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1962-03-13 第40回国会 衆議院 外務委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十七年三月十三日(火曜日)    午後三時九分開議  出席委員    委員長 森下 國雄君    理事 北澤 直吉君 理事 野田 武夫君    理事 福田 篤泰君 理事 古川 丈吉君    理事 松本 俊一君 理事 岡田 春夫君    理事 戸叶 里子君 理事 松本 七郎君       安藤  覺君    愛知 揆一君       池田 清志君    宇都宮徳馬君       大久保武雄君    木村 公平君       齋藤 邦吉君    椎熊 三郎君       正示啓次郎君    竹山祐太郎君       床次 徳二君    稻村 隆一君       黒田 寿男君    帆足  計君       穗積 七郎君    細迫 兼光君       森島 守人君    井堀 繁男君       川上 貫一君  出席国務大臣         内閣総理大臣  池田 勇人君         外 務 大 臣 小坂善太郎君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         法制局参事官         (第一部長)  山内 一夫君         外務政務次官  川村善八郎君         外務事務官         (大臣官房長) 湯川 盛夫君         外務事務官         (アジア局長) 伊關佑二郎君         外務事務官         (アジア局賠償         部長)     小田部謙一君         外務事務官         (アメリカ局         長)      安藤 吉光君         外務事務官         (条約局長)  中川  融君         外務事務官         (条約局外務         事官)     須之部量三君         大蔵事務官         (理財局長)  宮川新一郎君  委員外出席者         通商産業事務官         (企業局次長) 伊藤 三郎君         通商産業事務官         (企業局賠償特         需室長)    池田 久直君         専  門  員 佐藤 敏人君     ————————————— 三月十三日  委員木村公平君及び井堀繁男辞任につき、そ  の補欠として正示啓次郎君及び西尾末廣君が議  長の指名委員に選任された。 同日  委員西尾末廣君辞任につき、その補欠として井  堀繁男君が議長の指名委員に選任された。 同日  理事森島守人君同日理事辞任につき、その補欠  として松本七郎君が理事に当選した。     ————————————— 本日の会議に付した案件  理事辞任及び補欠選任の件  日本国に対する戦後の経済援助処理に関する  日本国アメリカ合衆国との間の協定締結に  ついて承認を求めるの件(条約第一号)  特別円問題の解決に関する日本国タイとの間  の協定のある規定に代わる協定締結について  承認を求めるの件(条約第二号)  国際民間航空条約改正に関する議定書締結  について承認を求めるの件(条約第三号)  日本国アルゼンティン共和国との間の友好通  商航海条約締結について承認を求めるの件(  条約第四号)  海外技術協力事業団法案内閣提出第九二号)      ————◇—————
  2. 森下國雄

    森下委員長 これより会議を開きます。  理事補欠選任についてお諮りいたします。  理事森島守人君より理事辞任いたしたいとの申し出がありました。これを許可するに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 森下國雄

    森下委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  なお、理事辞任に伴う補欠選任につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 森下國雄

    森下委員長 御異議がないようでありますので、委員長松本七郎君を理事指名いたします。      ————◇—————
  5. 森下國雄

    森下委員長 日本国に対する戦後の経済援助処理に関する日本国アメリカ合衆国との間の協定締結について承認を求めるの件、特別円問題の解決に関する日本国タイとの間の協定のある規定に代わる協定締結について承認を求めるの件、国際民間航空条約改正に関する議定書締結について承認を求めるの件、日本国アルゼンティン共和国との間の友好通商航海条約締結について承認を求めるの件、海外技術協力事業団法案、右を議題とし、質疑を行ないます。  質疑の通告がありますので、これを順次許します。黒田壽男君。
  6. 黒田寿男

    黒田委員 きょうは私は主として池田首相に御質問いたします。  現在外務委員会審議に付せられております案件は、いわゆるガリオア・エロア処理協定タイ特別円協定改定、そのほか数件ございますが、私は、これらの個々の協定について質問を始めます前に、池田外交本質、そのやり方危険性のある非民主的なやり方、そういうものについて、最近起こった問題に関連させて、質問をいたしまして、総理の御所見を承り、それからガリオア・エロアの問題に入りたいと思います。  ガリオア・エロア日援助につきましては、国民の多くがこれを贈与であるというように思っておりまして、国会もかつて感謝決議をしたこともあるのでございます。ところが、このたび、政府は、それが債務であるという結論を出されまして、四億九千万ドルの支払い協定承認を求められております。他方タイ特別円の方は、これと反対に、昭和三十年協定におきましてわが国からタイに対し経済協力として投資及びクレジットで九十六億円を供給することになっておりまして、この義務わが国において果たしさえすれば、将来は返還を要求し得る債権の取得を期待し得たものであります。ところが、それを突然、贈与に変えてしまわれまして、それの改定協定承認を求められておるものであります。だから、平たく申しますと、一方は、贈与されたものと思っておったものが債務だというので支払うことになり、他方は、債権としてやがて弁済してもらえると考えておったものが贈与に変わって、返済されないものになってしまう。私は、この二つの協定にはこのように非常な奇妙なコントラストがあると思います。  ところが、それにもかかわらず、両協定共通のものがあるわけであります。それは、わが国外国に対して、結局、金を支出するという点であります。その上に日韓会談でも多額の金が韓国によって要求せられておる現状でございますが、こういう点から見ますと、日本から金が出ていくという点では、この三者は共通なものを持っております。  ところが、このほかに、さらに重要な共通点があると私は思う。それは、まずタイ国について見ますと、この国は南アジア防衛機構中心の国であります。韓国アメリカ軍事同盟を結んでおる国でありまして、日本ももちろんアメリカ軍事同盟を結んでおる国であります。そうして、アメリカがこれらの軍事同盟中心となっておるということも、これは顕著な事実でございます。もっと重要なことがされにある。それは、ガリオア・エロア債務と解して日本が支払いますならば、その金は東アジアに対する援助資金として使われるということが予想せられております。そこで、ガリオア・エロア債務返済金は、アメリカの手を経てではございますけれども、結局は東アジアにおけるアメリカ戦略基地国への援助として使われることになると考えることができる。その国は、あるいは南ベトナムであることが予想されますし、あるいは韓国であることが予想されぬこともございません。そうして、アメリカによってなされる援助は、過去の経験から見ますと、主として結局は軍事援助ということになるのでありますから、問題はここにある。今回のガリオア・エロア処理協定タイ特別円改定協定及び日韓会談は、その一つ一つが個々別々の形で進められておるのでございますが、実際はそういうものではございません。外観はそうでありますけれども、実際は、別々に切り離されたものではなくて、内面的なつながりを持っておる。要するに、アメリカ東アジア政策の網の中に入っております諸国国際関係アメリカ中心として強化することに役立つものである。その政策の背後の推進者はむろんアメリカであります。日本日韓会談ガリオア・エロア処理あるいはタイ特別円処理などで表面に立って一役を買うておるというのが、私は実状であろうと思います。  池田外交は、こう見て参りますと、アメリカアジア戦略への追随であると私は思う。しかも、追随しながら、アメリカ中心とする東アジア軍事機構への協力強化と、自己勢力強化をもくろんでおるのである。私は、こういうところに池田外交本質が現われておるように思います。池田首相は、よく自由諸国との協力強化という言葉を使われますが、私の方から見ますれば、それは今申し上げたようなことになるのではないか、むしろなると私ども考えます。一応これにつきまして総理のお考えを聞かしていただきたいと思います。
  7. 池田勇人

    池田国務大臣 今お話しのようなことは、私は毛頭考えておりません。日本立場として、今までの債務と心得たもの、または協定で一応きまりましたが実際上行なわれないこの状況を見まして、今でまの債務を片づけようとしておるのであります。決してアメリカのとやこういう問題と私は考えていないのであります。
  8. 黒田寿男

    黒田委員 私は、続いて、池田内閣の、と申しますか、むしろ池田首相外交と申し上げた方がよいと思いますが、その危険性を痛感しますので、このことについて申し上げてみたいと思います。これはどういうところに現われておるか。池田外交の危険な傾向は、今、私は日韓会談の促進というところに最もよく現われておると考えます。朴政権は、私どもから見ますと、決して全朝鮮を代表する政権でないだけでなくて、南朝鮮を代表する政権ですらないと考えられます。クーデターによって政権を奪取して、死刑と投獄の恐怖政治によって南朝鮮人民をファッショ的に弾圧しております。これは事実である。南朝鮮人民を代表する政権であると言い得るためには、人民の自由な意思に基づいて民主的に形成せられた政権でなければなりません。しかるに、議会は、国会といわず地方議会といわず、すべて解散せられ、政党の存在も許されておりません。との政権がいかにその基礎が不安定であるかは、クーデター以来今日に至るまで戒厳令を解除し得ないでおるという事実によってだけでも容易に察知することができると私は考えます。池田首相日韓会談正常化を目ざして会議を進めておいでになるようでございますけれども朴政権は、全朝鮮を代表しないことはもとより、南朝鮮さえも代表した政権ではない。池田首相は、朴政権が全朝鮮、少なくとも南朝鮮を代表した政権であるとまじめに考えおいでになるのでしょうか。もしそういうお考えであるとしますればどうしてあの戒厳令のもとにいまだに一年に近く民衆を抑圧しておるような軍事的ファッショ政権朝鮮人民を代表する政権であると言えるのか、私はその点について首相の御所見を聞いてみたいと思います。
  9. 池田勇人

