○渡辺惣蔵君 私は、ただいま
提案されました
石炭産業危機打開に関する
決議案に対しまして、
日本社会党並びに
民主社会党を代表して、賛成の
討論を行なわんとするものであります。(
拍手)
ここ数年来、
石炭産業はまさに深刻な
危機に追い込まれております。斜陽産業であるとか、すでに日没産業になったという言葉すら耳にするのでありますが、炭鉱に働く人々とともに生き抜いてきた私は、この無責任な言葉に激しい憤りを感ずるものであります。
太平洋戦争の廃墟の中から、戦後復興の重責をにない、打ちひしがれた国民に
経済復興の光と希望を与えた原動力こそ、
石炭産業であったのであります。(
拍手)しかるに、戦後わずかに十五年を出ずして、
労働者数四十五万人を擁した
石炭産業は、現在二十二万人にも減らされ、炭坑節の文句そのままに、月さえ曇らせるような繁栄を誇った炭鉱地帯は、今や、おびただしい失業者を停滞させて、死の町、飢餓の谷間を随所に出現し、去るも地獄、残るも地獄と、悲嘆を深からしめているのであります。
私は、今ここで、炭鉱で働く人々の苦しみの姿に百万言を費やすよりも、「福岡県の炭鉱地帯の
学校教育実態」という現地
報告書の中に掲げられている小
学校三年生の作文の一節に耳を傾けていただきたいと思うのであります。
私たちは山の子供。山はあとわずかでおしまいだそうです。千七百人の人たちは、働くことも食べることもできなくなります。そうなれば、私たちは安心して
学校で勉強することもできません。今だって、町の人や都会の人のように、見たいものを見、したいことをして愉快に暮らせる人など、ほとんどありません。それなのに、今私たちの山から、たくさんの人が仕事をなくして去っていかなければならないのです。私たちは今でも貧しいのに、お父さんが働けなくなったらどうしましょう。お父さんは、私が赤ちゃんのころ、主任さんの不注意から脊椎を折ってしまったのです。それからは満足に働けなくなっています。そのために、お父さんは好きだった絵も工作もたばこもやめています。映画も見に行きません。新聞もやめています。それも私たちの本やノートや着物に変わりました。でも、お父さんやお母さんは、みんながりっぱに育つまで、どんな苦しみにも、会社の無理にも、決して負けずに働き続けるでしょう。
この素朴にして深刻な現実のなまなましい姿に対して目をおおうことは、大きな社会問題として断じて許すことができないのであります。(
拍手)
石炭産業の現実は、国際石油カルテルによってその価格が政治的に決定される石油にほんろうされており、三十八年までにいわゆる千二百円のコスト引き下げと、十一万人の首切り強行による社会不安の恐怖にさらされておるところに問題があるのであります。もとより、この千二百円切り下げ計画が達成されたとしても、
石炭と石油の価格競争を基礎とする限り、
石炭産業を安定せしめることができないことは、火を見るよりも明らかな事実であり、
昭和三十九年度以降において再び同質の
合理化が継続される危険性を大きく内包していることを強く指摘せざるを得ません。従って、今
炭鉱労働者と
中小炭鉱経営者が払いつつある大きな犠牲が一きわめて少数の巨大資本のみを助ける結果に終わらないよう、
石炭産業全体の死活の問題として、ここに政策の転換を強く要望しているのであります。
さらに、先般のIMFの総会で約束を与えた自由化の繰り上げによって、さらに一万四千人の首切りを追加し、炭鉱の買いつぶしを強行して、
昭和三十九年度には
労働者数十六万二千人とする計画が公然と準備されているのであります。しかも、
炭鉱労働者は、他産業の大幅賃上げをよそに、三千円から一万円の賃金引き下げが強行されているのであります。失対賃金を下回る
労働者さ、え数多く現存する
石炭産業が、さらに底知れない賃下げの脅威にさらされることを、これ以上断じて許すことはできません。池田総理は、首切りと賃下げだけが
合理化ではないと言明しておりますが、
炭鉱労働者の
雇用を安定し、すみやかに
石炭産業を希望ある職場たらしめて、うそのない政治を実現すべきであります。(
拍手)
転換職場と
生活保障のない人員整理は行なわない、地下産業にふさわしい最低賃金制を確立する、激発する炭鉱
災害を防止するために保安
確保に万全を期する、この三つの課題は、
石炭政策を進める前提として
解決されねばならない最低限の原則であることを、私はまず第一に訴えておきたいのであります。
第二点として、炭鉱
離職者に対して
雇用促進と
生活の安定をはかることは、緊急の課題であります。再就職のための技術
教育の徹底、就職にあたっては前職収入を補償するための
雇用補償制度の創設、就職待機期間の
生活保障等の確立は、一刻の猶予も許せぬ問題でありまして、
政府の強力な施策を
要求する次第であります。
私が第三に強調しておきたい点は、
石炭需要を安定的に
