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西村関一君 私は、ただいま上程されました
核実験禁止に関する
決議案について、
日本社会党を
代表して
賛成討論を行なおうとするものであります。(
拍手)
第二次
世界大戦後十六年目の今日、
ソ連と
米国との
核実験再開により、
世界と全
人類は、その運命を決するような重大な
破局に直面するに至りました。
ソ連の
核実験を正当化しようとする
人々は、
ベルリンをめぐる
西側の
戦争挑発に対して、
ソ連は力の
誇示に踏み切らざるを得なかったのだと申します。われわれは、
ソ連をして
実験再開を余儀なくさせた
国際情勢のきびしさに対し、目をおおうものではありません。しかし、このような力の
政策を前提とする
平和共存はナンセンスであり、かかる力の
誇示によって
ベルリン問題の
根本的解決をはかるということができないばかりか、東西両陣営をして、とどまるところを知らない
核実験並びに
核軍拡競争へと追いやる結果を来たすのみであります。(
拍手)
力の
均衡はまた
恐怖の
均衡であります。かかる
恐怖の
均衡によって平和が保たれるのだという議論をする人もありますが、それはとんでもない間違いであります。(
拍手)
恐怖のもたらすものは、平和ではなくて
懐疑と不安であります。
懐疑と不安に満ちた雰囲気の中では、ほんのささいな事件、あるいは命令や決定のちょっとした誤解、またはレーダーの読み違いですら、
取り返しのつかない
原水爆投下の
連鎖反応を開始させるかもしれないのであります。
東宝映画「
世界大戦争」はこのことをまざまざと描き出しております。
人間の無知と愚かさと罪とのために、ついに
世界最終大
戦争の
破局に突入してしまったとき、そこには美しい恋愛も、あたたかい
人間愛も、宗教の宣布も、庶民の生活の哀歓も、
人間のありとあらゆる営みが根底からくつがえされ、一切が無に帰してしまいます。サンフランシスコも、ニューヨークも、ワシントンも、モスクワも、跡形もなくなってしまいます。
東京の
上空にたった三発の無気味な白い光を放つ小さなたまが飛んできてぱっと炸裂すると、
東京は言うに及ばず、
日本列島は一面のどろどろした火の海となってしまう。その一面の火のどろの海のかなたに富士山が青白く光り、いびつに傾いた
国会議事堂だけが遠くに浮かんでおります。これは遠い将来の話ではなく、もちろん想像の産物でもありません。多くの
科学者も報告しておりますように、
現実にわれわれの足元に迫っており、もしもわれわれが油断をするならば、いつ何時
現実にこのような
事態に見舞われないとだれも保証することはできません。(
拍手)
米ソの
実験競争は、
世界戦争への
危機を激化させるばかりでなく、
地球の表面にばらまかれる
死の灰、すなわちストロンチウム九〇やセシウム一三七等の
放射能元素によって、平時においても
人類を重大な脅威にさらさしめるのであります。
世界で最初の、そして
唯一の
原爆被災国である
日本、しかも、
死の灰の谷間といわれる
日本として、どうしてこのような愚かな
実験に対して
反対せずにおられましょうか。(
拍手)しかも
ソ連は、われわれの
悲願を裏切って、全く無意味な
広島の
原爆の二千五百倍といわれる超
大型核爆発実験を強行いたしました。気象庁の報するところによりますと、九月九日に
ソ連実験の影響が現われ始め、十月十一日には約百倍に達しております。超
大型核爆発実験による
放射能は、三日ないし七日の間にその第一陣がわが
日本列島の
上空にやってくるといわれます。その強さは、従来の値の最高値をはるかに上回り、灰の大部分は成層圏にたまるので、落ち切るまでには数年かかると見られております。このようにしてわれわれの肉体は、徐々に直接にまた間接に
死の灰によるところの死に至る病、原子病に虫ばまれていくのであります。
われわれは、このときにあたってもう一度厳粛な思いで、今から十六年前の一九四五年八月六日の朝、
広島の
上空に現われたB29
爆撃機三機が引き起こしたあのおそろしい結果を、そして続いて八月九日、
長崎を襲った災厄を思い起こさざるを得ません。この
