○谷口弥三郎君 私は自由民主党を代表して、
総理並びに
関係大臣に対し、若干の質疑を行ないたいと思います。
まず最初に、最近の
経済情勢に関連して、
池田内閣の主要な
政策である高度成長
政策の諸問題を取り上げたいと存じます。高度成長
政策は、内政上における
池田内閣の最も重要な
政策の
一つでありまして、その成り行きは
国民の注視の的であります。
第一は成長のテンポについてであります。
国民所得倍増計画は、
昭和三十五年から十年間に、
国民所得を
倍増させることを目標として、そのためには、毎年実質七・二%の
経済の成長の必要があるのであります。ただ最初の三年間は、過去の
経済の実勢から見て、九%程度の成長が予想されるということでありました。高度成長
政策の第一
年度である
昭和三十六
年度の国家
予算は、同
年度の
経済成長率が実質九・二%になるであろうという見込みのもとに編成されました。ところが、
経済の進み方は、
政府の予想を上回り、この際、幾分手綱を締めなければならないところにきております。これを過去一両年の
経済成長率と比較しますと、
昭和三十四
年度も三十五
年度も、
経済の実際の伸びは、
政府の予想を上回っていたにもかかわらず、
物価は比較的安定し、
国際収支にも何ら危険な傾向は現われなかったのであります。しかるに、本
年度に至って、
政府の当初の
見通し九・二%を上回ることわずかに〇・七%にして、
国際収支の
赤字の累積から、景気の調整を必要とするに至ったということは、はたして、その原因がどこにあるのでありましょうか。
昭和三十四、五
年度の成長率が異常に高かったにもかかわらず、困難な事態に陥ることのなかったのは、偶然にも、幸運な諸要因が重なり合った結果であったのでありましょうか。そうだとすれば、安定した成長を遂げるためには、どの程度の成長率を
維持することが適当であるのでありましょうか。
総理の御所見を伺いたいと存じます。
第二は
物価問題についてであります。
二十二日の記者会見において、
総理は、
物価問題について、いわば相当強気の御
答弁をなさっておりますが、
卸売物価について申しますならば、今日
卸売物価が比較的安定しているのは、物資の供給が輸入によって十分裏打ちされているからではないでありましょうか。つまり、
卸売物価安定のしわ寄せが、
国際収支の
赤字になって現われているということではありますまいか。
国際収支の
均衡を保持するために輸入を抑制することになれば、需給のアンバランスが生じ、
卸売物価の
上昇を来たすのではないかと思われますが、いかがなものでありましょうか。また、
消費者物価については、
値上がりの持つ
所得階層別の影響に注意しなければならないと存じます。
国民所得は、
消費者物価の
上昇率以上の率をもって増加しておるとはいえ、いわゆるボーダー・ライン以下の層についても、
一般的な
所得の
上昇率を当てはめて論ずることは、かなりの危険が伴うのではありますまいか。
国民の
所得が
一般には増加していても、一部には
消費者物価の
上昇に見合うだけの
所得をふやし得ない人々の存在することを否定することはできません。そうした人々の生活を安定させることに特段の配慮をお願いいたしたいのであります。これらの点について、
政府の御所見を伺いたいと存じます。
次に、
昭和三十七
年度予算編成の心がまえについて、
総理並びに
大蔵大臣の御所見を承りたいのであります。もとより、明
年度予算の編成
方針はこれから御決定になることで、今その細目をお伺いしようとするのではありませんが、ジャーナリズムの上でも、すでに相当な
論議が行なわれております点について、大まかな
考え方をお尋ねしたいのであります。
第一に、明
年度予算がかなり強く引き締めの線を打ち出すであろうことは、当然に予想されるところでありまして、新聞の伝えるところによりますと、
政府部内では、消費的経費を極力節約するほか、公共投資についても、その増額をなるべく小幅にとめたいという意向が強いということであります。もし、明
年度予算が公共投資にきびしい圧縮を行なうならば、
計画の実現に支障を生ずることにもなりましょうし、社会保障についても、その他各般の施策についても、類似の困難が予想されるのであります。そこで、私がお尋ねいたしたいのは、明
年度予算における引き締めの程度はどのくらいのものであるべきか、要するに、明
年度予算の
一般的性格は何か、それは高度成長
政策実施の長期的な
見通しに変更を加える必要を生ずるほどのものであるかどうかという点であります。この点について大体のお心組みを伺いたいのであります。
第二は、四千五百億円を上回るであろうといわれております明
年度の自然増収をいかに処置するかという問題であります。税制調査会の答申の線に沿うて、自然増収の相当な部分を
減税に振り向けるべきであるという主張がある一方、
減税は
国民の消費性向を高め、景気の
過熱を助長する危険があるから、いわゆる資金のたな上げを行なうて、景気調節のために留保すべきではあるまいかとの主張もございます。また、別の角度から、
減税、特に
所得税の
減税は、
所得税を負担する階層に対しては恩恵となるが、
所得税を負担し得ない低
所得層に対しては何らの恩恵にもならないから、