    池田国務大臣 韓国は、三十八度線以下を合法的に支配する国と、国連におきましても認められておるのであります。従って、今までクーデター政権であるから、あるいは戒厳令をしいておるからといって、韓国が認められた事実を否定するわけにはいかぬと私は思います。ただ、問題は、今の状態は好ましくはございませんが、将来、来年は民主的な国家に移るのだ、こう声明をしておりますので、暫定的に、これを暫定的政権である、これで交渉に移っていくわけであります。
  10. 黒田寿男

    黒田委員 私は、きょうは時間の関係もございますので、一々、反論を積み重ねるというととはいたしません。予定している問題についてこれから順次質問を進めていきたいと思います。ただ、ただいまの総理の御答弁に賛意を表することはできないということだけをはっきりと申し上げておきます。  そこで、池田首相は、今日韓会談を進めておいでになりますけれども、一体あの朴政権をほんとうに安定した政権と認めておられるのですか。先ほど申しましたように、戒厳令が今日なお解除されていない。彼もたびたび身辺の危険を感じておるように伝えられておる。いかに不安定な政権であるかということがよくわかるのです。日韓会談正常化しますためには相手の国情が安定しておることが第一の条件である。不安定の政権相手にして国交正常化というものは考えられません。そういうことを考えることは私はナンセンスだと思う。相手国の政情が民主化し安定した上で国交正常化をはかるべきであるというのが私どもの健全な常識であると思う。そういうような意味において、朴政権との国交正常化は、真に日本朝鮮との国交正常化にはならないと私は考える。日韓会談は即時に中止すべきであります。(「その通り」と呼ぶ者あり)朝鮮政権民主化と安定を待って国交正常化に努力すべきであると私ども考えており、その方向に向かって私ども朝鮮民衆友人として努力すべきだというのが、私は日本国民として正しい方針であると考えますが、いかがですか。朴政権のようなものを安定した政権考え交渉を進めておいでになりますか。私どもにはどうしてもこのことがわからない。
  11. 池田勇人

    池田国務大臣 われわれは過去十年にわたりまして韓国国交正常化に努めて参ったのであります。しこうして、今の朴政権も、今までの腐敗を排除して、そうしてりっぱな民主的国家に移るようあらゆる施策を実行しておる。しかもまた、その効果をあげておると私は認めておるのであります。従いまして、これが民主的政権を待ってというよりも、われわれは、安定した政権に移りつつあるという前提のもとに交渉を進めておるのであります。今これをやめる考えはございません。
  12. 黒田寿男

    黒田委員 今わが国に来ております朴政権崔外務部長官は、朝鮮から日本に対する請求権は全朝鮮についてであるというように、日本到着声明をしております。一体、首相は、朴政権が全朝鮮を代表する政権考えおいでになりましょうか。南朝鮮部分に関する限りにおいて、しかもクーデター支配を強行しておるにすぎない朴政権が、全朝鮮を代表するものというように解することは、健全な常識に反しております。この崔外務部長官の言う、その請求権は全朝鮮について要求せられるものであるというその考え方に、池田首相としましては同意されますかどうか。
  13. 池田勇人

    池田国務大臣 朴政権は三十八度以南を支配しておりますので、われわれはその前提のもとに交渉をいたしておるのであります。
  14. 黒田寿男

    黒田委員 ただいまの御答弁で、崔外務部長官池田首相とのお考えの中にそごするものがあるということがわかりました。  次にお尋ねしたいと思いますが、私どもから見ると、朴政権日韓会談を急いでおりますのは、請求権問題を解決することを主たる目標としており、さらにこれを具体的に申しますならば、請求権問題の解決によって、不当に多額の金を日本政府に出させて、崩壊に瀕しておる韓国財政経済のテコ入れをしようということ、それが朴政権日韓会談を今非常に急いでおる最も大きな理由であると私は考えます。この点、総理はどういうようにお考えでしょうか。請求権についてどういう具体的な話し合いがされておるか、このこともできるだけ詳細にお聞かせ願いたいと思います。
  15. 池田勇人

    池田国務大臣 われわれは、請求権問題だけというのではなしに、わが国における韓国人法的地位の問題、そうして李ライン問題等中心に、三位一体として解決するよう私は進んでおるのであります。
  16. 黒田寿男

    黒田委員 池田首相請求権問題のほかにいかなる経済協力の構想を持っておいでになりましょうか、これを伺ってみたいと思います。
  17. 池田勇人

    池田国務大臣 経済協力方法につきましては、まだここで申し上げる段階に至っておりません。われわれは、請求権の問題、李ラインの問題、法的地位の問題、これをやる、そうして、国交正常化の後に経済協力の問題を考えていきたい、これが原則でございます。ただ、今の三つの問題をあれしますときに、経済協力の話が出るかもわかりません。建前といたしましては、国交正常化の後に経済問題につきまして討議をしたいという建前で進んでおります。
  18. 黒田寿男

    黒田委員 政府経済協力方針は現実にまだ具体的になっていないということ、これはそう思います。ところが、一方、最近南朝鮮に対しまして日本財界が非常に力を入れて進出をはかっております。これは、私どもから見ますと、税金に対する政策、いわゆる保税加工貿易、その他われわれ日本人が日本においてそういう政策をとったならば、明らかにそれは売国政策であると考えられますような政策をもって外国資本を導入しようと朴政権はしておりまして、その政策につけ込んで日本財界方面朝鮮に対し非常な意欲を燃やしておるということが最近私どももいろんな情報でこれを知ることができるのであります。朝鮮には、失業者、半失業者を含んで一千万人の低賃金労働者がおる。そういう状態を利用して、そしてまた、朴政権のそういう売国的利益誘引政策を利用して、再び韓国に対し日本財界経済的支配を企てておるのではないか、こういうことが今韓国でも問題になっております。朝鮮人民は、長い間日本植民地下に悩まされ、いまだにそのことを忘れていない。朝鮮人民の中に、最近日本財界のこのような動向に対しまして、経済支配を再び企てるのではないかという、そういう警戒の気配が現われ始めておると伝えられています。これはよほど日本としても考えなければならぬ問題と思う。われわれは南朝鮮人民立場を見なければならぬ。われわれが韓国人民立場に注目するとき、日本財界の野心を持った進出という感じ方を彼らが今起こしておるということは、決して軽視すべき問題ではないと思います。私どもは、こういう傾向について、池田首相政府としてどういう対策を持っておいでになるか、これも聞かせていただきたいと思います。
  19. 池田勇人

    池田国務大臣 ドイツ等におきましては、韓国経済開発に、相当強力な支援と申しますか、強い協力関係を打ち立てつつあるようでございます。今、日本といたしまして、そういうふうな強い協力関係の話はまだ進んでいないと思います。新聞その他でいろいろ出ておるようでありますが、政府はこういう問題にただいまのところ関知しておりません。ただ、民間におきましていろいろ商業ベースでやっておることは、もう従来からもやっておるのでございます。
  20. 黒田寿男

    黒田委員 私は、すでに経済の面におきまして日本韓国との間にそういう現象が起こっておるということを、韓国人民友人である日本人民として心から心配をしておるのであります。  もう一つ私が心配しておりますのは、これは一般論でございますけれども朴政権のような世界にもまれな軍事独裁政権に——最近世界の各方面においてクーデターが発生しておるのを見ます。私どもはそれには感心しませんが、そのうちで朴政権によるクーデターほど残忍なものはありません。あれほど暗い影を持っておるものは私はないと思う。こういう政権に、日韓会談を通じててこ入れをするということは、単に南朝鮮民主化の妨害に協力するということになるだけでなくて、池田首相政策それ自身のファッショ化を証明するものではないかと私は思う。民主主義擁護のために、こういうファッショ政権と手を握ることは一日も早くやめていただきたい。  それから、なお、韓国軍事力日本自衛隊とがどんな結びつきにあるかということは、私はきょうは詳しくは申しません。これはまた日を改めて徹底的にこの点も明らかにしたいと思いますけれども、もうすでにアメリカ軍司令官を通じて実際には自衛隊韓国の軍隊とは同一作戦行動に出ることができるような機構になってしまっておる。こういう関係に深入りするということは、朴政権の軍事的な危険性が非常に大きなものであるだけに、わが国にその危険性が及んでくることは必然である。このことを私どもは心から心配しております。  こういういろいろな危険なり悪影響が日本に及んでくるような朴政権との提携は、すみやかにやめていただきたい。私は、こういう方面に現われております池田外交危険性を痛感している。日本外交政策を真に民主的なものにし平和的なものにするために、私は、日韓会談を即時中止すべきである、こう考えるが、これに対してどうお考えですか。
  21. 池田勇人

    池田国務大臣 先ほどお答えした通りでございまして、それはクーデターというものはいい方法ではございませんが、方法が悪いからといって、重大問題の日韓正常化をやめるわけにはいかないと私は考えております。
  22. 黒田寿男

