○鈴木
公述人 私は
政府の
原案を拝見いたしまして、また、送っていただきました社会党の
修正案あるいは
選挙制度審議会の
答申を拝見いたしまして、いろいろ問題点はございますけれ
ども、私はやはりこの際
政府案をぜひ成立さしていただきたい、こういう
気持で以下数点について申し上げたいと存ずるのでございます。
〔
委員長退席、青木
委員長代理着席〕
まず第一点でございます。私は、ただいまもちょっとお話が出ましたが、今日の
選挙の
制度が
個人本位、
候補者本位の
選挙制度ということになっており、一切の
選挙躍動の
責任はあげて
候補者に帰属すると申してもいいくらいに、いわば
政党の
地位というものが
選挙運動においては非常に少なくなっておると思うのでございます。
個人と
個人との争いということになりますると、同じ党派の中でも同士打ちというような問題が起こりますしいたしまして、
選挙運動そのものが非常に激烈にならざるを得ない。そういう
意味におきまして、
選挙運動をさらに緩和し、ルールに従ってこれが行ない得るようにいたしますためには、やはりできるだけ
政党本位の
建前を、あるいは
投票の
方法において、あるいはもっと
根本的には
選挙区制、代表
制度のもとに取り入れる必要があるのではないだろうかというふうに思うのでございます。今回の
政府提案の
改正案におきましては、その点においてそういう方向に、少しではございますけれ
ども、とにかく数歩を進めた点があると思うのでございまして、私はこの点において
原案に大いに賛成をいたすものでございます。
申すまでもなく、私かつて
選挙事務の管理をする
立場におりましたときに最も困りましたことは、
政党は
選挙活動ができない、
政治活動ができるということであります。
政党が出すポスターには
候補者の具体的な氏名を書いてこれを訴えることはできない、
政策の周知宣伝しかできないというようなことで、具体的のポスターが、はたしてこれが
政党の
政治活動の範囲をこえておるかどうか、
選挙活動になればこれは違法であるというようなことで、何回となく実は具体例で悩まされた経験があるのでございます。今回はその点を思い切って、
政党の
政治活動に使う。ポスターには
候補者の氏名を公示してもかまわない、
選挙運動に及んでもかまわないというふうに割り切っておりまするから、こういうふうな点は確かに実際上から出た非常に現実に即した
改正案であると私は思うのであります。また、
選挙の演説も
政党が一定の限界においてできるというようになりましたことは、これはまことに将来の方向に一歩を進めたものとして私は賛意を表したいと思うのでございます。
次に、第二の点でございます。先ほど
大石先生のお話にもございましたが、私も
選挙の中心は、やはり
言論戦、文書戦が
根本でなければならぬと思うのであります。どの
候補者の方も供応とか接待とかいうようなことはおやりになりたくないだろうと思うのでありますけれ
ども、やむを得ずやっておられるというのが今日の
選挙界の
実情ではないかと私は思うのであります。でございますから、
選挙法においてはやはり
言論、文書を中心にして、なかんずく
言論を中心にした
選挙運動の自由を確保するということが最も基本でなければならないと思うのであります。ところが、現行法におきましては、いろいろの累積の結果といたしまして非常に窮屈なものになっておるというのは、これはもうだれが見てもあるであろうと思うのであります。そういう
意味からいたしまして、今回たとえば
選挙運動期間前におきましても、
事前運動としての演説会を開催することができるということにいたし、事前に
選挙運動をやることができる、こういう点は確かに私は数歩を進めた改善であると思うのでございます。また、無料はがきをふやしたり、あるいはポスターをふやしたり、いろいろ文書戦の方にも配慮をしておられるようでございます。私はやはりそういう方面にはむしろできるだけ金を使って、接待とかいろいろな行事について、心ならずもいろいろな処理をしなければならないというようなことがなくて済むようにいたすべきものであろう、私はこう思うのでございまして、そういう点から私は今回の
改正案に賛意を表するのであります。
第三点は、今申し上げたことにも若干関連いたしますが、要するに金のかからない
選挙にするということが必要であろうと思うのでございます。その
意味で、今回
選挙公営を広げて、
投票所に少なくとも一つはポスターの公営の掲示場を作る、こういうふうにされましたことは、確かにこれは私進歩であろうと思うのであります。また、
新聞広告を増しましたりいたしておられるわけでございまして、そういうような点は
選挙公営の徹底ということで私はけっこうなことと思うのであります。また、金のかからない
選挙にするための一つの手段として、さっきもちょっと触れましたが、後援
団体がそれぞれあるわけでございますが、これも実際上の
選挙戦においては必要なものであることは私
