づきますと、目標年次昭和四十五年度には、日本の油の総量の半分は電力でたくということになるわけです。そこで火力発電の場合、石炭と油の問題が実はあるわけなのですが、今申し上げましたように、価格の問題については日本はものすごく神経質だと思うのです。たとえば油の価格をずっと見ますと、ヨーロッパではものすごい関税をかけて、大体一万円以下というところはほとんどないわけです。イギリスでは一万一千六百円、西ドイツでは一万一千三百円、フランスでは九千五百円、日本は自由化すれば六千円、現在国内原油は七千四百円、大体七千円ですね。そういうところに実はあるわけです。そうしますと、もちろん日本の電力多消費型産業という、こういう条件はわかりますけれども、電力料金そのものを比較しますと、国際比価で見て、むしろ小口電灯料金は高いのですが、しかし大口、小口事業用向け電力は国際的に比較すると安いわけです。これは今の原価主義の立場に立つ電気料金の立て方がこういう結果をもたらしておると思うのですけれども、そういうような面からずっと考えて参りますと、これも安いに越したことは実はないわけです。しかしエネルギーの、特に国内エネルギー源を確保してその安定に寄与するという面から見ますと、電力の料金にも関係するでしょうが、石炭をたとえば今の長期契約より五百万トンよけい使う、これを全国的に直してみるとなんぼになるかという数字を出すと、〇・〇なんぼになるわけです。そういう点で石炭が使い得ないということにはどうもならぬような気がする。しかし少しでも安い方がいいし、資金の面からいっても、石炭の方が一時的に資金も火力発電所の場合には必要とする。あるいはまたいろいろな工業が密集しておるために貯炭場、灰捨て場とか、そういう点があって、なお不利な条件があるとか、いろいろなことがあるでしょうけれども、こういうような点について、国際的なそういう比較から見てどういうものでしょうか。どうしても油が安いのだから油をどんどん使って石炭は使えないのだ、こういう積極的な立場というものは、国民経済の面から見るとちょっと理解できないところがあるのですが、いかがなものでしょうか。
  93. 中川哲郎

    中川参考人 石炭の引き取り量について始終電力業界が量をふやしたらどうだという話を受けまして、そのつどいろいろ苦慮いたしておるわけでございますが、電力料金は国際的に見て、おっしゃる通り現在は割高ではございません。しかしながら現実問題として、電気料金の引き上げということはいろいろ困難な問題を伴っておるわけであります。こういう燃料問題とは別にいたしましても、設備がふえますに従って電力コストが上がっていく現状にあります。従って私ども、どうしてコスト・アップを料金に反映させないで、しかも拡充してやっていけるかという点に最大の努力を払っておるわけでございますが、石炭を幾らでも引き取ってそれをコストに反映させればいいじゃないかというようにおっしゃられましても、簡単にお引き受けして、電気料金はそのように安直に上がっていくというふうにも考えられないわけでございます。  もう一つ実際問題として懸念されます点は、電気事業は地域的な独占ではございますが、現実に大口産業というものは自家発みたいなものが出てきておるわけであります。今後は大口産業も油をたいて自家発電をすることが計画されるわけです。従って電気事業だけが石炭を拾ってこれと競争していくという点につきましても、問題を持っているわけです。これを大口産業にはね返さないで、家庭とか小口とかいうものだけにはね返すということになりますと、よけい一般大衆に負担がかかるという問題になりますので、やはり大口でもそれぞれ自家発を持つことは自由でございますし、それから油をたくこともおそらくその場合は自由だと思いますので、電気料金としても、そういう面もあわせて考えておかなければならないと考えます。  もう一つお話に出ました欧州の石油価格が一万円以上だというようなことは、私どもも先般石油の調査団に電力業界からも参加いたしまして、欧州の個々の電力会社の、実際油をどのくらいで買っているかという点を調査いたしました。また最近、昨年の十二月には、外国の雑誌で、欧州の重油の実勢価格を調べた記事もございます。それらを見ますと、国営で油をやっておりますフランスはおっしゃるように九千円ですが、西独、イタリア、オランダ、ルクセンブルグ、こういった国は、公示価格はなるほど税を入れました場合八千円とか九千円とかになる。しかし実勢価格は、大口にはいわゆるリベートをして、石油の実際上の統制が少ないものですから、相当低い価格のところがある。イタリアあたりでも七千円以下です。西独でもおそらく六千円ぐらいの価格です。従って必ずしも日本だけが、今の六千円台あるいは七千円を割るような油が、世界的に見て少し安過ぎるじゃないかということはないように私は承知しております。それから量の問題につきましては、私どもは先々の行き方としてはそういうように考えておるわけでありますが、二千万トンの不足をしておるわけですが、これを引き取ります場合に、揚地の電力会社、東京とか中部とか関西、これはおそらく現在使っておる程度石炭は使っていく、それから産炭地の電力会社は、大体石油よりも今の石炭の方が安いわけですね。今後合理化が進めば石油もある程度下がると思いますが、石炭も下がっていく余地がある。産炭地でふえる需要に対応する電気は、ぜひ石炭をそこまで合理化した値段石油に負けることは万々ないでしょうから、そこでは需要がふえたに即応して石炭の使用量がふえて参る、こういうように考えております。これはなるべくスムーズにいってそれで二千万トンから幾らでも山元でふえます需要については石炭を使っていけば、今の五千五百万トンのベースに、一般炭の方は電力としてある程度こなし得る余地がふえていくという考えでございます。それで先般も通産省から御注文がございまして、二千万トンといわず、もし過剰炭が筑豊で出た場合は三百万トンくらい考えたらどうかというお話もございまして、もし過剰炭が出ればそのときには一つ当方で引き受けましょう、それに必要な発電所も今から用意しておきましょうということになっておるわけでありまして、総体的には高うございますが、地域的には安く使える地域もございますから、そこで使える発電用の燃料は石炭にするという趣旨で、できるだけ石炭は優先的に使うという線は、地域の実情を入れて進めて参りたいと考えております。
  94. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 現在、電力会社が九つの会社に分かれておるわけですね。私どもとして考えてみますと、国鉄の場合、北海道では年間五十億の赤字なわけです。しかし、国鉄は全国一本ですから、その点については料金はどこへ行っても同じなんですね。しかし、電気の場合は九つに分断されて、特に北海道なんかの場合には海底送電でもしない限り、たとえ技術的に可能としても問題があるわけです。実は北海道自体で解決する以外に、この料金問題は解決できないわけですね。最近電気料金の値上げによって、だいぶ会社別の格差が縮まってはきておりますけれども、しかし、まだだいぶ開きがあるわけですね。北海道、四国なんというのは一番高い方で、九州が今度上がってきた。しかし東電に比べるとずいぶん開きがあるわけです。政府は所得倍増計画に基づいて地域格差を解消して、できるだけ工場を分散する。そのために新産業都市建設促進法というような法律も実は出しておるわけです。ですから、地域格差をなくして工場を分散していく、そうして地域開発していく、こういう方針に立ちますと、どうしても電気の問題が非常に重要な問題として浮かび上がってくると私は思うのです。従って、電気料金の格差というものは、これは会社が別なんですから、まさかプールして調整するというのは困難でしょうけれども、この問題が解決されなければ、法律を作って、ある程度土地造成等、あるいは税金等の優遇措置をとったとしても、工場の分散配置などということはなかなか不可能ではないかと私は思うのです。そういう点から考えて、電気料金の地域格差の解消、こういう点については、これは会社が別なんだから、今の組織がそのまま維持される限りはやむを得ないのだということなのか、それとも、こういう点については将来検討していかなければならぬ、こういうような意思などが業界等において、今何か動きとしてあるでしょうか。もし差しつかえなければお知らせ願いたいと思います。
  95. 中川哲郎

    中川参考人 電気事業の基本形態の問題につきましては、私ども現在電力会社九つでやっておるわけでございますから、業界の中といたしましては、当然九社の体制が今までの経過その他から考えまして一応最善のものであるというように考えて、それぞれ努力しているわけでございます。電気料金も従って会社別に違うわけですが、電灯、ことに小口の定額電灯というようなものについては地域格差がないように、これは量も少なうございますから、ある程度努力して、そういう方向で行なわれております。問題は大口電力でございますが、これは会社別にそれぞれ一本の料金をとって、会社の中では地域を分けておらないわけですが、大体その会社コストを反映してきめておるわけでございます。従って、地域格差がそれぞれあるわけですが、お話にも出ましたように、水力資源がなくなって、原料が石炭あるいは重油に変わってきておる現状から考えまして、だんだん昔ほどの地域的な格差というものがなくなってきておるのが現状でございますから、そういうものをさらにプールして、工場立地等を考え政策的な料金をとる考えがあるかというお話は、私どもの中にはその話はございません。
  96. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 大口電力なんかの場合には、現在でも最高炭価で見ますと四百九円、北陸あたりが二円五十六銭、その後数字が変わったら違うと思いますが、ずいぶん違う、四割ぐらいの差があるわけです。これはもちろん業界自体として無理だと思うのですが、やはり電力の再編成の問題あるいは電気料金体系の検討というものがなかなか進まぬ状態にあるわけですね。  そこで、話は若干別になりますけれども、先ほど鉄鋼の場合にお聞きしたように、電力会社の、今日では燃料費はどうなのか。御存じの通り、水力開発がわが国の場合には非常に優先してずっと進んで参りまして、最近とみに火力発電がふえているわけですね。従って年率約一〇%程度の伸びを示しておるわけですから、それがほとんど大容量の火力発電でまかなわれる、おもに重油専焼火力発電でまかなわれていくということになりますと、燃料費が漸次上がってくると思うわけですね。これは所得倍増計画等の目標年次では、大体どのような計画で見ておるのでしょうか。
  97. 中川哲郎