    黒田委員 私は、いま一つ池田外交の最近のやり方につきましてどうも理解できないところがございますので、率直にこれを申し上げて、御所信を承りまして、それからガリオア・エロアの問題に入りたいと思います。  池田外交やり方の特徴の一つを最もよく現わしておりますものは、タイ特別円協定について見られた池田首相やり方であります。この協定は、昭和三十年に締結せられまして、そのとき国会承認を経たものであります。タイ特別円に関する昭和三十年協定には、先ほども申しました通りに、タイに対する投資クレジットの形で九十六億円を供与する、そして、その供与というわが国義務を履行するならば、それはタイに対する九十六億円の債権となって、その返済が期待せられるものでありましたものを、この九十六億円という多額の金を無償供与にしてしまった。ただでやることに変えてしまった。それは、池田首相独断で、国会方面にはおそらく正式にも非公式にも全然無断で、昨年秋のタイ国への旅行先で突然タイ首相に約束してしまったのであります。一たび国会承認を得た条約を、国会無断で、首相独断改定するというようなことをされましては、国会の持っている条約承認権は事実上その存在意義を失うてしまう。新たに条約締結されます場合は、それもあまり重要でないようなものであれば、一つ一つあらかじめ国会であらかじめ論議する必要はないかもわからないと考えます。しかしながら、タイ特別円協定のように、一度国会承認を得たものを、国会に全然知らさず、突如わが国に不利益に変更するというようなことは、私は、国会条約審議権を無視し、じゅうりんする官僚的独断であると思う。私は総理の弁明を聞きたいと思います。しかし、ここで私の求めます答弁は、改定の内容についてではございません。この点はまたあとからこの委長会において詳細に徹底的に論議するつもりでございまして、今私が首相に求めております答弁は、改定やり方についてでありますから、その範囲に限定して答弁をしていただきたいと思います。
  23. 池田勇人

    池田国務大臣 三十年に締結いたしました協定は、有効に成立したのであります。しかし、その協定を実施いたします場合に、従来六年間も解決がつかないのであります。それで、二条では供与することになっておりますが、この二条を施行するのには、協定四条によって両方で合同委員会を設けてやろうということになっておりますが、これが何ら実行に移されない。これが問題であります。そこで、その間こうやったらどうかああやったらどうかという計画はいろいろございましたが、それがまとまらない。そこで、われわれは、一昨年の暮れから昨年にかけて外交交渉でいろいろやったのであります。しかも、私が出発する前におきまして、関係各省では十分想を練り、そしてまたタイ国政府交渉をしておったのであります。私は、従来の状況を見まして、この際やはり大所高所よりこれを解決する方が、日本立場として、また将来東南アジア各国との経済交流万般についてとるべき策とこういうので、一応話をきめ、今年の初めに調印いたしまして、そしてそのことを今国会に申し出て御審議願っておるのでございます。私は、こういうことはやむを得ざるといいますか、こうやることが国のためにいい、こう確信して御審議を願っておるのであります。
  24. 黒田寿男

    黒田委員 ただいまの首相の御答弁は、私の求めました答弁に対して答えられておりません。私は、首相が各関係官庁の内部においてどういう交渉をしておられたかというようなことを尋ねたのではない。ひとたび国会承認を受けておる条約を、国会に全然知らせないで、首相が旅先で債権であったものを贈与に変えるというようなことをされましたそのやり方国会に対するそのやり方が問題だ、私はそれを今問題にしておるのです。総理にその点を聞きたい。
  25. 池田勇人

    池田国務大臣 国会におきましても、タイ特別円解決につきましてこれが難航しておるということは十分御承知であったと思います。しこうして、こういう問題をいつまでもほうっておくことはよくないので、われわれは政府外交権に基づいて一応調印したのであります。その調印の是非につきましては、今御審議を願っておるのであります。   〔発言する者あり〕
  26. 黒田寿男

    黒田委員 首相の御答弁は依然として私の質問に対する答弁にはなっておりません。ただ、首相の御答弁の合間に、自民党の委員諸君から、政府は今回の改定協定ももちろん国会承認を求めているのであるから政府独断で勝手にやったということにはならないじゃないかという、何だか不規則な御発言が出たようでありますから、これに対して私は私の考え方を申し上げてみたいと思う。すべての条約についてその署名前に国会承認を得るというようなことは、理想論としてはとにかく、現実にはなかなか困難であるというくらいのことは私どももよくわかっておる。しかしながら、問題は、今回の改定の特殊性にあるのです。今回の改定は、かつて国会承認したことのある協定改定するという特殊的なものである。こういう特殊的なものであるから、その改定については、署名前に、池田総理タイ国首相改定の約束をされる前に、少なくとも政府から改定の内容の概略あるいは改定を必要とする理由等について国会で明らかにして議院の見解を徴するというくらいのことをすることが、最低の——私は法律的とは申しません。最低の政治的義務としてやっておいてしかるべきことであったと思う。これは民主主義議会制度のもとにおいて行政府の立法府に対する最小限度の政治的、道義的義務であると私は思う。池田首相はこの最小限度の政治的義務さえ尽くされなかったのではないか。私は法律論をやっておるのではございません。政治論として申し上げた。最小限度のこの政治的義務さえも尽くされなかったのではないかと私は思う。首相は率直にそういうやり方については自己反省をされたらどうですか。私はこの点について御所見を承っておきたいと思う。
  27. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、一国の総理として、世界の情勢、東南アジアのこと、また従来のいきさつを考えまして、この改定協定を結ぶことが適当な時期であり、適当なことであると考えてやったのであります。
  28. 黒田寿男

    黒田委員 依然として国会との関係については何も申されません。なぜ率直に自己批判の態度を示されないのか。自己批判の態度を示されたとしても、私どもは少しもそれをどうのこうのと言う考えはなく、かえって首相の率直な態度にむしろ賛意を表するくらいに私ども考えている。ところが、それをなされない。そこで私は総理に申し上げる。  元来、条約締結について国会承認を受けるということは、内閣の行なう外交国会の民主的コントロールのもとに置くということです。こんな初歩的なことを申し上げるのはどうかと思いますけれども、そういう意図においてこの制度が確立されておるのでございまして、その理由は、条約締結国家国民の重要な利害に関するものでありますから、これを単に内閣の外交処理の行政的権能のみで決定することにまかせず、国会による民主的コントロールのもとに置くことになっておる。これは、宮廷外交、官僚主義的外交を排して、外交国民外交とするための最小限度の要請に基づくものです。このことは、根本的には、行政府たる内閣と立法府たる国会との権限の分配に関する問題であります。現行憲法は、明治憲法と異なって、国会を国権の最高機関と定めて、国会の一般的な統制のもとに内閣をして行政を行なわしめるということになっておるのであります。この新憲法の精神を理解しているとするならば、どうして、今回池田首相によって行なわれましたような、わが国外交史上に前例のないような、独断的、不意打ち的な改定がやられるでありましょうか。池田首相のこのようなやり方は、断じて民主主義的ではない。国会の最高機関的地位を無視しているものであると考える。このようなやり方に対しては、われわれのような改定に反対の立場に立つ者だけではございません、改定賛成の者といえどもおそらく承服しかねることと私は思う。自民党の諸君の中にも、この点についてはわれわれと同じ考え方を持っている人が私はおると思う。確かにおる。私は知っておる。先ほども申しましたように、今回のこの協定も現在国会承認を求めているのだから国会無視にはならないのだというような弁解は、官僚主義的な形式論にすぎません。  そこで、私は質問をいたします。こういう例がわが国にあったでしょうか。新憲法になってこういう例があったでしょうか、それを聞かしてもらいたい。
  29. 池田勇人

    池田国務大臣 私は憲法の条章に従いましてやっておるのでございます。そうして、黒田さんは御存じなかったかもわかりませんが、この特別円問題は、過去六年間両国間で盛んに議論を戦わし、そうしてまた、タイにおきましても、一般世論としても、また在留邦人からも、早く解決をしてもらいたいという希望がほうはいとして沸いておったのであります。われわれも、戦争中の債務でございます。これをいつまでもほうっておくわけにいかない。もう解決しなければならぬ情勢は内外ともに熟しておったのであります。この見地に立って私はやったので、唐突としてやったということは誤解でございます。
  30. 黒田寿男

    黒田委員 私が今質問しておりますのは、こういうやり方条約改定方法わが国に例があったかどうかということを質問したのです。
  31. 池田勇人

    池田国務大臣 これは、何でございます。条約改定というのは、安保条約改定がございます。しかし、この特別円の問題は、ずいぶん御研究願えば、例のないようなむずかしい問題でございます。だから、両国間の国交正常化といいますか、貿易拡大、親善確保の上におきましては、従来の協定を変えることもあり得ることなんです。それが両国間あるいはアジアの発展に役立つことならば、変えることも何らやぶさかではございません。だから、この問題はやはり国会承認を得てやる、これが憲法の精神だと思います。
  32. 黒田寿男

