○
小谷参考人 私は以前から
柳沢教授をよく存じ上げておりますので、これから
柳沢教授の
研究御
発表に対しましていろいろ御批判を申し上げますことは、私情におきまして大へん忍びがたいのでございますが、学問の問題でございますのでお許しをいただきまして、所信を申し述べさしていただきたいと存じます。
結論を申し上げますと、私は
ABSの入っておる
中性洗剤は通例の
使用方法では
無害であるということでございます。普通の使い方をしておって何ら心配はないということでございます。その
根拠といたしますところは、普通の使い方をしておって有害であるというデータが出ていないということでございます。多くの学者の認めている有害であるというデータが出ていないということでございます。それから反面、普通の使い方をしておれば
無害であるというデータがたくさん出ておるということでございます。御存じのように、この
中性洗剤というのは欧米で広く使われておるものでございまして、アメリカあたりでも
日本の十数倍使われておるというようなことでございまして、アメリカでは食器はもちろん洗浄しておりますし、今
柳沢教授は
野菜には使っていないということでございますが、最近向こうに行って
調査してこられた人の話では、使っているということでございます。これは当然でございまして、アメリカではなるほど
回虫卵はいないと思いますけれ
ども、農薬を非常にたくさん使っておりますので、農薬が口に入ってくるおそれがあるというようなことから、洗うのは当然だと思いますが、洗っているということでございます。また、アメリカの方でもある
程度の許容限度を
野菜についてきめているというようなことでございますので、政府でそういうふうにきめているということは、洗っているということを証明するものであると私は思うのでございます。そういうふうに広く使われているものでございますから、これが有害であるということになると、私はアメリカの
国民にとってもヨーロッパの
国民にとっても、大問題だと思うのです。向こうでもこれにつきましてはいろいろ
調査しておりまして、今日までのところでは、私の知り得る
範囲のところでは、普通の使い方では有害であると唱えている世界の学者はないのでございます。
次に、
柳沢教授並びにその
研究グループの方がなさっておる
研究につきまして、私の
見解を申し述べさしていただきたいと存じます。私が先生方の
研究について知りましたのは、次の
文献といいますか、次の事柄によってでございます。
一つは、ことしの一月の下旬に
東京都の
食品衛生調査会がございましたが、その席で
柳沢文正博士がこれまでになさっておった
研究資料を配付なさいました。それが
一つでございます。それからその次は、
お茶の水医学会——これは
東京医科歯科大学の学内の
学会でございますが、この
お茶の水医学会が一月の例会において
柳沢文正博士が御
発表になりましたデータがございますが、これが二番目の点でございます。三番目といたしましては、ことしの二月二十七日に
参議院の
社労委員会のときに
柳沢文正博士が配付されました印刷物がございます。その印刷物並びにその
委員会で御
発表なされました事柄、それから今
柳沢文徳教授からお話を聞いたということ、これを
根拠にしての私の
見解でございます。
この
ABSの
毒性につきまして、こういうような
研究に基づいて判断いたしますと、この
ABSの
毒性についての
研究そのものが、
毒性を論ずるのにはきわめて不備であるという点でございます。内容につきまして一、二触れさせていただきますと、たとえば動物
実験で
毒性を調べるというようなことをなさっておるわけでございますが、この
実験に使われたネズミの数が非常に少ない。それから、ネズミの
体重があまりふえないということを問題にしておられるわけでありますけれ
ども、その際にネズミがえさをどの
程度とったかということのはっきりしたことが書いてないのでございます。いろいろ私
どもも
実験をやっておりますけれ
ども、動物にそういうものをやります際に、水の中へ入れてやりますと味が悪くなるので、食べものを食べないということが起こって参ります。食べものを食べませんと当然
体重はふえないということになりますので、そういう点の明確さを欠いておるという点があります。それからこういった動物
実験をする際には、いろいろ動物の個体差というものもございますので、こういうものを飲んだものと飲ませなかったものとの
体重の差が出たといっても、その差がほんとうの差であるかどうか。
