○山田参考人 確かに、御指摘のように二十七日の明け方から、私たちが予想しなかったような異常な事態が当局の手によって引き起こされまして、今日職場の中には、限りない
経営者に対する不満と怒りというものが渦巻いておりまして、
部分的にかなり危険な状態に立ち至っております。
昭和三十二年の三月二十三日に、諸先生も御記憶があろうかと思いますが、抜き打ちストという、そういう言われ方をするような不測の事態が起こりました。あのときと同じような憤激というものが、
全国津々浦々の国鉄の職場に今日起こっております。今私たちは、それを国鉄
労働組合の統制ある指導の中できちんと処理をしていきながら、そういう事態を引き起こさせた主因に対して、その
態度の変更を強く求めております。そういう事態について、何がそうさせたかということを申し上げてみたいと
考えます。
市の起こりは、年度末手当の解決にございました。私たちは、昨年の暮れに国鉄
経営者に対しまして、昨年の年度末手当が〇・五でございましたが、ことしは、御存じのように白紙ダイヤ改正といわれるほど、十一万数千キロの膨大なダイヤ改正をいたしました。これは線路の増設をいたしたのではございません。よって持つすべての車両を動員して、
労働者の数はきわめて少ししかふやさずに、
労働の密度を詰められるだけ詰めて、そうして国鉄の収入の増をはかっていこうとしておるのがダイヤ改正でございます。今日、東海道線には急行が三十本、準急が十五本、特急が十四本、その間を縫って電車、貨物が走っております。六分間に一本という列車の速度で走っております、それをさばいておりますのは、国鉄四十五万の
労働者であります。今日駅々には、毎日の収入表というものが、前月対比、前年対比という格好で掲示をされまして、
労働者に増収の意欲をかり立てております。このグラフは、昨年と比べまして約五百億の増収にことしはなっております。予定収入が七%
程度見込まれ、その上、今日三百五十日現在で二百四十億をこえようといたしておるのです。職場の
労働者は、去年〇・五出たからことしは、これだけ働いたのだからもっとたくさん出るだろう、現場の駅長さんも地方の局長さんも、ことしはもう少し出してやれるだろう、こういう気持を持っていた事実は明らかにございました。
その
立場で、私たちも、〇・五プラス三千円という、去年よりか三千円ほど多く要求をいたしました。それが昨年の暮れでございます。そうして回を重ねて団体交渉いたしましたが、御存じのように年度末手当というものは季節の手当でございます。三月三十一日という年度内に決算処理をいたしませんと、年を越すと技術的にむずかしい面もありますので、いずれにしても三月三十一日までには支払い手続がとられる、こういう時間的な制約もございまして、比較的団体交渉というものは三月に入って煮詰められていくのが、一般的な過去の趨勢でございました。
そこで私たちも、三月に入りまして幾たびか交渉をいたしました。そのときに、その交渉に先だちまして、経理担当重役の常
務理事の兼松さんと、労務担当の常務理市の
中村さんと、職員局長の河村さんと私と話をしておりましたときに、兼松さんの方から、山田さん、ずいぶんもうかっているけれ
ども、なかなか金額を出すのはむずかしい、だから、ことしは国鉄が先に出すことをやめて、国鉄は他公社の成り行きを見てきめていったら、金額はかなりいい工合にいくのじゃないかと思う、だからあまり急がないようにしてほしいという話がございました。この話は、一昨々日来の団体交渉の中で私が明らかにしましたが、出席をいたしておりました
中村常務も肯定をいたしております。そういう
立場で、私たちも、年度末手当の妥結については、他の公社の成り行きも見ながら、
企業の採算の度合いも検討していきながら、じっくり団体交渉を行なっていくという
立場をとっておりました。
ところが、三月の二十四日になりまして、動力車
労働組合なりその他数個の組合と当局との間に、かなり時期を急いで妥結の方法が求められるという動きを察知いたしました。私たちは、今日までの経緯、過程の中で、そういう事態が起こり得るとは夢想だにしておりませんでしたから、ただ単なるうわさとして聞き捨てしながら、私たちは団体交渉を強めていっておりました。私たちの団体交渉こそが、国鉄
労働組合三十二万、ひいては四十五万の国鉄の職員の手当をきめていく唯一最大の組合であるという過去の経緯もございましたから、団体交渉をその場で煮詰めていたわけでございます。それが、申し上げたように三月二十四日になりまして、どうも動力車
労働組合を初め一、二の第二組合と妥結するのではないかという空気が見えました。そこで私たちは当局に対して、従来の慣行をよもやお破りではないだろうなという
立場から話をしてみましたところ、必ずしも当局としては、その段階でそこまでの