    黒田委員 このたびの御答弁も、また首相は私の質問には答えられておりません。しかし、この問題をしつこく首相に繰り返して質問いたしましても、私は同じことになると思います。なぜ同じことになるか、答弁が得られないか、それは前例がないからである。ないから言えないのだ、だから答えられない、そういうように私は断定して質問を進めます。  これまでわが国に例がなかったような例外的なやり方、これは例外といっても単なる例外ではない。例外中の例外、極端な例外だと私は思う。だが、例外もここまで来れば、もはや、例外的ではあるけれども合法的な範囲だというような、そういうものではない。たとい形式的には違法ではないかもわかりません。しかし、実質的には違法であり、少なくとも不当であると私は考えます。形式的にはあるいは憲法違反にならぬという弁解は立つかもわかりません。しかし、実質的には私は憲法の精神に反するものだと思います。そうお考えになりませんか。
  33. 池田勇人

    池田国務大臣 形式的には違法でない、合法だ、その通りでございます。実質的にも、私は、両国の関係、そうしてアジアの繁栄のためになることならば、実質的にもいいことであると考えております。
  34. 小坂善太郎

    ○小坂国務大臣 条約を変えまする場合に、事前に条約を変えますということを国会の御承認を求めて、そして条約を変えて、またその後に国会の御承認を求めてそして批准すべしというのが黒田さんの御所見のようでございます。しこうして、そういう例があったかということでございます。今タイの特別円という例は特別円しかありませんけれども、他に今のような条約を変える例があったかと言われれば、安全保障条約改定がまさにそれであると思います。それは、総理がそういう新安保条約を結んで、そうしてそれを国会に御承認願いたい、こういうことでございまして、実態的には少しも違っておりません。   〔発言する者多し〕
  35. 森下國雄

    森下委員長 お静かに願います。——発言者がわかりませんから、お静かに願います。
  36. 黒田寿男

    黒田委員 私が御答弁を求めませんでした小坂外務大臣が進んで立って御説明になりましたけれども、私は小坂外務大臣が言われるようなことを言ったつもりはありません。あまりに形式的に、そして不正解にあなたは解釈しておいでになります。しかし、これもこういうことを外務大臣とここで議論をかわしておりましては、とうとい時間を浪費することになると思いますから、私の次の質問を進めます。  国は、事業のために費用を出したり、あるいは給料を払うたり、また投資をしたり融資いたしたりするために国費を使います。こういうことは問題ではございませんが、しかし、多額の国費を外国に対して無償で贈与するというようなことになりますと、それにはよほどの、特別の、理由がなければならぬと私は思います。個人の場合でも、投資したり、貸付をしたりするような場合は別といたしまして、他人にただで与えるということになって参りますと、それは少額のポケット・マネーでありますような場合は、格別でありますけれども多額の金となるとよほど考えさせられるのが私は普通だと思います。池田首相の大所高所論だけでは、特にタイ国に対してだけこのような利益を与えるという理由としては、私どもはとうてい首肯することはできません。池田首相が自分の所有の金銭を処分されるのでありますならば、私どもそういうことを議論しようなどと考えません。けれどもタイ特別円協定改定によって、わが国債権となるべき多額の金を無償で贈与するということに切りかえる約束を首相はされた。タイ国にただでやろうというその金は国家の所有物であります。国民の尊い血税のかたまりであります。(「その通りだ」と呼ぶ者あり)それは一銭一厘たりといえどもむだに使用してはならないものです。いはば国民から信託されておる金です。   〔発言する者あり〕
  37. 森下國雄

    森下委員長 御静粛に願います。
  38. 黒田寿男

    黒田委員 国民は、議会政府とに対して、国家国民のためにできるだけ有利にこの血税を使用するよう、信託しておるのであります。池田首相の大所高所論によっては、われわれは、タイに九十六億円の多額の金をただで与える理由がどうしてものみ込めない。タイに対するこのような利益の供与は、十分な理由がなく、根拠がなくして、国民の血税を多額に浪費するものであると私は断言せざるを得ない。池田総理タイ特別円協定改定は、国民の信託にそむき、国民の利益をそこない、国民に対する背任的行為だと私は思う。どうですか。
  39. 池田勇人

    池田国務大臣 タイ特別円の発生した理由、そうして、その後の状況を御研究願いたいと思います。私は大事な問題でございますからここで今までの答弁を繰り返して申し上げますが、御承知の通り、大東亜戦争中、日本の軍部並びに官憲がタイから十五億円の物資を徴発したのであります。しこうして、タイ日本との間におきましては、これは金約款付でございます。そうして、徴発した当初におきましては、大体半分くらいを金で払っております。だんだんそれが十分の一あるいは十五分の一くらいに、金約款がありますが両者の協定で金で払う分を極力日本の方としては減らして、そうして終戦になったわけでございます。その後において、向こうでは、バーツをポンドに換算して千三百五十億の返還を要求して参りました。われわれは、そういうわけにはいかないとこういうので、極力これに反対したのであります。そうして、長い間の折衝によりまして百五十億円にこれを切り下げて交渉したのであります。そうして、向こうは、初めは金約款があったのだから千三百五十億円と言っておりましたが、われわれとしてはそうはいかないというので、金約款がありますうち、特定の支払いを四千四百万円払います、こういうので、十五億円から四千四百万円を引いて、そうして換算いたしますと、四千四百万が今の金になりますと三十七億円になります。別に〇・五トンの金約款の分を払う。そして十五億円から四千四百万円を引いたものと、残りの十四億何ぼで五十四億は払いましょう。そうして、百五十億円からそれを引いた九十六億円をどうしようかということになったのであります。九十六億円をどうしようかというときに、二条でもって投資またはクレジットの形式によって日本の資本財あるいは労務をタイに供給する、こういうことになった。タイに供給するというこれは供給の義務です。供給の義務をどういうふうな形でやろうかというのが協定の四条でございます。合同委員会を開いて、その九十六億円の供給の義務を四条の規定によって合同委員会できめようというのが、これはきまりません。われわれは供給の義務を持っておる。それがきまらない。じんぜんとしておる間に、タイとしては、戦争中に今の金ならば千三百五十億円のものを日本に徴発せられて、五十四億円を払ってもらって、あとの九十六億円が借金になるということは、われわれタイ国民としては考えられぬことだ、千三百五十億円の現在価値のものを徴発せられて、まだ九十六億円の債務を払うということは、われわれとしては納得できない、条約の有効なところは認めるけれども、ほんとうに日本がアジアの一員として、タイから今の金で千三百五十億円を徴発したことをお考えになるのならば、この際、供給義務を免除しますから、長期間のあれで九十六億円をなしくずしにしてくれないかということで、タイ日本との過去の状態、そうしてまた今後日本タイ並びに東南アジアの繁栄を期待する上におきまして、このことは、一ぺんに九十六億円のものを出して、そうしていつまでそのものがあるか、こういうことは両国間でなかなかよくいくものじゃございません。資本財あるいは労務をクレジットあるいは投資の形式で九十六億円を出して、それが将来どうなるかということを考える。さしむき九十六億円要ります。それで、クレジットならば金利をどうするか、そんなことをしておるといつまでも話が済まぬ。二十年も三十年も九十六億円を安い利子でクレジットするのならば、今の協定のように、十億円ずつ払って八年間でやる、これの方が日本としては非常に得でございます。できることとできないこと、それをできないのだと言って逃げるよりも、われわれは、過去のことを考えて、でかして、両国の繁栄とアジアの発展に協力することが日本のとるべき策と考えたわけでございます。
  40. 黒田寿男

    黒田委員 私は、ただいまのお話を承りまして、池田首相がいつの間にタイ国国民立場になられたのか、そういう疑問が起こらざるを得ないのです。それからまた、三十年協定——せっかく国会承認いたしました三十年協定が、何か非常に悪いものであるかのような御結論になるようなお話だったと思います。私は納得できませんが、きょうは総括質問でございますから、この点につきましても、日を改めまして、もっと数字的にも問題を提出して、納得のできない点については徹底的に追及したいと思います。  私は、池田首相の申されましたような大所高所論だけではどうしても納得ができません。タイだけに特にこのような形で政治的決断を下されましたのはどういう意味であるかということが、どうしてもわからぬ。私どもは、こうではないかと思う。タイはSEATO本部の所在地であります。SEATOの中核である。池田首相のいわゆる自由アジア国家群の協力強化東アジア反共戦線の強化策が、同じ東南アジアの中立国であるビルマの賠償の再検討の要求についてはこれをあとに回して、タイに対してのみ急速にこのような結論を下させたのではないか、私はそう思う。こういう意味で、タイ特別円協定改定は、池田首相が現に進めておいでになります日韓会談推進の外交政策とも合体して、東アジア冷戦体制の促進強化を目標とするそういう池田外交一つの現われである、私どもはこういうように考える。総理の御見解を聞きたいと思います。
  41. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、東南アジアから帰りました直後は、タイの特別円を解決してビルマの賠償問題を解決しなかった、それで今あなたのようなお話が言われたことを聞いております。しかし、結果はどうでございましょう。私は、ビルマにおきましてウ・ヌーあるいは野党のウ・バ・スエ、ウ・チョウ・ニェン等とひざをまじえて話をしました。ビルマの経済復興のおくれたことをじゅんじゅんと説いて、そして、賠償の問題を片づける前に、その前提となるあなた方の経済復興計画を立てるのが先ではないかというので、それなら一つ三人委員会を設けるとかあるいは調査団をよこしてわれわれの経済計画について意見を述べてくれ、こういうふうに、タイのように今までの解決をするのみならず、将来の解決の素地を作ろうというところまでわれわれは行っておるのであります。ようやくこのごろは国内でもそれがおわかりいただいたようでございまして、けさも参議院でそういう意味の社会党のお話がございました。ほんとうに私はわが意を得たりと思います。われわれは、ほんとうにビルマをりっぱな国にしなければならぬという考え方のもとに根本的な方法を討議したのでございます。従いまして、その後においても、クーデター前におきましては、ウ・ヌー首相が四月ごろ来るというふうな申し出もあり、また、オン・ジー通産大臣も来るとか言っておりました。非常に好感を持って迎えられた。決して、自由国家群だとか、あるいはは中立国だとか、われわれの外交を二つにするという考え方は毛頭持っていないのでありまして、われわれは、ビルマのようなおくれた国ほどこちらから力を向けていかなければならぬ、こう考えておる次第でございます。
  42. 黒田寿男