実験誤差というのがございますから、誤差によって起こった差であるかというようなこと、これを調べることが非常に大事でございます。それが有意の差であるかどうかということになりますが、このためには生物統計学的な検討を加えることになっておるわけであります。一見動物に差があるように見えましても、それが誤差による差にすぎないということが往々あるわけでございますから、必ずこういう
実験には出物統計学的な
原則がなくてはならない。それがなくてはほんとうに学問的には正しいとは言えないのでございます。そういう点が全然してないというような点その他がございますけれ
ども、そういうようなことで、
毒性があるということをはっきりするには非常に不備であるということでございます。それからまたそのほか、消化酵素の動きを阻害するとか、あるいは
溶血作用があるとかいう御
意見でございますけれ
ども、これはある
程度濃くすれば、大ていのものといいますか、有害
作用が出て参りますので、濃度が問題になるということであります。それから、こういう
実験はいわば試験管の中の
実験でございます。これは医学をおさめた方は大てい御存じでございますけれ
ども、試験管の中で起こった
実験の通り必ずしも生物の体内で起こるとは限らぬ。生物のからだというものは非常に複雑でございますから、試験管内で起こったことが必ず
実験で起こるとは限らない。それからまた、生物というものは自分の生命を守るためにいろいろ巧妙な働きをしておりますので、そういうものを簡単に処理するというような働きもあるわけでございます。ですから、こういうもののほんとうの
毒性を調べるためには、普通の濃度といいますか、
通常使われている濃度において生物に応用してみて、動物
実験をしてみて、害があるかどうか、どんな
影響があるかということを調べるのが今日行なわれている方法でございます。これが化学
物質の
毒性をきめる方法として世界の学界で認められている方法でございます。いわば
毒性をきめる公式のものさしだと私は思っております。そういうわけでございますから、
柳沢教授方はこういうことで
毒性をきめるのは間違っておるというような御
意見でございますけれ
ども、世界の権威ある学者が、こういう化学
物質の
毒性をきめるにはこういう方式でいくのだというふうに言われておりますので、私
どもとしても世界の学界に認められている方法に従うべきだ、そういうふうに考えるわけでございます。
そこで、動物
実験ということになってくるわけでございますが、この急性
毒性につきましては、先ほど
柳沢教授もお話がございました大阪の
井関博士は、
体重一キロについて一・六グラムということであります。私
どもの順天堂大学でも
実験をやったのがございます。
発表いたしておりませんけれ
ども、大体
体重一キロについて二グラムということになっております。ほかの方の
実験を見ましても、急性
毒性というのは大体
LD50が
体重一キロについて二グラム前後ということでございます。この
毒性というものは、これは
見解の相違で非常に強いとか弱いとかということを言われますけれ
ども、
LD50が
体重一キロについて二グラムというようなものはそう特に
毒性の高いというものではございません。中には食べものの
添加物として許可されているものもあるような次第でございます。
それから問題は、慢性毒というものはどの
程度あるかということが問題でございますけれ
ども、これについては多くの
実験がございますが、時間の関係でその
一つだけを申し述べさしていただきたいと存じます。これはアメリカで行なわれた
実験でございまして、チュージングという方、そのほか二名の方が協力
研究なさっておられますが、アメリカのこういった
研究というものは、私もアメリカに一年ばかり行って向こうの大学で勉強したこともございますが、非常に科学的に、学問的に、良心的にやっております。そういう点で信用してもいいと思います。と同時に、この
発表は専門雑誌「トキシコロジー・アンド・アプライド・ファーマコロジー」という雑誌がございますが、その一九六〇年の七月号に
発表されております。専門雑誌に
発表されるデータでございますので、私は信用すべきだと思います。この
実験におきましては、ラッテ、ネズミを二百四十匹使っております。これを三群に分けまして、八十匹をコントロールに使っております。何もやらない対照に使っております。それからあとの百六十匹を半分に分けまして、その一群には〇・五%の
ABSをえさの中にまぜて与えております。それからもう一群には〇・一%の割に
ABSをえさの中に入れて二年間食べさしております。〇・五%えさの中に入れるということになりますと、これは