    中川参考人 ここに正確な数字はございませんが、先ほども意見陳述で申し上げたのでございますが、現状におきましては、燃料費は総コストのうちで二〇%程度でございます。あと人件費がやはり十数%ございますが、そのほかは大きなものとしては資本費でございます。将来火力発電が主になって燃料費がふえるということになりました場合に、それぞれ計算したものもございますが、ここに持ち合わせはございませんが、やはり燃料費の割合はふえて参ると思います。
  98. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 もう一つお聞きしたいのですが、長期引取協定によって漸次量がふえて二千万トンになるわけですが、その場合、炭鉱側から安定的に石炭を供給する、こういうことが電力業界としては炭鉱側に要望することだろうと思うのですね。その場合に、今非常に銘柄が多くて、各会社ばらばらにそれぞれの会社に実は納炭をしておるわけですね。これは産炭地が北海道、九州であるという特殊性も実はあるわけですから、そういう意味では、特にこの電力用炭については一つの機関を設けて、そうして輸送についても共同的にやる、そうしてできるだけ経費を安くする。しかも、ある一定のストックをかかえ、安定的供給を炭鉱側としては勘考する、こういうことが常識的に考えられるわけですね。こういう点については、何か特に電力業界として炭鉱側にそういう点についての要望といいますか、希望というものがあるかないか、お伺いしたいと思います。
  99. 中川哲郎

    中川参考人 この長期引き取りを始めまして、三十六年度、本年度の上期あたりにおきまして千六百万トン受け入れよう、大体それに見合った仕事をしようということになったのですが、上期には炭労のスト等もありまして、操炭が思わしくなかったこともございます。こういうことは、一ぺんそういうことが欠けますと、その次の期でたくさん入れようといたしましても、発電所等の事情で一ぺんにはこなせないということになります。ですからある程度フラットに、安定して入れていただくということがぜひ必要なわけであります。この点は、電力業界もそういう申し入れをいたしておりますし、石炭業界も、少なくとも中小で欠けたものは大手が引き受けるという約束はいたしております。しかし現実問題としては、昨年もそういう事態があったように、電力業界としては、完全供給については若干不安がないわけではないのであります。そこで石炭業界としても、この三十七年度に入ります際に、供給をどういうふうにしてやるかということでいろいろ御検討されているように伺っているわけですが、ある程度供給の基準を確保していただいて、具体的措置について御協力いただくことはぜひお願いいたしたいと思います。なかんずく中小の分等について、非常に会社の数も多いわけですから、何か適当な方策を考えていきたいと思います。
  100. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 まことに恐縮ですが、もう一点お伺いしたいと思います。中小炭鉱の場合、これは大体同質のような炭でも、売上価格というものは大手よりも実際安いわけです。これは個別に非常に少ない量が納炭されるというような面もあるでしょうし、中小炭鉱なるがゆえに供給が非常に不安定だというような面もあるでしょう。いろいろな要素があると思うのです。しかし、中小炭鉱でも、積極的に共同化して、たとえば東電なら東電に納炭をする。中小炭鉱は共同してそういう共販体制をとる。そうして、大手と同じように供給安定等についてもそういう基盤を強化をする。こういうふうな体制ができた場合、同質の炭の場合ですが、その大手中小価格差というものをある程度買い取り側として考慮できるものでしょうか。その点についてお伺いしたいと思います。
  101. 中川哲郎

    中川参考人 大手中小の炭価の差は、現在までの経過から言いますと、非常に炭が余った場合には中小は安くて、足らぬときには非常に高くなる、こういう格好になっております。こういった長期引き取りの線が出てきますと、そういう供給状況とは関係なくいくという格好になりますので、昨年でしたか、中小石炭業者の方から、今まであった中小大手との値差についてはぜひ再検討をお願いしたいという申し入れもございました。ただ、一ぺんには是正できないのが各社の実情のようでございますが、それぞれの会社がそのお申し入れによって、ある期間をかけてそういうものを是正するように考慮されておるように承知いたしております。
  102. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 次に、中野参考人にお伺いしたいのです。実は中野参考人においで願ったのは、特に技術関係を重点にお話をお聞きしたいということで、おいでを願ったわけです。一般的に言って、ヨーロッパの炭鉱日本炭鉱条件、産炭構造からいえば、九州、北海道で、非常に遠いわけです。北海道から名古屋まで持って行くとすれば、これはドイツからフランスまで持って行くくらいの距離が実はあるわけです。そういう点で、まず産炭地が偏在している、産炭構造が根本的に違うということが、イギリスやフランスあるいは西ドイツに比べてあげられる条件だと私は思うのです。  それから第二の条件は、非常に炭層が若いために浅い。しかも、褶曲が非常に多い。従って露頭が多いから、中小炭鉱が数多く存在する条件が実はあると私は思うのです。そのことがまた大規模な炭鉱経営、経営規模の合理化という面で非常に安易に流れた傾向が過去にはあったのではないかと思います。それとさらに、炭鉱の機械化というけれども、もちろん運搬の場合には、縦坑を切って、思い切った縦路を切れば合理化はできます。しかし、採炭の機械化になりますと、急傾斜の機械化というのはなかなかむずかしいわけです。安息角の二十五度以下の炭層については機械化というのは相当思い切ってやられる。あるいは掘進とか、こういう点は機械化できるのですが、急傾斜の場合の切羽の機械化というのはなかなかむずかしいと思うのです。そうしますと、日本合理化、特に切羽の機械化というのは、ごく限られた炭鉱になると思うのです。おそらくその数は四分の一、二五%ぐらいではないかと私は思うのです。そういう点の問題が一つまた条件としてあると思うのです。  もう一つ条件は、一般炭が非常に多いわけです。歩どまりが非常に悪い。もちろんフランスやドイツにも一部にはありますけれども、総体的に見ますと日本炭鉱の歩どまりは私は低いと思うのです。たとえば尺別の炭鉱で四十トンの能率を上げ、その歩どまりは五五%。そうすると、実際機械にかかって坑外に出される量は、石炭に換算すると七十五トンくらいの能率になる。一方、羽幌や三井三池は九八%まで石炭だ。そこで四十トン上げても、歩どまり五五%で四十トンであれば、実際の労働者の稼働力なり機械の動いている効率はむしろ倍近く出てくる。この点は宿命的に改善できない体質としてあると思うのです。  そういう意味で、企業格差というものが極端に出てくるし、将来に向かって企業の格差、炭鉱条件の差というものが拡大されていくと思うのです。ですから、今の合理化方式を推し進めていくと、そういう格差がどんどん出てきて、結局条件の悪いところはやめざるを得ない。初めからの条件が違うのですから、いいところには追いつくことができないというような傾向もこれからの傾向として私ははっきりしてくるのではないかと思う。従って、日本炭鉱は、もうちょっと言葉を強めて言うと、私企業にのみゆだねておくということは、そういう条件から見て若干無理ではないか、こういう感じが実はするわけです。こういう点について、技術的に将来のきびしい合理化の展望に立って、どういう御見解でしょうか。
  103. 中野実