処置をするという気持はなかったように見受けられました。これが見受けられたという
程度以上のものではございません。
そこで二十六日になりまして、ちょうど当局が新
賃金を公労委に提訴いたしておりますその調停の事情聴取に応じますときに、私が仲裁移行の手続を当局に同意を求めるために河村職員局長と話をいたしました。そのときに河村職員局長が、山田さん、動力車と第二組合と実は妥結をしたい、金額はおおむね〇・四プラス千円
程度である。それは河村さん本気ですか、国鉄
労働組合はどうするのですかと言ったら、おいやなら一方的な措置をしたい、こういうおっしゃり方をして
労働省にお出向きになりました。私はきわめて事態は危険であると判断をいたしまして、直ちに機関にかけて相談をいたしました。そうしてその日の夕方の八時ごろから、その問題について当局と団体交渉を行ないました。もちろんそのときには、その情報が漏れましたために、東京周辺の国鉄
労働者はきわめて激しい怒りを爆発させまして、都電がとまるという事態も起こって参りました。私たちは、そういう事態を阻止することは、やはり国鉄働労組合が社会にも、組織にも責任を負うという
立場で、国鉄
労働組合の指令のないうちには、一切の行動をしてはならないという
立場で行動指令を出して団体交渉に入りました。
そうして交渉の中で、当局は、今申し上げましたような数個の組合と妥結をして、でき得べくんば実施をしたい、国鉄
労働組合も何とかこの線で納得願えないかという
立場で求めてきましたけれ
ども、私たちは、骨頭申し上げましたように兼松常
務理事なり
中村常
務理事なりの当時の意向もあるし、私たちはそのことが一番得策であると判断をしておるから、三日や五日の日にちをあせらずに、じっくり誠意を尽くして団体交渉をやっていかなければならない、その道こそが、結果がどうあれ、四十五万という国鉄の職員を納得させる唯一の道筋なんだ、こういう
立場で条理を尽くして当局に反省を求めました。当局は、その過程で十時ごろに相談をしたいというので休憩に入りましたために、当局の意向を私たちは待ちました。その待つ間に、私たち国鉄
労働組合を代表する三役と七人の部長と、十人で職員局長室に
中村常務と河村職員局長をたずねまして、多くの人がおる団体交渉の席上では言い出しにくかろうから、ざっくばらんに言って下さい、長い間の労使慣行を破るようなことをしてくれると大へんな事態になりますよ、東京はあのように激高しているんだ、だからどうか動力車と妥結をする道をとらずに、第二組合と妥結をする道をとらずに、五万や八万の人たちが三十二万人の
賃金をきめていくという
態度だけはとってくれるな、この
立場を条理を尽くして申し上げました。ところが、当局はその
態度を受けてもう一度検討したいということで、休憩後の団体交渉を再開いたしました、その団体交渉の席上、当局は、組合側の団体交渉の過程で述べられた誠意を持って団交を継続する
態度を認めよう。こういう結論が出たのであります。そのとき、私はなおつけ加えまして、
賃金の支弁の手続、給料支払いの手続というものは、一切国鉄
労働組合の調印終了後に、期日の決定を含めて行なっていくのだ。こういうことを申して、それは納得させて整理をいたしたわけであります。そのときに、私の方からもう一度、
答弁に当たった河村職員局長の
態度があいまいだということで、河村さん、あなたのおっしゃっている気持は、初回の団体交渉で述べられた意思が間違っていたので
態度を変えられたのですねという質問に対して、
態度を変えて
提案をしておるのであります、こういうふうに、危惧すべき諸点のだめ押しまでされて、その団体交渉は終わったのです。私たちは、この種の手続に関する団体交渉をやりましたのは、私が書記長になって三年ばかりになりますけれ
ども、初めてであります。きわめておろかしいことであると
考えながらも、それをしなければならない事態が、当時
経営者の気持の中にはあったということを御理解願いたいと思うのです。しかも、それをおやめいただいて、団体交渉を誠意を持ってやっていこう。組合側も三十一日ころに何かかまえておるそうだけれ
ども、そういうことはやってくれるな、こういう意向までありました。
そこで私は、そういう不測の事態は、お互いの誠意を込めた団体交渉が、ほんとうに煮詰められていけばいくほど解消できるものなのです。これが道義と信義を前提とした
労使関係でなくてはなりません。こういう
立場を申し上げて団体交渉再開をきめ、日取りは翌日の十時から開会をしていこうときめて、別れたのが夜の十一時半でございます。そうして私たちは本部に帰りまして、執行
委員会を開きまして全員に了解を求め、東京周辺の各級機関に対しても、不測の事態が起こらないように措置をいたしまして家に帰りました。
ところが朝になりまして、