どもも十分認めるつもりでございますが、しかし、競争的にこれは次から次へとその範囲が拡大をしてきておるのが実際ではないかと思うのでございます。そういう見地から、後援
団体に対する
寄付でありますとか、あるいは後援
団体からの
寄付でありますとか、あるいは後援
団体の集会なり行事なりの際における接待等を禁止、
制限するという点は、確かに金のかからないようにするための一つの手段として、これも私は適切な
改正の一つであろうと思うわけであります。また、法定費用につきまして、今回は領収証の写し等を添えるように
改正しようという案のようでございますが、この点ももしこれが
ほんとうに励行されるというようになりますと、これは相当の
規制になろうかと思うのであります。これは
選挙連動費用の超過の訴訟との関連において、私はやはり相当金のかかることを防ぐ効果があるというふうに思うわけであります。そして、もしもさらに今回企てておられまするように、労務者等に対する実費弁償あるいは報酬等を現実に即したものにするということにいたしまして、法定の
選挙運動費用というものが実際の
選挙連動の費用に非常に近づいてぐるということになりますならば、従来法定費用の超過というようなことは、言うべくして実際は取り締まることのできないものであるというようなことも言われてきておるわけでございますが、そういう点が相当に直ってくるのではないかと私は思うのであります。とかく
選挙に関する規定というものは守ることができない規定である、あるいは取り締まることができない規定であるというのが実際のように思われます。私は
選挙の規定というものは、できるだけ守りやすい規定にする、また罰則もできるだけ
取り締まり得る罰則にする、こういうことがむしろ
ほんとうに
選挙界を粛正する
根本の要件だと思うのでありまして、そういう
意味からいたしまして、私は今回の法定費用について
改正を加えられた点は確かに一つの卓見であろうと思うのであります。
第四点は、
腐敗行為の粛正の
関係の問題で、先ほど来いろいろお話のございました罰則の
強化の点でございます。私は罰則の
強化に反対をするものではございませんが、それと同時に、あるいはむしろその前提として、やはり
取り締まり縛る罰則にして、その罰則に触れた者はむしろ例外なく取り締まるという方向に行く方が
ほんとうの粛正に価するのではないかと思うのであります。たまたま法に触れたような人について、それが非常に厳罰に処せられる、一罰百戒という効果はなるほどあるかもしれませんが、しかし、免れる方が多いということでありましては、私はやはりそこに検討を要する点があるのではないかと思うのであります。そういう
気持を私は持っております。
今回の罰則の
強化の点について、第一に
連座制を
強化された。これは私はまあけっこうなことであると思うのであります。従来総括主宰者あるいは出納
責任者が
連座制の対象でございましたが、そのほかにさらに地区の主宰者あるいは事実上の出納
責任者まで範囲を及ぼし、さらに
親族までこれを及ぼしてきておるという点は、
連座制の
強化という点だけから見れば、これは確かに粛正に効果があろうかと思います。しかしながら、その中で特に問題にされておりますのは、今の
親族の
関係のことのようでございます。しかし、これは今回
改正されようとしておる案の中の一つの対象であって、地区主宰者あるいは事実上の出納
責任者が
連座制の対象になっておるということは、やはりそれだけで一つの大きな
改正であろうと思うのであります。そのうちの一つの、
親族について非常に議論が集中いたしておりますけれ
ども、この
親族の
人たちでありましても、もしもその人が地区の主宰者である、あるいは事実上の出納の
責任者である、あるいは今までの総括主宰者、あるいは出納
責任者でありますならば、これは当然に
連座制の対象になっておるわけでございまして、そうでないような
親族についてだけの問題が今回新しく加わったものと私は思うのであります。そういう点から
考えますと、
連座制については、さっき
大石先生のお話もございましたが、現在の
憲法の基本
原則から申して
根本的に法理論的にはいろいろ問題があろうかと思いますので、これはむしろ認めるとするならば相当に厳重な条件を
考える必要があるという点の着眼が私は当然であろうと思うのであります。去る三月に最高
裁判所のこの点についての何か判例があって、
連座制は合憲である、こういう判定があったようでございます。それを拝見しましても、相当数の
違反による
投票があるというようなことが大体
理由の中に触れてあります。相当数ということが。わずかの票のために全体のそのものに対する
投票が無効になってしまうということは、その点からもよほどこれは慎重に
考えていかなければならないわけでございまして、そういうような点から、この点については慎重に検討をする必要があろうかと私は思うのであります。
意思を通ずるというようなことは、これはもう当然の要件でありまして、もちろん論ずる余地はないと思うのでございます。まあよく問題にされておりますのは、