減税の余裕があるならば、それは社会保障の充実に充当すべきであり、もし、
減税を行なうにしても、大衆課税の軽減という
意味で、間接税の軽減を中心とすべきであるという主張もなされております。これらの相対立する主張が盛んに論じられている今日、
政府が全く白紙の
立場にあるということも、何か、うなずけないものがあります。これらの諸説について、
政府において何らかの所感がありますならば承りたいと存じます。
次に、
中小企業の対策についてお伺いしたいと思っておりましたが、ただいま
大蔵大臣からいろいろと
お話がございましたので、時間の都合もございますので、この点は省略させていただきます。
次に、私は、社会保障の問題についてお伺いいたしたいと存じます。
社会保障の充実は、公共投資と並んで、
昭和三十六
年度予算の三本の柱の
一つとして、特に重点的な取り扱いを受けた事項であります。公共投資につきましては、さきに少しく触れましたように、需要抑制の見地から、その拡大に一定のワクをはめようという空気がありますが、社会保障についてはいかがでありましょうか。社会保障については、景気が
上昇する場合にもまた下降する場合にも、それぞれ社会保障制度の運用に期待される面が多いのであります。
上昇局面においては、景気の
上昇に付随する
所得格差の拡大を社会保障の面から補正するという任務、また下降局面においては、不況のしわ寄せを受ける低
所得者を救うという任務、そうした任務が社会保障制度に課せられております。なかんずく景気が下降に転ずるような場合に生ずる影響は特に痛切でありまして、社会保障制度に寄せられる期待もまたしたがって大きいことを強調しなければなりません。私はこの際、社会保障の充実が一年きりのお題目にとどまることがないように、引き続き大きな
努力を払うことを要望してやまないものであります。社会保障に関する
政府の熱意のほどをお伺いいたしたいと存じます。
第二に、医療制度の問題についてお尋ねいたします。医療制度の改善は長い間の懸案でありますが、日進月歩の医学医術を取り入れ、医療の本質と主体性を阻害しないということが基本問題であります。さきに開かれました医療懇談会においては、医療保険について、
関係団体の間では、ほぼ了解がついて解決の曙光が見えてきましたので、今回の補正
予算にはそれに伴う経費が計上せられるものと期待していたのでありますが、そこまで具体的な解決が得られなかったことはまことに遺憾であります。この際、
関係団体との了解事項については、すみやかに具体的な解決案が得られることを切望してやまないものであります。この点について厚生
大臣の
見通しをお聞かせ願いたいと存じます。また、医療保険の改善に伴うて
国民の医療費負担は当然若干の増加を来たすことが予想せられますが、しかし、特に低
所得者層につきましては、たとえば
国民健康保険の国庫負担率を
引き上げるとか、その他低
所得者の医療費負担の軽減について特段の配慮を必要といたします。この点について
政府の心がまえをお聞かせ願いたいと存じます。(「いい
質問だ」と呼ぶ者あり)
第三に、社会保障制度の総合調整の問題についてであります。
わが国の社会保障制度は、医療面では
国民皆保険が達成され、
国民年金制度が新たに発足して
所得保障の体系ができたことによって、社会保障の大きな柱が打ち立てられたことになり、これを機会として総合調整の問題が大きく取り上げられているのであります。社会保障制度の総合的な体系としては、すでに
昭和二十五年の社会保障制度
審議会による勧告にその
構想が示されておりますが、自来
国民生活の向上と
経済の高い成長率とに裏づけされ、制度充実の要請にこたえながら府政も
努力を続けてきたのでありますが、一本の筋の通った体系の実現を目ざして前進がなされなかったため、今日できてしまった各制度を通じて見ると、相互間の不
均衡やギャップが目立ち、調整のなされないまま社会保障制度内における保障の
格差を大きくしているのであります。したがって、まず
国民皆保険のもとにおける医療保険の総合調整については、視野を広くして本問題に取り組むことが大切でありますが、この問題について厚生
大臣の御所見を伺いたいと存じます。
次に、文教
政策の問題について伺います。その第一は、学校給食の改善についてであります。さきに厚生省におきましては栄養基準の改訂を行ないましたが、この改訂された基準に従って学校給食の内容を改めるとするならば、近年における食料品の
値上がりと相待って、父兄の給食費負担は一食当たり四円近くも増加する。すなわち二割余りの負担増となることが予想されます。ところで、国が学校給食のために支出している経費はどうかといえば、一食当たり一円の補助と、ごく少数の準要保護児童の給食費の半額負担があるだけであって、諸外国に比べますと、学校給食に対する国の配慮は、はなはだ薄いと言わなければなりません。
国民の主食である米につきましては、
生産者の生産費と
所得を補償するための
生産者米価と、社会
政策的な
意味を持つ比較的安い
消費者米価との差額は、これを国が負担し、その負担額は年々数百億の巨額に達しておりますが、これに比較いたしますと、子供の学校給食用の小麦粉とミルクに対する国庫の負担はきわめて微々たるものであります。米の主たる