全国の職場から、ものすごい勢いで本部に連絡が入って参りました。動労は妥結したではないか、第二組合は妥結をしたではないか、これはどういうことなんだ、こういう憤激が強まって参りましたので、私もびっくりいたしまして当局に電話をいたしましたところ、当局は本朝の四時に動力車と妥結をした、八時二十分と八時五十分に職能労連と地方労連と妥結をした、こういう
答弁がされました。そこで私は、きわめて言葉をきびしくして叱責をいたしました。おれたちと団体交渉を終わって、たった四時間後になぜまとめたのか、なぜ翌朝まで待ってくれなかったのか、どうしてもまとめなきゃならぬ事態が起こったのなら、ああいう団体交渉を約束をしたけれ
ども事態はこうなっておる、国鉄
労働組合は
承知してくれ、なぜこういう
態度をあなたはおとりにならなかったのか。そこに私たち国鉄
労働組合がぺてんにかけられた、背信行為だというきびしい不満が、そこから起こってきております。
いま
一つは、申し上げましたように、今日職場で働く
労働者は、国鉄
労働組合という大きな組織が、全従事員の八割近くを持っておるこの組織が、おれたちの
労働条件と
賃金と手当をきめてくれる唯一の組合なんだ、にもかかわらず、八千とか一万三千、五万という人たちがおれたちの
賃金をきめてくることはいけないことなんだ、そんなことじゃ
仕事がしたくない、そういう不満が素朴な職場の
労働者の中に起こってくることは、私は当然だと思います。しかし、そういう話では全体をまとめていくわけには参りませんし、いつも私たちがやりますように列車が混乱いたしますと国民が迷惑をする、そのことはよく
承知をいたしておりますし、いたずらにそういう事態を起こしてはならない。もちろん国鉄
労働者は、御存じのように定員法で十二万七千も首を切られまして、今日新規採用いたしませんから、四十五万人の
労働者で——
昭和二十五年、公共
企業体定員法実施という時期の人間の数が五十万四千でありますが、そのときの
仕事量を一〇〇として、今一九〇の
仕事をいたしております。旅客にして五十一億人の輸送、貨物にして一億九千万トンの輸送をいたしております。そういう事情の中で、私たちの国鉄
労働者は、新規採用はされませんから年令は三十八才をこえています。家族は平均三人おります。しかも
賃金は、二万六千三百三十三円という平均
賃金です。そういう芳しい中で、もちろん
仕事を少し休んで汽車に混乱を及ぼすということは、国民に迷感をかけることは
承知いたしておりますけれ
ども、それのみを追及しておったのでは、国鉄
労働者のほんとうのしあわせは作れません。だから、今日のような事態が起こりますと、そういう気持を頭に持ちながらも職場の中で不安、不満が増大をしてきて、国民の
皆さんに御迷惑をかけるような事態が起こり得るという
条件を備えておるという
立場だけは、御理解をいただきたいと思うのです。それを私たちは一応とりまとめをいたしまして、国鉄当局に対しまして、きょうも、そうしてきのうも激しい団体交渉を行なっております。
その団体交渉では、私ははっきり申し上げているのです。金紙については、私たちは〇・五プラス三千円を要求しておる。当局は〇・四プラス千円をお出しになっておる。私は〇・五プラス三千円を徹底的に固執はいたしません。それは他公社の振り合いを見て下さい。今日の段階で、全電通は〇・五プラス千五百円が出ようとしているではないですか。もう
一つの専売の公社だって、それに近い
数字が出ようとしておるではないですか。なぜ国鉄だけが〇・四プラス千円でなくちゃいかぬのですか。こういう
立場をもっと煮詰めていって、私たちが〇・五になるのなら、私はそれでもけっこうだ。そういう団体交渉を誠意を持って進めていくためには、二十六日の明け方妥結をなさったあの道を
一つお取り消しになって、事態を白紙に返して団体交渉を深めていただきたい。そういう全く私たちまじめな気持で、今日の現状を解決をする唯一の道筋として今日交渉いたしておるのでございますけれ
ども、当局は私たちの意をくみ取ろうとせずに、かなり頑迷な
態度で抵抗いたしております。この事態が続きます限り、申し上げましたように、国鉄
労働者は、これから先
労働運動を民主的に正しく
発展させていくためにも、今日まで育て上げられてきた労使の慣行だけは、どのようなことをしてでも守りたいと思います。そういう
立場は
一つどうか御理解をいただきまして、今日職場の中に残っておる幾つかの混乱も、明日以降かなり増大していく要素を含んでおることを明らかにしたいと思います。しかも三十一日には、東京の都電を初めとする
全国的な大混乱が起こることも、この段階では残念ながら申し上げなくちゃならぬと思っております。
以上が今日までの経緯と、私たちの扱ってきた
実情であるというふうにおくみ取りをいただきたいと思います。