執行猶予の適用を受けるようなものが全部抜けてしまうのはゆる過ぎるというようなお話がございますけれ
ども、なるほどそういうふうに見る見方もあろうかと思いますが、まあ非常に例外中の例外でありますから、特に要件を厳重にして、だれもそれならば文句が出ないという範囲に限定をしたという
意味においてこれも一つの案であろうかと私は思います。
それから、第五点でございますが、
政治資金の
規正であります。
政治資金の
規正につきましては、考も
政党が健全に成長されますためには、何らかの
資金源が確保されていなければならないと思うのであります。その
資金源をどうするか。たとえば会員制といいますか、党員制をさらに徹底をしていく、あるいは
政策賛同者からの
寄付をさらに徹底をしていくというようなことによって、
政党が真に
個人によって
基礎づけられる。
会社とか労働組合というような
法人からの
基礎づけでなく、
個人々々が真に自己の自由な
意思に基づいてどの
政党を支持するかというようなことになることが、私はやはり本然の姿であろうと思うのでございます。そういう
意味から、
選挙制度審議会の
答申において、
法人、
団体等の
寄付の
制限を将来
考えなければならぬが、とりあえず補助金を受けておるようなところは
制限すべきだというようなことに言われておるようでございますが、私も着眼はそういう着眼でやってしかるべきかと思うのであります。しかし、一方の道を閉ざすならば、他方の合理的な道を同時に
考えていかなければならぬわけでございまして、今日の段階においてまだそういうことが困難であるといたしますならば、まず一番直接的な
関係のある
選挙についてだけこの
資金の
規正をいたすということは、やはり段階的な一つの
方法、行き方ではないかと思うのであります。
次に、第六点といたしまして、
高級公務員の問題でございます。これにつきましてはかねてからいろいろ御議論のありました問題と思います。社会党の
修正案で全国区の参議院
議員についてだけ具体的に範囲を定めて
制限をしよう、こういう案が出ておるのを拝見いたしました。私は、この問題につきましては、もし合理的にこの限界の範囲がきめられますならば、そういうこともいいかと思うのであります。しかし、これは立法技術上非常にむずかしいと思うのであります。まず、
選挙の範囲を一体参議院の全国区だけにしほることが適当であるかどうかという問題がございましょう。参議院は非常に
投票が累積して、まさに全国的な組織を活用したような姿で八十万、九十万の票を集めるといわれますが、同時に衆議院の
選挙区におきましても、十何万という票を集めることも
考えられるわけでございます。参議院全国区の場合に、何千万という有効
投票の中から八十万、九十万の票が累積することは、比率から申しますならば衆議院の累積の場合とそう大きな違いがないようにも思われるのでございまして、
〔青木
委員長代理退席、
委員長着席〕
そうなって参りますと、
選挙の範囲を全国区だけに限定することはどうかというような反論も出てくると思うのでございます。むしろこれは全国区制それ自体に問題があるのではないかとも
考えられるわけでございます。また、それならば一定の範囲の
公務員に
制限をするといたしましても、その期間が、一年がいいか、二年がいいか、あるいは三年がいいかということも非常に問題がございましょうし、また、退職後どのくらいの期間を
制限するかというようなことにも非常に問題があろうと思うのでございまして、私はこの規定は立法技術上非常に困難であると思うのであります。
憲法論はさておきまして、その点で非常に問題がある。
政府がこの点について公務上の
地位を利用するということで、それを不法に利用するものを抑えるというふうな形にいたしましたのは、
選挙制度審議会の趣旨をとって、要するに実を生かしていったものとして、私は、実際上の必要に応ずる案ではないかと思うのでございます。ちょうど教育者が児童生徒を通じて
選挙運動をやるという害がございましたので、その際に、具体的に害のあった範囲というよりも、むしろおよそ教育者はという形で教育者の
地位利用の犯罪を抑えておるというのと同じように
考えて、
公務員の上下を問わず、一般職と特別職とを問わず
制限をするということが、むしろこれは実際上の必要に応ずるものと思うのでございます。
非常に大ざっぱに申し上げましたが、私の率直な
考えは以上のようなことでございまして、
選挙制度審議会の非常に御熱心な
答申のうちのほとんど大半が今回の
政府案には取り入れられておるわけでございまして、従来いろいろと
選挙制度調査会あるいは
選挙制度審議会というような
選挙に関する審議機関が、戦前、戦中、戦後を通じましていろいろできましたが、その
答申がどの
程度実現されておるかということをいろいろ
考えてみますと、今回の
政府案は非常に、実は一〇〇%に近いくらいこれを取り入れておると私は思うのでございまして、ぜひこのような形で一刻も早くこれが
実現いたしますことが、日本の
選挙の
公明化のために必要ではないか、こう
考える次第でございます。(拍手)