消費者はおとなであると見て、子供にも、おとな並みの配慮が望ましいのであります。たとえば学校給食の全経費の半額はこれを国が負担するというがごとき
措置を要望いたすものであります。この点について文部
大臣並びに
大蔵大臣の御意見をお伺いいたします。
第二は、高等学校の校舎の急増対策についてであります。終戦後におけるいわゆるベビー・ブームの影響は今日に及び、ここ数年間に高校進学者数が年々五十万人ずつも増大するという結果となって現われておりまして、高等学校の収容率を急速に増大させることが当面の急務となっております。これを戦前の中学進学率がわずかに最高一六%といったのに比較しまして、まことに今昔の惑にたえないのであります。これは
国民の教育程度の向上を示すものであり、慶賀にたえないところであります。しかしながら、もしこの一両年に所要の校舎を整備するのでなければ、高校の入学競争は、はなはだしく激烈となり、青少年の不良化を助長するなど、非常に大なる社会問題を引き起こすおそれがあります。この面からも高等学校の収容数の増加が緊急に必要とせられるのであります。
第三点は義務教育の教科書の無料給付についてであります。教科書の値段は
昭和二十七年に定められた基準が
昭和三十年に一割方引き下げられたまま今日に至っており、諸
物価の
値上がりにかんがみまするときは、教科書の価格基準もまた二、三割程度の
引き上げを必要とする
状態に立ち至っております。父兄の教育費負担は、これまでも、たとえばPTAの負担が相当な額に上るなど、いろいろの問題がありましたが、もし教科書の価格が
引き上げられるとなると、父兄の教育費負担はますます増加する結果になります。この際思い切って義務教育の教科書を全部国が無償で給付することに改めるならば、義務教育の徹底という点でも、父兄の教育費負担の軽減という点でも、きわめて好ましいことであると
考えますが、
政府のこれに対する御用意をお伺いしたいのであります。
次に、
災害対策についてお尋ねいたします。本年は、六月の豪雨、最近の第二室
戸台風など、非常に大きな災害に見舞われました。その当面の対策につきましては、さきに
政府側からの発表がありましたので、
政府の施策に信頼し、対策実施の万全を期するようお願いいたすごとにとどめておきます。私は、ここで特に二つの点について
政府にお尋ねいたします。御
承知のとおり、台風の襲来は、
わが国の地理的位置から見て決して偶然ではないので、毎年の年中行事でございます。その
被害に対しまして、毎年のようにそれぞれ特別の
措置を講じているのが
現状であります。第一、水害発生の状況にかんがみるときは、従来の治水事業十カ年
計画は非常に手ぬるい感じがい心します。この際、治水対策を拡充するとともに、緊急を要する事業につきましては、その実施を大幅に繰り上げて行なう必要があると思うのでございます。これについて
政府の御
見解をお伺いいたします。また第二に、今般の第二室
戸台風について、気象庁はかなり正確な台風情報を出し、防災活動を円滑ならしめた点が認められるのでありますが、今後さらに適切な予報業務を行なうためには、現在の施設、人員で、はたして十分でありましょうか。
政府の
所信をお伺いいたします。
最後に、私は、いわゆるおそるべき死の灰の問題についてお伺いいたしたいと思います。
核爆発による放射性降下物であるいわゆる死の灰は、北緯三十度から四十度の中緯度地帯の上空にたまりやすいのでありますが、とりわけ、
わが国は最も集中しやすい所の
一つで、
日本はおそるべき死の灰の吹きだまりとなっているのであります。このために、
わが国の気象観測陣や科学者が放射能の測定に
努力し、人体への影響に極度の神経を使っているのであります。ジュネーブで続けられている核
実験停止会議によって、今後は放射能による
人類に対する一大脅威がいよいよ除去される日が来るものと、われわれは強い希望を抱いておったのでありますが、最近になって、当事国の一方が、いまだ
交渉の半ばにもかかわらず、突然の一方的宣言によって矢つぎばやに多くの
実験を行ない、核
実験再開の端緒を開くに至ったことは、まことに遺憾のきわみであります。
人類として最初の、そうしてただ
一つの例として、おそるべき放射能による洗礼を受けたのは、
日本人だけであります。十数年を経た今日におきましても、この悲惨なつめあとは、いまだに消えずに残っているのであります。したがって、われわれ
日本人のみが、平和への祈りをこめて、
核実験において、放射性降下物から
人類を守る義務があり、これを
世界に忠告する権利もあると存じます。長期間にわたって消えることのない放射能を有するストロンチウム九〇、セシウムなどの、いわゆる死の灰の地上蓄積量は、現在、一平方キロ三十ミリキュリーであると言われ、三年前に
各国の
実験が中止されたというのに、今なお、たまる一方であるのであります。まさに死の灰の吹きだまりにあえぐ
わが国は、いかにしてこれに対処すべきでありましょうか。この際、
政府の
所信をお伺いいたしたいと思います。
以上をもって私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