    中野参考人 今の非常に御専門にわたる御質問、御意見でございますが、最後の御質問は別といたしまして、前の御意見に対して、少し違うと申しますか、もう少し補足したいことがございます。と申しますのは、日本炭鉱は必ずしも浅いとは言えないわけです。もう一つ致命的な問題は、先ほどお話がありました石炭の生成年代が若いのと同時に、地質構造のスケールが非常に小さい。それともう一つは、火山国であるために褶曲というものがございまして、石炭鉱層の存在状態、自然条件というものはヨーロッパの炭鉱の比ではありません。もう一つは、産炭地と生産事業との関係でございます。かつて私、戦争中に軍需省の嘱託をしておりましたときも、それを痛感いたしたわけでございまして、何らかの形で産炭地に工業を興す方法はないかというふうに、ない知恵をしぼったわけでございますが、これまた諸般の事情でうまくいかなかったわけでございます。そんな関係からいきまして、たとえば例を北海道の芦別にとりましても、御承知のように、三井の芦別だけは非常にりっぱな炭鉱でありますが、西芦別とかその辺は非常に貧弱であるというような状態でございますので、企業を行なっております場合に、企業格差というものはその自然条件に大部分支配されてしまうということは申すまでもないことであります。  そこで、将来のあり方といたしまして機械化をする。お話に出ましたように、アメリカのまねはできないわけでございますが、ほぼ日本に近いと思われますヨーロッパ炭鉱のまねをいたしましても、そのまねそのままではうまくいかないことは当然でございます。ですから、その差をどういうことで埋めたらいいかということが問題になるのではないかと思われます。日本の国は、石炭というものがある量はどうして大事である。これは卑近な言葉で申し上げますと、石炭がないからといってアメリカから五千万トンの石炭を持ってこようとしますと、一万トンの五千倍でございますので、実際は運べないわけでございます。何とかして地元にあるものを開発したいわけであります。そういう点で、もしこれが必要であるという国策がほんとうにはっきりきまるといたしますと、その格差というものを何かの形で補てんするような国策がとられることが望ましいと思うわけであります。しかし、これは無制限というわけではございません。おのずからそこに限界があると思います。いたずらに野放しのままで置くことはいけないのではないか、こういうふうに考えている次第であります。でありますから、私企業にゆだねる云々の問題がありますが、これはいろいろ見解の違いもありますしするのですが、フランスのやっておりますような、ああいうような統制の仕方と申しますか、あるいはかつてドイツが第一次大戦のあとでやりました強力なスクラップ・ダウンの方法、ああいうような方法が先駆となって行われ、その次にさような考え方も出てくるのじゃないか。従いまして、先ほど私つまらぬ意見を申し上げましたが、そういうような国家管理と申しますか、国家があまりあと押しをするという体制は、やはり準備体制ができてからやった方がいいのじゃないか、そんなふうな考えをいたしております。
  104. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 実は合理化臨時措置法ができてから炭鉱合理化が進められて参ったのですが、山の数はあまりそう減っておらぬわけです。自治的に需要と供給の面で小さい炭鉱がどんどん許可されて、そこにものすごくふえたというような経過をたどって今日にきておるわけです。しかも、ビルド・アップする炭鉱は、五千五百万トンで、中小は規制できないから結局大手でもって生産調整をする。五千五百万トンのワクがありますから、出るところも押えてしまう。ところが、拡大生産しなければなかなかコストは下がらぬ。しかも、長期の展望に立てば、もう一時的にどうしても採炭準備までの設備投資なり機械は、将来を見越して容量等をきめて投資は先にしなければならぬ、こういう実態に炭鉱があると私は思うのです。そうなって参りますと、一方においては、能率の上がるところは押えられるわけですね。それで需要と供給のバランスをとるから、一応労働賃金中小炭鉱の場合は安い。これを切り下げて何とか営業するという、非常に不安定な状態に今日日本炭鉱というものがあるのではなかろうか、こう私は考えるわけであります。ですから、合理化政策を進める、ビルド・アップを進めていくとすれば、これは今のようなことでは何か炭鉱が中途半端な、中腰のかまえで歩かなければならぬ、こういう実態にあるのが実情ではないかと思うわけなんです。それは技術的な面から見ても、ビルド・アップできるものはやはりどんどん無制限に出させる。無制限というとちょっと語弊がありますが、しかし私はそうじゃないと思うのです。今年あたり六千百万トンくらいの一応業界の案が出ておりますけれども、実際は従来のあれから見ると、昭和三十七年度は五千七百万トンから八百万トン、思い切り出してもその程度じゃないかと思うのです。ですから、一時的に合理化を達成できる期間、三十八年度までと一応期限を切っているわけですから、その一定期間だけは若干需要政府の方もめんどうを見てつける、そういう方法でもしない限り、一方においてビルド・アップはなかなかできない。コストは下がらぬ。一方、中小炭鉱のような場合においても、そういう需要と供給のバランスの中でスクラップ化するといっても、それもなかなか思うようにいかない。今買い上げている炭鉱は黙っていてもつぶれる炭鉱なのです。もう落ちていく炭鉱です。これは一年先か半年先かということだけであって、あるいはもうすでにほとんどやめているというような、そういう山が実は買い上げの対象になっているのですね。これが一つ。どうも日本石炭合理化政策というものは不合理性なんですね。合理化政策ではなくして不合理な大きな要因を抱きかかえながら、看板は合理化だといっているのじゃないか、こういう気が私はするわけなのです。  それから、第二の問題として考えてみますと、日本炭鉱合理化をこれから進めていく、特に近代化を進めていくということが、ずいぶんいわれるわけです。しかし、今日近代化資金の貸付が行なわれて、縦坑開さくが行なわれ、あるいはまたそれに見合う期間実は坑道が切られているわけです。これは立米その他についてもずいぶん制限があるわけですね。しかし、実際問題として、今先生が言われたように、稼行炭層が二層よりない場合、あるいはまた五層も六層もある場合と、そういう条件ではこの縦坑なり坑道転換についても、規模が日本の場合には非常にいろいろなケースが出てくるのじゃないかと思うのです。ところが、一応合理化近代化資金の方は一定ワクにはめて運用しておるというところに私は問題があるのではないかと思う。虎の皮炭層のような場合と、二層よりない、極端にいえば一層くらいしかない場合では、そういう規模が当然違ってくるのではないか。だから、一がいにヨーロッパ並の大型出炭規模炭鉱に再編成するといっても、不可能ではないかと思うのです。百万トン以上の炭鉱というものはもう数が少なく、むしろ六十万トンから七十万トン程度に規模がきまってきた。こういう炭鉱の規模というものが相当数将来も増強分として残っていくと思うのです。ですから、一つのブロック別といいますか、階層別といいますか、やはりそういうようにきめがこまかでなければならぬのではなかろうか、こういう感じがするのですが、いかがですか。
  105. 中野実

    中野参考人 私は、今の合理化政策の実際のことはよくわからないのでありますけれども、実際は、筑豊炭鉱の終掘の問題で炭労の調査団の顧問のような役割を一回いたしたことがございました。その引き受けます経緯につきましても、実は炭労の方針通りの結論は必ずしも出さないが、それでよければ参加するという条件で行っております。そういうところを見ますと、日本の今までの石炭政策の中に確かに矛盾があるということを感じました。と申しますのは、一つ二つの例を申し上げますと、三菱の方城炭鉱の例でございます。これは筑豊の例でございます。この方城炭鉱では中央に斜坑を打ちまして、大いに合理化に役立たせるために、あれはたしか政府資金もいっているように思うのであります。その約七百何十メートル、あるいは八百メートルの斜坑が終わりましたときに石炭はすでになかったわけであります。そこで、これの規模を縮小するかあるいは廃山するかという問題がありまして、私はこの斜坑を打った基本的な考え方に大きな間違いがある、そういうことを痛感して、会社の方あるいは労働組合の方にも話をしたことがございました。  次に、大峰炭鉱の試掘の問題がありまして、これにも参加をいたしました。これによりますと、二回に分けまして、これを第二会社にするというような提案会社の方からあったと思うのであります。ところが、そういうような時期に至ります数年前でありますけれども、大峰には中央に大きなめくら縦坑を作っております。なおかつこれに関連しまして疏水坑道を作りまして、これが数億円の金でございました。ところが、この縦坑ができましたときに、もう山は終わりということになったわけであります。そういうような実例から直接はだに感じました結果でございますが、そういうことから判断いたしまして、当時石炭政策を策定しておるが、その石炭政策そのものがいけなかったのであるか、あるいはこれを受けて立つ業界が技術的に不十分な調査をした姿のままで縦坑開さくというものを不用意にやったか、いずれかはっきりいたしませんが、いずれにいたしましても、そういう点で非常に矛盾を感じたわけであります。これと申しますのも、先ほどお話がありましたように、炭田別、あるいは炭層の自然状態の別、あるいはブロック別、いずれでもよいわけでありますが、そういう形で、この区域につきましてはまだ将来性がある、あるいはこの区域はもうすでにだめであるというような、一つの判断が必要であろうと思います。そういう意味におきまして、現今問題になっております筑豊炭田と申しますものは、すでに昭和二十年代に終掘時期に達していると私どもは考えております。にもかかわらず、いろいろな近代化のあれを入れたわけであります。あの炭層の自然条件を見ますと、すでに東部は基盤が出ていることが明らかにわかっているのであります。これに対するボーリング等もその後やられている例が非常に多いわけであります。そういうような混乱がありましたために、石炭産業が必要以上に斜陽化したような印象を世の中に与えているのは、私は非常に残念に思っております。  そこで、そういういわば弾力性と申しますか、画一でない石炭政策がとられますと、石炭産業はさらに伸展すると思います。  それから機械化の問題も、九州地方に特有の松岩というような問題がございまして、簡単にできない面もございます。私はもう数十年前から松岩の処理法についてかなりの意見を持っておりましたが、近ごろ業界もようやくそういうことを問題にしているようでございます。この解決法につきましては、ある程度私も研究して調べておりまして、コール・カッターの自動制御までには参りませんけれども、少なくとも、一メートルくらいの深さにあります松岩の存在状態というものがわかるのではないかというような技術的な基礎ができて参りました。こういうことはヨーロッパの炭田には応用できないわけでございまして、やはり何といいますか、日本独自の採炭技術というものが生まれる必要が非常にあったわけであります。それを今までは、輸入もの輸入ものでやってきたわけでありますけれども、今の段階になりますと、すでにその限界にきておりますので、そういうような研究資金の面ということもやはり考えていかなければならぬ問題だと考えております。
  106. 岡田利春