    黒田委員 これは政治的見解の相違として私は承っておきます。納得することはできません。  そこで、タイ国に対して今回のような多額の利益を与えますことは、外国をしてわが国国家財政に何か相当の余裕があるかのごとく思わせることになって、たとえば、日韓会談を通じてわが国に法外の金を要求して虎視たんたんとねらっております韓国に対して、日本に不利益な影響を与えるという、そういうことの材料になりはしないかということを私ども考えないわけにゆかない。ビルマ賠償額改定の要求にも決して影響なしとは考えません。その他の国に対する関係におきましても悪影響を残すことと、私は日本国民立場から憂慮しておるのであります。首相は、このように不利益な影響を与えるかもわからないという考え方に対しましてはどういう御所見ですか。
  43. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、日本のとったタイ特別円に対する態度は、東南アジアはもちろん、世界各国から賞賛を受けるという確信を持っておるのであります。この長い間の懸案を解決したからといって、日本に非常に金があるとか、あるいはそれの気持でビルマ賠償とか韓国請求権問題の解決が行なわれるのではないかとか、そういうことは私は思い過ぎじゃないかと思います。われわれは、ケース・バイ・ケースで、日本のわれわれの考え方を率直に申し述べて、公正な協定を結ぶ考えでおるのであります。
  44. 黒田寿男

    黒田委員 私は、タイ特別円協定改定問題につきましては多くの問題点があると思っておりますけれども、それは今後この委員会におきまして徹底的に論議することにいたしまして、私のきょうの質問は総括的質問でございますから、タイ問題に対しても序論的な質疑をしたにすぎません。で、このタイ問題につきましては、今日はこの程度で打ち切りたいと思います。私のただいまの質問は、タイ特別円協定改定の内容に関する質問と申しますよりも、この改定において露呈せられました池田外交やり方、その官僚性、独断性、反民主性について、これを国会議員としてはどうしても黙視することができず、それを指摘せざるを得ないという、そういう考え方でこれを取り上げたのであります。タイ特別円の問題だけではございません。池田内閣本質あるいは池田外交やり方、その危険性、非民主性というものにつきまして、きょうはしかしこの程度で私の質問を終えます。  次にこれから順序を追いましてガリアオ・エロアの処理協定から質問を進めたいと思います。  この際、委員長に特に希望したいことがございます。ガリオア・エロア日援助は、先ほども申しましたように、長い間それが贈与であるかあるいは債務であるかということにつきまして論争が続けられて参りました。しかし、今まではいわば論争のための論争の段階でございましたけれども、しかしながら、いよいよ今回は、ガリオア・エロア日援助債務だから支払うのだということで、その支払金の二回分も政府は予算の中に出してこられました。また、支払いの基礎になる債務の負担そのものの承認を、支払い協定承認という形式で今国会に求めてこられたのであります。こうなって参りますと、国会における論争も、従来はいわば竹刀で論争しておったと言うことができるとすれば、今度は真剣勝負として論争するということになる。それほど問題は深刻になってくる。今まではいわば断片的な方法でこの問題についての質問が行なわれておったのであります。むろん、それは従来の国会審議の上では、当然そうならざるを得なかったことであると思いますが、現在の国会での質疑はそうはいきません。従来の質疑の成果はむろん私どもはよく吸収し、これを生かして利用しながら、われわれは、今後は、体系的に、詳細に、微に入り細をうがって、徹底的に、質疑を続けていくつもりでございますから、委員長は私どものこの方針をよく理解せられまして委員会の議事の進行に当たられんことを特に希望いたします。
  45. 森下國雄

    森下委員長 委員長から申し上げます。ただいまのお話のように、なるたけあなたのりっぱな御意見、御質問を十分お述べ下さいまして、そうして他と重複をあまりしないように。あなたの御意見を非常に尊重いたします。
  46. 黒田寿男

    黒田委員 池田首相質問いたします。  先ほども申しましたように、ガリオア・エロア日援助債務贈与かということが本協定審議の論争の中心になるべき問題であります。従って、私の質問もこの問題から入っていきたいと思いますが、しかし、その前に、ガリオア・エロア日援助債務贈与かという性格を決定するために、根本的に基礎的に、その判断の資料となるものとして、明らかにしておく必要のあるものがあります。それは、ガリオア・エロアという形で対日援助が行なわれました時期において、わが国がどういう政治的境遇に置かれておったかということ、わが国相手国であるアメリカとの国際的地位を比較して、それがどういう関係に置かれておったかということであります。現在わが国は、形式的には平和条約締結によりまして一応独立国となったと見られております。アメリカに対しとにかく対等平等の立場関係することができ、わが国の自由意思をもってアメリカと取引することができる状態になっていると考えられております。ただし、私は、軍事的にも、経済的にも、政治的にも、言葉の文字通り対等平等ではなくて、その反対であるとは考えますが、一応は独立国同士の関係と見られております。しかし、ガリオア・エロア日援助が行なわれました時期は、対日平和条約締結前でありまして、日本は連合国軍の、実質的にはアメリカ軍の、占領下に置かれておりまして、わが国の主権は連合国総司令官マッカーサーの超憲法的権力のもとに置かれ、独立は奪われ、外交権は全面的に停止せられ、貿易は全面的に管理せられておった時期であります。これを要するに、アメリカ日本との当時の国際的地位は、対等平等の立場で自由意思をもって取引ができるというような関係ではなくて、絶対権力者としての支配者と、その意思に従うほかない被支配者との関係に置かれておったのであります。このことから次のことが言えると思います。アメリカ日本とは、契約的基礎の上に立つ何らかの国際的取りきめによって債権債務を発生させるような関係にはなかったということであります。通常の法的関係をもって律するような関係を打ち立てることは、この時期にはできない状態だったということであります。ガリオア援助の性格は、簡単に法的な観念をもって割り切れるようなそういう単純なものではございません。ガリオア援助は、債権債務などの観念を超越した、いわば超法律的な境遇のもとで行なわれたものであります。ガリオア・エロア日援助は、そういう時期においてアメリカの占領政策として行なわれたものであります。通常時において援助協定締結に基づいて援助が行なわれるといったような、そういうものとは根本的に違っていた。だから、同じアメリカからのわが国に対する援助と申しましても、「日本国アメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定すなわちMSA協定のごとき一定の国際的取りきめがあって、それに基づく援助が行なわれるというような、そのようなものとは本質的に違ったものであった。そういうふうに考える必要があると思います。この点について、これは根本論でございますから、これを総理はどういうふうにお考えになりますか。
  47. 池田勇人

    池田国務大臣 対日援助は占領下に行なわれたのでございまして、これが普通の状態債権債務というものではございません。だから、そのときにおきましては債務と心得るということでいっているのであります。もらったものもございましょうし、あるいは支払うべきものもある、こう考えておったのであります。
  48. 黒田寿男

    黒田委員 この問題につきまして、私はこの委員会で、私自身として今私が申し上げましたような見地から討論を深めていきたいと考えます。これからもっと深く突っ込んで聞いてみたいと思います。  ガリオア援助が行なわれておりましたころ、そういう境遇のもとに日本が置かれておりましたから、これは申すまでもございませんが、何らかの公的協定文書があってこういう援助を受けたというようなものではなかった。これは事実の問題でございますが、いかがでございましょう。
  49. 池田勇人

    池田国務大臣 これは、一九四六年の覚書によりまして、この援助のものは、援助の支払い、計算については追ってきめる、こういうことになっております。その他、われわれが債務と心得るという根拠につきましては、資料で提出をしておると考えております。
  50. 黒田寿男

    黒田委員 債務と心得るというのと債務というのはどこが違うか、私はあとで詳細に特にこの問題についてはまた論じます。  その問題はあとで論ずるとしまして、一体ガリオア援助本質は何かということを考えてみなければなりません。ガリオア援助は、ただいま申しましたように、契約基礎に基づく援助ではなくて、それはアメリカ政策の実行である。しからば、どういう政策であるか、それはアメリカの占領政策の実行である。こういうものです。(発言する者あり)あとから話しますから、ちょっとよく聞いて下さい。途中で変なことを言われては困ります。   〔発言する者あり〕
  51. 森下國雄

