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川崎参考人 私は
前田委員長のお
呼び出しで出て参りました
日本オイレス工業株式会社の
川崎宗造でございます。
お
呼び出しがございまして、準備するひまがない。小さい工場を持っておりますと、
求人難で四苦八苦する。そうすると、ごたぶんに漏れず春闘です。せっかく初めてこういうところに呼び出されたのだから、私も何か
一つ勉強してこようと思ったのですけれ
ども、そういう次第で、ない頭のところをますますまとまったことが申し上げられぬ、こう思います。
先ほども
お話がございましたように、私は町の
発明屋というものでございます。町の
発明屋として今まで身近に感じたことを断片的に率直に申し上げまして、お耳をわずらわしたいと思います。ところが、私の話なんかは、それは君、的はずれだよ、そんなのはもう今ごろないよ、というそしりを受けはせぬかと思って心配する次第であります。
私は、
特許というものを
常識程度に全
国民に知らしてもらいたい、熟知さしてもらいたい、これが重要なことじゃないかと思うのです。
特許庁も七十周年記念というのを二、三年前にやられたと思うのですが、七十年も過ぎていて、
特許というものを認識しない人がたくさんある。これが私は大きな欠陥だと思います。
発明協会の
理事長近藤先年が
お話しになりましたが、これが私のような
かじ屋頭にはわからぬのです。
特許庁の
外郭団体であって
発明協会という。
発明というものと
特許というもの、これは
専門家に言わせれば、
発明特許ということと、ただ
特許だけの
特許がある、こういうふうで大
へんややこしいことをおっしゃるに違いないと思います。実際われわれ、もう
常識として
特許即
発明、
発明即
特許の姿が現実じゃないか、こう考えます。そういう
意味において、
特許というものを
一般国民がどんなふうに考えておるかということを、私は手近なことを
お話ししたい。
特許というと、金もうけに縁があるという。私も役人をしたのですが、
特許というと、あいつは金もうけしやがる、こう言う。それはわれわれはけっこうでございますが、もっと
特許、
発明というものに多くの材料を持っておる
大学教授はどうでございましょうか。昔は、ある
先生が
特許をとられた。上の
先生から、あいつは学者の風上にも置けない、こういう姿があったことも、古いことじゃないと思います。ところが、新学制になってどうかというと、
特許が、
大学の
先生が
教授になる、
助教授が
教授になる、講師が
助教授になるという
点数の
一つになっているということでございます。何と申しますか、終戦後に
科学技術の大元締めになるような
学術会議もできております。これの
選挙権の資格が
特許なんです。
特許も
一つの
点数に入っているということなんでございます。ようやくそういう
段階になったが、町の人はどうか。
特許はむずかしいものだ、ことに必要とする
中小企業者の
親方は、高ねの花のように考えておる。こんなことでは、
幾らかねや太鼓をたたいたって、だめだと私は思う。こういう姿でございます。
新聞あるいは
雑誌、パンフレットに、いまだに
実相専売特許という
言葉を使っております。いわゆる
新案特許、そういう
言葉はもうないはずじゃございませんか。
特許であり、
新案登録である。いわゆる新
製品、
専売特許と書いてあると、いかにもこれは大したもののように考える。
新聞や
雑誌に、新
製品として
専売特許の
数字が書いてございます。その
数字を
特許庁においでになって、試みに
一つ明細書を
ごらんになると、思い半ばです。その
明細書にもないようなことが盛んに書いてあります。この姿は何かというと、もう
特許というものはえらいものだと考える。かくのごとく、七十年たっても
国民は
特許というものになじんでいないということじゃなかろうかと思う。これは
一つ何とかしてやらなければいかぬと思います。
その他、
特許が
科学の進歩に役立つ。なるほど役立ちますが、結局これが災いする面もあります。
中小企業では
特許の
明細書も
弁理士に頼むのであります。ところが、大
企業はちゃんとそういう部課があって、あるいは重役がその部の
親方になっておるところがある。ある組織を持っております。そうして
特許をどんどん作る。ある町の
発明家が苦心惨たんして、ようやく
特許にしようといって出してみると、もうだめだとけられる。大
企業がちゃんと持ってござる。
特許をとるために使う
職員を大
企業は雇っておられるのだから、けっこうな御身分だと思います。そうして、
自分の
特許を擁護せんがために防壁を作る。ものを完成せんとする町の
発明家は、せっかくやって、
あとは、あそこが権利を持っているからだめなんだとべそをかく以外に手はないということも、よく私は見聞きいたします。まあ、長いものには巻かれろというのが
日本人の根性ですから、それならそれでいいと思うが、要りもしないような
特許を