    ○岡田(利)委員 私これで終わりますが、特に中川先生には、わが国の石炭産業がこういう状態にあるわけですから、従って石炭関係する学者の方が大いに一つ石炭政策あり方石炭産業あり方、こういう点に意見をどんどん発表することを私は期待したいし、むしろお願いを実はしたいと思うわけです。やはり今日ほどはっきりものを言わなければならぬ時期はないのじゃないかと実は思っておるわけです。この点特にお願いを申し上げておきたいと思います。  最後に中川さんと葦沢さんにお伺いしたいのは、石炭政策を進めていく場合、油と石炭ではこれは競争にならぬじゃないか、こういう感じがするわけです。千二百円炭価を引き下げてみたところで、これは比重油八千四百円に対する千二百円の引き下げで大体バランスがとれる、こういう当初の出発で千二百円のコスト・ダウンが考えられたわけです。しかし、すでにあすにも七千円台を割る、将来高くなっても七千四百円より上がることは当分ないのじゃないか、こういうような見解も実はあるわけです。そうしますと、合理化を達成しても、昭和四十年度、四十二年度になっても油と石炭価格の面で競争できる、こういうことは産炭地以外は出てこないような気がするわけです。しかし、競争をさせるという自由主義経済の立場をとると、国内資源の保護という面から西ドイツのように重油に対して二千ないし二千五百円の関税をかける、消費税をかける、そのかわり自由にやれ、こういうことが出てくるでしょうし、しかしもう石炭は競争ができないのだから、これは別途に徹底した保護措置をとるべきだ、こういう二つの行き方が常識的に考えて出てくるのですね。その場合に、需要産業として、石炭を使う側の産業として、今日のこういう趨勢の中でどちらをとることがわが国のエネルギー政策の面で正しいと思われるか、そういう点について御意見があれば、最後に承っておきたいと思うのです。
  107. 葦沢大義

    葦沢参考人 鉄鋼業から見ました石炭問題は、先ほど申し上げましたように原料炭になるわけでございまして、原料炭は輸入するものも相当ありますけれども、国内のやはり原料炭の使用ということは鉄鋼業としては考えているわけでございますから、結局油の問題もありますけれども、私どもの立場から見ますと、原料炭の価格問題は海外から輸入する石炭価格との問題が主になるわけでございます。従いまして、海外から輸入します石炭価格と同等な価格までに国内の石炭産業がいっていただいたならば、これはもうそれに越したことはないというわけでございます。しかしながら、現状ではまだ輸入炭より高い面がありますので、千二百円引き下げ目標につきましても、私ども大いに期待をいたしておるわけであります、なかなかむずかしい問題があるのであります。それにつきましては先ほど申し上げましたように、どっちかというお話であれば、私どもはそういう線に向かってやはり徹底的に保護助成というような政府の手を加えられることが期待されるのでございます。  一般炭の使用は若干はいたしておるわけでありますが、そういう面につきましては、これは一般炭の解決がやはり原料炭の価格に影響いたしますわけでありますから、私どもも全然それに関係ないという立場ではありませんけれども、間接的な関係になってくるということを一つ承知願いたいと思います。従って、重油との関係におきましても、やはりとにかく必要な国内資源でございますから、これが安定した、最近いろいろいわれますような低位な供給が確保できる、これは業界みずから日ごろ努力いたしていることは承知いたしておりますが、業界みずからの努力でまかなえない点については、やはり政府が徹底的に保護助成と申しますか、支援体制をおしきになることを私どもは切にお願いしたいという気持であります。
  108. 中川哲郎

    中川参考人 電力事業の関係で申しましても、先ほど御質問のありました、現状において税をかけて自由に競争させるという案と、石炭価格で重油との競争ができないことを前提にして、政府が徹底した保護をすべきであるという点につきましては、私の考えとしましては、現状においては自由競争に持っていくことは無理であると思います。高いことを承知して、ある部分は引き取りまして、将来は自由競争のベースに持っていくという考えでありまして、お尋ねの中のいずれか一つに今該当するかどうか知りませんが、やはりわれわれは暫定的な措置として石炭は引き取る。こういうことでありまして、高いものをなぜ引き取るんだということに対しましては、将来は合理化を徹底することによって油と競争し得ることが可能である。そこまでの努力をされると思いますので、関係業界はその合理化の線に協力して石炭を引き取りましょうという建前で進んでおるのでありまして、そのかわり油その他石炭以外の燃料は関税とか消費税をかけるということは、結局は全体のエネルギーコストを高めるからやめていただきたい、というのがわれわれの主張であります。
  109. 有田喜一

    有田委員長 中村重光君。
  110. 中村重光

    中村(重)委員 時間の制約がありますから、保安の権威者でいらっしゃる中野参考人に保安の問題に関して二、三お尋ねしてみたいと思います。  御承知通りに、昨年来から特に炭鉱の相次ぐ災害がありまして、昨日も杵島炭鉱で落盤事故を起こしました。私どもも現地に参りまして実情を見て感じたわけなんですが、いろいろ原因もあるわけですが、その中の大きな誘因と見られるのは炭鉱の作業の形態、斤先掘りであるとか、あるいは坑内の作業といったようなことが組夫による請負制であってみたり、あるいは斤先掘りは五年間という期限が限られておる。そういったようなことが、ともすると保安ということよりも生産ということにウエートがかかってきて、乱掘になっている。そういったようなことが炭鉱の事故というものの大きな要素になっている。従って、保安上好ましいことでないと感ずるのでありますが、中央鉱山保安協議会の委員でいらっしゃる中野参考人としては、これらに対してはどのようにお考えになりますか。お考えを承りたいと思います。
  111. 中野実

    中野参考人 ただいま保安問題を伺いまして、適切なお答えになるかどうかわかりませんが、一言述べさせていただきます。  炭鉱保安問題は、御承知通り昭和二十四年に鉱山保安法が改正と申しますか、策定されまして、そのころから目に見えてよくなったような感じを受けておったわけでございます。その後十年以上たちました現在におきまして、死傷者等の傾向を見てみますと、一たん下がったものがまた上がりぎみと申しますか、保安法制定以来十四、五年たちまして、いろいろないきさつがありましたにもかかわらず、中だるみをしているというような感じが私自身としてはいたしているのであります。  ところで、この保安の成績を上げるためにはどうしたらいいかということで、先般来衆参両院の決議なんかをいただいたりしまして、保安法改正云々のことをやっているわけで、私もその一人でやっているわけでありますが、どうも法律の改正、規則の改正のみで保安が確保できるというばかりにもいかぬ節があることを認めております。しからばどうしたらいいかということになるわけでありますが、むろん正当な保安教育を受けました鉱山労働者が就業している限りにおいては問題は少ないはずでございますけれども、なおかつ出る。いわんや組夫、請負夫等の方法でやりましたときはさらに不安であろうという考えは当然のことだと思います。ただ、これを私ども技術の立場から見まして統計的に調べようと思いますと、残念ながらなかなかうまい統計の答えが出て参らないわけでございます。これは御承知のように、災害にあいまして死亡しました者の中の鉱山労働者の内訳が、組夫が幾人、直轄夫が幾人ということを数えてみましても、災害の原因の端緒を作ったものはどれであるかということは現状では統計上は出て参りませんような状態で、その点で私は相当不満を持っているわけでございます。いずれにしても、考え方といたしましては、十分な保安教育を受けない者がタッチするような組夫その他につきましては、確かに保安上の精神的な危険性、不安性というものがかなりあることは当然なことでございまして、御指摘の通りでございます。でありますので、でき得るならばこういうものはなるべく坑内に入らないようにしてもらいたいというのが、これは私を含めました多くの方々の意見ではないかと思います。  そこで、そういうような体制を作るために、請負制度やなんかにつきまして、もうせんだって来いろいろな討議をしたことがございますけれども、これも現状では請負の組夫の質の吟味とかそういうようなことについて厳格な規定を設けるわけにいかないので、届出によってその実態を調べるという程度にまでしか進められないというのが現況であろうかと思います。そんなことでございまして、ともかく整然とした保安教育を受けた鉱山労働者を坑内に送るような形にして保安を確保することが一番いいのではないか。  もう一つは、今保安機構というものが、制度の上でも形式の上でも十分確立しているわけでございますが、保安管理制度そのものの確立だけでは災害は防げない。と申しますのは、末端になる第一線の人の数が少ない。保安係員の数が少ないとやはり保安は確保できないのではないか。現に大学を出まして現場係員の見習いをやりまして係員になるわけでございますけれども、私の教え子が数多く炭鉱の現場に行っております。そういう大学を出てから数年の人の話を聞きますと、どうもいろんな仕事が多いためになかなか目が届かないというようなことを聞いているわけでございます。大学を出るとか、そういう資格は別にいたしまして、現場のそういうような保安の係員、現実に保安を見る係員の数がもしふえますと、目の届くところに災害は起こらないわけでございまして、こういう点を強化することによりまして保安を確保できると思っております。  もう一つ、先ほど杵島炭鉱の例がございましたけれども、集中災害というものが時たま起こるわけであります。これは保安技術の進歩によりましてある程度防ぎ得るような体制になっております。ところが、先ほど申し上げました集中災害は、ガス爆発、出火、出水とかいうことでございまして、突如起こることでありますが、落盤災害と申しますのは、実は何年たっても全体の災害の中で比率がほとんど変わらない性質の災害でございます。もしも炭鉱保安を全面的に考えまして向上させるといたしますと、たとえば特殊災害、つまり炭鉱でなければ起こらないような災害の率をかりに二、三割下げることによりましてかなり保安を確保できる。こういう点から申しますと、落盤事故の防止に対するいろいろな調査研究を強力に推進することがかなり有効ではないかと思います。
  112. 中村重光