    森下委員長 静粛に。
  52. 黒田寿男

    黒田委員 債務贈与かということを論じます前に、このガリオア援助本質、すなわち、それが占領政策としての援助である、すなわち、アメリカの一方的意思に基づく政策である、契約の基礎に立つものとは根本的に違っている、このことをはっきりと知る必要があります。大体首相もこういうようにお考えになることと思いますが、念のために伺っておきます。
  53. 池田勇人

    池田国務大臣 占領下におけるアメリカ援助でございます。援助だから無償というわけにはきまりません。有償の場合もある、そういうことも覚書ではっきり言っているのであります。
  54. 黒田寿男

    黒田委員 それは、今総理から御説明を受けなくても、私どもアメリカの国内法のことも一応心得ております。これもまたあとから申します。  そこで、質問いたしますが、ガリオア協定第一条の、経済援助による債務の発生というものは、これはどういうことであるか。ガリオア・エロア援助による物資の輸入の売買代金を払う債務というような意味のものでございましょうか。ちょっとこの点はっきりしませんのでお伺いしておきます。
  55. 池田勇人

    池田国務大臣 これは、今まで多額援助を受けております。そのうちどれだけを払うかということを両君で話をしまして、そして、国会承認を得て、そこに債務が発生するのであります。債務が発生した、当然の結果として、それを支払うという行為に出るのであります。
  56. 黒田寿男

    黒田委員 これはもう少し私の考え方を申し上げてからさらにこの問題に触れることにいたしましょう。  私が今お尋ねしましたのは、ガリオア物資を輸入したのでございますが、それは、普通に言う売買代金の支払いというようなものかどうか、そういうものではないではないか、ということを質問したのでございます。
  57. 池田勇人

    池田国務大臣 そういう御質問に対して答えたのであります。多額援助が来ております。そのうちどれだけを支払うかということを話し合いをつけて、四億九千万ドル払いましょうということに一応きめまして、それの裏づけをするために国会に提案いたしまして御審議願っておるのでございます。
  58. 黒田寿男

    黒田委員 四億九千万ドル払おうという協定をしたのは最近のことであります。私が今質問しているのは、ガリオア・エロア援助が現実に行なわれておった当時のことについてであります。その時期において、今回の協定で定められているような債権債務という関係が成り立っていたかどうかということを質問したのであります。
  59. 池田勇人

    池田国務大臣 そのときには、先ほど申し上げましたように、支払いの方法、計算については後日きめるということになっていますから、債権債務という法律上の国家間の義務は発生いたしておりません。
  60. 黒田寿男

    黒田委員 私は、ただいまの総理の御答弁は非常に重要だと思います。私も、その当時アメリカ日本との間に債権債務関係というようなものは発生しておったものではない、そう考えておる。その理由をいろいろな角度からこれから申し上げますが、総理も、あの当時は、私が申し上げましたようなそういうようなものであったというようにお答えになりました。それは私と同意見であります。だから、普通の売買代金を払わなければならぬというような意味での債務というものではなかった。今回はこの協定債務というものにしておりますけれども、あの当時としては、なるほどもらったのだから、何か報いをしたいという気持はあったでしょうが、それが、今総理の言われましたように、国際間の債権債務という関係によるものではなかった。私は、そういう総理のお答えは正しいと思います。そこで、私の質問のような意味にお答え下さったわけで、ガリオア・エロア債務性の問題に関して討論を進めていきます上に非常に参考になると思います。私は、占領政策としてのガリオア援助で行なわれた物資の輸入からは、ただいま総理のおっしゃいましたように、直ちにその代金の支払債務というような法的債務が発生するものではない。その当時はそういうものではなかったと考える。さきに述べましたように、ガリオア・エロア物資の輸入がいわゆる輸入というものとはどんなに異なっておったかということは、あの当時の経験を持つ者はよくこのことを知っております。通常の商業輸入と比べまして、ガリオア物資の輸入がどんなに異なった性格、内容を持っておったかということはよく知られておるのであります。ガリオア物資の輸入は、通常の輸入、国際的の売買、国際貿易の観念では説明できぬものです。輸入とは言っておりましたけれども、普通の国際的の売買の観念、貿易の観念、輸入の観念では説明できぬような内容を持っておったものである。この輸入は、わが国が自由な意思で行ない得た輸入ではない。そのことは政府もむろんお認めになると思います。これはいかがですか。
  61. 池田勇人

    池田国務大臣 普通の売買契約によっている確定債務というものではございません。それは、占領下におきまして向こうが貿易・為替を管理しておったのでございます。だといって、われわれ全然これをもらったものというわけにはむろんいかぬことも御承知と思います。
  62. 黒田寿男

    黒田委員 もらったものかどうかということを私は今問題にしておるのではない。これを問題にする前提として、その当時のいわゆる輸入というものの性格、内容を今質問をしたのです。むろん、あの当時わが国が自由な意思でこれは幾らで買いたいというようなことで輸入をしたものではなかったということは政府も認められるだろうと思いますから、こういうことを改めて質問することはやめましょう。これはだれも疑う者がない。けれども、少しだけ実例を申し上げておいた方が委員諸君の御理解に役立つと思いますので、過去において私どもの経験したことをもう一度繰り返して申し上げてみたい。  商業輸入でありますならば、買手であるわが国に物資の種類あるいは品質等につきましての選択権があるはずでありますけれども、それはなかったのであります。たとえば、食糧につきましても、商業輸入として日本人の食糧の目的にするための輸入でありますならば、それに相当する種類と品質の食糧を輸入するのが普通であります。そのことが当時はできなかった。ガリオア援助の食糧品はそういうものではなかった。日本政府の自主的買付ではなかった。私はこれは間違いないことだと思いますが、念のために聞いておきます。
  63. 池田勇人

    池田国務大臣 輸入食糧品の要請をしたこともありますし、輸入食糧品の放出に感謝決議をしたこともあるのであります。一々の品目につきまして、その品質等についてこちらが発言権があったわけではございません。
  64. 黒田寿男

    黒田委員 むろん、もらうものにしたって多少の希望を述べることはできるでしょうけれども、私が今申し上げておりますのは、いわゆる自主的買付であったのではないではないかということです。これについても私の申し上げますようなものであったと一応御確認を得ておいた方が議論を進める上に都合がよいと思います。自主的買付であったかどうか、私はそうではないと思います。
  65. 池田勇人

    池田国務大臣 こちらから申し入れた場合もありましょう。また、日本人の気持を向こうがくんで、そうして輸入した場合もありましょう。しかし、いずれにしても、その貿易は向こうの手で管理施行されたことは事実であります。
  66. 黒田寿男

    黒田委員 私の申したと同じ言葉をお使いにはなりませんでしたけれども、貿易は先方の完全な管理下にある、そのことが私どもは自主的買付ではないという意味でございますから、私の質問に肯定的に答えられたものだと私は思います。こういうことを今になって否定することなんかできるものではない。私はありのままを言うておる。ありのままに事実を確定して、それから債務贈与かという問題の判断に入らなければなりませんから、過去のことで、明白なことではありますけれども、一応このことを申し上げたのであります。  もう一つ例をあげてみましょう。価格についてはどうでしたか。価格に関する何らの協定もなく輸入されたのではなかったのですか。幾らの価格かわからないままにとにかく入ってきた、そういう関係ではなかったか。普通の売買なら、一々、これは幾らで買うということの話し合いができてからでなければ輸入をしません。しかし、価格についての何らの協定もなく輸入されたものである、そういうものであったのじゃございませんでしょうか。
  67. 池田勇人

    池田国務大臣 価格につきましても一応向こうの計算でいっております。ただ、向こうの計算と通産省で調べたものにつきましての差額がございますが、これは運貸その他につきましてこちらが査定を加えたと聞いております。
  68. 黒田寿男

    黒田委員 もし普通の商業輸入でございますならば、品物が買手の手に入れば、それを自由に処分することができる、これは当然であります。ところが、ガリオア・エロア物資では自由処分を許されない。総司令部の指令に基づいて一つ一つ物資の処分及びその代金の使用方法までが規制せられておったのです。そういう状態ではなかったですか。
  69. 池田勇人

