○松永忠二君 私は
日本社会党を
代表し、ただいま提案になりました
災害対策基本法案につき
質問をいたします。
過般の梅雨前線集中豪雨、第二室戸台風の被害は甚大であります。災害による被害は、年平均、死者二千百名、負傷者九千二百名、被害総額約二千四百億、まさに、戦争の被害に比すべきものといって過言ではありません。しかるに、災害
対策は
制度及び実施機関に有機的な連絡が欠け、災害予防、災害復旧も、重点的、効果的に行なわれておりません。したがって、防災の根本を明示し、総合的な災害
対策の
基本体制を確立することは、
国民多年の熱望であり、
岸内閣以来の
自民党政府の公約でもございました。この法案がはたしてこの熱望にこたえ、公約を果たしたものであるのかどうか、こうした観点に立って、私は
質問いたしたいと存じます。
まず第一は、防災の組織についてであります。この法案によれば、中央防災
会議が防災
基本計画を作り、これに基づいて、各省庁、公共機関が防災業務
計画を作り、地方防災
会議は地域防災
計画を作るのであります。中央防災
会議の組織は、
内閣総理大臣を会長、各省庁の
大臣、長官を
委員とし、そのほかに専門
委員を置くことができるのであります。中央防災
会議は
総理府に置かれるのでありますが、事務局は消防庁を、事務局長は消防庁長官を予定しているのであります。しかし、はたして
行政組織法に基づく
行政機関でないこの組織で、
制度相互間の
関係が円滑に行なわれ、なわ張り意識の強い各機関の有機的連絡ができるでしょうか。非常災害、緊急災害には、
会議とは別に
対策本部が持たれるのですから、結局、防災
会議は、運用面で全く内容のない、義務的なものに終わり、
基本計画は各省庁の作る防災業務
計画を吸い上げ、抽象的な
基本方針を作文するにすぎないものになりはしないでしょうか。各省庁の担当官が、法案はお経の文句だといったことは、これをよく物語っているといえるのであります。
そこで
総理に
お尋ねしたいのでありますが、社会党が常に主張しているように、国土省のような、防災
計画の立案と実施権を持つ、防災
行政を一元化した
行政機関を設けるべきではないか。そこまでいかなくても、各省庁の防災
関係の
調査、立案、企画については、一本化して行なう権能を持つ、防災庁ともいうべき
行政機関を作るべきではないか。これについていかなる見解を持たれるか、お聞きをしたいのであります。
自治
大臣に
お尋ねをいたしますが、事務局を所管の庁に引き受けて、どういう具体的な方法によってこの重要な機能を果たしていくつもりなのか、伺いたいのであります。
第二に、公共投資及び治山治水
計画の再検討の必要の問題であります。災害の原因は、国土の無
計画な利用と、公共投資の経済効率重点主義にあります。森林の
資本主義的経営は、木材価格の上昇の下で、乱伐による山林の荒廃を引き起こしました。河川の利用は電力資本本位に行なわれ、大河川のみが開発をされ、中小河川は原始
状態のまま、災害の原因となっています。その大河川も、天龍川のダムのように、電力資本が災害を大きくする原因を作っているのであります。都市の中央部においても、無
計画に地下水をくみ上げ、地盤沈下する結果、浸水することになります。民間企業が大都市周辺の埋立地に進出をして、防災不十分のまま、労働者住宅、商店街が密集し、災害に見舞われているのであります。このように
資本主義の発展は災害を増大させますが、住民にはこれを防ぐ
能力はありません。防災は一にかかって国と地方団体の公共投資であります。ところが、
昭和三十年以後、公共投資は経済効率を
考え、その重点が産業基盤育成投資に移り、国土保全投資の地位は低下して参りました。
昭和二十八年度国土保全投資は、一般会計の公共
事業の六五%が、
昭和三十五年度には四一%に低下し、産業基盤育成投資は一四%から四〇%に伸びているのであります。
昭和三十六年度治山治水
対策事業費は七百二十七億、昨年の約四十六億増に比して、道路整備
事業費は実に千四百九十八億で、五百億の増大であります。この傾向は治水
事業十カ年
計画にも現われて、砂防が、三十五年の
基本計画において、二十八年の
計画に比して三千八百二十五億から千七百七十億に引き下げられているのでありますが、経済効果の目に見えるダムは、千六百七十三億が千七百七十億に引き上げられているのであります。したがって、ダム上流の砂防
事業がおくれて、皮肉にも今次の災害などは、河床が上昇し、ダムの寿命を縮め、その機能を失って被害を多くしているのであります。しかも発電用ダムのみではなくて、多目的ダムでさえも発電本位に操作をされ、美和、佐久間、秋葉ダムでは多くの被害を出して、住民の非難を浴びているのであります。治水は治山にありといわれるように、治山
事業は、より
基本的なものでありますが、
昭和三十五年治山
事業十カ年
計画では、これまたはなはだしく軽視をされ、二千四百八十五億から千三百億に引き下げられてしまったのであります。したがって、山地崩壊を予防する荒廃地の復旧防止も、現実の荒廃林地の七割を対象とするのみで、予防治山の実はあげられないのであります。