確保することであります。ただ首を切る、コストを下げるという今日の
合理化計画の欠陥は、需給計画の裏づけがない点からも指摘できるのであります。
政府は、
石炭の斜陽化を宣伝しておきながら、一方で
石炭の
輸入を計画し、現在、五十万トンの一般炭が豪州や台湾から
輸入されているのであります。
北海道地方では、今年冬の家庭用暖房用炭が大きく不足するのではないかと憂慮されており、先般発表された
電力白書においても、今年冬は三億六千万キロワット・アワーの
電力不足が予想されているのであります。なぜ、
政府は、国民に対して安い
石炭を豊富に
供給する政策をとらないのか。ホタルのような炭火の前に国民をふるえさせるのではなくて、赤々としたストーブを国民に与える政治、それこそ、台所に結びついたあたたかい政治であると考えるのであります。(
拍手)
今日、
エネルギー消費革命は、
エネルギーの形態を固体から流体に変化させつつありますが、このことは、安易に、無計画に石油への転換をはかることのみで
解決すべき問題ではありません。まず第一に、国内資源たる
石炭の
地位を安定せしめることに
エネルギー政策の基本を置くべきであります。このために、
石炭を
電力に変え、ガスに変えて需要
確保をはかることが、一つの手段としてとらるべきでありましょう。
政府は、三十七年度以降の電源
開発計画をすみやかに修正して、
火力発電所の大規模な建設に着手し、増大する
エネルギー需要に十分対応できる体制の確立に努めていただきたいのであります。今日の技術をもってすれば、需要地における重油専焼火力と、
産炭地における発電を超高圧送電線をもって需要地に送るコストは、ほとんど変わりがないといわれておる現在、
産炭地における
火力発電の建設にちゅうちょするいささかの
理由も見当たらないのであって、
産炭地発電の推進のために、さらに強力なる施策を講ずるよう要望しておく次第であります。(
拍手)
第四に、私は、
産炭地域の
振興策について触れておきたいと思います。
申すまでもなく、
産炭地域においては、社会的、
経済的に
石炭産業への依存度がきわめて高く、
石炭産業の動向は、直接的に
産炭地域の
経済、社会に波及しており、
関係地方自治体をまさに
危機的状態に追い込んでいるのであります。このように、多数の失業者が集中的に発生し、自治体を苦境に追い込んでいる
地域に対しては、諸外国でも本格的な
振興対策に取り組んでいるところでありますが、特にイギリスの地方
雇用法は、強力な
開発機関を設けてその
地域の産業
振興を進め、大きな効果をおさめているのであります。高度
経済成長政策の欠陥が、
地域格差をますます拡大している今日、
産炭地域を積極的に
振興するための事業団の設立とその財政
措置を講ずることは、
地域経済開発の
観点からもゆるがせにできない重大問題であります。さらに、破滅のふちに追い込まれている自治体財政に対しては、十分なる財政
措置を講ずることによって、
地域住民の
生活に万遺漏なきよう配慮することを強調しておく次第であります。
以上、私は、本
決議案に賛成するにあたり、特に二、三の重要なる点について、
政府の強力なる緊急施策を訴えて参ったのでありますが、同時に、
石炭産業の恒久
対策として、
生産体制と流通体制の
近代化を推進するよう
要求するものであります。
生産体制を集約化するためには、錯綜鉱区を整理統合し、休眠鉱区を大規模、総合的に
開発するためには、縦坑の
開発、採炭、運搬系統の
機械化を積極的に推進しなければなりません。生産地でトン当たり三、四千円程度のコストの
石炭が、消費地においては一万円以上もするという不合理は、流通過程の整備によってすみやかに打開されなければならないところであります。(
拍手)わが
日本社会党は、このために、
石炭鉱業安定法案を本院に
提出しておるところでありますが、
政府においても、これらの諸課題を
解決するための抜本的な方策を国民の前に明らかにするよう、その決意を促しておく次第であります。
最後に、私は、
石炭産業の
危機を打開して、これを
長期に安定させるために、総合
エネルギー政策の
樹立を急ぎ、増大する
エネルギー需要全体のうちに占める
石炭の
地位を確立して、安定産業たらしめるために、特段の
措置を講ずることを強調するものであります。
本
決議案に盛られた数々の施策は、今日、
石炭産業、特に
石炭労働者が一身にしょわされている犠牲の大きさに対しては、なお多くの不満足なものではありますが、しかし、この
決議案を一つの足がかりとして、
石炭産業を真に安定産業とするための強力な政策を
樹立することが、この国会の動きとこれからの
石炭政策の転換を、それこそ祈るような気持で見詰めている
炭鉱労働者とその家族の要望にこたえる道であることを強調して、私の賛成の
討論を終える次第であります。(
拍手)