    中村(重)委員 御意見の点は同感できる点が非常に多いわけなんです。そこで、保安の問題を現実の問題として私たちが今考えてみると、私企業として経営者に保安問題をゆだねて、ただ監督行政だけで国が保安を維持していくという行き方は、保安をほんとうに守っていくという炭鉱におきましてはそうした災害を抑制する形にはいかない。従って、保安法の第一条の目的、あるいは第三条の保安の定義、労働者の危害防止、人命尊重という立場からしまして、この保安の責任は国が持つということが必要じゃないか。具体的には監督の強化というものもありましょうし、あるいはまた大辻炭鉱あるいは上清炭鉱等で私たちが感じたことなんですが、消火器もないとか、あるいは計算機もないとか、保安に必要な機械器具が中小炭鉱には特に整っていないわけです。訓練の問題もありますけれども、そういうことがあのような災害を発生し、さらには救援作業に行った者までも殉職をさせるというような危険を拡大していた、こういった事実に現われてきている。そういうことから、どうしても国が責任を持って保安はやるのだ、そういうことを制度化していくことでなければならないのではないか。そうした感じを私は強く持つわけなんですが、それらの点に対しての考え方はどうでしょう。
  113. 中野実

    中野参考人 ただいまの御意見について私の意見を述べさせていただきます。  国が責任を持つ限界というものがおのずから出てくるような感じを受けるのでございます。私ども法律的にはしろうとで、わかりませんが、現状におきましては、その点で国が最終の保安の責任を持つということは不可能に近いのではないかという気がいたしますが、いかがでございますか。  それからもう一つ保安確保のためには、今の法律によりますと、鉱業権者が全部責任を負うということでございますが、鉱業権者は最終責任は負いますけれども、実際は現場を担当している者が保安に熱心でなければならないわけでございます。そこで、その係員、保安管理者等が体制が整っておりまして保安が確保されるという形になるのでございます。先般保安法改正等の審議をしております間におきましても痛感いたしましたが、この鉱山労働者に対して——鉱山労働者というのは保安法では鉱山表も含めているようでございますが、私の申しますのは従来の常識的な考え方の鉱山労働者でございます。——その鉱山労働者には責任を持たせられていないような組み立てになっておるのが、保安法でございます。そこで、技術職員あるいは事務職員、経営者側から言わせますと、鉱山労働者は自分の勝手なことをやっていて責任だけを私が背負わされてつまらぬ、そうでない場合は保安闘争をするからつまらぬ、そういうようなことをよく聞くわけでございます。そういう形でなくて、労使保安のために一致協力できる形がどこかにないかというふうにかねてから考えていたわけでございますが、幸いにも今度の改正によりまして、山元の保安委員会というものがかなり強化される形になりました。そこで、私の念願とするところでありますけれども、山の職員と鉱山労働者とがその保安委員会の場を通しまして、率直に保安上の問題を討議し、将来災害のないようにするにはどうしたらいいかというふうに熱心にそれを進めていくというような行政指導をとりますれば、これは必ずうまくいくのではないか。つまり、保安委員会でろくに話をしないで、それを中央の交渉に持っていくという姿であっては、いかにも闘争一本やりになってしまいます。それを小出しにするのが保安委員会だ。保安委員会で大部分の問題は解決してしまう、そういうような形をとりますと、すべてがうまくいくのではないか。これも今回経営者の方が抵抗がかなりあったように伺いますが、一応それが軌道に乗ったような形をとりつつあるように聞いております。そういう点で、保安確保が一段とよくなるのではないかと私は考えております。従いまして、国が、鉱山保安局長が日本全体の炭鉱保安の責任を持つということは、常識的にも考えられないことだと思いますが、その点御容赦願いますが、私は反対でございます。
  114. 中村重光

    中村(重)委員 この保安も、炭鉱が地下産業であるということと、そういった特異な産業形態の中から問題が出てくると私は思うのです。もうそれも大手になりますと、保安という問題が、労使関係、力関係もありまして、実にうまくいっている。まあ、うまくということになりますと、それも限度がありましょうが、比較的よくいっている。しかし、中小炭鉱は、現在置かれている石炭産業の問題点としてのこともあろうかと思うのでありますけれども、とかく生産ということが第一になっておると思うのです。保安というものが第二義に扱われておるわけなんです。このことは、先ほどおっしゃったように、もう条文の問題というようなことよりも、この保安のポイントというもの、やはり心がまえということですが、そういうものです。まあ私どもは、先般の国会決議で保安思想の高揚ということを実は決議の中に入れた。そういうことがどうしても必要になって参ります。やはり石炭産業が苦しいということになって参りますと、訓練が徹底しないということと相待って、保安というものがどうしても第二義的に扱われてくる。特に零細な炭鉱になって参りますと、監督官の検査というものもてんで行なわれていないというようなこと。あるいは行なわれているところでも、うっかり検査にひっかかって鉱業の停止を受けるといったようなことになったら直ちに生活の問題が起こってくるというような問題が、これは経営者も労働者もそうした不安というものがなきにしもあらず。そういうことを考えてみると、どうしても国がそうした特異な中小炭鉱に対しては、むしろ大手炭鉱と違った取り扱いを保安上はしていかなければならぬのじゃないか。国が何らかの形でもっと責任を持つ。人命尊重の立場で、形式にとらわれることなく、機械器具などは国が貸し付けるのだといったこと、あるいは教育訓練ももっと国が積極的に責任を持った形でこれをやっていくということにしなければならないのじゃないか、そういったような感じを持つわけです。いろいろと中間答申をお出しになるについてもそれらについての検討というものがあったと思うのですが、そうした点に対しての考え方はどうですか。
  115. 中野実

    中野参考人 大手中小と分けることの当否は別といたしまして、大規模の炭鉱におきましては、技術職員その他がそろっておりますので、御承知通りでございますが、中小と申しましても、その小の方、いわば零細な方におきましては、私も昨年来の金詰まり炭鉱で破産する炭鉱の状況を見に行ったこともございますので、二、三その実例を知っておる程度でございますけれども、確かに保安の面よりも石炭を掘って売るよりほか考えられないというのが実情のように思います。そういう場合におきまして、先ほど私が申し上げたことをちょっと取り消すというか、変更しなければならないのでございますけれども、責任を持つということは、つまり手厚い指導をするということにいたしますればかなりいいんじゃないか。現に保安指導員制度とかなんとかいうものがあるようでございまして、これである程度中小炭鉱保安というものが少し整備されているようにも聞いております。実際手の届くような指導がされているとは私自身も考えておりませんので、その点につきまして、鉱山保安法でございますか、ああいうものをもっと効果的にいたしますれば、保安の点は確かに御説の通りよく参ることは間違いないと思うのでございます。
  116. 中村重光

    中村(重)委員 行政のあり方について御意見を伺ってみたいと思います。通産省が生産面、それから保安、ともにこれを担当していくというあり方一つの問題。やはり生産と保安というものは、どうしても相対立する形というものは私は出てくると思う。現実に施業案なんかの許可認可あるいは変更といったような場合に対して、通商産業局長と鉱山保安部長が話し合いをしなければならぬ、あるいは鉱山保安部長、監督部長の方から取り消しを命じるとか、いろいろなことがあります。やはり同じく通産省の中、いわゆる内輪であるということになりまして、どうしてもルーズになるということが避けられない。そういうことから、この保安関係労働省の方へ所管がえをするということの方が好ましいのじゃないか、そういった議論をしたことがあるのですが、私はそういったような考え方も持つわけなんです。これらの点に対する御意見はいかがでありますか。
  117. 中野実