総理に伺いたいのでありますが、今申しましたような事柄は、防災
基本計画作成の際は当然総合調整の重要なものとして検討され、具体化されると思うが、どうでありますか。
大蔵大臣に
お尋ねいたしますが、公共投資の内容を再検討すべきではないか。国土保全投資にはもっと重点を置いていくべきではないのか。災害
基本法ができれば結果的にそうなると
考えてよいのかどうか。この点を明確にしていただきたいのであります。
建設
大臣に
お尋ねいたしますが、防災業務
計画樹立の際には、治水十カ年
計画を再検討して、速度を早め、特に砂防について拡充すべきだと思うのでありますが、どうでありますか。またダム建設、ダム操作等に
関係する
法律規則を改正する用意があるのかどうか、
お尋ねをしたいのであります。
農林
大臣については、治山十カ年
計画の拡充、荒廃林地の復旧防止についてどんな
考え方を持っていられるのか、これを防災業務
計画にどう反映させようとしておられるのか、お述べをいただきたいと思うのであります。
次に伺いたいのは、
計画に対する予算的裏づけの問題であります。災害
対策基本法に期待をした
一つの点は、一般災害について、現行法以上の補助率アップをすること、激甚災害復旧
事業に対する高率補助であります。ところが、災害復旧
事業に対する国の負担及び補助は、「別に法令で定める。」としてぼかされておるのであります。激甚災害については別の
法律に譲られているのであります。熱望された再度災害防止のための施設の新設、改良
事業も、「十分配慮しなければならない。」という訓示
規定に終わっているのであります。個人災害に対する助成も激甚災害にのみ
考えられておるのであります。全壊流失の家の子供に対して学用品の給与が二百十円、五坪以内の応急仮設住宅に象徴される貧弱な災害救助法の改正は、
基本法実施によってどうなるでありましょうか。
大体、防災
関係の
計画は、森林法を初め十三にも及んで、すでにできております。
しかし、たとえば、森林
基本計画の林道
計画が、
昭和三十五年に、
計画に比し実績が三九%にすぎないように、前の中曽根科学技術庁長官が、台風を防ぐことばかりでなく、洋上で消滅させることも研究すると、大ぼらを吹きながら、伊勢湾台風の反省によって、具体的な予報を出す防災気象官
制度が、最低二百人が二十七名で打ち切られているように、予算的裏づけのないことであります。中央、地方の
行政機関は、この
法律で、災害予防、災害応急
対策がこまかく
規定され、
責任を負わされながら、定員も施設も増加せられなくてはとてもたまらない、というのが偽らない声であります。
大蔵大臣に
お尋ねいたしますが、
基本法実施によって、定員増、予算増がどんなふうに一体
考えられておるのでありますか。
自治
大臣には特にひとつ、はっきりお答えをいただきたいのでありますが、災害復旧
事業に対する国の負担、補助は、現行のものより高い率に法令で定めるのでありますか。また、激甚災害の
法律はいつごろどこの所管で出されるのでありますか。なお、
基本法の関連
法律としてどんなものを具体的に
考えておるのか、お示しをいただきたいのであります。
厚生
大臣に
お尋ねをいたしますが、災害救助法をこの機会に改正充実する用意があるのかどうか。また、個人被災者に対する特別の助成とは、具体的にどんなことを
考えていられるのか、伺いたいのであります。
最後に、この
基本法は、はなはだしく不十分であるということであります。災害を絶滅し、資源を利用するためには、巨大な国家投資と、
資本主義の経済法則、民間投資の無
計画性を、
国民経済全体の立場で規制すること、及び
国民の絶大な協力が必要であります。災害
対策基本法には、この
基本方針を明示し、これに基づいて総合的な強力な災害
対策を樹立することが大切であります。この
基本法にはかかる
方針が明確になっておらないのであります。いたずらにこまかい規程を寄せ集め、現行の事実を成文化したにすぎません。その中心の機関は
総理府に置かれながら、自治省所管の弱体な事務局がこれを運営し、予算的裏づけのない防災
計画を樹立するにすぎません。
基本法ブームでも過ぎたならば、激甚災害の
法律の二つか三つ出たのみで、せいぜい
行政機関の長や警察官や、海上保安官の権限が強化されたという形の応急
措置が行なわれるだけで、
基本法はたな上げされてしまうでありましょう。
国民多年の熱望にこたえる
自民党政府の公約を果すには、あまりにお粗末であり、かつ、ごまかしであります。(
拍手)そこで私は、災害
対策基本法にふさわしく、防災
基本方針を明示し、強力な組織を持つ災害
対策基本法にするために、この法案を提出し直すとか、大きな修正を加えることが必要だと思うのでありますが、
池田総理のこの点に対する率直な見解を
お尋ねをいたしまして、私の
質問を終わりたいと思うのであります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