体重一キロについて〇・五グラムということになります。人間は五十キロございますので、人間の場合ですと二十五グラム与えるということになります。それから実際市場に出ております
合成洗剤、いろいろ薄めてございますが、三倍くらいに薄めているものが多い。三倍あるいは五倍くらいのものがありますが、三倍といたしますと、七十五グラム、つまり一日七十五グラムを五十キロの人に与えたという結果でございますし、それから水で四百倍に薄めて使いますので、〇・二五%として使いますので、四百倍に薄めたといたしますと、
野菜や何かの洗浄に使う液としては三十キログラムを動物に与えたということになるわけです。毎年与えて二年間与えているわけでございます。その結果の報告でございます。
体重増加には
影響はない、あるいは食欲か何かには関係はない。動物の繁殖にも関係はない。普通の通り繁殖していった。それからいろいろな臓器を調べております。たとえば
肝臓とか
じん臓、脳とか骨髄、生殖腺とか甲状腺、脳下垂体とか肺臓、副じん、こういうような臓器を全部顕微鏡で調べて、いわゆる病理的の組織を作りまして、病理学的に調べておりますが、その結果何ら
障害を起こしていないということでございます。なお、この方々の
実験では、水に〇・〇五%の割に
ABSを加えましてやはり二年間飲ませ続けて
実験をいたしておりますが、この場合は、動物は八十匹使っております。四十匹をコントロールとして使い、四十匹をそういった水を飲ましているということでございます。この
実験におきましても前と同様に何か変化はなかった、
障害を与えていないということでございます。
以上のことから、私はこれを普通の使い方をしておれば害はないというふうに信ずるのでございます。
先ほどお話もございましたように
皮膚に及ぼす
影響でございますが、これは御承知のように、洗浄力が強いものでございますから、若干
皮膚の
障害は起こる可能性があるわけでございます。何分にも
皮膚の表面の脂肪をよくとります。洗浄力があるために起こってくる現象でございます。あるいは
皮膚の表面の角層、いわば表面の部分、こういうものをとり過ぎるといいますか、そういうところに
影響があるといいますか、そういうよごれをとり過ぎるために
皮膚にも
障害が起こってくるということはございます。これは人によることでございまして、人によって非常に敏感な方 何でもそうでございますけれど、非常に敏感な方もあれば、これを使っても平気な方があるし、また使っているうちにだんだんと
皮膚も荒れなくなってくるというような方がございます。体質によることもあるだろうと思いますが、若干はそういうような方もあるということでございます。
なお、私の教室でこれを
実験をやりまして、それを
日本公衆衛生学会の
昭和三十五年の総会のときに誌上参加をいたしまして
発表しております。それを
柳沢教授が引用されておるわけでございます。どうも私、誤解を招いているような向きもあると思いますので、私がやりましたことと、これについて自分が考えておることを申し上げてみたいと思います。
皮膚に
障害が起こるということがありましたので、
実験に使いましたのは、
中性洗剤を三種類くらい選びまして、原液と、二〇%の液と、一〇%の液と、一%と液と、〇・二五%の液と、こういう段階のものを設けまして、ネズミの背中四センチ平方に塗ったわけでございます。動物の背中に四センチ平方でございますから、御想像いただければ相当広い部分であるということがわかると思いますが、それを毎日筆で塗ったわけでございます。そうしますと、原液というのは何しろ強いものでございますから、翌日から軽度の発赤を認めております。三日、四日たちますと、原液とか二〇%の液群には、塗った場所が発赤 赤くなってくるというようなことがございます。ところが、一%とか〇・二五%群では特に変化はなかったのでございます。しかし、八日目くらいになりますと、一%とか〇・二五%の群でも、続けておりますと皮毛がよごれてくる。少し荒っぽくなってきて光沢を失ってくるということでございます。この
実験を一カ月ほど観察いたしておりますけれ
ども、その後には大した変化は起こっていないのでございます。一%と〇・二五%の群におきましては毛がそういうふうに光沢を失なうとか、よごれたということはございますけれ
ども、そのほかに特別の変化は起こっていないということでございます。しかしながら、原液群につきましては十五日までにほとんどのものが死んだということでございます。今までの
柳沢先生の方では全部死んだということになっておりますけれ
ども、実は私
どもの
実験では大部分が死んだという表現を使っております。もちろん生きたものもあるわけでございます。そういうふうに、