    池田国務大臣 そういうことは、今の貿易管理のもとにやられておったので、当然のことでございます。事実はその通りでございます。
  70. 黒田寿男

    黒田委員 また、先ほど申しましたように、商業輸入であるならば、代金の弁済方法というようなものもあらかじめきめられておるはずでございますけれども、そういうこともない。これは御答弁をいただかなくてもわかっております。別に代金弁済の方法がきめられておったのじゃないということは明らかでございますから、御答弁を求めません。こういう性質のものであったということを私は申し上げて、ガリオア物資のいわゆる輸入の特質を判断する資料とし、この点はこれだけで終えたいと思います。  私は、こういうように一つ一つあげますと、まだ幾らでもあげることがございますが、時間のこともございますからあげません。ガリオア輸入が商業輸入と同じであったのは、ガリオア・エロアで輸入いたしました物資を国民が代金を払って買わされたということ、ただそれだけであった、こういう状態です。その食糧のことも多少考えてみたいと思う。それは、食糧といいましても、中には脱脂大豆の粉とかトウモロコシの粉とか、そういうものが引き渡されたのであります。敗戦後の日本人は、そのような家畜のえさでも主食として受け入れたのであります。それでも日本国民に対する贈与であると思ったからこそ、すなわちこういうものでも贈与だ、買うたのではないんだ、アメリカ贈与してくれたんだと思うたからこそ、国会感謝決議をしたのです。(「国民は金を払っているじゃないか」と呼ぶ者あり)国民は払っておりますけれども政府は払ってない。先ほど言いましたように、国民は金を払って買わされた。だけれども政府は払っておりません。だから、国の国に対する贈与だと考えて、ありがたいことだと感謝決議をした、これが私はその当時の多くの人々の偽らざる気持であったと思います。慶応大学教授の池田潔氏がある新聞に書いておられた。「われわれはそう思って国民としても感謝しておった、今ごろになって債務とは何ごとぞ」と言っておられる。慶応大学教授の池田潔氏といえば良識の代表と思われるような人であります。そういう人がそういうふうに言っておるのでありますから、これはやはりその当時みんなそう考えておったということを認めていいのです。何も強弁する必要は私はないと思う。恩になった恩になったと言われますが、私はあとで、日本側もどんな利益をアメリカに与えておったということを申しましょう。あまり恩になった恩になったというふうにばかり考えたり言ったりするので自民党のような議論が出てくるのですが、ガリオア援助というものはそんななまやさしいものではなかったということを私はあとで詳細に申し上げます。  要するに私は、ガリオア・エロア日援助という事実の中からは、代金債務というようなものを引き出すことはどう考えてみても私にはできないのです。協定第一条は、何か援助物資を買うたものの代金だというように解釈できるような条文になっております。私は何も無益なことを考えようと思って考えたのじゃなくて、事の真相を知ろうと思っていろいろ考えてみたのですが、どうしてもガリオア援助という事実の中からいわゆる代金債務というようなものを導き出すというようなこと、そういう結論は私には導き出せない。しかし、よく考えてみれば、債務だというような法律的観念、政府の言葉で申しますと法的債務というような考え方は、出てこないのがむしろ当然である。それがガリオア援助というものの本質から出てくる結論である。私はそう思いますが、このことに関しても少し申し上げます。  そこで、私の考え方を述べながら池田首相ないし政府の見解を伺いたいと思います。私は、これは質問と申しますよりも、意見だけ申し上げておいて、それでいいとも思います。先ほども申し上げましたように、ガリオア援助の輸入物資の代金が売買による代金債務であるというのであれば、むろん売買契約というものがあったということを立証しなければなりませんけれども、ガリオア援助やり方の中から売買というような契約の存在を見つけ出すことはできないということは、これはもう先ほどいろいろあげました例で私はよくわかると思います。私の考え方が間違っておれば総理からお答え願いたい。間違っておりませんければそのままでけっこうです。
  71. 池田勇人

    池田国務大臣 私は、今のガリオア・エロア援助は、一部豆かすやあるいはトウモロコシの分があったかと思いますが、しかし、それは九牛の一毛というぐらいでございます。小麦とか砂糖とかあるいは綿花、石油、石炭、こういうものが大部分でございまして、例外的のものをもってこのアメリカの好意を否定するような言動は、私は、過去において輸入物資の放出に国会をあげて感謝した、これから言ってもよくないと思います。もちろん、あなたのおっしゃるように、売買契約でやったのではございません。先ほど来申し上げておるように、一般の商業輸入も、ガリオア・エロアによります援助物資も、貿易資金特別会計の方で進駐軍がこれを管理運営しておったのでございます。しかし、それだからといって、あの指令にありますごとく、援助物資の支払方法、計算については追ってきめる、こう言っているときに、これは頭からもらったもんだ、そうしてごく一部のものが、豆かすであったからこれはもうくだらぬものだというふうなことを言うのは、私は国際的にかえってどうかと思うのであります。
  72. 黒田寿男

    黒田委員 私は別に悪く言うつもりで言うたのではない。こういう例をもってしてみても普通の商業輸入ではなかったという、その事を申し上げるためにさような例を申し上げた。それだけです。感謝したというのはむろんあたりまえでしょう。その感謝したということが問題ではなくて、もろうたから感謝したのだということが問題なんです。今ごろになって、あれは借金だったけれども、感謝したなどというのですが、そういうことはありはありはしなかった。そういう人はおりはしませんでしたよ。その感謝は、贈与されたもんだから感謝した、これが私は感謝の内容であったと思います。感謝してはならぬとか、感謝しなかったとか、感謝するのが悪かったとか、そんなことを言っているのではありません。ただでくれたものならどんなものでも感謝すべきがあたりまえでしょう。それを今ごろになって債務だと言われるから問題になっているのです。  そこで、私は少し問題を進めていきたいと思います。結局は、そういうふうに考えて参りまして、それで一体どう考えればいいのだろうかということになる。私は、ほんとうのことを知ろうと思うから——政府の言われることがよくわからないから、ほんとうのことを明らかにしたいと思って質問している。だから、どう考えればいいのかということである。  私はここで二つの事実を指摘したいと思います。  その第一は、先ほども述べましたことをあらためて言うことになるのでございますが、ガリオア・エロア援助債務であるか贈与であるかということを判断するのに、平常時の観念をもってしてはあやまちに陥る。先に申し述べましたように、ガリオア援助アメリカが占領政策として行なったのである。すなわち、これは日本政府との間に何らかの協定に基づいてなされたものではなくて、アメリカの国内法とアメリカ予算において、一方的にアメリカの意思に基づいてなされたのである。すなわち、援助計画の樹立もその実行方法アメリカ国内法とアメリカ予算に基づいてのみ行なわれたものでありまして、日本政府の意思には左右せられない。むしろ日本政府は指令を受けるという形で行なわれておった。アメリカの一方的政策をその権力をもって実行したものである。こういう内容のものであります。むろん、アメリカと契約を結ぶような資格それ自身が、日本にはなかった。その当時の日本としては外交権が全面的に停止されておったというような状態にあり、貿易が全面的に管理されておったのですから、そういう契約を結ぶというような資格は、繰り返して申しますが、日本にはなかったのです。だから、ガリオア・エロア経済援助から日本協定上の債務が生ずるというようなことはあり得なかったもので、もしアメリカがガリオア物資の援助に対して日本から——これは私は大切なことだと思いますから、よく他の委員諸君にも御研究を願いたい。もしアメリカが物資の援助に対して日本から対価を出させようと思ったとするならば、それは、国際的取りきめから発生する権利によってそれをするものではなくて、占領者の権力をもって、その政策の遂行として、事実上の問題として、それをやる、そういう関係にあったのだと私は思うのです。日本人として、ガリオア物資の輸入によって恩恵を受けたと感じ、それに報ゆるものとして何らかの行為に出たいということ、それは、ありがたいと思った人ならばまことに自然の人情であります。けれども、そういう行為も、これはあくまで事実問題でありまして、何ら法的基礎に基づく義務としてそれをやるというような性質のものではない、こう私は申し上げるのです。  吉田元首相は、昭和二十八年七月七日の衆議院予算委員会でこの問題に触れられまして、法的債務ではないが、独立国民の名誉心から食糧難時代の援助を返したい、こう答弁されております。私もその当時予算委員の一人といたしましてこの耳でその答弁を聞きました。私は思わず自分のひざを打った。なるほど、吉田さんはむずかしいおじいさんでございましたけれども、この発言は、ガリオア・エロア援助に関するアメリカ日本との関係本質をぴたりと言い表わしたものだと、そう私は思った。吉田元首相答弁のように、ガリオア・エロア援助は決して法的債務ではないのです。緒方副総理も、吉田元首相答弁から約二週間くらいたちました後に、衆議院の決算委員会でやはりこう言っておられる。法的に確立した債務ではないが、道義的のものである、こう答弁されておりまして、私はこれは吉田元首相答弁と同趣旨のものだと思います。ガリオア・エロア援助は、だから法的債務ではないのである。吉田元首相ガリオア・エロア援助の熱心な返還論者です。これだけはどうしても返さなければならぬというほど熱心な返還論者です。だから、返そうという考え方は、人によってはあり得ることです。われわれはそう考えない。しかしそう考えたいと思う人がそう考える、そういう人もあるということについて私どもがかれこれ言うのではないのです。ただ、返そうという吉田さんもそれは法的債務だとして返還しようというのではない。国民の名誉の問題としてという意味を吉田元総理は言われたのでありまして、また、緒方元副総理の言葉によれば、これは道義的なものだ、返したいけれども、それは道義的のものとして返すのだ、こう言われた。私は、この見方が正しいと思います。池田首相はその当時吉田元首相の最も有力な補佐の役を勤めておいでになりました大蔵大臣ですが、私は吉田元総理のこの見解、法的債務ではないという考え方が正しいと思います。いかがでございましょうか。
  73. 池田勇人