    中野参考人 せんだって保安法改正のときに、鉱山保安局が各界からの意見を求められたようでございますが、その中に、日本炭鉱労働組合、それから全国石炭鉱業労働組合その他の組合の関係は、労働省に移管すべきであるということが書いてございました。私としては、別に労働省とか通産省とかいう既成のワクにちっともこだわっておりません。私の保安に対する考え方は、最高度の保安、安全な状態で生産するのを正常な生産と考えております。ですから、その安全状態が最高度でなくして、どんどん下がってくる状態の生産は、これは正しい生産ではないということに判断をしておりますし、私が大学院で担当しております鉱山保安学の講座におきましても、保安の原理というものは最高の安全水準における生産の形、まあそういうふうな論説を展開しているわけでございます。そういう点から申しますと、今のような御指摘とはいささか違う形になるので、生産と保安とは車の両輪という考え方とも違うわけでございます。そんな形で参りますから、これはどこが所管しようが、私個人の考えとしてはどこでもけっこうでございます。結局、保安が確保されさえすればいいと思います。  そこで、今現状の問題として考えてみますと、通産省にはその生産関係保安関係の技術関係の技官、監督官等がそろっておるわけでございますね。ですから、まあなれ合いになるというのは、これは私は一応知らないことにして理論を展開していきたいと思いますが、そういうことでない限りにおきましては、その中にあって互いに切瑳琢磨ではありませんが、がくがくの議論をして、最高の生産水準をきめていくということはいい形だと思っております。もしかりに労働省に鉱山局、炭鉱局等がありまして、そういう技術陣容がそろっておりまして、そういう判断力を持つ陣容があるといたしますれば、そこに保安のものを突っ込んでいっても一向かまわないと思っております。これは炭鉱、鉱山だけでなくて、労働関係では労働基準といたしまして、炭鉱、鉱山以外の全産業の安全のあれも考えておるようです。これも私はけっこうだと思うのですが、ただ安全だけを取り離して考えるということは、かなり危険性があると思います。その点につきましては、そういうものが一体となっておる方が、今のなれ合いの点をはずしますれば非常にスムーズにいくと考えております。従いまして、労働省、通産省というような既成概念で申しますと、そういう陣容の案であれば労働省に持っていっても一向かまわない、そういう意見であります。
  118. 中村重光

    中村(重)委員 確かに相対立してはならないのだし、対立することは好ましいことではないと思います。何といっても人命というものが一番大事であります。これの保護なくしては生産というものも問題にならないわけであります。その考え方としては異論がないわけでありますが、現実の問題としてなかなか問題があるので、実は申し上げたわけであります。  それから、実は条文を見まして、非常に省令委任事項というのが鉱山保安法には多いのですね。これを審議されるにあたって、整理する必要があるというふうには考えないか。とにかく省令であっても当然命令事項になって参る、あるいは勧告事項になりますが、それらが多過ぎるということは、どうしても保安に努力するという点が劣ってくるのではないか。やはり法定化するということ、中間答申も見ましたが、相当法定化することに対して強く要求しておられる面もあるわけであります。残念ながら、今度出ました案の中には、そのことに対しての是正というものが比較的少ないというふうに感じるわけですが、それらの点に対してのお考え方はいかがでありましょう。
  119. 中野実

    中野参考人 鉱山保安法は、法的ないろいろ重要なことが含まれておりますと同時に、非常に技術面に関したことが多いわけであります。もしも鉱山保安法以外の法律と対照いたしまして差しつかえないということであれば、鉱山保安法の中に技術面、こまかい面に関連したことを相当入れてもかまわないじゃないかという気持はいたします。ところが、かりに鉱山保安局の管理課長その他の法律専門家の意見を聞きますと、法の体裁としてはそういうものではなくて、大まかなことを法文の上に入れて、その他を省令、政令で定めることにしたいというのが法文のあり方のように伺ったものでありますから、しからばそういうことでもよかろうということにもなりました。  一面、これは強さを弱めるというお考えなんでしょうか、そういうふうに解釈されるとしますと、鉱山保安現状に照らしますと、石炭鉱山保安規則、金属鉱山保安規則というようなものでもかなり効果があるのではないかという考え方でおりますが、今後保安法を審議していく上で、今のお話はかなり私としても参考になることでございまして、そういうことで抜本的に一つ考えてみたいと思っておるわけですが、結果が抜本的になるかどうかはわかりません。と申しますのは、今の保安法がいかにもみごとにできておりますので、これを抜本的にやっておりますと、あの数字をみんなはずすような結果になりまして、かえって現場に悪い影響が出るのじゃないかと思いますので、抜本的なあれは残念ながら私は不可能ではないかと思います。
  120. 中村重光

    中村(重)委員 御意見のように、鉱業法につきましても、鉱山保安法にしても、法体系としては実にりっぱな法律ができておる、これはこれから先も大いに政治問題として議論をして参りたいと思います。
  121. 有田喜一

  122. 始関伊平

    始関委員 時間がおそくなりましたので、きわめて簡単にお尋ねいたしますから、御答弁の方もイエスかノーかという程度にお答え願いたいと思います。  最初に中野先生にお尋ねいたします。先ほどのあなたの参考意見で、石炭鉱業安定法の方については、こういうぎょうぎょうしい法案というものを世間の世論がすなおに受け取るであろうかというような点、それから四十七条でしたか、コストの高い山には調節という形で政府考える、これは生産意欲といいますか、合理化意欲を阻害するものではないかというような点を御指摘になりまして、いわば批判的な見解をお述べになってのであります。  もう一つ雇用安定法の方ですが、これにつきましては趣旨としては賛成だということをおっしゃったと思いますが、そのあとに聞きました説明を伺いますと、たとえば三条と四条が矛盾するのだということを御指摘になった。しかし、これは提案者の頭からいいますと、矛盾でも何でもないのであって、会社の技術という立場、あるいは会社の経理という立場からいえば、別の観点から無理でも何でもしばらくそこにつながしておこう、そのために必要があれば国から金を補給してやろう、こういう趣旨ですから、矛盾ではないのです。これを矛盾だとおっしゃるのは、この法案の趣旨にむしろ賛成しないということになると思います。  全体のお話を通じて、たとえば今度の予算でも、離職者の再雇用促進というような点について相当大きな意見を述べておるわけでありますが、そういう点を重視するとおっしゃったので、全体としての国民経済的な視野といいますか、そういう意味での雇用の安定ということを御主張になったのですから、そういう意味からいうと、この法案の趣旨にはむしろ賛成いたしかねるのだ、そういうふうに私は受け取れましたが、その点はいかがですか。
  123. 中野実

    中野参考人 提案理由の説明というところを読みますと、この説明の趣旨は、二、三批判する余地もありますが、まことに賛成であります。ところが、法そのものを見ますと、この趣旨に必ずしも合致していない面もあるというように私は判断いたしましたので、この法案提案の趣旨に沿うように改めた方がよいだろうという意見を述べたわけであります。ですから、結論から申しますと、この法案そのものについては不賛成ということになるかもしれません。しかし、提案理由のこれを読みますと非常に賛成せざるを得ない。これはどなたも賛成じゃないかと思います。そういうことで、この立法技術とかそういう内容が私の意見と違うところがある、しかも雇用関係につきましてかえってマイナスになる点がある、そういうように考えております。
  124. 始関伊平

    始関委員 もう一つ伺います。先ほどの岡田君の質問とも関連するわけでありますが、日本炭鉱のいろいろな実質的な条件を勘案して、これはアメリカと比較するのはとても無理ですが、ヨーロッパの水準には到達できるのじゃないか、こういう見解があります。それはこの前に石炭協会の萩原会長が来てそう言ったのでありますが、つまりいつからできるという日時の問題は期限が切れない、また合理化資金とかいろいろなほかの条件があるけれども、ヨーロッパ諸国は大体一日で坑内労働者一方当たり二トン内外、これは運賃とかコストは除外して生産能率だけについていうと、いろいろな条件があるけれども、その辺まで行けるだろう、こういうような石炭協会会長の御発言があったのであります。これはこまかい点を伺っておると時間がなくなりますので、大局論としてどういうような判断をしていらっしゃいますか。
  125. 中野実

    中野参考人 非常に重大な問題を投げかけて参られましたが、私は私なりの見解を申し上げます。  石炭協会会長意見は、ある意味で妥当性があると思うのでございますが、かりに日本石炭鉱業状態を、ヨーロッパ、あるいはドイツですか、そういうものとまず自然の条件の形で比べてみますと、御承知のように向こうの方はかなり深いわけでございます。日本もだんだんそれに到達して参りまして、大体ほぼ似たような地上からの深さあるいは水底からの深さになってくると思います。その点については、ほぼ同様でございます。ところが、ここに重大な違いがヨーロッパ炭鉱日本炭鉱の間にございます。ことに日本の西部、九州地区と申しますか、この辺のところにあることがわかるのでございます。と申しますのは、ドイツ、フランスでは千メートルの縦坑を掘りまして、坑内に入気をいたしましたときに、坑内の温度は十数度で済むわけでございます。ところが、日本のたとえば高島あるいは大島でありますか、あの辺の九州地区の炭田で千メートルの縦坑を掘りますと、その入気の温度は夏におきましては二十八度、冬におきましても二十度をこえるわけでございます。これが坑内の環境に及ぼす影響は非常に大きなわけでございます。坑内の環境条件からの比較からいいますと、ドイツでかりに千五百メートルの縦坑で採炭が可能であっても、日本の環境条件下においては千五百メートルというものはとうていいけない。あるいは八百メートルくらいで環境条件の限界にきておるのではないか。その環境条件を克服いたしますためには、エア・コンディショニングその他の施設をしなければならない。そこにコスト上の差が出てくるわけでございます。萩原石炭協会会長の御指摘は、おそらく北海道の地区においてはその可能性があろうというふうに環境条件的に考えられるわけであります。御承知のように、坑内の気温は、北海道におきましては平均十九度から十七度の間でございます。それなれば、千五百メートルくらいの縦坑を掘りましても、ほぼドイツと同じような環境条件で仕事ができるわけでございますから、この点に関する違いがございます。あとの面につきましては、まだいろいろありましょうが、やはりそういう点で、入気の温度というものを十分考えてやらなければならない。御承知のように、高島炭鉱の九百六十メートルの坑底の温度が六十度でございまして、とうてい人の働ける状況ではございません。
  126. 始関伊平