皮膚の
実験があるわけでございますが、この
解釈につきましてはいろいろあると思うのです。たとえば苛性ソーダやなんかもございますけれ
ども、ああいうものも同じように原液を
皮膚に四センチも塗ったら動物も参るのではなかろうかという気がいたします。それから高級アルコール系の
洗剤もございますけれ
ども、こういうものもやはり原液を塗れば同じような変化が起こってくるのではなかろうかということでございます。それから動物の死んだ原因につきましては、
皮膚の
障害、そういうように
皮膚の働きをしなくしてしまうわけでございますから、そのために起こる。たとえば、やけどでありましても、私
どものからだの三分の一やけどしますと二日くらいのうちに死んでしまうようなこともございますから、そういう
皮膚と
障害というものは動物には相当
影響があるわけであります。そういうものであるがために、あるいは感染を起こしてしまうかどうか、何か悪いばい菌でも入って感染を起こしたかどうか、そういうようなこともございまして、私
どももいろいろ御批判を得たいためにあれを
発表したものでございまして、決してこれが普通の使い方をして害があるということは一言も言っておりません。また、薬というものは濃い濃度で使いますと大ていのものはそういう害を起こしてくるということでございますので、これをもって直ちに
中性洗剤は有害だということは一言もいまだかつて申しておりません。それで、
柳沢教授の方では、私が害があるということを学者としては認めておりながら、
日本食品衛生協会で認めないとおっしゃいますが、私はいまだかつて普通の使い方をして害があるということは申しておりません。それから
野菜に入る量、これもいろいろのデータもございますけれ
ども、そう多いものではない。残留するのはきわめて少ないということでございます。
それから、公衆衛生の面でこういうものを考える際に大事なことは、やはり功罪だと思います。先ほど
柳沢教授の言われますのは、
野菜は
清浄野菜にすればいいじゃないかという御
意見でございますけれ
ども、
日本の現状ではなかなかそこまでいかないのでございます。もちろん理想は
清浄野菜が一番いいかもしれませんけれ
ども、しかし農薬の問題をどうするか。農薬を全部やめてしまうか。最近農産物が非常にたくさんできておる、そして私
どもが比較的安い農産物を手に入れることができる、くだものや何か豊富に毎年食べられるという原因は、私は農薬のおかげじゃないかと思うのです。この農薬を使うなということは言えないと思うのです。大いに使っていただいて、増産をしていただく、これが
国民のためだと思うのですが、その反面にこれによって、悪い
影響がある。農薬を食べるために人体が害を受ける。何とかしてこれを善処していくといいますか、害の少ないものに持っていくということ、これが私
ども公衆衛生に関係しておる者としては考えるべきことではないかと思います。それから、
放射能のちりの問題にいたしましても、もちろんこれは原爆
実験をやめてもらうことが理想だと思いますけれ
ども、現実問題としてはそこまでできないわけでございます。やはり現実の中で最善を尽くしていくということを考えていくことが必要ではなかろうか、そういうことでございます。回虫の問題にいたしましても、
回虫卵の
国民の間の保有率というものを考えてみましても、
昭和二十八、九年ごろの統計によりますと、
国民の四〇%か、五〇%くらいは
回虫卵を持っておったのでございますが、三十五年ごろの統計を見ますと、
回虫卵の保有率が一五・五%、非常に減ってきております。
東京あたりは六・二%、大阪あたりでは三二%というように、非常に減ってきておりまして、やがて
日本から回虫をなくするということも望めるのではなかろうかというような気がいたしております。これはもちろん全部
中性洗剤のおかげだとは申しませんけれ
ども、
中性洗剤の普及といいますか、そういうことが大へん役に立っていると思います。以上申しましたようなことで、私は
中性洗剤は非常に役に立つ面が大へん多い。その反面に
毒性というものは、世界いろいろなところでやっておりまして問題にならないということでございますので、
通常の
使用方法においては心配はない。むしろ使わない方がいろいろ
日本の社会の現状では害があるのではなかろうかというような気持がいたしております。
以上で一応終わらしていただきたいと思いますけれ
ども、いろいろな関係で
柳沢教授あるいは
柳沢教授の方の
研究者のグループの方の御
発表に対しまして酷評しましたことをお許しいただきたいと存じます。