広島と
長崎の悲劇は、
人類の歴史に永遠に残るでありましょう。現代の
人々も、次の
時代の
人々も、もっと後の
時代の
人々もそれを忘れ去ることはできないでありましょう。(
拍手)忘れようと思っても忘れることはできません。いな、忘れてはならないのであります。(
拍手)二発の
原爆の直接の
犠牲者となられた三十万の
人々、十六年後の今日もなお肉体的、精神的に苦しんでおられる約二十万の
人々の痛ましい
犠牲は、何によっても償うことはできないのであります。(
拍手)「一九四五年八月の
広島、
長崎を思い出すこと、何度も何度も、繰り返し思い起こすこと、それによって
人類が正しい道から逸脱するのを防ぐことができるであろう。」と
湯川秀樹博士は「
原水爆被害白書」の序文に書いておられます。
繰り返し声を大にして申します。
核実験は、即時やめなければならない。(
拍手)
実験禁止協定の締結だけでなしに、
核兵器の
製造、
貯蔵及び使用の
禁止協定をも即時締結させなければならない。(
拍手)
これを可能ならしめるものは、
世界が、特に
米ソ両国が、理性の声に従って、相互の理解と信頼の上に立って、完全
軍縮に踏み切る以外に道はありません。(
拍手)さればこそ、一九五九年の第十四回
国連総会で、
国連の全加盟国、もちろん
わが国をも含めて満場一致で完全
軍縮達成へのアピールを採択したのであります。(
拍手)
米国も従来の行きがかりを捨てて、去る九月二十五日に、すでに昨年六月に
提出済みの
ソ連の完全
軍縮案に近い完全
軍縮案を
国連に
提出いたしました。また最近、
米ソ両国は、
全面軍縮について入項目にわたる共同宣言案について
合意に達し、その中には、
人類共滅の
戦争が紛争解決の手段とはなり得ないこと、
全面軍縮のみが平和達成の
唯一の保証であることが、明確にしるされておるのであります。(
拍手)
しかるに、本
決議案が三党共同
提案で上程されるにあたって、本案の中に完全
軍縮を入れるかどうかについて、自民、社会両党の間で議論がかわされ、ついに
合意に達し得なかったと伝えられています。
世界観も国家の体制も違う
米ソ両国でさえ
合意に達しているこの問題を、同じ
日本人同士の間で、しかも、
世界に類例を見ない誇るべき非武装、平和を宣言する憲法を国の
唯一の建前とする両党の間で、
意見の一致を見ることができなかったことは、まことに遺憾であったといわざるを得ません。(
拍手)完全
軍縮を入れると自衛隊の士気に影響を及ぼすとでもお考えになったのでしょうか。あるいは自衛隊増強のじゃまになるとの意図から賛成しなかったのではないかと、一部の
国民に誤解を与えることを私はおそれるものであります。(
拍手)
私は最後に、憲法の前文の数節を諸君とともに読みたいと思います。「
日本国民は、恒久の平和を
念願し、
人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸
国民の公正と信義に信頼して、」——
アメリカの公正と信義ではありません。
ソ連の公正と信義ではありません。「諸
国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」十四年前に本
国会においてこの憲法が議決せられたときに、各党の
代表はあらゆる賛辞を連ねてこれを礼賛し、この憲法の精神と理想を達成しようと誓い合ったのであります。ただ一人
共産党の野坂参三君のみが、民族独立のための自衛
戦争までも放棄した第九条に
反対して、採決に加わられなかったのであります。
今こそわれわれは、
広島、
長崎のあやまちを再び繰り返させないために、いな、
世界の
破局を救い、真の平和を来たらせるために立ち上がらなければなりません。(
拍手)今こそわれわれは、
人類の幸福と繁栄を来たらせるために、
世界に先がけて非武装宣言を発し、この憲法の崇高な理想と目的を高く掲げて前進しなければなりません。(
拍手)われわれは、愚かな
核実験と軍拡競争に狂奔し、相拮抗する両陣営に対して、今こそ理性の声を聞くべきであると強く訴えていかなければならないと思うのであります。(
拍手)
以上をもって私の
賛成討論を終わります。(
拍手)