    始関委員 今度は中川さんにお尋ねいたします。二、三問題があるのです。  最初の点は、いわゆる自由化になりますと、電力会社が重油の生だきをやろうというお話がある。これは技術的に若干難点があるように聞いておりますけれども、技術的の問題は遠からず解決するという前提に立てば、自由化の精神、それからもう一つ、先ほどからのお話のように、電力会社としては経費の節減ということから考えて、安い燃料を獲得することが非常に重要だというような点からいって、当然これをやるようにお考えになるだろうと思います。まだこれは先ほどの陳述のような、協会でまとめた意見ではなくてもけっこうですが、見込みとしてどうですか。
  127. 中川哲郎

    中川参考人 重油の生だきだけは通産省の御了解を得て、すでに試験を始めたところでございまして、試験の結果、それを実際に実用化したい希望は持っております。しかし、石油業法でできる審議会ですか、そこで各方面と十分話し合って、実施する度合なり、どういう幅で実施するか、こういう問題はよく御相談の上きめませんと、電気協会だけの意見でするわけにもいかないと思います。
  128. 始関伊平

    始関委員 その次の問題は、ちょっと妙にとられるかもしれませんが、今度の国会で原油関税が変わりますね。大体キロリットル当たり五百三十円になる。従前は三百十円で、二百二十円上がるわけございます。つまり四〇%に当たる分が上がるわけなんです。しかし、これは電力会社その他石炭の長期取引をしたところには増徴分は割り戻す、こういう制度になっております。これは重油に換算してどうなるかわかりませんが、そういうことになる。  そこで、お尋ねしたいのは、さっきからお話しのように、電力会社としては石炭価格、それから重油の価格、さらに将来生だきが始まれば生だきの価格、こういう価格のバランスの問題に非常に神経過敏になっておられる。これは電力会社としては当然だと思いますが、私の見通しとしては、今のように重油なり石油がどんどん下がっていくということでは、とうてい総合エネルギー対策というものが成り立たない。今の二百十円というのが千円になるか二千円になるか、日本でもそうせざるを得ないというように、これは個人の見解ですが、考えております。  そこで、先行き大きな問題にもなると思いますが、あなたの方では、たとえば石炭と重油の価格の比較を考える場合に、どっちの価格考えるか。重油の税のかけられた価格と、石炭価格を比較するのか。あるいはそれはかからなかったものとして計算するのですか。どちらですか。
  129. 中川哲郎

    中川参考人 税の今回の増徴分は一応割り戻しということになっておりますので、かからないものとして計算する。これはもちろん状況によりますが、現実の問題としてはかからないものとして計算をするわけでございます。
  130. 始関伊平

    始関委員 電気協会がそういう考えであれば、これは私個人の見解でありますが、今回の措置には反対せざるを得ないと思います。というのは、これは石炭政策のために必要な財源を得るというのは、価格のバランスをできるだけ縮めよう、こういう意味がありますから、私はその点の見解だけを申し上げて、ここで議論を申し上げても仕方がありませんから、一つお聞き取り願っておきます。  もう一つ、これは前にあなたと個人的に議論した点でありますが、さっきからのお話で、千二百円引き下げの過程においては、石炭が割高であってもがまんする。高いものでも引き取るが、最終的には裸の自由価格、あるいは原油が出てくれば、原油と競争のできる価格まで石炭の値下げがされることを期待する、こういうことですね。この点は、実はこの前の国会電気事業連合会の会長の太田垣さんがこられて、非常にはっきりした見解を述べられた。きょうのあなたの見解も同じですから間違いないと思いますが、もう一ぺん確認したいと思います。
  131. 中川哲郎

    中川参考人 私ども石炭協会と長期引き取りの申し合わせをした際、そういうことが前提で申し合わせをしたのでありまして、将来千二百円引き下げて原油と競争できるとは考えておりませんが、十年先ですか十五年先ですか、本来のエネルギーはすべて自由競争が骨子である。石炭もそういうものを目標に合理化を進めていかなければならぬ。それまでの過渡的な期間において重油より割高でございましても、電気はそれを引き取って、側面から合理化の推進に協力しなければならぬ。あわてて競争々々とは言いません、そういう趣旨でいきたいと考えております。
  132. 始関伊平

    始関委員 電気協会の非常にはっきりした御意見を伺いましたが、実はそれでは困るのです。時間があれば、中野さんの意見をもう一ぺん伺ってもいいのですが、石炭というものは、ヨーロッパでも、生産能率が多少上がってもコストは下らない。日本では、まだまだ、幸か不幸か非常にだらしのない経営をやっておりますから、能率も上がり、コストも下がる余地がありますが、(笑声)大体底にいく。その底というのは、千二百円プラス・アルファということで、このアルファというのは、非常に小さいものだろう。これは中野先生に伺ってもその通りお答えだろうと思いますが、そういうことなんですよ。ですから、石油価格を一方野放しにして今度は——私どもは今度の石油業法を手がかりにしてある程度の市場の安定をはかりたい。そうでなければ石油精製業者も非常に困る。いわゆる日本石油精製業の植民地化がますます進んで、石炭にも迷惑が及ぶようなことになるので、したいと思いますが、それができなければ、やはり関税でもかけてバランスをとらなきゃいかぬ。そのように、私どもいろいろ聞いた結果、総合エネルギー政策は成り立たぬ。ただ、そこにもう一つ別の考えがある。それは、私企業だとおっしゃるが、多少公益性を持った企業として電力事業というものでプール計算をしたらどうか。安い重油と、あるいは生だきの場合にはもっと安い原油ですね、それと高い石炭をあなたの会社で、というか、電力会社のところでプール計算したらどうかという、非常に権威ある筋の一つの構想があるのですが、御所見はいかがですか。
  133. 中川哲郎

    中川参考人 現実問題として、重油と石炭価格差のあるのはお説の通りでございます。ただ、それを今からあまりそう先はしって割り切って——どうせ価格差は消すわけにいかないからプール計算とかなんとかいう御議論も出ると思うのです。もう少し長い将来を考えた場合に、電気の方も今の価格差というものは、地域を分けますと、さっきもお話ししたように、やはり産炭地と揚地では相当違うし、従って競争価格もそこの場合に違うわけです。従って、競争できる地区では石炭需要というものは伸びるわけですから、そう価格差が現に揚地であるものだけで議論されないでも、石炭需要の問題は十年、十五年先には解決し得る道もあると思うのです。それの間の、要するに電気で使う量のテンポと石炭の出炭量のテンポとがかち合わない場合に、価格差のあるものを承知電気界が引き取るか、あるいはどうするかという問題の処理になるのです。これはやや長期的な問題になるので、今的確にどうだこうだと言うことは、われわれできないわけです。われわれの希望は、プール計算とおっしゃいましたそういう思想で、電力全体として高い石炭をある量はいただいて、それから足らない量について石油を安く使う、いわゆるプール計算の思想といえば思想が入るわけです。それが二千万トンであるか、二千五百万トンであるか、三千万トンであるかという問題になってくるわけですから、気持はそういう気持で、御協力申し上げているのでございます。
  134. 始関伊平

    始関委員 いや、十年、十五年先ではなくて、とにかく佐藤通産大臣はこの委員会に来て非常にはっきりと、千二百円引き下げは必ずやる、しかし、もうそこでおしまいだと、こう言うんですよ。そこでおしまいだという意味は、三年なり四年なり先にはそうなるわけですね。十年、十五年先ではなくて、三年、四年先なんですが、その際には重油と競争させないのだ、こういう表現をしておられる。その意味を私は三、四日中に石油業法の審議の際によく聞いてみたいと思っておるのです。競争させないという意味は、端的に言いますと、つまり高いものをあなたの方に押しつけるといいますか、そういうことなんだ。ところが、あなたの方で反対だということになると——反対ですか。それはいかがですか。
  135. 中川哲郎

    中川参考人 私どもと石炭業界との申し合わせは、四十二年まで、しかも千二百円引きということでお約束したので、それまでの数量なり値段はお約束通りやっていただきたいと思っております。四十二年から先の問題は、当時、五年先の問題だから、その先までは私の方も今からお約束できませんし、向こうもできないという格好で、四十二年まできめてあるわけです。おそらくそれは、現実問題としては、四十二年から全然もう自由競争でなければ電気石炭を引き取らぬということまでは、私どもきめておるわけではございません。四十二年前後において、また石炭見通しなり状況なりをよく検討しまして、お互いに相談してきめていく筋合いのものだと思います。
  136. 始関伊平