    池田国務大臣 法的債務ではないということは、今まで答弁したところでおわかりいただけると思います。それで、私は従来、債務と心得る、——債務であるとは言っていない。それを、今回あなた方の御協賛を得まして債務を確定して支払おうというのでございます。誤解があってはいけませんが、あなたは今、もらったものだから感謝決議をした、こうおっしゃるが、あの感謝決議は輸入物資の放出に対して感謝したのでございます。もらったから感謝するということになっておりません。私はその点ははっきりここで申し上げなければならぬ。そして、これは売買契約ではございませんが、ガリオア援助物資につきましては、われわれはこれを国民に売りまして、そのお金を持っているわけです。そのお金のうちから、国会を通過して債務がきまったときに出そう、こういうのでございますから、私は池田潔先生の言葉は直接聞いたり見たりしておりませんが、この点は、国民感情から言っても返すべきものだ、そういう気持で進んでいって、その返すべきものは幾らかということを今国会できめてもらおう、こういうのでございます。
  74. 黒田寿男

    黒田委員 返すか返さぬかということを私は問題にしておるのじゃない。それはあとでやります。吉田元総理は最も熱心な返還論者だということを私は言っておる。その吉田元総理が、ただいま申し上げましたように解釈しておる。私はその解釈が正しいと思う。先ほど池田首相は、その当時の国際関係として、アメリカ日本との間に債権債務関係は生じなかった、こうおっしゃった。私はそれが正しいと思う。そのことを吉田元首相もここで言っておられる。私は、債務であるとか、債務と心得るとか、それはどこが違うかという問題は今ここでは論じません。それは非常な詭弁が含まれている。幾らでもそれは論破することはできますけれども、これはあとにいたします。  そこで、私は理事諸君にお願いしたいと思うのですが、こういうわけですから、ぜひこの委員会に吉田元首相に参考人として出てきてもらいたい。私はそう思う。これはしかし私が直接にお願いすることではございません。理事の諸君に御相談申し上げまして、この委員会の進行中にぜひそうお願いしたいと思います。これはゆっくり御相談していただいてけっこうです。ここで今すぐきめていただかなくてもけっこうです。まだ委員会は進行中でありますから、今すぐ急いできめる必要はございません。私は、もう一つ、吉田元首相にぜひこの委員会に出ていただきたいと思う問題があると思いますが、これはまたあとから申し上げます。ただいま申しました点も、ぜひ吉田元首相に出てきていただきたいと思う理由の一つであります。これも、私ども、真相を突きとめたいから申し上げるのである。  私は、平和条約の中にも、ガリオア援助返済日本債務として義務づけているような明確な規定はないと思いますが、これもあとで申し上げることにいたします。  きょうは、概論的にもう少し進めていきます。私は、第二に、次の事実を指摘したいと思います。先ほどから繰り返して申しますように、ガリオア・エロア援助は、アメリカの占領政策として行なわれたものでありますが、この援助は、アメリカの国内法に基づいてすなおに解釈する必要があると思うのです。この援助が救済であって、本来、対価を要求するものでないということは、それをすなおな気持で解釈すればすぐわかることである。私はそう思う。この問題につきましては、しかし、横路議員が予算委員会における御質問で触れられておりますから、私はあまり詳しく申し上げる必要はないと思います。ただ、ここでこういう方面から見る必要もあるんだということだけ指摘しておきます。これは横路君も触れられた問題でございますが、アメリカの商務省の文書によりますと、占領地での民生品供給は必要であったし、それは占領軍みずからの目的のための支出であったということ、このことがすなおに読みとれるのであります。占領地救済援助、すなわちガリオアは占領行政と密接な関連を持ったものである、米国の占領目的あるいは政治的戦略と密接に結びついておったものであるということが私どもには知られます。商売として物資を供給したものではございません。日本との間に、先ほど申しましたように、公式な文書をもって将来の返還を約すというようなことはあったものではない。ガリオア支出予算を定めました一九四七年法を見ましても、——これも横路委員が詳しく説明しておられますから、ここでは概略だけ申します。ただ、私は、私の論旨を進めていく上において、先ほども申しましたように、われわれ社会党の質問は、今回は、体系的にやっていくというつもりでございますから、一応他の議員の触れた問題でも必要であればそれをわれわれの議論の中に組み入れなければなりません。ただし、すでに他の委員によって詳細に質疑されておりますことは、それを再びは繰り返しません。このガリオア予算は、その使用者は米国でありまして、決してある外国に対する借款というようなものではなかったのであります。援助贈与クレジットに分けまして、ガリオア援助贈与とされております。これに対しまして小坂外務大臣がどうお答えになったかということも私は議事録で読んでおります。だから、きょうは別にそれと同じ答弁をしていただく必要はないと思いますが、要するに、私は、ガリオア援助贈与である、こう読み取ることができる、こう考えます。  それから、もう一つ、制度の上から考えて、これもよく言われることですから簡単に申しますが、見返資金制度、これもやはり一応問題にしておかなければならない。これは対日援助に特有の制度ではなく、むろんマーシャル計画に基づいて採用されました制度でございますが、一九四八年の経済協力法で、この法律に基づいて物資、役務を贈与として供与した場合には、その物資や役務に相当する金額を、援助を受ける国の通貨をもって、その国とアメリカ政府との間で協定した条件により特別勘定として積み立てることを要求しておりまして、この預金がいわゆる見返資金になり、とのファンドはアメリカの意思に従うてその被援助国で運用するという仕組みになっておりますから、ここでもアメリカの意思というものが強く出ておる。こういう制度を設けるということは輸入物資が贈与されたものであるからこそこういう制度になっておるのだ、こういうことがアメリカ側の法律の上から見て私は言えると思います。こう解釈するのが正しいと私は思います。これについてもし反駁が出れば、私の方でも相当詳細に述べたいと思います。しかし、時間の点についてきょうは制限がありますし、人間の体力ということも考えなければなりません。この委員会は午前十時に始まれば午後五時にはきちっと終えていただきたいと思います。私もあまり頑強な方ではありませんから、そうおそくまでやることはごめん願いたいと思います。  ガリオア援助はあくまで占領者の政策であると思いますが、そうでありますからこそ、先ほどのようなアメリカ国内法があったといたしましても、占領政策の常といたしまして、この政策の中に、占領者の恣意の入る余地はもとよりあるのであります。法律にかくかくと書いてあるからその通り厳格にやるというものであれば、それは法的関係の中における現象においてである。しかし、そういう法的関係はない。だから、アメリカの国内法に私が今申しましたように書いてあるからといって、それは必ずしもその通りに行なわれないこともあり得ます。それが私は、やはり、ある意味において占領政策の特徴でもあると思います。でありますから、アメリカの国内法はそうなっておるけれども、ある国に対しては対価を要求せずして終わることもできるし、また、ある国に対しては若干の対価を要求するかもわからないということも、決して、考えられないことはないのです。これは占領政策としてそのくらいの恣意は行なわれるのです。しかし、それは、先ほどから申しますように、あくまで協定に基づく法的権利としてやるといったようなものではないのです。あくまで占領者の権力をもつて、一方的な意思で、事実問題として、このことをやるということは、これは皆無ではございません。ただ、しかし、西独のような場合とはこれは違います。西独の場合にはちゃんと協定があったのですから、日本の場合とはこれは根本的に違う。オーストリアとか韓国というような国は、これは贈与を受けた。それが過去のやり方でありました。  池田首相もかつて大蔵大臣として昭和二十四年四月十三日に衆議院予算委員会で、これは今までよく援用されたことでございますけれども、「ガリオア・エロア援助贈与なりやあるいは貸与なりやという問題は依然としてきまっておりません、私は講和会議においてきまるべきものと考えております」と言われました上に、さらに贈与をも期待しておいでになるというような口ぶりも答弁の中に現われておっだのでございます。先日、三月二日に、横路委員質問に対しましても、「もらう場合もありましょう、払う場合もありましょう、こういう意味で言ったのだ、」こういうことを答弁しておられます。私は、自分の判断から言えば、以上のような事実によって、あくまで債務性を持っておったものとその当時判断されていたものではない、そう考えるわけです。一応総理の御見解を聞いておきたいと思います。
  75. 池田勇人

    池田国務大臣 あなたはアメリカの商務省発行の雑誌に載っておることを引用されておりまするが、商務省発行の雑誌には、グラントのうちへ入れているが、それは、クレジットということになると一銭一厘まで払ってもらうということになるから、一応グラントのうちに入れているのだという説明を加えまして、これは贈与だという解釈ではないということをはっきり言っておるのであります。外務省の方でも十分それは調べておりますから、事務当局から答弁してよろしゅうございます。  それから、マーシャル・プランの分で見返資金をやった、これは払わなくてもいいのだ、こういう国内法があるというのですが、日本にはマーシャル・プランのあれは適用になっておりません。適用になっておるドイツにおきましても、そういう規定があるにかかわらずドイツは払っておるのでございます。だから、あなたの債務性のないということは当たらないと思います。それで、私は、先ほど来申し上げておりますように、吉田さんと同じように債務と心得る、法律上の確定債務ではない、これはあなたも御承知の通りであります。
  76. 黒田寿男

    黒田委員 私はただいまの総理の御答弁に対しまして大いに異論がありますけれども、きょうはもう五時になりましたし、私の質問がここで次の問題に入ることになりますので、それに入りますとちょっと時間がかかりますから、質問を留保させていただきまして、きょうはこの辺で終了さしていただきたいと思います。
  77. 森下國雄

    森下委員長 了承いたしました。  次回は、明日午前十時理事会を開き、理事会散会後委員会を開くこととし、本日はこれにて散会いたします。    午後五時一分散会