防護壁でやたらに作られるということは、これはなかなか問題だと思う。それには、
特許というものをもっと身近に、すべての人間が親しみを持つようなことをしなければうそだ、こう思います。
特許庁を
ごらんなさい。昔はよかったかもしれぬけれ
ども、早い話が、まるっきり刑務所に行くようだ。もっと明るくしなければいけないと思います。
先ほど発明協会の
近藤先生がおっしゃったのですが、
アメリカあたりは百件しか持っていないのを、
日本は
件数が多くて、
審査官は三百件も持って右往左往している。これを何とかしていただかなければならぬ。私はこれを逆に使って、若い連中に言っているのです。
特許ほど安いものはないぞ、
自分の
技術的水準をトレーニングするのだ。わずか千円か五百円印紙を張って出せば、有能な
審査官がどんどん
審査してくれるのだ。これは
特許庁に怒られるかもしれないけれ
ども、そういうような考えを持っております。もう少し
特許に対する
国民の
常識、認識の
程度を深める運動をやるべきだ、こう考えております。
それから、
補助金の問題です。貧乏人は、何かいいこというと、金をよこせと言う。
発明協会に入ると何か金づるに縁がないかというのが、ない袖はふれぬ
発問家のあり方でございます。
特許というものは、先達の言われた
言葉があります、
アイデアに数%それを
実施化する、技術化するのに九〇何%の労力を要する。ことに
日本の
特許は
先願特許で、ちょっと頭のいいやつが、大阪をたって
東京へ行く間に
アイデアが浮かんだ。じきに
頼みつけの
弁理士のところに電話をかけて、ちょっと来い、こういう
アイデアだから書いて出せ、といって
登録する。まるきり絵にかいたもちです。
幾ら件数をあおったって、これはだめです。もっと
発明を助成するのならば、ただ
特許の作り放しじゃいかぬと思う。それを育ててもらわなければいかぬ。私は町の
発明家で立ったのですが、今二百人くらいいる五千万円の小さな
会社をこさえましたが、これな
ども補助金のお蔭なんです。私は
昭和十七年から二十八年まで、
個人として連続どこかの
補助金をちょうだいしている。その額が四百万円ぐらいになっている。さっき計算して持ってきているのですが、四百万円ぐらいです。十七年からですから、ちょうど二十年です。もとは大体一万円か二万円のものです。私の
仕事がほんとうに何か役に立つということは、これは
補助金のお陰だと私は感謝しております。ところが、これもやはり作り放しじゃいかぬ。どうも役所の行政というものは、なるべく無難なように、総花です。こういうことな
ども、なかなかむずかしい問題だろうと思うのですが、もっと考えてもいい問題だと私は考えます。
それから、私
個人の話ですが、生方によく味わってもらいたい。私は三十一年に紫綬褒章をちょうだいしました。それは私の過去の
特許のものが主体になっております。
特許庁にはお世話になったから、
特許庁長官から多分もらうのだろうと思って、行ったのです。そうしたところが、技術庁の
長官、総裁ですか、その方がどこか御旅行中で、代理の方からいただいた。そうしたら、こちらは真剣に、ありがたくちょうだいするのに、読まれた字が違うのです。私のは軸受(ジクウケ)ですが、ジクジュとおっしゃった。これでは
信頼感がなくなります。こういう点は多々あると思います。それは私だけでなくて、東大の
大越教授も一緒に行ったのですが、
川崎君、君の方も間違っているのか、おれの方も間違っている、これでは全くありがたみがないね。まるきり隣のおじさんからお菓子をもらったようなものだ。こういうことなどが
信頼感をなくするところだと思うのです。
これはこういうところで言ってはどうかと思うのですが、今
技術週間あるいは
発明日とあるけれ
ども、
意見は出尽くしているのではなかろうかと思います。私もあらゆるところに耳をそばだてているのですけれ
ども、
大がいの
意見は、どなたがおっしゃっても同じことです。そうすると、今の姿はどうだというと、
スーダラ節とかいうのがありますな、わかっちゃいるけど何ともならぬということで、これは
一つ何とかしていただくということが私の希望でございます。とりあえず第一条件として、
特許というものと
発明というものをごっちゃにさせないようにする。あるいは学校の
先生方には、
特許ということはむずかしいかもしれぬ、教わる方が。ところが、
特許と
発明というものは、私はうらはらだと思う。ことに今後いわゆる貿易の自由化となるというと、
日本人だってそうばかじゃないですよ。大体アメリカの
特許をとるのに五十万かかる。私なんか気負った方ですから、なにくそと思ったけれ
ども、五十万出せなかった。そしてまた、アメリカは相当なものだからだめだろうという、長いものには巻かれろ根性が私の胸にもあります。ところが、出してみると六件くらい通っております。そうすると、ようやく
特許庁で
外国特許云々ということですね。こういう点で、お互いに知っちゃあいるけれ
どもできないというのを打破するのが、
先生方のお力だと思います。
一つよろしくお願いいたします。(拍手)