    始関委員 四、五年先の話だから、しかもいやな問題だから、あまりはっきりさせぬでおこうじゃないかというのは、佐藤通産大臣は大体そんな考えなんです。今の石炭の問題は、先行きをはっきりさしていくという意味からは非常に重大な問題なので、大臣によく尋ねますから、一つ電力業界矛盾のないように、できたら調整をはかっておいていただきたい。これで終わります。
  137. 有田喜一

  138. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 中野先生にお尋ねします。実はスクラップ・アンド・ビルドと言われておりますけれども、スクラップばかりやらしてビルドがないというのは、先ほども午前中に労働組合の方々から指摘があったことです。私も事実そう思います。ところが、ビルドといっても、今まである炭鉱を増強するいわゆる増強群は私はいけると思いますけれども、新鉱開発というような新しい大企業というものは今後あまり興らないんじゃないか。経済情勢からいってまた興るような情勢にない。早い話が、今開発するのにトン一万二、三千円するようですけれども、百万トンの山を作るとすると百二十億ぐらい要るわけです。これがまた一、二年間に百二十億投ずればできるしろものでない。かなり懐妊期間が長い。そうすると、コスト金利だけでも相当のコストになるわけです。そうして百二、三十億投じましても、百万トンにして、四千円にして年間四十億ですね。四十億になるまでにはかなりの期間がかかる。これに金利を払って炭鉱業が成り立つだろうか。今からの炭鉱業ですよ。私はこういう疑問に逢着せざるを得ないのです。今各会社の姿勢を見ますと、金があったらそんなところを開発しないで別な仕事をやりたいというような状態が確かに見受けられる。そこで、どうしても将来スクラップをどんどんやるならば、新しい炭鉱というものを作るとするならば、何か制度的に考えてやらなければならないんじゃないか、こう考えて、実は石油資源開発株式会社や電源開発株式会社のまねをしたと言えばおかしいのですけれども、石炭開発株式会社というのを作って、現在持っておられる鉱業権者の鉱区を現物出資をしてもらってやる以外には方法がないのではないか、こういう構想から出ているわけですよ。これについてどういうようにお考えであるか。  まず第一には、金利のかかる金を使って新しい炭鉱ができるかどうか。第二には、制度的にするならばどういう解決方法があるか。この二点をお聞かせ願いたいと思います。
  139. 中野実

    中野参考人 技術面も含めておるようでございますが、御質問の趣旨は経営面を含めておられますので、いささか暴論になるかと思いますが、御容赦を願います。  まず第一点の新しい炭田の開発でございます。これは御承知のように、通常の市中銀行でなくても、特別の金利をもってやるといたしましても、企業というものは相当膨大な資金を要しまして、ほかの仕事に比べてそろばんに合うというふうには参らないと思います。そこで、現状の既設の炭鉱を生産拡大していく方向をとるわけでございますが、これは日本の場合でも、特定な地域をきめますとこの可能性はかなりあるわけでございます。ところが、未開発炭田は、大きな炭田の形からいいますと天北以外にはございません、御承知通り。ところが、ここのところを少しく虫めがねを当ててみますと、まだ数十万トン・ベースの炭田地帯、炭鉱ができるところは少しあるように思われます。そういうところを開発する場合に、石炭鉱業開発株式会社というものがその間においてできるということは、私はしろうとではございまするが、悪い考えではないと思っております。ただ、先ほど、この法案に関連をいたしまして申しわけないと思いますが、すべてのあれをくるめた形をとった大構想でおやりになりますと、これが実現する裏づけの資金というものが不安ではないかということを申し上げたわけであります。でありますから、石炭開発株式会社ということで、特定の炭田ないし炭鉱地帯を打ち出してやるということにつきましては、技術的な立場から申しますと、その方が確かに石炭の増産には貢献するところが多い、賛成いたしたいと思います。
  140. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 次に、実は今始関先生からもお話があった問題と関連をするわけですけれども、安いエネルギーと、高いエネルギー——高いエネルギーを安くする努力はもちろんしなければなりませんけれども、自然条件考えるときに、今でもかなり高能率炭鉱と、なかなかその線まで自然条件上いかない炭鉱がある。ところが、日本のある規模、たとえば二千万トンでいいというならば、それはまたものの考え方として、いい炭鉱だけ残る。しかし、五千百万トンである、六千万トンであるという国のエネルギーの安全性から考えると、ある線が引かれる。そうすると、今から後は、非常に規模別な格差が、あるいは炭鉱別の格差が大きくなるのではないか。そうした場合に、やはりバルク・ラインを引いて、若干高いところと安いところの調整の必要があるのじゃないかというのが、一つの販売公社の考え方です。  もう一つの面は、すでに現われておるわけですが、貯炭が出る。しかもそれは日本の場合は、電力が今や様子が変わりまして、従来の自流式とそれから調整用の火力発電が、火力発電の方が逆にコンスタントに運転される、ダムの方が調整用というような状態になりますと事情も若干変わるかと思いますけれども、大体において雨が多く降れば石炭は余る。しかも、その石炭は、雨が一割降れば三百万トン以上石炭が余ってくる。こういう事情で、何らかそこに調整的な機関が必要ではないか。これは調整は重油でやるといえば別なんですけれども、石炭自体のことを考えれば調整機能的なものが必要ではないか。そうすると、その両面を考えてみますると、われわれもあまり統制的なにおいのする法案は今の政府に作れといいましても無理ですから、あまり好まないわけですが、従来昭和三十七、八年の過剰貯炭の時代から、あるいは神武景気のあとの不況の時代から、ずっと考えてみますると、やはりそういう制度が必要ではないか、こういうように考えるわけです。その点はどういうようにお考えであるのか。単にイデオロギー的ではなくて、石炭の性格からして、そういうものがやはり考えられてしかるべきではないか。さらに言うならば、それは輸入炭、現在は輸入炭というのはほとんど原料炭です。しかも、原料炭はあまり差がありませんから問題にはなりませんが、もし将来原料炭においてもかなりの差がつくということにすると、貿易の自由化によって、国内の石炭を幾ら引き取りなさいということができない。自由自在に鉄鋼あるいはガス会社は原料炭を買い入れることができるとするならば、ここにも必要性が起こってくるのではないか。こういうように考えてみますと、何かそういう制度が必要ではないか。それから一歩飛躍するならば、それはエネルギー調整金か何かできればまた別ですけれどもね。他のエネルギーとの調整の問題はこれは別ですが、石炭自体だけを考えてみれば、その問題が必要ではないか、こう考えたのですが、どうでしょうか。
  141. 中野実

    中野参考人 ただいまの初めの御質問に対しましてお答えいたします。まず第一に、炭鉱の自然条件によって格差がはなはだしい。従って、各企業別の収支も非常に違いができてくるということでございます。私はその場合に、先ほどもちょっと触れたのでありますが、思い切って埋蔵炭量のないところはやめてしまう。埋蔵量があるけれども深いところは何かの施策をもってそれを取り上げる。それも限度がありますけれども、おのずから技術的にはわかるわけでございますので、その点の調整をしますと、格差その他の点がかなり少なくなってくるのではないかと思われます。しかしながら、そのどの辺を基準にしてスクラップしてしまうかということは、かなり研究してみないとわからない問題でございます。既往の事実から見ますと、すでに筑豊炭田あるいは伊万里湾の炭鉱等は、もう私どもの鉱山学の常識から言えば、全然おしまいになる炭鉱をまだやっておるわけでございますから、こういうものはもう強制的に買い上げるか、つぶしてしまうかして、そうしてまだ埋蔵炭量のあるような炭鉱に積極的な国の投資をしたらどうだろうかと思うわけでございます。  それから、輸入炭と内地の原料炭との関係でございます。これはまず第一に、原料炭であるがゆえに、手取り炭価が高いために、原料炭の炭鉱能率が必ずしもよくないわけです。この点、炭鉱経営者が少しうぬぼれと申しますか、錯覚と申しますか、それを持っているのではないか。原料炭であろうが一般炭であろうが、下から上へ持ち上げてくる費用というものは変わりないのが原則でございます。これを値が高いがゆえに安易な経営をしているために、今の原料炭の暴騰というものが起こったということも、極言すれば言われないことはないわけであります。その点で、私個人は、原料炭の生産会社に対しましても、技術面から、お前のところは値がいいからといって油断をしてはいけないと、よく言っているわけです。その点の調整ができますと、原料炭と輸入炭との調整もある程度可能になるのではないかというふうに考えております。  それから、後段の、その調整機関の点でございます。その形をどういう形で推進するかは、政治家諸氏の御判断にまかせまして、私の方では意見はございません。
  142. 有田喜一

    有田委員長 この際、参考人各位に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、御多用中にもかかわりませず、本委員会法案審査のために、大へん長い間、貴重なる御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表しまして、厚くお礼を申し上げます。  次会は、明二十九日午前十時より委員会、午後三時より理事会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後五時十八分散会